あの後、疲労困憊といった様子の拓美を心配して、家まで送ると申し出た大和田拓海と共に、すっかり暗くなってしまった帰り道を、二人は現在並んで歩いていた。
「悪いな…助けて貰ったあげく、送ってまでもらって…」
「気にするな」
わざわざ自身の自転車を押しながら歩く大和田拓海に申し訳なく思い、拓美は謝罪の意を述べる。
しかし、返ってきた答えはやはり素っ気ないもので、以前ならイラッとしたそれも、色々あった今日に限っては何故か、何処か安心感を覚えるのだった。
「アイツ…中村も超能力者なのか? 未来がどうとか聴こえたが…」
「未来視…そう言っていたよ。その名の通り、未来が見えるみたいだ。」
「そうか…それで? なんで藤代が狙われる?」
「それは…」
大和田拓海からの質問に拓美はなんて答えようか迷う。
自分が本当はオマエで、本来の藤代拓美はとうに死んでるなんて言える訳もない。
口の立つ者なら、上手い言い回しでも思い付くのだろうが、拓美にはそれが思い浮かばなかった。
「な、なんか邪魔なんだと。 自分が近くにいると未来が見えずらいって言ってた。」
「藤代が近くにいると? なんでだ?」
「~っなんか、凄いオーラが出てるらしいぞ??」
「へえ……」
そう生返事をしながら、懐疑的な目でこちらを見る大和田拓海に、拓美は冷や汗を流しながら平静を装うのだった……。
「ま、まあとりあえず今日は、送ってくれてありがとな。」
そんな話をしながら歩いていれば、いつの間にか家の前まで来ていたらしく、藤代拓美はそう言って別れを切り出す。
「じゃ、じゃーな!?」
「ああ、藤代。…スマン、一つだけ良いか?」
「な、なんだ?」
これ以上は身が持たないと、焦って家に入ろうとする拓美だったが、不意打ちで大和田拓海から呼び止められてしまう。
「090ー✕✕✕✕ー◯◯◯◯」
「は?」
「俺の番号。 何かあったら連絡してくれ」
「じゃーな」と言って、自転車にまたがり去って行く大和田拓海の背中を見送りながら、拓美は改めて思うのだった……
(…アイツは、アイツは絶っ対、俺じゃねー!!)
…自分はあんな、キザったらしい事をするような奴では無かったと。
●
明けて翌日、あの後嫌々ながら大和田拓海の番号を保存した拓美は、更に嫌々と憂鬱な気分で登校した。
「やあ、おはよう藤代さん。」
いつものように、一番乗りで教室に着いたかと思われた拓美に、現在もっとも聴きたくない声が聴こえてきて、その声の主は拓美よりも早く教室の座席に座っていた。
「…随分、早いんだな?」
「アハハ。 そーとー警戒されてるね、俺? 敬語じゃなくなってるよ藤代さん?」
後ろ手で、誰もいないのを確認してから教室の戸を閉めた拓美は、話を続ける。
「…別に、今さらだろう? …なんだ、朝っぱらから昨日の続きでもするのか?」
そう拓美が言うやいなや、横にあった机がフワリと浮き上がる。
「イヤイヤイヤ…勘違いしてるなあ、藤代さん。 俺はそんな野蛮人じゃないよ?」
(一体、どの口が言うんだ?)…と、拓美は思いながらゆっくりとその机を床に下ろし、それを見た中村星司は溜め息をついて話し出す。
「まあ、それは別にいいとして…、ところで今日の放課後、学校の近くに廃工場があるだろう? そこで、ゆっくりと二人きりでゆっくりと話をしようじゃないか。」
「話ね…断る権利は?」
「君にあると思うかい? 昨日は運良く助けが来たから逃げられたけど…、俺の方が能力が強いのは分かってるんだろ?」
「っ…廃工場だな…分かった。」
確かに、中村星司の言う通り昨日は大和田拓海が偶然助けに来てくれたから、あの場から逃げられただけの話である。
仮に、ここで断ったとしても、目の前のこの男は執拗に付け狙ってくるのが目に見えている…だから、それ故の決断だった。
「オッケー、じゃ放課後ね?」
そう言って中村星司は話を打ちきり、次の瞬間には同じく朝の早い大和田拓海が入室してきては、二人を見て怪訝そうな顔を浮かべ、心配そうに拓美に声をかけるのだった。
「おはよう藤代。 …大丈夫か?」
「だ、大丈夫だ! おはよう大和田!」
…そして、何故かぎこちない挨拶を交わす拓美であった。
●
「ここか…懐かしいな。」
結局あの後は今日1日、中村星司の方から話しかけてくる事は無かった。
そしていつも通りの金田瑞希との掛け合いや、クラスメイトや里中真弓から、昨日あの後、転校生とはどーだったんだという突っ込みを、なんとか場をしのいで逃げていた所をたまに大和田拓海に助けられたりして、それを見た里中真弓の機嫌が悪くなったり…といったような日常を過ごしているうちに、あっという間に放課後になってしまったのだった。
「相変わらず、さびれてんな…」
一人になりたい時に、何度か来た事ある前世の記憶を頼りに訪れたその場所は、相変わらずさびれていて…そのおどろおどろしい雰囲気から人っ子1人寄り付きそうもない雰囲気を今も醸し出していた。
そんな場所へと、拓海はゆっくりと歩を進める。
回りに散らばる瓦礫を避けながら中へと入った先には、積み上がった瓦礫の上に腰掛ける中村星司がいた。
「約束通り来てくれて嬉しいよ、藤代さん。」
「…どうせ、来るのは視えてたんだろ?」
「ハハッ、ご名答! 随分と俺の能力を分かってくれてるみたいで嬉しいよ!」
嬉しそうに、手を叩きながら中村星司は答える。
別に分かりたくも無いし知りたくも無いのだが…昨日、無理矢理分からせられた拓美としては、その答えは不愉快極まりないといったところである。
「…チッ、さっさと話の続きをしようじゃないか」
「アッハッハッ、…舌打ちとは恐いねえ藤代さん? でも、そんなハナシの続きの前に、昨日の質問に答えて貰おうかな?」
互いの能力の強さの関係上、この場の主導権は中村星司にある。
別に、回りにある大量の瓦礫で押し潰してしまえば良いのでは?…と思うかもしれないが、藤代拓美としては、この身体の本来の弱さもあって、車1台動かすだけで倒れてしまう体質である為、ここは渋々相手の要求を飲むしか無いといったところだった。
「自分が…何者か、だったか?」
「そうそれ! なんで本来なら死んでる筈の君が、生きてるのか早く教えてくれないかな?」
瓦礫の上で、相変わらずニヤニヤと笑いながら答えを急かす中村星司は、完璧主義者である為が故か、それが気になって気になって仕方が無かった。
「正確には死んでいる…」
「は?」
しかし、返ってきた答えは意外過ぎるものだった。
「藤代拓美はとうに亡くなっている。 今、この身体にいるのは藤代拓美とは全く別の人間。…前世、自分しか見えて無かった、自分の事だけしか考えて無かった…たまたま死ぬ間際に誰かを救う事が出来ただけの…しょうもない、どうしようもなかった男だ…!」
「フ…フフ…フフフ…」
俯いて答えを述べた拓美に、小さく震えて笑う声が聴こえてくる。
そして次の瞬間、その笑い声は大きく爆発した。
「アーハッハッハッハッハ!!!!
…何処まで、何処まで規格外なんだ君は!? 何処まで、俺の完璧な未来から外れているんだ!?
神様転生!?
いや、憑依と呼ぶべきか? …そんな、そんな未来…俺が読める訳無いじゃないか!? 人智を超えた理など見える訳が無い!!!」
ハアハアハア…と、話し終えた中村星司の荒い息遣いが工場内に響く。
拓美は、そのあまりの変貌した様子に後退りを始めていた。
「オーケー、藤代拓美。 …君はやはり、どうしても排除しなければいけない人間のようだ。」
落ち着きを取り戻した中村星司は、そう言って瓦礫の山から、一飛びで地面に降り立つ。
…かくして、戦いの火蓋は切って落とされたのだった。