リセット~藤代拓美の受難~   作:証明

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10話

かつての自分の手を掴んだまま、拓美は廊下を突き進む。

人混みが苦手で注目される事を嫌う拓美にとって、先程の状況は実に耐え難いものだった。

 

「おい、…おい、放せよ!」

 

「!?…ああ、すまん」

 

その為、大和田拓海の手を掴んだままという事も忘れていた拓美は、その大和田拓海の声でやっと正気を取り戻し、慌ててその手を放す。

 

気づけば、教室から大分離れた校舎内の階段の前に来ていた二人だった。

周りには、もうすぐ授業も始まるという事で、ほとんど生徒はおらず、いわば二人きりという状態であった。

 

「ったく、なんなんだよ? いきなり人の手を掴んで走り出して…」

 

掴まれていた左手の手首を触りながら大和田拓海は、彼女に文句をつける。

拓美は、ただあの場から離れる為に大和田拓海に、さも話しがあるように見せかけて、言うなれば彼を利用して引っ張ってきただけなので、内心どうしたもんか…と説明に困っていた。

 

「で? 話ってなに?」

 

「…いや、その…」

 

その返事から、大和田拓海はおおよその見当がついたのか、ため息を吐きながら彼女にこう言った。

 

「…無いんだろ?」

 

「何故分かる!?」

 

「顔に書いてある。」

 

チョンチョンと自身の頬をつつきながら大和田拓海は言う。

しかし、そんな大和田拓海の態度に拓美は、「はあ?」と声をあげ驚き苛つき、(俺って、こんな奴だったか?)と自問自答していた。

 

「…いや、とにかくすまなかった。 自分の勝手な行動に付き合わせて。」

 

しかしそこは、かつて自身が生きていた頃の年齢の約半分の大和田拓海(旧)に対し大人の対応で謝罪する拓美だった。

 

「ああ。」

 

だがそれに対し、ため息を吐きつつ朝と同じような素っ気ない対応で大和田拓海は教室へと戻っていった。

 

「いや、マジで俺ってあんな奴だったっけ?」

 

と、ポツンと1人残された拓美は、未だにアレが自分と同じ人間なのか頭をなやませていた。

 

           ●

 

キーン、コーン、カーン、コーン…

 

今日1日の、授業の終了を知らせるチャイムが鳴る。

あの後、2時間目の授業になんとか間に合った拓美は、登校早々に授業をサボるというような失態をおかすという、恥ずかしい事態は免れたのだった。

 

「じゃーね、藤代さん。」

 

「はい。さようなら。」

 

今、声をかけてきたのは拓美の前の席で、金田瑞希という女子生徒であり、自分から周りを遠ざけていた1回目の高校生活の時の記憶から殆どの人間は覚えていないが、それでも印象に残っていた。

ショートヘアのボーイッシュな雰囲気で、部活は陸上部な彼女は声も大きく、クラス内でもその裏表の無さから男女問わず好かれるといった人気者で、かなり目立つ存在であった。

 

(なんか、やたらと目立つ奴らと接点があるな…)

 

と、朝の里中真弓といい、両親に頑張るとは言ったものの2回目の高校生活も目立たないように過ごす予定だった拓美にとって、そこは少なからずの誤算であった。

 

「さて、自分も帰るか…」

 

と、席から立ち上がった拓美がふと隣を見れば、どうやら拓美が考え事をしてる間にサッサッと帰ったらしく、大和田拓海の姿は既に無かった。

 

因みに、あの後の事と言えば、話の続きとばかりに授業の合間やらにクラスメイトに囲まれてしまい質問責めに会う拓美であったが、そこは皆より2倍程ある人生経験と社会経験を生かし、のらりくらりとかわす事て場をしのいだ。

 

しかし、一番困ったのが…

 

「大和田くんとは、どーゆー関係なのー?」

 

「ふ、藤代さん、まさかアイツが好きなんですか?」

 

といった、前世の自分との気持ち悪いカップリング予想の質問であり、それに対しては…

 

「ただの、昔からの知り合いというだけですよ。 ええ、むか~しからの。」

 

と、あながち嘘でもないような受け答えをし、それには普段ポーカーフェイスをあまり崩さない大和田拓海も、ギョッとした顔をしており、それを見た拓美は何故か(ざまぁみろっ)と思うのであった。

 

           ●

 

夕暮れに差し掛かり、周りがオレンジ色に染まりかけている帰り道。

拓美は、前世で見た高校生のカップルを思い出していた。

何故、あのカップルを見て急にあんな事を思ったのか…拓美は夕焼けをみる度に、それを考えるのが癖になっていた。

 

「ホント…何でだろうなあ…」

 

と、自身の背負うリュックに付けられた防犯ブザーを握り締める。

事件後、何かと心配された両親から、送り迎えをしようかと言われそれを断った結果、せめてこれだけはつけるよう言い渡されたのであった。

 

「ん? あれは?」

 

ふと、前を見やれば先に帰ったハズの大和田拓海が学校の近くの自販機でジュースを買っていた。

どうやら、追い付いてしまったようで、拓美は声をかける事にした。

 

「大和田!」

 

「…え?」

 

誰かに名前を呼ばれる事など、ほとんど無い大和田拓海にとって、それは突然の出来事でしばし理解が追い付かなかった。

 

「なんだ…藤代か…」

 

「なんだとは、なんだ」

 

しかし、呼んだ相手が今日何かと目立ち、かつ自分と接点があった藤代拓美だと認識すると、なんだ…とぶっきらぼうに返すのであった。

 

「折角だから、途中まででも一緒に帰らないか?」

 

「はあ? …いや、まあ別に構わんが…」

 

誘ったのは拓美の方であり、それを受けた大和田拓海はしぶしぶ了承するのであった。

 

           ●

 

「なあ、何で俺なんかと一緒に帰るんだ?」

 

藤代拓美のようなルックスなら、別に自分のような者と一緒に帰る必要は無いだろうと大和田拓海は質問する。

 

「まあ…少し聞きたい事があってな。」

 

「…またか」

 

「いや! 今度は本当だ!」

 

「ふーん…で、何?」

 

ホントに一体何故、隣を歩いている美少女が自分に絡んでくるのか…そして、何を自分なんかに聞きたいのか謎で仕方ない大和田拓海であった。

 

「か、…家族は元気か?」

 

「は? …まあ、元気だが」

 

あまりにも予想外の質問に、拓海は驚く。

 

「兄妹は? …兄妹はいるのか?」

 

「ああ…妹が1人」

 

「そうか……、元気か?」

 

「まだ、小学校3年だからな…元気いっぱいだよ」

 

「そうか…」

 

何故、急に自身の家族の安否やら構成を聞かれなければいけないのか、大和田拓海は意味が分からなかった。

そして、それに対して不信感から苛立ちを覗かせ、質問しようとした。

 

「なあ、一体なんなんだ……よ?」

 

しかし、隣にいる藤代拓美の顔を見た大和田拓海はそこで止まってしまった。

 

その顔は、どこか泣きそうな、それでいて嬉しそうな顔をしており、彼女が何故そんな顔をするのか拓海にとっては謎で仕方なかった。

 

          ●●

 

夕暮れ時、町を彩るオレンジ色は段々と濃さを増す。

 

「大和田…家族を…両親を、妹を大事にしろよ。」

 

目の前に踊り出た、少女が先程から変わらない切ない表情で、そう言ってくる。

 

後ろから、吹いてきた風で彼女の前髪が舞い上がる。

 

その額には、まだ痛々しい大きな傷痕が残っていた…。

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