「黒幕も七面倒ですね。
こんなクソ面倒なのよくやろうと思いましたよね、エノジュン」
図書室の秘密扉の奥にて。
これから始まる学級裁判に向けて準備をしながら、さやかはロリポップを口に放る。
と。裏口の方から、こん、こん、とノックの音が響いた。
さやかが「入っていいですよー」と言うと、扉が開き、暗い表情を浮かべたルビーが姿を現した。
「さやかさん、ちょっといい?」
「ああ、はいはい。写真のことですね」
「……なんで…、知ってるの?」
その手には、カラスに啄まれる白骨死体の写真が握られており、悪趣味にも「大好きなせんせい」とマジックで書かれていた。
エノジュンがやりそうなことをやってみたが、どうやら効果覿面過ぎたようだ。
さやかは腹が立つほど爽やかな笑みを浮かべ、可愛らしく首を傾げて見せた。
「エスパーですから。…なーんてね。
ただ、知る機会があっただけのことです。
雪染先生とか、狛枝先輩とか、霧切さんとか、最原くんとか、王馬くんとか。
…王馬くんに払う対価は、正直安くはありませんでしたけど」
「せんせぇを殺した人も知ってるの?」
瞳から見える憎悪に、さやかは「わかりきってると思っていたんだけどなぁ」と思いつつ、首肯した。
「ええ。実行犯の方は狛枝先輩がアイさんの目の前で殺しちゃったのでこの世にいませんが、黒幕の方は生きてますよ。
ま、『今はまだ』教えませんが」
「……っ、なんで…」
声を張り上げようとしたルビーの口元に、さやかが口に含んでいたロリポップを軽く押し当てる。
さやかは希望に侵された瞳でルビーに迫り、囁いた。
「これは『ダンガンロンパ』です。
真実はすべて、チャプター6で明かされるものなんですよ。
頑張って生き残ってくださいね、『ダンガンロンパの主人公』さん」
「………っ」
その言葉から滲み出る圧に負け、ルビーは部屋から出る。
様々な感情がせめぎ合う中、彼女はそれを吐き出すように軽く息を吐き、その瞳に星を宿した。
「……それが望みなら、やってやるわ」
♦︎♦︎♦︎♦︎
「私のお兄ちゃんを…、"超高校級の医者"星野愛久愛海を殺したのは、"超高校級の追跡者"黒川あかね!
アンタ以外に考えられないのよ!」
「ち、ちがっ…、わ、私じゃ…、私じゃ…。
う、ぅう…。ぅううう…。
うわぁぁああああ…!!」
トリックを見破られた黒川あかねが、その場に崩れ落ちる。
実に見事な演技である。
ルビーは学級裁判所に備え付けられた証言台に手を置き、身を乗り出す。
滲み出る怒りを抑えきれないと言わんばかりの演技を披露するルビーに、スタッフとして観察していたアクアがマイクが拾わない程度に小さく声を漏らした。
「……なにか変わったな、あいつ」
「いろんな意味でいい餌になりましたよ、あなたの前世の死体」
「倫理観終わり過ぎだろアンタ」
「搦手でエノジュンに勝つ上にカムクラ先輩を出し抜くには、このくらいは息をするようにしないとダメなんですよー」
「カミキがそれに並ぶとは思えないんだが」
「カミキはまーったく警戒してません。くたばったエノジュンの方を警戒してるんです。
アルターエゴとか残しててカミキの手に渡ってたりしたら面倒なんで。
日向先輩と七海先輩のラブラブパワーを受け取った伝説のスーパー魔法少女『ミラクル☆ウサミ』でデリートしたんで、多分大丈夫でしょうけど」
「…いや、にしても追い詰め過ぎだっての。
ルビーの前世、さりなちゃんだろ?
あんなもん見せられて大丈夫なのか?」
「狛枝先輩もノリノリでした♪」
「あの白昆布もろともシバき回すぞ」
さやかの笑顔に青筋を浮かべ、声を低くするアクア。
が、悲しきかな。倫理観がニートになっているアルティメットさやかには響かなかった。
アクアはため息を吐き、豹変したとしか思えないほどに演技に熱中するルビーを見やる。
「……だって、仕方ないじゃない!
アクアが、アクアが、私を殺そうとしてきたんだから!!」
今回の動機は「大切な人の今」。
アクアがそれによって暴走し、あかねを殺そうとしたところを返り討ちにあったという、無印ダンガンロンパのオマージュである。
無印では一章被害者役を務め、その後は故人であった江ノ島盾子の代役を務めたさやかは、あかねの演技を前に小さくため息を吐いた。
「あっちゃあー…。よりにもよって桑田くんと花村先輩の真似しますか。
いや、どっちも素人の域は出てましたけど、所詮は素人。
ちょっと感情乗せすぎて嘘っぽいです」
「…これから死ぬってわかってんだから、アレくらいでも…」
「その妥協がムカつくんです。
『超高校級を目指す』以上、あなたたちは常に満点に10点をプラスした成果を出さなきゃダメなんです。
今のまま行くと、ルビーちゃん以外は夏休み消えますよー」
学生にとって何よりも恐ろしい一言に、アクアは表情を引き攣らせた。
さやかはマイクを手に取ると、変声機を通し、モノクマ特有の可愛らしい声を上げる。
「いやあ、『殺そうとしたんだから殺されても文句言えない』だなんて、前にも聞いた言葉だね。
じゃ、ボクもおんなじこと言うね!
『秩序を乱せば罰を受ける!それが社会のルールでしょ?』」
「………えっ?」
「何とぼけた顔してんの?
『おしおき』だよ、『おしおき』!!」
「ひっ…!?や、やだっ…!
だ、だって、アクアが、アクアが…っ!!」
「おやおやー?踏み止まる機会なんていくらでもあったはずだよー?
ね?唯一残っちゃった星野サン?」
「………そいつに、死んで欲しいわけじゃ…」
「キミも黒川さんに投票したくせに、よくもそんなこと言えるね?」
「……っ」
落ち着きがある分、悪辣さに磨きがかかっているような気がする。
アクアはそんなことを思いながら、取り乱す演技をする黒川をじっくりと見つめる。
確かに、無印、2の最初の犯人と通ずるものがある気がする。
さやかが「真似ている」と表現したのも、間違いではないらしい。
さやかはモノクマを操作し、声を張り上げた。
「今回は"超高校級の追跡者"、黒川あかねさんに相応しい、スペシャルな!おしおきを!用意しましたー!!」
「や、やだっ!助けて、助けてよ!!
誰か、誰か……」
「張り切っていきましょー!おしおきターイム!!」
「いやぁぁぁあああああああっ!!!!」
その声と共に、モノクマが床から出てきたボタンを勢いよく木槌で叩いた。
────クロカワさんがクロに決まりました。おしおきをかいしします。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「………死ぬかと思った」
おしおきの演技を終え、黒川あかねがばったりとその場に倒れ伏す。
それを前に、さやかは笑顔で拍手を送った。
「あれくらいリアルな方がいいと思って。
いい演技でしたよ、黒川さん」
「おしおき中だけは演技じゃないです!!」
ばっ、と顔を上げ、涙目で叫ぶあかね。
何を隠そう、アルティメットさやかが人脈をフル活用し、限りなくリアルに近い「おしおきマシン」を作成したのである。
それこそ、おしおきを受けている本人どころか、それを見ている全員が「本気で死ぬ」と思えるほどに。
前情報無しでそのおしおきを受けてしまったあかねの怒鳴り声に、さやかは笑顔を崩さないまま口を開いた。
「死の緊張感を知れたと言うことで!
次からはもっといい演技できますね!」
「…次?」
「ああ、このメンツでやるダンガンロンパ、2回目確定してますよ。
言うなら『補講』です。最初の減点こそあるものの、現時点で巻き返せてるルビーちゃん以外、全員ぶっちぎりの赤点なので」
その一言に、場が静まり返る。
数秒か数分か、漂う沈黙を破ったのは、あかねの問いだった。
「……えっと、赤点?」
「だってこれ、試験も兼ねてますし」
「………いや、スパルタ過ぎない!?」
「超高校級になりたいんだったらこのくらいやってのけて当然です。
夏休みが消えることも視野に入れてくださいね」
「諦めろ。こう言う人だ」
死刑宣告に等しいさやかの言葉に、あかねはがっくりと肩を下ろした。
黒川あかね…受けたおしおきの名前は「キミを求めて何億里」。チェンソーやら物騒なモンを持ったモノクマの大群に追われ、全力で逃亡。開いている扉が見え、ようやく逃げ切れると思った矢先、そこからもモノクマが現れ、八方塞がりに。剣道部みたいな最後を遂げた…と言う流れ。セットがリアルすぎてガチで死ぬかと思った。
ルビー…希望の奴隷になるには、一度深い絶望を味わう必要があるというさやかの持論の餌食になってしまった子。ダンガンロンパの主人公となるため、アンテナをセットした。