ポケットモンスター 新たなる冒険   作:malco

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ポケモンの新作発売されましたね~私はswitch2が届くまではやれないのですが、皆さん、楽しまれてますか?


ラクリウム

 

「ラクリウム?」

「はい、それこそが我々の求める物です」

 

 幼少の頃より、オダマキ博士の研究所に通い詰めていたジンは、現在でも自己学習を怠らずに定期的にレポートを書き纏める習慣がある程であり、ポケモン博士のフリードからも太鼓判を押される程には博識であった。しかし、そんなジンを以てしても、ラクリウムなどと言う物質は一度も聞いたことがなかった。

 

「未だ謎の多い物質ですが、ポケモンの持つ潜在的なパワーを引き出す生命の源とでも言えましょうか。更にはポケモンに限った話ではなく、使い方次第では人間の長寿や若さを維持する事も可能な代物です」

「それがラクリウム……」

 

 ハンベルの言う様な物質が本当に存在するのであれば、確かに興味深い事この上ない。有効活用することが出来れば、多くの人間やポケモン達の力になる事は間違いないのだろう。

 

「興味深い話ですが、俄かには信じ難いな……」

「では……こちらをご覧ください」

 

 ジンが素直に信じない事は織り込み済みであったのか、ハンベルは自身のスマホロトムを操作し画面に1枚の古びた写真の画像を表示させる。その写真の中央には3人の男女、そして3体のポケモンが写っている。その中にはジンにも見覚えるの姿が存在した。

 

「ルシアス!?」

 

 中央にいる人物は嘗てダイアナに見せられた写真の人物であり、古の冒険者と称えられるルシアスだ。そして、彼の相棒である黒いレックウザの姿もある。更にはそれだけではない。ルシアスの隣にいる女性が抱えているのは間違いなく、現在、ジン達が共に旅をしているテラパゴスだ。

 

(いや、それだけじゃない……あの男性の顔にその背後のポケモンは……)

 

 もう1人の男性、その人物はジンにとって馴染み深い人物と酷似していた。更にはその背後にいる大蛇の様な姿をしたポケモン、伝承では『ちつじょポケモン』と称されているジガルデだ。ジンも資料でしかその姿を見た事がないカロス地方に伝わる伝説のポケモンである。

 

(これは……思っていた以上に当たりかもな)

 

 ハンベルの覚悟を認めた事もあるが、何か情報を得られるかもしれないという打算もあり、この話し合いの場を設けていた。ハンベルが去っていくのを静観する選択肢も当初はあったが、この情報の多さから見てこうして話し合いをしたのは正しい判断であったと確信する。

 

「今よりも100年前、我が主ギベオン様がルシアス、そしてもう1人の仲間リスタルと共にラクアを目指しエクスプローラーズを結成しました。これはそれを記念し撮影した写真です」

「──!?」

 

 流石のジンも思わず絶句する。ルシアス、ギベオン、更にはエクスプローラーズ結成の経緯、今まで知る由もなかった情報が一度に流れ込んでくる。持ち前の聡明さを以て、それらの情報を頭では理解出来たが、そこから導き出される事実について、ジンの感情が「有り得ない」と否定していたからだ。

 

「いや、待ってください。そのギベオンという人物がハンベルさんの主という事は……まさか!」

「えぇ、お察しの通り。ギベオン様は今でも健在です。これも偏にラクリウムの恩恵と呼んで差し支えないでしょう」

 

 その言葉の意味を理解して、自分が知り得ない未知の世界を知った瞬間、ジンは思わず笑みを浮かべていた。まさに事実は小説より奇なりと言ったところか。本来であれば決して有り得ない話だが、この世界にはそうした有り得ない事が現実に起こる事をジンは知っている。そうした現実を既に経験しているのだから。

 

「……はははははっ!面白い!実に面白い!その話が本当ならラクリウムは既存の科学の力など遥かに超越している!俄然、興味が出てきましたよ!」

 

 ハンベルがこの様な嘘をつくとはジンには思えない。少なくともラクリウムとその効果については本当の事を話しているとジンは確信した。ここまで話を聞いてしまった以上、ジンの知識欲を止める事はもう誰にでも出来ない。

 

「話を続けても構いませんか?」

「……失礼しました。お願いします」

「承知しました……長い冒険の末に彼らはラクアへと辿り着きました。しかし、お2人はラクアにて発見したラクリウムを巡り対立された。ルシアスはラクリウムの価値を理解せず、その利用に反対したのです」

 

(話を聞く限り、ラクリウムは夢の様な物質だ。これだけの物質を利用しない可能性となると、メリットを超える程のデメリットが存在したか、或いは人間の手には負えない代物であったという事か……?)

 

 色々と考察する事は可能だが、現段階ではどれも確実とは言い難い。自分自身の目で確認しなければ正しい答えには辿り着く事は不可能な様だ。

 

「更にルシアスは、レックウザを通してギベオン様の相棒であるジガルデを操りラクリウムを封印させようとしました……奴はギベオン様を裏切ったのです。その結果、ラクアは甚大な被害を受け、ルシアスはラクアと運命を共にしました。ギベオン様もまたラクアの崩落に巻き込まれ命すら危ぶまれた。しかし、ラクリウムの力により九死に一生を得たのです」

「ふむ……」

 

 ハンベルの言葉には節々にルシアスへの悪意の様な物を感じさせる。しかし、今の話は全てギベオンの主観を通しての話だ。その話の全てが真実かどうかの判断は現段階では難しいが、ハンベルのギベオンに対する忠誠心については信じていいだろう。

 

「ギベオン様は失意の中、僅かなラクリウムのサンプルを持ってラクアを脱出されました。世界中のポケモンと人類の未来の為、エクシード社を作りラクリウムの研究を続けられたのです」

 

 エクシード社、その名前はジンも知っている。カントーのシルフカンパニー、ホウエンのデボンコーポレーションなどにも引けを取らない世界でも有数の大企業だ。特にポケモンに関する研究に力を入れており、ラクリウムの研究には最適な環境と言えるだろう。

 

「さて、ここまでの話を信じて頂けたでしょうか?」

「そうですね……疑問はまだ多く残っていますが、貴方がこんなポケウッドのB級SF映画の様なフィクションを語るとは思えない。一先ずは信じますよ」

「感謝いたします。その上でもう一度、お訊ねしたい……人類とポケモンの未来の為に、我々に力を貸しては頂けないでしょうか?」

 

 ハンベルは目的であったエクスプローラーズへの勧誘を再度行う。それに対してジンは目を瞑り深く考える素振りを見せた。最初は何の躊躇いもなく断っていたが、ハンベルの話を聞き好奇心と知識欲が強く刺激された様である。

 

「貴方の話は大変、興味深い内容でした……それでもやはり、仲間達を裏切る事は出来ない」

「左様でございますか……」

「だが、貴方から提供して頂いた情報はとても価値があった。そこで折衷案を提案させて貰いたい」

「……内容は?」

「エクスプローラーズ、そしてライジングボルッテカーズ……いや、より正確に言うなら、俺との同盟の継続」

「っ!……宜しいのですか?」

 

 エクスプローラーズにとって最大の脅威はジンだけだ。それ以外のメンバーにも決して油断はできないが、それでもジンとは比べ物にならない。そんな彼が敵対しないだけでエクスプローラーズとしては大助かりだ。

 

「あぁ、詳しい内容は今まで同じ。エクスプローラーズの犯罪行為にある程度は目を瞑る。無論、俺や俺の友人、仲間達に手を出すなら、その時点で同盟は破棄。それでいいですね?」

「結構です。その同盟の期限につきましては?」

「そうですね……では、六英雄を全て見つけ出し、テラパゴスを完全に覚醒させるまでという事で如何ですか?その方が貴方達にとっても色々と都合が宜しいでしょう?」

「……どういう意味でしょうか?」

「誤魔化さないでいいですよ。今までの六英雄と接触した際のテラパゴスの反応や貴方達の動きから見て、ラクリウムを手にする最後の鍵、それが完全に覚醒したテラパゴスにある。その程度の察しは付いています」

「……流石の慧眼。御見それしました」

「その称賛は素直に受け取ります。──それと、ラクアに無事に辿り着いても即座に敵対するつもりはないので、そこもご心配なく。俺自身の目でラクリウムを見るまでは無闇矢鱈に戦いを挑むつもりはありませんが……。まぁ、そこは状況次第なので十分に準備をして待ち受けていて下さい」

 

 ジンの言葉を受け、驚愕からハンベルの細長い目は僅かに開かれる。

 

「な、何を言って……」

「ん?何って……エクスプローラーズのボスが本当に100年前から健在のギベオンさんだとするならラクアの場所は既にご存じなのでしょう?だったら、監視と何かあった際にいつでも動き出せる様に研究所、もしくは前線基地の様な物を近くに作っている筈だ。その監視の目を掻い潜って俺達がラクアに入る事は恐らくできない。つまり、俺達はいずれ、ラクアで出会う運命にある……その時、俺達が敵か味方かは分かりませんがね」

 

 テラパゴスが最後の鍵になる事がバレるのはハンベルにとっても予想の範囲内だった。これまで散々、狙ってきた上にこうしてラクリウムの事まで話せば、嫌でも気づく。しかし、エクスプローラーズがラクアの場所を既に把握してる事はトップシークレットであり、ハンベルも教えるつもりはなかった。それにも拘わらず、ジンは僅かな情報からそこまで読み取ってしまった様である。

 

(やはり、この少年を敵に回すべきではない……)

 

 ジンを下手に敵に回せば、計画の全てが覆される可能性があるとハンベルは再認識した。幸いにも今のジンはまだ見ぬラクリウムという物質に興味があるようで、敵対心の様な物は感じない。ならば、今はこの良好な関係を続け、ラクアでも自分達に協力する様に促せる関係を作り上げる事が急務となるだろう。

 

「……では、ギベオン様にはその様にお伝え致します」

「えぇ、またいずれお会いしましょう」

 

 ハンベルはジンに別れを告げ、その場を離れた。そして、速やかに血の気の多い幹部達にジンと敵対する事を控える様に連絡するのだった。その際、一部のメンバーから強い反発もあり、それを宥める為に彼の心労は益々増える事となる。それでも、ハンベルは確信していた。エクスプローラーズの幹部達が総力戦を仕掛けても、ジン一人を本気にしてしまえば、それは最早バトルにすらならない。──此方側が為す術もなく蹂躙されるだけだと。

 

 

 

*** 

 

 

 

 ハンベルと密会した翌日、ジン達は天候が安定したナッペ山を下り、オレンジアカデミーへと帰還する準備をしていた。

 

「3人共、忘れ物ないな?一度、下山したら簡単には戻ってこれないぞ」

「えっと~……うん。大丈夫だよ!」

「準備ばっちり!」

 

 3人共、昨晩、しっかり休養を取った為、疲れは見られない。それどころか、一晩経った事で改めて全員で無事、テラスタル研修を合格した事を実感できたのか心なしか普段よりも笑顔が晴れやかであった。

 

(昨日の事はまだ話せないな……)

 

 荷物を纏め、部屋から出ていく3人を見ながらジンは心の中でそう呟く。昨夜の事を話したところで現状どうする事も出来ない問題という事もある。フリードからの連絡でブレイブアサギ号の改修もほぼ終えており、研修終了後にオレンジアカデミーで合流する予定となっている為、その時に纏めて話した方が手早く済むと判断した。

 

「ここを下って行けばナッペ山の麓まで降りられるみたい」

「あ~もう雪山とお別れか……また雪合戦とかハルクジラ滑りやりたいな~」

「今度、来るときは私もやってみたいな~その時はジンも一緒に乗ってくれる?」

「あぁ、構わないぞ。面白そうだったしな。今度、来た時は……ん?」

 

 談笑しながらナッペ山の麓を目指していると、突如、何か視線の様な物を感じたジンはその場で立ち止まり、視線だけを上空へと向ける。しかし、そこには人はおろかポケモンの姿も見られなかった。

 

「ジン?どうしたの?」

「……いや、何でもない。先を急ごう」

 

 釈然とはしなかったが、姿が見えない以上は気にしても仕方がないと判断し、ジン達は再び、歩き始める。そのまま数十秒程、時間が経過するとジンが見上げていた空に1体のポケモンが『テレポート』を使用し、姿を現した。

 

『危ない危ない。不用意に近づきすぎですよ』

 

 『テレポート』で姿を現したポケモン、オーベムは通信機越しに聞こえる主人の声を聴き、静かに反省する。一瞬でも技を使うのが遅れていれば、姿を見られ監視されている事に気付かれていただろう。それにしても、ジンの勘の良さにはスピネルも驚かされるばかりである。

 

「まぁ、見つからなかった様なので良しとしましょう……アゲートさんの情報通り、本当にここにいた様ですね」

『奴らはこのままオレンジアカデミーへと戻る筈だ。何かするつもりなら下山する前に済ませるのだな』

 

 オーベムのトレーナーであるスピネルはそこから少し離れた場所にある車の中にいた。オーベムに取り付けた監視カメラの映像をチェックしながら、オレンジアカデミーに教師として潜入しているアゲートと連絡を取っている様だ。

 

『しかし、いいのか?奴らに手を出すなとハンベルからも強く念押しされた筈だぞ』

「えぇ、勿論、分かっています」

『……それとアメジオが感づいた様だ。今、そちらに向かっている』

「それはそれは……情報感謝します」

 

 それを最後に通信は切られてしまう。それと同時にスピネルは面白そうな顔をしながらクスクスと笑みをこぼし始めた。

 

「貴方なら来てくれると思っていましたよ。アメジオ」

 

 アメジオが2人の部下を使い、自分の事を怪しみ調べている事にはスピネルは気づいていた。その為、敢えてお粗末な尾行に気付かないフリをした上で怪しまれない程度に情報を断片的に残し、このナッペ山に来る様に誘導したのである。仮にこれがジンであれば、誘い込まれていると見抜いた上で、それでも仕掛けて来た事だろう。その辺りが、ジンとアメジオの明確な格の差であるとスピネルは認識した。

 

「私がエクシード社で何をしていたのか余程、気になるようですね……丁度いい。この機を利用させて貰いますよ」

 

 スピネルが再び、映像に目を向けようとすると彼のポケットに入っていたモンスターボールが微かに動き中から1体のポケモンが飛び出して来た。

 

「…………」

 

 そのポケモンは両手のスプーンを強く握りしめながら、無言でスピネルを見つめている。言葉には出さないが、早く戦いの場に赴きたいと鋭い眼光で訴えかけていた。

 

「残念ですが、貴方の出番はもう少し先の予定です」

「…………」

「ご心配なく。貴方の活躍の場は私が必ず用意します」

 

 スピネルはそう言うと手袋を外し、右手にはめられた指輪へと触れる。その指輪の中央には遺伝子を模された石がはめられており、目の前のポケモンと強い繋がりを感じさせた。その言葉を信じたのか、そのポケモンは素直にモンスターボールの中へと戻って行く。

 

「ふふっ……」

 

 自分を信じたポケモンの姿を見たスピネルは静かに笑みをこぼし、モンスターボールを大切そうに撫でる。そんな主人の姿を隣で見ていた相棒のブラッキーは僅かな嫉妬心から目を瞑りそっぽを向いている。

 

「貴方のお陰で私にも新しい可能性がある事に気付けました……」

 

 スピネルが見つめる画面の先、そこには、彼の策略を何度も看破し打ち破った存在がいる。出会った当初は憎しみの様な感情すら抱いていたが、今では直接相対して感謝の言葉を述べたいとすら思い始めていた。

 

「貴方と私は、まさに『コインの表と裏』と言ったところでしょうか……。本当に、心の底から感謝しています。これ程の高揚感は今まで感じた事がありませんでしたから。だからこそ、私は……ジン君、貴方を超えてみせます。私なりのやり方で、私という存在を貴方に刻み込んでみせましょう。──貴方の良き理解者としてね」

 

 

 

*** 

 

 

 

「パルデア最高峰?」

 

 ジン達がナッペ山の麓を目指して歩いているとその途中で、その様な事が書かれた看板を発見した。興味を持ち、詳しく調べるとそこはナッペ山の頂上でパルデア地方で最も高い所で、パルデア十景の1つに数えられているらしい。

 

「リコは行った事あるの?」

「ううん。でも、こっちでは有名だから名前だけは知ってるよ」

「いい景色なんだろうな~ねぇ!帰る前に寄って行かない?」

「えぇっ!?」

 

 ロイのそんな提案を受け、案の定、ドットが不満そうな声を上げる。やはり、彼女の場合、思い出や記念などよりも早くこのナッペ山から下りるのを優先したい様だ。

 

「めんどくさ……もっと寒くなるって事でしょ?」

「折角、ここまで来たんだから行ってみようよ!思い出にもなるし!ねぇ?リコ達もそう思わない?」

「いやいや、そんな気分じゃない時もあるよな?ジンもオレンジアカデミーに帰るまでが研修だって言ってたし!」

「え、えっと~……」

 

 2人に詰め寄られたリコは困った顔をしながら、チラッとジンへと視線を向ける。

 

「ふっ……リコに任せるよ。好きな方を選んでくれ」

「い、いいの?」

「あぁ、俺は正直、どっちでもいいからな」

 

 景色を堪能するのもいいし、早くオレンジアカデミーへと戻り、アンやボッコ達3人が合格できたのかを確認したいという気持ちもある。ジンからすればどちらを選んでもそれなりに利益のあるのだ。偶には流れに身を任せるのも一興と考えた様である。

 

「それじゃあ……行ってみよう!パルデア最高峰!」

「そうこなくっちゃ!」

「ドットもそれでいい?」

「う~……まぁ、多数決の結果だし……また疲れそうだな~」

「心配するなよ。本当に危なくなったら、俺が背負って連れて帰ってやるさ」

「背負って!?」

 

 自分の体力を客観的に考えれば放っておいてもその内、ガス欠になるのは目に見えている。そうなれば合法的にジンに背負って運んで貰う事が可能だ。ドットの脳裏にはその光景が思い浮かび、顔が自然と綻んでいく。

 

(……わ、悪くないかも?)

 

「……ドット」

「ひぃっ!?」

 

 高揚しかけていた心にリコの冷たい声が刺さり、ドットは一瞬の内に妄想から解き放たれる。リコは表情こそ笑顔だが、その笑みは恐ろしくとても直視する事が出来なかった。

 

「な、なんでもないから!?さ、さぁ、頑張って歩こう!」

 

 ドットは珍しく誰よりも先頭に立ち、パルデア最高峰を目指し歩き始める。その足取りは早く、リコから少しでも離れようと必死な様子だ。

 

(ドット……最近、油断も隙もなくなってきてる)

 

 リコの見立てではドットはまだ自分の気持ちに完全には気づいていない。しかし、ジンの傍にいるのは心地いいらしく、今の様に甘えようとする姿は時折、見られるようになってきていた。

 

(……どうしよう)

 

 ジンを譲る気はリコには毛頭ない。しかし、友人であり秘かに妹の様に思っているドットの初めての恋心を大切にしてあげたいという気持ちもある。2つの想いを両立するのは難しそうであるが、どうにかしたいとリコは本気で悩んでいた。

 

「リコ?どうしたんだ?早く行くぞ」

「う、うん!今、行くよ!」

 

 しかし、結局、その答えは今日も出る事はなかった。結局、いつもの様に答えを先延ばしにする事しか出来ず、リコは無力さを抱きながらも先に進むジン達を追いかけ始める。

 

「思っていたよりもきついな……」

「はぁ、はぁ……凄い道」

「ま、まだまだ!」

「うぅ……」

 

 パルデア最高峰へと向かう為には、坂を上っていくしかない。しかし、かなりの角度の上に足元の雪がリコ達の体力を少しずつ奪っていく。割と体力のあるロイはなんとか先頭を進んでいるが、リコやドットはかなりきつそうだ。

 

(……念の為、最後尾に回っておくか)

 

 4人の中で最も体力に余裕のあるジンは誰かが逸れる可能性を考慮し、先頭から最後尾にいたリコの隣へと移っていく。

 

「ジン……ごめんね」

「ん?何がだ?」

「私がパルデア最高峰に行こうなんて言ったから……」

「おいおい。言い出したのはロイだし、俺はリコの判断に任せるって言ったんだ。責任を感じる必要はないぞ」

「でも、思ったよりも大変だよ~……」

 

 確かにこの道のりは想像よりも険しい。歩きでの旅に慣れているジンはともかく、他の3人にはかなりきついだろう。

 

「まぁ、気にするな。苦労はするだろうが、全員にとっていい経験になるさ……っと、2人に先に行かれてしまったな。先を急ぐぞ」

「う、うん!」

 

 少しだけペースを速め、先行している2人に追いつこうとする。漸く坂道を登り切ると大きな岩が進行していた道を塞いでおり、ジン達はそのまま脇道へと進んで行く。そのままジン達が進んでいくと、突如、岩がピンク色のオーラを纏って動き出し、ジン達の通った道を塞いでしまう。

 

「ご苦労。チャーレム」

 

 その光景を近くの林に隠れて見ていた人物とポケモンがいた。エクスプローラーズのアゲート、そしてそのパートナーのチャーレムだ。今の岩はチャーレムがエスパー技を駆使して動かした様である。

 

「……協力するのはここまでだ」

 

 彼女としても現段階でジンと本格的に敵対するのは反対だ。しかし、油断ならない味方に早い段階で貸しを作っておけば今後、何かと便利かもしれない。その様な打算の下、今回、力を貸すのを決めた様である。

 

 

 

***

 

 

 

「う~……全然、追いつけないね?」

「……何か変だ」

 

 ロイ達に追い付く為にここまで休憩なしで歩き続けているのだが、ジン達は未だに彼らに追い付く事が出来ていなかった。確かに多少、距離は離れていたがここまで進んだのにも関わらず後姿さえも捉える事が出来ないのは明らかに不自然である。

 

「やっぱり、そうかな?何か、登ってる感じもしないし、気にはなってたんだけど……ひょっとして道間違えちゃった!?」

「ふむ……」

 

 リコの感じている違和感はジンも感じ取っていた。ここまで一本道だった事から道を間違えたという線は早い段階で捨てていたのだが、何者かに道を塞がれここまで誘導されたと考えれば、ロイ達と合流出来ない辻褄は合う。

 

(まさか……)

 

 昨晩のハンベルとのやり取りでエクスプローラーズが襲撃してくる事は暫くないと高を括っていたが、その取り決めを破り暴走した者がいる可能性は完全には捨てきれない。もしもそうだとすれば、ハンベルの事を完全に信じすぎたジンにも落ち度があると言えるだろう。

 

「あっ!足音が聞こえるよ!」

「リコ!待て!」

 

 前方の曲道から足音が近づいてくる様な音が聞こえてきた。それに反応したリコはその足音をロイやドットだと思ったのか疑う事なく走り出す。ジンも一瞬、遅れて飛び出しリコの前に入り込んだ。

 

「なっ!?」

「お前は!?」

 

 曲道から現れたのは、ロイとドットではなかった。しかし、ジン達にとっても因縁深い人物である。

 

「アメジオ!?」

 

 そこにいたのは、エクスプローラーズのメンバーであり、ジンがライバルと認めたポケモントレーナーのアメジオだ。

 

「何故、お前達がここに!?」

 

 ジン達が知る由もないが、アメジオは、スピネルが何かを企んでいる事に気付きこのナッペ山まで追いかけて来たのである。スピネルの姿を見て急いで後を追跡したが、見失ってしまい必死に捜索している最中に偶然、ジン達を出くわした……少なくともアメジオにとってはその様な状況だ。

 

「……この出会いは偶然か?それとも運命か?」

「馬鹿な事を言うな……何か引っ掛かるな」

「それは同感だな」

 

 スピネルを追っていたアメジオ、そして改めて同盟を結んだばかりのジンがこの場で再会した。とても偶然とは思えない。誰かの悪意によって導かれ再会したと考える方が余程、納得できるという物だ。

 

「しかしだ。再会の経緯はどうあれ、今は俺達は戦うべきではない。その意見に相違はないよな?」

「……そうだな」

 

 ハンベルから同盟の継続の話を聞かされ、最も反発したのがアメジオである。しかし、ギベオンも既に了承していると聞かされ、仕方なくではあるが同盟を受け入れた。律義な性格をしているアメジオはその誓いを破る事は出来ない様である。ましてや誰かの陰謀の様な雰囲気を感じる場所で、その人物の思い通りに動く事などジンもアメジオも御免だった。

 

「お前との決着はいずれ必ず着ける」

「あぁ、楽しみにしているぞ」

 

 自分達のバトルはもっと相応しい場所で行うべきである。その考えが一致したのか2人にしては珍しく、素直に別れる事を決めた様だ。アメジオはジン達に背を向け、来た道を引き返そうとする。

 

「待って!」

 

 しかし、そんなアメジオに待ったを掛けたのは、ジンの背後でテラパゴスの入ったバッグを隠していたリコである。リコはジンにテラパゴス入りのバッグを渡すと一歩前に出てアメジオを鋭い眼光で睨みつけた。ただでさえ寒いナッペ山だが、今の一瞬で気温が少し下がったように感じる程である。

 

「り、リコ?」

「な、何だ?」

 

 妙に気合の入ったリコを見てジンとアメジオは困惑した様子を見せる。特に殺気をぶつけられたアメジオの反応は顕著だ。ここまで何度か敵対しニャオハを奪い去った過去もある為、恨まれているとは思っていたが、これ程までとは思っていなかった様である。

 

 因みにアメジオが知る由もないが、この殺気の理由の大半はジンがアメジオの事をライバルとして特別視している事が主な原因である。

 

「アメジオ……私とポケモンバトルしてください!」

 





そんな訳で早い段階でラクリウムの事を知らされたジンでした!現段階ではラクリウムに興味深々って感じです。

次回はリコVSアメジオ、そこからスピネルの乱入までは書くつもりです。

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