本当は昨日の内に完成していたのですが、日にちを一日勘違いしてたので本日、投稿します。遅くなり申し訳ありませんでした。
今回はフルバトルの前の前哨戦です。その為、ちょっと短めとなってます。
※色々、考えたのですが、この小説内ではアオイもハルトは存在しない設定となっております。その為、ネモにライバルはいません
『ネモは凄いよね~』
『生徒会長は天才ですから!』
ポケモンバトルを始めてから2年、そう言われ周りから線引きされる事が多くなった。しかし、ネモは自分が天才だと思った事はなく、自分なりに努力を重ねて来た結果が今の自分となっただけの事である。皆に悪意がない事は分かっているが、それでも少しだけ寂しく、モヤモヤした気持ちになるのは避けられなかった。
(今にして思えば、いつの間にか皆が私から距離を取る様になった気がする……)
最年少でチャンピオンクラスになると、今まで近くにいた友人達でさえもネモをどこか特別扱いする様になった。その為、本気でバトルする事が出来ず、友達を相手にする時ですら手加減をする様になってしまった。
(そんな時に君が現れてくれた……)
ポケモンリーグからの依頼でコルサの様子を見に行った際に偶然、ジンと出会いバトルをしネモは全力を出した上で負けた。負けは悔しかったが、それ以上に嬉しかった。ジン、彼は正にネモが望んでいた自分のライバルになってくれる存在だと確信しからだ。
(ジン……君とまたバトルが出来る)
フリッジタウンのポケモンセンター、その敷地内に存在するバトルフィールドでネモとジンはそれぞれトレーナーゾーンに入っている。興奮を隠せない様子のネモ、そしてそれとは対照的に冷静でどこか余裕を感じさせる雰囲気のジン、両者はそれぞれモンスターボールを持ちいつでもバトルが出来る様、準備を終えた。
「今回はフルバトルの前の前哨戦だ。使用ポケモンは1体でいいな?」
「うん!ジンとバトルできるならなんでもいいよ!」
「ジン!ネモ!2人共頑張って~!」
「いいデータが取れそうだな。しっかり撮影しておかないと」
応用テストを行った翌日の早朝、住人の殆どはまだ眠っているらしく、観客はリコ・ロイ・ドットの3名のみだ。些か寂しくも感じるが、落ち着いてバトルする上では最適な状態とも言えるだろう。
「……やっとだ」
「ん?」
「やっと、ジンとバトル出来る!覚えてる?あの日、君と再戦を約束した時からずっっと楽しみに待ってたんだ!」
それは嘗てオリーヴァの住む森でネモと別れた時にした約束、何時かバトルがしたいという気持ちでジンはこの約束を交わしたが、正直、本当にバトルする日が来るとは当時は思っていなかった。
「そうか……色々、事情が重なったとは言え待たせて悪かったな」
「気にしないで!いつかバトル出来るって信じてたから、全然辛くなかったから!」
「ふっ……精々、期待外れにならない様に努力させてもらうさ」
「ジンなら大丈夫に決まってるじゃん!さぁ、始めよう!」
ジンとネモは同時に構えていたモンスターボールをフィールドに向かって投げつける。ジンのボールが開き、現れたのはサーナイトだ。そしてネモのボールから出て来たのはスタイリッシュな忍者の様なフォルムをした、しのびポケモンのゲッコウガだ。
(ゲッコウガか……)
ゲッコウガは水・悪タイプのポケモンである。その為、サーナイトのエスパータイプの技は全て無効化されるが、フェアリータイプの技は効果抜群だ。現段階で戦い方を制限されてはいるが、ゲッコウガの特性次第では、更に厄介な点が増えてしまう。
「よしっ!それじゃあ、2人共、用意はいい?」
このバトルを誰よりも近くで見たいという希望により、審判に入ったロイが2人に確認を取った。
「あぁ」
「いつでもいいよ!」
「それじゃあ……バトル開始!」
ロイの合図と共に、ゲッコウガがその場を駆け出し一気にサーナイトに迫って来る。かなりの素早さを有している様であっという間に距離を詰め攻撃の射程圏内に入り込んできた。
「『つじぎり』!」
「『まもる』!」
ゲッコウガは腕に黒い苦無の様な物を出現させる。それを持ってすれ違い様にサーナイトを切り裂こうとしたが、その瞬間、緑色のオーラがサーナイトを包み込みガードした。
「サーナイト!『あやしいひかり』!」
「『かげぶんしん』で躱して!」
サーナイトは両腕から『あやしいひかり』を放つ。しかし、ゲッコウガは『かげぶんしん』により幾つもの分身体を作り出し、『あやしいひかり』から逃れるとそのままサーナイトの背後へと回り込んだ。
「もう一度『つじぎり』!」
「コウガッ!」
再び、黒い苦無を作り出したゲッコウガはサーナイトの背後から斬りかかる。背後を取られたサーナイトは咄嗟に反応する事が出来ず、無抵抗のまま切り裂かれダメージを負ってしまった。
「サナッ!?」
「……速いな」
半ば分かっていた事ではあったが、純粋なスピードではサーナイトはゲッコウガに敵わない。自分達よりも素早い相手に技を決めるには無策のままでは難しい。何かしら策を立てる必要がある。
「……サーナイト!『ちょうはつ』!」
「サーナッ!」
ジンは瞬時に作戦を考えると速やかに指示を出した。サーナイトは片腕をゲッコウガに伸ばすと、艶やかな嘲笑の笑みを浮かべながら手招きする。まるで、「お可愛いこと……」とでも言わんばかりに。
「コッッウガ!」
「ゲッコウガ!?落ち着いて!」
まんまと『ちょうはつ』に掛かってしまったゲッコウガはトレーナーのネモの指示を無視し、再び黒い苦無を作り出し『つじぎり』を使う準備に入るとサーナイトに向かって真っすぐに突き進んでくる。無論、冷静さを失おうとその素早さは健在だ。これだけでも十分に脅威ではあるが、どこから攻撃が来るのか分かっていれば対処は容易である。そもそもの話、スピードに秀でた相手とのバトルはサーナイトにとっては見慣れている。ラルトスの頃からキモリのトレーニング相手を務めている、最古参の立場は伊達ではないのだから。
「『くさむすび』」
真っすぐに突き進んでくるゲッコウガの足元に、銀世界に似つかわしくない草の輪が突如として生え始めた。その輪に足を取られたゲッコウガはそのまま体勢を崩してしまい、雪の上に倒れ込んでしまう。
「追撃しろ!『10まんボルト』!」
その隙をジンとサーナイトは見逃さなかった。サーナイトのサイコパワーと組み合わせる事で、電撃は『かみなり』にも匹敵する雷霆と化し、ゲッコウガは平伏す他なかった。効果抜群も相俟って、ゲッコウガは悲痛な叫び声を上げながら大ダメージを負ってしまう。
「ゲッコウガ!?しっかりして!?」
「こ……コウガッ!」
体中に黒い火傷の痕を負いながらもゲッコウガは、なんとか立ち上がる。しかし、既に体力の殆どを失われ長期戦は不可能なのは明らかだった。
(あれだけ攻撃を受けて立ち上がるのは見事だが、あのダメージ量から見て特性は『へんげんじざい』ではなく『げきりゅう』の方だったか)
『へんげんじざい』は、最後に使った技と同じタイプに変化する効果がある。その場合、最後に使った技は『つじぎり』なので悪単体となる為、『くさむすび』や『10まんボルト』だけであそこまでのダメージにはならなかった筈だ。これらの事実から見てネモのゲッコウガの特性は『げきりゅう』である事は間違いないだろう。しかし、そうなった場合、ゲッコウガの本領はここからという事になる。
「コウガァァァァッ!」
傷ついた体に鞭を打ち、咆哮を上げながらゲッコウガは立ち上がった。それと同時に水色のオーラが体全体から湧き上がっていく。そのオーラは非常に強大であり、能力が大きく上昇しているのは誰の目から見ても明らかだ。
「これは……実に素晴らしい」
特性により能力が上昇する場面は今までに何度も見て来た。リコのニャローテはその中で間違いなくトップクラスだったが、目の前のゲッコウガも決して劣ってはいない。元々レベルの高いゲッコウガがこの『げきりゅう』により、どこまで力を上げたのか、それはジンでさえも予想がつかなかった。
「きたきた~~~!まだまだこれからだよ!ゲッコウガ!『かげぶんしん』!」
ゲッコウガはその場で大きく空中に飛び上がると『かげぶんしん』を発動した。その瞬間、空には大量のゲッコウガで溢れかえり、もはやどれが本物なのか判断する事は不可能な状態だ。
「ゲッコウガ!『みずしゅりけん』!」
「コウガァッ!」
空中にいる全てのゲッコウガ達は両手に水の手裏剣を作り出すと、サーナイトに向けて次々に投げつけた。四方八方から時間差を置いて手裏剣が迫って来るがこれら全てを『まもる』で防ぐ事は恐らく不可能だ。最初の内は防げるだろうが、途中から『まもる』の効果が薄れ攻撃を喰らってしまうのは目に見えている。
(ここで防御に徹する事に意味はない。ならば……)
ジンは咄嗟にサーナイトに視線を送った。その視線の意味を察したサーナイトは小さく頷き一瞬だけ目を瞑ると『シンクロ』を発動させ、ジンと視界を共有させ反撃の準備を整える。
「サーナイト!『かげぶんしん』!」
「無駄だよ!今のゲッコウガは絶対に外さない!」
無論、ジンもサーナイトも分身した程度で極限状態のゲッコウガから逃げ切れるとは毛ほども思っていない。これは逃げる為ではなく、この窮地を乗り越え、勝利する為の布石だ。
「サーナイト!『エナジーボール』!」
「ゲッコウガここが勝負所だよ!全力で叩き落して!」
分身したサーナイトは両手を前に突き出し、緑色の光球を作り出すと次々に発射し『みずしゅりけん』を迎え撃とうとする。当然、特性の『げきりゅう』で水タイプの技の威力を上げたゲッコウガの『みずしゅりけん』をタイプ不一致の『エナジーボール』では相殺する事は難しい。しかし、それはやり方次第だ。
「これをやるの久々だな……『サイコキネシス』!」
サーナイトは目を光らせるとジンと共有した視界をフル活用し、撃ち出した全ての『エナジーボール』を『サイコキネシス』で操作する。その結果、無数の『エナジーボール』は幾何学模様を描くかの様に空中を踊り、迫り来る『みずしゅりけん』の刃のない側面に直撃して、全てを相殺してしまった。砕け散った『みずしゅりけん』の破片がバトルフィールドに舞い落ちる光景は、コンテストバトルさながらであった。
「うそっ!?」
「これってスピネルとバトルした時に使った技!」
「凄い!『サイコキネシス』と『エナジーボール』の合体技、『サイコエナジーボール』だ!」
まさか全ての『みずしゅりけん』をこの様な形で相殺するとは思っていなかったのだろう。ネモはこのバトルが始まって以来、初めて動揺した姿を見せる。状況を考えれば仕方のない事だが、それはこのバトルを決定づける隙へと繋がってしまった。
「これで終わりだ。『マジカルシャイン』!」
「サーナッ!」
サーナイトは身体から虹色のオーラを発生させ、空中にいる分身体を含んだゲッコウガ全てに向かって解き放った。分身体が多すぎて本体がどれか判別は困難だが、バトルフィールドの全域へと及ぶ広範囲技の前からは逃げる事が出来ず、全てのゲッコウガは虹色の光に包まれ空中で巨大な爆発に巻き込まれていく。
「ゲッコウガ!?」
爆発音と共にネモの叫び声が響いた。全員の注目が空に集まると爆煙の中から分身体が全て消え去り、本体だけとなったゲッコウガが雪へと落下し、そのまま仰向けになって倒れてしまう。審判を務めていたロイは、ゲッコウガに近づき安否を確認するが完全に意識を失っており、戦闘続行は不可能だ。
「ゲッコウガ戦闘不能!サーナイトの勝ち!」
ロイの宣言により、バトルは終わりを迎えた。勝者となったサーナイトは、カーテシーの様に恭しく礼を尽くし、対戦相手への敬意を示した。ジンとネモはそれぞれのポケモンをモンスターボールへと回収し、それを確認したリコとドットは、その場で盛大な拍手を送る。
「ジン!ネモ!お疲れさま~!」
「いいバトルだったよ。お陰でいいデータが取れた」
「2人共、ありがとう!……でも、また負けちゃったかぁ~やっぱりジンは強いね!」
「こっちのセリフだ。ゲッコウガはレベルも高く、素早さも申し分ない。特に『げきりゅう』での能力上昇は素晴らしいの一言に尽きる。ポケモンの相性次第ではもっと苦戦していたかもな」
これは偽らざる本音である。実際、このバトルで使用したのがホウエン地方からの古参メンバー以外であったなら、苦戦は避けられなかっただろう。
「あ~~楽しかった~~~!まだ2回目だけど、ジンとのバトルはやっぱり楽しいな~~流石はわたしのライバルだね!」
「ライバル?」
「あっ……」
本来であれば、今度のフルバトルの後に言おうと思っていたのだが、楽しいバトルの後でテンションが上がってつい口からこぼしてしまう。ネモは少しだけ顔を赤くし、気まずそうになるが、直ぐに気持ちを切り替え真剣そうな表情をするとジンの顔を真っすぐに見つめる。
「本当は研修の後に言おうと思ってたんだけど、ちょうどいいから言っちゃうね?ジン……私のライバルになって下さい!」
ネモの真剣な表情を見たジンは何かを考える様に目を瞑る。そしてゆっくりと目を開けると、自分の素直な気持ちを伝え始めた。
「ネモ……悪いんだが、俺は君をライバルだと思った事は一度もない」
「……………………えっ?」
ジンの答えを聞いた瞬間、ネモの表情は一気に凍り付いていく。もっともそれはネモだけでなく、話を聞いていたリコ達も同じだ。今のバトルもいい勝負をしており、結果こそ、ジンの勝利だったがネモの実力は十分に証明されているにも関わらず、ライバルと認めないのはなぜか全員理解できなかった様である。
「な、なんで?私、そんなに弱かった?」
「いいや、君は強い。今までにバトルしてきたトレーナーの中で間違いなくトップクラスの実力者だ」
「だ、だったら!」
「だが、強いだけなんだよ……君とのバトルは楽しいが重さを感じない」
「お、重さ?」
「そうだ……絶対にバトルに負けないという強い意志と言い換えてもいい。以前のバトルでも感じたが君にはそれが致命的に欠けている」
以前、ボウルタウンでバトルした時にも感じていた。ネモはバトルする事が楽しく、勝利するか敗北するかは二の次という側面がある。確かに敗北から学ぶ事は多いが、それでも勝利を二の次と考える相手はジンにとってライバルと呼ぶには値しない。
「俺には1人、ライバルと認めた男がいる。そいつの実力は、恐らくネモよりやや下だ。だが、それでも絶対に負けたくないという強い意志を持っている」
ジンがライバルと認めた男、それは勿論、アメジオだ。彼はジンに勝ちたいという気持ちだけでなく、エクスプローラーズの一員として任務を達成したいという強い意志を持っている。だからこそ、ジンは彼をライバルと認めた。
「…………」
ジンにライバルと認めてもらえず、更には自分以外に認めたライバルがいる。それを知るとネモの表情は一気に青褪めて顔は下を向いてしまう。表情は見えなかったが、悔しさや絶望などが複雑に絡み合っていくの感じ取れる。
「ネモ……君がポケモンバトルが大好きなのはよく分かった。だが、それだけでは絶対に俺には勝てない」
「……だったら、教えてよ!ジンは何の為にポケモンバトルをするの?ジンの言うバトルの重さって何?」
勢いよく上げたネモは今にも泣き出しそうな表情をしている。その必死な様子を見たジンは少しだけ可哀想になり、頭に手を伸ばしそうになったが必死に抑え込んだ。
「俺は地方大会とは言え一応はチャンピオンだ。パルデアリーグでチャンピオンクラスとなった君と比べれば遥かに規模は小さいかもしれないが、それなりに多くのトレーナー達の夢を踏みつぶしてその称号を得た……チャンピオンという看板にはな、色々な物が付いて来るんだ。期待してくれる人々、夢を託した人々、目標にしてくれる人々、そんな想いをチャンピオンは背負ってる」
当然、ジンも例外ではない。サイユウ大会で敗北したトレーナーから夢を託され、その重さを知った。あの時の涙に籠められた万感の想いを知った。そんな彼らの期待を裏切らず、自分とポケモン達の誇りを守れる強いトレーナーになるとジンはあの日、誓ったのだ。だから、どんな相手にも決して負ける訳にはいかない。
「バトルを楽しむのは大いに結構だ。だが、先程も言ったが、君のバトルには重さがない。ただ自分がバトルを楽しみたいと言うだけで負けて行った人達の想いを背負っていない。だから……軽いんだよ」
バトルを楽しみたいという気持ちは当然、ジンにもある。バトルをする最初の理由はそれで構わないし、それを持ち続けるのも大切だ。だが、それだけではジンに勝つ事は決してできない。
(あの日、チャンピオンの重さを知らなければ俺もネモと同じ様に……いや、ネモよりもずっと酷いか)
ネモは手加減などはしても相手を見下す様な事はしない。そこが嘗てのジンとの違いだ。人を見下し、自分の力や才能に酔っていた過去のジンよりも余程、まともである。
「俺とのフルバトルまでまだ時間はある。本気で俺のライバルになりたいのなら、負けられない理由の一つでも見つけ出す事だ」
ジンはそう言い残すとネモを横切り、リコ達の下へと向かって歩き出そうとする。しかし、その瞬間、ネモはジンの服を掴み、その場に押し止めると弱弱しい口調で語り掛ける。
「どうして……どうして、そんなに強くいられるの?」
「……他にも理由があるとしたら、俺の事を天才と呼んでくる人達がいるからだろうな」
天才。それはネモが嫌いな言葉だ。これまで数えきれない程の努力を重ねて来たのにそんな言葉で纏められてしまう。それがネモは嫌だったのに、ジンはそれを好意的に受け止めている。
「何で?凄い頑張ったのにそんな一言で片づけられて……嫌じゃないの?」
「言いたい事は分かる。だが、この世に才能の差があるのは変えようのない事実だ」
あまり意味のない例えだが、全く同じ才能を持った同個体のポケモンが2体いたとする。それをジンと他のトレーナーが同じ時間育成したとしても、ジンは相手のトレーナーよりもそのポケモンを強くする事が出来るだろう。その差を人は才能と呼ぶのだ。
「ポケモンバトルだけでやっていけるのは、トレーナー全体の中でほんの一握りだけだ。才能の差を感じて諦めた人達は数えきれない程いる。その人たちは大抵、言うんだ。『あの世界で勝ち抜けるのは天才だけ』、『才能がなかった』って」
才能のある人間は、その才能をどう生かすのかを考える。しかし、才能が足りない場合は全ての事をやらなくては同じステージに立てない。その差は本人たちが思っているよりも遥かに大きい。
「……そんなのただ言い訳して逃げてるだけだよ」
「そうかもな。だが……もう一度、立ち上がる為には、言い訳が必要なんだよ」
どれだけ努力しても勝つことが出来ず、バトルの道を諦める人は存在する。だが、それでも人は生きて行かなくてはならない。そんな人達がもう一度、別の道で生きる為には例えどれだけ惨めな内容であっても言い訳が必要だ。それが無くては諦める事も立ち上がる事も出来ないのだから。
現に今の世の中には、長年、ポケモントレーナーとして活動した人たちがバトルの道から挫折した際の受け皿がない事が度々、問題となっている。そんな中でバトルの道を諦めるのは確かに逃げかもしれないが、勇気が必要な選択肢だ。決して貶していい様な事ではない。
「俺は、俺の事を天才と信じて呼んでくれた人達に、懸命に努力し、それでもバトルを諦めるしかなかった人達の言い訳になる様な高い壁であり続けたい……そう思っているのが俺の強さに繋がっている」
「でも……そうやって周りの人達が諦めたらジンはどうするの?対等の相手がいない。1人だけになって、それで大丈夫なの?」
「その時は、最強のチャンピオンとして君臨し続けて全員の目標になるだけだ。俺のやる事は大して変わらない」
そう答えるが、ジンはそこまで心配はしていない。なぜなら、ジンの脳裏には既に何度敗北しても諦めずに挑んでくるライバルが思い浮かんでいたからだ。恐らく、彼がいる限りネモの懸念するような孤独感に苛まれる事はないと確信している。
ジンは最後にそれだけ言い残すとネモの手を優しく振りほどき、リコ達の下へと歩いて行く。
「3人共、そろそろ行くぞ。これ以上、のんびりしてるとジムへの到着が遅れる」
「で、でも……」
リコの視線はネモに向けられていた。2人の会話中、リコ達は黙って見ている事しか出来なかったが、それでも友人であるネモのあの姿を見て放っておく事が出来ない様だ。しかし、ジンはそれを許さず、ネモに伸ばそうとしたリコの手を押さえつける。
「今は1人にしてやれ。ネモには考える時間が必要だ」
「……分かった」
3人は心配そうにネモの事を見ていたが、今の自分達では力になれない。この問題はネモ自身が答えを出す必要がある。ジンとネモの会話を聞いていた3人は、その事を察し、フリッジタウンを後にするのだった。
ネモを精神的にフルボッコにして申し訳ない……でも、フルバトルの前にこの話はどうしても書いておきたかったので悔いはないです!
作品の要望などあれば気軽にメッセージを送ってください