魅了ハーレムクソ勇者に目を付けられたけどTS転生した元男の自分には効かなかったので張り倒して逃げました   作:pantra

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ちん〇が欲しい

 

 ラバル商業区の外れ路地にちょっと旨い料理を出すこじんまりした呑み屋がある。

 名前は『ドミンゴの飯屋』。シンプルでいい名前だ。

 

 場所が悪いこともあり、客層の半分は破落戸ども、もう半分は舌の肥えた料理通たちだ。

 わたしの場合は出自からいってこういう店には縁遠いはずなのだが、何しろ男としての前世の記憶が『こういう隠れ家的な店が大好き!』と叫んでいるので、普通に通わせてもらっている。

 ただし、さすがに一人では来ない。

 わたしは一人で構わないのだが、仲間たちが満場一致で単独での呑み屋通いは絶対に許さないとスクラムを組んでしまっている。

 まあ、一応見てくれだけは若い女なわけだしな。しかも無駄に美人だ。

 こういう時、女性は不便だなと思ってしまう。

 前世も今世も含めた男性諸氏よ。女性にはもっと配慮してやるが吉だ。

 

 そんなわけで、わたしはロルフとブルーノを伴って旨い料理と酒に舌鼓を打っていた。

 今わたしの目の前にあるのは根菜と豚肉とパスタが入ったスープと、エビと牡蠣、イワシ、マッシュルームやその他の食材をオリーブオイルとニンニクで煮込んだ料理。

 ……うむ、これは間違いなくアヒージョだ。

 スルバラン自由王国はこの世界で言うところの地中海に面した国で、前世での地中海国家と風俗の共通点が多い。

 正直、こういうところもわたしがこの世界を創作物が元になった世界ではないかと疑っている理由の一つなのだが。

 ちなみにこの世界のアルファベットは前世のものとは違う。しかし、文字が違うのに読みが共通していることも多く最初はかなり混乱させられた。

 エレオノーラも音としては前世の世界にもある名前だしな。

 

「ロルフ。今回はゆっくり休めたか?」

 

「ああ。久しぶりにゆっくり家族の相手ができた」

 

 ロルフは仲間たちの中で唯一の所帯持ちだ。

 祖国から逃げる際、彼の家族を連れていくかどうかでひと悶着あったのだが、結果としてはよかったのだろう。

 

「そうか。ちゃんと奥さんを抱いてやったか?」

 

「ああ、いや……それは答えないと駄目なのか?」

 

 わたしは酒臭い息を吐き出しながら、迷惑そうな顔をしたロルフの筋肉隆々とした腕にしなだれかかったが、すぐにブルーノによって反対側から引っ張られてまっすぐに座らされた。

 

「実際のところどうなんだ。やっぱり気持ちいいんだろう?」

 

「おい、妙な絡み方をするのはやめろ。何の嫌がらせだ、これは」

 

「ああクソ。わたしだってちんこさえあれば……」

 

 ロルフとブルーノの白けた視線もものともせず、わたしは大げさに嘆いてみせた。

 

「ちんこが欲しい……」

 

 がっくりと項垂れていると何やら隣のテーブルでがたがたと立ち上がる音がする。

 視線を向けると下卑た笑みを浮かべた破落戸どもが数人、わたしを見下ろしていた。

 

「ああ、そういう意味じゃないから座ってろ」

 

「へっへっへ、姉ちゃん」

 

「いいからベルトから手を離して大人しく酒を飲んでろ」

 

 こちらもロルフとブルーノが立ち上がって破落戸どもと対峙する。

 2m近い筋肉隆々とした大男二人にさすがに恐れをなしたのか、破落戸どもは未練がましくわたしの体へ視線を送りながらも自分たちの席へ戻った。

 まったく酔っ払いどもめ。

 まあ、わたしが言えた義理ではないが。

 

「エレオノーラ……」

 

「すまん」

 

 こういう時は素直に謝るに限る。

 わたしは身を縮めてゴブレットからちょびちょびとワインを舐めた。

 

「お前は昔から酒癖の悪い女だが、エレオノーラ」

 

 ブルーノが渋く落ち着いた声で辛辣なことを言った。

 

「今日は稀に見る酷さだな。テオのことか?」

 

「テオと言えば、帰ってくるなりぶっ倒れて寝込んでいるな。お前が無理をさせたんじゃないか?」

 

 じゃがいもの入った厚焼き玉子を切り分けながらロルフもブルーノに続けた。

 

「別にわたしがさせたというわけじゃないが、あれは単純にスキルの撃ち過ぎだ」

 

 ロルフの言うとおり、テオドールはダンジョンから帰還するなりぶっ倒れてしまった。特に怪我を負っているわけではないので心配はないが、今も自室のベッドでうんうん唸っているのを女衆に甲斐甲斐しく看病されているところだろう。

 

 この世界にはスキルという技術がある。

 わたしの水神剣やテオドールの裂空剣がそうだが、これは前世のゲームやラノベでよく見られる特殊効果が発現する能力である。

 が、まったく同じというわけではない。

 まずスキルは必要レベルへの到達や店舗購入、特殊イベントなどでお手軽インスタントに使えるようなものではない。

 純然たる修練の積み重ねによって少しずつ習得、上達させていくものだ。

 

 そして、特殊効果の発現には当然それなりの代償を伴う。

 例えばだが岩を持ち上げるのには筋肉を、もっと言うなら筋肉を動かすのにはアミノ酸やら糖質やらを消費する。

 それと同じことがスキル発動にも起こる。

 この際、消費されるものをこの世界では闘気とかオーラとか内功とか、場所や流派によって呼び方は様々あるのだが、とにかくそんな感じで呼んでいる。

 祖国ヒューベンタール神聖帝国での呼び方は闘気だった。

 

 で、だ。

 問題のこの闘気。

 当たり前だが自分自身にも他人にも総量が数値として分からない。

 この世界は『ステータスオープン』とか唱えても数字が羅列してある窓など開かないし、レベルとかそういう要素も一切ない。

 むしろそういうのがあったら、それを管理している目に見えない上位存在が実存しているということなのでかなり怖い話なのだが、前世において上位存在の実存が証明されていなかったように、この世界でも人間や魔物やその他生きとし生けるすべてのものは能力の数値管理などされていないし、いわゆる神の存在証明は為されていない。

 

 話を戻すが、要は自らの闘気の総量は自らの感覚と経験で掴むしかない、ということだ。

 だから経験豊かな騎士や探索者は自分の限界を大体弁えているし、それゆえスキルはここぞという時の奥の手としてしか使用しない。

 今回のダイアウルフ討伐でやったような初手スキルブチかましは、どちらかというと戦場での戦列のこじ開けとか騎兵突撃への対抗手段としてとか、割と限定的な場面でしか行われない。

 実際、ワームが出現した前回の探索でわたしがスキルを使用したのは、ワームをぶつ切りにしたあの一回のみである。

 

 それなら今回のダイアウルフ討伐は何だったのだという話だが、身もふたもない言い方をすればテオドールにはわざと間違いを経験してもらった。

 あの子はこれまで安全な訓練以外で自身の限界まで能力を使ったことがないし、実戦でそれをやってしまうとどうなるのかということを一度経験させておくべきだと思ったのだ。

 

 だからこその高難度依頼。

 ダイアウルフの群れ討伐は、わたしとロルフ、ブルーノとバルタザールの四人ならスキルなしでも可能だったとは思う。

 しかしロルフが抜けてテオドールが加わると、やはりパーティとして総合力が落ちる。

 充分な安全マージンを取りながらダイアウルフという強敵を倒しきるには、やはり敵が突撃してきたあのタイミングでスキルを使用して蹴散らすしかなかったように思う。

 

 ちなみにわたしも想定外のシャドウライダーの相手をさせられたため、白状するとかなり消耗していた。

 対してブルーノはダイアウルフとの戦闘でスキルを使用していない。

 ここまでの話ですでに納得してもらえると思うが、ブルーノがスキルを温存していたのはダイアウルフ討伐後帰還するまでの間にもしも不測の事態が起きた場合に対処するための保険である。

 

 ダンジョンはいつ何が起こるか分からない。

 決して帰還までの間に力を使い切ってはならない。

 探索者の鉄則だ。

 テオドールもダンジョンでの帰路、ひどい倦怠感や頭痛に苛まれながらそのことを身に染みて思い知っただろう。

 

「テオもまだまだ未熟ということだな」

 

 なおスキルとは違う法則が働いている魔法は少々事情が異なるので、『神童』バルタザールは歩く砲台として最初から最後まで割とオールマイティに使い回しが効く。

 あれで美少女だったらSSレアとか星5とか呼ばれたろうに。この世界の人間にレアリティなんぞないが。

 

「未熟といえば依頼契約に気になる文言があったが」

 

 ロルフの指摘にわたしは肩を竦めた。

 

「それも経験。とはいえそちらの矢面にはわたしが立つ」

 

 今回の依頼、ギルド職員のメルセデスとテオドールが話を詰めて契約締結を行っているが、ダイアウルフの毛皮納品に関してギルドを仲介させず直接探索者側と依頼側の商会が顔を合わせて実施することとなっていたのだ。

 こういうことは稀にあるし、理由も様々だ。

 ただ今回に関してはメルセデスにしてやられた感はある。

 

「腐っても国家の官吏というわけか」

 

「どの程度の深度かは分からんが、我々の素性など先刻承知だろうからな。情報を売ることはないにしても、興味のある奴に繋ぎくらいは付けてやる、といったところだな。そしてテオはそれに気付けなかった」

 

 アヒージョの皿からエビを摘まんで口の中に放り込む。

 

「あのケツでか女め」

 

「やめろ、エレオノーラ」

 

「うるさい、ロルフ。……何だ、ブルーノ。言いたいことがあるなら言え」

 

 時々会話に口を挟みつつも黙々と料理と酒を消費していた寡黙な男がいかにも何か言いたげな顔をしてこちらを見ていたので、わたしは挑戦的に睨み返した。

 

「エレオノーラ」

 

「何だ」

 

「お前の尻もデカい」

 

 思わぬ攻撃を受けたわたしは目をまん丸くしてブルーノを見つめた。

 たぶん、少しの間息をしていなかったと思う。

 数秒後、わたしはカッと顔が赤くなるのを自覚しながら怒鳴った。

 

「いくらお前でも無礼だぞ!」

 

「そうだろう。だからお前も他人の尻にとやかく言うのはやめておけ」

 

 わたしの怒声を軽くいなして涼しい顔をしているブルーノを見ていると急速に怒りがしぼんでしまい、わたしはゴブレットに残っていたワインを一気に飲み干すと、ブルーノに向けて勢いよく突き出してみせた。

 

「ん!」

 

「注いで欲しいなら口で言え」

 

「んん!」

 

 ゴブレットの底をテーブルに打ち付けると、処置なしという顔でブルーノが小樽からワインを注いでくれた。

 すぐさま喉を鳴らして半分ほど飲み干し、勢いよくテーブルに降ろすと中身が少し零れてしまった。

 

「そういうところだぞ、エレオノーラ」

 

「何がだ」

 

「皆が姫様呼びをやめてくれない理由」

 

 ロルフの言葉にブルーノがうんうんと頷いている。

 が、わたしにはまったく意味が分からなかったので、ロルフが切り分けていた厚焼き玉子を自分の皿へ徴収して口の中へ放り込んだ。

 

 

 

 

 




次回は尻のデカいメルセデスさんが再登場します。
別に彼女は敵でも悪役でもありませんのであしからず。
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