リセット~藤代拓美の受難~   作:証明

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21話

 

「行くよ…?」

 

そう言って、一足飛びで数メートルは離れていた藤代拓美へと中村星司は肉薄する。

 

「…なっ!?」

 

この前の、中村星司との会合から何かしら武道をやってるのは予想できていたが、そのあまりにも常人離れしたスピードに拓美は驚いた。

 

「がら空きだよ?」

 

という声と共に、こないだの続きとばかりに、拓美の脇腹に中村星司の蹴りが響き渡る。 

 

ドガッ!!

 

「ぐあっ!!?」

 

反応する事も出来ずに、まともに蹴りを貰った拓美は、そのまま横薙ぎに吹き飛んでいった…。

ズシャアア…!と音をたてて、小さく受け身を取りながら砂利の上を滑っていく。

 

「くう……(なんだコイツ? 能力は未来視だけじゃ無いのか?)」

 

「ありゃ、やり過ぎちゃったかな? 大丈夫かい、藤代さん…いや、藤代くんが正解かな?」

 

痛みに耐えながら、必死に起き上がろうとする拓美に、ヘラヘラと人を煽るような口調で中村星司が近づいてくる。

 

「…未来視だけじゃ無いのか…能力は?」

 

「それだけだよ、藤代くん? 他に何も特別な力は使ってないさ。」

 

「どういう…事だ?」

 

グググッ…と全身に力を入れ、ようやく立ち上がった拓美は、中村星司の異常すぎる身体能力に疑問を浮かべ質問をする。

 

「どういう事も何も、単に俺自身の力だよ藤代くん? 完璧主義で幼い頃から未来が見えた俺は、自分自身にも完璧を求めた…それは勉強やスポーツだけじゃなく、喧嘩の強さもね? だから何が自分にとって一番向いていて、どの武道をやれば自分が一番強くなれるかって未来を視たんだ。 …それで自身にとって一番最適であった、テコンドーという蹴り技主体の武道を徹底的に鍛えた。…だから効くだろ、俺の蹴り? …これでも手加減してるんだぜ?」

 

(ふざけんな、チート過ぎるにも程があるだろ!?)

 

…と、思いながら拓美は話を聞く。

 

…例えば、仕事でもそう…人には当然、向いてる職種や向いてない職種は存在する。

よく言う、向いてるか向いてないかは、やってみないと分からないという言葉を、この目の前の男…中村星司はやる前から、何が自分に向いてるか否か分かっているというのだから…それは悩める現代人にとっては喉から手がでる程、欲しい能力であった。

 

「はっ…、随分と便利な能力だな?」

 

前世では、社会で嫌という程揉まれ…その辛さを一番知ってる拓美は、身体をふらつかせながらそう悪態をつく。

そして、念を送るように手を伸ばして、中村星司の背後にある瓦礫の中から一本の鉄パイプを浮かび上がらせた。

 

「だがな、苦しんだ事も無い奴に…負ける訳には行かないんだよ!」

 

そう言って、大きく手を振った拓美によって、浮かび上がっていた鉄パイプは勢い良く中村星司に襲いかかる。

 

ーしかし

 

「やれやれ、学習能力が無いのかい君は?」

 

「がふっ!?」

 

ッズシャアアーーー!!

 

それを予知していた中村星司は、屈んで避けるように素早く前へと進むと、今度は拓美のみぞおちへと蹴りを突き刺した。

 

「ぐうぅぅ……っ」

 

先程よりも激しく吹き飛んだ拓美は、それでも必死に立ち上がる。

 

だが…たった二回のその蹴りで、貧弱すぎるこの身体は既に満身創痍となっており、もはや立つのがやっとといった状態だった…。

 

           ●

 

「あのさー、そろそろ終わりにしない? 別に死んでくれって言ってる訳じゃないんだからさ…君の能力が俺に通じない以上、君はあの話を飲むしか手立てはないんだよ?」

 

…あの後、同じようにもう一度攻撃を試みた拓美は、これまた同じように、蹴り吹き飛ばされてしまっていた。

 

「ふざ…け…んな…」

 

蹴り飛ばされた先で、寝そべりながらそう言い放ち、フラフラと足取りが覚束ない様子で立ちあがる拓美に、中村星司からそう提案がされる。

だが、それでも踏ん張って立った拓美は、その話を突っぱねる。

 

「お前…に、分かるか? 彼女が、元の藤代拓美がどういった思いで死んでいったか分かるか? …本当なら、彼女自身がしたかった筈の親孝行を、自分なんかに託した気持ちが分かるか? …そんな彼女の思いを踏みにじるような真似…自分に出来るわけないだろ!」

 

笑って、『宜しくお願いします。』…と言った彼女の姿が思い浮かぶ。

泣きそうな顔で、『ああ、良かった…』と言って消えてった彼女の最期が思い浮かぶ。

 

藤代拓美として生まれ変わって、自分なんかで本当に良かったのか?…と自問しない日は無かった。

彼女の思いを汲み取るのが、あんなうだつの上がらない生き方しか出来なかった、自分なんかで本当に良かったのか…と。

 

しかし、だからこそ負ける訳には行かない…、彼女の為に…ほんの少しでも彼女に誇れる自分でいる為に。

たかが海外と言われようが、生死に関わる問題では無いから良いじゃないかと言われようが…そんな彼女の思いを踏みにじる訳には行かなった。

それが、藤代拓美が藤代拓美でいる為に…ボロボロになりながらも立ち上がる理由であった…。

 

「他が為に…ってやつかい? 残念ながら俺には理解出来ないなあ…だって自分の為に生きてこそ人生は愉しいんじゃないか?」

 

まるで、昔の自分のようなセリフだな…と、拓美は思った。

 

「…それじゃ駄目なんだよ…中村星司。…それじゃ、最期は…一人ぼっちになっちまうんだよ…」

 

           ●

 

ーーグラグラグラグラッ!

 

 

そんなやり取りをしている時だった、突如として大きな揺れが起こったのは。

 

「うわっ!?」

 

「地震か…チッ、これだから君の近くにいるのは嫌なんだ…視えずらくて仕方がない!」

 

突然、起きた地震に立ってるのもやっとの拓美は慌てる。

しかし、それは未来が見える筈の中村星司にとっても予期せぬ出来事であった。

 

「あっ?」

 

「えっ!?」

 

ーそれは、ほんの一瞬、地震に気を取られた中村星司が周りを見回していた時だった。

グラつく地面から前のめりになった拓美は中村星司へと倒れこむように重なる。

 

その瞬間、藤代拓美は昨夜の大和田拓海との会話を思い出す…

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『しかし、なんでアイツは自分の手を触ったあと、あんなに怯えた顔をしていたんだろう…』

 

『…そんな顔してたのか?』

 

『ああ…、何かおぞましい物にでも触れたかのように…そういえば大和田が来る事も分からなかったみたいだぞ?』

 

『なあ…ひょっとしてー』

 

ーーーーーーーーーーー

 

ガシイッ!!

 

「自分が触ると、未来が視えないんじゃないか? …中村星司?」

 

「っな!…貴様、何故それを? 離せ! 離せえー!!」

 

離すもんかと、中村星司にしがみつくように抱きついた拓美は、夏だというのに長袖である自身の制服の袖に、念をこめ締め付ける力を強化する。

 

「くそ!…何処に、こんな力が!?」

 

「何も、物体を浮かべるだけじゃ無いんだぜ…念動力ってのは…」

 

そう言って拓美は、更に履いていたローファーにも念をこめる。

それによって、いかに強靭な中村星司の脚力を持ってしても逃れる事は不可能になった。

今日1日で、何度も念動力を使い、更には中村星司から受けた強烈な蹴りによって、貧弱過ぎる拓美の身体は既に限界を迎えていた為か…おそらく、これが最後の能力の発動になるだろう…と、拓美は考えていた。

 

「どうだい…中村星司? 何も未来が視えなくなった世界は?

…怖くて仕方ないか? …でもな、でも皆…そんな怖くて不安で仕方ない人生でも、未来なんか視えなくても必死に生きてるんだよ…失敗しても何しても必死に生きてるんだよ!!」

 

すると、そう言って吠えた拓美の後ろの瓦礫から複数の鉄パイプが浮かび上がる。

 

「な…なにを…?」

 

「なに、死にはしないさ…ただ少し痛い思いをするだけだ……」

 

その数はざっと10本程だろうか、その全てが藤代拓美と中村星司の頭上へと移動し、そのままユラユラと浮いている。

 

「馬鹿じゃないのか…君は? 君も…怪我する羽目になるぞ?」

 

「馬鹿でけっこう…さあ中村星司、この先の未来は視えているか? …視えているなら避けてみろ!」

 

拓美がそう言った次の瞬間、空中でユラユラと浮いていた鉄パイプが揺らぎを止めて、意思を失った鉄パイプが一斉に降りだした。

 

「や、やめ…う、うわああああーー!!」

 

           ●

 

ガラン…ガランガラン…

 

…と、落ちた鉄パイプが音を奏でて…その下には、頭部から少量の血を流し…意識を失った中村星司が横たわっている。

 

「誰が、お前なんかと心中するか…」

 

そして、そんな彼の前には…直前で制服からすり抜けた藤代拓美がキャミソール姿で立っていた。

 

「くしゅんっ…! 今回ばかりは異常な程、寒がりなこの身体に感謝だな…」

 

と、異常に細いその身体から、夏にも関わらず長袖を着ていた自分自身に感謝をして……。

 

 

 

 

 

 

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