「えー、今日は入学直前に負った怪我の為に、1ヶ月遅れで皆の仲間になる事になった人物を紹介する。」
高校入学から1ヶ月が経ち、クラス内にそれぞれのグループが確立されてきた頃、青天高校1ーBの教室にそういった担任の声が響き渡った。
クラス内が、どんな生徒が来るんだろうと色めきだつ。
しかしそんな中、その騒ぎに一切関わらない、未だどのグループにも属してない男子生徒が1人いた。
見た目は、身長はおおよそ170前半で、髪は天然でパーマがかかっており、黒い縁取のメガネをかけた男子生徒は、窓際の席で外の方を向き1人蚊帳の外にいた。
(仲間ねえ…別に俺にはそんなの必要ないしな)
窓際の席の一番後ろで、未だ空席である隣の机を気にする様子もなく、件の男子生徒は、そんな事はどーでも良いといった感じでボンヤリと、誰もいない校庭を眺めていた。
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「よし、入って良いぞ。」
「はい、失礼します。」
担任の呼び掛けにより、教室に入ってきた女子生徒を見て
クラス内の生徒達は男子、女子関係なくざわめきを起こした。
腰の辺りまであるストレートな黒髪に、160以上の長身で身体の線も細く、目付きはやや鋭いもののそれがかえって彼女の存在感を引き立てている。
「ひょー、可愛いじゃん!」
「わぁ…モデルさんみたい」
等といった声があちこちで起こり、そのどれもが賛辞の声であり、彼女を卑下する声は1つもあがらなかった。
(これまた…俺とは別次元の人間だな…)
と、先程の窓際の男子生徒は、あまりにも想像しいクラス内のざわめきから女子生徒を見たのだが、偏った彼の勝手な先入観から自分とは別ベクトルの人間であると決めつけ、既にその生徒から距離を取る事を考え始めていた。
「はい、静かに!」
そう言って、パンパンと手を叩いて場を落ち着かせた男子教諭は、奇しくも騒ぎの原因となってしまった女子生徒に謝罪を申し出た。
「すまんなー騒がしいクラスで」
「いえ、お気になさらず」
「そー言って貰えると助かるよ。」
と、どこか大人びた女子生徒の対応に、あからさまにホッとした男子教諭は続いて自己紹介をお願いすることにした。
「で、早速で悪いんだが、皆に自己紹介を頼めるか?」
「はい。 入学前にちょっとした事故に会いまして、それで皆さんより遅れて入学する事になりました、藤代拓美です。」
どうぞ宜しく…と、深々と頭を下げた拓美の姿にクラス内は、今度は誰もが感嘆の意を表し、先程とはうって変わり静けさに包まれたのだった。
しかしそんな中、渦中の人物である拓美は顔をあげるや否や、ビシリと身体が硬直し、その視線はある一点に集中したまま動かなくなってしまった。
(なんだ…? あの女…さっきからこっちガン見して?)
少し怖いんだが…と、窓際の席のいわゆる陰キャの男子生徒は、自身へと送られる女子からの熱視線に歓喜よりも、疑いから若干の恐怖心を覚えていた。
「…えーと、藤代? 大丈夫か?」
「えっ!? あ、はい。 ダイジョウブです。」
未だ、硬直したままである拓美に違和感を覚え、心配の声をかけた担任は、続いて彼女の座る席を紹介する。
「なら良いんだが…、まあまだ病み上がりという事もあるし、あまり無理はするなよ。」
「あ、ありがとうございます。」
「うん。 そんな訳で藤代、君が座る席なんだが…、あの窓際の一番後ろにいる大和田拓海の隣になるんだが…視力の方は大丈夫か?」
その問いに対しまたも硬直した拓美であったが、なんとかギギキ…という効果音と共に担任の方に向き直り、口の端をひくつかせた笑顔でこう答える。
「ダ…、ダイジョウブデス。」
…と。
…しかし、その言葉とは裏腹に心の中では…
(あ、あ、あれって、俺じゃねえかあ―――!!? しかも、よりによって隣かよ―――!!!)
と、前世の自分と同じクラスで、しかも隣の席という事実にもはや阿鼻叫喚といった様子であり…その心境は嵐のように荒れ狂っていた…。