今回からいよいよパルデア編です!
パルデア
そこは雄大な自然が広がっており非常に起伏の激しい地形に多数の川が流れ、湖や沼地、荒野に砂漠、雪山など様々な環境がひしめき合う地方。リコの生まれ故郷であり、今回の旅の最初の目的地だ。
「ジン、ニャオハ!見えてきたよ!」
カントー地方セキエイ学園を出発してから幾日か経ち、エクスプローラーズとの戦いや黒いレックウザとの遭遇などという様々な試練を乗り越え、ジンたちライジングボルテッカーズは遂にパルデア地方へと到着した。
「着いたか………………何のハプニングもなく着いてしまった」
「もう!まだそんな事言ってるの!」
「……ニャァ~」
リコの両親に挨拶をする。そう決まってからというもののジンは秘かにエクスプローラーズが襲撃してくれないかと祈っていたがカントー離島以降、一切襲われることなくパルデアに無事にたどり着いてしまった。
(いい事ではあるんだけどな…)
しかし、ジンの望みは叶わない。なぜなら、準備万端の襲ってきて構わない時には襲って来ず、準備が全くできていない襲ってきてほしくない時に限って襲い掛かってくる。それが物語の定番なのだから
「大丈夫だよ!お父さんは優しいから」
「……娘に優しいからって娘の彼氏にまで優しくしてくれるのか?」
「あ~……ごめん。それは分かんないかも…」
「はぁ~……」
思わず重たい溜息がこぼれる。かつてホウエン地方とそしてカントーからパルデアまでの旅でジンはあらゆる危機を乗り越えここまでやってきた。しかし、それらの経験をフルに活用しようとも今回の難題を乗り越える為の方法は全く思いつかない。
(こうなったら、直前まではノープランで行って後は本人たちにあってから彼らの言動やリコから聞いた性格を考慮した上で分析を進めアドリブで作戦を立てて、念の為に用意しておいた台本の中からその場に適した話題と回答を使用して円滑なコミュニケーションを…)
「……ぷっ」
ジンが作戦を練り上げていると隣にいたリコは突然笑いだす。
「……なんだ?どうかしたのか?」
「ご、ごめんね!で、でも……ふふっ……ジンが本気で困ってるところ初めて見たから、なんだか面白くって…」
いつもであれば、リコが困っている姿を見てジンが楽しむ。これが彼らの基本スタンスだ。しかし、今回ばかりは完全に立場が逆転しているように見受けられる。
「あのなぁ…」
「ふふ、ごめんね。でも、心配しなくても大丈夫だよ」
「……根拠は?」
「だって、ジンだもん。最後はなんとかしてくれるでしょう?」
それは根拠ではなくただの妄信に近い。しかし、リコにとってはそれだけで信頼するのに十分な理由なのだ。
(……やめだ)
リコの楽天的とも言えるその姿を見ると、あれこれと色々考えてる自分の方が間違っているような気がしてくる。特に台本などはもはや無粋でしかない様にすら感じていた。
「……努力はする」
「うん!頑張って!」
「ニャア!」
(……まぁ、偶には何も考えずに『フレアドライブ』で突っ込んでみるか)
考えてもらちが明かないのであれば後は野となれ山となれ作戦で行くしかない。反動ダメージは覚悟のうえでありのままの自分で突っ込む。そう諦めて腹をくくればなんとかなる。ジンはそう信じる事にした。
***
ブレイブアサギ号を停泊させるとジンたちはチームに分かれて行動をとる。マードック、モリー、オリオは買い出しにジン、リコ、ロイ、フリードの4名はリコを実家に送るといった形だ。
「すっごーい!」
ジンたちはリコの実家に行く前にロイの希望もありパルデア地方の観光の為にテーブルシティへと訪れている。街が目に入るや否やロイは驚愕の声を上げる。だが、それも無理はない。
「でかい街だな」
ジンたちが訪れたテーブルシティ、そこはパルデア地方の中心都市であり中に入ると大きく美しい建物が数多く並び街中には人とポケモンで溢れている。中にはパルデア地方ならではのポケモンもおりロイだけでなくジンも興味深そうに街を観察していた。
「あれがオレンジアカデミーだよ!」
その中でも一番目立っていたのが、テーブルシティの奥に建てられた建物だ。その名をオレンジアカデミー、パルデア地方の最古の学校だ。その建物の付近には、下のズボンがオレンジ色の学生服を着た生徒と思われる人たちが確認できる。
「……年代がばらばらだな」
学校の方へと目を向ければ、下は10歳程度から上は50~60歳程度の年齢の人までもが同じ制服を着てオレンジアカデミーへと向かっているのが見える。
「ああ、オレンジアカデミーには年齢制限がないんだって。色んな地方の大人から子供まで幅広く通ってるらしいよ」
「ふむ……それ面白そうだな」
あらゆる地方のあらゆる年代のトレーナーが通う学校、つまり普通の学校と違い触れ合う人の数や種類が多いという事だ。そこで手に入る経験や交友関係の広さは恐らくどこの学校よりも多いだろう。
(こっちに通ってみても面白かったかもな)
オレンジアカデミーに通っていた場合、ジンはセキエイ学園以上にのびのびと学園生活を送っていただろう。特にカリキュラムに含まれているパルデア地方を自由に冒険する課外授業はジンに向いていたかもしれない。
その後もジンたちはリコにテーブルシティを案内してもらった。テーブルシティには数多くの店があり都会に慣れていないロイは常に興奮した様子を見せていたが、ジンがデリバードポーチという店でトレーニング器具を購入しながら今後の自分やロイたちのトレーニングメニューを考えているの見てからテンションを二段階下げるというハプニングもあったがおおよそ楽しみながら観光を続けた。
「楽しかった~~~~~!」
「ああ、特にこの街は見るところがたくさんあって面白いよ」
(そっか…私にとっては、普段と何も変わらない景色だったんだけど…ジンやロイが喜んでる姿を見てたら、ちょっとくすぐったい)
「やっぱ出ないな…」
ジンたちがベンチで休んでいる間にフリードが依頼主でもあるリコの母親に電話をかけていたのだが、どうやら繋がらないらしい。リコによると母親は教師の仕事をしているようで、仕事中は電話に出ないことも多い様だ。
「確か、リコのお父さんは絵本作家だったな。基本は家で仕事してるんだろう?」
「うん。多分、家にいると思うよ」
「そっか。それなら取り合えず家に行ってみるか?」
「…そうだな。行くか!」
「お!気合十分だな!」
「ああ、腹は括った。それにこれ以上、時間をかけるとまた余計なこと考えだしそうでその方が怖いからな。リコ、案内頼むよ」
「うん!」
その後、テーブルシティを後にしたジンたちは、そのまま真っすぐ近隣にあるリコの家へと向かう。
道中では手土産にと思い、購入したケーキを狙ってパルデア地方のポケモンのグルトンが襲い掛かってきたが、これからの決戦の前の景気づけにジンがジュカインを出し一撃で撃退するという場面もあったが問題なく進行している。
「あ!私の家が見えてきたよ」
「……まじか」
先頭を歩いていたリコの発言を聞き、視線を向けるとそこには大豪邸とまではいかないが一般的な住宅よりも一回りは大きな家が建っていた。更に家の周りには広い庭を有しており、果物の木や家の裏側には遊具の様な物まで確認できる。
「フリードたちに護衛の依頼をするぐらいだから、お金持ちなのかと思ってたけど……リコ、ひょっとしてお嬢様なのか?」
「そ、そんなことないと思うけど…」
「いや、あるだろう……この家、俺の実家の一回りは大きいぞ」
家の値段だけでなく広い土地の値段まで計算に入れれば、総額ではトリプルスコアを食らうかもしれない。ジンの実家とはそれ程の開きがある様にすら見えてくる。
「ワン!ワン!」
リコの家に近づくと玄関のドアの下のポケモン用の入り口から一匹のポケモンが飛び出し、リコへと向かってくる。
「パピモッチ!ただいま!」
「リコ、このポケモンは?」
「パピモッチって言うの。お父さんのポケモンなんだ」
パピモッチはリコの周りをぐるぐる回るとリコに抱き着き、頬をリコに擦り付けて甘えている。久々に会えたことに喜んでいるのかスキンシップが強く出ている様だ。
「………」
みんながパピモッチとリコに注目し微笑ましい視線を向ける中、ニャオハだけが複雑な顔をしながらリコを見つめていた。それに気づいたジンはそっとニャオハに近づき声をかける。
「……そんな顔してやるなよ。久しぶりでちょっと舞い上がってるだけだ」
「ニャァ…」
(……この子も結構嫉妬深いな…ジュカインにも注意するように言っておこう)
ポケモンとトレーナーは似るとよく言うが、嫉妬深いという点において彼女たちはとても似た性質を持っているのかもしれない。
「後でちゃんとリコと話す時間を用意させるからさ。機嫌直してくれ」
「…ニャン」
「それじゃあ…後でニャオハ専用ポロックとマードック特製のお菓子も出すから」
「ニャオハ~!」
ジンのポロックとマードックのお菓子、その単語を聞いてニャオハはようやく、先ほどまでの不機嫌そうな表情を引っ込め笑顔を見せる。
(……ふぅ、リコの父親と会うってだけでもお腹いっぱいなんだからこれ以上は勘弁してくれ)
「リコ?」
ジンたちがそんなやり取りをしていると家の中からこちらを見ていた眼鏡をかけた男性が声をかけてくる。その男性はリコに気づくと慌てて玄関へと回り扉を開け、満面の笑みを浮かべながら飛び出してくる。
「おかえり!リコ!」
「た、ただいま、お父さん」
(……この人が、リコのお父さんか…)
「ああ、どうも。お世話になりました。リコの父のアレックスです」
リコの父、アレックスは外に出たことで初めてジンたちの存在に気づいたようで慌てて挨拶をしてくる。ジンたちもそれに続く形でそれぞれ挨拶を行うが、ジンが自分の名前を言うと途端に先ほどまでの穏やかな空気が一瞬にして変わっていく。
「……そうか、君がジン君か……君の事は娘からよく聞いているよ。学校ではリコがとてもお世話になったみたいだね。本当にありがとう」
「い、いえ……当然の事です」
不思議なことに感謝されている筈なのに全く心が温まらない。むしろ先ほどよりも気温が若干、下がったようにすら感じる。
「さぁ、皆さん。立ち話もなんですから、家の中へどうぞ」
どうやら、この空気の変化はジンの周辺でのみ起こっているようで、リコ、ロイ、フリードの3名は何事もないかのように普通の態度で家の中へと入っていく。
「さぁ、ジン君、君も中に入って……色々と話したいことがあるだろう?お互いにね」
「ははは……そうですね」
ジンの旅が始まって以来、最大の試練が今、幕を開けようとしていた。
さらっと、今回の原作との変更点を纏めると
・グルトンをジンが返り討ちにした
・ニャオハの嫉妬シーンがジンのフォローでなくなる
くらいしかないです
ジンとアレックスさんの話しを期待している方が多いみたいですが、文字数的にも丁度良かったんでそれは次回に持ち越しです。
なんとなくどんな会話をさせるのかは決まっているのですが、皆さんの期待に応えることができるのかどうか不安です。精一杯書くので次回もよろしくお願いします!
☆10
葉桜 骸さん
高評価ありがとうございます。