リセット~藤代拓美の受難~   作:証明

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12話

藤代拓美が、復学してから1週間がたった。

 

勉強の方は遅れをとることなく順調であり、むしろ周りよりも一歩進んでいるといった状況である。

気になる人間関係の方は、金田瑞希とつるむような形で一緒にいる事が多くなり、大和田拓海とは会えば一言二言話すといった関係を築いていた。

 

「藤代っち、いったよー」

 

「えっ!? うわっわわわわ」

 

 バシッ! 

 

「はっ、やりい!!」

 

今はといえば絶賛体育の授業中で、男女別れてのドッチボールが行われていた。

 

(全部頑張るとは言ったものの、この身体の運動神経は壊滅的だな…)

 

と、あれ以来何かと目の敵にしてくる里中真弓にボールを当てられた拓美は、スゴスゴと外野へと回る。

 

(こんなんじゃ、もしまた事件に巻き込まれたりしたらアウトじゃないか…折角、藤代さんの変わりに両親に恩返しするって決めたのに…)

 

拓美自身、早々に自身の運動音痴に気付いてからは何も対策をして来なかった訳ではない。

まずは、細い身体をなんとかしようと沢山食べたりもしたが、一向に体重は増えず…頑張って筋トレしてみても、まったくといって良いほどその効果は得られなかった。

 

「あ、危ない!」

 

「え?」

 

そんなクラスの誰かの叫びに、顔を上げれば目の前に、ボール迫ってきていて…

 

 バシーン!

 

「…ご、ごめん、藤代っち…」

 

味方だったはずの金田瑞希のボールを顔面で受け止めた拓美は、そのまま気を失うのだった。

 

 

           ●

 

「あー、痛い…」

 

ズキズキと痛む鼻を右手で擦りながら、藤代拓美は学校からの帰り道を1人歩いていた。

左手には、しっかりと防犯ブザーが握られている。

 

あの後、保健室で目を覚ました拓美の元へ、必死に謝罪する瑞希と「はっ、ざまあないね?」と自身を嘲笑する真弓の姿があり、「ま、これでも貼っときな」と何故か渡された絆創膏であるが、律儀にそれを鼻に貼っている拓美だった。

 

「ホント、なんとかしないとなぁ…」

 

前世から数えて2回も事件に巻き込まれている拓美は、いつ何があっても可笑しくない世の中だということを、強く認識していたのだった。

 

           ●

 

 ブロロロ……

 

丁度そんな事を考えている時だった。

今日1日で自身の弱さを更に強く認識した拓美の元へ、後ろからゆっくりと近づいてくる黒塗りのワゴン車があった。

 

「何をなんとかするってー?」

 

「え? ムグッ!」

 

停車せずに、近づいてきた車の後部座席から、1人の男が現れそんな事を言いながら拓美の口を布で塞ぐ。

防犯ブザーを鳴らそうとした、左手は力強く握りしめられブザーから離されてしまった。

 

(ふざけんな…よ、ちく…しょ…)

 

しかし、華奢な拓美ではそれ以上抵抗することも叶わず、塞がれた口元の布には薬品が塗られており、ゆっくりと意識を手放すのだった。

 

「おい、早く出せ! 今なら誰も見てないずらかるぞ!」

 

「了解」

 

運転手にそう命じた男は、拓美を車内に引きずりこみ、その場を後にするよう命じる。

それを受けた運転手は、車を加速させその場を後にするのだった。

 

「藤…代…?」

 

しかし、そんな誰もいないはずのここに、人一倍存在感の無い男が、その光景を見ていたとも知らずに。

 

           ●

 

「ん…ここは?」

 

ようやく藤代拓美が目を覚まして見れば、辺りは真っ暗でありそこは何処か見覚えのある景色だった。

 

「ここは…そうか、あの時の…」

 

それもその筈で、そこは自身が藤代拓美となってから初めて見た景色であり、森の中だった。

 

「ん? 目が覚めたか…おい、起きたみたいだぞ。」

 

と、木に括り付けられた拓美を見下ろすように立っていた大柄な男が声をあげる。

その出で立ちは黒髪のオールバックで、服装も黒で統一されており、この暗闇のせいで顔は良く見えなかった。

 

「お? よーやく起きたか? 可愛い子ちゃん」

 

そう言われて近づいてきたのは、先程の男より二回り大きい、これまた体格の良い男だった。

しかし、先程の男に比べ清潔感の無い服装をしており、腰を下ろして近づいてきた顔を見れば、髪はボサボサで無精髭をはやし、その目は血走っていた。

 

「俺の事、覚えているか?」

 

「……いえ、まったく」

 

おそらく、彼女を襲った犯人である事は今の質問で検討がついたが、今の藤代拓美にとってはまったく見覚えが無いのでそう答えたのだった。

 

「はあ!? ウソつけ! あんなにバッチリ顔を見つめあった仲じゃねえか!」

 

「いや、本当に覚えてません。」

 

「ふざけんな!!」

 

「っ痛!!」

 

グイッと、興奮した男が前髪を掴む。

 

「……ほーら、この傷…俺がつけた傷だよなあ? あまりにも暴れるもんだから、ついつい石で殴っちまった跡だよなあ?」

 

掴み上げられた前髪の下から、額に残った大きな傷跡を見て男が嗤う。

 

「はな…せ…」

 

「いやー、あん時は焦ったぜ…殴った後、お前の頭から血がドバドバ流れ出してよー、揺すって声をかけてもピクリともしねえからてっきり死んじまったもんだと思って、俺も埋めもせず慌てて逃げ出しちまってな?

そんで、友人のコイツに相談したら、おめえの特徴と似たような人間を見たっつってな?」 

 

顔を思いっきり近づけて、臭い息を拓美に吹き掛けながら男の話は続く。

 

「んで、調べて見たら髪型こそ若干違えど、ご本人様だっつー訳でよ? どうやって生き延びたか知らねえが、顔を見られちまったからなあ? …折角助かったとこ悪いが…へへっ今度こそ、ちゃんと後始末をつけさせてもらうぜ? ……勿論、しっかり楽しんだ後でなあ?」

 

そう言って、男は拓美の太ももに手をのせてきた。

 

「おい、そんなのは良いから早く片付けたらどうだ?」

 

「うるせえなあ、おめえは黙って見張ってろよ」

 

静止する仲間の声に耳もかさず、男は拓美へと迫っていく。

 

「やめ…やめろ!」

 

「嫌だね…早くあん時みたいに叫んだらどうだ? お父さーん、お母さーんってよ? いやーあんときゃそれ聞いて更に興奮したってもんだぜ?」

 

ゲヒャヒャヒャッ…と、男の下品な笑い声がこだまする。

 

(畜生…この…クソ野郎)

 

しかし、拓美が諦めかけたその時だった。

 

「ん? 何だお前? ぐわっ!!?」

 

ドサッという音と共に、見張りの男が誰かに殴られ倒されたのだ。

 

「おいキサマ、藤代を放せ。」

 

拓美が恐怖から閉じていた目を開ければ、そこにはバットを持った大和田拓海の姿があった。

 

           ●

 

「大和田? …お前、どうして?」

 

「たまたまだ…おい、それより早く藤代を放せよ。キモ豚野郎。」

 

何がどうなって、大和田拓海がここにいて自分を助けにきたのか分からず、そう質問した拓美だった。

 

「んだぁ、このガキは? たまたま不意打ちでソイツを倒したからって調子にのんじゃねぇぞ!?」

 

そう言って、拓美の元から離れ大和田拓海へと男は近づいていく。

男の言うとおり、先程拓海が倒した男より2回りも大きいその男は、そのままバットを持った大和田拓海へと突進する。

 

「おらぁっ!!」

 

ガァン!と、振り下ろされたバットを腕で受け止めた男はそのまま拓海をぶっ飛ばし、勢いのまま上に覆い被さる。

 

「ぐぅ、…クソ…」

 

「残念だったなあヒーローくん? 俺は昔は相撲部でよ? それなりに実績もあったんだぜ? …まあ、相手が悪かったと思って…死んでくれや!!」

 

馬乗りになった男は、大和田拓海が持っていたバットを拾い振り上げる。

 

「すまんな…藤代」

 

そう言って、大和田拓海は藤代拓美へと助けられなかった事を謝罪し、自身の死を受け入れようとしていた。

 

「…ふざ…けんな。 ふざけんな、ふざけんな、ふざけんな!!」

 

そんな目の前で繰り広げられる光景を見ていた…いや、見ていることしか出来ない拓美は声をあげて絶叫する。

両手を木の後ろで縛られている為、身動きが取れない拓美は叫ぶ事しか出来なかった。

 

(結局、自分は誰も救えないのか? 藤代拓美だけじゃなく、助けに来た自分自身、大和田拓海も救う事が出来ないのか?)

 

「ふざけんなよ!! ちくしょーー!!!」

 

ブワッ…と、まるでそんな拓美の声に呼応するように、近くに止まっていたワゴン車がゆっくりと浮かび上がった。

 

そして…

 

「えっ?」

 

 ズドーーーーーン!!!!!!

 

声をあげるのも束の間、激しい衝突音と共に、空中に浮きながら猛スピードで突っ込むワゴン車によって、男は撥ね飛ばされていった!

 

「「はっ?」」

 

そして、残された拓海と拓美は声をハモらせ驚き、キョトンという顔も同じようにハモらせるのだった……。




すみません人によっては、不愉快な描写があります。
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