リセット~藤代拓美の受難~   作:証明

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15話

とある日の青天高校の職員室、現在そこには事件から復帰し今日から再び学校に通うことになった藤代拓美がいた。

 

「本当に心配したんだぞ…藤代」

 

担任である山本信之(24)に、復学の挨拶と自身の身体の安否の報告に来た拓美は、そう言って心配されていた。

 

学校の方には、今回の事件の前に復学する時には、事件に会った事や、それで怪我を負って入院していた事は説明していたが、クラス内や学校内にいる多感な時期の少年・少女にはいささか刺激が強すぎる事件であった為に、内緒にしておくのが藤代拓美の為にもなるだろうといった判断がされた為、生徒にはそのことについての説明はされていなかった。

 

「ご迷惑を、おかけしました。」

 

「はぁ…別に迷惑ではないからな。 大事な生徒が事件に巻き込まれたんだ。…そしてこうやって無事に帰って来れたことに、俺は心底安心している。」

 

そう言って、拓美を励ます担任教諭は、世間体や見栄からそう言っているのではなく、本気で心配し安心しているようだった。

 

「ただまあ、今回はさすがに事件をうやむやには出来なかったが…」

 

学校側としても、在学中の生徒が二人も事件に巻き込まれた事はやはり大きく、近くの山中でおこった大きな事故は、犯人が自ら出頭した事もあり、テレビや雑誌でも大きく取り上げられることになった。 

そして、余計な憶測が出回る前に説明するのが、巻き込まれた生徒を守る為になるだろうと判断し、大和田拓海と藤代拓美は事件には巻き込まれたが、二人共怪我以外は何事もなく無事に逃げる事が出来たと生徒達に説明する運びとなった。

 

「お心遣い、感謝します。」

 

事実、そうとでも説明しなければ被害にあった大和田拓海はともかく、女性である藤代拓美にいたっては要らぬ憶測を立てられ、彼女の尊厳が失われる可能性があった。

 

「まあ、それでも言うやつは言うが…そこは気にするなよ。」

 

「大丈夫ですよ、先生。自分はそんなのには負けませんから。」

 

そう言って笑って、職員室を後にする藤代拓美に対し、担任の山本は椅子に座ったままボーゼンとして、その背中を見送るのだった。

 

「…なんとも、強い子だなぁ」

 

と、彼女が出ていった後に、そう独り言を呟いて。

 

           ●

 

 ガラリ…

 

「おはようございます。」

 

そう言って、藤代拓美が教室に入れば先程まで騒がしかった教室は一気に静寂に包まれた。

 

ツカツカツカ…と、リズム正しい音を鳴らしながら拓美は自身の席へと移動する。

 

「おはよう、大和田くん」

 

「…ああ、おはよう」

 

自身の席の前まで来た拓美は、相も変わらず我関せずといった具合で、校庭を眺めていた大和田拓海に挨拶をする。

 

大和田拓海はといえば、拓美と同じように事件に巻き込まれたものの背中に負った打撲以外、大きな外傷もなく拓海よりも一足先に学校に復帰していた。

そんな彼は、ボンヤリとした感じで拓美の声に反応し、これまた相も変わらず素っ気ない挨拶を返すのだった。

 

はぁ…と、そんな変わらない彼の態度に、拓美は何処か安心したようにため息をついて席に着いたのだった。

 

「久しぶり! おはよう、藤代っち!!」

 

すると、前の席からこれまた以前と変わらない明るい声が聞こえてきた。

 

「おはようございます。金田さん」

 

「んもー、相変わらず敬語なんだから! 大和田くんにはタメ語なのにさ!」

 

 ガタン!

 

そう、金田瑞希がわざと明るい感じで振る舞って言えば、またまた以前と同じように、椅子から立ち上がる音が聞こえてくる。

 

「怪我はもう大丈夫なのかよ? 藤代?」

 

バンッと、その声の主である里中真弓は廊下側から一直線で来て、拓美の机を叩いてそう言った。

 

「え、ええ、大丈夫です。…ありがとうございます…」

 

てっきり、また何か言って絡んでくるだろうと思われた人物に、予想外の心配をされた拓美は驚いていた。

 

「ふんっ…ならいーんだけど。あ、ちょっとぐらい大和田に助けられたからって調子に乗んなよ?」

 

「は、はあ…わかりまし…た。」

 

なんとも微妙な、そんな不思議な会話をしている時に、クラス内の一ヶ所でヒソヒソとこちらを見ながら話してるグループがいるのが拓美の目に入った。

 

(騒ぐやつは、騒ぐか…)

 

そう思い、拓美が目をふせると、それを見た真弓は息を吸い込む。

 

「ってか! くっだらねー事で騒いでる連中の事は気にすんなよ!?」

 

そして、両手を腰に当てながら背をのけ反るようにして、そちらを見ながらあえて全員に聞こえるようにそう言ったのだった。

 

「…そんだけ、んじゃな?」

 

そう言って、今度は拓美に背を向けた真弓は、手の甲を左右に振りながら自身の席へと戻っていった。

その様子を見ていた拓美は思わず…

 

「か、かっこいい…」

 

…と、呟いてしまい…大和田拓海からは怪訝そうな顔で見られ、金田瑞希からは「藤代っち、戻ってきてー!?」と声をかけられるのだった。

 

           ●

 

「はあ、疲れた…」

 

と、帰りの通学路を歩きながら藤代拓美は、今日あった出来事を思い出していた。

 

結局あの後、里中真弓の鶴の一声により、クラス内での不穏な空気は一掃され、何人かの生徒が拓美を心配して声をかけてきてくれたり、「藤代さんは、俺が守る!」と言った告白のような宣言までされて、さすがの拓美もそれには頭を抱える始末だった。

 

「里中真弓か…案外、良いやつじゃん。」

 

と、里中真弓に対しての評価を改めて考え直していた時だった。

 

「危ない!!」

 

突如、上空からそんな声が聞こえてきて、何事かと上を見れば自身の目前へと迫る植木鉢が見える。

 

「いや…早速かい…」

 

と、拓美はあの時、女神が言っていた言葉を思い出す。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『世界の理から外れてしまった貴女には、今後様々な困難が待ち受けているかもしれません。』

 

ーーーーーーーーーーー

 

「あの、クソ女神め…」

 

そう言って拓美は、その場で眉一つ動かさずそれを見据えて念じる。

 

(止まれ!)

 

拓美がそう念じるや否や、植木鉢は拓美の眼前でピタリと止まる。

…そうして、空中で静止した植木鉢を見ながら、ゆっくりと一歩下がる拓美であった。

 

 …ガシャン

 

「もう、大丈夫ですよー? お姉さん。」

 

落ちた植木鉢を一度確認した拓美は、ベランダからこちらを覗いていた女性に声をかける。

見れば、両手は手すりを掴んでいるが、その目は瞑られていて顔は背けられていた。

 

「は? え? え? え?」

 

拓美から声をかけられ、目を開けた女性は、もう駄目かと思われていた下の女子高生が無事だった事に、安心よりも驚きが隠せないといった様子であった。

 

「次からは、気をつけてくださいねー?」

 

戸惑いを隠せないベランダの女性に、そう声をかけてその場を立ち去ろうとする拓美だったが、突然ピタリとその足を止めた。

 

「ふ、藤代…お前、やっぱり…」

 

そこには、半分ずり落ちたメガネをかけ直そうともせずに、呆然とこちらを見つめ、指差している大和田拓海の姿があった。

 

「げっ……大和田…」

 

 

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