魅了ハーレムクソ勇者に目を付けられたけどTS転生した元男の自分には効かなかったので張り倒して逃げました   作:pantra

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分割した残り半分です。


先祖にトロルかなんかいるんじゃないの?

 

 商会支部の外へ出ると、来た時と同じ場所に荷馬車が停められていて、ゴットハルトとテオドールが御者台で喋りながら時間を潰していた。

 そのことをまず確認してほっと小さく息を吐く。

 

「エレオノーラ、心配し過ぎよぉ」

 

 豊かな赤髪をなびかせながら、わたしより背の高いブリュンヒルデが前屈みになってこちらを覗き込んできた。

 だから前屈みになると胸が見えそうになるんだよ、隙の多い女め。

 

「うるさい。慎重と言え。で、支部長室でのアレ、何だったんだ?」

 

「ん、たぶん盗聴」

 

「盗聴?」

 

 ブリュンヒルデの言葉に眉をひそめる。

 

「別室から商会の他の人間が話を聞こうとしていたのか、それともまったくの外部から仕込まれたのか。そこまでは分からなかったわ」

 

「……まあ、結果としては何も聞かれていないし、たとえ聞かれていても問題ない内容しか話してない。そうだな?」

 

「そういうことね」

 

「ならば捨て置く。肝要なのはテオドールの秘密を知られぬことだ。それ以外はどうでもいい」

 

「……あんたって本当そればっかりよねぇ」

 

 呆れのこもった深いため息を吐き出したブリュンヒルドは、小走りに荷馬車へ近づくと御者台のテオドールに向かって両手を伸ばしながら媚びを売るように訴えた。

 

「テオくん。引っ張りあげて~」

 

「えっと……」

 

「ねぇ、早くぅ」

 

 ブリュンヒルデの暴挙を黙って見ているわたしではない。

 迅速に彼女の背後に忍び寄ると、ドレスの腰をむんずと掴んでから耳元で囁いてやった。

 

「何だブリュンヒルデ荷台に登ることもできないのかどんくさい奴だなわたしが手伝ってやろう」

 

 忌々しいことに花のような芳しい香りがするブリュンヒルデの耳元から顔を離し、わたしはあまり女性らしくない掛け声と共に彼女を腕一本で持ち上げた。

 

「おらぁ!」

 

「ぎゃーっ!」

 

 そのまま荷台にぶん投げるとブリュンヒルデは汚い悲鳴を上げて荷台のへりに頭をぶつけた。

 スカートがまくれ上がってガーターどころか下着が丸見えになっているが、テオドールはきちんと顔を逸らしていた。えらいぞ。

 というか意外と清楚な下着を着けているな、ブリュンヒルデの奴。

 

「何すんのよエレオノーラ!」

 

 がばっと起き上がったブリュンヒルデが抗議する。

 わたしも荷台に飛び乗り、彼女の目の前で仁王立ちして言い返した。

 

「やかましい、この阿婆擦れが!」

 

「あばっ……! 誰がアバズレよ、このオトコ女!」

 

 それは合ってる!

 反論しずらい罵倒をしやがって……!

 

「誰彼構わず胸やら脚やら見せびらかす女よりましだ。大体貧乳のくせに!」

 

「ひ、ひん……にゅう? 貧乳!? 胸が小さいって意味!? あんた今、全世界の女性の半分を敵に回す言葉を作り出したわよ!」

 

 興奮したブリュンヒルデがわたしの胸倉に掴みかかってきた。

 

「あんたの方こそいつもいつもパッツパツの男物着て卑猥なのよ! そんなにデカい胸や尻を自慢したいわけ!?」

 

「デ、デカくない!」

 

「わたしの目を見て否定しろコラァ―!」

 

 そうやって喧嘩しているわたしたち二人を荷台に乗せたまま、御者台のゴットハルトがのんびりと宣言して荷馬車を出発させた。

 

「はいはい、それじゃ次はギルドに向かいまーす」

 

 

 

 

 

 ギルドで出迎えてくれたメルセデスはわたしたちの内数名がダンジョン帰還直後のような様相を呈していることに大いに困惑の表情を浮かべていた。

 数名というか、わたしとブリュンヒルデのことだが。

 

 顔を背け合って並んでいるわたしたちの手前にテオドールが立ち、メルセデスと対峙していた。

 

「こちらが依頼にありました陽光石の結晶です。鑑定をお願いします」

 

「はい、承りました」

 

 テオドールが提出した陽光石を受け取ったメルセデスは、すぐに他の職員へ渡して奥へ運ばせた。

 

「こちらが今回の探索報告書です。それからエスコバル商会発行の売買契約書の写しと物品受領書……」

 

「ええ、確かに」

 

 テオドールから手渡された書類に手早く目を通していくメルセデス。

 

「ではこれらを基に依頼の完了報告書と協会からお渡しする報酬を計算してお持ち致しますので、少々お待ちください」

 

「お願いします」

 

 深々とお辞儀をしてから、メルセデスは資料を手に奥へ引っ込んでいく。

 その後ろ姿を見送っていたテオドールの背中を叩き、わたしは以前使ったテーブルが並んだスペースへ皆と共に移動した。

 

「後はもう待つだけだな」

 

「ねえ、わたしもう帰っちゃ駄目ぇ?」

 

「駄目だ」

 

「何でよケチ」

 

 頬を突いてくるブリュンヒルデの手を払い落とす。

 

「まあまあブリュンヒルデ。せっかくのテオの初受注任務なんだから、完了まで見届けましょうや」

 

 小男のゴットハルトが宥めるように言いながら、懐から小さな栓付き革袋を取り出して中身を口に含んだ。

 

「ゴットハルト、お前。まさかそれは酒か?」

 

「いえ、正真正銘水ですよ、姫様」

 

 生真面目な顔をして答えた後、ゴットハルトは酒臭いげっぷをした。

 

「失礼」

 

「貴様……、まあいい。帰りの御者はわたしがやる」

 

「あっしは平気ですよ、姫様」

 

「お前の意見なぞ聞いてない。酒を飲んだら馬車を操るな。他人をはねたらどうする」

 

「エレオノーラって昔からあれは駄目これは駄目って、勝手に作ったルールを押し付けるのよねぇ」

 

「……そうなんですか、ブリュンヒルデ?」

 

 わたしの過去の話に興味を引かれたのか、テオドールが口を挟んだ。

 テオドールとの初めての出会いは彼が赤ん坊の時だが、そこからずっと一緒に過ごしてきたわけではない。

 せいぜい数年に一度顔を合わせるくらいで、共に行動するようになったのは実はここ二、三年くらいのことだ。

 

「そうよ。いつでもどこでもお山の大将気取りで、無知なお前らに物を教えてやるって感じで。ヤなガキだったわ」

 

「わたしはそんなに知ったかぶりはしてないぞ。それに大将気取りだったんじゃない。わたしが大将だったんだ」

 

「2個年上の男の子を取り巻きごとぶちのめしたからね。その日あんたのお母さま、心労で倒れたのよ」

 

「はは、昔からお強かったんですなぁ」

 

 唖然とするテオドールの隣でからからとゴットハルトが笑っている。

 

「その時から思ってるのよ。絶対こいつは普通の人間じゃないって。先祖にトロルかなんかいるんじゃないの?」

 

「いるかそんなもん」

 

「そう? 何となく顔もトロルっぽくない?」

 

 どこまでも無礼なことを言うブリュンヒルデにカチンときたわたしは思わず『わたしみたいな美人のどこがトロルっぽいんだ!』と叫びそうになったが、さすがに自分でそれを言うのは憚られたのでテオドールの方へ体ごと向き直った。

 

「え、何ですエル。怖い……」

 

「テオ、正直に答えなさい。わたしの顔をどう思う?」

 

 わたしの質問にテオドールはものすごく困った表情を浮かべた。

 いや、困らせているのは分かる。分かるが、ここは何としても答えてもらわなければならない。

 わたしの名誉のために。いや我が先祖の名誉のために!

 

「テオ。怒らないから正直に言ってごらん」

 

 少年のまだまだ肉の薄い両肩に手を載せ、答えを迫る。

 テオドールは顔を赤くしてもじもじしていたが、やがて意を決したのか蚊の鳴くような声ではあったが答えてくれた。

 

「す、すごく綺麗だと思いまぅ……」

 

 その答えを聞いたわたしはくちびるの両端を吊り上げ、テオドールの肩に手を置いたまま振り返ってブリュンヒルデを見た。

 

「どうだ?」

 

「あんたって本当に残酷な女ねぇ、エレオノーラ。やっぱり人間じゃなくてトロルなんでしょ」

 

「何でだ!」

 

 そんな風に四人で無駄話をして時間を潰していると、やがて書類と貨幣が載せられたトレイを手にメルセデスが戻ってきた。

 

「お待たせ致しました。こちらご査収下さい」

 

 テーブルに置かれたトレイの中身をまずテオドールに確認させ、他の三人がそれを手伝う。

 報酬が当初想定していたよりも少し割り増しされていたのは、想定外のシャドウライダーへの手当てであったり、あるいはエスコバル商会へ繋ぎを付けた詫び代が含まれているのかもしれない。

 一通り目を通して問題ないことを確認したら、わたしたちは書類と金を纏めて席を立った。

 対峙するようにメルセデスが背筋を伸ばして立つ。

 

「ではこの度の依頼契約はこれで終了です。ありがとうございました、テオドール様。ツークフォーゲルの皆様」

 

 ぴんと背筋を伸ばしたまま深々とメルセデスがお辞儀をする。

 

「こちらこそありがとうございました、メルセデスさん」

 

「初めての依頼受注いかがでしたか、テオドール様?」

 

 メルセデスが優しい眼差しで若者を見つめながら質問を投げかける。

 

「はい。自分にはまだまだ至らないところがたくさんあると痛感しました」

 

「さようでございますか。申し上げるまでもありませんが、このような形での受注をされるのはごく一部の上位探索者の方々のみ。そしてテオドール様。あなた様はエレオノーラ様や他の皆様と同様、そのごく一部に含まれるお方です。どうかご精進下さいますよう」

 

「肝に銘じます」

 

「それともう一つ。探索者の方々には探索者の方々の思惑と都合があるように、協会にも、そして協会に依頼する商会や貴族、その他の方々にも各々立場に応じた思惑と都合がございます。そのすべてが完全に満たされることは難しい。ですが可能な限り各々が利益を得られるよう調整するのが協会の使命と考えております」

 

「……仰ることは何となく分かります」

 

「ですので、どうか今後協会を不信の目でご覧にならないで頂ければ幸いでございます」

 

「そしてまた協会を盲信せぬように気を付けよ、といったところか?」

 

 神妙な顔をしてメルセデスの話を聞いているテオドールの傍らに立ってわたしが口を挟むと、メルセデスは蠱惑的といってもいいような表情でこちらへ視線を移した。

 

「まさしく、エレオノーラ様」

 

「今回のことはいい勉強だったと思っておく。わたしも黙っていたしな」

 

「やはりお気付きだったのですね。一応お伝えしておきますが、エスコバル商会が紐付きでないのは確認済みです」

 

 裏はない、ということか。

 ただ単にエスコバルがわたしと縁を作りたかっただけか。

 しかし、あの盗聴は?

 

「……ところでメルセデス、その手首はどうした?」

 

 今日のメルセデスは右の手首に真新しい包帯を巻いていた。数日前はこんなものなかったはずだが。

 

「これは、ええ。ちょっとした悪戯が失敗してしまいまして」

 

 悪戯が失敗、ね。

 わたしがちらりと後ろを振り返ると、ブリュンヒルデが舌をべっと突き出した。

 

「そういうエレオノーラ様もお顔にその……引っ掻き傷が」

 

 メルセデスが言う引っ掻き傷とは、わたしの頬を走る数cmに及ぶ生々しい傷のことだ。

 ブリュンヒルデの阿呆め、爪を立てやがって。

 

「別に大したことはない。ちょっとやんちゃな猫がいてな。うちの治癒魔法使いに治してもらうから明日には綺麗に治っている」

 

「まあ、お大事に。それにしてもエレオノーラ様のお顔を引っ掻くなんて悪い猫ちゃんですわね」

 

 メルセデスがわたしの頬に触れないように手を伸ばしながら、一瞬だけ視線をわたしの背後へ送った。

 

「まあ、猫なんてのはやんちゃなくらいが可愛いからな」

 

「あら、エレオノーラ様はその方がお好みですか?」

 

「ん?」

 

 何だか話が迷走し始めていないか、とわたしが疑い始めたところでタイミングよくテオドールが大きな咳払いをした。

 

「すみません。ゴットハルトが寝ちゃいそうで。この辺りで今日はお暇しましょう」

 

 明らかにふらついているゴットハルトに肩を貸しているテオドールを見て、わたしとメルセデスは顔を見合わせた。

 

「申し訳ございません。つい長話を」

 

「いや、こちらこそ」

 

「それでは皆様。本日はありがとうございました。またのご利用をお待ち申し上げております」

 

「ああ。また頼む」

 

 しばらく頭を下げていたメルセデスは、次の仕事が押しているのだろう、足早にその場から離れていく。

 自分たちもギルドの出口へ向かいながら振り返って彼女の後ろ姿を探したわたしは、歩くたびに左右に弾む豊かな尻を未練がましく目に焼き付けた。

 今回の一件、テオドールはメルセデスにしてやられて悔しかっただろうが、わたしとしてはあの尻を見たらすべてが許せる気になってくる。

 いやもちろん、メルセデスの尻よりテオドールの方が大事なのは言うまでもないが。

 

 そんな馬鹿なことを考えていると後ろから肩をどつかれた。

 

「おら、早く行くわよ色ボケ」

 

 今日のメンバーでわたしをどつくような相手はもちろんブリュンヒルデしかいない。

 

「色……! お前だけだぞ、わたしをそんな風に呼ぶのは!」

 

「いいから来なさい。それから例のアレ、メルセデスがエスコバルを内偵してたのね。知らなかったとはいえ妨害して悪いことをしたわ」

 

「そのようだな。そんな魔法が使えるとは聞いたことがなかったが」

 

「ああいう女はいくらでも秘密を隠し持ってるわよ。見たら分かるわぁ」

 

 ブリュンヒルデはどこか納得したような顔だが、わたしにはいまいち彼女に言っていることがよく理解できなかった。

 

「そうか?」

 

「あんたには分かんないでしょうねぇ。女を見る目がないから」

 

 心底軽蔑という眼差しを横から飛ばしてくるブリュンヒルデ。

 確かに女性というと大体まずは尻と胸を見てしまうが、別にわたしだってそれだけというわけではないのだが。

 

「いーえ、それだけよ。あんたが見てんのは」

 

 ブリュンヒルデは妙に実感たっぷりの口調で断言し、慎ましやかな胸を覆うドレスの着崩れを丁寧に整えた。

 

 

 

 

 

 

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