ポケットモンスター 新たなる冒険   作:malco

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新シリーズ始まりましたね。新OPが良すぎてもう何回も聞いちゃってます!


リコVSオリーヴァ

 

 パルデア地方に存在する海に浮かぶ小さな名もなき島、ブレイブアサギ号は現在、そこに着陸している。ウイングデッキにはリコとオリーヴァ、陸地にはロイとガラルファイヤー、海岸にはドットとラプラスが出ており、互いに睨みを利かせている。

 

 テラスタル研修を超え、リコ達がどれだけ力を上げたのか六英雄自ら、見極めるつもり

 

「どんなバトルになるか楽しみ~!」

「皆~~!頑張れ~~~~!」

 

 展望デッキ周辺には船に乗船している他のメンバーやポケモン達が集まっており、リコ達のバトルが始まるのを今か今かと待ちわびている。

 

「3人共いいな~私もバトルしてみたかったのに~」

「まぁ、今回は譲ってやってくれ。六英雄と戦う場面はこの先もきっとある。機会があれば、アンもバトル出来るさ」

「本当!?約束だよ!」

 

 アンとジンは展望デッキの手すりにもたれながら、これから始まるバトルについて楽しそうに話している。

 

 だが、その少し離れた場所。モリーだけは皆の輪へ加わろうとはせず、展望デッキの端で静かに海を眺めていた。視線はバトルフィールドへ向けられているが、その表情にいつもの柔らかさはない。

 

 ジンはそんなモリーの様子が気になり、そっと視線を向ける。

 

 すると――

 

「ひっ!?」

 

 モリーは小さく悲鳴を漏らすと、慌てたように顔を背けた。顔だけでなく耳まで赤く染まっている。

 

(……参ったな)

 

 ジンとしてはリコに感づかれる前に立ち直って欲しいのだが、モリーの反応を見るにあれが初めてのキスであった可能性が出てきている。彼女が完全に回復するまで暫く時間を有するかもしれない。

 

(ふ~ん……)

 

 ジンの隣にいたアンは2人のそんな様子を見て、何かが起こった事を察した様だ。興味深そうな笑みを浮かべたアンはジンの隣から離れ、モリーの隣へと移動していく。

 

「な、なに?」

「別にぃ~。ただ、私達、もっと仲良くなれる気がしたからさ♪」

「な、何を言ってるの……」

 

 モリーはさらに顔を赤くしながら視線を逸らす。そんな彼女を見て、アンは確信を深めたように笑みを浮かべた。

 

「へぇ~」

「へぇ~じゃない!」

 

 普段は冷静なモリーがここまで取り乱す姿は珍しい。アンはさらに追及しようと口を開きかける。

 

 だが――

 

「それじゃあ、始めるよ!」

 

 ウイングデッキから響いたリコの声が二人の会話を遮った。その瞬間、船上の空気が一変する。和やかな雰囲気は消え去り、全員の視線がバトルフィールドへと向けられた。

 

 六英雄による試練。

 

 テラスタル研修を終えた三人がどこまで成長したのか。その答えが今、示されようとしていた。

 

「来るよ、モリー」

「……あぁ」

 

 モリーも気持ちを切り替えるように小さく息を吐き、フィールドへ視線を戻す。ウイングデッキの中央。リコはポケットのモンスターボールへ手を伸ばした。

 

「お願い、マスカーニャ!」

 

 そう言ってボールを投げようとした、その時だった。

 

「カルッ!」

「えっ!?」

 

 リコの足元から赤い影が飛び出した。いつの間にか傍に来ていたカルボウが、リコの前へと躍り出る。

 

「カルボウ!?」

「カルッ!」

 

 振り返ったカルボウは真っ直ぐな瞳でリコを見上げた。その焔を宿した眼差しには、自分が戦う、戦わせて欲しいという、そんな強い意思が籠っていた。

 

「まさか……」

 

 リコはカルボウの気持ちを察する。テラスタル研修。数々の戦い。そしてオリーヴァという強敵。カルボウもまた、自分の力を試したいのだろう。

 

「カルボウ……」

「カルッ!」

 

 力強い返事。リコは一瞬だけ考え――小さく笑った。

 

「分かった。だったら一緒に頑張ろう!」

「カルッ!」

 

 カルボウは嬉しそうに炎を揺らした。その様子を見たオリーヴァも静かに目を細める。こうして六英雄との試練、そのバトルはカルボウによって幕を開けるのだった。

 

「行くよカルボウ!『ひのこ』!」

 

 カルボウは勢いよく駆け出すと、両手から無数の火の粉を放った。放たれた炎は一直線にオリーヴァへと向かい、その身体へ命中する。

 

 だが――

 

 オリーヴァは避けようとはしなかった。炎を正面から受けながらも、その場から一歩も動かない。

 

「カルッ!?」

 

 確かな手応えを感じたカルボウだったが、オリーヴァは平然と立っていた。六英雄として幾多の戦いを乗り越えてきた歴戦のポケモン。タイプ相性こそ有利とはいえ、『ひのこ』程度で崩れる相手ではない。オリーヴァは静かに両腕を持ち上げる。その瞬間、腕に実ったオリーブの実が淡い光を帯びた。

 

「来るよカルボウ!」

 

 リコが叫んだ瞬間。オリーヴァの両腕に宿った6つの実から、オリーブが射出された。まるで弾丸のような速度で放たれたそれらは、カルボウへ向かって一斉に襲い掛かる。

 

「カルッ!?」

 

 カルボウは慌てて横へ飛び退く。一発、二発、三発――。次々と迫るオリーブを回避していくが、その数はあまりにも多い。避けきれなかった一発が肩を掠めた。

 

 

「カルッ!」

 

 小さく悲鳴を上げながらも、カルボウはすぐに体勢を立て直す。しかしオリーヴァの攻撃はまだ終わらない。まるでカルボウの動きを見切っているかのように、次のオリーブが容赦なく追撃してきた。

 

「すごい……」

 

 展望デッキで見守っていたアンが思わず呟く。

 

「ただ撃ってるだけじゃない。ちゃんと逃げる先を読んでるんだ」

 

 六英雄。その名に相応しい実力を、オリーヴァは開始早々見せつけていた。

 

 カルボウは迫り来るオリーブを睨みつける。このままでは押し切られる。そう判断したのか、再び大きく横へ跳躍した。

 

 だが――

 

「カルッ!?」

 

 着地した瞬間、その身体が大きく揺らぐ。バランスを崩したカルボウは思わず片膝をついた。

 

「カルボウ!?」

 

 原因は明らかだった。カルボウが身に着けているイワイノヨロイだ。身に着けた当初より扱えるようにはなっているものの、まだ完全に身体へ馴染んでいるわけではない。動きの激しい回避行動では、その重さが確実に影響していた。

 

「その鎧はお前を試している。──使いこなしてみせろ」

 

 カルボウを見定めるかの様にジンが呟く。その隙を六英雄が見逃すはずもない。オリーヴァの瞳が鋭く光った。次の瞬間、放たれたオリーブが一直線にカルボウへと襲い掛かる。

 

「カルッ!!」

 

 避けきれない。そう悟ったカルボウは両腕を交差させて防御の姿勢を取る。だが――連続して命中したオリーブがカルボウの身体を激しく打ち据えた。

 

「カルボウ!!」

 

 衝撃で吹き飛ばされたカルボウはフィールドを転がり、数メートル先でようやく停止する。ウイングデッキに緊張が走った。

 

 それでも――

 

「……カル」

 

 カルボウはゆっくりと身体を起こす。傷だらけになりながらも、その瞳から闘志は消えていない。むしろ先程よりも強く燃え上がっていた。そんなカルボウを見据え、オリーヴァは再び両腕を掲げる。

 

「来る!」

 

 リコが声を上げた。オリーヴァの両腕に実ったオリーブが淡い光を放つ。次の瞬間。無数のオリーブが一斉に射出された。

 

「カルボウ、避けて!」

 

 リコの指示が飛ぶ。だがカルボウは動かない。いや、動けない。連続攻撃によるダメージと、未だ身体に馴染み切っていないイワイノヨロイが、その身体を縛っていた。

 

「カルッ……!」

 

 迫り来るオリーブ。回避は間に合わない。誰もがそう思った。その時だった。カルボウの胸元、イワイノヨロイが突如として眩い光を放つ。

 

「えっ!?」

 

 リコが目を見開く。光は瞬く間にカルボウの全身を包み込み、その身体を覆い尽くしていく。

 

「このタイミングで来たか……」

 

 ジンが思わず呟いた。次の瞬間。迫っていたオリーブが光の中へと飲み込まれる。轟音と共に土煙が舞い上がった。

 

「カルボウ!?」

 

 リコの叫びが響く。

 

 しかし――

 

 土煙の向こうから感じられる気配は消えていなかった。むしろ先程よりも遥かに強く、大きくなっている。やがて風が吹き抜け、土煙が晴れていく。

 

 そこに立っていたのは、もはやカルボウではなかった。

 

 赤い鎧を纏い、両肩に巨大な砲身を備えた炎の戦士。ひのせんしポケモンのグレンアルマだった。

 

「グレンアルマ……!」

「グレンッ!」

 

 力強い咆哮が島中に響き渡った。カルボウは激しい戦いの最中、自らの限界を超えたのだ。そして今、新たな力を手にしたグレンアルマが、六英雄オリーヴァの前に立っていた。

 

 新たな姿となったグレンアルマを見据え、オリーヴァは静かに構えを取る。試練はまだ終わっていない。その瞳はそう語っていた。

 

 そして――オリーヴァの両腕に実ったオリーブが再び光を帯びる。

 

「来るよ!」

 

 次の瞬間、無数のオリーブが弾丸のような速度で射出された。先程までカルボウを苦しめていた猛攻だ。

 

 だが――

 

「グレンッ!」

 

 グレンアルマは一歩も退かない。

 

「迎え撃つよ!『ひのこ』!」

「グレンッ!」

 

 リコの指示に応え、グレンアルマは両手を前へ突き出した。掌の上に小さな火種が生まれる。それは確かに『ひのこ』だった。

 

 しかし――

 

 次の瞬間、その炎は異常な速度で膨れ上がり始めた。

 

「えっ!?」

 

 リコが目を見開く。掌に生まれた炎は人の頭程の大きさとなり、さらに激しく燃え盛る。灼熱の熱気が周囲の空気を歪ませた。

 

「グレンッ!」

 

 するとグレンアルマの両肩に備わる装甲が展開される。砲身のような形状へと変形した装甲は肩から外れ、そのまま両腕へと装着された。

 

「なっ……!」

 

 リコも思わず息を呑む。まるで巨大な砲台を両腕に抱えたような姿。その砲口へ、掌の上で燃え上がる巨大な炎が吸い込まれていく。

 

 圧縮、収束、凝縮し膨大な炎のエネルギーが一つの弾丸へと変わっていく。

 

「グレンァァァァッ!」

 

 次の瞬間、両腕の砲口から灼熱の砲撃が放たれた。轟音と共に解き放たれた炎の弾丸は、まるで流星のような軌跡を描きながらオリーブの群れへと突き進む。

 

 激突した瞬間、凄まじい爆炎が巻き起こった。無数のオリーブは一瞬で飲み込まれ、跡形もなく焼き払われる。それだけでは終わらない。勢いを失わない炎の砲撃は、そのまま一直線にオリーヴァへと迫っていった。

 

「リヴァッ!?」

 

 初めてオリーヴァの表情に驚きが浮かぶ。

 

「『アーマーキャノン』……!」

 

 ジンはその技名を口にしながら、新たな力を手にしたグレンアルマを見据えた。進化によって得た専用技。それは六英雄すら正面から押し返すほどの圧倒的な威力を秘めていた。

 

「今だ!」

 

 これが絶好の好機。そう判断したリコはポケットに手を入れ七色の輝きを放つテラスタルオーブを取り出した。グレンアルマもまた、その輝きに呼応するように身構える。

 

「グレンアルマ!」

 

 リコがテラスタルオーブを高く掲げる。するとオーブの内部で虹色の光が渦を巻き始めた。周囲へ拡散していた膨大なエネルギーが、一点へ吸い寄せられるように収束していく。キラキラと舞っていた光の粒子がオーブの周囲へ集まり、幾重もの光の輪を描いた。

 

「行くよ――!」

 

 リコの声に応えるように、テラスタルオーブの輝きがさらに増していく。膨大なエネルギーは極限まで圧縮され、一つの結晶のような輝きへと変わった。そして、限界まで高められた力が一気に解放される。

 

「満開に輝いて!」

 

 リコはテラスタルオーブをグレンアルマへ向かって投げ放った。虹色の光がグレンアルマを包み込み、その身体から無数の結晶が舞い上がり砕け散る。そこには、体を結晶化させ頭上には5本の蠟燭を立てるキャンドルスタンド状の王冠を被ったグレンアルマが姿を現した。

 

「これで終わらせる!『テラバースト』!」

「グレェン!」

 

 グレンアルマが両腕を前へ突き出す。その瞬間、頭上に輝く炎のテラスタルジュエルが眩い光を放った。テラスタルジュエルが砕け散り、無数の結晶片は光の粒子となってグレンアルマの身体へ吸い込まれていく。

 

「グレンッ!!」

 

 全身を包む結晶の輝きが一気に燃え上がった。胸部、両肩、両腕、全ての部位から溢れ出した炎のエネルギーが、突き出された両掌へと収束していく。

 

 その熱量は先程の『アーマーキャノン』をも凌駕していた。周囲の空気が揺らぎ、足元の地面さえ熱で焦げ始める。

 

「すごい熱気……!」

 

 アンが思わず後退る。展望デッキから見守る仲間達も息を呑んだ。グレンアルマの両掌の前には巨大な炎の球体が形成されている。いや、それはもはや炎などという規模ではなかった。

 

 圧縮された灼熱のエネルギーそのもの。太陽の欠片を切り取ったかのような輝きを放っている。

 

「グレェェェェン!」

 

 咆哮と共にグレンアルマは両腕を振り抜いた。次の瞬間、圧縮されていたエネルギーが解放される。両掌から放たれたのは巨大な炎の奔流。アーマーキャノンを超える圧倒的な熱量を纏ったテラバーストは、一直線にオリーヴァへ向かって突き進んだ。

 

「オリッ!」

 

 オリーヴァは咄嗟に迎撃態勢を取る。だが遅い。炎の奔流は一瞬で距離を詰め、オリーヴァを飲み込んだ。その瞬間、凄まじい爆発が島全体を揺らした。炎の柱が天高く舞い上がり、衝撃波が海面へと広がっていく。

 

 六英雄との試練。その勝負を決める一撃が、今まさに放たれたのだった。

 

「…………」 

 

 爆炎が晴れていく。誰もが固唾を呑んでその先を見つめた。

 

「やった……?」

 

 リコが思わず呟く。

 

 だが――

 

「リィヴァ……」

 

 炎の向こうから聞こえてきた声に、リコは目を見開いた。そこにはオリーヴァの姿があった。全身には確かなダメージが刻まれている。葉の一部は焼け焦げ、呼吸も荒い。

 

 それでも――倒れてはいなかった。

 

「そんな……」

 

 リコの口から思わず声が漏れる。進化したグレンアルマ、さらにテラスタルまで使用した渾身の『テラバースト』、今の一撃で決まったとジンを除く誰もが思っていた。しかし六英雄は、その全てを受けてもなお立ち続けていたのだ。

 

「流石だな……」

 

 ジンも静かに呟く。その実力は想像を遥かに超えていた。オリーヴァはしばらくの間、グレンアルマを見つめていた。まるでその成長を確かめるように。

 

 そして――

 

「オリーヴァ?」

 

 リコが首を傾げた次の瞬間だった。オリーヴァの身体が淡い光に包まれる。その光は次第に形を変え、古のモンスターボールへと収束していく。

 

「戻るの……?」

 

 リコの問いにオリーヴァは最後に小さく頷くような仕草を見せると、そのままボールの中へと吸い込まれていった。それは敗北でも逃走でもない。試練の終わりを告げるかのような行動だった。

 

 同じ頃。

 

 島の反対側でも変化が起きていた。空高く舞っていたガラルファイヤーの姿が光に包まれ、古のモンスターボールへと戻っていく。海岸ではラプラスも静かに目を閉じ、その巨体を光へと変えていた。

 

 リコのバトルに目を奪われていたが、ロイとドットも、それぞれの戦いを終えていたのだ。

 

(稽古は終わり、か……)

 

 六英雄が本気で勝負を挑んできたのであれば、結果は違っていただろう。だが彼らは最後までリコ達を見定めるように戦っていた。力を競うためではない、成長を確かめる為に。

 

(オリーヴァ達は、俺達を導こうとしているのかもしれないな)

 

 バサギリ、エンテイ、そして黒いレックウザ。未だ再会を果たせていない六英雄達。さらにその先には、ルシアスが辿り着いた楽園――ラクアが待っている。

 

 真意はオリーヴァ達にしか分からない。だが、それでも、ジンは自分の考えが間違っているとは思えなかった。六英雄は試していたのだ。リコ達に、その先へ進む資格があるのかを。そして今、その試練は乗り越えられた。

 

 潮風が島を吹き抜ける。

 

 リコ達の旅はまだ終わらない。むしろここからが本番だ。残る六英雄を探し出し、その先に待つラクアへ辿り着くために。

 

 ライジングボルテッカーズは次なる目的地を定める。

 

 目指すは――キタカミの里。

 

 新たな出会いと冒険が待つその地へ向けて、ブレイブアサギ号は再び大空へと飛び立つのだった。

 

 

 

***

 

 

 

 一方その頃――

 

 エクスプローラーズのアジト。

 

 薄暗い室内には複数のモニターが並び、その中央では大量のデータが映し出されていた。それを見ているのはアゲート、そしてスピネルである。

 

「なんだこれはっ!」

 

 静寂を破ったのはアゲートの怒声だった。苛立ちを隠そうともせず、モニターを睨みつける。オレンジアカデミーから奪取したテラパゴスのデータ。アゲート達が総力を挙げて進めていた解析は、つい先程ようやく完了したばかりだった。

 

 だが――その内容は彼らが望んでいたものではない。

 

「何が『続きはweb』でだ!こんなデータがあってたまるか!」

 

 アゲートは机を拳で叩きつけた。解析の末に表示された資料の数々。その中には確かに本物の研究データも混じっていた。

 

 だが肝心な部分になると、

 

 ――続きはweb。

 

 ――詳細はオンライン版を参照。

 

 ――閲覧権限がありません。

 

 そんなふざけた文章ばかりが並んでいる。ここまで手間を掛けて手に入れた情報としてはあまりにもお粗末だった。

 

「……どうやら、偽のデータを掴まされたようですね」

 

 対照的にスピネルの声は落ち着いていた。むしろその口元には笑みすら浮かんでいる。

 

「馬鹿な!?一体、誰が!」

 

 アゲートが振り返る。そんな彼に対し、スピネルは肩を竦めた。

 

「我々の動きを知り、尚且つ偽のデータを仕込める人間。そんなもの……決まっているではないですか?」

 

 その言葉を聞いた瞬間。アゲートの脳裏に一人の人物の顔が浮かんだ。

 

「あの少年が?いや、しかし……」

 

 アゲートは眉をひそめる。確かに条件だけを並べれば最も怪しいのはジンだ。だが、どうしても腑に落ちない部分があった。

 

「あの時、ライジングボルテッカーズは全力で我々を止めに来ていた」

 

 オレンジアカデミーでの一件。あの時大切な情報を奪われまいと必死になっているようにしか見えなかった。特にリコやロイの焦りようは演技には見えない。

 

「もし最初から偽物を用意していたなら、あそこまで必死になる必要があるのか?」 

 

 アゲートの疑問は尤もだった。偽データを掴ませるだけなら、わざわざ危険を冒してまで奪還しようとする理由がない。むしろ大人しく持ち帰らせた方が自然ですらある。

 

 だが――

 

 スピネルはその疑問すら楽しむように笑みを浮かべた。

 

「簡単ですよ」

「何?」

「彼らは知らなかったのでしょう」

 

 アゲートが眉を顰める。スピネルは椅子にもたれながら続けた。

 

「リコさんも、ロイさんも、ドットさんも。守るべきデータが入れ替わっている事を」

「なに……?」

「だからこそ、あれだけ必死だった」

 

 スピネルはモニターへ映るデータを眺めながら口元を歪める。

 

「彼らからすれば大切なデータです。奪われれば困る。だから全力で取り返そうとした」

 

 そこに嘘はない。あの時の焦りも怒りも本物だったのだろう。

 

 だが――

 

「もし、一人だけ例外がいたとしたら?」

 

 アゲートは黙ったまま続きを待つ。

 

「ジンさんです。彼だけが事前に偽データの存在を知っていた。そして仲間達には知らせなかった」

「そんなことをする理由は?」

「テラスタル研修に集中して欲しい。余計な心配はさせたくない。彼ならそう説明するでしょうね」

 

 まるでその場にいたかのような口ぶりだった。

 

「実際、それも本心なのでしょう」

 

 ジンという少年は仲間を大切にする。そのことはスピネルも認めている。だが、それだけではない。スピネルの瞳が細められる。

 

(もっとも……)

 

 口には出さない。しかし彼の中では別の結論が出ていた。

 

(あの少年は理解していたのでしょう)

 

 今回のような裏工作、情報戦、相手を欺く為の駆け引き。そういった分野においては、リコ達は決して向いているとは言えない。彼女達は優しすぎる。真っ直ぐすぎる。だからこそ信用できる仲間でもあるのだが。

 

(余計な情報を与えれば、どこかで綻びが生じる)

 

 ジンはそう判断したのではないか。仲間を信頼していないわけではない。

 

 むしろ逆だ。信頼しているからこそ、役割を分けた。表で戦う者と、裏で動く者を。そして自分は後者を選んだ。

 

「いいですねぇ。……本当にいい。貴方はそうでなくては……!」

 

 スピネルは堪えきれなくなったように笑みを深めた。

 

「おい……」

 

 アゲートが警戒を含んだ声を上げる。しかしスピネルは気にも留めない。モニターへ映るデータを眺めながら、その瞳には愉悦の色を宿していた。

 

 予想外だった。

 

 ライジングボルテッカーズの面々は確かに厄介だ。だが、それはあくまで黒いレックウザやテラパゴスを巡る因縁があってのこと。少なくとも情報戦においては、自分達の方が上だと考えていた。

 

 だが現実はどうだ。

 

 自分達はまんまと偽の情報を掴まされた。しかも、その可能性に気付いたのは全てが終わった後だ。敗北とまでは言わない。だが確実に一本取られた。

 

 それがたまらなく面白かった。

 

(やはり貴方は特別だ。私と同じ盤上を俯瞰している、同じ視座に立つ人間)

 

 スピネルの脳裏に、一人の少年の姿が浮かぶ。他のメンバーも力をつけ油断ならないが、ジンは別格だ。表舞台で戦うだけではなく、裏側でも盤面を動かしている。

 

(あぁ……。また貴方と一局を交わせる時が待ち遠しいですね)

 

 スピネルは静かに立ち上がった。口元の笑みは消えない。まるで新しい玩具を見つけた子供のように。いや、漸く対等に遊べる相手を見つけた子供のように。

 

「彼には早く残りの六英雄を探して頂かないといけませんね」

 

 その一言に、室内の空気が変わる。アゲートですら思わず黙り込んだ。スピネルは出口に向け視線を向ける。その先にいるはずの少年を思い浮かべながら。

 

「まぁ、彼ならそれ程の時間を必要としないでしょうが。……折角、ここまで楽しませてくれたのです。是非ともお礼はしなくては──」

 

 そして、心の底から楽しそうに笑った。

 

「ラクアでは盛大に持て成しましょう。その時こそ、私が勝たせて頂きますよ」

 





そんな訳でカルボウからグレンアルマへと進化させました!

ロイとドットのバトルも書きたかったんですけど、なんだかアニメとほぼ同じ展開になりそうなのでやめました。申し訳ないです

☆10
白鷺零さん、シファーさん

高評価ありがとうございます

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