今回はリコVSグルーシャです。今回はリコのポケモン全とっかえで進めております
「もう無理!これ以上、動けない!」
フリッジタウンを後にしたジン達は、続いてリコの研修が行われるナッペ山ジムを目指し登山を続けている。そんな中、やはりと言うべきか体力のないドットに限界が来た様で雪で埋め尽くされた地面に大の字になって倒れ込んでしまう。
「僕は雪の上で一生を終える……ぐるみんチャンネルも終了か。応援してくれた皆、今までありがとう……ぶへっ!?」
倒れ込んだドットは遺言の様な事を呟いていたが、その顔面に突如、雪が覆い被さる。雪のせいで呼吸が出来なくなり、大慌てで立ち上がると顔についた雪を取り払った。
「なんだ、思ったよりも元気じゃないか?」
「何するんだよ!」
「ホウエンじゃ海難事故で死んだ人を見つけたら厳かに水葬してやるのが礼儀なんだ。雪山でも似たようなもんだろうと思ってな……それよりも、後ろから何か来てるぞ」
「えっ……うわっ!?」
ジンの忠告を受け、後ろを振り返ると白く丸い体をしたポケモンが笑顔を浮かべながら迫って来ていた。ドットは慌てて避けようとするが、疲れ切った体を上手く動かすことが出来ない。そんなドットを見たジンは小さく、ため息をつくと肩に手を回し無理やり自分の方へと引き寄せる。
「全く、何やってるんだお前は」
「あっ……」
ジンの咄嗟の判断で接触事故は無事に回避された。しかし、突然、引き寄せられジンと密着してしまったドットは顔を赤く染め上げ心臓の鼓動が一気に早くなってしまう。
「ドット?大丈夫か?」
「えっ?あ、いや……」
「んんっ!……2人共、いつまでそうしてるの?」
「ひっ!?」
リコの『ぜったいれいど』の様な冷たい声と視線がジンとドットに向けられる。ドットは真っ赤だった顔を青く染めると大慌てでジンから離れた。
「り、リコ!違うんだ!?今のはじ、事故で……」
「いいよ……分かってるから大丈夫」
今の状況では、ドットを引寄せる以外に有効な手がなかった事はリコも承知している。その為、これ以上、とやかく言うつもりはないが、ジト目でジン達の事を見ている。どうやら、嫉妬心を完全には抑えられない様でドットが離れたのを確認すると無言でジンの隣に移動し腕を絡め始める。まるでジンの隣は自分の指定位置だと言う事を忘れるなとアピールするかの様だ。
「と、ところでさっきの何だろう?」
「ん?あぁ、さっきのは確かアルクジラってポケモンだ」
事前にこの辺りの事を調べていたジンが先程のポケモンの事を教えると、興味が出たようでリコ達はスマホロトムを取り出しアルクジラの事を調べ始める。
『アルクジラ りくくじらポケモン 氷タイプ 遥か昔に海から上がって陸地で暮らすようになった 寒冷地で5匹ほどの群れを作って暮らす』
「この辺りじゃ、訓練されたアルクジラの背中に乗ってソリみたいにゲレンデを滑り降りるのが流行ってるみたいだぞ」
「何それ!すっごく面白そう!」
ジンの説明を聞いたロイは目を輝かせ始める。このナッペ山に来るまで雪を見た事すらなかった為か、この手のレジャーは正真正銘、初めて見るのだろう。興味が惹かれるのも当然かもしれない。
「いいな~僕もやってみたい!」
「それはジム戦の後だ。目的地は近いみたいだし、急ぐぞ」
***
その後、疲れたと連呼するドットの背中を押しながら歩き続け、一行は何とかナッペ山ジムへと到着した。早速、リコが1人で応用テストの手続きをする為にジムの中へと入ったのだが……
「応用テスト、準備が整うまで少し待っててくれって」
「やれやれ、またか?」
普通、ジム戦というのは余程の事が無ければ訪ねて直ぐに行えるものである。無論、やむを得ない場合もあるがそれはかなり稀だ。だと言うのにリコ達3人はジムを訪ねるとかなり確率でジム戦を待たされている。ここまで来ると運がないとしか言いようがない。
「だったらさ、さっき言ってたアルクジラ滑りやろうよ!」
「まだ時間もあるし、いいかも!」
ロイとドットの視線の先には大量のアルクジラとその上に乗り、ゲレンデを楽しそうに滑る人達がいた。先程から興味津々だったロイはともかく、疲れ切っていたドットまでもが乗り気なのは少々、意外である。
「う、う~ん。でも、テスト前だし……ジンはどう思う?」
「個人的な意見を言っていいなら、却下だ」
「あっ……やっぱり?」
「当然だ」
慣れない環境での初めてのレジャーだ。如何にアルクジラが訓練されているとはいえ、万が一を考えるなら今は体力を温存しジム戦に備えるのが、どう考えてもベストである。しかし、ジンが却下した瞬間、ロイとドットのは分かりやすい程にテンションを落とし始めてしまう。
「……分かった分かった。じゃあ、お前ら2人だけで行って来い。ジム戦の時間が決まったら連絡してやるから。リコもそれでいいか?」
「ふふっ……勿論、いいよ」
「本当にいいの!?」
「それじゃ、僕たち行って来るから!時間になったらちゃんと連絡してよ!」
ジン達が想像していた以上に、アルクジラ滑りを楽しみにしていた様で2人は笑顔を浮かべながら我先にとアルクジラを貸し出している小屋へと向かって走って行く。
「ロイはともかくドットの奴、全然、元気じゃないか」
「まぁまぁ、2人共、楽しそうだし……それで私達はどうしようか?どこかお店に入ってゆっくりする?」
「それも悪くないが、折角だから少しジムリーダーの事を調べてみないか?」
「えっ?グルーシャさんの事を?」
「あぁ、リコも事前にグルーシャさんの事はある程度は調べてるだろうけど、バトルの映像や資料以上に生の情報には価値があったりするんだ」
リコには正直、ジンの言う事の意味が分からなかった。しかし、ジンがそう言う以上、そうなのだろうと納得し、2人はグルーシャの情報を集める為に行動を開始する。まずはポケモンセンター、続いてフレンドリィショップなどを回ったが、めぼしい情報は得られなかった。そして、次に訪れたのが、ロイ達がアルクジラを借りにいった小屋である。
「プロのスノーボーダーですか?」
「あぁ、そうだよ」
訪れた小屋には管理人の男性がおり、ようやく彼から興味のある話を聞く事が出来た。小屋には昔の雑誌が飾られており、ジムリーダーになる前のグルーシャが表紙にでかでかと張り出されている。
「それはグルーシャがスノーボード大会で優勝した時の記事だよ」
管理人の話によるとグルーシャは若くして数多くの大会で優勝した天才スノーボーダーだったのだが、ある大会で怪我を負ってしまい、引退する事になったらしい。しかし、彼は挫けなかった。グルーシャはスノーボーダーの道は諦めたが、次にポケモントレーナーの道を進む事を決めた。多くの大会で好成績を収め、遂にはナッペ山のジムリーダーまで上り詰めたのだ。
「そして今は、パルデア地方最強と呼び声高いジムリーダーか……大したものだ」
「あぁ、まだスノボは滑れたんだがな」
「そうなんですか?ならどうして?」
「満足のいく結果を出せなくなったからだろうな。あいつは何よりも勝負の結果に拘り、人にも自分にも厳しい男なんだよ」
そう話し終えると管理人は仕事があると言い残し、部屋の奥へと入って行く。ジンとリコは改めて雑誌を開き、グルーシャの記事を読んだ。経歴もそうだが、事前に調べた彼との表情の柔らかさの違いなど驚かせる点が多く中々、実りのある情報を得る事が出来た。
「グルーシャさんって、少しジンと似てるね」
「ん?そうか?」
「うん。特に勝負の結果に拘る所がね」
ジンは生粋の戦闘狂だ。しかし、リコの言う様にバトルを楽しむ事以上に勝利という結果を求めている。確かにその点で言えばジンとグルーシャは似ていると言ってもいいだろう。
「まぁ、そうかもな……お陰で1つ分かった事がある」
「それって?」
「この研修では、仮にバトルに負けたとしてもバトルの内容次第では合格にしてもらえるって話だった。だが、勝負の結果に強い拘りを持っている人が、それを許すとは正直、思えない」
「それじゃ……」
「次のバトル、勝利、最低でも引き分けにまでは持ち込まないと100%不合格になる。そのつもりでいた方がいい」
結果に拘り、自分にも人にも厳しい。その手の性格の持ち主は半端な結果を絶対に許さない筈だ。勝負に負けておきながら合格でいいなどと彼は恐らく言わない。ジンがジムリーダーの立場であった場合も同様だからだ。
「うん。大丈夫、ちゃんと分かってる……私、絶対に勝つから!」
リコはジンの顔を真っすぐに見つめながらそう宣言した。これまでのジンからの厳しい特訓の甲斐もあってか、その表情には自信に満ち溢れている。
「それでいい。リコ、お前は今日、この日の為にやるべき事は全てやって来たんだ。自信を持ってグルーシャさんに挑んで来い」
「うん!任せて!」
リコが決意を新たにした瞬間、彼女のスマホロトムにメッセージが届いた。送り主はジムの関係者からで、応用テストの準備が完了したとの知らせだ。
「ロイとドットに連絡を入れる。2人と合流したらジムに向かうぞ」
「うん!」
***
その後、ロイ達と合流したジン達はナッペ山ジムのバトルフィールドへと移動した。トレーナーゾーンでリコが精神統一をし、ジン達はそれをフィールドの外から見守る。そんな中、ジン達の横を1体のアルクジラが通り抜けていく。
「ア~!アッア!アッア!」
「え、えっと……」
突然、現れバトルフィールドの中央で笑顔を浮かべながら楽しそうに踊り出すアルクジラ。その姿を見て、肩の力が抜けたのかリコは困った様子でアルクジラを見つめる。
「そんな所にいたのか。先に行くなと言っただろう?」
リコが困惑していると水色の髪をし中性的な容姿をした人物がアルクジラを追う様にバトルフィールドへと入って行く。その人物は勿論、リコの対戦相手であり、このナッペ山のジムリーダーであるグルーシャだ。
「ねぇ?」
グルーシャが頭を撫でると満足したのかアルクジラはフィールドの外に出ていく。それを見届けるとグルーシャは突然、リコに視線を合わせ話しかけて来た。
「は、はい!」
「あんた、色んな所で僕の事を聞いて回ってたって聞いたけど、それって本当?」
「えっ!?そ、それは……」
「どうなの?」
「ご、ごめんなさいっ!?」
グルーシャの本拠地で彼の情報収集をした事を責められていると感じたのか、リコは直ぐに頭を下げ謝罪をしてしまう。それに対し、グルーシャは不思議そうな顔をしながら首をかしげた。
「なんで謝ってんの?」
「だ、だって、グルーシャさんの事を勝手に調べちゃったんで……」
「それは別に悪くない。勝つ為に必要な事をしたんでしょう?チャレンジャーにそこまでされるのはジムリーダーとして悪い気はしないし」
(……やっぱり、ジンと似てるかも)
グルーシャの言葉を聞いたリコは彼が怒っていないという事実にまずは安堵し、それと同時にやはりグルーシャとジンの考え方は少しだけ似ていると感じた。勝負の結果に拘りながらも、自分を倒す為に全力を出すトレーナーを賞賛する姿は確かに似ていると言っても過言ではないかもしれない。
「まぁ、いいや。じゃ、始めようか?」
「はい!お願いします!」
リコとグルーシャはそれぞれモンスタボールを取り出し、フィールドへと投げつける。リコのボールから出たのはカルボウ、そしてグルーシャが出したのは太い足で二足歩行する白い鯨の様な姿をしたポケモンだ。
「なっ!?」
「でっか!」
「なんだよあいつ!」
『ハルクジラ りくくじらポケモン 氷タイプ 強靭な筋肉と分厚い皮下脂肪で体を守る』
ロイは早速、スマホロトムでポケモンの正体を探った。相性で言えばカルボウの方が有利ではあるが、ハルクジラは体長4.5mに対しカルボウは0.6m。この体格差をどう補うのかが勝負を分けると言っても過言ではない。
「では、バトルスタート」
「カルボウ!『ひのこ』!」
審判不在の為、グルーシャがバトルの開始を宣言する。その宣言と共にカルボウは、両手を構えるとその中心に小さな炎を生み出し、次々に放って行く。
「『つららばり』で迎え撃て」
ハルクジラはその場から動かずに口を大きく開く。そこから複数のつららを発生させ、迫りくる炎へと向けて放った。氷と炎は互いに相殺し、嫌な音がフィールドに響く。
「もう一度『ひのこ』」
「『アイススピナー』だ」
カルボウは再び、炎を作り出し放つ。それに対しハルクジラは体に氷を纏わせるとその場で急速に回転し炎を打ち消す。それに留まらず、その巨体に似合わないスピードで一気にカルボウに迫り吹き飛ばした。その姿はさながら、アイススケートでもしているかの様である。
「カルボウ!?大丈夫?」
「カッル!」
「よしっ!『ほのおのうず』で動きを止めて!」
カルボウはダメージを負いつつもまだやれる!とばかりに立ち上がった。そのまま両手に炎を集中させると次々にハルクジラへと放つ。放たれた炎はやがて一つとなりまるで『かえんほうしゃ』の様な強力な炎になるとハルクジラを包み込んで行く。
「無駄だよ。炎対策はしてある。『アクアブレイク』」
炎がハルクジラを飲み込んで行くが、その瞬間、炎の中心から水が舞い上がった。その正体は、『アクアブレイク』により水を体全体に纏ったハルクジラである。炎を掻き消したハルクジラはフィールドに降り立つとカルボウを睨みつけ攻撃をする準備に入る。
「『つららばり』だ」
ハルクジラはその大きな口を開け、氷を作り出そうとする。しかし、それはリコにとって待ち望んでいた瞬間でもあった。
「今だ!口に向かって連続で『ひのこ』!」
パワーや耐久力では敵わないが、素早さはカルボウの方が上である。その為、ハルクジラが氷を生み出すよりも早く動き出す事が出来た。両手に炎を作り出すと次々に発射し、ハルクジラの口の中に入れ込む事に成功する。体を覆う筋肉は頑丈ではあるが、口の中は例外であると気づいての作戦だ。
「よしっ!」
「へぇ……」
目論見が上手く行き、リコはガッツポーズを取って喜び、グルーシャは興味深そうな表情を浮かべる。ハルクジラは、今の攻撃がかなり堪えた様で目を瞑り苦しそうな表情をしながら体を大きくふらつかせ、最後には尻餅をついてしまう。
「……まぁ、いいか。ハルクジラ、戻って」
これ以上の戦闘継続は難しいと判断した様でグルーシャはハルクジラをモンスターボールに回収する。ルール上、ジムリーダーはポケモンの交換が出来ない為、次が彼の最後のポケモンだ。
「少しはやるな。じゃあ、次は!」
「チ~ル!」
グルーシャが続いてフィールドに出したのは、ハミングポケモンのチルタリスだ。ホウエン地方のポケモンであり、ジンにとっても師匠であるゲンジが使用していた為、割と馴染みのあるポケモンである。
「カルッ!」
「カルボウ、一回戻って」
カルボウは戦意を示していたが、リコは冷静に判断し一旦、モンスターボールへと回収する。
(それでいい……)
ジンはリコの判断を素直に称賛した。チルタリスにはカルボウの炎技は半減させられてしまう。それに加え、今までのジムリーダーのテラスタルの特徴から考えて、チルタリスが氷タイプになる可能性は高い。その時に備えて炎タイプのカルボウを残すのは妥当な選択肢だ。
「イッカネズミお願い!」
リコが続いてフィールドに出したのは、イッカネズミである。フィールドに出たイッカネズミはまるで軍隊の様に4体が隊列を組み、速やかに戦闘に移行出来る様に準備する。
(あのチルタリス、強い……だけど、私達だって今まで強い敵と何度も戦って、その度にジンに鍛えて貰って来たんだ。絶対に負けない!)
「イッカネズミ!『じゃれつく』!」
イッカネズミは4体が一斉にその場を駆け出し、チルタリスに襲い掛かる。しかし、チルタリスはまるで空中で踊っているかの様な華麗な動きでイッカネズミを回避するとそのまま、イッカネズミの手の届かない空中へと舞い上がった。
「届かない……」
「身の程を知るんだ。チルタリス!『ムーンフォース』!」
「『ハイパーボイス』で迎え撃って!」
空中に舞い上がったチルタリスは、月のパワーを収縮させたピンク色の光球をイッカネズミに放つ。それに対してイッカネズミは、4体で密集隊形となると口を大きく開き、大声による振動で迎え撃ち相殺した。その際に発生した煙が上空に覆われ視界が見えない中、リコは次の指示を出し始める。
「今度はこっちの番!『ネズミざん』!」
イッカネズミは密集隊形を解くと、1体の大人の個体の上に残りの3体が乗り始める。そして一番下の個体が子供の個体を2体と大人の個体を投げ始めた。
「チルッ!?」
煙を突き抜け、1体目の子供の個体がチルタリスに命中する。然程のダメージではなかったが、突然の攻撃にチルタリスは驚愕し、高度を僅かに下げてしまった。
「今だよ!連続で『ネズミざん』!」
高度が下がれば命中率は一気に上昇する。二体の子供の個体に続き、大人の個体の攻撃も受け、チルタリスには徐々にダメージが溜まっていく。ここが攻め時と考えたリコは連続での『ネズミざん』の使用を決め、イッカネズミもそれに従い、地上に降りた瞬間、即座に大人の個体の上に乗り再び攻撃の準備に入った。
「…………」
グルーシャはその様子を冷たい眼差しで見ている。その様子に一抹の不安を感じたリコだったが、ここまで来ては止める事が出来ず、そのまま攻撃を続けさせる。
「「「「ふしゃぁっ!」」」」
「ち、チルッ!?」
またしても1体目の子供の個体が命中した。まだ体力には余裕はあるが、このまま攻撃を受け続ければ倒れるのは時間の問題である。そんな中、遂にグルーシャがチルタリスに新たな指示を出し始める。
「今だチルタリス!高度を下げろ!」
「えっ?」
なぜ、ここで高度を下げる必要があるのか。リコにはグルーシャの指示の意味が分からなかったが、チルタリスは自分のトレーナーを信じ指示に従う。
その結果……
「「「「ふしゅっ!?」」」」
「今だ!『ムーンフォース』!」
チルタリスの姿を見たイッカネズミは突如、動きを止めてしまう。その隙を見逃さず、チルタリスは再びピンク色の光球を作り出し動きを止めたイッカネズミへと放った。咄嗟に親の個体の2体が子供の盾となった為、子供は無事だが大人の個体に大きなダメージが入ってしまう。
「な、なにっ!何が起こったの?」
「どうして、イッカネズミは動きを止めたんだ?」
この状況を理解できていないのはリコだけでなく、ロイやドットも一緒だ。彼らは示し合わせたかの様にジンへと視線を向け、無言で解説を頼んでくる。
「……重なったんだよ」
「重なった?何と何が?」
「1つはチルタリス、そしてもう1つは子供の個体のイッカネズミだ」
イッカネズミが攻撃を止めた、いや、止めざるを得なかった理由はシンプルだ。チルタリスは最初の子供の個体の攻撃を受けたのと同時に地面に落ちていく個体と重なる様に高度を落とした。その結果、次の攻撃を放てばそのまま子供に命中するかもしれない。そんな考えが頭によぎったイッカネズミは動きを止めるしかなかったのである。
「そんな……」
「子供を盾にするなんて……」
「あぁ……実に上手い。あんな手を即座に思いつくとは見事としか言いようがないな。流石はパルデア地方最強のジムリーダーだ」
グルーシャの戦法にロイやドットは恐怖と同時に憤りや嫌悪感を抱いていたのだが、それとは対照的にジンは好意的に捉えている様だ。
「ちょ、ちょっと!なに言ってるんのさ!」
「あの人!子供を盾に利用したんだよ!」
「バトルフィールドに立った以上、大人も子供も関係ない。そもそも攻撃されるのが嫌ならバトルに出さなければいいだけの事だ」
「そ、それは……そうかもしれないけど」
「グルーシャさんはこの場で誰よりもプロフェッショナルに仕事を遂行しているだけだ。イッカネズミの様に複数で行動するポケモンの場合、それに合わせた戦略性が求められると同時に、複数だからこその弱点が存在する事くらいは、リコも理解していた筈だ。この一連の流れから読み解けるのは、リコは甘く、グルーシャさんが上手い。ただそれだけだ」
ジンの反論を聞いたロイとドットはそれでもまだ完全には納得していない様子だ。しかし、ジンの言う事にも一理あると感じたのかそれ以上、追及するような事は言わなくなる。その様な会話をしている内にもバトルは進行しており、チルタリスは再び、高度を上げ更なる反撃の準備に入っていた。
「『ぼうふう』だ」
チルタリスは両翼を羽ばたかせ強力な風を発生させる。その強風により、イッカネズミは吹き飛ばされない様にその場に全力で踏み止まるが、徐々にダメージが蓄積されていく。
「連続で『ムーンフォース』!」
動きを止めたイッカネズミに向かって、チルタリスは強風に乗せてピンクの光球を次々に発射していく。動きを抑制されたイッカネズミにはこれを避ける術はなく、次々に攻撃を受けてしまう。
「イッカネズミ!?」
連続で『ムーンフォース』を受け、爆煙が巻き起こる。煙が晴れるとそこには子供の個体を抱きかかえる様にして庇う2体の大人の個体の姿があった。体中の至る所に傷を負っており、端から見てもこれ以上の戦闘継続は難しそうである。
「「ふしゃぁっ!」」
リコもグルーシャもジンでさえもバトルはもう終わったと思っていた。しかし、大人に守られ辛うじて無事であった2体の子供の個体は、最後の意地を見せる。彼らは肩車をすると渾身の力でチルタリスに向かって投げつけた。
バトルが終わったと思い、油断し高度を下げていたチルタリスにイッカネズミは何とかしがみ付く事に成功する。無論、これだけでは大したダメージにはならないが、イッカネズミは最後の力を振り絞り鋭い前歯で激しく噛みついた。
「チルッ!?」
『いかりのまえば』の影響で体力を一気に半分まで削られたチルタリスは悲鳴を上げながら、体を必死に動かした。振り払われたイッカネズミは、フィールドにいるもう1体の個体へと叩きつけられ2体は同時に倒れ込んでしまう。
「……ありがとう。イッカネズミ」
今度こそ戦闘不能に陥ったイッカネズミをモンスターボールへと回収する。結果こそ、届かなかったがチルタリスに対して予想以上のダメージを与える事に成功した。十分な成果と言えるだろう。
「カルボウ!もう一度お願い!」
イッカネズミを回収したリコは再び、カルボウをフィールドへと出した。相性での不利は覆らないが、ダメージ量はチルタリスの方が断然、多い。どちらにも勝機はまだ残されている中、リコは切り札を使用し一気に勝負を決める事を決意する。
「カルボウ!満開に輝いて!」
取り出したテラスタルオーブにエネルギーを充填していく。やがて完全にチャージが完了するとカルボウの頭上へと投げつけた。テラスタルオーブが開くのと同時に無数の結晶がカルボウを包み込み、弾ける。そこには体は結晶化し、頭上の王冠には燭台を生やした姿となったカルボウの姿があった。
「ここでテラスタルか……」
相性の不利は覆らない。しかし、これにより炎タイプの技の威力は上昇する上、これまでのジム戦のパターンからチルタリスが氷タイプにテラスタルした際には有利に働く。テラスタルを使用するには悪くないタイミングと言えるだろう。
「カルボウ!『ひのこ』!」
カルボウは両手から炎を出現させた。テラスタルの影響もあってか、それは通常の『ひのこ』よりも遥かに大きい。その威力は上位互換である『かえんほうしゃ』を優に超える程の威力だ。
「『あまごい』!」
しかし、グルーシャも伊達に氷タイプのジムリーダーを務めている訳ではない。炎対策はここでも披露され、チルタリスが作り出した雨雲から落ちる雫により、『ひのこ』は徐々に威力を弱めていく。最終的にチルタリスに到達する寸前に完全に消火されてしまった。
「そんな!?」
「さっきも言ったよね?炎対策はしてあるって……勝負と雪山は似てるんだ。あっという間に姿を変える」
グルーシャは上着のポケットからテラスタルオーブを取り出すと、エネルギーを一気に充填し投げつける。チルタリスの頭上でテラスタルオーブは開き、無数の結晶に包まれていく。結晶が砕け散り、その中から全身を結晶化させ頭上の王冠に氷の結晶を生やした姿となって現れた。
「やっぱり、氷タイプのテラスタル……」
これはリコにとっても予想通りの展開だ。炎タイプであるカルボウが初めて有利な展開になれたのだが、チルタリスが『あまごい』を使用した事により、炎技の威力は大きく半減させられている。この状況でチルタリスを倒しきれるかは少々、怪しい所だ。
「……でも、やるしかない!カルボウ!」
「カルッ!」
「相性が変わろうと実力の差は変わらない。チルタリス!」
「チルッ!」
両者共に次が最後の技になるとトレーナーとしての本能が理解していた。それぞれ、己が有利になる為の準備は終えている。後は勝利の女神がどちらに微笑むのか、それを確かめるだけである。
「『テラバースト』!」
「『れいとうビーム』!」
激しい炎と氷の光線がフィールドの中央でぶつかり合う。互いに全力を出した渾身の技は、暫くの間、鍔迫り合いの状態が続く。
「いつだって絶望は隣り合わせ。震えながら眠って」
「絶対に負けない!カルボウ!」
チルタリスとカルボウは、それぞれ自分のトレーナーの想いに応えようと限界以上のパワーを出し切る。何時までも続くのではないかと思われた鍔迫り合いだが、遂に決着の時が来た。激しい炎は氷の光線を打ち破り、そのままチルタリスへと突き進みその全てを包み込んで行く。
「カルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!」
カルボウの勝利の雄叫びと共に、チルタリスは体に炎による大量の火傷を負いながらフィールドへと落下した。フィールドに落ちるとテラスタルは解除され、通常の状態へと戻って行く。その姿から戦闘不能な状態なのは誰の目から見ても明らかであった。
勝負を分けたのは、相性・同タイプにテラスタルした事による技の威力の上昇など様々あるが、それでも一番の勝因は負けたくないという強い意志なのだろう。トレーナーを勝たせたいという騎士の心を持ったカルボウ、友人たちに並びたい・自分の師であり最愛の人物からの教えを無駄にしたくないと思ったリコ、2人の強い意志が勝利を手繰り寄せたのは変える事の出来ない真実だ。
「……負けたよ。僕の氷、溶かされたか」
「あっ……ありがとうございます!カルボウ!やったね!」
「カルゥ~!」
勝利を宣言され、高揚したリコとカルボウは抱き合いながら勝利の喜びを分かち合う。苦戦し、何度もヒヤリとする場面はあったが、それでも最終的にパルデア地方最強のジムリーダーに勝利できたのだ。十分すぎる戦果と言えるだろう。
「リコ」
「は、はい!」
リコ達が喜びを分かち合う中、グルーシャはチルタリスをモンスターボールに回収し近づいて来る。
「逆境を物ともせず、未来を切り開く決意。昔の自分を……いや、何でもない。それよりもテラスタル研修の結果を伝えるよ」
リコはごくりと唾を飲み込んだ。バトルに勝利できたのだ。きっと合格できると思っても、やはり緊張までは捨て去る事は出来ないらしい。
「合格だ」
「っ!」
「僕は真剣勝負の結果を最も重要視する。バトルに負けていたら、どれだけ善戦しても不合格にするつもりだったけど……負けちゃったからね。文句なしの合格だ」
グルーシャはスマホロトムを取り出し操作する。するとリコのスマホロトムに反応があり、応用テスト合格のスタンプが押されていた。
「あ、ありがとうございます!」
「リコ~~~~おめでとう!」
「凄いバトルだった!」
「これで全員、無事、合格か。此処まで来た甲斐があったな」
ジンの言う様にリコも無事に合格を貰えた為、これで3人共、オレンジアカデミーに戻ればテラスタルオーブを貰える事が決定した。バトルに於いても貴重な切り札を1つ手に入り、今後のライジングボルテッカーズの活動でも重宝される事だろう。
「あんた、ジンだよね?」
「えぇ、そうですが?」
「アオキさんとのバトル、僕も見てたよ。いつか、あんたともバトルしてみたいな」
「それは是非とも。俺は今すぐにでも構いませんよ」
「ちょっ!?」
また悪い癖が出たと思ったリコ達は、ジンを止めようとするが、その必要はなかった。なぜならば、ジンの誘いをグルーシャは首を横に振って断ったのである。
「今はまだいい。チルタリス達を休ませなくちゃいけないし。それに、あんたと戦うならこっちも本気で準備して挑む必要があるしね」
今、バトルしても敗色濃厚だとグルーシャは理解している。だからこそ、今はまだ挑まない。彼がジンに挑戦しに来る時があるとすれば、それは何かしらの勝機を見出した時なのだろう。
「……それじゃあ、仕方ないですね」
今はまだ慌てて勝負をする必要はない。グルーシャは勝利にどこまでも拘る、ジンと同じ様な考え方を持つ人物だ。才能も有り勝負に貪欲な彼であれば、きっといつの日か自分に挑みに来る。その時が来るのを、唯々楽しみにして待てばいいのだとジンは自分を律した。
「寒いのが嫌じゃなかったら、またおいで……それじゃ」
グルーシャはそう言い残し、バトルフィールドを離れていく。その顔はバトル中に見せていた冷たい印象を感じさせる無表情とは違い、雑誌に載っていた嘗てスノーボーダーとして活躍していた時の様な明るい笑顔だった。
という訳でリコも無事に勝利して合格です!やっぱり勝って終わらせたいですし、実際、書いてて楽しかったですw
☆10
ディセプティコンさん、ノーラ・バーンさん
高評価ありがとうございます
作品の要望などあれば気軽にメッセージを送ってください