リセット~藤代拓美の受難~   作:証明

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18話

「…自分は一体、何者なんだろう?」

 

「ん? なに、急に哲学的な事言い出して?」

 

お昼時、転校生の中村星司に言われた言葉を思い出して藤代拓美はポツリと呟いた。 

目の前で、男子高校生並の弁当箱を頬張る金田瑞希に、そう突っ込まれ、慌てて我にかえる拓美であった。

 

「え!? あ、いや何でもないですよ金田さん」

 

「ならいいけどー。 にしても藤代っちは凄いねー、あんなイケメンが今日1日ずっと近くにいるのに、全然緊張してないんだもん! ね、大和田くん!?」

 

「…まあ、確かにそうだな、好みじゃなかったりするのか? ああいうタイプは?」

 

隣で一人、昼食をとる大和田拓海も巻き込んで金田瑞希は話を広げようとする。

そんな彼女の言う通り、教科書が無いからという理由で、午前中はずっと隣り合わせで授業を受けた中村星司であるが、あの質問以降、拓美に何か聞いてくる事はなかった。

 

「お? 大和田くん、藤代っちの好みのタイプが気になるんだー?」

 

「バッ、…そんなんじゃない!」

 

また、拓美自身も学校の授業は授業でキチンと受けたいタイプである為、休み時間にその話を聞こうとするのだが…休み時間の度にそのイケメン転校生、中村星司はクラスの女子にあっという間に囲まれてしまい、結局あの後、会話の進展は無いままに午前中は終わってしまったのだった。

 

「…いや、タイプがどうとかそーゆー問題じゃなくてですね、もっとそれ以前の話というか…」

 

拓美としては、元々男性だった自分が女性に生まれ変わった為に、性自認は男性のままなので、ハッキリ言ってしまえば…

 

「興味が無いって感じですかね!」

 

「それはまた随分と失礼な話だなあ、藤代さん?」

 

と、ハッキリ意見を述べた藤代拓美の隣に、タイミング良く学食から戻ってきた中村星司から突っ込みが入ったのだった。

 

「あちゃー、タイミング悪いよ? 中村くん!」

 

「あら、悪いのは俺って感じ?」

 

「…いや、さすがに藤代だろ、今のは…」

 

元々白い肌の顔色が、更に白く青ざめていき、ダラダラと冷や汗を流す拓美をよそに、目の前で金田瑞希らの掛け合いが繰り広げられる。

 

「…す、すみません!」

 

流石に罪悪感から、ガバッと頭を下げ、謝罪をした拓美であったが…次の瞬間、耳を疑うようなセリフが聴こえてきたのだった。

 

「あー、いやいや全然大丈夫だよ!…と、言いたい所だけど、そうだなあ…お詫びに今日の帰り、ちょっと付き合ってくれない?」

 

「え?」

 

「はあ?」 

 

「ひょーー!」

 

と、小さく驚く拓美を筆頭に、大和田拓海は眉間に皺を寄せながら、そして金田瑞希は何処か楽しそうにリアクションをし、更にクラス内の生徒にいたっては男女関係なく…

 

「「はあああああーーー!?」」

 

と、騒ぎたてるのだった。

 

           ●

 

「さて、じゃあ約束通り、少し付き合ってもらうよ?」

 

「…分かりました」

 

午後の授業が終わり、下校時刻となった今、そう言って誘ってくる中村星司に頷き、結局は一緒に帰る事になった拓海であった。

 

(まあ、こちらからしてみても丁度良い、渡りに船ってやつか…)

 

結局、今日の帰りまで中村星司が何故あんなことを言ったのか、何故、自分の名前を知っていたのか聞けずじまいだった為に、拓美にとってもこれはチャンスであった。

 

「それじゃあ、皆また明日ー」

 

と、笑顔でクラスメイトに手を振る中村星司であったが、そこに集まる視線は、男子からの嫉妬の視線と、女子からは相手が藤代拓美なら仕方ないといった諦めのような視線であった。

因みに、大和田拓海はその状況を呆れ返った顔をして見ており、金田瑞希はサムズアップして拓美を送り出していた。

 

「藤代…、頑張れよ!」

 

「…何をですか」

 

そして、教室から出る間際、壁に寄りかかっていた里中真弓にそう言って肩を叩かれた拓美は、ひきつった笑顔でそう返すのだった…。

 

           ●

 

教室を出て以後、向こうから誘ってきた手前、てっきり中村星司の方から話を振ってくるものだと思っていた拓美はひたすら彼から話しかけられるのを待っていた。

 

「…………」

 

しかし、校門を出てから通学路を歩いて10分程経っても、中村星司から話しかけてくるような素振りは一切見えず、二人はただ黙々と通学路を歩いていた。

そしてそんな、現在の状況に藤代拓美は頭を抱えるのだった…。

 

(なんだ? なんで何も喋らないんだ?)

 

すると、そんな時だった。

 

「俺さあ、完璧主義なんだよね?」

 

「え?」

 

急に、今まで黙っていた男が、そんな事を言い出したのは。

驚いて顔を上げた先には、いつの間にか人通りは無く、隣には前を向いたまま笑顔で話す中村星司がいる。

 

「昔から、何事も決められた手順で、決められたルールで、決められた道を歩くのが好きでさあ…

例えば、何か物を造るってなった時は、絶対に説明書が欲しい訳、折り紙とかプラモデルとか?…だから工作の授業とかでよく、皆さんの自由に造って下さいってなった時とかは、ひたすら苦痛で仕方がなかった。

何も作らず素材だけ提出して、これが僕の自由ですって言ってみたりね。

校則とかもそう…破るやつが信じらんないって感じでね。 社会にもルールがあるんだから、学生のお前らもそれを守れよって!

たまに、そんな奴らに対してやり過ぎちゃう時もあったり無かったりね?」

 

堰を切ったように話す中村星司の話の内容は、だんだんと激しさを増していき、拓海は今もバッグにつけている防犯ブザーを、御守りのように握りしめる。

 

「そーんで、いっちばん好きなのが決められた道を行くってやつ!

そして、いっちばん腹立つのがそれを邪魔されること!」

 

「そうなん……」

 

 ダァン!!!

 

「…だ……?」

 

話の内容に気をとられてか…気づけば二人は、ビルとビルの間の人通りの少ない道に入っていて…壁際にいた拓美の顔の横を中村星司の長い足が、その頬を掠めていった。

 

「だからさあ、藤代拓美さん? 俺の歩む道の邪魔をしないでくれない?

君さあ、邪魔なんだよ…折角、俺がより良い未来を見て、選んで歩いて来たのにさ…君が現れてから君がいる周辺だけ、視界がぼやけたようにグチャグチャになっちゃってさあ…」

 

「…どういう事ですか?」

 

拓美の防犯ブザーを握る力は強さを増し、必死に気を保って質問をする。

 

「どういうって…俺さあ未来が見えるんだよね。 そーんで、君…藤代拓美さんはさあ…本当ならもう死んでるハズだよね?」

 

「それは…まさか本当に?」

 

自身の死を…本来の藤代拓美の死を言い当てられ拓美に動揺が走る…それは、本当に未来が見えてなければ知りえない事なのだから。

 

「そう、そのまさかだよ…藤代拓美さん? だからもう一回聞くよ? …君は、一体何者なんだい?」

 

そう言って、拓美へと近づけてきた中村星司の顔は、もはや狂気に満ち溢れていた…。

 

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