今回は「ピクニックは突然に」の内容になります。
アニメでは総集編的要素もあったので、この1話だけで「ピクニックは突然に」は終わりになりますがよろしければどうぞ
ペンダントや六英雄についての情報を得る為、リコの祖母ダイアナに会いにライジングボルテッカーズはガラル地方へと旅立つことを決めた。その翌日、いよいよガラルに向けて船を出航させる予定だったのだが……ここで予想外の事態が起こる。
「船が出航できない!?」
「なんで?なんで?どうしたの!?」
アプリにより呼び出され、操舵室に行くとフリード、オリオ、モリー、マードックがすでに集まっていてブレイブアサギ号の現在の状態について詳しい説明を受ける。
「尾翼の動きが少し鈍くてね。今、自動点検中なの」
フリードたちに慌てた様子はない。彼らにとってはよくある事の様だ。また、システムを管理しているドットによるとシステムの再起動も半日もかからないうちに復旧するらしい。今後もこの船で安全に旅をしていく以上、必要な時間だと割り切るが……
「急に暇になっちゃったな~」
「じゃあ、折角だしテーブルシティで買った器具を利用した新しいトレーニングでも…「みんな!なにか手伝えることない!?」……おい」
急に出来た暇な時間、これを利用してトレーニングを提案しようとするがロイはジンの言葉を遮り、慌てて仕事を探し出そうとする。その必死さからどれだけジンのトレーニングから逃げ出したいのかがひしひしと伝わってくる。
「まぁまぁ、2人とも落ち着け。今日はトレーニングも手伝いもなしだ。カントーからここまで長旅で休む暇もなかったからな。ここらで身も心もリフレッシュしにピクニックにでも行かないか?」
(確かに、ここまで色々あったな……エクスプローラーズからの襲撃も警戒して常に気を張り続けていたし、ピクニックか……ん?)
フリードの提案をどうするのか考えているとロイ、それにリコまでも目をキラキラさせながらジンの方を上目遣いで見つめなにかを訴えてくる。ロイだけであれば速攻で無視したがリコの上目遣いはジンには効果抜群だった。
「……まぁ、偶にはいいか」
「「やったーーーーーーー!」」
ジンの了承を得るとリコとロイはハイタッチして喜ぶ。初めて出会った時の姿はどこへやら、2人の中はすっかり仲の良い姉弟の様だ。
(……いい機会だし誘ってみるか。でも、普通に言っても無理そうだし……ふむ……)
その後、留守番を買って出てくれたランドウに船を任せるとジンたちはピクニックに向けて準備を開始するのだった。
***
「わぁ~~~いい眺め」
ブレイブアサギ号から降りるとリコたちは船から少し歩いた先の海岸まで来ていた。見渡しが良く、風も心地よい、ピクニックに適しておりパルデア地方の景色の良さがよく伝わってくる場所だ。
「あ、あっちはビルがいっぱいあるね!」
ロイが視線を左に向けるとそこにはビルが並ぶ街が見える。そこはハッコウシティという街で近代的なビルやネオン広告が眩しい近未来風の街並みをしており、夜になればその景色は『100万ボルトの夜景』と言われ、パルデア十景の1つに数えられている程の美しさを誇るらしい。
「お~~~い!準備できたよ!」
ハッコウシティを眺めていたリコとロイにオリオが声をかける。ピクニックの準備ができた様だ。2人が急いで駆けつけると大きな木の下にはテーブルが置かれ、そこにはベーコンやソーセージの他にもスライスされた果物やチーズなどの様々な食材や調味料が用意されていた。
「すごい豪華!」
「美味しそう!」
「マードックが張り切って買い出しに行ってくれたおかげだな」
「ハッコウシティの品揃えには驚いたよ。ないもはないんじゃないかな」
お腹をすかせたロイは早速、具材に手を伸ばそうとするがオリオに止められる。今回、用意された具材はそのまま食べるのではなく、パンに好きな具材をトッピングし自分だけのサンドイッチを作る事が目的だ。
「これはセンスが問われるぞ。2人とも最高の一品を仕上げてくれ!」
「「おーーっ!」」
フリードの合図とともにリコとロイはそれぞれサンドイッチ作りを始める。2人とも好きな具材を選び、自分だけのサンドイッチを作ろうと奮闘する。
リコのサンドイッチは具材が少な目ではあるがバランスが良い。その反面、ロイは以前、絵本で見たサンドイッチを模倣しようとしたようで大量の具材を詰め込もうとして失敗するなど、お互いに性格が色濃く表現されている。
「よし!今度こそ出来た!」
ロイは最初のサンドイッチは失敗したため、今度は最初のものよりもバランスよく……それでもリコのものよりもかなり具材が多いサンドイッチを作ると半分に分けてホゲータと食べようとする。正にその瞬間、草むらから一匹のポケモンが飛び出し、ロイの持っていたサンドイッチを奪い取ってしまう。
「え?サンドイッチが……あ、あいつか!待てーー!」
「ロイ!あんまり遠くまで行かないでよ」
「分かった!」
サンドイッチを横取りした犯人は直ぐに見つかった。黒い鳥の様なポケモンで小さな口でサンドイッチを挟むとロイたちに見向きもせずに海の方に走り出してしまう。ロイとホゲータもサンドイッチを取り戻す為に慌ててそのポケモンを追いかけ始める。
「元気だなぁ」
「子供はあれぐらい元気な方がいいのさ」
「そういや、ジンはまだ来てないのか?」
そう、ジンはまだこの場に来ていない。ピクニック道具を準備し全員で船から降りようとした際に「ちょっとだけ用事があるから先に行ってくれ」と言って以来、未だになんの音沙汰もないのだ。あれから既にそれなりの時間が経っている。いい加減合流してきてもおかしくないのだが……
「準備できたって連絡してみるか?」
「そうだな……いや、必要ないみたいだ。こっちに来てるぞ」
「噂をすればだね………ん?あれって……まさか……」
船の方角に視線を向けるとジンがこちらに向かってくる姿をフリードたちは視認する。しかし、気になったのはその背後にいた人物だ。小柄で紫色の天然パーマをしたクワッスを抱えた女の子がジンの後ろをゆっくりとついてきている。
「お待たせ。思ったよりも時間がかかった」
「ジン!やっと……………………………誰?」
「ひぃっ!」
「クワッ!?」
ジンの背後に女の子がいる事に気づくとリコは途端に目から光が消えさり、『ぜったいれいど』の様な冷たい声を出し睨み始める。その声を聴いた瞬間、女の子は途端に怖がり始め腰を抜かしそうになってしまうがジンが咄嗟に支えたことで事なきを得る。しかし、その反動でリコの視線はさらに鋭くなってしまう。
「ほら『にらみつける』のはそこまでだ。折角、リコの為に連れてきたんだから」
「……私の為?」
「ほら、挨拶挨拶」
そう言うとジンはドットの背中を押し、リコの目の前まで少女を送り出す。
「…………ど、ドットだ」
「え………ドット!?」
ドット、ライジングボルテッカーズの情報収集とシステムを担当しており、マードックの姪っ子でリコたちと同年代の少女だ。今まで、リコもぐるみん関係の事で何度も部屋まで訪ねて話しかけたことがあるが実際に本人と対峙したことは一度もなかった。
「ドット!やっと会えた!」
「………う、うん」
リコはようやく直接会うことのできたドットを目をキラキラさせながら話しかける。ドットはそんなリコを見ると恥ずかしいのか顔を赤くさせ、できるだけ視線を合わせない様に下を向きながら返答している。
「でも、どうして来てくれたの?誘った時はめんどくさいって……」
ピクニックに行くことが決まった際、リコは当然ドットにも声をかけたが、めんどくさいやら非効率やらと理由を付けて断られていたのだ。それなのに何故か彼女はジンと一緒にここまで来ている。どのような理由で来たのかリコは知りたくてたまらなかった。
「そ、それは……」
「実はな…ドットはリコと直接話がしたくて仕方なかったみたいなんだけど恥ずかしがり屋なもんだから、なかなか素直になれなくて……」
「わーーーーーー!お、おい!?適当な事言うなよ!お、お前も目を輝かせるのはやめろ!本当に違うんだからな!?僕がここに来たのは勝負に負けたから!仕方なく、本当に仕方なくなんだ!」
「勝負!?ジンと!?クワッスは大丈夫!?ケガとかしてない?」
ドットの発言を聞くと、目を輝かせていたリコは途端に心配そうな顔に切り替えドットとクワッスを見つめると次にクワッスの体を触りながら負傷している個所がないのか確認を行っていく。
「…………」
ジンはリコの取った態度に少々、不満な様子だが普段のロイたちを扱いている姿を見ればそう判断されても仕方がない。普段からロイやホゲータに対して厳しいトレーニングを行っている姿を見ていれば自然とそうなってしまう。こればかりは自業自得だ。
「……別にポケモンバトルはしてない。そもそも、クワッスは僕のポケモンじゃないし……」
「え?そうなの?いつも一緒にいるからてっきり……」
これについては正直、ジンも驚いていた。クワッスはいつもドットの部屋におり、ぐるみんの配信をする際にはいつもアシスタントとして参加している。完全にパートナーだと錯覚していたが、他のポケモンたちと同様に勝手に住み着いたポケモンの一体だったようだ。
(道理でポケモンバトルに慣れてないわけだ……)
ぐるみんの動画でたまに行われているバトルの解説動画、ジンの過去のバトルの映像を見るようになってから少しましになったが、それでも未だにバトル慣れしていないと感じさせるところがいくつか見られていたが、よもやトレーナーですらなかったのは流石に予想外だった。
「クワッスをゲットしようとは思わなかったのか?」
「別にトレーナーになりたかった訳じゃないから……」
(……ちょっともったいないな)
人間とポケモンがどのような関係を築くのかは自由だ。トレーナーやパートナーにならなくても上手く付き合うことは出来る。ドットとクワッスがいい例だろう。だが、ドットはポケモンの知識が豊富でクワッスはドットを好いている上に動画や船での様子を見る限りコンビとしての相性もいい。
(相性がいいのかどうか、それは重要な要素の一つだ。だけどドットとクワッスはそこは問題ない。知識のあるドットに既にコンビとしての仲が出来ているクワッスがパートナーになれば、もしかしたら化けるかもしれない……)
今後の冒険の事も考えると戦力は多いに越したことはない。ジンやフリードが船から離れている時に襲撃を受けた時に時間稼ぎ程度でもできる力があればとてもありがたい。そう考えたジンはポケットから空のモンスターボールを一つ取り出す。
「ドット、こいつをやるよ」
「だ、だから、僕は別に……」
「分かってるよ。強制なんてしない。気が変わった時の為に持っておいて欲しいってだけだ」
ドットにクワッスをゲットしろなどと強制する権利はジンには当然ない。しかし、ドットとクワッスがパートナーになり成長した姿を見たいと思ったのも本当の為、妥協案としてモンスターボールを渡そうとしていた。
「たいして荷物にもならないからさ。ほら」
「あっ……痛っ!」
ジンは下投げでゆっくりとドットにボールを投げる。ドットは慌ててボールをキャッチしようとするが失敗してしまいボールは頭に直撃し、そのまま地面へと落としてしまう。
「おいおい……大丈夫か?」
初めて船で扉越しに出会った時から感じていた事だが、どうやらドットは運動神経が悪い……というよりもこれまでの人生で運動をしたことがあるのかどうかも怪しいレベルで運動が苦手なようだ。
「クワーッス!」
「あっ!クワッス!?」
ボールが地面に落ちたのを見るとクワッスは突然、ドットの腕から抜け出そうと暴れはじめる。ドットの力が弱い事もあり簡単に脱出したクワッスはそのまま地面に落ちたモンスターボールに『たいあたり』し、ボールの開閉スイッチを押してしまう。ボールが開き赤い光がクワッスの全体を包み込み、一瞬のうちにクワッスはモンスターボールの中に入ってしまった。
「………ど、どうすれば?」
余りの衝撃でその場にいた全員が黙ってボールを見ていると一番最初に正気に戻ったドットがそう問いかけてくる。
「自分からボールに入るぐらいだし、クワッスはよっぽっどドットの相棒になりたかったんじゃないかな?」
恐らくそうなのだろう。ドットがボールを落としたのを見てチャンスとばかりに突っ込んだあたり、クワッスはずっとドットのパートナーになりたいと考えていたことが伺える。
「……クワッス!出てきて」
「クワーーッス」
ドットはリコの言葉を聞くと、クワッスの入ったボールを恐る恐る拾い上げると宙に投げる。中からクワッスが元気な声を上げながら出てくるとドットのすぐ目の前まで近寄ってきた。
「その……本当に、僕なんかでいいの?」
「クワスゥ!」
ドットは不安気な様子で問いかけるとクワッスは片腕を上げ笑顔で返事をする。言葉は理解できなくてもクワッスの行動、笑顔を見ればドットのパートナーになることを承諾したのは明らかだった。
「……改めてよろしく。僕の……相棒」
全く予想をしていなかった形ではあったが、ドットはクワッスをゲットし、ただの友達から1人のポケモントレーナーとそのパートナーポケモンへと関係が変化した。それは、そのポケモンと仲間になり心を通じ合わせた瞬間でもあった。
「ドット!おめでとう!」
まずは一番近くでその姿を見ていたリコがそして、それに続くようにこの場にいた全員がドットとクワッスの事を祝福する。ドットは全員の注目と祝福を受けて恥ずかしそうにしているが嬉しそうにも見受けられる。
(ドット、良かったね………ん?ドットとクワッスがたった今、パートナーになったって事は……あれ?)
そう、ドットは今、ポケモントレーナーになったのだ。そうなるとリコには1つ気になる疑問が生まれてくる。
「ちょっと待って、それじゃジンとした勝負って?」
「あぁ、それか……ポケモンに関する問題を互いに出し合って先に間違えた方が負けって勝負」
ジンはみんながピクニックに適した場所を探している間にドットの部屋を訪ねるとこの勝負を持ち掛けた。普通に誘ってもリコの様に断られることは目に見えているが、この勝負ならばドットもなまじ自信がある為、乗ってくる。ジンはそう確信しこのジャンルでの勝負を挑んだのだ。
そして、結果は……最終的にはジンが意地を見せて約数十分の死闘の末にジンがなんとか勝利を収めた。その為、罰ゲームという体裁でドットはピクニックへの参加を了承したのだ。
「負けたけど……素直に負けは認めるけど……やっぱり、あの問題はずるいぞ!なんだよポケモンシルエットクイズって!しかも答えが『上から見たプリン』ってあんなの分かる訳ないだろう!?」
「はははは」
「笑って誤魔化すなよ!?」
当初は真っ当な問題で勝負していたのだが、ドットの知識が予想以上だったこともありジンは禁断の問題に手を出していた。かつてポケモンリーグ公認の認定試験で出されていたもので、あまりに難しすぎる事から受験生に猛抗議されテストから外されたという経緯がある特殊すぎる問題、それで勝負に出たのだ。
「過程はどうあれ勝負は俺の勝ちだ。ここまで来たんだから、楽しんで行けよ。さてと席は……リコの隣が空いてるな。じゃあ、ドットはそこで」
先程までいたロイの席が今は空いている。普段ならジンが座る所だが、今回は敢えてドットにその席を譲ろうと考えた。一瞬、マードックが自分の隣の席を指さそうとしていたがジンは敢えて見えていないふりをし、ドットをリコの隣に座らせる。
「ドット、サンドイッチ作りは初めて?」
「………う、うん」
「じゃあ、一緒に作ろうよ!」
「わ、分かったよ……」
リコが積極的に話しかけ、ドットがそれに答える。船で何度も見かけた光景だが、こうして直接話し食事を共にするのは初めての事だ。ピクニック、直接会うのが初めて、それらの要素も加わってリコのテンションはかつてないほどに上がっている。先ほどまでの不機嫌さは消え去り、今はドットと仲良くする事しか考えていないらしい。
ドットもまたリコの事を気に入っている。知らないとはいえ自分(ぐるみん)の事を裏表なく何度も褒めて話しかけてくる。扉越しにではあるが話をしたことも何度もある。本人は気づいていないがもはや友達と言っても差し支えない間柄だ。その友達とこうしてピクニックに来ている。初めての経験にドットも気づかないうちに笑顔がこぼれだしていた。
「ドットが、あんなに楽しそうに……ドットを船に乗せて良かったよ。友達ができた」
ドットのその楽しそうな姿をマードックは本当に嬉しそうな顔をしながら見つめている。尤もそれはマードックだけではなくこの場にいる全員がそうだった。いつも部屋にいるドットが外に出て笑顔を見せる貴重な場面、思わず見入ってしまうのは仕方がない。
(……こういうのも偶にはいいか)
冒険には謎やスリルが付き物だ。冒険者は本能的にそういったものを求めている。ジンも当然例外ではない。常に強敵と厳しいバトルを出来る相手を求め続けていた。だが、たまにはこんなのんびりした時間があってもいい。リコたちがこうして笑顔でのんびりと過ごせる時間が再び訪れる事を秘かに願った。
***
「この船ですか……レアコイル行きなさい」
ジンたちがピクニックを楽しんでいた頃、ブレイブアサギ号の周りには一人の長身の男性と多数のレアコイルが空中から取り囲んでいた。
レアコイルは強力な磁力・電磁波・電波を常に周囲へ放っているポケモンだ。その磁力の影響で、近くにあるコンピュータなどの精密電子機器は異常をきたし壊れてしまう事がある。そんなレアコイルが多数で集まり一つの目標に集中して電磁波をぶつければ船のシステムに悪影響を与える事など造作もない。
「ふふ……風向きは良好ですね。既に罠は仕掛けました。後は罠にかかるのを待ち、ペンダントを奪えば……任務完了です」
ちょっと前倒ししてドットとクワッスをパートナーにさせました。
次回辺りから本格的にスピネルの出番が来ます。アニメ通りの展開にはならないかもしれませんが今後もよろしくお願いします。
☆10
sskあっちゃんさん
高評価ありがとうございます。