エノジュンの次はカミキヒカルかよォ!!   作:鳩胸な鴨

6 / 8
シンロソウダン

「アイ!アイぃ!よくも、よくもよくもよくもぉおおおっ!!」

「はいはい、お決まりの恨み節は取り調べ室で聞くから、まずは『バーチャルおしおき』受けてきてねー。

よろしく、東条さん、ハルマキちゃん」

「ええ。任されたわ」

「あとでなんか奢りなさいよ」

 

アイはかつてのクラスメイトであった暗殺者とメイドに連行されていく不審者に手を振り、深くため息を吐く。

このため息ばかりは嘘ではない。

誰が見てもそう思わせる程に疲れ切った背中を見て、受験期真っ只中のアクアとルビーはひそひそと内緒話を始めた。

 

「……今年、これで53件目だぞ。

あのサイコパスヤリチンクソ親父、アイに対する殺意高すぎないか?」

「さやかさんが作った『ダンガンロンパシリーズ』と並んじゃったね、回数」

「あれ実質3回しかやってないだろ」

 

「なんで3回しかやってないのに『前回の生存者役』がいるんすか?」と、台本を渡されてキョトンとしていた母のクラスメイト…天海蘭太郎の顔を思い浮かべる2人。

自らに起きる「予定だった」悲劇を創作物にしてしまうのもそうだが、綿密に組み立てた世界観を「ぜーんぶフィクションでしたー。ぷーくすくす。オマエラ、何マジにしてんの?」と根っこから崩しに行ったさやかの異常さを改めて感じつつ、ここ数年のことを思い返す。

 

リョースケというファンがアイを殺そうと画策し、転落死して以来、アイの厄介ファンがチラシ感覚で現れ、彼女を殺しに来るようになった。

その手引きをしているのは言わずもがな、ヤリチンクソ親父ことカミキヒカル。

アルティメットさやかからすれば、直接ぶっ殺しても良かったらしいが、「あなたたちもクソ親父に一発お見舞いしたいでしょう?」という、あまり嬉しくない気遣いで放置されていた。

悉く超高校級たちに阻止されているのだから諦めば良いものを、よくもまあ数年も続くものだ。

そのしつこさだけは見習わないと、と思いつつ、アクアは麦茶を呷った。

 

「…今日のバーチャルおしおき、何なんだろうな」

「今日は『とんかつの○○』だって」

「花村さんが受けてた、ミサイルやらで雑に衣つけられてマグマに落とされるやつ?」

「うん。『そんくらいしないとバカは反省しない』って舞園先輩が言ってた」

「……ママ。それ、廃人になってない?」

「一回はなってるね。アフターケアとして正気には戻してるって言ってたけど」

「一回はなってるんだ…」

 

相変わらず、道徳倫理を全て置き去りにしたような私刑である。

しかも、周りにバレないように立ち回ってるあたり、余計にタチが悪い。

やってることは、カミキヒカルとそう変わらないのではなかろうか。

…そんなことを言えば、確実に報復を喰らうのはわかってるので言わないが。

 

「これじゃママのファンが物理的に減ってくだけじゃん。

なんでさやかさんは動こうとしないの?」

「俺らが復讐しようと動くの待ってるんだろ。

元は俺たち家族の問題だからな。

あの人、変なところで律儀なとこあるし」

「復讐って…。ママ死んでないし、正直言ってヤリチンクソ親父に関わりたくないからヤなんだけど」

「俺だって嫌に決まってんだろ。

血液にも精子が泳いでるとか言われる男の返り血とか浴びたくない。

アイも嫌じゃない?実の父親にぶっかけプレイされる子供たちって」

「あのクソ野郎ブチ殺してやる」

「ママ、ストップ。V3に参加したママが言うとトラウマだからやめて」

 

そう考えると、放置を選んだのも父親へのヘイトを溜めさせるためなのだろうか。

暴走しかける母をなんとか宥め、アクアとルビーは悶々と頭を悩ませる。

 

「…やっぱ私たちがやらなきゃダメ?」

「やらなきゃダメだろうな、もちろん。

舞園さんの性格を考えると、絶対に俺らが動くまで待ってると思う。

その間、舞園さんに頼まれた元超高校級たちがアイを守ってくれるけど、ソレがいつまで続くかはわからないし…」

「やるって言ったってどうすんの?

芸能界入る?」

「お前は元からそのつもりだろ。

俺は…どうするかな。医者か役者かで悩んでるけど、後者はなる動機が薄いんだよな…。

復讐のためって言っても、アイの安全がこうも保証されてると…なぁ。

「……どっちもやれば?」

「いやいや、超高校級でもあるまいし」

 

アイの一言に、アクアは苦笑を浮かべる。

カエルの子はカエルとは言うが、超高校級の子が超高校級になるとは限らない。

それに、超高校級の称号は今や自己申告制に近い。

江ノ島盾子との戦いを終えた直後、舞園さやかと霧切仁の尽力によってスカウト制を廃止し、試験制度を導入した希望ヶ峰学園。

今や多くの人間が、己が才能に価値を付けるためにその試験を受けている。

アクアは前世云々を込みにしても、自身の役者としての才能も、医者としての才能も、超高校級には遠く及ばない。

果ては、希望ヶ峰学園の試験を受けたとしても受からないと思い込んでいた。

…0歳児の頃から超高校級たちの英才教育を受けてる時点で、そんなことは全くもってないのだが。

ソレを理解してるアイとルビーはアクアに背を向け、内緒話にしては大きな声で会話を交わした。

 

「ねぇ。あれ、本気で言ってると思う?」

「本気だと思う。だって、お兄ちゃんだよ?

あの自己肯定感ゲロ低いお兄ちゃんだよ?」

「……やっぱり無理矢理にでも受けさせたほうがいいよね?」

「んー…。でも、さやかさんが『才能を育てる学校』を作るって言ってたじゃん。

ほら、一回キーボくんがウルトラマンタロウの如く爆発ブッパしてぶっ壊したクソデカセットの『才囚学園』。

きちんと改装した上で芸能科も作るって言ってたし。

希望すれば別の才能を育てることも視野に入れるって言ってるから、そっちのがいいんじゃない?」

 

ぴくっ、とアクアの眉が揺れる。

ルビーはチラチラとソレを確認しながら、一気に畳み掛けた。

 

「それに、各地の芸能科に通ってる子とか…、えっと、あの『重曹を舐める子役』とかも含めて何人か才囚に引き込むって言ってるし、そっちの方が芸能関係の人脈作れそうじゃん。

ヤリチンクソ親父殴れる機会作れる上に、お兄ちゃんが医者も目指せるようにしたいんだったら、そっちの方が良くない?」

「丁寧な説明だね。プレゼンみたい」

「しーっ…!ママ、しー…っ!!」

 

余計な一言を放つアイに、ルビーがすかさず人差し指を唇に当てる。

アクアはそんな2人を前に、深くため息を吐いた。

 

「……わかった。才囚学園の芸能科、受けるよ」




ダンガンロンパシリーズ…この世界では舞園さやかの提案によって展開された演劇の総称。V3のオチはコアなファンが付いていた分、かなり燃えた。ちなみに、作者は「そういう世界線もあるんだ派」に属してるため、V3のオチは割と好き。

星野アイ(V3)…生存組。愉快犯ムーブから終盤で相棒ムーブをかましたタイプ。クラスメイトたちの演技力が思ったより高くてびっくりした。モブキャラ制服がモブキャラしてない。

バーチャルおしおき…アイの殺害を企てた厄介ファンへの「躾」。原作にあったおしおきから、公式資料集にのみ存在したものまで、幅広く取り扱っている。苗木による決死の説得で近々廃棄する予定。

才囚学園…舞園さやかが一回ぶっ壊したセットを改修した学校。「超高校級を育てる」という謳い文句と共に生徒の募集を開始した。学園長は、希望ヶ峰学園の学園長も兼任してる苗木誠。ただし多忙なため、江ノ島が遺したモノクマと、新開発したモノクマーズを使用する予定。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。