アオハルが存在しない設定について何人かの方からメッセージを貰いました。
リコロイのアニメとゲームに共通点が多いので、仕方ないとは思うのですが、この小説はサトシのいたアニメの世界という設定でここまで書いています。そこにゲームの設定まで加えると矛盾だらけ(ゲームとサトシのアニポケの世界は完全に別々な上にゲームは時系列が示唆されている)になってしまうので、このままアオハルはいない設定で行こうと思います
最後の応用テストを無事に終えたジン達。当初は、そのままオレンジアカデミーへの帰路に就く予定だったのだが、天候がやや悪い方へと変わりつつあった為、ナッペ山の宿泊施設に一泊する事となった。
「「「…………」」」
ここまでの登山やアルクジラ滑り、ジム戦などで体力を使い果たしたのか、それぞれベッドに入った途端、気絶するかの様な勢いで眠っている。
(まぁ、今日は色々あったしな……)
3人共、個人差はあれども其々が旅には慣れ始めた様子だが、身体作りや体力というのは一朝一夕で身につくものではない。ここまでの疲労を考えれば、この状況も当然と言えるだろう。3人に出会う前の、ホウエン地方を旅していた頃のジンであれば、自分の旅の足手纏いと認識していたと考えると、我ながら傲慢だったなと自嘲する。
(……おや?)
根本的な鍛え方が違うという事実も相俟って、3人に比べて体力に余裕があったジンは、ポケモンレンジャー仕込みの気配の消し方を実行しながら部屋を出ようとするが、ふとして、寝ているリコに視線が釘付けになった。とても寝相も良く、鼾などもかいていないのだが、彼女の口から涎が垂れていたのだ。
「…………」
普段では見られないリコの姿を見たジンは無意識の内にスマホロトムをマナーモードにし写真を一枚撮影し、数分間、動画の撮影も行ってしまう。一通りの事を終え、満足すると写真と動画を大切そうに保存する。
(……明日、リコに見せよう)
その時、果たしてどんな反応を見せてくれるのか、その姿を想像しただけで、ジンの『いたずらごころ』が刺激された。しかし、楽しみは明日に取っておこうと自分を窘めつつ、気配を消したまま部屋の外へと出ていく。
「さて……どうするかな?」
折角の自由な時間だ。いつもの様にバトルの特訓をするのも良いし、ナッペ山から眺める星空を満喫しながらホットモーモーミルクで一杯するのも乙なものだろう。または、先程のリコとグルーシャのバトルの映像を編集し今後の課題を明確化させるという選択肢もある。どうするべきかロビーで悩んでいると1人の人物がジンの下へと近づいて来た。
「失礼。夜分、遅くに失礼致します」
ジンに話しかけて来たのは、特徴的な髪型で左目を隠している高齢の男性だった。気配を感じ取った時点で只者ではないと察してはいたが、改めて視認しても観光目的の登山客には見えず、ジンはその老紳士が纏う雰囲気や佇まいから、改めて対象の警戒を強めた。
「ジン様でいらっしゃいますね?」
「……えぇ、そうですが、貴方は?」
「申し遅れました。私の名はハンベル。ダイアナの古い友人にして、エクスプローラーズに所属している者です」
ダイアナの友人、エクスプローラーズなどと聞き捨てならない単語が同時に複数飛び出した事で、ジンの警戒心が迎撃態勢を指示し、ハンベルから少し距離を取りいつでも動き出せる様に戦闘準備へと移行する。
「まさか、こんなに早く来るとはな……」
確かに彼らと結んだ同盟期間は応用テストを受け終えるまでだ。リコが無事、応用テストを終えた以上、同盟は解消されこれ以降は、以前と同じ様に敵対関係へと戻っている。いつ襲われても文句を言う事は出来ないが、もう少し余裕を持っても良さそうなものである。
「お待ち下さい。敵対する意思はありません」
ハンベルは両手を上げ、敵意はない事を示すと、今回ここに来た目的を語り始める。
「今回、私は話し合いをする為にここに来ました」
「話し合いだと……まぁ、いい。この寒空の下、わざわざお越し頂いたんだ。聞くだけ聞きましょう」
「感謝致します。ジン様……貴方をエクスプローラーズにスカウトさせて頂きたいのです」
「……………………はぁっ?」
それはジンでさえも全く予想していない提案だった。エクスプローラーズは、ここまで幾度も対立し敵対してきた組織だ。メンバーには多少、見込みがあると評価している部分もあるが、それはそれとして今からライジングボルテッカーズを裏切り、彼らに味方する事などあり得る筈もない。
「ふざけてるのか?」
「いいえ、私は至って真面目に話しております」
「だったら、尚更、性質が悪いな。幾ら年上とは言えども、下らない冗談に付き合う程、暇じゃないんだ……。この場を早急に立ち去るか、それともリコ達の眠りを妨げる敵として沈むか──好きな方を選べ」
ジンの表情は変わらない。睨み付けた訳でもない。それでも、場の空気を支配して、相手を跪かせる程の威圧感がジンから解放された。リコ達の前では決して見せなかったジンの秘められた一面に、冒険者として長い経験を持つハンベルは、無意識のうちに後退りしてしまった。その事実に、思わず冷や汗が流れる。
(これ程までとは……)
ジンの事を詳しく調べた為、彼の事はよく知っているつもりだった。しかし、こうして直接、相見えた事で自分の認識が如何に甘かったのかを痛感し始める。少なくとも、アメジオと同年代の少年が発して良い威圧感ではなく、エクスプローラーズの幹部達でも比にならない。
「…………はははっ!冗談だ。そんなに怯えないで下さいよ」
先程までの鋭い殺気は突如として消え去り、ジンは悪戯に成功した少年の様な笑みを浮かべ始めた。その変貌ぶりにハンベルが困惑していると、ジンは満足したのか真面目そうな顔をしながら、改めて話し始める。
「さて、先程の提案なんだが……貴方も俺が素直に受け入れるとは思ってないだろう?何かしら、俺を説得する為の土産があるんじゃないのか?」
「……お見通しという訳ですか」
「俺でなくても分かるよ。エクスプローラーズの規模は未だに分かっていないが、貴方程の人物を使い捨てにする程、人材に余裕があるとは思えないしな」
ハンベルは相当な力を持つポケモントレーナーである事をジンは見抜いていた。詳しい実力までは流石に分からないが、ジンの見立てでは初めて出会った頃のアメジオよりも上である事は間違いない。そんな人物を使い捨ての駒にしたりはしない筈だ。その程度の組織であれば──何時でも潰せる事だろう。
「……えぇ、その通りです」
「やはりか……その土産の内容には興味がある。だから、少しだけなら話し合いに応じても構わない」
予想以上にジンは話し合いに乗り気な様子を見せる。話し合いに持ち込むまでが一番の難関だと予想していたハンベルにとっては有難い展開だった。
「では、早速ですが……」
「あぁ、待った待った」
「……何でしょうか?」
「確かに貴方の土産には興味はあるが、まずは貴方がどんな人間なのかをもっと知っておきたい」
「はっ?」
「貴方がどれだけ本気なのか、本当にダイアナさんの友人なのかを確かめたい……その為に、どうするべきか。貴方もトレーナーなら分かるだろう?」
ジンはそう言うとポケットからモンスターボールを取り出しハンベルへと向けた。要するにこれ以上、話をして欲しいのであれば、バトルをした上で自分を納得させろと言っている。ハンベルもその事を察した様で上着の内ポケットからモンスターボールを取り出した。
「ポケモンセンターにバトルフィールドがありましたね」
「あぁ、続きはそこで」
ハンベルはその場で軽く頭を下げると、先に宿を出ていく。その姿を見たジンはもう1つモンスターボールを取り出し、中に入っていたポケモン達をその場に出した。現れたのは、サーナイトとライボルトの2体だ。サーナイトはエスパー能力、ライボルトは優れた嗅覚を持っている。周囲を警戒をする上でこれ以上、優れたポケモンはジンの手持ちに存在しない。妥当な選択と言えるだろう。
「2人共、ここに残ってリコ達の護衛を頼む。緊急事態に陥った場合は直ぐに俺に知らせてくれ」
可能性は低いがハンベルが囮で、本命が別にいる可能性がある以上、疲れ切ったリコ達を放置するのは危険だ。もしくはハンベルにそのつもりはなくとも、スピネルならばその状況を利用する可能性は完全には捨てきれない。
「サナッ!」
「ライボーッ!」
2体の頼もしい返事を聞いたジンは満足そうに頷くと、ハンベルに続く様に宿の外へと出る。外では雪が降り注ぐ中、ポケモンセンターへと向かう。数分後、ポケモンセンターに辿り着き、そこに隣接されているバトルフィールドではハンベルが闘志を漲らせていた。溢れ出る強者のオーラを見たジンは楽しそうな笑みを浮かべると反対のトレーナーゾーンへと入る。
「待たせたな」
「いえ……それでは、始めましょう!」
ジンとハンベルはそれぞれモンスターボールをフィールドへと投げつけた。それぞれのボールがフィールドの中央付近で開き、中からポケモン達が現れる。
「ヨノッ!」
「メノォ!」
ジンはユキメノコ、そしてハンベルは相棒のヨノワールだ。互いにゴーストタイプを持っており、相性はほぼ互角。ただし、ユキメノコはジンが最も新しくゲットしたポケモンである為、手持ち内で最もレベルが低い上に特訓以外でのバトルはこれが初めてだ。
(……いいヨノワールだ)
ダイアナの相棒であったウインディと比べても遜色ないレベルであるのは間違いないだろう。ヨノワールを見れば、トレーナーであるハンベルがどれ程、大事に育て共に試練を乗り越えて来たのかが伺える。
「ユキメノコ……データにはありませんでしたね」
「あぁ、最近、ゲットしたんでね。悪いんだが、彼女の初陣の相手を務めてやって欲しい」
「……私如きでよければ、喜んで相手を務めさせていただきます」
予想外の選出ではあったが、これをハンベルはチャンスと捉えた。如何にジンとは言え、ゲットしたてであるならば育成、トレーナーとの連携などに穴があるかもしれない。無論、それは僅かな可能性だと理解してはいるが、それでも僅かに見えた攻略の糸口をハンベルは心から歓迎した。
「その代わり、勝利は譲りません。ヨノワール!『シャドーボール』!」
ヨノワールは掌に黒い光球を生み出すと、ユキメノコに向かって投げつける。ユキメノコは迫って来る光球を前に一歩も動く様子を見せない。攻撃がぶつかったと思われた瞬間、ユキメノコはまるで蜃気楼のように消え去り、『シャドーボール』はそのまま何事もなかったかの様にすり抜けていく。
「なにっ!?」
ハンベルが驚愕していると、ユキメノコは空中に姿を現した。まるで踊っているかの様な動きで宙を舞い、消えたり現れたりを繰り返す。その姿はこの銀世界の影響もあり、正に雪女の様だ。美しさと共にどこか妖艶さを感じさせ、ゴーストタイプに相応しい姿である。
「これは……成程。特性『ゆきがくれ』ですか」
特性『ゆきがくれ』、天気が『ゆき』の時、相手の技の命中率が0.8倍になる効果がある。ジンがこのバトルでユキメノコを選出したのもこの特性があったからだ。
「お見事です。この天気、そしてバトルフィールドはユキメノコの力を最大限にまで引き出してくれる」
本来なら『ゆきげしき』で雪を降らせなければ発動しない特性だ。しかし、ナッペ山は急な天候の変化で、今夜一晩は雪が降り続ける。時間制限の心配もなく特性を使い続ける事が可能、これはこの上ないアドバンテージである。
「今度はこっちから行くぞ。ユキメノコ!『かげぶんしん』、続けて『ふぶき』だ!」
ユキメノコは複数の分身体を作り出すと、ヨノワールを囲う様に陣を取る。そのまま両腕を前に突き出し、激しいブリザードを発生させ、四方からヨノワールを攻め立てる。
「ヨノッ!?」
ヨノワールは両腕を体の前で組み、ガードを固めた。しかし、降り注ぎ続ける『ふぶき』はヨノワールの体力を着実に奪い続けていく。
「ヨノワール!『ゴーストダイブ』で脱出しろ!」
このままでは、体力を削られ続け危険な状態に陥る。そう考えたハンベルの指示を受け、ヨノワールは身体の真下に闇を発生させその中に逃げ込んだ。
「ヨノッ!」
『ふぶき』から抜け出したヨノワールは、遥か上空から姿を現し落下の勢いを利用してユキメノコに拳を叩き込む。しかし、攻撃したのは分身体であり、またしてもユキメノコは姿を消してしまった。
「ヨノッ!?」
「メノ~♪」
ヨノワールは攻撃が再び外れてしまい、驚愕した様子を見せる。ユキメノコはヨノワールの背後に姿を現すと、振袖を彷彿とさせる片手で口元を覆い、クスクスと笑い始めた。
「ユキメノコ!『おにび』だ!」
「っ!ヨノワール!もう一度『ゴーストダイブ』!」
ユキメノコは紫色の不気味な炎を生み出し、ヨノワールに向けて放つ。再び、『ゴーストダイブ』で姿を消そうとしたヨノワールだが、素早さで劣る上に完全に不意を突かれてしまった為、躱しきる事が出来なかった。
「ヨノォッ!?」
『おにび』を受け、ヨノワールの体を炎が包み込んだ。『おにび』そのものにはダメージはないが、火傷状態になった事により、継続的なダメージを今後は受ける事となる。更には物理技の効果も半減され、ヨノワールにとってこの上なく不利な状況だった。
(まさか、ここまでとは……)
ハンベルはジンの事を過小評価したつもりはなかった。十分に準備を重ね挑んたつもりだ。しかし、蓋を開けてみれば、ゲットしたばかりというポケモンにここまで追い詰められている。
「このままでは終われない!ヨノワール!『シャドーパンチ』!」
「ヨノッ!」
火傷によるダメージを受けているにも関わらず、ヨノワールはトレーナーであるハンベルの指示を受け、影を纏った拳を突き出した。それと同時に拳型の影を発射され、『かげぶんしん』で作られた分身体を飛び越え、本体であるユキメノコに命中する。
「……やはり、その技を持っていたか」
ユキメノコにとって効果抜群な上に、『ゆきがくれ』による回避率を無視した必中の技。ヨノワールを見た瞬間にジンが最も警戒したのがこの『シャドーパンチ』だ。この技を連発されれば、勝負はかなりきついものになっていたかもしれない。
「メノォ~!」
『おにび』の効果により、『シャドーパンチ』の威力は大幅に下がっていた。その為、ユキメノコは効果抜群にも関わらず、それ程のダメージもなく立ち上がっている。
(先に『おにび』を使用して正解だった……しかし、連発されても面倒だな)
「ヨノワール!連続で『シャドーパンチ』!」
「『まもる』でガードしろ!」
予想通り、ヨノワールは両拳に影を纏わせ、連続で『シャドーパンチ』を撃ち出した。ユキメノコは緑色のオーラを張り防御に徹する。いくら威力が下がっていようとも、これだけ何度も効果抜群の技を受ければ大ダメージとなるのは間違いない。ジンとしてはそれだけはなんとしても回避する必要がある。
「ユキメノコ!『かなしばり』!」
「なにっ!?」
ユキメノコは目を青く光らせ、ヨノワールを睨みつけた。するとその瞬間、拳を振りかぶって次の一撃を放とうとしていたヨノワールの動きが強制的に止められ『シャドーパンチ』を封印されてしまった。これで暫くは厄介であった技を使用する事が出来なくなる。
「くっ!?!ヨノワール!『かなしばり』が解けるまでの間、『ゴーストダイブ』で回避を続けろ!」
「そうはさせない!『あやしいひかり』だ!」
ヨノワールが動き出すよりも早く、ユキメノコは動き始める。両手を前に突き出し、そこから『あやしいひかり』を撃ち出した。ヨノワールは『あやしいひかり』に惑わされ混乱状態に陥ると訳も分からず自らに拳を突き立て始める。
「ヨノワール!?落ち着きなさい!?」
「中々、楽しませて貰いましたよ……だが、そろそろ終わらせようか」
ジンはテラスタルオーブを取り出し、エネルギーを収縮させる。やがて、完全にエネルギーが溜まり切るとユキメノコの頭上へと目掛けて投げつけた。テラスタルオーブが開くと無数の結晶がユキメノコを包み込み、弾ける。体を結晶化させ、頭上に幽霊のついた王冠をかぶったユキメノコが現れた。
「これで終わらせるぞ!『たたりめ』!」
ユキメノコは両腕を空に向かって伸ばす。両手の間には、紫色の炎が生み出され、それは徐々に大きさを増していきヨノワールを優に超える程の大きさへと膨れ上がって行く。状態異常の相手への使用、そして同タイプにテラスタルした為か、通常の『たたりめ』よりも遥かに巨大である。
「メノォッ!」
その巨大な紫の炎をユキメノコは咆哮を上げながら放つ。その炎は真っすぐ、未だに混乱状態であるヨノワールへと向かう。ハンベルの必死な叫び声も届くことはなく、ヨノワールは混乱状態のまま炎に飲み込まれる。その後、周囲にあった雪を全て吹き飛ばす程の巨大な爆発を引き起こした。
「ヨノワール!?」
爆煙が晴れると、その中央ではヨノワールが仰向けとなり倒れていた。周囲の雪は先程の炎により完全に溶けており、『たたりめ』が如何に強力であったのかが窺える。
「……残念ですが、ここまでの様ですね」
「対戦ありがとうございました。ユキメノコにとって、貴重な一戦になりましたよ」
初の実戦、その相手としてヨノワールは悪くない相手だった。一般のトレーナーよりも遥かに強く、この勝利はユキメノコの自信にも繋がった筈である。まだ課題もあるが、今日までの特訓の成果を見る事が出来たのも非常に大きい。
「メノ~♡」
バトルが終わったユキメノコはジンの元まで飛んでくる。そのまま背後に回り込むと両手をジンの首に回し、過剰なまでの愛情表現をしてくる。ジンは首元のひんやりさせつつもユキメノコに手を伸ばし、その頭を何度も撫でた。
「お疲れさん。戻ってくれ」
「ヨノワール。ご苦労様です」
労いながらも、そろそろ首が冷たさが限界だと感じ始めたジンはユキメノコをモンスターボールへと回収する。同じ様にハンベルも倒れているヨノワールを回収し、モンスターボールをポケットにしまうと神妙な面持ちでジンの事を見て来る。
「完敗です。ジン様、貴方の実力は、理解しているつもりでしたが……甘かった様です。貴方とバトルするのであれば過剰なまでの念入りな準備が必要でした」
「流石にそれは買い被りが過ぎる気もしますが……まぁ、リベンジするつもりがあるならいつでも受け付けてますよ?」
「ふふっ……では、機会がありましたら。といっても、昔ほど、若くありませんのであまり期待しすぎないで下さい」
そう言うとハンベルは小さくお辞儀をし、その場を離れようとした。ジンはそんなハンベルの肩に手を伸ばし、その場から動けない様に留まらせる。
「どちらに行かれるんです?」
「いえ、バトルに負けてしまいましたので、このままここを離れようかと……」
「それは駄目だ。まだ、貴方から話を聞いていないので」
「……はっ?」
ハンベルは元々、ジンと話をする為にこの地にやって来た。しかし、交渉は決裂した為、こうしてポケモンバトルにて決着をつける事となったのだ。それにも拘わらず、負けた自分の話を聞いてくれるという。ハンベルは思考が追いつけず、途方に暮れてしまう。
「ハンベルさん……どうやら、勘違いしている様ですね。俺はバトルに勝ったら、話を聞くとは一言も言っていませんよ?」
そう、ジンは宿でこう言った。『貴方がどれだけ本気なのか、本当にダイアナさんの友人なのかを確かめたい』と、つまり今回のバトルは、ハンベルの覚悟を試すのが主な目的だった。
「試す様な物言いとなってしまい申し訳ない。それを承知の上で、貴方の覚悟を認めます。そして、ダイアナさんの友人であるという事もね」
バトルをすれば、そのポケモンやトレーナーがどんな人物なのか大凡の見当がつく。少なくともジンにはハンベルの確かな覚悟と誠実な人柄が伝わって来ていた。ジンにとってはそれだけで、ある程度は信じるに足る根拠となる。
「これは……なんと言っていいのやら」
完全にジンに手玉に取られていたと理解したハンベルは困ったような顔をしながら小さく笑ってしまう。まさか、教え子であるアメジオと同年代の少年にここまで揶揄われる事は想定していなかった様だ。
「言いたい事を言えばいい。俺はいつもそうしていますから、貴方も遠慮する必要はありませんよ?」
「では……お言葉に甘えさせていただきます」
ハンベルは小さく深呼吸をすると覚悟の決まった顔つきでジンの事を真っすぐに見つめる。
「今回、お話したい内容、それはラクアに眠るある物質の事です───その名を『ラクリウム』、人間とポケモン、双方に繁栄をもたらす可能性を秘めた謎の多い物質です」
次回は、ハンベルとジンの話し合いからアメジオとスピネルとの再会するまで書くつもりです。
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