遅くなってすいません。間違いなく今までで一番の難産でした。
「………」
「………?………ひぃっ!」
(わ、私、今なんて言った!?)
ジンとリコは向かい合い互いに沈黙を貫いていたが、リコは徐々に自分が何を言ったのかを理解しだすと先ほどまでの清々しい表情は姿を消して、顔を一気に赤くさせると小さく悲鳴を上げてしまう。
(さ、さっきのは心の声だよね!口に出したわけじゃなくて心で考えてただけで………)
『ジン……………好き』
(あ~~~~~やっぱり駄目だ~~~~!言っちゃった!絶対に言っちゃった!実際に好きって言ったのを口が覚えちゃってるよ~~~~!)
「………」
(どうしよう!どうすれば?……まって……ジンが何にも反応してこないって事は…ひょっとして聞こえてない?そうだよ!小声でポロっと漏らしちゃっただけだもん!聞こえてない可能性だって…)
「……このタイミングで言われるのは、流石に予想外だったな」
(やっぱり聞こえてた~~~~!)
「あ、あの……い、今のはね…」
自覚して早々に、しかも意中の相手であるジンの目の前で自分の想いを告げてしまったリコは目をぐるぐる回しながら必死で言葉を探そうとするが、なかなか言葉が出てこない。
「……少しは落ち着け」
ジンも当初はリコの突然の言葉に茫然としていたが、リコの慌てふためく姿を見て冷静さを取り戻した様だ。リコの頭に手を乗せると髪型を崩さない様にゆっくりと撫で始める。
「あぅ……」
「落ち着いたか?」
「う、うん」
「湖で特訓に付き合った時に冷静さを失うなって何度も言っただろう?」
「で、でも……あれはポケモンバトルの事なんじゃないの?」
「勿論、そうだよ。でも、あの時教えたことは、この状況でも例外じゃないと思ってる」
どんな状況であれ、冷静さを保つことそれが何よりも大事な事であるとジンは考えている。
勿論、熱くなることが悪い訳ではないし、時にはそれが勝敗を決することもあるだろう。しかし、それだけで全てが解決する訳ではないとも思っていた。少なくともジンとそしてリコもまた冷静さを武器にするタイプと言えるだろう。
「それじゃあ……少し、落ち着いたところで、改めて伝えておきたいことがある。聞いてくれるか?」
「ど、どうぞ…」
「リコ……君が好きだ」
シンプルな言葉、しかしそれだけに誰が聞いても勘違いのしようもないものだった。
「っ!~~~~~!」
「……そんなに驚くことないだろう。昨日、似たようなことは言ったと思うんだけど?」
「そ、それは……そうだけど…」
「まぁ、思い返してみるとちょっと伝わりにくい言い方だったような気がしたんでね。リコの気持ちも聞けたことだし、ちゃんと伝えておこうと思ったんだよ」
(い、言わないで~~)
あまりにも冷静に自分の自覚したての秘めたる……まったく秘められていない気持ちを言葉にされてしまったリコは再び、心の中で悶え始めてしまう。
「さてと…それじゃあ、話しを次の段階に進めていいか?」
「つ、次の段階?」
互いに自分たちの気持ちを確認し終えた。次の段階となるともう考えられるのは一つしかない。
「リコ、俺と付き合って欲しい」
「っ!わ、わたし……」
「難しく考えなくていい。まだ誰かと付き合う気がないんならすっぱり振ってくれて構わないし、考える時間が欲しいなら待つよ。決める権利はリコにあるんだ」
(付き合う…ジンと…)
リコも年頃の女の子だ。恋愛などには当然興味がある。しかし、引っ込み思案な性格や今まで同性の友人すら殆どいなかった自分では異性と付き合うなどという事はどこか縁遠いものだと思っていた。
だが、それが今、現実のものとなろうとしていた。
(……私なんかでいいのかな?)
リコから見たジンはバトルが強く、優しく、同い年とは思えない程視野が広い。ジンのいい所を考えるたびに自分では釣り合ってないのではないか、そんな不安感が押し寄せていた。
(……だけど)
以前のリコならこの時点で諦めていたかもしれない。しかし、今は既にジンへの想いを自覚し、誰かに取られてしまうことを想像するとそれだけで強い怒りや憎悪さえも抱いてしまいそうになっていた。
「……私、凄い内気だよ」
「よーく知ってる」
「周りから、コミュ障とか陰キャとかなにを考えてるのかよく分からないとか言われるよ」
(……誰もそこまでは言ってなかったと思うけどな)
リコが内気であることなどジンはよく知っているし、セキエイ学園でリコとクラスメートだったアンや他の生徒も割と共通の認識だ。
しかし、人付き合いが少ない反面、仲良くなった友人でリコを悪く言う物は一人もいない。なので今リコが言ったことは恐らくほとんどが自分でそう思っているだけだと考えられる。
「そこまで自分を卑下することもないだろう」
「……私の事は私が一番分かってるから」
「そうか?だけど自分では気づいていないだけで、リコはいい所をたくさん持ってると思うぞ」
「私のいい所?」
「ああ、確かに引っ込み思案な所はあるかもしれない。だけど、リコ、君は人に優しくて努力家で自分を変えたいっていう強い意志を持ってる」
それを感じさせる場面はセキエイ学園でもこの冒険が始まってからも何度かあった。彼女は決して、自分で思っているほど弱くなどはない。ジンはその事を学園やこの船のメンバーたち以上に理解している。
(……ジン)
「それに本当に大事な時にはちゃんと自分で決断することができる。リコは自分で思ってるよりもずっと強くて素敵な女性だ」
(本当にずるい……こんなの……嬉しすぎるよ…)
ジンに褒められるたびにリコの心には恥ずかしさと同時にそれ以上の幸せな思いがに染み渡っていく。この幸福感を手放すような真似をしてはいけない。心が必死にそう叫んでいるようにリコは感じていた。
(もう……駄目だ……抑えられない)
「あ、後から、思ってたのと違うとか言わない?」
「そんな事、言わないよ。約束する」
(私……今、本当に物語のヒロインになれた気がする…)
「もう一度言うぞ。リコ、君が好きだ。俺と付き合ってくれ」
ダメ押しにさえ感じる再度の告白、リコの答えは既に決まっていた。
「……よろしく…お願いします」
***
「応急処置も限界…」
ジンとリコが甲板に到着すると既にライジングボルッテカーズの船員が全員揃っており、その中でメカニックのオリオは徹夜の作業を行ったようで目の下にクマを作り、力なく相棒のメタグロスの上でうなだれていた。
「うわぁ……オリオさん、大丈夫かな?」
「多分、徹夜してるな」
(……ちょっと罪悪感を感じる)
夕食後から作業を開始して徹夜をしたという事は、ジンがリコにウィングデッキで告白まがいの事をしている時にもオリオは一人で黙々と作業をしていたという事になる。ジンとしてもそんなことは知る由もないが流石に申し訳なさを感じずにはいられなかった。
「塞いでも別の穴が開いたりでオタチごっこだった」
「今日こそ、材料を何とか調達してくるよ」
「穴って?」
「気球の中の袋だよ」
ロイが疑問符を浮かべるとそこまで扉の入り口付近から会話を見ていたジンが会話に入り込み、隣にいたリコと共に皆の輪に加わる。
「あ!2人ともやっと来た」
「2人とも遅かったな」
「い、色々話し合ってたら遅くなっちゃったんです!ね、ジン」
「ん?まぁ、確かに色々話してたな」
「「?」」
フリードとロイは他のメンバーたちよりも遅れてやってきた2人の態度に若干の違和感を感じているようだが、その正体までは掴めていないようだ。
「ふ~ん?」
「……へ~」
しかし、鈍感な男性陣とは全く違う反応を示す存在が2人だけ確認できる。モリーとオリオだ。モリーは面白そうなものを見る目で、オリオは先程まで徹夜明けで目の下にクマが出来ていたのに今では輝いているようにすら見える。
「……とにかく早く修理しないと船底がやばい事になるかもしれない」
「大変だ。だったら、島のポケモンに手伝ってもらったら?」
「う~ん…島のポケモンか…」
(……悪くないかもしれない)
冒険の途中でポケモンの力を借りて困難を突破する。それはポケモントレーナーにはよくある事だ。たいていの場合は自分のゲットしたポケモンの力で解決するものだが、現地で仲良くなったポケモンの力を借りることも決して珍しくはない。
「ロイ、なにか心当たりはないか?」
「う~ん…じいちゃんなら知ってるかも」
「よし!朝飯食ったら行ってみるか。メンバーはどうするかな?」
ロイの実家に行く以上、ロイは当然だ。そして、ロイのゲットしたホゲータ、そして船の責任者のフリードも決定だろう。
「それじゃあ、ジン、リコ、一緒に「「待った!」」どう…え?」
フリードがジンとリコを指名しようとした瞬間、モリーとオリオが待ったをかける。
「何だ?何か問題なのか?」
「まぁね。船を動かすにも人手がいるからさ。ジンかリコのどっちかには残って欲しいんだ」
「え?でも、船の事はまだ2人には…」
「大丈夫大丈夫。そんな難しいことはさせないから」
フリードを説得するモリーとオリオ、その目は虫ポケモンを狙う鳥ポケモンの様に鋭く光り、決して逃がさないと訴えていた。
どうやら、女の勘がジンとリコの態度に反応してしまったらしい。
(あの目…私、知ってる!アンが私の事をからかう時の目と同じだ!)
そして、リコもまた女の勘で気づかれたことに対して気づいてしまった。捕まれば最後、根掘り葉掘り聞かれてしまうのは避けられない。
「じゃ、じゃあ、私がロイたちと行くね!」
「え?」
「私、まだカントー地方のポケモンってそんなに知らないからこの機会にもっと見てみたいし!」
(お願い!上手くごまかしておいて!)
リコは咄嗟にアイコンタクトを送る。
(……なるほど、任せろ)
それを受け取ったジンはリコが何を言いたいのかを察すると頷くことで了承する。
「ああ、勿論いいとも」
「ありがとう!それじゃあ、お願い!」
しかし、彼女は気付いていなかった。ジンが目を離した瞬間にとても悪い顔をしていたことに
(ふぅ……これで大丈夫…大丈夫だよね?)
結論から言うと全く大丈夫ではない。リコはまだ自分が彼氏になった男がリコの困った反応や慌てふためく姿を見て楽しむ趣味があることを理解できていなかったのだ。
約数時間後、彼女はこの時の選択と自分の読みの甘さを後悔することとなる。
という訳でジンとリコは今回から正式に交際を始めました。しかし、恋愛って難しい。ポケモンの小説はやっぱりバトルさせてこそですよね。
☆9
ライセンスさん、ハルダイラさん、デビル・ザ・シュウテンさん、もくざいさん
☆10
えりーとかいら。さん、しゅんんさん
高評価ありがとうございます。