遅くなりましたがZA始めました!まだクリアしていませんが、かなり面白いです!
「アメジオ……私とポケモンバトルしてください!」
「……断る」
リコの威圧感に当初は恐れを抱いていたアメジオだが、その申し出には毅然とした態度を以て対応する。アメジオからすればこの場でリコとバトルする理由がないのだから、当然の反応だろう。
「な、何でですか!?」
しかし、リコもそれで素直に引き下がる様な真似はしなかった。しつこく喰らい付き、意地でもアメジオとバトルするつもりの様である。
「同盟は未だに継続中だ。テラパゴスを奪う事も出来ず、下手な行動を取ればその瞬間、盟約に背く事になる。お前がどれだけ俺の事を嫌っているのかは知らんが、俺にはバトルを受ける理由がない」
本音を言えば、盟約を破棄する事でジンと決着をつける機会を得るという意味では、アメジオにもメリットはあるのだが、今回の同盟は彼の敬愛する祖父であるギベオンが決めた事だ。それに背く事はアメジオには出来ない様である。
「……では、テラスタル研修を終えたリコの実力を確かめる為の模擬戦というのはどうだ?」
「模擬戦だと?」
「そうだ。俺が立会人を務める。そして、バトルを終えたらそこでさよならだ。それならギリギリ違反にはならないだろう?」
確かにそれならば同盟違反とまではされない。更にはジンを除いたライジングボルテッカーズの戦力を確かめる為と考えれば、アメジオにも一定の利益が生まれると同時に、ギベオンに対する弁明にもなるだろう。
「それと忠告しておくが……こうなったリコは絶対に引かないぞ」
ジンはそっとリコに視線を送るが、彼女の瞳には既に嫉妬の炎が灯っている。普段から穏やかで心優しいリコにしては珍しいが、こうなった以上はバトルを終えるまで納得しないだろう。
「……いいだろう。相手になってやる」
些か不本意な状況ではあったが、アメジオはリコとのバトルを承諾した。このままでは、しつこく迫られ厄介な事になるのは目に見えている。そうなる位ならばこの場でバトルするのが最良と考えた様だ。
バトルを行なう為にも、リコとアメジオはその場からお互いに距離を取る。立会人を買って出たジンはそんな両者の中間に立ち、リコとアメジオに語り掛ける。
「よしっ!では使用ポケモンは1体、2人共それでいいな?」
ジンの問いかけに2人は無言で頷き、肯定するとポケットからモンスターボールを取り出し、構える。
「では、両者ポケモンを出してくれ」
「お願い!ニャローテ!」
「ソウブレイズ!」
リコはニャローテ、アメジオはソウブレイズをその場に出した。奇しくも互いに相棒であるポケモンを選出した様だが、相性で言えばリコが圧倒的に不利である。
(まぁ、ソウブレイズを出された時点でどのポケモンを選んでもリコの不利は確定しているんだよな……)
リコの手持ちはニャローテ以外だと、テブリム・イッカネズミ・カルボウの3体だ。どのポケモンを出しても決して有利には働かない。手持ちの少なさが大きな仇となっている。
「ソウブレイズ!『サイコカッター』!」
「ニャローテ!『でんこうせっか』で躱して!」
ソウブレイズは双剣を振りかざしピンク色の斬撃を連続で放った。迫りくる斬撃を前にニャローテは『でんこうせっか』の素早い動きを利用し、その場を駆け出し全てを回避する。そのまま勢いを利用し、一気にソウブレイズへと迫った。
「『シャドークロー』で迎え撃て!」
「『アクロバット』!」
ソウブレイズは影を纏わせた双剣を振るい迎え撃とうとするが、その瞬間、ニャローテは蕾を付けた蔦を伸ばし近くに生えている木に向かって投げつけた。蔦は上手い具合に木に絡まり、そのまま空中へと飛び上がり攻撃を回避した。
「ソウブレイズ!後ろだ!」
姿を見失い辺りを見回していたソウブレイズはアメジオの言葉に従い、後ろを振り返る。そこには空中から舞い降りたニャローテが降り立ち、鋭く尖らせた爪を突き立てようとしていた。ソウブレイズは咄嗟に双剣を体の前で交差させガードを固めた。
「ニャッ!」
攻撃を防がれたニャローテは剣の間合いでは不利だと判断した様で咄嗟にバク転し、ソウブレイズから距離を取った。
「今!『マジカルリーフ』!」
「『むねんのつるぎ』で迎え撃て!」
ニャローテは蔦を回転させ、大量の葉をソウブレイズへと向かって撃ち出した。しかし、ソウブレイズは双剣に紫色の炎を纏わせ体の前で交差し全ての葉を完全に防ぎきってしまう。
「……思っていたよりもやる様だな」
アメジオからすると、リコは何時もジンの背中に隠れて守られている存在という認識が強かった。記憶を振り返る限りでは、初めて出会った頃からニャオハの『このは』の量など、目を見張る部分こそあったが、此処まで戦えるとは思っていなかった様である。
「『シャドークロー』!」
「避けて!」
攻守は入れ替わり、ソウブレイズが反撃に出る。しかし、ニャローテはそれを相手にしようとせず、再び蔦を木に向かって投げつけ巻き付きける。そして、その反動を利用し大きくジャンプする事でソウブレイズの攻撃を躱した。
「炎技を避けつつ、ソウブレイズの剣の間合いの外から攻撃か……中々、よく考えている」
正直、このバトルは直ぐに終わるとアメジオは思っていた。しかし、蓋を開ければリコは予想以上に強かに立ち回り、判断力も悪くないと見なす。無論、アメジオがライバルと認識するジンとは比べるまでもないが、1人のトレーナーとして純粋にリコとのバトルを楽しみつつあった。
「ニャローテ!行けるよ!私達、戦えてる!」
「ニャァーッ!」
そして、その気持ちはリコとニャローテも同じであった。最初こそ、アメジオに対する嫉妬心から始まったバトルだが、既にそんな事は忘れて唯々バトルを楽しんでいる様である。
「もう一度『マジカルリーフ』!」
「『むねんのつるぎ』!そしてそのまま『つるぎのまい』だ!」
ニャローテは再び、『マジカルリーフ』で大量の葉を放出する。視界を埋め尽くす程の大量の葉を前にソウブレイズは双剣に紫の炎を纏わせると、剣を体の前で交差しその場で回転を始めた。紫の炎はまるでソウブレイズを包み込むかの様に広がり、全ての葉を焼き尽くしてしまう。
「嘘っ!?」
『マジカルリーフ』を防がれただけではない。今の一連の動きにより、ソウブレイズは攻撃を2段階上昇させてしまった。ただでさえ、相性が不利な上でのこの能力上昇は大きな差になったと言えるだろう。
「……ニャローテ!一気に勝負を着けるよ!」
このまま戦えば形勢は不利になる一方。そう判断したリコは切り札を出す決意を固め、ポケットからテラスタルオーブを取り出し構える。
「ニャローテ!満開に輝いて!」
テラスタルオーブにエネルギーが収縮していく。数秒後、完全にエネルギーが貯まったのを確認し、テラスタルオーブをニャローテの頭上へと投げつけた。テラスタルオーブが開き、ニャローテの周囲を無数の結晶が包み込み弾け飛ぶ。そこには、体を結晶化させ頭上に花の王冠を被ったニャローテの姿があった。
「まだだよ!今度は『エナジーボール』!」
テラスタルしたニャローテはそのまま休む事なく、自身の口元に草のエネルギーを収縮させ緑色の光球を生み出していく。
「『エナジーチャージ』!」
「なにっ!?」
ニャローテは完成した『エナジーボール』を無理やり口に押し込み、飲み込んでしまう。その瞬間、ニャローテの体から緑色のオーラが立ち上っていく。結晶化した体から発せられる緑色のオーラによって、ニャローテは正にエメラルドの様に輝いていた。
「まさか、その技が使えるとはな……正直、驚いたぞ」
『エナジーチャージ』はジンのジュカインだけの技だとアメジオは勝手ながら思っていた。しかし、それを成せる存在は他にも居たのだ。その事実を目の当たりにして、アメジオは己の見識が狭かったのだという事を素直に認め、目の前のリコ達が有象無象の存在ではなく、強敵であるのだと再確認する。
「行きます!『マジカルリーフ』!」
「『ゴーストダイブ』!」
『テラスタル』と『エナジーチャージ』により、ニャローテは先程とは比べ物にならない程の葉を放った。それはもはや、『リーフストーム』と呼んでも差し支えない程の量である。この葉の嵐の前では先程の様な防御では防ぎ切れないと判断し、ソウブレイズは足元に生み出した闇に体を潜め回避した。
「どこから……」
リコ達はソウブレイズを完全に見失ってしまう。その僅かな隙を狙い、ソウブレイズはニャローテの死角であった背後に姿を現し双剣を振るい襲い掛かった。
「ニャァァッ!?」
「ニャローテ!」
ニャローテが痛みから悲鳴を上げる中、ソウブレイズは再び闇に潜み、姿を消してしまう。完全なヒット&アウェイの戦法でリコ達を翻弄していく。
「ニャローテ、また来るよ。警戒して!」
「ニャァッ!」
しかし、リコ達もそれなりに場数は踏んでいる。直ぐに冷静さを取り戻したリコとニャローテは、死角を作らない様にそれぞれ上下左右を交互に見回していく。その甲斐あってか、ニャローテの頭上に先程、ソウブレイズが入って行った闇が現れた事にいち早く気づく事が出来た。
「ニャローテ!上から来てる!『アクロバット』!」
「ニャァッ!」
ニャローテは上空から振り下ろされる双剣を軽やかな動きで回避し、そのままソウブレイズの背後に回り込んだ。拳を強く握りしめ地平線の彼方まで飛ばすつもりで全力のパンチをソウブレイズの背に叩き込む。
「よしっ!」
このバトルが始まって漸く初めてのダメージを与える事が出来た。しかもニャローテの身体能力は『エナジーチャージ』の効果もあり、大幅に上昇している。草タイプの技でなくともソウブレイズにかなりのダメージを与えられた事は間違いないだろう。
「行けるよ!ニャローテ!」
「ニャァッ!」
(いや、違う……今のはわざと受けたんだ)
喜んでいるリコ達とは対照的にジンは今の一連の動作の意味を察していた。しかし、今は審判役であるが故に、リコを贔屓する事なく無表情に徹する。確かにかなりのダメージを与える事には成功したが、まだまだ戦闘不能には程遠い。しかも、今の一撃が入った事により、バトルの流れはソウブレイズに有利に働くと確信してしまった。
「ソウブレイズ!」
「ソウッ!」
傷を負いながらもソウブレイズは立ち上がった。その瞬間、鎧の外装が一瞬紫色に輝くと砕け落ちていく。特性『くだけるよろい』が発動し、防御が1段階下がる代わりに素早さが2段階上昇した。アメジオはリコ達の力を正しく評価した上で、確実に倒せるように入念な準備を終えた様である。
「準備は整った。此処からは此方も全力だ……我が道を貫け!ソウブレイズ!」
アメジオはテラスタルオーブを取り出し構える。エネルギーを一気に収縮させ、満タンにたまり切るとソウブレイズの頭上へと投げつけた。テラスタルオーブが開き、大量の結晶が地面から現れソウブレイズを包み込む。結晶は次の瞬間に弾け、中から体を結晶化せ頭上に幽霊の付いた王冠を生やした姿となり、その場に現れた。
「……だけど、チャンスだよ。ニャローテ」
ゴーストタイプにテラスタルした事により、草タイプの技が半減されなくなった。未だ最終進化をしていないニャローテでは『テラスタル』+『エナジーチャージ』は長時間維持できない。ここで一気に勝負を着ける事を考えれば大きなアドバンテージになったという見方も出来る。
「ニャローテ!『テラバースト』!」
ニャローテのテラスタルジュエルが砕け散り、『ソーラービーム』に緑色のオーラが混じった様な光線が口から放たれた。『エナジーチャージ』の効果もあり、その威力は非常に強力であり当たりさえすれば間違いなくソウブレイズを葬る事が出来る程であった。
しかし……
「『ゴーストダイブ』!」
高速で突き進んでくる光線が当たると思われた瞬間、『くだけるよろい』の効果で素早さを大きく上昇させていたソウブレイズは足元に現れた闇に潜みその場から姿を消してしまった。
「しまった!?」
『テラバースト』は頭上のテラスタルジュエルを消費して使用する技である為、連発する事が出来ず、再使用には相応の時間がかかる。このバトル中に再び使用する事は恐らく不可能だろう。
「くっ!」
しかし、何時までも落ち込んでいる暇は残されていない。態勢を立て直さなければ、負けるのは確実なのだから。
「ソウブレイズ!」
「っ!『アクロバット』で躱して!」
「無駄だ!」
ソウブレイズはニャローテの背後から現れた。ニャローテは先程と同じ様に『アクロバット』で回避しようとするが、ソウブレイズの素早さはそれを許さない。逃げようとするニャローテに一気に迫り、左腕の剣を振り上げ上空へと吹き飛ばした。
「これで終わりだ。『テラバースト』!」
テラスタルジュエルが砕け散り、ソウブレイズの周囲に5つ人魂が現れる。その人魂達は空中にいるニャローテへと向かって突き進み、周囲を囲うと次々に襲い掛かった。
「ニャローーーーテ!」
リコの悲痛な叫び声は空中で引き起こされた爆発により、掻き消される。『テラバースト』が直撃したニャローテはそのまま地面へと落下した。幸い雪がクッションの様な役割をした様で落下のダメージは少ない。しかし、意識は完全に失っており、テラスタルも解除されてしまった。
「ニャローテ戦闘不能。ソウブレイズの勝ち……それでいいな?」
「……うん。ニャローテ、ごめんね。ゆっくり休んで」
リコは、ニャローテに労いの言葉を掛けるとモンスターボールへと回収し大切そうにポケットにしまう。
「想像よりも遥かに強かった事は認めよう。その上で1つだけ忠告だ……切り札を先に見せるな」
「っ……」
バトル中に見せた『テラスタル』、『エナジーチャージ』、『テラバースト』、どれをとっても切り札と言える物だった。しかし、リコは勝負を焦るあまり、ソウブレイズが技を出し切るよりも早くに使用してしまった。もしも、どれか1つでも最後まで取っておけば勝負はまた違う内容になっていたかもしれない。
「見せるなら更に奥の手を持てって事か……格言だな」
「ふん……」
「リコの相手をしてくれただけでなく助言までしてくれるとはな……感謝する」
「結構だ……俺はもう行くぞ」
アメジオとしても助言までするつもりはなかったのだろう。しかし、リコが予想よりも強くその上、まだまだ伸びしろがあると分かり、トレーナーの本能で思わず更に強くなれる様にアドバイスを送る。それをジンに悟られたのが気恥ずかしいのか、ソウブレイズを連れてその場から離れようとした。
「ブラッ!」
「ソウッ!?」
しかし、僅かに気を緩めた次の瞬間、ソウブレイズに1体のポケモンが襲い掛かる。ソウブレイズは咄嗟に剣でガードしようとするが、あまりにも急だった為、完全には防ぎ切れず後方へと吹き飛ばされた。
「ソウブレイズ!?」
「ブラッキーだと?まさかっ!?」
ソウブレイズに襲い掛かったのはブラッキーだ。しかも見覚えがあり、ジンやリコ、そしてアメジオにとっても因縁のある人物が所持しているポケモンである。
「貴方は!」
ブラッキーに注意が向くなか、林の奥から1人の男性が現れる。予想通りとでも言うべきか、そこにいたのはエクスプローラーズの幹部の1人、スピネルだ。
「スピネル……何のつもりだ!」
「ちょっとした制裁ですよ。同盟は継続すると聞いていなかったのですか?」
「これは模擬戦だ。しかも提案したのは俺だ。盟約には違反していない」
「おや?そうでしたか?それは気づきませんでしたねぇ。それにしても、ジン君に勝てないからと言って、確実に勝てるリコさんを狙うとは、流石に呆れましたよ。それでもポケモントレーナーですか?」
「白々しい!俺達を戦わせるのが貴様の目的だろう!」
「さて、何のことやら?」
激怒するアメジオとは対照的にスピネルはどこまでも余裕のある態度を見せる。明らかに挑発しているだが、アメジオは日頃からの嫌がらせの影響もあってか、あっという間に頭に血が上ってしまった様だ。
「私の目的は……」
スピネルの視線は最初にジン、そして次にリコの背後にいたテラパゴス入りのバッグに向けられる。リコは咄嗟にバッグを抱き寄せテラパゴスを守る姿勢に入った。
「ふっ……」
スピネルはその姿を見て小さく笑うと背後からピンク色の結晶石の様な物が入ったカプセルを取り出した。
「見せてあげましょう。永久の恵みを……」
カプセルのスイッチを起動させると中の結晶石が光り始め、ピンク色の靄の様な物を発生させる。やがて、カプセル内を靄で満たされたのを確認するとカプセルを開き、その靄をブラッキーへと浴びせる。
「ブラッ……ブラァァァッキィィィィィィィィ!」
靄を浴びたブラッキーは目を閉じ苦しそうな唸り声を上げている。数秒後、ブラッキーは目を開けるがそれは通常時と違い、とても攻撃的で明らかに尋常ではない状態だ。
(永久の恵み……あれがラクリウムか……?人には恩恵を与えるが、ポケモンには違うのか?……駄目だ。情報が少なすぎる。実物で検証したいところだが……!)
前夜、ハンベルからラクリウムの事を聞かされていたジンは速やかに先程の結晶石がラクリウムなのではないかと推察する。しかし、事前に聞いていた話とは大分違う様だ。不確定要素の多さから、流石のジンも確実な判断が出来ない故に、敢えてその場は静観に徹した。
「パゴ!パーゴ!」
ジン達がブラッキーに注目する中、リコに抱えられていたバッグが動き出し、その中にいたテラパゴスが必死な様子で飛び出してくる。地面に降りたテラパゴスは、ピンクのオーラを纏ったブラッキーとスピネルが持つカプセルに残った結晶石を見ると、珍しく身体を震わせて怒りの形相を浮かべた。
「ブラッキーお好きに暴れなさい」
「ソウブレイズ!『シャドークロー』!」
立ち上がったソウブレイズは双剣を振るい、ブラッキーに斬りかかろうとする。しかし、それよりも早くブラッキーの突撃が腹部へと突き刺さった。ソウブレイズはそのまま吹き飛ばされ木に背中を預ける様にしながら倒れ込む。テラスタルも解除され、限界は近そうだ。
「ソウブレイズ!?」
「ブレイズ……」
どうやら、ニャローテとのバトルでのダメージに先程の奇襲を受け、既に体力はかなり限界に近づいていた様だ。そうでなければ、『くだけるよろい』で素早さを増しているソウブレイズがここまでやられる事はなかっただろう。
「何これ?ブラッキー、何か変だよ……」
それはリコだけでなく、ジンやアメジオも感じていた疑問だ。何かがおかしい。そしてその理由はスピネルが持っている結晶石にある。そこまでは分かるのだが、一体、どのような原理で起こっているのかそれが皆目見当もつかない。
(ふむ……ブラッキーの身体には恐らく良くない事が起きている。だが、それと引き換えに強力なパワーを得たのか?確信は出来ないが一定の効果はあると見た。しかし、メリットと比較してどの程度のデメリットがある?野生の本能を刺激するだけか?もしくは後遺症があるレベルなのか?……見極めが必要だな……)
良い物か悪い物か、この段階では定義付けするのは難しい。しかし、ジンの知的好奇心を刺激する代物であった事は確かだ。
不確定要素が多い以上、それを取り除く為にも、今は様子が見たいというのが本音である。それ故に、ジンはポケモンを繰り出す事もなく、相手の出方を窺う。そもそもの話、先程の奇襲でジンを狙わなかった時点で、今回のスピネルの目的が此方に危害を与える事ではないと察せられたからだ。それよりも、自分の研究成果を披露したい様にすら見える。
「パゴ……」
「ふふっ……さぁ、どうする?」
「パ、パァァァァァァァゴォォォォォォォ!」
スピネルは結晶石の入ったカプセルをテラパゴスへと見せつけた。それを見たテラパゴスは激しい敵意と怒りの籠った力強い咆哮を上げる。その瞬間、テラパゴスの体は眩い光を放ち、姿を大きく変貌させていく。両手両足、首、尻尾からは青緑色の毛が生え、甲羅は大きくなりまるでテラスタルしたかの様な輝きを見せる。
「これは……」
「テラパゴス……」
その姿は嘗てレックウザを前に見せた姿と同じだった。レックウザを含めた六英雄がいない状態で何故、フォルムチェンジ出来たのかは分からない。姿を変えたテラパゴスはブラッキーとスピネルが持つ結晶石に視線を合わせると輝きを深め両者を包み込む様に光を強くする。
「ブラァァァァッ!?」
その光はブラッキーを纏うピンク色のオーラを少しずつ消し去っていく。ブラッキーは反発するかの様に唸り声を上げるが、最終的にオーラは全て消え去りブラッキーはその場に倒れてしまった。それと同時にスピネルの持っていた結晶石も砕け散り、テラパゴスは通常のフォルムに戻って行く。
「これは非常に……」
「興味深いですね……」
ジンとスピネルが抱いた感想は全く同じものだった。その事実にジンは顔を顰めるが、それとは対照的にスピネルは本当に嬉しそうな笑みを浮かべ小さく笑っている。
「ふふっ……ブラッキーご苦労様でした。ゆっくり休んでください」
倒れたブラッキーをスピネルはモンスターボールに回収し、労いの言葉を掛けるとポケットにしまう。
「さて、私の目的は果たしました。皆さん、ご協力感謝します」
「おいおい。もう行くのか?今のが何か説明して欲しいんだが?」
「私としてもジン君にならばお話したいところですが……今はまだ秘密にしておきましょう。お楽しみは最後まで取っておく主義なので。貴方もそうなのでは?」
「まぁな。でも俺は気が多い方でね。好奇心の赴くままに、面白そうな物を見るとつい先に手を出してしまう事もあるんだ……。このままじゃ、気になり過ぎてリコを抱き枕にでもしないと安眠出来そうにない。教えてくれないか?」
「ちょっ!?ジン!?」
「そうしてあげれば如何です?彼女は寧ろそれ以上の行為を望んでいる様に見えますよ?」
「貴方も何言ってるの!?」
先程のシリアスな雰囲気から一転、ジンとスピネルの悪ふざけが始まった。その中心で揶揄われているリコは羞恥心から顔を真っ赤に染め上げ、あわあわと混乱している。
「おいっ!ふざけるのもいい加減にしろ!スピネル! お前は一体、何を企んでいる!」
ジン達とは対照的にアメジオは真面目な様子でスピネルに問いかける。ジンとしてはスピネルから少しでも情報を引き出す為の手段だったのだが、アメジオには理解出来なかった様だ。
しかし、スピネルはそれに応える事なく、まるでアメジオなど眼中にないと言わんばかりにその場から走り出し、林の奥へと進んで行く。研究者といっても犯罪組織の幹部だけあり、その脚力は中々の物だ。
「ソウブレイズ!行けるな?」
「ソウッ!」
「ジン、私達も!」
「あぁ、追いかけるぞ」
まず、アメジオとソウブレイズがスピネルの足跡を追って林の中を進んで行く。それから少し遅れてテラパゴスを回収したジン達もその後に続いた。
「いたぞ!」
その後、10分程、走り終えた頃、ジン達は漸くアメジオ達の背中を視界に捉える事に成功する。スピネルの姿はなかったが、彼らの進んでいる方角から見て正面にある洞窟内部に向かった事は確かな様だ。
「洞窟か……」
「ジン!急ごう!見失っちゃう!」
スピネルは手持ちのオーベムの『テレポート』でいつでも離脱できるのにも関わらず、洞窟に逃げ込むなんて真似をするとは思えない。ジン達にこの洞窟に閉じ込めたいという意志をジンは感じ取っていた。
「……そうだな」
しかし、これはあくまで予想でしかない。僅かではあるが、この中にスピネルがいる可能性がある以上、進まないという選択肢は取れなかった。洞窟の中は野生のポケモンも多く、キラーメ、ダグトリオ、ヤミラミなど暗い場所を好むポケモンが多くいる中、道なりに歩いていると漸くアメジオ達に追い付く事に成功する。
「お前達!付いてきたのか?」
「あぁ、さっきのが気になってな。スピネルは?」
「お前達には関係ない。付いて来るな!」
「そう言うなよ。こっちも色々、気になってるんだ。お前が拒否しようとも、タイレーツの様について行くぞ……いや、3人だからイッカネズミの方が正しいか?」
「どうでもいい!……勝手にしろ」
何を言っても無駄だと諦め、スピネルは改めて洞窟を進んで行く。この洞窟はまるで迷路の様に複雑な造りになっており、スピネルを見つけ出すのは困難そうだ。誰もが諦めかけた時、アメジオの前方で走り出す人影の様な物が見えた。
「そこか!」
その影の走った方に向かい、アメジオは走り出す。それに続く様にジンとリコも走り出した。少し進んで行くとそこは一際開けた場所に繋がり、先程よりも視界が良くなる。
「いないね……」
「行き止まりみたいだな」
ジン達が辿り着いた場所は高い段差のある場所で、一見すると出口のない行き止まりの様な場所だ。隠れられる様な場所もなさそうである。
「まさか、これも奴の罠か!?」
アメジオがそう言った瞬間、洞窟内に大きな振動が走る。ジン達が入って来た道を塞ぐ様に大きな岩が崩れ落ち、その道を完全に塞いでしまった。
「出口が!?」
「くっ!」
出口が塞がれ、リコとアメジオは慌てた様子を見せる中、ジンは小さく口笛を吹き楽しそうな笑顔を浮かべている。尤も、幸いにもその口笛は岩が落ちる音で2人に聞こえていなかった様である。
(中々、手の込んだ嫌がらせだな……次は何をしてくるんだ?)
アメジオとは違った意味で楽しませてくれる。ポケモンバトルがなによりも好きなジンだが、こうした知恵比べや策略で挑まれるのも、案外嫌いではないらしい。ジンは内心でスピネルの次の仕掛けを楽しみにしている事を自覚しつつも、巻き込んでしまったリコとアメジオを見ながら、自分の悪い癖だと自嘲するのであった。
***
「ご苦労様です。オーベム」
ジン達が洞窟に閉じ込められた頃、スピネルはジンの予想通りオーベムの『テレポート』を使用し、洞窟の外へと出ていた。
「事は順調に進んでいる様だな」
オーベムをモンスターボールに回収しているとその背後から1人の女性が、スピネルに近づいて行く。今回の一件でスピネルに対し、色々と便宜を図ったアゲートが進捗状況を確認に来た様だ。
「えぇ、実験も上手く行きました」
スピネルはポケットにしまっていたカプセルを取り出した。そこには作戦開始までは確かにあった筈の結晶石の姿はなく、それを見たアゲートは驚愕する。
「なっ!まさか失ったのか!?」
「テラパゴスの力で消え去りました。ラクリウムと共鳴する訳でもない。言うなれば、テラパゴスとラクリウムは相反する存在の様です」
「成程……確かにそれが分かっただけでも十分な収穫だな」
「えぇ、ではそろそろ我々も帰還しましょう」
「それはいいが、本当にこれ以上は何もしなくていいのか?洞窟に閉じ込めたまではいいが、このままでは直ぐに奴らの仲間が感づくぞ」
アゲートとしては、それを阻止する為にロイ達の下にサンゴとオニキスを向かわせたかった。しかし、同盟がある以上、武人気質なオニキスやジンに好意を寄せるサンゴを使うのは不可能と考え今回の作戦には呼べていない。足止めがいない以上、そう遠くない内に洞窟に閉じ込めた3人が見つかるのは時間の問題だ。
「構いません。洞窟にはジン君がいます。どうせ、仲間達に見つけられる前に自分達だけで脱出するのは目に見えていますから……少しだけでいい。アメジオ君を足止め出来れば、その間に準備を終わらせる事が出来ます」
「そこまでして排除しようとするとは……余程、目障りな様だな」
「彼はギベオン様にとって特別な存在。いずれ私たちの邪魔になるのは明白です」
「……血の繋がりとは時に難儀な物だな」
「我らエクスプローラーズの未来の為、お孫さんには消えてもらいましょう」
スピネルはそう言うと、その場から離れていく。彼の背中を見ていたアゲートは気づかなかったが、この時、スピネルは邪悪な笑みを浮かべていた。
(そう……アメジオ君、貴方は役目を果たした。もう必要ありません。ジン君に挑み続ける格下の貴方では、彼を見上げる事しか出来ない貴方では、彼を理解する事は出来ないのですから)
アメジオの役目は自分とジンが出会う切っ掛けを作る事。少なくともスピネルはそう思っている。その役目を果たした以上、スピネルにとってアメジオはもう邪魔な存在でしかない。
(そう。この先、彼と競い合うのは私だけでいい。彼と同じ視点に立てるのは私だけです。──私と彼の盤上に、使えない駒は必要ありません)
ZAやってて思ったのですが、ジンがサイユウ大会後にオダマキ博士に勧められてセキエイ学園ではなくミアレシティに行くIF展開も何時か書いてみたいと思う様になりました。その場合、世界観はアニポケではなくゲームになるのでリコとかは出せなくなりますが、何時か書いてみたいですね
☆8
古明地さん
高評価ありがとうございます
作品の要望などあれば気軽にメッセージを送ってください