遅くなり申し訳ありません。仕事で色々あって精神的にダウンしてました……次の更新はなんとか定期的に出来る様に頑張ります
スピネルを追跡し、洞窟の内部まで来たジン、リコ、アメジオの3人。彼らはスピネルの用意した罠により、洞窟の内部へと閉じ込められていた。
「ふむ……」
ジンはここまでの道のりを塞いでいる岩をノックする様に叩き、その強度などを調べ始める。反響音から考えて、どうやら視認出来る岩だけではなく、その奥も更に岩で塞がれていると察した。ジンのポケモン達だけでも、障害を壊しながら進む事も不可能ではないが、それでは洞窟に与える影響が大きいと判断する。それこそ、洞窟に閉じ込められたのがジン一人だけならば、例え洞窟を崩落させて生き埋めになろうとも脱出可能な算段があった。
しかし、此処に居るリコとアメジオを始め、洞窟に住まう野生のポケモン達の事を考えると、流石に傲慢が過ぎると自重する。特にリコに至っては、先程のアメジオとのバトルで疲弊している以上、無理をさせるつもりはなかった。
(……どうするかな?)
サーナイトが手持ちにいれば、『テレポート』で脱出できるのだが、今はオダマキ研究所に送ってしまっている。スピネルの嫌がらせか洞窟の奥地である為かは分からないが、スマホロトムも圏外でポケモンの入れ替えもできない。
こうなってしまった以上は、過去のしがらみは一旦、全て忘れ3人とポケモン達の力を全て集結し脱出を目指すべきなのだが……
「パゴッ!パゴォッ!パーゴォ!」
テラパゴスは嘗てガラル地方の古城で対面した時の様にアメジオを睨みつけながら、唸り声を上げている。
「警戒するのは当然だ。だが、俺たちは同盟を結んでいる……今は何もしない。信じろ」
「……パゴ?パァ?」
アメジオは目を逸らす事無く、正直な気持ちを打ち明けた。テラパゴスにもその気持ちが通じたのか、敵意を収め大人しくなっていく。
「あれ?テラパゴス?」
「どうやら、アメジオに敵意がない事を理解したみたいだな……同盟に関係なく此処は一時休戦すべきだ。リコも過去の事は一旦、忘れてくれ」
「……ジンがそういうなら」
リコも渋々といった様子ではあったが、了承する。アメジオに対しては複雑な気持ちもあるが、先程のバトルを通して決して邪悪な人物ではないと理解していた。その上、今は互いに協力しなければ命が危ぶまれる状況だ。協力し合う事に異議が出る筈もない。
「アメジオもいいな?」
「分かっている。此処を出るまでは協力を惜しむつもりはない」
「よし……なら、リコは少し休んでいろ。俺とアメジオで周囲の確認をしてくる」
「えっ?ま、待って、私も手伝うよ!」
「無理をするな。先程のバトルに加えて此処までの移動、更にはこの寒さだ。体力を消耗しているのは目に見えているぞ」
「うっ……」
ジンの指摘通り、リコは体力を相当消費している。慣れない雪山を登山した上にアメジオとのバトル、更にはスピネルの追跡、ここ数時間で様々な事が起きた。リコはジンの指導もありトレーナーとしてはそれなりに実力をつけている。しかし、旅の中で様々な試練を乗り越え自然と鍛えられたジン、あらゆる任務を遂行する為にハンベルの特訓を受けたアメジオと比べると体力ではかなり劣ってしまう。
「俺は手前側をもう一度調べるから、アメジオは奥を頼む」
「いいだろう」
ジンとアメジオはリコをその場に残し、それぞれ脱出できる道が残されていないのかを探し始める。しかし、ジンの心境を正直に言うと望みは薄いと考えていた。スピネルの罠だとすれば既に事前調査がされている筈であり、本気でジン達を閉じ込めるつもりなら、出口が用意されている可能性はかなり低い。仮にジンがスピネルの立場であれば、そんな見落としをする筈もない。
(……変わらず圏外。妨害電波の可能性ありか。用意周到過ぎて可愛げがないな。まあ、それでこそスピネルと言ったところか)
先程から何度か試しているがスマホロトムは相変わらず反応しない。純粋に圏外の可能性もあるが、スピネルが絡んでいる以上、彼のポケモンであるレアコイルが安全な場所から妨害電波を流していると考えた方が自然である。
「……ん?リコ、大丈夫か?」
改めて洞窟内を見渡していると視界の隅にリコが映り込んでくる。彼女は座って休んでいたのだが、体を丸くし手をこすり合わせ、寒さを必死に堪えている様だ。
「ま、まだ大丈夫だよ」
「この寒さだ。我慢する必要はない。ちょっと待ってろ」
現状、荷物に寒さをしのげる物はない。その為、洞窟内にあるものを活用し、寒さに耐えるしかなかった。ジンは何か利用できる物がないかと洞窟全体を見渡してみる。するとジン達がいる場所よりも上段に小麦色の草が生えている事に気付く。
(ん?)
それと同時にジンはもう1つ別の事にも気が付いた。ジン達がいる場所のほぼ真上、そこに僅かではあるが小さな穴が開いていたのだ。人が通れるような大きさではないが、穴の上から草が垂れており、一定の間隔を置いて風に揺られている。
(外に通じているかもしれない……いや、それは一旦、後だな)
僅かではあるが、脱出の希望は見えた。後は行動に移すだけだが、あそこまで登り切る事を考えれば、ある程度の体力は必要だ。脱出の前にリコの体力をある程度、回復させておく必要がある。
「ユキメノコ!頼む!」
「メノ~!」
ジンはモンスターボールを取り出し、中に入っていたユキメノコをその場に出す。ユキメノコはボールから出ると直ぐにジンの傍へと近づき、首元に頬擦りする様にしだれかかる。
(ユキメノコ、新しいポケモンか……)
(……いいな~)
アメジオは純粋にライバルに新たなポケモンが加わっている事に対する興味の視線。それに対し、リコはジンに堂々とくっついているユキメノコに対して微かな嫉妬の籠った視線を送っている。リコとしては24時間、どこでもジンと繋がっていたい気持ちはあるのだが、流石にアメジオの前では警戒心が働いて自重する。
「ユキメノコ、悪いんだが、あそこに生えている草を持ってきてくれないか?」
「メノ!」
ユキメノコの手を優しく解いたジンは早速指示を出し始める。それに従い、ユキメノコは宙に舞うと生えている草を摘み取って、再びジンの傍に舞い戻った。
草をむしり取り、戻って来る。
「アメジオ、ソウブレイズの力を貸してくれないか?」
「なに?」
「この草に火をつけてくれ。それだけでも寒さを凌ぐには充分だ」
ソウブレイズは主人であるアメジオに視線を向け、アメジオは静かに頷く事で了承する。ソウブレイズはアメジオの許可を得るとジン達の下に近づき、片腕の剣を伸ばし地面に置かれた草へと当てる。剣に纏われていた炎が草に燃え移り、寒さをしのぐには十分な焚火が出来上がった。
「よし。かなり良くなったな」
「うん!本当に温かい!」
「アメジオ、こっちに来い。少し休憩にしよう」
ジンの呼びかけに対してアメジオは答える事はしなかったが、無言で火の傍まで近づき腰を下ろした。あまりにも素直ではない態度にジンは思わず失笑してしまう。
「……なんだ?」
「いや、何でもない。顔を合わせる度にバトルをしていたお前と、こうして腰を据えて話せる状況になるとは思ってもみなかっただけだ」
今までガラルファイヤー相手に共闘した事はあったが、それ以外ではずっと顔を合わせればバトルばかりを繰り返していた。同盟を結んでいるとはいえ、この様な場所で焚火を囲んで話をする事になる等、過去の自分達に言っても恐らく信じたりはしないだろう。
ジンとアメジオが話すのをリコは無言で見ていた。アメジオに対する嫉妬心などもあったが、それ以上にリコは予てよりどうしても問い質したい事があったのだ。
「……ずっと聞きたかった事がある。黒いレックウザとのバトルの時、どうして私を助けたの?」
嘗てレックウザとバトルになった際、『りゅうせいぐん』の一部がリコとテラパゴスに向かって落ちそうになった事がある。その際、突如、現れたアメジオのソウブレイズが一刀両断しそれを防いだ事で事なきを得たのだ。
「別に助けたつもりはない」
「でも、そのお陰で私達は助かった。これは事実、変わる事はない。それにさっきのバトルでも私にアドバイスしてくれた」
「何が言いたい?」
「エクスプローラーズはテラパゴスを狙う悪い連中。だけど……貴方はどこか違う気がする。だから、教えて!どうしてテラパゴスや黒いレックウザが必要なの!」
リコの問いかけに対して、アメジオは目を瞑り考え込んでいる様である。エクスプローラーズ内でのアメジオの立場は必ずしも良くない。任務失敗が何度も続き、一部進言が通った事や力を付けた事で辛うじて許されているが、これ以上の情報漏洩や失態が続けば、立場が危うくなるのは目に見えていた。それこそ、スピネルに付け入る隙を与えてしまう事になる。
「…………」
そんなアメジオの心境をジンは何となくであるが察していた。それ故に、このまま黙認するという選択肢もあったのだが、今現在の状況を利用して、エクスプローラーズの情報を得るチャンスを見逃す事もしたくなかった為、アメジオの会話を意図的に誘導する意味も含めて、敢えて自分から話題を振る。
「……俺はホウエン地方、ミシロタウン出身だ」
「ジン?」
「……急になんだ?」
「お前から話を聞くんだ。こっちも話すのが筋だと思ってな……続けるぞ。家族は両親のみ。親戚は俺の知る限りいない。それから……諸事情により、両親とは旅立ちの日以来、数年経つが一度も話をしていない」
「えっ?」
「なに?」
恋人であるリコは勿論、ハンベルによる身元調査の結果を聞いていたアメジオもこの情報は初耳だった。
「まぁ、それはいいとしてだ。俺は地元にいたオダマキ博士に色々とポケモンの事を教えてもらってだな──」
「いやいやいや、ジン!ちょっと待って!」
「そこまで言って諸事情で終わらせようとするな。他人のプライベートに踏み入るつもりはなかったが──何故、両親と不仲なのか説明しろ」
「別に面白い話でもないんだが……」
「いいから!教えて!言える範囲でいいから……!!」
ジンの恋人であるリコにとって、これはとても重要な事だ。今後もジンとの末永い付き合いを希望しているリコとしては、いずれはジンの両親と会う機会は避けられない。それにも拘わらず、ジンが両親と上手く行っていないと聞いては黙っている事は出来ない様である。
「……その話をする前に俺の両祖父母について話す必要があるな」
「ジンのおじいちゃんとおばあちゃん?」
「あぁ、俺の祖父母は、俺が生まれるよりも前……両親が幼い頃に両方とも亡くなっている」
両家共にというは少々珍しいが、決してあり得ない話ではない。事実、アメジオもここまでハンベルの調査で知っていたが、不幸があった程度に捉え、それ以上の事は知ろうとすらしなかった。
「死因はどちらも同じ。それは……ポケモンの攻撃を直接、受けた事による外傷だ」
「っ!?」
「……何があった?」
「父型の祖父母はポケモンレンジャー、母型の祖父母は大手企業に雇われるリサーチフェローをしていたそうだ」
ジンも聞いた話ではあったが、どちらも優秀であり、四天王やチャンピオンには及ばなかったが、それに準ずる強さを誇るトレーナーであったらしい。だが、優秀であったが故に彼らは自分達の力を過信してしまったのだ。
「ポケモンハンターの攻撃を受け暴走状態になったポケモンの群れの鎮静、高レベルの野生のポケモンが大勢いる地域での調査、自分達の力量を見誤って、高難易度のミッションに挑んだ結果、帰らぬ人となった」
「そんな……」
このポケモンが多くいる世界では、同じ様な死に方をした人は大勢いたかもしれないが、両親を一斉に失うと言う事は、当時子供であったジンの両親にとっては、この上ない悲劇であった。
「その後、両親は同じ様にポケモンで大切な人を亡くした人達のコミュニティで知り合った。互いにポケモンに関してトラウマに近い症状を抱えていた為か、話が合ったみたいでな……」
程無くして彼らは結婚した。この世界では珍しいポケモン嫌いの夫婦であった。ポケモンが当たり前の存在であるこの世界では、ジンも知らない苦労をした事だろう。例えば、ポケモンに関われないというだけで、人間関係や就職にすら影響を与える程であった。「ポケモンが嫌いなんて可哀想」、「ポケモン嫌いとは仲良く出来ない」、「お前達はポケモンへの理解が足りていない」、「ポケモン嫌いを理由にして甘えているだけ」などと、偏見からの心ない言葉を投げられる場合もあった。それでも、両親は苦難を乗り越えながらも慎ましやかな幸せを享受し、そして念願であった子供を授かる事となる。
「そして、そんな両親から生まれたのが、よりにもよって俺だった訳だ」
「あ~……」
そこまで話して貰えば、リコやアメジオにもその後の展開は大凡ではあるが、予想出来てしまった。
「──『ポケモンは危険な生き物』だから関わってはいけない。両親は幼い俺に何度も言い聞かせた。それこそ、俺が物心つく前からな。少しでもポケモンに関われば、家から出して貰えない日もあった。だが、お前達も知っての通り、俺は一度でも興味を持ったら止まる事ができない性分だからな。色々と無茶をやらかしたんだ」
ゴミ捨て場に出されていたポケモンに関する参考書を拾うなど可愛らしいエピソードもあれば、野生のポケモンを観察する為に深夜にこっそりと家を抜け出して、そのまま朝帰りするなどの危険な行為を幼少期からジンは繰り返した。その都度、両親はジンを厳しく叱責するが、ジンの意見に対しては『無知な子供の言い訳でしかない』として聞く耳を持たなかった。それでも、ジンは一度でも興味を持った『ポケモン』という存在に対して、関わらないという選択肢を取る事は出来なかったのだ。
「ポケモンに危険な側面があるという主張は正しい。だが、それだけで全てを決めつける事は不可能だ。人間と同じ様に良いポケモンもいれば悪いポケモンもいる。住み分けが出来れば共存は不可能じゃない。俺はそう主張したんだが……両親は納得しなかった」
ジンの両親も恐らく、本心ではジンの主張を認めていたのだろう。しかし、感情はまた別の話だ。心の傷が深すぎてどれだけ時間を掛けても癒せない事がある。その事を当時のジンは理解していなかった。だからこそ、口論が絶える事がなかったのかもしれない。
「両親は俺の意見をひたすら否定した。父は『無知な子供の言い訳でしかない』と決めつけて、精神を病んだ母は支離滅裂な言動が多くなった。そのせいで俺も妙に熱くなってしまってな……言う必要のない事を言って、『正論』という言葉の暴力で、両親を傷つけた挙句に責めた事もある」
「……きっとご両親はジンの事が心配だったんだよ」
「分かってる。両親は両親なりのやり方で俺を愛し、守ろうとしてくれた……だが、当時の俺にはそれがとても窮屈に感じたんだ」
ジンの成長を両親は誰よりも近くで見ていた。たった1冊の本から得た知識を元に独自の理論を生み出す発想力、たった1晩ポケモンを観察しただけで細かい特徴まで見抜く観察力、1流トレーナーに必要なスキルをジンは全て持っていた。ポケモンに関わる事を選ばなかった両親だが、その事は認めざるを得なかった。
我が子を愛するが故に、両親はジンが祖父母の様になる事を危惧し、トレーナーとなる事を無理やりにでも止めようとした。しかし、それが結果的にジンとの関係を致命的に悪化させる事となる。
(今にして思えば、俺には息子の才能がなかったのかもな……いや、それは父さんと母さんも同じか?)
両親の意向を全く考えず自身の好奇心に忠実だったジン、息子の安全を第一に考えたが故その意見をひたすら否定ばかりする両親、どちらも少しだけ正しく同時に間違っていた。どちらかが歩み寄っていれば今とは違った家族関係だってあったかもしれない。
まさか今頃になってこの様な共通点を見つけ出すとは思っていなかった。そう思ったジンはある意味で、似た者親子であったのかもしれないと思い、小さく笑みを浮かべる。
「まぁ、そんな訳で両親との関係は致命的な物になってな。そんな関係が暫く続いた時、両親がオダマキ博士に会わせてくれたんだ」
両親からすれば大嫌いなポケモンの研究者を息子と会わせるなど一大決心だった。しかし、自分達がポケモンについて無知であるという自覚があったからこそ、ポケモンの研究者であるオダマキ博士に任せる他なかった。ジンがトレーナーになるのは止められない。それならば、少しでも安全になる様にと考えたのである。
「オダマキ博士を紹介してくれた事は素直に感謝してるよ。お陰でポケモンの事を学ぶ機会も出来た……両親とも少しは話す様になったが、事務的な話ばかりだ」
一度壊れた関係は簡単には戻る事はない。両親のポケモン嫌いは治らないし、この先も変わる事はないだろう。しかし、ジンもまたポケモンと関わらない人生など考えられなかった。家族であっても価値観にあまりに違いがあり過ぎた。この価値観が変わらない限り、普通の家族の様に仲良くするのは難しいのかもしれない。
ジンが両親にリコの事を教える事が出来なかったのはこれが理由でもある。リコがトレーナーであると知れば、恐らく両親は良い顔をしない。それが分かり切っているからこそ、ジンは出来るだけ両親の話題をリコの前では避け続けて来たのだ。
「まぁ、俺の話はそんな所だ。嘘は一切なし。真実を話した……どうかな?アメジオ?」
「……やり方が汚いぞ。これで俺が話さないのでは、あまりに不義理だ」
「あぁ、それが狙いだからな」
「くっ……」
ジンに上手く誘導されていたと理解し、アメジオは悔しそうに顔を歪める。まんまととジンの罠に嵌まって色々と質問までしてしまったのだ。このまま閉口をしていては、とてもフェアとは呼べない。そう考えたアメジオは仕方なさそうに口を開き始めた。
「……ギベオン様の為だ」
「ギベオン?」
「エクスプローラーズを束ねる俺のお爺様がラクアを目指している。テラパゴスも黒いレックウザもラクアへと導く存在だ。俺は……お爺様の夢を叶えたい」
(お爺様か……やはり血縁か)
ハンベルから写真を見せられた時より、ある程度、予想はしていた。こうして改めてアメジオの口から聞かされた事により、予想が正しかったのだと再確認する。
「ただの孫で終わりたくない。俺はギベオン様の期待に応えたい」
アメジオは決意に満ちた表情でそう断言した。その姿を見たジンは、アメジオがなぜ短期間でここまで強くなれたのか、その理由の一端がそこにあったのだと理解する。
「パゴッ!カプ!カーップ!」
しかし、そんなアメジオを睨みつけながらテラパゴスは再び、怒りの形相を浮かべながら吠え始める。隣にいたリコはそんなテラパゴスを落ち着けようと抱きかかえ、頭を優しく撫でて落ち着かせた。
(ギベオンの名に反応しているのか?今までアメジオに敵意を示していたのもそれが理由だとすると……ハンベルさんから聞いた話には、まだ裏がありそうだな)
ハンベルから見せられたギベオンとアメジオの顔は確かに似ていた。それ故にテラパゴスがアメジオをギベオンと勘違いし、敵意をぶつけた可能性は大いにある。しかし、そうなった経緯については未だ謎であり、それが最も重要なピースになるかもしれないとジンは推測する。
「……話してくれてありがとう。私は、お婆ちゃんから受け継いだ冒険をしてる。お婆ちゃんがくれたペンダント、テラパゴスの為にラクアを目指してる。ラクアに行きたがっているから連れて行くって決めたの」
「テラパゴス自身がラクアに?」
「うん……話が出来てよかった。今まで貴方の事をテラパゴスとジンをしつこく付け狙ってる敵としか思ってなかったから」
「……お前の事はテラパゴスを持つ娘としか見ていなかった。その目的も考えも知らない。ジンに守られるだけの存在だと決めつけていた」
「あはは……それは満更、外れてないかも」
リコとしては何時かはジンと隣で戦える存在になりたいと願っているが、アメジオとセキエイ学園で初めて出会った頃のリコは間違いなくその様な立場だったのだから、そう思われても仕方ないとやや自嘲気味に笑う。
「こうやって直接、顔を合わせて話し合わないと分からない事があるのかもしれないね?」
「……かもしれないな」
心なしか今までと比べ、リコのアメジオに対する態度が軟化した様に見受けられる。ポケモンバトルに続き、こうして話し合い、胸の内を明かし合った事で互いに対する認識が大きく変化した様だ。
「2人共、仲直りが出来たみたいだな?」
「そ、そうかな?」
「……元々、仲良しではないがな」
以前までなら、2人の仲は、主にリコの嫉妬により最悪とも呼べる関係だった。それが、今では互いに友人とは言えないまでも信頼関係が出来つつある。少なくともこの状況で喧嘩を始めたりする心配がないだけでジンとしては大助かりだ。
「まぁ、協力できる程度に仲を深めてくれたならそれでいい……それじゃあ、2人共、そろそろここから脱出するとするか?」
「ジン?ひょっとして脱出方法を見つけたの?」
「あぁ、洞窟内を進むのは懸命じゃない。活路があるとしたら、それは……上だ」
ジンが指を指し示した方角に2人の視線が行く。そこには先程、ジンが見つけた小さな穴が存在し、僅かではあるが光が差し込み、地上に生えた草木が顔をのぞかせている。
「成程……確かにあそこからなら外に出られそうだな」
「あぁ、だが通るには少し穴が小さい。もう少し、広げないとな」
ジンはそう言うとポケットからモンスターボールを取り出した。その様子を見たアメジオもジンの考えを察知した様で同じ様にモンスターボールを取り出し宙に投げる。
「ボダァッ!」
「アーマッ!」
ジンはボーマンダ、そしてアメジオはアーマーガアをその場に出した。地上に降り立った2体は互いに飛び出すのに支障が出ない様に適度に距離を取る。
「2体同時なら一撃で行ける。問題ないな?」
「当然だ」
「よし……リコ、俺と一緒にボーマンダの背に乗るんだ」
「えっ?な、何するの?」
ジンとアメジオは瞬時に互いのポケモンの力量を見極め、次の行動を決めた様だが、リコはその思考について行けず、困惑した様子を見せる。そんなリコを見たジンは笑顔を浮かべながら、近づきそのまま無理やり両腕でリコの背中と脚を持ち上げる。所謂、お姫様抱っこである。
「ちょっ!?じ、ジン!何するの!?」
「リコは少しビビりな所があるからな。こうした方が手っ取り早い……あっ、テラパゴス、お前もこっちだ。あんまり暴れないでくれ」
「パゴ?」
「リコ、テラパゴスをしっかり持っていてくれ。落とすなよ?」
ジンはそのまま腕の中でテラパゴスの入ったバッグを持ったリコを抱きかかえ、ボーマンダの背に跨った。その様子を見たアメジオは呆れた様な表情を浮かべ、小さくため息をつくとアーマーガアの背に乗り込む。
「ま、まさか……」
ジンとアメジオが同時にそれぞれのポケモンに乗ったのを見て、リコはこの後の展開を察してしまったのか表情が段々と青褪めていく。
「勝負は一瞬だ。互いに最高威力の物理技でここを突破する!」
「ま、待って~~~~~!」
「いいだろう。加減はするなよ」
「アメジオまで!?」
「了解だ。一気に行くぞ!」
「お願いだから私の話も聞いてよ~~~!」
リコは1人悲鳴を上げて懇願するが、2人は全く聞くつもりはなかった。アメジオはスピネルの企みを暴く為にも1分1秒でも早く脱出する事を望んでおり、ジンは寧ろ、リコのその反応を楽しんでいる素振りすら見せている。この状況では、どれだけ懇願しても止まる筈がなかった。
「アーマーガア!『ブレイブバード』!」
「ボーマンダ!『すてみタックル』!」
アーマーガアとボーマンダはその場で両翼を広げると、空中に勢いよく飛び上がり、目標である穴に向かって防御など捨てた渾身の突撃を開始した。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「パゴォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!?」
目前に迫る天井を前にリコとテラパゴスは恐怖心から悲鳴を上げ、目を瞑ってしまう。恐怖に支配されながらも、テラパゴスを必死に抱きかかえる所にトレーナーとしての本質が垣間見えており、その姿を見たジンは感心した様な、それでいて怖がっているリコを面白がっている様な悪い笑みを浮かべている。
「ボダァァァァァァ!」
「アァマァァァァッ!」
そんなトレーナー達とは対照的に咆哮を上げた2体は天井に渾身の力を込めた突撃を行った。高レベルのポケモン2体の全力の技は天井をいとも簡単にぶち破る。その際、岩などの破片が舞うがボーマンダ達はそれを全く意に介する様子もなく突き進み、無事、外に脱出する事に成功した。
「もう!もう!もう!もう!」
「パゴ!パゴ!パゴ!パゴ!」
洞窟を脱出し、ボーマンダから降りるとリコはジンの胸を何度も叩き、テラパゴスはジンの頭に飛び移ると前足で何度も踏みつけ始める。どうやら、先程の事が余程、恐ろしかった様だ。
「はははっ……悪かったよ。反省してるから勘弁してくれ」
「嘘!ジン、私が怖がるの見て楽しんでたでしょう!」
それなりに長い付き合いの為か、流石にリコにはジンの心の内は『おみとおし』であった。ジンは反論することが出来ず、頭と胸の痛みに耐えながらそっと目を逸らしてしまう。
「はぁぁ……もういい。俺は行くぞ」
そんな様子を見て大きくため息をついたアメジオは付き合ってられないといった態度を取り、ジン達に背を向け歩き始める。
「アメジオ」
「なんだ?」
「スピネルには気を付けろ。奴は何かを企んでお前をここまで誘き寄せた筈だ。これで終わるとは思えない」
「……心に留めておく。お前達も精々、気をつける事だ。奴はいずれまた卑怯な罠を仕掛けて来る」
「だろうな……それはそれで楽しそうだが」
ジンはポケモンバトルだけではなく、スピネルとの知恵比べも本気で楽しんでいる。彼の表情からその事を察したのかアメジオはまたしても大きなため息をつくと、そのまま振り返る事なくその場を離れて行った。
「アメジオ、行っちゃったね。私達と同じでラクアを目指してるなら協力できるかもしれないと思ったのに……」
「……それは少し難しいな。辿り着く場所は同じでも俺達とあいつでは歩んでいる道が違う」
アメジオも少々、頑固な所があり、今回の様な一時的な協力は可能だがジンとの決着を望む以上、恒久的に手を取り合うのは些か難しいのかもしれない。
「そっか……」
「まぁ、その件はまた今度だな。それよりもまずはロイ達と合流しよう」
「うん!2人の事も心配だし、急ごう!」
***
「わぁっ!温かーい!」
アメジオと別れ、ジン達は洞窟に来るまでに来た道を辿り、無事、ロイ達と合流する事が出来た。しかも、その時、彼らは予想外の人物と一緒にいたのである。
「……温まって行くといいよ」
彼らと一緒にいたのは、このナッペ山のジムリーダーのグルーシャだ。今、ジン達は彼の所有する山小屋におり、少しの間、休憩させてもらっている。
「グルーシャさん、助かりました」
「ジムにフリードって人から連絡があって、ちょっと探しに出ただけ。殆ど何もしてないから気にしないでいいよ」
グルーシャはそう告げると山小屋から外に出て、ナッペ山ジムへと戻って行く。
「そういえば、そのフリードは?」
「連絡したんだけど、今、パルデアにいないんだって」
「うん。テラパゴスの情報はこれ以上、集まらないだろうから、昔の伝を辿ってちょっと修行に行ってるみたい」
ブレイブアサギ号での時折行うジンとのトレーニング、更にはガラルでのアメジオとのバトルでフリードは敗北を重ねている。あまり、態度には示していなかったが、本人もその事を気にしている様子が何度か見られた。それ故にジン達が研修を受け、船の修理しているこの期間中に修行を行う事にしたのだろう。
「修行か……再会が楽しみだな」
「キャップやリザードン、もっと強くなってるかもね!」
「かもね。それよりもどうする?エクスプローラーズがまた襲ってくるかもしれないし、このまま下山してオレンジアカデミーに戻る?」
「待って!その前に行きたい所があるの!」
その後、休憩を終えたジン達は山小屋を後にすると再び、登山を開始した。今度は逸れる事がない様に、常に4人で一塊となって進んだ為、少々、時間はかかったが無事、ナッペ山の頂上、最初の目的地であったパルデア最高峰に辿り着いた。
「パルデア最高峰……着いたーーーーーー!」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……凄い」
「あぁ、壮観だ」
「皆で来られて良かった!」
その光景は確かにパルデア最高峰と呼ばれるだけの事があった。広大な景色であり、パルデア地方全体を見渡す事すら可能であり、パルデア十景に数えられるのも納得である。
「折角、ここまで来たんだから写真撮ろうよ!」
「うん!」
研修でのテラスタルバトルやエクスプローラーズとのバトルなどここまで来るのに様々なトラブルがあった。しかし、今だけはこの素晴らしい景色に巡り合えた事と全員が無事に研修に合格した事を喜びたい。そう考えたジン達は全員でここまで辿り着いた事を記念に写真撮影を行うのだった。
***
ジン達と別れたアメジオはそのまま、スピネルの追跡を開始した。しかし、一度本気で逃げに徹したスピネルの所在を探すのは簡単な事ではない。捜索が早々に暗礁に乗り上げたのだが、そんな彼の下にハンベルからギベオンの名を借りた強制召集がかかり、アメジオは渋々、帰還していた。
「お帰りなさいませ。アメジオ様」
アジトにはハンベル他、パルデア地方のアジトの周辺にいた全ての幹部が揃っている。彼らはアメジオに一瞥だけすると直ぐに視線を反らしギベオンが見ているであろう正面の壁へと戻す。
「呼び出しとは一体、何のつもりだ。それにスピネル、貴様には聞きたい事が──」
「残念です」
アメジオの問いを遮る様にスピネルは言葉を紡ぐ。更に侮蔑を込めた視線でアメジオを睨みつけた。
「まさか、貴方が我々、エクスプローラーズを裏切るだなんて」
「は?」
スピネルの言葉にアメジオは言葉が出なかった。しかし、それは当然の事である。アメジオは祖父のギベオンを心底敬愛し、その力になりたいと本気で思っている。そんな祖父に対する裏切り行為などする筈がないとアルセウスに誓う事すら出来たからだ。
「……スピネル様からのご報告です」
ハンベルはその場から動き出し、ある装置を作動させる。するとアメジオ達の正面に横長の長方形の映像が映し出される。そこには、リコのニャローテとアメジオのソウブレイズがバトルする映像だった。
「ハンベルが苦労して再度結んだ同盟を壊しかねない行為だ。なぜ、こんな事をした?」
「同盟はギベオン様の意思によるもの。それを個人の私怨で壊すなど言語道断です。ましてや、我々が警戒すべき相手のジョーカーが不在の隙を狙って、確実に勝てる恋人の方にバトルを仕掛けるなど───流石に卑怯が過ぎるのでは?」
「貴様……!最初からこれを狙っていたのか!一体、何時から撮影を……」
無論、それも気になるが、それ以上にアメジオには気がかりな点があった。それは映像にはリコとアメジオ、そしてポケモン達の映像はあるのだが、審判を務めていたジンの姿が完全に映っていなかったのだ。
(まさか……映像が編集されている!?)
ジンが審判役をしている姿さえあれば、彼から申し込まれた模擬戦という言い訳が出来る。しかし、この映像を見ればジンのいない場所でアメジオが単独のリコにバトルを挑んだようにしか見えなかった。
「ふふふっ……」
そんなアメジオを見てスピネルは小さく笑っている。アメジオの予想した通り、映像を編集したのは彼だ。スピネルはジン達を洞窟に閉じ込めている間に映像を編集し、エクスプローラーズから、自分とジンの勝負からアメジオを追放する必殺の武器へと変えた。
そもそもアメジオを含めあの場にいた全員を洞窟に閉じ込めたのもこの映像を作り出す為、そう考えた方が自然である。
「待ちなって。アメぴょん、言い訳があるなら聞いてやるけど?」
「俺もまだ信じたわけではない」
「えぇ、私もです。その為、アメジオ様には何があったのかの説明をお願いしたく──」
スピネルやアゲートと違い、サンゴやオニキスは中立的な見解を見せた。アメジオの師匠であるハンベルも味方に付いた事で僅かに希望が見えて来た。その為にも何とかして無実を立証し、逆にスピネルの悪事の証拠をつかむ必要がある。
しかし……
『もうよい。その必要はない』
ギベオンはその場にはいなかったが、通信機越しにここの映像を見ており、音声だけを飛ばしている。ギベオンに止められては逆らう事が出来ず、次の言葉をただ待つしか出来なかった。
『失望したぞ。アメジオ』
「お待ちください!」
『お前もか。お前も同じく道を誤るのか……下がれ。お前の顔はもう見たくない』
「っ!?」
それは事実上の戦力外通告である。ギベオンの突然のその物言いにアメジオは顔を伏せ、拳を力強く握りしめる。その拳はスピネルに対する憎しみなどからつい力が入ってしまい、今にも血が流れそうな程であった。
ZAは無事、クリアしました。登場人物の中では、デウロが一番可愛かったかな~
☆8
フェルクさん
☆9
サギサカさん、27yknowさん
☆10
サムハルさん
高評価ありがとうございます
作品の要望などあれば気軽にメッセージを送ってください