ポケットモンスター 新たなる冒険   作:malco

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二か月もお待たせして申し訳ありません。今後も更新遅いとは思いますが、アニメもクライマックスに向かっていそうですし最後まで頑張って書いて行くつもりなので、よろしくお願い致します


リコVSアンpart1

 

バトルは終わり、フィールドを包んでいた熱は次第に引いていった。観客達の歓声もやがて拍手へと変わり、中庭は少しずつ落ち着きを取り戻していく。オープニングセレモニーとして行ったジンとネモのバトルは大成功と言って差し支えないだろう。

 

「…………」

「……アン。そんなに睨まないでくれないか?」

「別に睨んでませんけど~」

 

 フィールドの調整の為、大会は一旦、休憩へと入った。観客席へと戻って来たジンを迎えたのは、怒っている様な半分呆れた様な表情をしたアンだった。どうやら、先程のネモとの一連の様子をしっかり見ていた様である。

 

 因みにネモは既にこの場にはいない。涙を流した事、そしてジンに抱きしめられた場面を大勢の生徒や教師に見られていた事に気付き、恥ずかしさのあまり自室へと逃げてしまった。

 

「ジンって、ああいう事、誰にでも平気でやっちゃうんだね?」

「そんな言い方はやめてくれ……流石に誰にでもあんな事はしないさ」

「ふ~ん」

 

 まるで信じていないという表情である。今までにしてきた事を考えれば自業自得なので強く出る事が出来ず、ジンは困った表情を浮かべていた。

 

「まぁ……相手が俺にとって友人以上の相手だったら、またやってしまうかもな。仮にあの場にいたのがネモでなくアンだったとしても多分、同じ事をしただろうし」

「っ……ふ、ふ~ん」

 

 ジンにとって友人以上の存在、その対象に自分も含まれている。その事実を知ったアンは思わず顔がにやけそうになり、慌てて顔を横に向けてしまう。

 

「アン?」

「な、何でもない!それよりもドットに頼まれてバトルの撮影してたんだけど……さっきのネモとのシーンもリコに見せちゃおうかな~」

「いくら欲しいんだ」

「そこまでするの!?」

 

 照れ隠しで少しだけ困らせようとしただけなのだが、リコの怒りと嫉妬の姿を見た事のあるジンは必死な様子である。顔をアンに近づけ、今にも唇同士がぶつかりそうな程に詰め寄っていく。

 

「言い値を払う。だから映像を売ってくれ。俺の恋人の『しっとのほのお』は随分と燻るからな」

「近い近い!わ、分かった。分かったから~!」

 

 このまま至近距離で見つめられると色々な意味で危ないと判断したのか、アンは息を荒くしながらジンから離れて行く。

 

「はぁ、はぁ……もう」

「それで映像の件なんだが……」

「……分かった。抱きしめたシーンは消して上げる。その代わり……この後、バトル大会が終わったら少しだけでいいから付き合ってくれない?」

「ん?それは勿論、構わないが何をするんだ?」

「……まだ、内緒。リコとの話が終わってから話すから」

 

 リコとの話し合い。確かにアンは最後の研修に赴く前にリコと2人だけで話し合う約束をしていた。ジンはあまり深く考えていなかったが、本人の様子を見るにかなり大事な事を話し合うようである。

 

 ジンとアンが視線を交わした、その直後だった。階段の下から、ゆっくりとした足音が近づいてくる。振り向いた先にいたのは、リコ、ロイ、そしてドットの三人だった。

 

 ――だが、先程までの観客達の歓声とは対照的に、その表情は沈んでいる。

 

「……ジン」

 

 リコが声をかける。だが、その声にはいつもの明るさがない。ロイやドットも俯きがちで、拳を握りしめていた。

 

「ごめん。バトル……見られなかった。それに……」

 

 ぽつりと、リコが言う。それに続くようにロイとドットも話し始める。

 

「僕達、テラパゴスを追いかけてパソコン室に向かっててさ……そこにエクスプローラーズがいたんだ」

「奴らテラパゴスのデータを盗んでたんだ」

 

 観客席の拍手はすでに遠い。代わりに、重たい沈黙がその場に落ちる。リコは悔しそうに唇を噛んだ。

 

「ジンとネモのバトルも見られなかったし……データも奪われた。私たち、完全に出し抜かれた」

 

 その言葉には、自責と焦りが滲んでいる。アンはその様子を横目で見ながら、何も言わない。ジンは一瞬だけ目を伏せ、そして静かに息を吐いた。

 

「……それなら問題ない」

 

 静かだが、はっきりとした声だった。三人が同時に顔を上げる。

 

「え?」

 

 リコの問いに、ジンは落ち着いたまま続ける。

 

「奪われたのは本物じゃない。あれはこちらで用意したダミーだ」

 

 一瞬、言葉の意味が理解できず、ロイが瞬きを繰り返す。

 

「ダ、ダミーって……どういう事?」

「最初から警戒はしていた。エクスプローラーズが動く可能性もな」

 

 ジンは視線をボタンがいると思われる校舎に向けた。

 

「だから、この学園の協力者に頼んで、事前にデータを偽物と入れ替えておいた。本物はすでに別の場所で保護されている」

「じゃあ……テラパゴスのデータは、無事なの?」

「無事だ。それに……ん?」

 

 話をしているとジンのスマホロトムにメッセージが届いた。送って来たのは、ちょうど話題にしていた協力者のボタンからだ。

 

『任務完了。言われた通り偽のデータと証拠をゲットした……うち、使えるでしょう?パルデアで悪だくみする時は、共犯者として今後もご贔屓にな』

 

 その内容を見たジンは小さく笑みを浮かべ、感謝の言葉をメッセージにして送り返す。

 

「……協力者の話によると奴らがデータを盗んだ証拠は掴んだそうだ。いずれ役に立つ時が来るかもな」

 

 ジンがそう言うと、リコの肩から力が抜けた。ロイは大きく息を吐き、疲労が一気に体全体に周りその場にへたり込んでしまう。

 

「そ、そうだったんだ……」

「なんだ〜〜〜最初から言ってよ〜〜〜〜」

「悪かったよ。秘密を知る人間は出来るだけ少ない方が都合が良かったんだ。それに、敵を騙すには最初に味方を騙す方が効果的だからな」

 

 自分達のバトルが全く無意味であった事などは少なからずショックではあった。しかし、それ以上にデータが無事であるという事実を2人は純粋に喜んでいる様だ。しかし、リコ、ロイとは対照的にドットは不服そうな顔つきを浮かべながらジンを睨んでいる。

 

「……どうして」

「ん?」

「どうして、言ってくれなかったんだ?」

「いや、だから……」

「学園の協力者って、そいつだって信用できるか分からないだろ。僕に言ってくれれば、データの入れ替えだってしたのに……」

「……そうだな。ドットなら恐らくデータ関連の作業を問題なくこなせた。そこに疑いはない」

「それならどうして!」

「だが、今回の作戦はエクスプローラーズがいつ仕掛けて来るのか。そのタイミングを見極める事も必須条件だ。それを見極める為には学内で情報収集する必要がある訳なんだが……テラスタル研修中のお前にそれが出来たのか?」

「そ、それは……」

 

 ドットにはオレンジアカデミーに協力を頼める友人はいない。仮にいたとしても研修中はナンジャモ、アオキとのバトルに備えジンと作戦会議などに費やしていた。そこに更にデータの入れ替え作業などまで行うのは現実的に考えて不可能である。

 

(……僕は何を言ってるんだ?)

 

 ジンの説明に特に欠点は見つからない。腹芸が苦手なリコやロイに話せば秘密が漏れていた可能性もあり、自分に話せば何かしら役には立てたかもしれないが、その代わり肝心の研修に不合格となる未来もあっただろう。そう考えれば、ジンが自分達に話さなかったのは当然の選択であり責められる様な物ではないという事は理解している。

 

 しかし、感情となるとそれはまた別の話だ。

 

(いや、分かってる。僕が一番腹を立てているのは……ジンに頼りにされなかった僕自身だ)

 

 最も得意とする分野でジンが別の相手を頼り、自分に相談してくれなかった事。自分自身の無力さ、ドットはその事が何よりも腹立たしかった。

 

「……すまなかったな」

 

 ジンはそう言いながら、ドットの頭に手を伸ばしゆっくりと撫で始める。

 

「別に、お前を頼りにしてない訳じゃない」

 

 その言葉を聞き、ドットの肩がぴくりと揺れた。

 

「今回の件は、タイミングが悪かっただけだ。データの扱いなら、お前が一番だって事くらい分かってる。だからこそ、研修に集中して欲しかった。お前がナンジャモさんやアオキさんに負ける未来は、正直あまり想像してなかったが……それでも余計な事を背負わせたくはなかったんだ」

 

 ドットは俯いたまま、何も言わない。だが、耳の先がほんのり赤くなっている。

 

「……それに」

 

 ジンは少しだけ苦笑した。

 

「もしお前に頼んでいたら、多分――」

 

 ぽん、と軽く頭を叩く。

 

「徹夜してでも全部やろうとしただろ? 旅の道中で疲れ切っている状態で」

「…………」

 

 図星だった。ドットの顔が一気に赤くなる。

 

「そ、それは……!」

 

 反論しようとして言葉に詰まる。自分でも、そうする未来が容易に想像できたからだ。ジンはそんな様子を見て、くすっと小さく笑った。

 

「ほらな」

「……っ」

 

 さらに頭を撫でられる。その仕草が、あまりにも子供扱いで。しかも、自分の内心を完全に見透かされていて。

 

「や、やめろ……」

 

 ドットは小さく抗議するが、声に力がない。

 

「顔、真っ赤だぞ」

「う、うるさい……」

 

 とうとうドットは顔を上げた。髪によって顔の半分は隠されていたのだが、それでも、その頬ははっきり分かる程、赤くなっている。

 

「別に……僕は……その……」

 

 言い訳を探して視線を泳がせるが、うまく言葉が出てこない。ジンは少しだけ身を屈め、目線を合わせた。

 

「拗ねるくらいなら、次は最初から頼らせてもらうさ」

「……っ!」

「その代わり、その時は容赦なく働いてもらうけどな」

 

 ドットの目が大きく開かれる。

 

 そして――

 

「……当たり前だろ。僕を誰だと思ってるんだ」

 

 まだ顔は赤いままだが、先程までの苛立ちは消えている。ジンは満足そうに頷き、最後にもう一度だけドットの頭をくしゃっと撫でた。

 

「はいはい、頼りにしてるよ。ドット」

「……だから撫でるなって!」

 

 ドットは慌ててジンの手を払いのける。だが、その声にはもう怒りはほとんど残っていなかった。その様子を見て、ロイがぽつりと呟く。

 

「2人って、まるで兄妹だね」

 

ジンに頭を撫でられて顔を真っ赤にしながら抗議するドット。それをどこか面白そうに眺めているジンの姿は、確かにそんな雰囲気に見えなくもない。

 

「本当だね」

 

 リコも小さく笑いながら頷いた。だが、その視線は自然とドットへと向いている。ジンに頭を撫でられて顔を真っ赤にしているドット。ジンの手を払いのけながらも、完全に怒っている様子ではない。むしろ落ち着かない様子で、視線をあちこちに逸らしている。

 

(……あれ?)

 

 ふと、リコの胸の奥に小さな違和感が生まれる。ほんの些細な引っかかりだが、なぜか無視できなかった。

 

(ドットって……)

 

 ドットは普段、人と距離を取るタイプだ。リコやロイとは仲間として打ち解けているが、それでもあんな風に感情を露骨に見せる事はあまりない。

 

 ましてや――誰かに頭を撫でられて、あんな反応をするなんて。照れているようにも見えるその様子に、リコは少しだけ目を細める。

 

(……もしかして)

 

 もう一度、ドットを見る。ジンに何か言い返しながらも、頬の赤みはまだ消えていない。その姿を見ていると、胸の奥がほんの少しだけざわついた。

 

(ドット……もしかして)

 

 考えが、ゆっくりと形になっていく。

 

(ジンの事……好き、とか?)

 

 そこまで思った瞬間――

 

(……いやいやいや!)

 

 リコは慌てて頭の中で否定した。自分でも驚くほどの勢いで、その考えを振り払う。

 

(ドットがそんな風に見えるなんて……)

 

 理屈では、あり得ないと思う。でも、さっきの様子を思い出すと――。

 

(……でも)

 

 もし、そうだったとしたら。リコの視線が、もう一度ドットへ向く。今度は少しだけ真剣な眼差しだった。

 

(……あとで聞いてみようかな)

 

 そう思いつつも、確信がある訳ではない。むしろ、自分でも考えすぎだと思っているくらいだ。その隣でロイは何も気付かず、のんきに笑っている。

 

「でもさ、ドットってあんな顔するんだねー」

 

 感心したような声でそう言うロイに、リコは小さく頷いた。

 

「……そうだね」

 

 表情はいつもの優しい笑顔のまま。けれど、その心の奥ではほんの少しだけ――。

 

(……ちょっと、気になるかも)

 

 

 

***

 

 

 

 数分間の休憩を終え、オレンジアカデミーの中庭では再びざわめきが広がり始めていた。フィールドの調整も終わり、中断していたバトル大会がいよいよ再開される。

 

 観客席に戻っていた生徒達の視線が、ゆっくりと中央のバトルフィールドへと集まっていく。やがてその中央に、穏やかな笑みを浮かべた一人の老紳士、オレンジアカデミー校長のクラベルが現れた。

 

「皆さん、お待たせしました。バトルフィールドの調整が完了しましたので……バトル大会を再開します」

 

 軽く咳払いを一つしてから、クラベルは集まった生徒達を見渡し、よく通る声で次の試合の開始を告げる。待ってましたとばかりに観客席から小さなどよめきと拍手が起こった。

 

 クラベルは満足そうに頷くと、手元のスマホロトムを操作する。それと同時に観客席にいた全ての参加者に一斉にメッセージが届く。そのメッセージには画像が添付されており、開いてみるとそこにはそれぞれ自分が対戦する相手並びに何試合目にバトルするのかが記載されていた。

 

「えっ!?」

「これ……」

 

 ジンの左右の席に座っていたリコとアンが同時に驚愕の声を上げる。何事かと思い、ジンは両者のスマホロトムの画面に視線を送った。そこに表示されていた対戦カードを見て、ジンの眉が僅かに上がる。

 

「……ほう」

 

 思わず漏れた声には、驚きというよりも興味の色が強く混じっていた。

 

「第一試合から当たるのか」

 

 ジンはリコとアンの顔を交互に見やる。二人ともまだ自分の画面を見つめたまま、状況を整理しきれていない様子だった。

 

「リコとアンのバトル、か」

 

 小さく笑みを浮かべながら呟く。

 

「大会の最初を飾るカードとしては、なかなか面白い組み合わせだな」

 

 そう言われてようやく二人は顔を上げた。

 

「ちょ、ちょっと待って!いきなりアンと!?」

 

 リコが慌てた声を上げる。一方のアンも、まだ驚きが残った表情のままだった。

 

「まさか最初の試合がリコになるなんて……」

 

 だが次の瞬間、その表情がゆっくりと変わっていく。驚きの奥から、バトルトレーナーらしい闘志が顔を出し始めていた。アンはスマホロトムを閉じると、リコに視線を向ける。

 

「……でも、せっかくのバトル大会だし」

 

 その口元に、少しだけ挑戦的な笑みが浮かぶ。

 

「一度きりの対戦なら、なおさら全力で行かないとね。リコ」

 

 リコも一瞬驚いた表情を見せたが、すぐにぐっと拳を握った。

 

「うん……私も手加減しないから!」

 

 二人の間に、静かな火花が散る。その様子を見ながら、ジンは興味深そうな顔をしながら腕を組んだ。

 

(第一試合からこのカードとは……今日は退屈しないな)

 

 今日はネモとのバトルで充分に満たされていたのだが、この様なおまけまでつくとはジンとしても予測していなかった。この様な面白い催しを開催してくれた教師陣には素直に感謝しなくてはならないだろう。

 

「押忍!それでは早速、第一試合を開始する。両者バトルフィールドへ!」

 

 審判を務めるキハダに呼び出され、リコとアンは同時にその場から立ち上がりバトルフィールドへと降りて行く。

 

「使用ポケモンは2体!入れ替えは自由!先に相手のポケモンを2体共倒した方が勝者だ!いいな!」

 

 キハダのルール確認に対し、リコとアンは頷く事で了承する。

 

「リコ!研修に行く前にした約束覚えてる?」

「……うん。忘れてないよ」

 

 最後の研修に行く前にこの学園でした2人きりで話をするという約束。あの時のアンは何かを決意した様な表情だった。

 

「詳しい話は後だけど……この勝負に勝って堂々と伝えるからね!」

「むぅ……私だって負けないから!」

「おぉ!2人共気合が入っているな!それではポケモンをフィールドに出してくれ!」

 

 そう促され、アンは迷う事なくポケットからモンスターボールを1つ取り出した。それに対し、リコは少しだけ迷うそぶりを見せるが最終的に相棒であるニャローテが入っているモンスターボールを手に取る。

 

(アンのポケモンはフタチマルとサンドの2体。水と地面、それならニャローテが有利!)

 

「ニャローテ!お願い!」

「いっけぇ!」

 

 リコとアンは同時にモンスターボールをバトルフィールドへと投げつける。リコのモンスターボールからはニャローテが、そしてアンの投げたモンスターボールからは、立派な角を生やしたカブトムシの様な見た目の1ぽんヅノポケモンのヘラクロスが現れる。ちなみに、角の先端部分がハートの様な形である事から、性別は♀であると察せられた。

 

「ヘラクロス!?」

「へへっ!ジンに草タイプに強いポケモンをゲットしろって言われたからね。最後の研修を受ける前に、ちょっとだけ遠出してゲットしてきたんだ!」

 

 アンの最後の研修の相手は草タイプの使い手のコルサだった。アンの持つポケモンは草タイプに相性が悪い。無論、相性を覆す為の技は覚えさせていたが、不利である事に変わりはない。その為の対策としてジンの忠告を思い出しゲットに至った様である。

 

「いきなりやってくれるね……」

 

 相性のいいポケモンで戦うという目論見は予想外のポケモンの出現で壊されてしまった。しかし、ポケモンは相性だけが全てではない。その事は、互いに師匠であるジンから教わっている。

 

「両者共に準備は良いな?それでは……バトルスタート!」

「ニャローテ!『マジカルリーフ』!」

「『メガホーン』で押し返して!」

 

 キハダの合図と共にリコとアンはそれぞれのポケモンに指示を飛ばした。ニャローテは蕾に蔦を巻き付けると正面で回転させ、大量の葉を作り出しヘラクロス目掛けて放つ。それに対しヘラクロスは避ける素振りを一切見せず、力任せに突撃していく。

 

「ニャァッ!」

「ヘラクロォッ!」

 

 大量の葉と白く光る一本の角がぶつかり合う。ニャローテの『マジカルリーフ』は威力・規模共に流石と言える物だった。しかし、相性、何よりもヘラクロスのパワーの前では意味をなさない。ヘラクロスは大量の葉を突き破り、ニャローテへと突撃する。

 

「ニャッ!?」

「ニャローテ!?」

 

 『メガホーン』が直撃したニャローテは悲痛な声を上げながら、空中へと弾き飛ばされた。ヘラクロスは背中の翼を広げると、空中に舞い上がり追い打ちを掛けようと空中へと飛び上がって行く。

 

「『みだれづき』!」

「させない!ニャローテ!蔦をヘラクロスの角に絡ませて!」

 

 迫りくる連続の突き、それに向かってニャローテは蔦を投げ飛ばす。蔦は上手い具合に角に絡みついた。

 

「ニャローテ!引っ張って!」

 

 リコの指示に応えるように、ニャローテは絡めた蔦をぐっと強く引き寄せる。その反動で体の向きを変え、迫り来ていたヘラクロスの突きを紙一重で躱した。

 

「ニャッ!」

 

 空中でくるりと一回転し、ヘラクロスの真横をすり抜けるようにして距離を取る。

 

「ヘラクロ!?」

 

 狙っていた相手が突然軌道を外れた事で、ヘラクロスの突きは空を切った。ニャローテはその隙を逃さず、蔦を器用に解きながら体勢を整え体を丸めるようにして落下していく。そして両足でしっかりと地面を踏みしめ、軽やかに着地した。

 

「ニャローテ!」

 

 リコはほっと胸を撫で下ろす。一方、空中ではヘラクロスが翼を震わせながら体勢を立て直していた。

 

「へぇ……空中であれをやるなんて、流石ニャローテだね」

「ヘラクロスこそ、凄いパワーだったよ」

「へへん!そうでしょう?ゲットするの大変だったんだから!」

 

 ヘラクロスのパワー、それは対戦相手であるリコだけでなくバトルを見ていた全てのトレーナーが認めていた。効果抜群である事も大きな要因ではあるが、それを抜きにしても先程の『メガホーン』でニャローテは大ダメージを負ってしまった。もう一度、喰らえば戦闘不能に追い込まれる可能性は大いにある。

 

「ニャローテ!一旦、戻って!」

 

 状況不利と判断したリコは一旦、ニャローテをモンスターボールへと回収した。

 

(新しいポケモンは多分、ヘラクロスだけ。そうするとアンの残りのポケモンはフタチマルとサンドの2体……それなら!)

 

 それに対しリコのポケモンはテブリム、イッカネズミ、カルボウの3体である。ヘラクロスとバトルする事を考えると相性的にイッカネズミは外すのが無難だ。カルボウは相性的には有利だが、残りのアンのポケモンの事も視野に入れると選択肢は必然的に1つしかない。

 

「お願い!テブリム!」

 

 熟慮の末にリコが新たに出したのはエスパータイプのテブリムである。相性的にはヘラクロスと互角。遠距離戦をメインとするこのポケモンを出したのは、現状を考えれば悪くない選択だ。

 

 しかし……

 

「やっぱりそう来た!」

 

 リコが今、バトルしているのは親友であるアンだ。直接会う事は少なくとも、度々、連絡を取り合っている彼女は当然、リコの手持ちについても知り尽くしている。その為、リコの考えを読み次にテブリムを出して来る事を予測していた様だ。

 

「リコ!悪いけどここで一気に差をつけるよ!」

 

 アンはポケットに手を入れ、そこからテラスタルオーブを取り出し構える。

 

「ヘラクロス!キラッキラな未来を見に行こう!」

 

 テラスタルオーブに一気にエネルギーが収縮されていく。満タンにまでエネルギーが貯まったのを確認したアンはそのままヘラクロスの頭上へと投げつけた。無数の結晶がヘラクロスを覆い、そして直ぐに弾け飛ぶ。そこには体を結晶化させ、頭上に触角と小さな翅を生やした王冠を被ったヘラクロスが姿を現す。

 

「虫テラスタル!?」

 

 ヘラクロスの姿を見たリコは驚愕した様子でそう叫ぶ。虫タイプの結晶が輝きを放つ。その圧倒的な存在感に、場の空気が一瞬で塗り替えられた。

 

(リコ……アンに次の一手を完全に読まれていたな)

 

 バトルを見ていたジンは心の中でそう評した。仮にだが、あの場にいたのがジンであったなら所有ポケモンの多さなどから交代するポケモンを読みづらくする事ができたのだが、ここに来て手持ちの少なさ、そして交友が深かった事が完全に仇となってしまった様だ。

 

「それでも……やるしかない!」

 

 テブリムはエスパータイプ。格闘タイプがなくなり虫単体のタイプとなったヘラクロスとの相性は圧倒的に悪い。しかし、もう交代する事はルール的にも不可能。それでも最後まで諦めず戦い抜く。リコの表情はそう物語っていた。

 

「テブリム!『リフレクター』!」

 

 テブリムの周囲に、淡い光の壁が展開される。物理攻撃を軽減する防御の壁を展開し、ヘラクロスのパワーを少しでも抑える為の一手だ。

 

「いい判断だね。でも、ヘラクロスのパワーの前では無意味だよ!『メガホーン』!」

 

 アンの号令と共に、ヘラクロスが大きく踏み込む。強化された角が白く光り、一直線にテブリムへと突き進もうとする。

 

「させない!テブリム、『サイコキネシス』!」

 

 その瞬間、テブリムの瞳が淡く輝いた。見えない力がヘラクロスの体を捉え、その動きを空中で強引に押し留める。

 

「ヘラクロス……止まった!?」

 

 観客席からどよめきが起こる。突撃の勢いをそのままに、ヘラクロスの巨体が不自然に静止していた。

 

「今だよ!『マジカルシャイン』!」

 

 テブリムが両手を広げ、眩い虹色の光を放つ。至近距離から放たれた一撃が、動きを止められたヘラクロスへと直撃した。

 

「ヘラクロォッ……!」

 

 ヘラクロスから苦しげな声が漏れる。

 

 だが……

 

「まだだよ、ヘラクロス!」

 

 アンの声が響いた瞬間、ヘラクロスの体が大きく震えた。空中で押さえつけられていたはずの巨体が、ゆっくりと、しかし確実に動き始める。

 

「なっ!?」

 

 リコの目が見開かれる。見えない力を、ヘラクロスは純粋なパワーで押し返していく。軋むような音と共に、拘束が徐々に引き裂かれていく。

 

「ヘラクロォォッ!!」

 

 雄叫びと共に、ヘラクロスは『サイコキネシス』を完全に振り切った。そして、再びテブリムに向かって加速し突き進んで行く。

 

「『メガホーン』!」

「っ!『マジカルシャイン』で迎え撃って!」

 

 虫テラスタルによって強化された先程までとは比べ物にならない突撃。それに対し、テブリムは両手を広げ眩い虹色の光を放つ。

 

「テブリィッ!」

 

 放たれた『マジカルシャイン』がフィールド一帯を照らし、一直線に突き進むヘラクロスを包み込む。

 

「ヘラクロォッ!」

 

 強烈な光に包まれながらも、ヘラクロスはその勢いを止めない。だが、その直前。テブリムの周囲に展開された『リフレクター』が淡く輝いた。

 

 突撃の軌道が、ほんの僅かに鈍る。ほんの一瞬、ほんの僅かな減速。しかし、その僅かが確かに意味を持った。『マジカルシャイン』の光が、正面からヘラクロスへと叩き込まれる。

 

「ぐっ……!」

 

 アンが思わず息を呑む。ヘラクロスはダメージを受け、体勢をわずかに崩す。しかし、それでも……ヘラクロスの猛攻は止まらない。

 

「ヘラクロォォッ!!」

 

 雄叫びと共に、ヘラクロスは光を突き破る。そして次の瞬間、巨大な角がテブリムを捉えた。

 

「テブリム!」

 

 衝撃と共に、小さな体が大きく吹き飛ばされる。地面に叩きつけられ、転がり、そのまま動きを止めた。静寂が一瞬、バトルフィールドを包んで行く。

 

「……テブリム、戦闘不能!」

 

 キハダの宣言が響く。だがその直後。倒れているテブリムの体が、かすかに光を帯び始めた。淡く、優しい光だ。戦いの激しさとは対照的なその輝きに、観客席が一瞬だけ静まり返る。

 

「……テブリム?」

 

 リコが小さくその名を呼ぶ。テブリムの体から溢れ出した光は、ゆっくりと宙へと浮かび上がり、まるで導かれるように、リコの持つモンスターボールへと流れ込んでいく。

 

「今のは……『いやしのはどう』……!」

 

 リコははっとした表情で、手の中のボールを見つめる。中にいるニャローテが、みるみる内に力を取り戻して行くのを感じ取った。

 

(テブリム……最後まで、ありがとう)

 

 リコは静かに息を吸い込み、顔を上げた。

 

「戻って、テブリム」

 

 赤い光がテブリムを包み込み、モンスターボールへと戻っていく。

 

「行くよ、ニャローテ!」

 

 力強く、モンスターボールを投げ放つ。白い光が弾け、バトルフィールドに再びニャローテが姿を現した。

 

「ニャロォ!」

 

 先程までのダメージなどまるで感じさせない、しなやかな動きで着地する。

 

「完全に回復してる……」

 

 アンは警戒した様子で小さく呟く。だが、すぐに口元に笑みを浮かべた。

 

「いいね、そう来なくっちゃ!」

 

 ヘラクロスが地面を踏みしめ、再び戦闘態勢に入る。しかし、『マジカルシャイン』によるダメージは無視できないものだった。足取りは僅かに重く、先程までの勢いは感じられない。圧倒的だったはずの威圧感も、今はどこか陰りを見せている。

 

「でも、まだいけるよ!ヘラクロス、『メガホーン』!」

 

 アンの声に応え、ヘラクロスが最後の力を振り絞るように踏み込んだ。角を突き出し、一直線にニャローテへと突撃して行く。

 

「ニャローテ、まだだよ……今だ!『アクロバット』!」

 

 次の瞬間、ニャローテの姿がふっと消えた。低く身を沈めたかと思えば、しなやかに跳び上がる。迫る『メガホーン』を紙一重でかわし、その勢いのまま空中で体を捻る。

 

 そして……

 

「ニャロォッ!」

 

 ニャローテの鋭い一撃が、ヘラクロスの横腹へと叩き込まれた。

 

「ックロ……!」

 

 衝撃が走り、ヘラクロスの巨体が大きく揺らぐ。そのまま後方へと弾き飛ばされ、地面を滑るようにして距離を取らされる。勝負あり、その光景を見ていた誰もがそう思った、その瞬間。

 

「……え?」

 

 アンが僅かに目を見開く。倒れかけたはずのヘラクロスが、ぐらつきながらも踏みとどまっていた。

 

「ヘラクロス……?」

 

 アンは指示は出していない。それでもヘラクロスは、自らの意思で顔を上げる。その瞳には、まだ戦いを終わらせないという強い意志が宿っていた。次の瞬間、ヘラクロスの体がわずかに震え無数の針が、一斉に放たれる。

 

「ニャッ!」

 

 完全に意表を突かれた一撃。ニャローテは慌てて回避しようと動き出すが、その全てを避けきる事は出来なかった。軌道を読み、いくつかは紙一重で躱す。しかし、鋭い針の数発が、腕や脚をかすめるようにして突き刺さった。

 

 その瞬間、フィールドに残っていた淡い光が微かに揺らいだ。テブリムが展開していた『リフレクター』の効果が、まだ僅かに残っていた様で直撃の威力は確実に和らげられていた。

 

「ニャロッ……!」

 

 小さく体を震わせながらも、ニャローテはすぐに着地する。ダメージは軽くはない。それでも、戦意はまだ失われていなかった。

 

「ヘラクッ……」

 

 ニャローテのその姿を見てヘラクロスは満足した様な笑みを浮かべながら、その場に崩れ落ちる様に仰向けに倒れ込む。最後の意地を見せたがこれ以上の戦闘は不可能な様子だ。

 

「ヘラクロス戦闘不能!」

 

 審判のキハダの声が、フィールドに響き渡る。同時に、ヘラクロスの体が赤い光に包まれ、モンスターボールへと戻されていった。

 

「お疲れ様、ヘラクロス。本当に、よく頑張ってくれたね」

 

 アンはボールを胸の前でそっと握りしめる。その表情には悔しさと同時に、確かな誇らしさが浮かんでいた。ゆっくりと顔を上げ、フィールドの向こう――リコを見据える。

 

「リコ!私、今、すっごい楽しい!」

「アン……うん!私もだよ!」

 

 2人がこうしてバトルするのはセキエイ学園以来だ。ジンの指導があったとはいえ、当時の2人は正真正銘の初心者であり、今の様なバトルは到底出来なかった。技を出すだけで精一杯だったあの頃とは違う。今は互いに相手の手を読み、考え、ぶつけ合っている。その一手一手に、積み重ねてきた時間が確かに宿っていた。

 

「……だからさ」

 

 アンは小さく息を吐き、ボールを握る手に力を込める。

 

「最後まで、全力でいくよ」

「うん……来て、アン!」

 

 互いに一歩も引かない視線。そして、アンは最後のモンスターボールを構える。

 

「いこう、フタチマル!」

 

 投げられたボールが弧を描き、フィールドに白い光が弾けた。

 

「タチッ!」

 

 鋭い鳴き声と共に現れたフタチマルは、すぐさま両腰に取り付けらているホタチを手に取り構える。その鋭い眼差しが、ニャローテを真っ直ぐに捉えていた。

 

 ――いよいよ、最後の一戦が始まる。

 





最近のアニポケを見て思った事があります。

18テラスタイプのポケモンを集める。それはいいんですが、六英雄と並ぶ強力なポケモンという条件なのにリコ達の所有ポケモンでいいのかな?って思っちゃいました。マスカーニャ・ラウドボーン・ウェーニバル・パーモットとかはいいとしても、タイカイデンとかはちょっと弱い気が……まぁ、まだ完全決定した訳じゃなさそうなので少し様子を見て行こうと思います。

☆8
スーパーヒーローさん

☆10
サボテンダーイオウさん、のぞむさん

高評価ありがとうございます

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