リセット~藤代拓美の受難~   作:証明

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7話

藤代拓美が山の中で見つかってから、約2週間の月日が流れた。

 

彼女が襲われたのは、中学の卒業式の日で、どうやら無事に卒業式を終え自宅に帰る途中に、事件に巻き込まれ襲われたらしかった。

 

(だから、制服のままだったんだな)

 

現在、藤代拓美である拓海は勉強の為、自室の机に座りながらそんな事を考えていた。

 

事件から、2週間経った今も彼女を襲った犯人は未だ捕まっておらず、心配した両親から一人での外出を禁じられた拓美は、それならばと大和田拓海であった頃から、やる気も無くほったらかしであった勉学に勤しむことにしたのであった。

 

「駄目だ…全然覚えてねえ…」

 

しかしそれでも、かつて中学時代の頃は勉強にある程度ついていけてた過去の栄光?による自信から、気楽に復習するつもりで教科書を開いたのだが、その手は現在止まってしまっていた。

 

「ちょうど今日が入学式か…」

 

机上のカレンダーを見れば、そこには4月7日の所に赤丸が付いており、下には小さく女子特有の丸文字で入学式と書かれていた。

 

「にしても、まさか同じ高校とはなあー」

 

椅子に座った状態で、仰け反るように背伸びをした拓美の目に入ってきたのは、藤代拓美が着る予定だった高校の制服だった。

几帳面にハンガーにかけられた状態で壁にぶらさがっていて、その胸元には青天高校と刺繍されており、それは奇しくも生前、大和田拓海だった頃に通っていた高校と同じ名前であった。

 

「この世界にも、俺っているんだろうか…?」

 

藤代拓美になってから、現在のところ病院と自宅しか行き来できていない拓美はそう呟く。

大和田拓海であった頃に住んでいた場所とは近い為に、自信の存在の確認や生前の家族に会いに行きたい所ではあるが、そこは我慢せざるを得ないといった状況になっていた。

 

因みに高校の入学式であるが、少なくとも退院後1ヶ月は安静にするように言われており、それ故、出席することは出来ない運びとなっている。

 

「あー、もどかしいー!」

 

そう言って、体制を戻した拓美は再び勉強を再開するのであった。

 

           ●●

 

「いよいよ、明日から学校ね」

 

「はい。」

 

退院してから、あっという間に1ヶ月が経った。

この1ヶ月、今まで出来なかった事を頑張ろうと必死に勉強してきた拓海は、この身体の脳の吸収の良さに驚き、それに気を良くして…言うなれば調子に乗って勉強に取り組んだ結果、今では中学の勉強ならほぼ完璧に近い程になっており、更には送られてきた高校の教科書にも手をつけるといった状態であった。

 

「しかし、拓美があんなに勉強が好きだったとは、父さんビックリしたぞ?」

 

家族で夕飯を取っている中、父親である藤代広大(36)からそう声をかけられる。

因みに母親は現在34歳で、二人共に若くして出来ちゃった結婚したらしく、生前の自分とほぼ変わらない年齢の彼らが自身の両親という事実に、拓海はなんともいえない自虐めいた感情を抱いていた。

 

「いえ、父さん。 好きではないですよ勉強は。」

 

「そうなのか?」

 

「ねえ、拓美? いい加減その敬語やめない? 何か距離を感じて、お母さん寂しいわ…」

 

「いや、自分はその…決して距離をとってる訳ではなくて、むしろ距離を縮めようと思ってるのですが…」

 

「ほら、その自分ってのも!」

 

母親から指摘された通り、藤代拓美になってから一人称やら言葉遣いやら色々試行錯誤してきた拓海であったが、前世は男だったことも踏まえ、どうしても『わたし』と言うことが出来ず、人前での一人称は『自分』に落ち着き、話す言葉は実際は藤代拓美では無いといった負い目からどうしても敬語になってしまい、今やそれがすっかりと定着してしまっていた。

 

「えと…その…記憶がほとんど無いってのもありますし、あとは、そのいわゆる中二病的な背伸びした言動と捉えて頂ければ…」

 

「…記憶がほとんど無いってのは分かるけど…その中二病?っていうのは一体なんなの? お母さん、訳わかんないんだけど!」

 

拓美の目の前で、頬を膨らませプンプンと年甲斐もなく怒る母親の様子に拓美は「ははは…」と乾いた笑いを返すほか無かった。

 

「まあまあ、母さん良いじゃないか?きっと拓美だって記憶が戻らなくてまだ混乱しているんだ。 …それに、あんな事件があってまだ1ヶ月弱じゃないか……」

 

「…ごめんなさい、あなた、拓美。…でも、やっぱり少し寂しくて…」

 

そこには、俯いて項垂れる母親を優しくなだめる父親の姿があった。

 

「話を戻すが…じゃあ、何でそんなに好きでもない勉強を頑張っているんだ?」

 

「それは…」

 

母親をなだめ終わった父親から、再度された質問に拓海はなんと答えたらいいか悩む。

生前での後悔からとも言うわけにはいかず…また、嘘が苦手な拓海にとってはなんとも答えづらい話だった。

 

「やり直したくて…」

 

「やり直す?」

 

やっとの思いで切り出した拓美に、今度は母親から質問がとぶ。

 

「はい。 自分に関しての記憶は少しならあるんです。 勉強をあまり頑張って来なかった自分…父さん母さんとほとんどコミュニケーションをとって来なかった自分。勝手に殻に閉じ籠って周りを遠ざけてしまった自分。 …だから、この言葉遣いもそんな自分を変えたくて…!」

 

ちょっとした嘘が混じってはいるが、それは、ほぼほぼ本音であった。

前世の自分と同じ高校に入ってることや、勉強したものがスルスルと頭に入ってくることから、きっと藤代拓美も勉強をあまり頑張って来なかったのだろうと拓海は考えていた。

 

全く、何から何まで似た者同士だな…と。

 

「そういう事だったのか…わかった、そういう事なら父さんは応援するぞ。 言葉遣いも大丈夫だ、何ら気にする必要はない。母さんも、大丈夫か? 納得できたか?」

 

上手く納得してくれた父親の言葉に呼応するように、母親である陽子は顔をあげる。

 

「ええ…そうね。 ごめんなさい拓美…お母さんやっとこうして話せるようになったのが嬉しくて…少し、我が儘を言ってしまったわ…本当にごめんなさい。」

 

父親からの叱咤激励と、母親からの謝罪を受け取った拓美は罪悪感はあるが、それでも前を向いて答える。

 

「はい、ありがとうございます。」

 

と、謝罪ではなく感謝の意を表して…。

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