リセット~藤代拓美の受難~   作:証明

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22話

中村星司は夢を見ていた。

 

その夢の中で、ボロボロの身体で必死に自分に語りかけてくる少女がいる。

自分の為だけに生きてきた自分に向かって『そんなんじゃ、いつか一人ぼっちになっちまうぞ』…と。

 

…それは、自分自身の手で傷つけてしまった少女だった。 

 

           ●

 

「未来なんか視えなくても、みんな必死に生きてる…か」

 

そんな夢を見ていた中村星司は、その少女…藤代拓美から言われた言葉を呟きながら、ゆっくりと目を覚ます。

 

「良かった…起きたのか…」

 

「…藤代くん?」

 

すると、あからさまにホッとした様子で、病室のベッドの隣で、椅子に座りながら自身を覗きこむ藤代拓美の姿が目に映った。

 

「なんだ? 驚いた顔して…」

 

「いや…まさか君がいるとは」

 

あれだけ酷い目に会わせたというのに、どうして此処に藤代拓美が居るのか?

どうして、そんな心配そうな顔をしてるのか理解に苦しむ中村星司だった。

 

「自分が怪我を負わせたんだ、心配くらいはするさ。」

 

「…もしかして、俺を助けてくれたのは君なのか?」

 

現在の自分の置かれた状況から、中村星司はそう推測して質問する。

昨日あれから、目の前で血を流して倒れる中村星司を見て、流石に不味いと思い、救急車を呼んだ藤代拓美は、「先程の地震で友達が…崩れた鉄パイプの下敷きになって…!」と、嘘が苦手な彼女にとっては非常に苦しい説明をした。

しかし、運ばれた先で、中村星司は何針か頭を縫う手術を受ける事になってしまって、自分が助かる為とはいえ結果的に人を傷つける事になってしまった…と自己嫌悪した拓美は、その罪悪感から今の今まで付きっきりで様子を見守っていたのだった。

 

「さすがに、夢見が悪いしな」

 

だが、相手が相手だけになかなか素直になれない拓美であった。

 

「そうか…ありがとう。」

 

しかし、反対に素直にお礼を述べる中村星司を見て、拓美は驚いた顔をしてこう言った。

 

「中村も、お礼を言うんだな…!?」

 

「…おい」

           ●

 

…あれから直ぐに、中村星司の手術を担当した医者が診察に訪れた。

結果、今のところ特に異常は見当たら無いが、怪我をした箇所が頭なので、近いうちに念の為MRIを撮る事になり、様子を見る為にも、しばらくの間は安静にという意味も込めて入院することとなった。

 

「それじゃあな…星司。 邪魔すると悪いからもう行くぞ?」

 

「…藤代さん、星司の事を宜しくお願いしますね。」

 

目を覚ました事を聞き付けて、様子を見に来た中村星司の両親が去った今、病室には再び藤代拓美を残して、二人きりといった状況になっていた。

 

「良いのか? なにか勘違いをしていたようだが…」

 

「ハハッ、問題ないよ。にしてもその傷…すまなかったね本当に…」

 

あっさりと帰っていった中村星司の両親の最後のセリフに、どこか引っ掛かりを覚えた拓美はそう質問した。

しかし、中村星司は何ら気にしてない様子でそう笑い飛ばして、今度は藤代拓美の着ていた私服の長袖の袖口から覗いた包帯を見て謝罪を述べた。

 

「こんなのかすり傷だ、気にするな」

 

拓美自身はこれ以上…今の自分の両親に心配をかけたくないからと、今回の件で負った怪我を隠しておくつもりだったが、駆け付けた救急隊員から、そのボロボロの制服も相まって、直ぐにバレてしまい、病院について早々に手当てを受ける羽目になってしまったのだった。

 

「俺に気を遣って、そう言ってるんだろ? ありがとう藤代くん」

 

「やっぱり…頭が…」

 

かなり酷いことを言う拓美であった。

 

「ハハッ、なかなか言うね? 君の両親…いや今の君の両親も心配していたんじゃないのかい?」

 

「まあ…めちゃくちゃ、してたな」

 

と、遠い目をして拓美は答える。

…案の定、病院から連絡を受けて駆け付けた両親には酷く心配されてしまい、さっきの地震で友達と共に事故に巻き込まれたと、これまた苦しい言い訳をした時には「今度は厄払いに行くぞ」と、強制的に約束をされてしまう羽目になった。

 

「ところで…もう良いのか?」

 

「え?」

 

「一応、警戒はしていたんだが…さっきからそんな様子も見せないし、もう自分を排除…しようとは思わないのか?」

 

拓美は、先程からずっと大人しい中村星司に疑問を浮かべ質問する。

あれ程、自分に対して敵意を剥き出しにしていた男が急に手のひらを返したように、自身に対してお礼を言い出したり、怪我や他人の両親の心配などの気遣いをしてきた事に違和感しか覚えないからだ。

 

「ああ、もう…良いんだ」

 

「何故? 自分が近くにいると未来が視えづらいんじゃ無いのか?」

 

そんな拓美からの質問に、中村星司は、フッ…と笑みを浮かべて答える。

 

「…俺は君との戦いで、最後の最後まで未来視という能力に頼りきっていた。…いや、頼り過ぎていたんだ。

だから、俺は君に負けたんだよ。 …何が完璧主義者だって話だよね。 未来なんか視えなくても跳ね返す事が出来なくちゃ、そんなのは完璧主義とは呼べないじゃないか?

だから、俺はむしろそんな君の近くで、そこを鍛えようと思う!

…だから、だからもう良いのさ藤代拓美くん?」

 

どこか、吹っ切れたような顔をしてそう言う中村星司に、呆気にとられた拓美は思わず笑ってしまう。

 

「フッフフ…凄いな完璧主義者というのは、アハハハッ!」

 

「え? いや…なっ?」

 

そして、そんな彼女の笑顔を初めて見た中村星司は、耳を赤くして激しく動揺してしまうのだった。

 

           ●

 

「さて、それじゃ自分は帰るよ…」

 

「あ、ああ…」

 

未だに、先程の藤代拓美の笑顔を見た後から動揺が抜けない中村星司は、そう返事をする。

そして、病室のドアに手を掛けた拓美は、何故かピタリと一度立ち止まる。

 

「なぁ、中村…悪かったな、偉そうな事ばかり言って…」

 

「へ?」

 

「お前だって必死に生きてるのにさ…勝手に決めつけてしまって…悪かった」

 

「いや、別に…、ただ一つだけ聞いて良いか?」

 

「なんだ?」

 

ドアの前で立ち止まっていた拓美は、中村星司からの質問にクルリと振り返る。

 

「…俺は、俺はいつか、一人ぼっちになってしまうのか…?」

 

すると、不安げな顔をしてそう聞いてくる、中村星司を見て、拓美はまた…

 

「…プッ」

 

「プ?」

 

「アッハハハ! 馬鹿だなぁ中村星司!? 自分とお前は既に友達じゃないか? 少なくとも自分はそう思ってるぞ? だから一人ぼっちにはならないし、させない! 同じ能力者同士、仲良くしようじゃないか?」

 

以前の自分だったら、言わないような…まるで陽キャのようなセリフを拓美は吐いた。

今世の大和田拓美が以前と少し違うように、今の藤代拓美となった大和田拓美も、もしかしたら何処か自分でも気づかぬうちに変わってきているのかも知れない。

 

それは、きっと良い方向に…。

 

           ●

 

ドッドッドッドッドッドッ……

 

「…まあ、今の中村ならそこは大丈夫だろ」…そう言って、藤代拓美が去っていった病室内に、中村星司の心臓の音が大きくこだまする。

 

「お、落ち着け俺…落ち着け…」

 

そして必死にその鼓動を…自身の感情を抑えようと自分に言い聞かせる中村星司がいる。

 

「なっ!?」

 

しかし、藤代拓美が側から離れた為、中村星司の頭に今まで視えていなかった一つの未来が浮かんだ…

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『好きだ…藤代くん』

 

ーーーーーーーーー

 

「うわああああああああああっーーーーーーー!!?」

 

それは…近いうちに、校舎の裏で藤代拓美に告白する自分の姿であった…。

 

「あ、相手は男ーー! 身体は女でも、心は…心は男ーーーーー!!」

 

そう病室で絶叫した中村星司は、この日初めて未来が視える自身の能力を呪ったのだった…。

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