「……あの、舞園さん?ホントにこんな悪趣味なの続き出すの?」
「そりゃ、アクアくんもルビーちゃんも、私からすれば『アマチュアにしては上手い』の域出ませんもん。
カミキのクソ野郎に近づかせるなら、この程度の演技はやってのけて当然です」
「なんでそこまでしてあの二人に復讐させようとしてるのよ?」
「私、利用価値がない上に自分を狙ってくるサイコパス嫌いなんですよ。
なんで、思いつく限りの嫌がらせをしてやろうかと」
「何回も言ってるけど、舞園さんの嫌がらせは嫌がらせのレベルじゃないって…」
「…だから真宮寺くんもジェノサイダーもほっといてるのね」
「真宮寺くんもジェノサイダーさんも欲張りすぎて迂闊なとこありますけど、利用はしやすいんですよね」
「ますます江ノ島さん味出てきたわね。
そのうち、アレと同じ思考回路に陥らないでしょうね?」
「苗木くんが嫌がることはしません。
私は苗木くんが生きてるだけで満足な苗木くんの奴隷なので」
「その言い方やめて。なんか、すごくやるせ無い気持ちが出てくるから」
♦︎♦︎♦︎♦︎
「オマエラ!入学、おめでとうございます!」
「「………………は???」」
アクアたちは壇上にて声を張り上げたマスコットを前に、困惑を露わにした。
ずんぐりむっくりしたクマのボディ。
ツルツルの体表に、白と黒に分かれた体。
悪魔の羽のような左目と、その対極に位置するようにつぶらな右目が、並ぶ生徒を見下ろす。
どうみてもモノクマである。
数年前に流行ったコンテンツ…ダンガンロンパにて、絶望の象徴とまでされた、あの悪名高いマスコット、モノクマである。
困惑が行きすぎて静まり返った体育館に、モノクマは即座に動かなくなった。
「ちょっと、舞園さん…!
なんでコレをボクにやらせるの…!?
……確かに名義はボクが学園長だけどさ…!」
「苗木さんだ、アレ」
「苗木さんだね、アレ」
マイクを切っていなかったのだろう。
側に控えているさやかに向けて抗議する希望ヶ峰学園の学園長に加え、才囚学園の学園長を兼任する男…苗木誠の声が体育館に響く。
「入学式は格式ばったものではなく、気楽にできるものにする」と案内に書かれていたが、こうもグダグダになるか。
アクアたちはヒクヒクと表情を引き攣らせ、1人コントを始めるモノクマに、呆れた視線を向けた。
「あー、オホン。では、改めまして!
ボクはモノクマ!この才囚学園の、オマエラの学園長なのだ!!」
「……今からコロシアイしろとか言わないよな?」
「苗木さんだし、ソレはないんじゃない?」
居た堪れなくなった苗木誠が壇上に立つまで、あと数秒。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「初めまして、芸能科の講師を務めさせていただきます、舞園さやかです。
早速ですが、皆さんにはコロシアイをしてもらいます。
……あ、コロシアイの演技って意味ですので、安心してくださいね」
才囚学園の隔離された区画にて。
芸能科講師兼元超高校級のアイドル、舞園さやかの人を殺せる笑顔と共に、物騒な単語が羅列する。
集められた芸能科は16人。どう考えてもダンガンロンパです本当にありがとうございましたクソッタレ。
そんなことを思いつつ、アクアはおずおずと手を挙げた。
「その、台本とか、あったり…?」
「ないですよ。凶器になりそうな物にはちゃーんと死なないかつ、死んだように見せかけるような工夫してますから。
ただ、皆さんにはそれぞれ、『自分にはない超高校級の才能』を名乗ってもらいます。
ソレに沿った演技ができるまで定期的に開催する予定なので、きちんとダンガンロンパを演じてくださいね」
「…V3の終わり方で続き出すとか正気?」
「別世界線ってことにしますから大丈夫です。苗木くん、日向先輩、最原くんに勝てるといいですね」
無理に決まってるだろ。
アクアはそう叫びかけるも、なんとか言葉を飲み込んだ。
「裏話なんですけど、私は世界観を提供しただけで、初代、スーダン2、V3の台本は書いてないんですよ。
それを綺麗に完結させることが出来たのは、彼らがその世界に溶け込んでいたから。
だから、あなたたちも溶け込むことです。
そこにある人生を、そこにある想いを、そこにある絶望を、そこにある希望を。
フィクションだとしても、その想いだけは本物だと強く思うんです。
私からのアドバイスは以上なので、これから初期位置となる教室に案内します。
あ、そうそう。NG出したら減点なので、気をつけてくださいね」
これ、相当な無茶振りなのでは?
アクアはそんなことを思いつつ、さやかから渡されたプリントに目を通す。
と。途端に思いっきり吹き出した。
「ぶっ…!?」
「うわっ。どうしたの、お兄ちゃん?」
「あ、いや…。その、コレ…」
「…………あー。なるほど」
そこには、自身の名前の隣に、『超高校級の医者』という文字列が並んでいた。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「才囚学園芸能科定期配信、『ネクストダンガンロンパXX4』。
うん、これだね」
とある日の夜。子供達が寮暮らしとなったため、寂しくなった星野家にて、アイがソファに座る音が響く。
角ばったタイトルロゴと共に、スマホの画面を彩る最愛の子供達に笑みをこぼす。
第一回の配信では、第一の事件発生までを編集して出す予定らしい。
数回の深呼吸の後、アイは恐る恐る再生ボタンをタップした。
オープニングムービーを早送りで流し見、主人公となる人物が誰かを確認する。
『まずはオーソドックスに、自己紹介からしようと思う。
俺は星野愛久愛海。超高校級の医者として、この才囚学園に入学した高校生だ。
…で、こっちは俺の双子の妹、「超高校級の演劇部」、星野瑠美衣。
少し生意気なところもあるが、可愛い妹だ』
「おおー…。ダブル主人公かぁ。
……どっちか初っ端で死なない…よね?」
不安になってきた。
これはダンガンロンパなのである。
赤松楓のごとく、あれだけ事前情報で押されてた主人公が殺されてもなんらおかしくない、ダンガンロンパなのである。
そんな不安が的中しないことを祈りつつ、アイは動画の続きに集中する。
いつものようにコロシアイを強要され、動機を配布される面々。
今回の動機は、「大切な人の今」。
大半の人間の手には、「死んだ」と書かれた紙が手渡されているらしい。
無事卒業できれば、その人の写真を手に入れることができるという。
その中でもルビーは、特に取り乱した演技を見せていた。
死なないだろうか、とハラハラしながらも、アイはシークバーを少し動かした。
「『…………え?』」
ルビーとアイの声が重なる。
彼女の手元には、バスタブに張られたショッキングピンクの血に沈んだ星野愛久愛海の遺体(のふり)が映っていた。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「……これでいいか?」
「うん、バッチリだと思う。これなら舞園さやかも満足すると…」
「酷評のお時間ですよー。超高校級の追跡者兼第1章クロ役の黒川あかねさーん?」
「ヒェッ」
ショッキングピンクの液体から這い上がり、濡れた服を搾るアクア。
遺体の演技はバッチリ。犯人としての演技も問題なく出来ていたはず。
それこそ、舞園さやかも文句のつけようがないほどに。
黒川あかねはそんな自信を抱いていたのだが、音もなく背後から現れたさやかの言葉に震え上がった。
「まず全体的に雑です。褒めるとこは考えたトリックくらいで、あとは微塵もないです。
殺してやるーって気持ちと、本当にやっていいのかなって良心のせめぎ合いが上手く表情、仕草、息遣いに乗ってません。
あと、一通りの演技が終わってすぐに気を抜くのもアウト。
いくら学校とはいえ、ここは舞台なんですから、意識は最後まできちんと演技に向けましょう。
もっと人を殺す…、もといダンガンロンパをやるってことに本気になってください」
「は、はい…」
しょぼん、と肩を落とした黒川あかねに、さやかは小さく息を吐く。
さやかは彼女の肩に軽く手を置くと、小さく笑みを浮かべた。
「ここからが本番です。
学級裁判という見せ場で、きちんと魅せてくださいね」
「……!はい!」
「俺も学級裁判出たかったんだがな」
「アクアくんはどっちかというと、5章クロっぽい雰囲気ありますよね」
「最後まで残してるとみんなが苦労しそうだなって思って、真っ先に狙っちゃった。てへぺろ」
「おいこら。…ルビーメインで行けるのか、これ…?」
4作目ダンガンロンパ…才囚学園芸能科講師によって、演技力の向上のために企画された、一ヶ月ぶっ通し撮影企画。大雑把に世界観くらいしか設定を作ってないので、あとはルビーたちの演技次第。
アクア…初っ端から被害者として死亡。学級裁判には出たかった。
黒川あかね…クロ役。アクアを被害者として選んだのは、演技が不安で加害者として上手く出来なさそうだったから。そりゃアルティメットさやかさんに指導してもらうんだから、厳しくて当たり前よね。
ルビー…渡された動機プリントと共に、ゴロー先生の白骨死体の写真が同梱されてた。
アルティメットさやか…演技を磨くために、ルビーは一回マジの絶望経験した方がいいと思った。反省はしてるが、後悔はしてない。