前回はアンケートのご協力ありがとうございます。ウルトの事が好きな人がやや上の結果でしたね。確かに真っすぐな所などは好感を持てますが、口調や態度が私はどうにも好きになれないです……
今回はアニメ1話分飛ばして、ロイの応用テスト編となっております
ナッペ山
それはパルデア地方最高峰を誇る雪山だ。チャンプルタウンを後にしたジン達は現在、次にロイの応用テストが行われるフリッジタウンを目指し、この雪山を登っている。
「寒い寒い寒い寒い!」
「ドット……分かったから、少しは落ち着け」
一応、登山前にチャンプルタウンで防寒具を一通り揃えており、念入りに寒さ対策はしてあったのだが、それでもこの寒さは堪える様だ。
(まぁ、頑張ってる方か……)
昨日の朝方に登山を開始し、昨晩は山小屋で一泊した。割とハードな道のりだったが、今も文句を言いながらもちゃんと足を動かしている。以前までのドットでは考えられない進歩だ。
「ふむ……もうそろそろ山の中腹だな」
ジンはスマホロトムを取り出し、現在地を確認する。昨日は雪を初めて見るロイ達が遊び過ぎて、少々、時間をロスしたが、悪くないタイムでここまで来る事が出来ていた。
「えっ?もうそんなに登ったの?」
「あぁ、もうすぐ町が見えて来る筈だぞ」
「本当!?ドット!もうひと踏ん張りだよっ!」
「わぁっ!?疲れてるんだからそんなに引っ張るなよ!?」
次に応用テストを受けるロイはテンションが上がったのか、疲れ気味で足取りが重くなっていたドットの手を取ると凄い勢いで雪山を登っていく。もっとも、無理矢理に連れ出されたドットはかなり迷惑そうな顔つきであった。
「ロイ、張り切ってるね」
「まぁ、次はロイの番だからな。やる気がないよりはいいさ。それよりも、ロイが終わったら次はリコの番だぞ。準備は大丈夫か?」
「うん!作戦も考えたし、カルボウ達もやる気十分だから!」
リコの挑むナッペ山ジムは氷タイプのジムだ。その為、氷タイプに有利なカルボウをバトルに出す事は既に決定したらしい。一番の新入りでレベルも低く不安もあるが、相性最悪のニャローテをメインに作戦を立てるよりもいいと判断した様だ。
「あぁ、そうだ。ここから先、特にナッペ山ジム付近は、もっと寒くなるから覚悟した方がいいぞ」
「それ……ドットに言ってあげた?」
「それはやめておこう。今、教えても愚痴が増えそうだ」
「あははっ……」
リコもその姿が容易に想像できてしまったらしい。フリッジタウンで改めて防寒対策はするが、その時までは黙っておこうと2人は無言で誓い合う。
「俺もマフラー巻いておくか……」
「えっ?ジン、マフラー持ってたの?」
因みにリコは青のジャンパーにフライトキャップ、マフラーなどフル装備だったが、ジンは黒のロングダウンコートやオモダカから貰った手袋のみで、マフラーなどは巻いていない。暖かい気候のホウエン出身ではあるが、イザベ島での雪山や浅瀬の洞穴の地下などでの修行経験がある為、寒さには割と強い様だ。
「あぁ、一応、準備はしてる」
ジンはそう言うとショルダーバッグを開き、中から赤いマフラーを取り出し首に巻き始める。普段とは明らかに違う色合いのマフラーをリコは興味深そうに眺めていたのだが、マフラーを巻き終えるとその表情は少しだけ曇り始めた。
「ジン、それ……ひょっとして、モリーに貰ったの?」
「ん?そうだが、よく分かったな?」
「うん。そのマフラーを見ればね……」
ジンの巻いたマフラーの先端にはラッキーの顔がプリントされていた。この模様を好むのはジンの周辺ではモリーしか考えられない。
「ハッコウシティで再会した時に今後、ナッペ山に登るかもって話したんだよ。そしたら、町を離れる前に『持って行きな!』って言われて渡されたんだ。柄が少々、俺の趣味じゃなかったが……ん。悪くないな」
「そ、そうなんだ……」
自分やドットにではなく、ジンにだけ自分が愛用していたであろうマフラーを渡した。それが何を意味するのかリコには大凡の察しがついてしまった。
(モリー……ひょっとして……いや、まさか、ね……)
アンやドットはまだいい。彼女達がジンの事を好きになる場面は今までに何度かあり、リコもその場を目撃していた。だが、モリーがジンを好きになる場面などリコの知る限り一度もなかった筈である。
「2人共!何してるの?町が見えて来たよ~~!」
「おっと……ゆっくりし過ぎたな。リコ、行くぞ!」
「…………」
釈然としない気持ちではあった。しかし、どうせ自分の知らない所でモリーの事を助け好意を抱かせたり、彼女の優しさや仕事ぶりを評価し褒めちぎって無意識に口説いたに違いないと推測する。それがリコが愛してしまったジンという男性の特徴なのだから。
「リコ?」
「……今、行く」
一番悪いのはジンである筈なのに本人は無意識である事が尚、性質が悪い。その為、リコは少々、不機嫌になり頬を膨らませるが惚れた弱みとでも言えばいいのか、ジンの事を責め立てる事も出来なかった。
「2人共!見て!」
ロイの指さした先、そこには一面に広がる銀世界の中に、多くの欧州風の建物が織りなす町が存在していた。よく見ると、町の至る所に蝋燭が灯されており、とても明るく、それでいて神秘的なオーラを感じさせる。
(不思議な感じだ。おくりび山に少しだけ似てるな……)
おくりび山はホウエン地方に存在する慰霊スポットである。ジンは嘗てその島に私用で立ち寄った事があるのだが、この町に足を踏み入れた瞬間、あの島で過ごした日々が自然と脳裏に思い浮かんでいた。その横顔は何処か哀愁を感じさせたが、それに気づいた者は誰もいなかった。
「ここがフリッジタウン……」
「蝋燭がたくさんあって綺麗!」
「それは魂を見送る為に灯しているのよ」
「ここは雪と鎮魂の町だからね」
リコが町にある蝋燭に見惚れていると、ゴースとカゲボウズを連れた老夫婦が現れ、蝋燭とこの町の事を説明し始める。
「鎮魂……それって魂を鎮めるって意味ですよね?」
「そう。この辺りの山には言い伝えがあるのよ。役目を終えた魂が集まって空へ帰る場所だってね」
「魂が無事に帰れる様、町では昔から様々な祭りが行われて来たんだ」
(なるほど……そこは違うのか)
雰囲気こそおくりび山と似ていたが、慰霊の在り方については地方によって異なる風習である様だ。このフリッジタウンでは祭りなどで明るく魂を送り出す様式だが、それとは逆におくりび山は過去・現在・未来に渡ってポケモンの魂を静かに眠らせる場所だ。どちらが正しいという話ではないが、死者の魂に対する考え方についても地方や文化によって違いがあるとジンは悟る。
「祭り?」
「えぇ、今では広場でライブまで開かれるようになってね」
「こんな静かな町でライブがあるのか?」
「なんか楽しそうだね!」
「今日も確か、お昼と夜、2回ライブがあったんじゃないかしら?興味があったら行ってみたらどう?」
「ありがとうございます。時間に余裕があったら是非、行かせて頂きますね。ついでにお尋ねしたいのですが、ジムの場所を教えてはいただけないでしょうか?」
「ん?あぁ、ジムの場所だったら……」
老夫婦にジムの場所を聞いたジン達は、お礼を伝えた後、その場を後にしフリッジジムへと向かって再び歩き始める。
「あっと!あそこだよ!」
歩き始めてから数分、町はずれの雪山に隣接した場所、ライブ用のステージの直ぐ近くにフリッジジムは存在した。ロイを筆頭に4人は早速、ジムの中へと入り受付を済ませようとしたのだが……
「えっ?ライムさん、いないんですか?」
「さっき出て行ってしまいまして……恐らく、広場のステージの方にいると思いますので探してみていただけますか?」
受付の人から、そう言われてしまったので4人は仕方なくジムを後にし、広場へと向かって歩き始める。しかし、そこには作業員しかおらず肝心のライムの姿は見当たらなかった。
「ライムさんもライブ見るのかな?」
「どんなライブなんだろうね?」
「魂を鎮めるライブか。あまり想像つかないな……っ!全員、止まってくれ」
「どうしたの?」
「あれを見ろ」
先頭を歩いていたジンが右腕を広げ、リコ達の進行を止めると前方の雪へと視線を送った。そこには、雪の中に1本の蝋燭が立っており、紫色の火を灯している。
「蝋燭?」
「ただの蝋燭じゃないと思うぞ……」
ジンはポケットに手を入れ、ポロックケースを取り出すと中からピンク色のポロックを幾つか出し、蝋燭へと目掛けて軽く放り投げた。すると雪の周囲が突如、大きく揺れ始めそこから頭に蝋燭を生やした犬の様なポケモンが姿を現す。
「バウッ!」
更に示し合わせたかの様に、周囲からも次々と同じポケモンが雪の中から姿を現し、ジンの投げたポロック目掛けて走り始める。
「ポケモン!?」
「可愛いな!」
「見た目はな……だけど、意外と危険なんだよ。こいつら」
嘗てフリードから講義を受けた際に、出会ったら気を付けなくてはいけないポケモンの1体にこのポケモンは含まれていた。
「どういう事?」
「こいつらの名前はボチ、ゴーストタイプのポケモンで近くにいる生物の生気を吸い取る能力があるんだ」
「生気!?それってつまり……」
「長期間、こいつらに群がられるのは危険だって事だ。ポロックに夢中になってる間に距離を取るぞ」
「う、うん!」
この場に留まればいずれはボチに群がられる可能性が高い。そう判断したジン達は一旦、その場を離れ近くにあったカフェへと入り、ライブが始まるまで時間を潰す事にした。
「ホットモーモーミルク4つお持ち致しました」
カフェに入りこそしたが、ロイはジム戦を控えている身だ。バトル前にあまり食事を摂りすぎるのは良くないと考え、飲み物だけを頼むとアチゲータ・タイカイデン・ワルビルの3体を出しジム戦の最終チェックを行い始める。
「ロイ、もう戦うポケモンは決めてるのか?」
「うん!ライムさんの出すポケモンによっては、変えるかもしれないけど一応、決まってるよ」
ロイは、ジムリーダーのタイプエキスパートなど最低限の情報収集はするが、ドットの様に過去の対戦データを調べたり二重三重の作戦を立てたりはしない。より正確に言うのであれば、出来ないが正しい。バトル中の瞬間的な発想力であれば負けてはいないし、直感力では上と言えるのだが、性格的な意味合いでバトルに対するスタンスが違い過ぎるとジンは見解していた。
「まぁ、ライムさんがゴーストタイプの使い手だって事は分かってるんだ。後は自分の思うがままに戦ってみろ……ん?リコ、テラパゴスはどうした?」
「えっ?……あれ!?いない!?」
ロイのポケモン達に集中していた為、気付かなかったが、よく見るとリコの隣で木の実を食べていた筈のテラパゴスの姿がいつの間にかいなくなっていた。慌てて周囲を探すと店の前方にいた2体のフワンテがテラパゴスの入ったバッグの持ち手を掴み、そのまま空へと飛んで行ってしまう。
「ま、待って!?」
「失礼!代金はここに置いて行きます!お釣りは結構」
ジン達はテーブルに代金を置くと、店を飛び出しテラパゴスを追いかける。フワンテ達はジン達の追跡に気付いたのが、徐々に高度を上げ始めた。このままでは、時期に視界に捉える事さえ難しくなるだろう。
「ニャローテ!お願い!」
「ニャァッ!」
ニャローテは蔦を伸ばし、テラパゴスを確保しようとするが、僅かに長さが足りなかった様でフワンテ達は更にスピードを上げて離れていく。
「このままじゃ逃げられちゃう!?」
「任せろ!行け!ボーマンダ!」
ジンはポケットからモンスターボールを取り出し、ボーマンダを出した。ボールから出た瞬間に状況を察したボーマンダは両翼を広げ、猛スピードで接近しフワンテ達の前へと出て威嚇する。
「ボダァァァァッ!」
「「フワァ!?」」
ボーマンダの恐ろしすぎる威嚇を前にし、フワンテ達は恐怖の余り悲鳴を上げてテラパゴスから手を放して逃げ出してしまう。
「パ~ゴ!?」
「ボウッ!」
フワンテから解放されたテラパゴスは体をばたつかせながら、地面へと落下していく。しかし、それを見越していたボーマンダは地面に向かって猛スピードで急降下し、地面に落ちる前にその背中でテラパゴスを受け止める事に成功する。
「よかった~……ありがとう!ボーマンダ!」
「あぁ、助かったよ」
「ボォッ!」
テラパゴスを背中から降ろすとボーマンダに感謝の言葉を伝え、モンスターボールへと回収する。するとその瞬間、背後からぱちぱちと拍手する音が聞こえ、振り返るとそこにはジン達の知り合いの女性がこちらを見ていた。
「流石はジンのポケモンだね~凄いスピードだったよ!」
「ネモ!?」
「えへへっ!皆、元気にしてた?」
「なんとかな。そっちも息災で何よりだ……でも、どうしてここに?」
「ちょっと用事があってね。皆こそ、どうしたの?」
オレンジアカデミー以来、久しぶりの再会をしたネモ。ジン達は広場にあるステージに向かいながら、ロイが応用テストを受ける為にこの町に来た事を伝える。
「そっか。ロイの応用テストの相手はライムさんなんだ」
「うん。でも、今はライブを見に行ったみたいで探してるんだ」
「えっ?違う違う。ライムさんはライブに出る側の人だよ。あの人はジムリーダー兼超有名なラッパーだからね」
「ラッパーか……」
その界隈では、恐らくネモの言う通りの有名人なのだろう。しかし、ジンとしては全く知らない分野だ。有名と言われても上手くイメージする事は出来なかった。
「ネモもライブを見に来たの?」
「うん。ライムさんのライブではお客さんが飛び入りで参加するコーナーがあってね、熱いバトルが見られたりするの。私の目的は主にそっちかな?」
「なるほど……ネモらしいな」
ネモが先程、言っていた用事とはどうやら、ライブでのバトルを観戦、もしくは自身が参加者となりバトルする事にある様だ。
「ん?人が増えてるな……」
「ライムさんもどこかにいるかな?」
「見当たらないね……」
話し込んでいる内にステージ周辺に到着したのだが、先程よりもステージを囲む人が増えていた。ライブの開始時間が近づいている様でステージの中央では機材のチェックなどが着々と進行している。しかし、肝心のライムの姿は未だにない様だ。
「あのーーーー!ライムさんいませんかーーーー!応用テストのバトル!お願いします!」
我慢できなくなったのか、ロイは大声でライムを呼び出すが、返答は返ってこない。どうやら、本当にまだこの周囲にはいないらしい。
「いないのかな?」
「そうらしいな。ライブが始まるまで待つしかないか?」
「じゃあさ!ライムさんが来るまでの間、ジン、ロイ、私とバトルしない?」
「またそれか……まぁ、暇だし少しだけならいいぞ」
「えっ……本当に!?」
「あぁ、フルバトルはお預けだが、使用ポケモン1体なら……」
ジンとしてもいい加減、申し込まれる度にバトルを断るのも悪い気がしていた所だ。ここでバトルするれば、応用テスト後のバトル大会までは大人しくなるだろうと考え、バトルを受けようとする。
「よう!そこのでっかい声の兄ちゃん!バトルしたいのか?俺は今日の進行を負かされてるMCカマーだ。今からリハーサルなんだが、ステージに人がいた方がやり易いんだ。そこで、どうだい?俺とバトルしてみないか?」
「面白そう!やりまーす!」
しかし、今まさにネモとバトルしようと思った矢先、如何にもラッパーという格好をしたMCハマーに指名されロイはリハーサルも兼ねてステージでのバトルに移動してしまった。
「えっと……」
「……すまん。リハーサルとは言え、ロイ達のコンディションを見ておきたいんだ。バトルはまた今度で頼む」
「そ、そんな~……」
タイミングが悪かったこ事もあり、ジンとネモのバトルはまた中止になってしまう。ネモの落胆ぶりは凄まじく、見ていて可哀想に感じる程だ。
「……ロイの応用テストが終わった後でよければ相手になろうか?」
「それでいい!約束だからね!」
「分かった分かった。約束だ」
ネモとバトルの約束をしている間にロイ達の準備は完了した様だ。ステージの左右にそれぞれ待機するとモンスターボールを構え何時でもバトルが出来る態勢に入っている。
「協力ありがとうな!リハだけど会場爆上げで盛り上げていこうぜ!」
「はい!」
MCカマーの合図と共にステージ上部にあるライトがつき始める。カラフルな光が灯り、ステージを照らしていく。
「ぶちかませ!ヤミラミ!」
「お願い!アチゲータ!」
ロイはアチゲータ、MCカマーは、くらやみポケモンのヤミラミでのバトルだ。相性は可もなく不可もない。ゴーストタイプ専門のジムを前に丁度いい前哨戦となるだろう。
「ヤミラミ!『シャドークロー』!」
「ヤミィ!」
「『ニトロチャージ』!」
「アチゲッ!」
先手必勝とばかりにヤミラミは両腕を黒く染め上げて引き裂こうと接近する。しかし、アチゲータは炎を体に纏い、猛スピードでその場を駆け回避するとヤミラミの側面を捉えるとそのまま突撃し、大ダメージを与える事に成功する。
「まだまだ!ヤミラミ!『パワージェム』!」
「躱すんだ!」
ヤミラミは周囲に計4つの石を出現させるとアチゲータに向かって射出する。しかし、『ニトロチャージ』で素早さを上げたアチゲータの前では意味をなさず、左右にジグザグに走り攻撃を全て回避してしまう。
「なにっ!?」
「決めるよ!『かえんほうしゃ』!」
「アチゲーッ!」
アチゲータは『パワージェム』を撃ち終えたばかりのヤミラミを正面に捉えると、口から炎を吐き出した。ヤミラミは避ける事も防御する事も出来ずに炎を受け、体中に火傷痕を残しステージ上に倒れ込んでしまう。
「あらら……やられちまったな。ヤミラミ、お疲れさん!しっかし、強いな兄ちゃん!おかげでリハも盛り上がったよ。サンキューな!」
MCカマーの感謝と共にリハーサルを見学していた観客達が一斉に拍手を送り始める。ロイは照れた様な様子を見せながら軽く会釈をするとステージを降り、ジン達の元まで戻って来た。
「おっと?丁度いい時間だな。皆、準備はいいか?じゃあ、本日の主役を呼ぶぜ!カモン!ラーーーイム!」
MCカマーの呼びかけに応じる形で、遂にジムリーダーのライムがその姿を現した。褐色肌の高齢の女性だが、ラッパーらしい格好に黄金のマイク、更にキラキラと光る装飾品を多く、なかなか印象的な女性である。
「えぇっ~~!?う、嘘……」
「ロイ?」
「どうしたんだよ。なに驚いてんだ?」
「あ、あの人がライムさんなの?」
「そうだよ。ラッパーであり、ジムリーダー、ゴーストタイプのスペシャリスト」
「なんだ?知り合いか?」
「う、うん!僕、前に会ってるんだ!」
詳しく聞くと、どうやらジンがテラパゴスについてフリードと調べている間に出会ったらしい。ミブリムが進化する切っ掛けとなったコノヨザルについて断片的にではあったが教えてくれたのが、彼女だった様だ。
ロイから話を聞いている内にライブはどんどん進行していく。ライムが一通り歌い終わると、早速ロイの望んでいたバトルのチャンスが訪れた。
「オーケー!それじゃあ、ライブ恒例の飛び入りタイムだ!」
「さぁ、誰がこのステージを熱くしてくれるんだい?」
「はい!テラスタル研修性のロイです!応用テストの相手、よろしくお願いします!」
「おや?アンタは……オレンジアカデミーから生徒が来る事は聞いていた。いいだろう!ステージに上がりな!」
ライムの許可を得たロイは再び、ステージへと上がった。先程よりも注目度は上がっているが、ロイに緊張はなく、楽しんでいる様にすら見える。
「まさか、アンタが研修生とは思わなかったよ。なかなか、縁があるね」
「僕も驚きました。あの後、僕達、コノヨザルとも会ったんです」
「そいつは良かった。アンタ達のバイブスが惹かれ合ったんだろうよ……それで?テストを受けに来たのかい?」
「はい!お願いします!」
「オーケー!と言いたい所だが、ここはアタイのライブステージだ。簡単には受けさせないよ。バトルしたいならアタイとのラップバトルで会場を熱くさせるのが条件だ!精々、盛り上げてもらうよメーーーン!カモン!ミュージック!」
ライムの合図と共にステージに取り付けられたスピーカーが作動し、ラップ音が鳴り響く。観客達も盛り上がり始め、もはや逃げる事は難しい状況だ。
「ラップバトル?」
「こういう面倒なタイプのジム、久々だな……」
ジムによっては本番でのバトル以外にも試験を行わせる所は一応だが、存在する。しかし、今回はラップだ。ぶっちゃけるとポケモントレーナーには必須ではない能力の為、ポケモンリーグの本部などに通報すれば無条件でバトルを受けさせる事も可能なのだが、取り敢えずは様子を見る事にした。
「♪ラップバトルにアンタが挑戦♪相手がおこちゃまじゃ勝ったも当然♪恥かく前にさっさと帰んな♪パンチの足りないガッカリチャレンジャー」
「♪見せてあげるよマジのテラスタル♪ピカピカイケイケガチでイカしてる♪信じた道がベストな選択♪どんなバトルでもテスト合格だ」
ロイは予想以上のアドリブ力でその場を見事に乗り切る。観客達も予想以上のラップバトルが見れて満足したのか声援を上げ、ロイのラップを評価した。
「あははっ!やるねぇ!いいだろう。応用テスト始めようじゃないか!」
「やった!」
会場の盛り上がりを見て、ロイのラップを認めたのか、ライムは応用テストを受ける事を承諾する。2人はそれぞれトレーナーゾーンまで移動し、バトルの準備へと入る。
「バトルの前に1つ聞きたいことがある。アンタにとって、テラスタルとはなんだい?」
「テラスタルは……僕の夢に、黒いレックウザに近づく為に必要なんです!」
「黒いレックウザ……それは、魂も震える険しい道。本気で覚悟があるのか試させて貰うよ!」
ロイとライムは同時に手にしていたモンスターボールをステージに向かって投げる。ロイが出したのはタイカイデン、ライムが出したのは先程、ステージ付近で見かけたボチの進化形である、はかおばけポケモンのハカドッグだ。
「あの時のタイカイデンか……応用テストは2体のポケモンを使用する。アタイのポケモンを2体共、倒せばアンタの勝ちだ。分かってるね?」
「はい!」
「お互い準備はいいな!それじゃ、バトルスタート!」
審判を務めるMCカマーの宣言と同時に、タイカイデンは両翼を広げ空中へと羽ばたき、ハカドッグから距離を取った。
「なんだい?攻めてこないのか?」
「こっちにも作戦があるんです。タイカイデン!『おいかぜ』!」
タイカイデンは両翼を羽ばたかせ、激しく吹きあれる風の渦を作り出す。この効果により、素早さが上昇し更には特性の『ふうりょくでんき』が発動し『じゅうでん』状態になった。
「行くよ!タイカイデン!『スパーク』!」
「タァーイ!」
「ハカドッグ!躱しな!」
タイカイデンは空中から電撃を纏い強烈な勢いで突撃していく。ハカドッグはそれを回避しようとするが、『おいかぜ』で素早さが上がっているタイカイデンの攻撃を完全には躱す事が出来ず、電撃の多くをその身に受けてしまう。
「ハカッ!?」
「……やるね」
直撃は避けたが、それでもこの威力だ。もしも、正面から受けてしまえば、それだけで一気に大ダメージを受け戦闘不能になる可能性がある。そう感じさせるには十分な威力だった。
「まだまだ!『エアスラッシュ』!」
再び空へと舞い上がったタイカイデンは、白く光る翼を羽ばたかせ、三日月型の風の刃を次々に発射していく。ハカドッグはこれをなんとか躱そうとするが、風の刃の数には勝てず徐々に攻撃を受け始め、動きを封じられてしまう。
「なめんじゃないよ!『ゴーストダイブ』!」
「バウ!」
ハカドッグは攻撃を耐えながらも自身の足元に闇を作り出し、その中に身を潜めた。突如、ハカドッグが姿を消した事でタイカイデンは攻撃を中断し、周囲に警戒を払う。しかし、ハカドッグは意表を突くかの様に背後から現れ、タイカイデンをフィールドに叩き落す。
「タイカイデン!?」
「逃がさないよ!『かみくだく』!」
フィールドに落ちたタイカイデンに追い打ちを掛けるかの様にハカドッグは牙を尖らせ、襲い掛かる。今からでは羽ばたき、空に逃げる事も出来ない。観客達の多くは、タイカイデンの敗北を予想したが、この程度でどうにかなる程、今の彼らは弱くはなかった。
「『ボルトチェンジ』!」
「カァイッ!」
迫りくるハカドッグに向かい、タイカイデンは口から円状の電撃を発射する。その電撃は『かみくだく』使用の為に大きく開かれたハカドッグの口に入り、ダメージを与えると共に動きを強制的に止める事に成功した。その僅かな隙にタイカイデンは体が赤く光り始め、モンスターボールへと戻って行く。
「ワルゥッ!」
それと入れ替わる形でフィールドに現れたのは以前、ジンがロイに渡した『くろいメガネ』を掛けたワルビルだ。ワルビルは両腕を伸ばし、迫っていたハカドッグの牙を掴み取ると、そのまま投げ飛ばしてしまう。
「ワルビル!『イカサマ』!」
「ワルッ!」
先程までの『ゴーストダイブ』、『かみくだく』の一連の攻撃でハカドッグの攻撃がかなり高い事を察したロイは、その攻撃を逆に利用する事を思いついた様だ。指示を受けたワルビルは『イカサマ』により、ハカドッグの力を利用した強烈な突きを叩き込み、追い打ちを掛ける。
「ハカッ!?」
ハカドッグは『イカサマ』により、吹き飛ばされた。ライムの真横を通り過ぎ、ステージの外へと落とされてしまう。幸い、その周辺に観客はいなかった為、被害はなかったがハカドッグの戦闘継続は遠目に見ても不可能だった。
「ハカドッグ戦闘不能!まずはチャレンジャーが先制だ!」
MCカマーにより、ハカドッグの敗北が宣言される。これで2体の内1体を倒した。しかも、ワルビルはノーダメージ、タイカイデンも戦闘に支障はない。ロイが圧倒的に有利な状況である。
「サンキューハカドッグ。ゆっくり、おやすみ……中々、やるじゃないか」
「えへへっ!毎日、厳しく鍛えられますから!」
「本音を言えば、アンタの熱い物を秘めたアチゲータとバトルしたかったんだが……そのワルビルも悪くないね。最後まで楽しめそうだ!出ておいで!ストリンダー!」
ライムが続けて出したポケモンは、パンクポケモンのストリンダー(ローな姿)である。電気・毒タイプのポケモンであるが、今までのジムリーダーの傾向やバトルの経験から見て、間違いなくテラスタルする事でタイプが変わる事は想像に難くない。バトルしているロイも当然、その事には気づいていた。
「ストリンダーのサウンド、どう受け止めるのか楽しみにさせてもらうよ?」
「絶対に勝って合格します!」
「いいだろう!今度はこっちから行かせてもらうよ!『ばくおんぱ』!」
「『ストーンエッジ』で迎え撃って!」
ワルビルは小さく尖った岩を体の周囲に作り出し、ストリンダー目掛けて放つ。それに対して、ストリンダーは息を吸って腹に力を蓄えると大声を出し、全ての岩を破壊してしまった。
「防がれた!?」
「ストリンダーの特性『パンクロック』だよ。音を使った技の威力を上昇させる効果がある。遠距離からじゃ攻撃が通らないかもね」
「そんな……」
「問題ない。勝機はある」
ストリンダーの代名詞と言えば専用技である『オーバードライブ』だ。音を使った技の為、特性が作用するのだが電気タイプの技であるのでワルビルには効果がない。この技を封じ込めた上に、『ばくおんぱ』でも防げない技をワルビルは既に習得済みだ。
「だったら……ワルビル!『じしん』だ!」
ワルビルはその場で大きくジャンプし、足に全体重を掛けステージを踏みつける。その瞬間、大きな揺れがステージに発生しストリンダーに襲い掛かる。
「ストッ!?」
地面から伝わる振動は『ばくおんぱ』では防ぐ事が出来ない。かといって避ける事も出来ず、ストリンダーは4倍弱点である『じしん』が直撃し大ダメージを負ってしまう。揺れは継続し続けており、このままでは遠からず戦闘不能になるのは明らかだ。
「くっ!?ストリンダー!『たたりめ』!」
このまま受け身では為す術なく倒されると判断したのだろう。バトル開始からずっとその場から動かずにいたストリンダーは遂に行動に出始める。ダメージを負いながらもその場を駆け抜け、ワルビルに接近すると掌に紫色の炎を作り出し、次々に放って行く。
「ワッ!ワッ!……ワルッ!?」
ワルビルは最初の数発は回避したが、ストリンダーの執念が実ったのか最後の1発が胴体に命中し何とか『じしん』を止めさせる事に成功する。
「いいビブラートだ……ぞくぞくするね」
何とか『じしん』を止めはしたが、もう一度、同じ攻撃を受ければストリンダーは負ける。その事はライムも当然、気が付いている。このまま、ただ負けを待つのは性分ではない、そう考えたライムは切り札を出す事を決意し、ポケットからテラスタルオーブを取り出した。
「♪光があれば影もある とっとと化けな うらめしや!」
余程、力を込めたのかライムは白目を向きながら、テラスタルオーブにエネルギーを充填していく。やがて、満タンにまでエネルギーが貯まるとストリンダーの頭上目掛けて投げつけた。そして、テラスタルオーブが開くと多くの結晶がストリンダーを包み、テラスタル化した姿となってステージ上に現れる。
「ストリンダーーーーッ!」
テラスタル化したストリンダーは、体を結晶化させ頭上に一般的にイメージする幽霊の様な王冠を被った姿をしていた。予想通りというべきか、やはりゴーストタイプのテラスタルである。
「やっぱり、ゴーストタイプ……だったら、僕達も行くよ!」
「ワルゥッ!」
「輝け!夢の結晶!」
ロイにしてもこの展開は予想できた事だ。慌てる事無く、テラスタルオーブを取り出しエネルギーを貯めるとワルビルの頭上へと投げる。特訓では何度もしたが、実戦では初めてとなるワルビルのテラスタルは無事に成功し、体を結晶化させ、頭上には不気味な笑みを浮かべる悪魔の顔を模した王冠が乗せられている。
「悪タイプか……」
ライムはテラスタルしたワルビルを見て、小さく舌打ちをする。元々、不利だった相性がテラスタルにより更に決定的となってしまった。利点があるとすればワルビルから地面タイプが消え、『オーバードライブ』が通る程度だが、それでも現状、不利な事に変わりはない。
「ワルビル!『かみくだく』!」
「ストリンダー!『オーバードライブ』!」
接近し、勝負を着けようとするワルビルをストリンダーは胸の発電器官を掻き毟る様に操作し、電撃と共に音波を発生させる。テラスタルした事によって初めて感じる電撃と音波を前にワルビルは足を止められ、攻撃を中止せざるを得なかった。
「追撃しな!『たたりめ』!」
「『ドラゴンクロー』で防いで!」
ストリンダーは紫の炎を連続で打ち出し、ワルビルはそれを両腕の爪を巨大化させ全て撃ち落とす事が出来たが、このままでは防戦一方で勝利する事が出来ない。
(攻めきれない……)
接近し攻撃を入れようとすれば、今の様に『オーバードライブ』で動きを止められ、『たたりめ』で狙い撃ちをされる。かといって、遠距離から仕掛けても同じ様に防がれる。その上『じしん』を使用すればダメージは与えられるが、先程までの様なダメージ量は期待できず、相手に反撃のチャンスを与える可能性もある。相性では有利な筈なのだが、今一つ決め手に欠けているのが現状だ。
「……だったら!ワルビル!残ってる力を全部、次の攻撃で出して一気に勝負を決めるよ!」
「ワルッ!」
「はっ!上等だ!かかってきな!」
「ストッ!」
相性では有利とは言え、このままで埒が明かないと判断したロイは最後の攻撃に打って出る事を決意する。ライムもまたロイの覚悟を受け、全力で迎え撃とうとする。
「ワルビル!『テラバースト』!」
「『オーバードライブ』で迎え撃ちな!」
ワルビルの頭上のテラスタルオーブが砕け散り、口から赤黒い竜巻状のエネルギーを発射した。ストリンダーは力の限り、発電器官を操作し電気を纏った音波を撃ち出し、迎え撃つ。
「ワルゥゥゥゥゥッ!」
「ストォォォォォッ!」
互いに己の全力を掛けて撃ち出した技はステージの中央でぶつかり合う。ロイとライム、そして観客達も固唾を飲んで勝負を見守るが、ここで勝負を分けたのはテラスタル、そして持ち込んだ『くろいメガネ』だった。これらの効果により悪タイプの技は威力を上げており、『テラバースト』は数秒の押し合いの末に見事に『オーバードライブ』を打ち破り、ストリンダーを飲み込んだ。
「ストリンダー!?」
ストリンダーを飲み込んだ竜巻上のエネルギーは巨大な爆発を引き起こした。ステージを覆い尽くす程の爆煙が広がり、全ての者がストリンダーの様子に注目する。
「ストォ……スァァ……」
やがて煙は晴れると、そこにはステージ上で仰向けになって倒れるストリンダーの姿がそこにはあった。完全に意識を失っており、戦闘継続は不可能な様子だ。
「ストリンダー戦闘不能!勝者はロイだ!」
MCカマーの宣言と共に観客達は勝者であるロイに歓声を上げ称える。バトルに夢中になっていたロイとワルビルは、その歓声を受けようやく自身が勝利した事に気付けたようだ。
「勝った……ワルビル!やったな!」
「ワルゥッ!」
ワルビルはテラスタルが解除されると両腕を上げ、ガッツポーズを決めた瞬間、体が白く光り始める。光に包まれたワルビルは徐々に形を変えていき、新たなる姿となっていく。
「ワルビィッ!」
ワルビルはワルビアルへと進化した。体は赤く染まり、進化前と比べてもかなり大きくなっており、その逞しさから見て、以前とは比べ物にならない程に強くなっている事は疑いようがなかった。
「進化したんだ……おめでとう!ワルビアル!」
「ワルゥッ!」
ロイとワルビアルは抱きしめ合いながら、勝利と進化の喜びを分かち合う。そんなロイ達の下にジン達が近づいて行く。
「凄いよ!ロイ!」
「おめでとう!」
「ワルビアルか……進化して益々、実って来たね~」
「あぁ、ワルビルの時は少し体が細い印象があったんだが、ここまで筋肉隆々ならもっと厳しい特訓にも耐えられそうだ。これからが楽しみだな!」
「皆!ありがとう!……ん?」
一部、純粋に喜べないコメントもあった様な気がしたが、テンションが上がっている為か、ロイはその事に気付けなかった様である。
「参ったね……完敗だ」
「ライムさん!バトルありがとうございました!」
「ふっ……アンタのワルビアル、それにタイカイデンにアチゲータからは並外れたバイブスを感じる。今でも十分に引き出せてはいるが、限界はまだまだ先だ。その真の実力を引き出せるのかは、アンタ次第だ。しっかり励みな」
ライムはカラフルな模様のスマホロトムを取り出し画面に触れ操作する。それと同時にロイのスマホロトムから着信音が響く。ロイが慌てて確認すると応用テスト合格のスタンプが送られてきていた。
「応用テスト、合格だよ」
「やったっ!やったよ!ワルビアル!」
「ワルビィッ!」
「よかった~ロイが無事に合格して!」
「後はリコだけだね!」
「うん!私も頑張って2人に続くよ!」
これにて無事、ロイもテラスタル研修を合格で終える事が出来た。後は最後にテストを受けるリコだけだ。そこで合格さえもらえれば、3人で仲良くテラスタルオーブを貰う事が出来る。今後の冒険でいざという時に備える為にも、必ず合格しようとリコは改めて決意するのだった。
次回はジンとネモのバトルを書く予定です
☆8
カロロンさん
高評価ありがとうございます
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