魅了ハーレムクソ勇者に目を付けられたけどTS転生した元男の自分には効かなかったので張り倒して逃げました   作:pantra

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わたしの騎士様

 

 ゴブリン、という生物がこの世界にはいる。

 前世での創作物にも古くから登場しているアレだ。

 

 四肢があり二足歩行をする。体高は平均110cmほど。

 体毛はほとんど生えていない。尖った大きめの耳。鷲鼻。口は大きく、何でも噛み千切る不揃いの牙が生えている。

 ぎょろぎょろした大きな目。

 暗いダンジョン内部で物を見、反響する音を拾い、淀む空気に混じる臭いを嗅ぎ、手に入れたものを何でも食う。

 まさにそのために進化した姿。

 

 肌は緑色から茶褐色。

 矮躯であり腕や脚も細いが意外に力強く、また何より狂暴だ。

 そして道具も操る。つまりそれなりの知能があるということだ。

 ダンジョン内の自然物だったり探索者から奪った武器だったりするのだが、興味深いのはゴブリンたちがそれらを自分たちの用途に合わせて加工しているということだ。

 

 一説にはこの世界の火薬はゴブリンが発明したのだという。

 もちろんだが証拠は一切ない。

 公式には火薬はドワーフの発明品ということになっている。

 この伝承をドワーフの前で口にすると戦争が始まるので、決して口にしてはいけないという不文律がある。

 

 とにかくそういう伝承が生まれる程度には、ゴブリンの知能も侮れるものではないということだ。

 

 

 

 そんなゴブリンだが非常に嫌われている。

 魔物なので当然と言えばそうなのだが、彼らの嫌われポイントをいくつか説明しよう。

 

 まず一つ。

 過剰なまでに人類に対して敵対心を抱いていること。

 

 魔物は総じて人が近づくと襲い掛かってくるのだが、それは一般には自衛や捕食のためである。たとえば先日わたしたちが殲滅したダイアウルフの群れは、縄張りに踏み込んだわたしたちを排除すること、及び食料として狩ることを目的に襲い掛かってきた。

 対してゴブリンは他の魔物と同じように人間を捕食するし縄張り意識もあるのだが、彼らの人間に対する敵対心の強さはそれだけでは説明がつかないものがあるのだ。

 

 二つ目。

 人間を痛めつけることを楽しむこと。

 

 ゴブリンには獲物を嬲る習性があり、しかもそれを娯楽として楽しむという悪癖がある。

 勘違いして欲しくないが、嬲るといっても性的な意味ではない。

 純粋に傷つけ苦しめるのが好きなのだ。生きていようが死んでいようが、彼らにとって人体というのは思うさま損壊して弄ぶおもちゃのようなものなのだ。

 

 三つ目。

 食欲旺盛で繁殖力に富み、生息域の拡大に余念がないこと。

 

 はっきり言えばこいつらはゴキブリと同じで放っておくとどんどん増えるし、どこにでも現れるようになる。

 よって絶え間ない駆除が必要なのだが、それには大変な労力がかかる。

 なお先ほど嬲るのは性的な意味ではないと述べたが、この世界のゴブリンは異種族だろうが何だろうが孕ませるセックスモンスターではない。

 もしもこいつらがそんな超生物だったとしたら、この世界はとっくにゴブリンしかいなくなっている。

 

 四つ目。

 見た目が人類に近く、かつ人類より醜悪であること。

 

 これは一種の同族嫌悪のようなものと思ってもらえればいいのだが、やはり人間に似た姿の魔物というのは非常に嫌われている。

 特にゴブリンは醜くて汚い。

 あとこいつらは衣服の概念がほぼないため基本的に裸なのだが、雄は人間を襲う際にしばしば興奮して生殖器を勃起させる。ちなみにゴブリンの生殖器の部位及び形状は人類のものとそう変わらない。

 想像はしなくていいが、状況としてはこういうことだ。

 暗いダンジョン、局部をフル勃起させた小汚いチビのおっさん集団が武器を手に襲い掛かってくる。

 男性探索者だって嫌がるし、女性探索者ならば尚更恐怖と嫌悪しか感じない。

 

 五つ目。

 ゴブリンからは有用な素材が採取できない。

 

 完全に駆除のためだけに殺さなければならない存在だ。

 百害あって一利なしというのはこいつらのためにある言葉だろう。

 

 他にも色々とあるが、要するにゴブリンはものすごく嫌われている。

 わたしも嫌いだし、わたしの仲間たちも皆ゴブリンが嫌いだ。

 

 

 

 

 

 さて。

 ここまでゴブリンについて語ってきたが、その理由は今わたしの目の前にある。

 

「ゲェギャギャギャギャ!」

 

「やかましい」

 

 錆の浮いたショートソードを振りかぶって飛び掛かってきた一体のゴブリンを唐竹割りにしてやり、わたしは背後に向かって声をかけた。

 

「そちらはどうだ?」

 

「この通路の奥までは安全が確保できた」

 

「よし。全員下がるぞ」

 

 わたしをしんがりにして、十名ほどの集団が一塊になって移動する。

 いつもより人数が多いのは、わたしのクラン以外の人間が混ざっているからだ。

 この場にいる我がクラン・ツークフォーゲルのメンバーは、ロルフ、ブルーノ、ブリュンヒルデ、そしてわたしの四名。

 

 そして『幸運の泉』という名のクランに所属する探索者が四名。

 彼らはわたしも以前から顔を知っている。わたしたち同様ラバルでは上位探索者として知られている者たちだ。

 

 最後に『黄金の剣獅子』という勇ましい名の二人組の駆け出し探索者パーティー。

 彼らはこの場が初対面だ。

 

 もちろん示し合わせて同じ依頼を受けたとかそういうことではない。

 それぞれが別の依頼でダンジョン探索を行っていて、たまたま同じ階層にいたところでゴブリンの氾濫に遭遇してしまったのだ。

 

 かれこれ数時間、ひたすら上へ上へと逃げ続けている。

 ゴブリンの氾濫は踏みとどまろうものならあっという間に飲み込まれて食い散らかされるのがオチなので、基本的に逃げる以外の選択肢は存在しない。

 『幸運の泉』と『黄金の剣獅子』の連中とは逃げる途中で合流した。

 通路奥の広場になっている場所で束の間の休息を取っていると、『幸運の泉』の一人が声をかけてきた。

 

「今うちのメンバーが上層に繋がる通路を調べてる。それにしても同じ階層にあんたらがいたのは幸運だったよ、エレオノーラ」

 

「それはこちらも同じだ。我々だけだったらもっときつい脱出行になっていた」

 

 手を差し出されたので固い握手を交わす。

 相手の名はクリストバル。『幸運の泉』のサブリーダーを務めている男戦士だ。

 ロルフたちほどではないが、190cmを越えるであろう長身にがっちりとした肉厚の筋肉。

 得物は短槍と小盾。予備にショートソード。

 堅実を絵に描いたような戦士で、実際こういう奴は非常に手強い。

 

「あんたは大丈夫だと思うが、連れの魔法使いは平気か? さっきすれ違った時も青い顔をしていたぜ」

 

 クリストバルが言っているのはブリュンヒルデのことだ。

 彼女はゴブリンが大の苦手なので、今は非常につらい思いをしているはずだ。

 魔法使い枠としてバルタザールを連れてこなかった日に限ってこんなことになり、運がないというほかない。

 

「平気ではなかろうが、乗り切るしかないな。心配はいらん。彼女のことは何があろうとわたしが守る」

 

「同じクランのあんたがそう言うならいいがね。おっと、俺の仲間が戻ってきたな」

 

 仲間たちの元へ向かおうとするクリストバルの背中に声をかける。

 

「クリストバル」

 

「あん?」

 

「『黄金の剣獅子』の連中と何か話したか?」

 

 クリストバルは首だけ振り返って眉をひそめると、後頭部をがしがしと掻いてから答えた。

 

「いや、あんまり。駆け出しのようだし動揺が大きくてな。今は馬鹿をしでかさんよう見張ってる」

 

「……うちからもブルーノが目を光らせている。もしもの時は」

 

「分かってるよ。お互い証人になる。ギルドも俺たちの言葉には耳を傾けるさ」

 

「すまんな」

 

「言ったろ。あんたらがいて助かったって」

 

 ひらひらと手を振り、クリストバルは今度こそ自分の仲間たちの元へ向かった。

 

 

 

 

 

 その後、さらに一日ほどかけてダンジョンから脱出した。

 わたしの仲間たちと『幸運の泉』の連中には大した負傷者はいない。

 

 一方、『黄金の剣獅子』のメンバーの内一人は脱出までの間に片腕と片耳を失った。

 二つの熟練パーティーで守りながら移動していたのだが、長時間の我慢と緊張についに精神の糸が切れたのか、恐慌状態に陥って見当違いの方向へ一人突っ走っていった結果、ゴブリンどもに囲まれて食い散らかされたのだ。

 幸いと言っていいのか分からんが、ゴブリンが獲物にすぐにとどめを刺さない習性を持つことと、目を光らせていたブルーノや『幸運の泉』のメンバーによる救出が迅速だったおかげで一命は取り留めることができた。

 それでも体中に噛みつかれ、片腕と片耳を欠損してしまったわけだが。

 

 治癒魔法というチート技術が存在するこの世界の人間にとって、片腕の欠損程度は致命傷には入らない。

 金さえかければ、あるいはコネさえあればすぐにとは言わんが元通りになる傷に過ぎないのだ。

 

 しかし今回怪我をした若い探索者、テルセロという名だそうだが、彼が今後どうするかは分からない。

 最後に見た時は、完全に目が死んでいた。

 ああいう目をした探索者や兵士はこれまでに何人も見たことがある。

 

 ともあれダンジョンから無事に帰還したわたしたちは拠点に戻り、身を清めて体を休めることにした。

 事態が事態だけにギルドにはすでにロルフを報告に向かわせている。

 おそらくしばらくダンジョンでは大規模な駆除作戦が実施されることになるだろう。

 探索者ももちろん依頼として参加できるが、ゴブリン駆除については基本的に行政が専門家を引っ張ってくる。

 ある意味ではドラゴンが出るよりも厄介な事態なのだ。

 ちなみに我がクランはゴブリン駆除には参加しない。しばらく探索は休みだ。

 

 ところで、何故重大案件なのにリーダーであるわたし自らギルドへ報告に行かないのか。

 これには深いわけがある。

 ……いや、別に深くはない。深いというよりは重い。

 

 ありのままに説明するとダンジョンから帰還してずっと、わたしの体にぴったりとしがみついている物体が存在するのだ。

 物体の名はブリュンヒルデという。

 

 いつもいつもやかましいくせにこういう時に限って一言も口を利かず、わたしの胴体に腕を回してひたすら密着し続けている。

 振りほどくのもアレなので好きにさせているが、全体重を遠慮なく預けてくるので重いし、とにかく動きにくくてかなわん。

 このまま外に出れば他人の奇異の目にさらされるだろうし、必然的にわたしはブリュンヒルデをくっつけたまま屋敷の自室にこもることになってしまったのだ。

 

 仲間たちはブリュンヒルデの奇行を見るのが初めてというわけではないので、一応そっとしておいてくれている。

 何故これほどまでにゴブリンを恐れているのか、ということまでは皆知らないが。

 

 しばらくはブリュンヒルドをくっ付けたまま書き物や武具の手入れなどをして過ごしていたが、やがて手持ち無沙汰になってしまったわたしは寝ることにした。

 チュニックやズボンを脱いで下着だけになると、貝になって動かないブリュンヒルデのドレスも四苦八苦して脱がす。

 多分後からクラリッサに怒られるだろうが、面倒くさいので脱いだものは纏めて椅子の背もたれにかけておき、わたしはブリュンヒルデの華奢な体を抱きかかえて一緒にベッドに入った。

 

 並んで体を横たえ、肌触りのいいリネンを首元まで引っ張り上げると、すかさずブリュンヒルデが横から抱き着いてきた。

 いつもはこれほど極端な反応はしないのだが、今回はゴブリンの数が多く、また襲撃が長時間に渡ったので限界以上に精神が疲弊してしまったらしい。

 

「ヒルデ」

 

「……何よ」

 

 ようやく口を利いたと思えば、涙を含んだ不貞腐れ切った声。

 彼女自身、現状についてもどかしい思いがあるのだろう。

 

「ここには奴らはいない」

 

 端的な事実を告げる。

 

「知ってる」

 

 わたしの首筋に顔を埋めたまま、ブリュンヒルデが答える。

 

「ここにお前を傷つける者はいない」

 

「知ってる」

 

「お前はわたしが必ず守る」

 

「知ってるわよ……!」

 

 痛いほどの力を込めてしがみついてくるブリュンヒルデの頭に手を置き、ゆっくりと撫でる。

 もう一方の手をわたしにしがみつくブリュンヒルデの震える腕に添える。

 そうして天井を見上げ、わたしはゆっくりと深呼吸をした。

 

 

 

 

 ブリュンヒルデはわたしにとっていわゆる乳姉妹という奴だ。

 つまりブリュンヒルデの母親がわたしの乳母として乳を飲ませて世話をしてくれたということになる。

 歳は少しだけ彼女の方が上だ。

 ほとんど姉妹のようにして育ったので、今に至るまで互いに遠慮というものがない。

 それでも一応祖国にいる頃は、貴族と平民という身分の違いを意識してはいたようだったが。

 

 わたしが成長しブリュンヒルデの母が乳母役を解かれて以降も常に一緒だったわたしたちなのだが、ある日事件が起きた。

 細かい経緯は省くが、ブリュンヒルデの母が城内で複数の男性と乱交したことが発覚したのだ。

 そして、当時五歳のブリュンヒルデはその光景を直に目の当たりにしてしまった。

 

 当初、ブリュンヒルデの母は輪姦の被害者だと思われていた。

 ブリュンヒルデがそうであるようにその母も極めて美しい女性であったし、彼女自身被害者であるかのように振舞っていたからだ。

 わたしの両親は当然激怒し、徹底した取り調べを行った。

 結果分かってきたのは、どうやらブリュンヒルデの母は被害者などではなく、乱交に参加した男の一人と交際していたらしいという事実だ。

 わたしの乳母となった時点で彼女は未亡人だったので、別に交際相手がいること自体は問題はない。

 ただ交際の過程で悪い遊びを覚えてしまい、城内の人気のない場所でそれを度々実行していた、というのが真相のようだった。

 

 醜聞である。

 ブリュンヒルデの母は城の塔へ幽閉され、男たちは投獄された。

 侯爵家としてもこの事件は揉み消す他なかった。

 関わっていたのがわたしのかつての乳母だったというのがいかにも拙かったのだ。

 何しろわたしは黒髪で金眼でトロルで……、いやトロルは違うが戦闘の才もあり、とにかくヒューベンタールにとっても侯爵家にとっても非常にめでたい存在だったのだ。

 そこに水を差すようなものは明るみにさせるわけには行かない。

 侯爵家にしてみれば非情というより当然の決断であった。

 

 宙に浮いたブリュンヒルデの扱いは色々紛糾したらしいが、寺院にでも厄介払いしろというのが大勢であった。ブリュンヒルデを城に残しても厄介ごとの種にしかならぬというのが大人たちの総意のようだった。

 しかし最終的には『自分から姉様を奪うなら一生許さない』というわたしの宣言が効いたらしく、フェルンバッハ侯爵家の養女という身分に収まった。

 当人は納得はしていないだろう。

 ただ単にブリュンヒルデを失うまいとわたしがわがままを発動させ、彼女がそれに従っただけだ。

 

 そんなわけで養女になった後もわたしとブリュンヒルデはいつでも一緒に過ごしてきた。

 わたしが言うのもおこがましいかも知れないが、ブリュンヒルデは幼少時から魔法において極めて優れた才能を発揮してきた。

 俗に言う天才という奴だ。

 気も強く、ガキ大将丸出しのわたしに付き合って男の子たちを小突き回すくらい何てことない性格をしていた。

 

 しかし一つだけ、どうしても拭い去ることのできない弱点ができてしまった。

 弱点というかトラウマと言うべきだろう。

 かつて最愛の母に群がり貫き貪り尽くしたモノ。それと同じものを直視すると体の震えが止まらなくなるのだ。

 一本や二本ならどうとでもなるが、それが十本二十本と大挙して群がって来られるともうどうにもならないらしい。

 

 普段男性と接する分には何も問題はない。仲間との関係は良好だし、街やギルドの人たちとも問題なく交流している。

 美人だし妙に隙の多い女なだけに破落戸やらナンパ男やらに絡まれることも少なくないが、大抵はこちらが手を貸すまでもなく自分で撃退している。

 ゴブリン相手に戦闘ができないほど取り乱すというわけでもない。実際、今回ももっとも多くのゴブリンを屠ったのはブリュンヒルデの魔法だ。

 

 しかし、どうしても恐怖と嫌悪が抑えられない場面がある。

 そして時折限界を超えることがあると、こうなるわけだ。

 

 以上のような経緯から、乳姉妹にして義姉妹であり魂の双子であり最愛の親友であるブリュンヒルデは、わたしにとって生涯守るべき存在となったのである。

 

 

 

 

 

 




今回のお話は別に引っ張るような深刻なものではないので、『ブリュンヒルデさんはちんこが苦手』くらいの認識で大丈夫です。
あとブリュンヒルデさんの行動原理のすべては姫様に直結しています。
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