リセット~藤代拓美の受難~   作:証明

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26話

タッタッタッタッ…

 

「中村の能力で、大和田の妹が何処にいるかは視えないのか?」

 

あの通話以降、学校から帰って来ない大和田拓海の妹を探しに行く為、藤代拓美と中村星司は急いで駐輪場へと向かっていた。

 

「俺が視えるのは、あくまで未来に起こる出来事を視る事だからね…現時点でその子が何処にいるかは分からないな…」

 

「そうか…」

 

中村星司のいう通り、今回のように誰かを探すといった場合には、透視能力や千里眼といった遠くのものを見通す力が最適である為、その話を聞いた拓美は分かりやすく落ち込んだ。

 

「でもね、藤代くん?」

 

隣で、見るからに意気消沈としている藤代拓美を見かねて中村星司が声をかける。

 

「未来に起こり得る出来事なら視えるんだよ? つまり、俺と藤代くんがその子を見つけ出すという未来ならば視る事が出来るんだ」

 

「そうなのか!?」

 

これまた分かりやすく顔を上げた拓美を見て、中村星司は少し吹き出してしまう。

 

「ハハッ、まあ確定事項じゃない未来だから、少し視るのは苦労するけどね?」

 

例えば先日の事件であったように、後ろからきた攻撃を避けるとか、誰かがもうすぐ自分の元にやって来るとかのような確実に起こる未来ならば視るのは容易く、今回のように未来に起こり得るかも知れない事柄を予知するのは、中村星司にとっても非常に集中力を要する事だった。

 

           ●

 

「じゃあ、少し離れて貰って良いかな?」

 

駐輪場へと到着した中村星司は、彼女が近くにいれば未来が視えづらい為、藤代拓美へとそう伝えた。

 

「…分かった」

 

状況を理解している為、素直に自分から離れた藤代拓美を尻目に、中村星司は目を閉じて集中する。

 

そして、自身から広がる複数の未来の中から、大和田拓美の妹…沙弥を見つけ出す未来を探し出すのだった。

 

「これじゃない…何処だ? …これか!?」

 

その中から一つ、自分と藤代拓美が小さい女の子に駆け寄る姿が視えた。

 

「…セミロングで、少し癖のある茶色い髪の女の子が、大和田くんの妹かい?」

 

「ああ…」

 

沙弥の特徴を話す中村星司に、拓美は頷く。

前世の自分に良く似たくせっ毛で…母親の遺伝子を受け継いだその髪色から沙弥を連想してそう答える。

 

「…場所は、小学校の南側の方にある廃病院だね…椅子に縛り付けられて部屋の真ん中にいるよ…そこに俺達が駆け寄ってく姿も視える…」

 

「なっ…誘拐か? そこに犯人もいるのか?」

 

「恐らくは…、近くにはいないようだけど…残念ながら今の俺では視野が狭すぎて何処にいるかまでは見えないな…」

 

やはり、拓美が近くにいる影響からか、中村星司の能力は弱まっているらしく…現状、彼に言えるのはそこまでといった所だった。

 

(沙弥が誘拐? …過去にそんな事は無かったぞ?)

 

拓美は、前世の記憶では沙弥が誘拐されたなんて事例はなく、ならば何故そんな事になったのかを考えていた。

 

「一体、なんで…」

 

そうやって、うつむく拓美に向かって中村星司が溜め息をつきながら声をかける。

 

「はぁ…それじゃあ、行くかい? 藤代くん?」

 

「え?」

 

気付けば自身の自転車にまたがり、その荷台をポンポンと叩く中村星司に、拓美はビックリして声を上げた。

 

「え?じゃなくて…君さ自転車無いんだろ? …それに、そうやって考えてても時間の無駄だよ? 何せ、未来は刻一刻と変わって行くんだから」

 

中村星司の言うことは最もであり…もし本当に未来が変わっていってしまうなら、うつむいている暇は無いと頷いて納得した拓美は、歩を進めその荷台に横座りで乗るのだった。

 

「そうだな…わかった。 悪いが連れてってくれ」

 

「りょーかい。 しっかり掴まっててね?」

 

「はあ? 掴まったら未来が見えなくなってしまうんじゃないのか?」

 

「いーから、いーから、行き先はもう分かってるんだから♪」

 

そう言って、拓美の言うことも気にせず、自身に掴まるように言った中村星司の顔は、それはそれは凄くご満悦といった表情をしていた。

 

           ●

 

ガッシャッ ガッシャッ

 

「くっそ、何処だ? 何処にいるんだ沙弥?」

 

あれから、なおも妹の行きそうな所をくまなく探している大和田拓海は、必死に自転車のペダルを漕いでいた。

 

「母さんも心配して待ってるってのに…!」

 

大和田拓海に連絡を寄越した母親は、あのあと父親にも連絡を入れたものの、何処かで遊んでいるだけの可能性もあるということから、警察には連絡をせずに、今のところは自宅で、そのはやる気持ちを抑えて帰りを待っているという状態だった。

 

「何処かで、寄り道してるだけならいいんだけどっ…」

 

その可能性も無くはないのだが、普段から聞き分けの良かった妹は、親を心配させまいと真っ直ぐ帰ってくることが殆どだった為…どうしようもない不安感が大和田拓海を襲うのだった。

 

…プルルルルル…

 

すると突如として、自身の胸ポケットに入っていた携帯電話が鳴り響く。

 

ピッ

 

「もしもし、藤代か? 何か分かったのか?」

 

画面に出ていた名前から、何か手掛かりでも見つかったのかと大和田拓海は急いで電話に出る。

 

『ああ、自分だ。 実はさっき中村に未来を視てもらってな、それで沙弥ちゃんが今何処にいるか分かったぞ。』

 

「中村に?」

 

何故、中村星司の名前がここで出てくるのか、大和田拓海は一瞬悩んだが…それどころではないと会話を戻す。

 

「っそれで? 沙弥は何処にいるって?」

 

以前、藤代拓美から彼の能力を聴いていた大和田拓海は、その信憑性を信じて居場所を問い質した。

 

『沙弥ちゃんが通ってる学校の近くに、もうとっくの昔に使われていない、建物だけが残っている藤川病院ってのがあるだろう?』

 

「ああ、それならばここから急いで行けば5分くらいだ、それで?」

 

現在、小学校の周辺を再度探しに来ていた大和田拓海は、そう遠く離れていない場所を聞いてそう答えた。

 

『そこの病院の、2階にある診察室の真ん中で…沙弥ちゃんは椅子に縛り付けられてるらしい…』

 

「それって…」

 

中村星司の頭に、想像するに最も最悪であった事態が浮かぶ。

 

『ああ…恐らく誘拐だろう。…だが犯人は何処にいるかは、中村にも分からないようだ』

 

「誘拐…そんな…」 

 

大和田拓海の頬を冷や汗が伝う…その脳裏には、さらに最悪な事態が浮かんでいた。

 

           ●

 

「大和田? 聴いてるか大和田?」

 

電話越しから先程まで聴こえていた大和田拓海の声が、急に聴こえなくなった為、拓美は焦って話しかける。

 

『あ、ああ…大丈夫だ…』

 

しかし、その声は明らかに力がなくて、かなり動揺している様子が感じられた。

 

「いいか大和田、犯人は何処にいるか分からないんだ…くれぐれも焦って一人で突っ込んだりするなよ?」

 

拓美は、仮に自分が大和田拓海の立場だったら必ず先に突っ込んでしまうと思って、敢えて注意を促した。

 

『…分かってる。 大丈夫だ、ありがとな藤代。』

 

プツッ

 

ツーツーツーツー…

 

しかしそれを最後に、大和田拓海からの通話は切られてしまったのだった。

 

「あいつ…中村、急いでくれ。 あいつは絶対一人で中に入る気だ!」

 

中村星司の背中を更に力強く掴んで、拓美はお願いする。

 

「分かった…でも、彼なら大丈夫だと思うけどね? 俺が心配なのはむしろ…」

 

「うわっ!?」

 

そこまで言って、中村星司はその自慢の脚力をもって漕ぐ力を倍増させる。

 

「…君の方なんだよ、藤代くん」

 

しかし、その声は残念ながら藤代拓美の耳に届く事は無かったのだった…。

 

 

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