リセット~藤代拓美の受難~   作:証明

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23話

「ふあぁぁぁ…」

 

大和田拓美から藤代拓美になって、何度目かの朝を迎えた拓美は、大きくアクビをしながら自室のベッドから身体を起こす。

あの中村星司との戦いから2週間程の月日が経ち、自身が負った怪我も順調に回復を見せ、ところどころにあった擦り傷や打ち身もすっかり癒えた。

 

「これ以上、女の勲章が増えなくて良かったよ…しかし、細いなあ…」

 

寝惚け眼のまま、自身の二の腕を捲り拓美は呟く。

額に残された傷痕は未だ消えておらず、これ以上彼女の身体に傷痕が残ったらどうしよう…と心配していたが、その腕は依然として細く綺麗なままだった。

 

「ホントはもう少し太くしたいんだけどなぁ。…てか、寒っ!?」

 

季節は7月末、一学期も終わりに近付いた頃、世の女性が聴いたら反感を買いそうなセリフを吐いた藤代拓美は、低めに設定されたエアコンがついた室内で、相変わらずの寒がりを発揮していた。

 

           ● 

   

「おはようございます、父さん、母さん。」

 

「あら、おはよう拓美」

 

「おはよう」

 

制服に着替え、下のリビングへと降りてきた拓美は、既に指定の席で朝食を取っている父親と、台所で二人分のお弁当を準備している母親へと声をかけた。

 

「いただきます。」

 

そう言って、自身も席へと座り朝食を食べ始めた拓美に、父親である広大から声がかかる。

 

「拓美、本当に今日の夜、父さんと母さんが居なくても大丈夫なのか?」

 

「ええ、問題ないですよ…お願いですから二人で楽しんで来て下さい。」

 

この身体に生まれ変わってから、およそ4ヶ月程の月日が流れた藤代拓美は…そのたった4ヶ月の間に立て続けに二回も病院の世話になってしまい(自身が目覚めた時も含めれば3回だが…)、流石にこの両親に心配をかけすぎたと罪悪感がつのっていた。

そして、そんな二人に少しは気持ちをリフレッシュしてもらいたいと思い、今日あたり二人で食事にでも行って来たらと、前々から話を持ち掛けていたのだった。

 

「…でも、お母さんやっぱり心配だわ」

 

「うむ…」

 

いつまでも渋る両親に、『もう、自分を襲った犯人も捕まった事だし大丈夫です。…危ない所にも行きませんから!』と、なんとか説得してやっと今日を迎えたのだが…当日になっても渋る二人に拓美は頭を抱えていた。

 

(いや…確かに心配ばかりかけたのは俺だけど…ちょっと過保護すぎじゃね?)

 

親の心、子知らず…といったところであるが、今の拓美には残念ながら理解は出来なかった。

 

「母さん…やっぱり今日はキャンセルしようか…」

 

「ええ、そうね…あなた」

 

ついには、ここまできてドタキャンまでしようとし始めた二人に拓美は…

 

「ほ、本当に大丈夫ですから!」

 

…と、焦って二人を止めるのだった。

 

           ●

 

「あー、疲れたー」

 

あの後、尚も渋る両親を『もう二度と病院のお世話になるような目には会いませんから!』…と若干フラグめいた言葉で安心させ、今日の夜二人で外食に行くことをなんとか承諾させた拓美は、珍しく時間ギリギリに教室に入り、息つく間もなくそのまま授業を受けたのだった。

 

「なーにが疲れたんだい、藤代くん?」

 

一時間目が終わった後の休み時間に、そう言って机に突っ伏す拓美を見て、隣の席の中村星司が心配して声を掛けてきた。

 

「中村か…いや、別に何でもないよ」

 

「…ふーん?」

 

あの戦い以降、中村星司は頭に負った怪我から暫く学校を休んでいたが、その怪我もすっかり癒え、MRIといった検査の結果も特に以上もなく今は元気いっぱいといった様子で登校している。

 

「なら良いんだけどー?」

 

「おい…近いぞ?」

 

しかし、拓美は困っていた、この中村星司…学校に復帰して以降…なんか距離が近いのだ。

病院で、自身が目指す完全なる完璧主義者に近づく為、能力に頼り過ぎないよう自分の近くにいて鍛えるとは言っていたが…あまりにもその距離が近すぎるのだ。

 

「あー中村っち、まーた藤代っちに、ちょっかいかけてるー!」

 

そう言って、自身に顔を近づけて詰め寄る中村星司に、釘をさした金田瑞希と今までは二人で昼食を取っていたのだが…学校に復帰してからはそこに混ざって昼食を取るようになったり、今のように休み時間の度に何かと絡んできたりと…自分に対する距離感の近さに、拓美はほとほと困っていた。

 

「いーじゃん、別にー? だって俺ら友達だもんね、ねー藤代くん?」

 

「あ、ああ…」

 

だが…そう言って、肩を組んできた中村星司に対して、前世での友達づきあいの少なさから、どう対処していいかさっぱり分からず…さらに自分から友達だと宣言してしまった手前、何も言い返す事が出来ずになすがままにされる拓美であった。

 

ドッドッドッドッ………

 

(友達。…そう、俺らは友達!)

 

しかし、拓美は知らなかった…実は、中村星司はもはや完全なる完璧主義者とかは、殆どどうでも良くなっていた事を…。

それを言い訳にして、敢えて拓美に近づく事によって、自分の気持ちを整理して、あの未来を無しにようとしていた事は、今のところ…誰も知らない話であった。

 

           ●

 

「さて、さっさと買い物して帰らないとな…」

 

そして放課後、藤代拓美は家の近所で学校の帰り道にあるスーパーマーケットへと訪れていた。

 

「久々に自炊するなあ…」

 

そう言いながら、買い物カゴを手にする拓美は、前世では家族と疎遠であった為、家族皆で旅行とか外食とかいう時には、一人で家に残る事が多く…その為に簡単な料理ならば問題無く作れるという手並みであった。

 

「学校終わって、今から買い物し・ま・す…と。」

 

朝、家を出る際に両親から、「それなら、拓美が今、何処で何してるか必ず定期的に連絡するように!」…と、言われてしまった為、拓美は自分の親へ業務連絡のようなものをしてから店の中へと足を踏み入れる。

 

「人が作るカレーも旨いんだけど…やっぱり、自分で作るカレーが一番なんだよな~」

 

そんな事を言いながら食品売場で、拓美は前世でよく作っていた自慢のカレーを久々に作って食べたいと思い、その食材を吟味していた。

 

ーと、そんな時だった。

 

ドンッ!

 

「うわっ?」

 

急に小さな何かに背中を押された拓美は、ビックリして声をあげる。

 

「ご、ごめんなさ~い…」

 

すると、前世で良く聞いた声が聴こえてきた…拓美はその声から思わず名前を呼んでしまう…

 

「沙…弥…?」

 

「え? お姉ちゃん、なんで沙弥の事知ってるの?」

 

「あ! いや…その…」

 

そう言われて、焦って振り向いた先にいたのは、今はまだ幼い前世の妹、沙弥だった。

…思わず名前を呼んでしまった為か、キョトンとした顔でこちらを見ている前世の妹に、拓美はどうしようか狼狽える。

 

「どうした沙弥?…って、藤代?」

 

「あ…大和田…」

 

突然の妹の登場に固まっていた拓美に、知っている声が聴こえてきて、目線を下から上に向ければ、買い物カゴを持った大和田拓海が突っ立っていた。

 

「なにしてんだ、こんなところで?」

 

「あ、お兄ちゃん、このお姉ちゃん知ってるの~?」

 

そういった大和田兄妹の掛け合いから、ようやく落ち着きを取り戻した拓美は、屈んで沙弥へと目線を合わせて謝る。

 

「…お兄ちゃんのクラスメイトの藤代拓美だよ。沙弥…ちゃんの事はお兄ちゃんから聞いていたんだ。 ビックリさせてゴメンね」

 

「そーだったんだ! へー、お兄ちゃんと同じ名前だね!」

 

そう言って、拓美は名前を呼んでしまった事を上手く誤魔化しながら、前世の妹の頭を優しく撫でた。

 

「ああ…そういえば妹がいるって話したな…」

 

と、前に拓美と家族の話をした事を、大和田拓海は思い出す。

 

「今日は、うちの両親が外食に行っててな…夜いないから久々に自炊でもしようと、その食材の買い物に来たんだ。 大和田こそどうしたんだ? …まさか、二人で買い物に来たのか?」

 

ゆっくりと屈んでいた体勢だけを、戻した拓美は、大和田拓海へと質問の答えを返す…しかし、前世の自分であったならば、およそ想像も出来ないような目の前の兄妹の構図に、拓美はまさかと思いそう聞き返した。

 

「…うちも一緒だ。今日は結婚記念日だから二人で出掛けてくるって言ってな。 …沙弥と二人で夕飯の買い出し中だ。」

 

「随分と仲が良いんだな…」

 

拓美は、前世の家族の記憶を思い出す…いつまでも、新婚のように仲睦まじかった両親に、天真爛漫で皆に愛されていた妹…そして、いつも一歩ひいてそれを見ていた自分を…だからこそ、目の前の光景に驚いていた。

 

「…うちの親がか?」

 

「それもあるが、お前達二人もだ。」

 

「そうか? だとしたらそれは……」

 

ーそれは大和田拓海が何か言いかけた時だった。

 

「……ちゃんっ……っい!」

 

立ちながら話をしていた二人に、下の方から何か訴える声が聴こえてきた…

 

「え?」

 

「なんだ、沙弥?」

 

疑問に思って二人が下を見れば、未だ拓美に撫でられ続けている沙弥が涙目で訴えてきた。

 

「お姉ちゃん! 熱い!!」

 

必死に、高速で動くその手から逃れようと、拓美の手首を掴みながら…

 

「あ…ゴメン…」

 

 

 

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