「…ここは?」
暗闇の中から粒子となって消えた拓海は、目を開けた先に以前として広がる闇から、あの転生は失敗したのかと一瞬不安になった。
しかし、すぐさま自身から発っせられる女性特有の高い声に、あたりから聞こえる木の葉の擦れる音、または鳥の泣き声や先程までは感じられなかった風を感じ、その不安は払拭されることとなった。
「痛っ!」
ほっと一息つくのもつかの間、自身の左側の額から激痛が走る。
慌てて、手をあてて様子を探ればぬるりとした生暖かい感触がして、それを目で確認すれば、その手は真っ赤に染まっていた。
(死ぬ直前って、直前過ぎんだろ…あの女神)
状況からして、犯人は藤代拓美が死んだと思い込み逃走した後だと拓海は推測した。
もしやと思い、必死に身体の様子を探ってみたが、どうやら性的な乱暴を受けた様子はなく、最悪の事態は避けたようだと胸を撫で下ろした。
「いつつ…」
ゆっくりと身体を起こせば、身体中に痛みが走る。
恐らく、精一杯反抗したのだろう…
「あ、これは…」
そして、自分が握っているスマホの存在に気付いた、画面を見れば『お父さん』と銘打った文字が浮かんでいる。
最後に父親に電話で助けを呼ぼうとしたのだろう。
または、最後にお礼を言おうとしたのか…そのどちらでも良いか、と思い拓海は通話ボタンを押した。
…トゥルル_ ピッ
かけて、一秒にもみたない早さで父親が出た。
「もしも…」
「拓美か!? 今何処だ? 何かあったのか?…心配したんだぞ!!」
よほど心配していたらしい藤代拓美の父親は、拓海が話すよりも先に矢継ぎ早にそうまくしたてて来た。
「ゴメン…場所はちょっと分からない…です。でも無事だから…」
「分からない? どういう事だ?」
「いや、ちょっと山の中にさらわれまして…」
前世からのコミュニケーションの下手さから馬鹿正直に答えてしまった拓海に対して、「はあ!?」と電話口から大きな声が響いた。
「さらわれたって…お前…無事か?無事なんだな!?」
「…いや、無事ではないです。 額を殴られたみたいで怪我してます。 んで、血が結構出てて、身体中痛くて歩くのもちょっと無理っぽいので…その…スマホのGPS 機能があれば、それを頼りに迎えに来て欲しいです。」
やはりコミュニケーション能力の低さからか、下手くそな敬語を使いつつ必死に状況をつたえる。
「血ってお前…久々に話したかと思えば…分かった! 待ってろ!!」
どうやら、GPS 機能がついているようで一安心した拓海である。
おそらく、普段からの娘とあまり会話もないことから、何かあった時の為にとつけたのだろう。
「あ、待って…父さん!」
一刻でも早く娘の安否を確認したい父親であるが、これだけは伝えねばと思い、拓海は必死に彼女の父親を呼び止めた。
「…なんだ?」
「その……ありがとう。」
「っ~~…すぐに行くからな!」
電話ごしでも分かる程の照れが伝わり、それを受けた拓海自身も前世で言ったことのない言葉であったからか、頬が熱くなる。
「はあー…」
ドサッ
通話が切られたスマホを手に、無事に帰れることの安心感と、依然としておさまる様子の無い身体中の痛みから拓美はその場に倒れこんだ。
額から流れ続ける血も相まって、全身のだるさは酷くなる一方である。
来ている服を見れば、所々ドロや自身の血で汚れているが、それは彼女があの時着ていたセーラー服で、手元のスマホには2009年といった年号が写し出されていた。
「14年も前かよ…畜生」
そう言って、拓海…いや、藤代拓美は再びその場で気を失うのであった。