ポケットモンスター 新たなる冒険   作:malco

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お待たせしました。

今回でリコとアンのバトルはラストになります。


リコVSアンpart2

 

静まり返る中庭。観客達は固唾を呑んでフィールドを見つめていた。そこには2体のポケモンがおり、互いを鋭い目つきで睨みつけている。

 

「ニャローテ……!」

「フタチマル……!」

 

 2体は共にそれぞれのトレーナーの相棒であり、最強のポケモンだ。レベルはほぼ互角。相性ではニャローテが有利だが、先程のヘラクロスの最後の攻撃でダメージを負っている。しかし、リコにはまだテラスタルという切り札も残されている。客観的に見れば、ニャローテが有利と見ていいだろう。

 

「……いくよ!」

「いこう!」

 

 ほぼ同時に、両者の声が重なった。

 

「ニャローテ、『でんこうせっか』!」

「フタチマル、『アクアジェット』!」

 

 閃光の様に駆け抜けるニャローテと水を纏い突き進むフタチマル、次の瞬間には、両者の姿はすでにバトルフィールドの中央で交差している。

 

「ニャロッ!」

「フチャッ!」

 

 すれ違いざま、互いの攻撃がかすめる。ニャローテの体当たりがフタチマルの体勢を僅かに崩し、同時に『アクアジェット』の勢いがニャローテの身体を軽く弾いた。互いに致命打にはなりえない。しかし、確実にダメージは入っている。

 

(……速いな)

 

 その様子を見ていたジンは心の中でそう評する。どちらも素早さは申し分ない。ニャローテとフタチマル、どちらもトレーニングを欠かさずしている事が窺えた。

 

「『マジカルリーフ』!」

「『みずのはどう』!」

 

 放たれた無数の葉と、渦巻く水流が正面からぶつかり合う。葉と水は弾ける様に霧散し、視界が一瞬だけ白く濁った。

 

「『つばめがえし』!」

「フチャッ!」

 

 その刹那、フタチマルの姿が掻き消える。技同士が衝突の際に発生した水煙に紛れ、一気にニャローテの側面へと回り込んだ様だ。フタチマルはニャローテの死角から『つばめがえし』を撃ち込む。

 

「っ!『アクロバット』で躱して!」

「ニャアッ!」

 

 確実に入ったと思われる一撃だった。しかし、ニャローテは咄嗟に首を動かす事で紙一重で回避すると、そのまま軽やかな動きを見せ跳躍する。まるで重さを感じていないかの様な動きだ。その流れを利用し、一気にフタチマルから距離を取って行く。

 

「逃がさない!ホタチを投げて!」

 

 フタチマルは咄嗟に、右脚に取り付けられているホタチを手に取り鋭く投げつける。一直線に迫るホタチを、ニャローテは空中で身体を捻り回避してみせた。

 

「ニャッ!?」

 

 しかし、回避したと思ったのも束の間。通り過ぎた筈のホタチが、弧を描きまるでブーメランかの様な軌道で舞い戻って来た。不意を突かれたニャローテの背に鋭く突き刺さる。

 

「ニャローテ!?」

 

 ニャローテは体勢を崩し、空中でバランスを失い、そのままフィールドへと落下していく。その隙をアンとフタチマルは見逃さない。

 

「チャンス到来!『つばめがえし』!」

「フチッ!」

 

 地面を蹴り、一気に間合いを詰める。落下していくニャローテに対し、フタチマルの拳が迫っていた。

 

「っ!『ふいうち』!」

「にゃ、ニャァッ!」

 

 迫りくる効果抜群の技を前にリコは咄嗟に『ふいうち』の指示を出し、ニャローテもそれに応えようとする。蕾を巻き付けた蔦を投げ放つ。それはヨーヨーの様にしなりながら、一直線にフタチマルへと迫った。

 

「っ……!」

 

 不意を突いた一撃。蔦に巻き付けられた蕾がフタチマルの頬を打ち抜き、そのまま弾ける様に叩きつけた。

 

「フチャッ……!」

 

 確かな手応えだった。だが――フタチマルの拳は止まらない。頬にダメージを受けながらも、フタチマルは踏み込みを緩めず、拳を振り抜いた。

 

「ニャロッ!?」

 

 次の瞬間、鋭い一撃がニャローテの身体に突き刺さり、衝撃が走る。ニャローテは地面へと叩きつけられ、フタチマルもまた一歩、二歩とよろめく。しかし、両者共にまだ戦闘は可能な様で傷を庇いながらニャローテは立ち上がり、フタチマルもまた体をふらつかせながらも投げつけたホタチを回収し構えている。

 

「フチャァ、フチャァ……!」

「ニャァ、ニャァ……!」

 

 ニャローテとフタチマルは互いに距離を取りながら、荒い呼吸を整えていた。肩が上下し、呼吸は浅く速い。

張り詰めていた空気が、ようやく僅かに緩む。――それはポケモンだけではない。

 

「……っ、は……」

 

 リコも、知らずの内に息を詰めていた。呼吸を整えようとしても、上手く行かない様子だ。

 

「はぁ……は……」

 

 そして、それはアンも同じである。短く息を吐きながらも、視線だけは決して逸らさない。

 

 ここまで、息をつく暇すらない攻防の連続。一瞬の判断の遅れが、そのまま致命打に繋がる――そんな緊張の中で戦い続けていたのだという事が伺える。

 

「……ふっ」

 

 どちらからともなく、小さく笑みがこぼれた。

 

「……ふふっ」

 

 それが伝染する様に、アンも思わず笑い出す。張り詰めていた空気が、ほんの一瞬だけ緩む。

 

「……ねえ、アン」

 

 リコが息を整えながら、声をかける。

 

「なに?」

 

 アンもまた、笑みを浮かべたまま応じた。

 

「私――今、すっごく楽しい」

 

 迷いのない言葉だった。一瞬の沈黙。そんなリコを見たアンは小さく頷き、自分の気持ちを伝える。

 

「……うん。私もだよ。こんなに楽しいバトル、初めてかも」

 

 セキエイ学園にいた頃、引っ込み思案であったリコの性格故、2人は授業でペアを組み幾度となくバトルを繰り返していた。だが当時は、ただ技を出し合うだけ。戦略も駆け引きもない、どこかぎこちない戦いだった。

 

 それでも――目の前の相手に、必死に食らいつこうとしていた。あの頃から比べれば、今の自分達はまるで別物だ。相手の動きを読み、技を選び、次の一手を考える。互いに鍛え、互いに高め合ってきた時間が、確かにここに繋がっている。

 

「……強くなったね、リコ」

「アンこそ」

 

 自然と言葉が出て、どちらも笑っていた。競い合う相手でありながら――その成長を、心から嬉しいと思えている。

 

「でも……負けないよ!フタチマル!」

「私達だって!絶対勝とう!ニャローテ!」

 

 

 

***

 

 

 

 フィールドを見つめながら、ジンは静かに目を細めていた。

 

 リコとアン。ニャローテとフタチマル。

 

 互いに一歩も引かない、拮抗した攻防。

 

(いいな……この空気。最高だ)

 

 張り詰めた緊張の中に、確かな“熱”を感じさせる。両者の事をよく知るジンだからこそ、この先に起こり得るであろう現象に誰よりも早く察しがついていた。

 

「ロイ、ドット……そろそろ来るぞ」

「えっ?」

「く、来るって何が?」

 

 ジンの両隣りにいた2人は問い返すが、ジンはバトルフィールドから目を逸らす事もなく淡々と言葉を重ねる。

 

「あれはもう、ただの打ち合いじゃない。互いの思考と本能が異常な精度で噛み合ってる」

 

 口元が上がり、ジンは嘗てない程の笑みを浮かべていた。それは、見る人から見ればポケモンバトルに憑りつかれた狂気を感じさせるような笑みだ。そんなジンを見たロイは本能的に恐怖を感じ数歩分、距離を取ってしまう。

 

「原石同士がぶつかり、削り合う。それでも止まらない。条件は、もう揃っている」

 

 視線の先では立ち上がったニャローテとホタチを構えるフタチマルの姿があった。

 

「実力は拮抗し、互いを認め合い、そして――何よりも意地でも相手に勝ちたいという感情が限界まで高まっている」

 

 ジンがそう言葉を紡いだ瞬間、空気が変わった。そこに来て漸く、ロイやドット、そして他の観客達もバトルフィールドにいるポケモン達に変化が起き始めた事に気付いた様だ。

 

「――共鳴だ」

「共鳴……?」

「対等の相手とバトルする事で互いの限界を超えて行く現象。敢えて言うのなら、戦いの中で起きる最高の“化学反応”だ」

 

(だが、少し惜しいな――出来る事ならもっと大きな舞台でこのバトルをさせてやりたかった)

 

 このバトル大会も決して悪くはない。だが、我儘を言うのであればポケモンリーグの様な大きな大会で大勢の観客やカメラを前にしてバトルをさせてやりたかったというのがジンの本音である。そうすれば、記録としても正式に残され、多くの人々の心にここから起こる奇跡を刻む事が出来た筈だ。

 

 

 

***

 

 

 

 その瞬間だった。

 

「――っ!?」

 

 ニャローテの身体から光が発し始めた。その光は柔らかく、それでいて確かな強さを帯びていた。それに少し遅れてフタチマルの全身も眩い輝きに包まれる。

 

 偶然ではない。どちらか一方でもない。

 

 積み上げてきた全てが、今この瞬間に臨界へと達した――その証明するかのように光は一層強くなり、輪郭を飲み込んでいき、ゆっくりと、しかし確実に変わっていく。

 

「これは……」

「進化が始まったんだ!?」

 

 バトルを見ていた生徒達からそんな言葉が飛び交う。多くの生徒達が興奮し、それでもこの一瞬の出来事から決して目を離そうとしなかった。

 

 やがて――光が弾けた。

 

 一瞬の静寂。次の瞬間、そこに立っていたのは、もはや先程までの姿ではなかった。

 

 全身を覆う深い緑と紫のコントラスト。仮面のような意匠を宿したその顔立ちは、どこか妖しく、それでいて気品を感じさせるマジシャンポケモンのマスカーニャ。

 

 対するもう一体。

 

 重厚さを増した体躯。鎧のように発達した前脚と、鋭さを増した眼光。そして何より――その両前脚に、新たに握られていた二振りの『アシガタナ』と呼ばれる刃を手にした、かんろくポケモンのダイケンキ。

 

 進化によって得た、新たな力。だが二体は、それを誇示するでもなく――静かに、構えた。

 

 マスカーニャは一歩も動かない。その周囲、何もない空間に、ふわりと草の気配が芽吹く。見えないはずの足場が、まるで意志を持つかのように宙に生まれ、重なり、広がっていく。その姿は、優雅でありながら――どこか底知れない。

 

 一方。

 

 ダイケンキは低く腰を落とす。二本のアシガタナを無駄なく構え、呼吸一つ乱さない。その姿はまるで、既に幾度も死線を越えてきた剣士のようだった。静寂が、場を支配する。

 

「マスカーニャ!」

「ダイケンキ!」

 

 その静寂を破ったのは、それぞれのポケモンのトレーナーのリコとアンだった。2人は驚きに目を見開きながら、それでも直ぐに笑みがこぼれる。

 

「すごい……進化、したんだね……!」

「あなたならいつか、辿り着けるって信じてたよ!」

 

 互いの言葉に、僅かに笑みが重なる。だが――次の瞬間には、その表情は引き締まっていた。

 

「でも……!」

「ここからだよ!」

 

 ほぼ同時に、声が重なった。進化したから終わりじゃない。むしろ――ここからが、本当の勝負である。

 

 

 

***

 

 

 

 それは、基礎テストが終了しオレンジアカデミーの帰路についていた時の事だ。

 

『そろそろ、頃合いだな』

 

 ジンとアンがバトルを終え軽く休憩を挟んでいると、突如、ジンがリコ達の相棒ポケモン達を見ながらそう語り始める。

 

『そろそろって?』

『なになに?何の話?』

『決まってるだろ――最終進化だ』

『『『『えっ!?』』』』

 

 ジンがそう発した瞬間、4人は持っていたカップを落としそうになる程、驚愕した反応を見せる。

 

『ほ、本当に!?」

『あぁ、飽くまで俺の見立てだが……ニャローテ・アチゲータ・フタチマルはレベル的にも最終進化まで後、もう一歩って所だ』

 

 テラスタル研修を通して、ジムリーダーとバトルする事で経験値も大幅に増えた。後は何か切っ掛けさえあれば、最終進化するのも時間の問題と言えるだろう。

 

『そこで1つ提案があるんだが――』

 

 

 

***

 

 

 

(……大丈夫。戦い方は分かってる)

 

(ダイケンキの技は頭に入ってる。絶対に行ける!)

 

 過去にジンから受けた提案。それは――自分のポケモン達が進化した場合に備えて、そのポケモンの特徴並びに特性・技などを把握し、どの様にバトルするのかをイメージする事だ。

 

 ポケモンは進化すると全く違う存在になる。中には体重が何倍にも増える個体もおり、それまで使用していた素早さ主体のバトルが出来なくなるなどといった例が存在する程だ。その様な場合に備えて進化先の事を頭に入れておくようにとジンは指導し、リコとアンはそれを忠実に守っていた。

 

「いくよ、マスカーニャ!」

「行こう、ダイケンキ!」

 

 呼応するように、二体の気配が変わる。マスカーニャの顔面付近に草が、ふわりと揺らぐ。ダイケンキは低く構えたまま、地面を踏み締める。

 

 次の瞬間――二体は同時に動いた。

 

「ダイケンキ!『シェルブレード』!」

 

 ダイケンキが、迷いなく踏み込む。アシガタナが水を纏い弧を描きながら、振り抜かれた。

 

「マスカーニャ!『トリックフラワー』!」

 

 対するマスカーニャは、真正面からは受けない。突如、スポットライトの様な光がマスカーニャに降り注ぐとその中心で軽く指を弾いた。それと同時にその軌道上に突如、花が咲き誇る。

 

「ダァイ!」

 

 しかし、ダイケンキは躊躇いなくそれを切り裂いた。一つ。二つ。三つ。次々と生まれる花弁ごと、爆発するよりも早く纏めて断ち切る。徐々に距離は詰まり、遂に剣の間合いへと押し込んだ。

 

「ニャァン♪」

 

 その瞬間、マスカーニャは妖艶な笑みを浮かべる。それと同時にダイケンキの顔面至近距離に花弁が生み出され弾けた。

 

「――っ!」

 

 咄嗟にアシガタナをクロスさせガードを固めるがそれだけでは完全にはガードする事は出来ない。ダイケンキは爆発の影響でそのまま、後方へと弾き飛ばされていく。

 

「もう一度『トリックフラワー』!」

「ニャァッ!」

 

 だが、それだけでは終わらない。側面から、背後から、死角という死角から次々と花が咲き誇り、弾け飛ぶ。縦横無尽に展開され、確実に急所を狙っている。ダイケンキも負けじとアシガタナを振るい、捌き、弾く。しかし、ダイケンキの二刀流では全ての花を防ぎ切る事は不可能だ。

 

「ダァ……ッ!」

 

 徐々にダメージは増え、このままでは遠からず倒れるのは明らかだ。多くの観客達はマスカーニャの勝利を確信するが、ダイケンキもアンもまだ勝負を諦めてはいない様でその目には強い意志を感じさせる。

 

「マスカーニャ!『トリックフラワー』いっぱい!」

「ニャァッ!」

 

 その事を誰よりも感じ取っていたのは対戦相手であるリコとマスカーニャだ。だからこそ、侮る事無く確実に意識を奪い取ろうと攻撃を更に苛烈にし、一気に勝負を仕掛けた。

 

 またしてもダイケンキの周囲に縦横無尽に花弁が咲き誇る。それらが一斉に降り注ぎ、バトルを終わらせようとするが、その瞬間、アンは目を見開き、ダイケンキはアシガタナを握る握力を強めた。

 

「……今だ!『シェルブレード』!それに『ドリルライナー』!」

「ダァイッ!」

 

 ダイケンキは両側面と背後に現れた花弁を水を纏ったアシガタナで切り裂く。更に正面に現れた花弁を進化した事で得たもう一つの得物、兜についたイッカクを彷彿とさせる鋭い一本角をドリルの様に回転させ突き破る。

 

「嘘っ!?」

 

 まさか全ての花弁をこの様な形で破るとは思っていなかった様だ。リコとマスカーニャは驚愕し、このバトルが始まって以来、初めて大きな隙を生んでしまう。

 

「ダイケンキ!突っ込んで!」

「ダァッ!」

 

 その隙をアンとダイケンキは見逃さない。傷つく体に鞭を打ち、ダイケンキは二刀流改め三刀流の構えでマスカーニャへと迫り、攻撃の間合いへと入り込んだ。

 

「っ!?『ふいうち』!」

「遅いよ!」

 

 しかし、技の指示が少しだけ遅かった様だ。マスカーニャは反撃する暇さえなく、二刀のアシガタナによって切り裂かれ、一刀による強烈な突きをすれ違い様に受けその場に倒れてしまう。

 

「マスカーニャ!?」

 

 リコはバトルフィールドに倒れ込んだ相棒の名前を必死に叫ぶ。しかし、マスカーニャは動かない。審判のキハダも数秒間、その姿を観察し勝負あったと判断したのか、片手を上げアンの勝ちを宣言しようと動き出そうとした。

 

 しかし――

 

「ニャァ……ニャァッ……っ!」

 

 マスカーニャは体を震わせながら片膝を着き、その場から立ち上がろうとしていた。その姿を見て、リコはほっと胸をなでおろし、キハダは動かそうとしていた手を引っ込めバトルの成り行きを見守る。

 

「ははっ……強いなぁ」

 

 マスカーニャのその姿を見てアンは思わずそう呟く。実際、あれ程の攻撃を受け、それでも立ち上がるマスカーニャは確かに称賛に値する。

 

 受けた技が『シェルブレード』、『ドリルライナー』、どちらもマスカーニャにとっては効果が今一つであった事も耐えきる事が出来た要因だが、それ以上に大きな役割を果たしたのがテブリムが残した『リフレクター』だ。効果が僅かに残っていた為、物理技である両者の威力を弱めていなければ、マスカーニャと言えど立ち上がる事は出来なかっただろう。

 

(テブリム……ありがとう)

 

 リコはマスカーニャ、そしてダイケンキから目を離さず、それでも心の中でそう呟く。戦闘不能になっても、テブリムはリコの為、そして仲間の為にまだ戦ってくれていたのだ。

 

 だからこそ――

 

「絶対に負けられない!マスカーニャ!満開に輝いて!」

 

 リコはそう叫ぶとポケットからテラスタルオーブを取り出し、構えた。その瞬間、テラスタルオーブにエネルギーが一気に収縮する。エネルギーが満ちたのを確認すると、そのままマスカーニャの頭上目掛けて投げつけた。

 

 無数の結晶がマスカーニャを包み込み弾け飛ぶ。体をクリスタルの様に輝かせ、頭上の王冠には満開に開いた複数の花が備え付けられた姿となり、マスカーニャは現れた。

 

「テラスタル……やっぱり、そう来たんだ」

 

 アンはバトルの序盤に使用した為、リコにだけ残された最後の切り札。残りの体力的に考えてもマスカーニャもダイケンキも長期戦に耐える事は出来ない。ここで一気に勝負を着けるつもりの様だ。

 

「でも――私だって何の準備もしてこなかった訳じゃない!ダイケンキ!『みずのはどう』!」

 

 アンの声に応じ、ダイケンキの周囲に水が渦を巻くように集まり始める。ただ放つだけの技ではない。圧縮され、練り上げられた水はやがて球状となり、その密度を極限まで高めていく。

 

「飲み込んで!」

「ダァイッ!」

 

 収束した『みずのはどう』が、ダイケンキの目前で大きく脈打つ。次の瞬間――それは弾けることなく、そのまま口の中へと吸い込まれた。荒れ狂う水流が、喉奥へと流れ込んでいく。常ならば内側から破壊しかねない程の激流。しかしダイケンキは一歩も退かない。

 

「まさか……」

 

 今、アン達が行おうとしている事にリコは早々に察しがついた。リコ、そして相棒のマスカーニャ。彼女達が強い憧れの下、必死に鍛錬し身に着けた技。目の前のライバル達はしようとしている。

 

(……やれるのか?)

 

 観客席ではジンが興味深そうな表情を浮かべながらアンとダイケンキを見つめていた。

 

 アン達が行おうとしている技は、ジュカインやマスカーニャが『エナジーボール』を飲み込む事で草のエネルギーを吸収し強力なパワーアップする『エナジーチャージ』。それの水タイプ版だ。しかし、その技は相性もあり失敗すればただ自滅するだけの可能性は大いにある。

 

 しかし、ジンのそんな心配は杞憂に終わる事となる。

 

 体内へ取り込まれた水の力が、暴れながらも一点へと収束していく。呼吸と同調するように、そのエネルギーは巡り、練り上げられていく。次の瞬間、ダイケンキの全身が、深い蒼の光に包まれた。毛並みが逆立ち、まるで水流そのものが形を持ったかのように揺らめく。周囲の空気が震え、足元の地面すら僅かに軋む。

 

 静かに――しかし確実に、圧が増していく。ダイケンキが、ゆっくりと顔を上げる。鋭く細められた眼光の奥で、蒼い光が揺らめいた。

 

「……見事だ」

 

 ジンの視線は、まっすぐアンとダイケンキへと向けられていた。一見、無謀にも見える選択だったが、そこには確かな積み重ねが存在していた。

 

(アン……凄い)

 

 リコもまた、同じ結論に辿り着いていた。同じように研鑽を重ねてきたからこそ、あの技が、どれだけの積み上げの先にあるものなのかを理解出来た為だ。

 

(マスカーニャの体力はもう限界。今から『エナジーチャージ』をするのは自殺行為になる……)

 

 リコの判断は正しい。『エナジーチャージ』は使用後に体力を大幅に消費する、諸刃の剣の様な技だ。今のテラスタルまで使用したマスカーニャが使用すれば、それだけで力を使い果たしてしまう可能性すらある。

 

 しかし、それはダイケンキも同じ事だ。僅かに残っていた体力を全て今の急激なパワーアップに費やしたのは間違いない。ならば、次の一撃に残りの力の全てを賭して挑んでくるだろう。

 

「――決めるよ!マスカーニャ!」

「ニャァァァッ!」

「これが最後!ダイケンキ!」

「ダァァァイッ!」

 

 両者の声が、ほぼ同時にバトルフィールドを震わせた。

 

「『テラバースト』!」

 

 マスカーニャの頭上――草のテラスタルジュエルが、眩い輝きを放つ。次の瞬間、それは耐えきれぬほどの光を帯び、砕け散った。弾けた光は四散することなく、一点へと収束する。凝縮された草のエネルギーが、一直線の奔流となって解き放たれた。

 

 視界を貫く光線が、大地すら焼き裂きながらダイケンキへと迫る。対するダイケンキは、微動だにしない。両のアシガタナを、ゆっくりと――重ねる。

 

「『シェルブレード』!」

 

 練り上げた水の力。その全てが刃へと集約されていく。二振りの刃は一つとなり、巨大な水の剣へと姿を変えた。

 

(っ!あれは――)

 

 リコの脳裏に、かつての光景がフラッシュバックする。嘗てジンとアンが激突したあの戦い。ジュカインが見せた、異質とも言える力の扱い方――『エナジーチャージ』で高めたエネルギーを、ただ解き放つのではなく、自在に圧縮し、形を変え、攻撃へと転用していたあの技術。

 

(まさか……あれを、再現してるの……!?)

 

 驚愕と同時に、確信が走る。目の前のダイケンキが纏う水の刃は、ただの『シェルブレード』ではない。練り上げられたエネルギーを極限まで制御し、形状すら変化させる――あの時ジュカインが見せた“操作”の応用。

 

 アンは、あの戦いを経て――そこまで辿り着いたのだ。その事実を理解した瞬間、リコの迷いは消えた。

 

(だったら――こっちも、全部ぶつける!)

 

 ――次の瞬間。

 

 巨大な水の剣と、凝縮された光線が、真正面から激突する。

 

 轟音が校舎を揺らし、押し合い、削り合い、互いの力を喰らい尽くそうとするが――均衡は、長くは続かず爆ぜた。

 

 閃光と水飛沫が、爆発的にフィールドを呑み込み、全てを白く塗り潰す。

 

 やがて、音が消え、遅れて舞い上がった土煙がゆっくりと晴れていく――

 

「……マスカーニャ?」

「……ダイケンキ……」

 

 呼びかけに応える声はない。二体は、ほぼ同時にその場へと崩れ落ちていた。完全なる沈黙。両者共に目を回し、身体を動かす余力すら残されていない様である。

 

 その姿を確認した審判のキハダが、静かに手を上げる。

 

「両者戦闘不能!よって、このバトル――引き分け!」

 





リコとアンのバトルは引き分けという形にしました。そろそろ、テラスタルデビュー編も終わりが近いですね。出来るだけ早く更新できる様に頑張るので今後もよろしくお願いします。

☆8
銀ダラと漬物が最高さん

☆9
スーパーヒーローさん

高評価ありがとうございます

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