今回は2回目のスピネルとのバトルになります。
例により一方的な展開になりましたが、よろしければどうぞ
地上に降りたジンはボーマンダをモンスターボールに戻すとスピネルの動きを警戒しつつ、リコの安否を確認しに近づいて行く。
「リコ、大丈夫か?」
「う、うん。オーベムが何かしようとしてたときは、もう駄目かと思ったけどサーナイトのおかげで私もニャオハも大丈夫だよ」
「ニャオハ~」
(……オーベムか)
オーベムとは昨日、バトルした為ここにいること自体に違和感はない。だが、オーベムが何かをしようとした。それを聞いて何が行われようとしていたのかを察することは容易な事だ。
スピネルはアメジオとは違う。その事は理解していた。だが、それでもせいぜい、何らかの方法でペンダントを奪うだけだとジンは思っていたが、スピネルはペンダントを奪うだけでなくリコの記憶も操作し逃げる時間まで稼ごうとしていたのだ。
(念には念を入れておいて正解だったか……)
それは昨夜の事、ポケモンたちの状態のチェックを終えたジンはエクスプローラーズの襲撃を予測し、サーナイトに2つの頼みごとをしていた。
1つ目は今日、船を出る際に『シンクロ』を発動し、サーナイトとジンの視界を共有することだ。ニャオハ救出の時にも使った技で船に残ったサーナイトはこれにより常にジンの視界でリコを捉えていた。
2つ目はジンの近くからリコが離れた場合、『シンクロ』を解除した後『テレポート』で移動し、リコに気づかれない程度の距離から護衛に付き、敵が襲ってきた場合はジンが到着するまでの時間稼ぎをする事だ。
これらの準備を事前にしていた為、リコはペンダントも記憶も奪われずに済んだ。限られた情報、実質的な被害がない事などを考えれば十分な成果ではある。だが、ジンは決して満足はしていなかった。
「……やってくれたな」
ジンはスピネルを睨みつけると忌々しげに話しかける。
「それはこちらのセリフですよ。まさか、私の策を見破っていたとは……」
「……俺が読んでいたのは今日、何かが起こるって事だけだ。あんたの策にはまんまと嵌められたよ」
「おや?そうでしたか。やはり、彼らではあなたの相手をするには力不足だったようですね……」
ジンとリコを引き離す。それは予測していたが、まさか自分の部下ではなく一般のトレーナーを利用するなどという事は全く予想していなかった。その結果、ジンはリコと引き離されたのだ。その時点ではスピネルの作戦勝ちと言わざるを得ない。
「確かに足止めをするには彼らは力不足だった。だが、あいつらの内の1人が口を滑らせなかったら、俺はまだここにいなかったよ」
少年たちの1人が口にした「朝からずっと待っていた」、この言葉を聞かなければ恐らくスピネルの策にも気づかず、バトルをこんなにも早急には終わらせなかった筈だ。
「なるほど……素人を使ったのは失敗でしたか」
「いや、正解だ。もしもあんたの部下や金で雇われたトレーナーだったら、俺は絶対にその事に気づいてリコの傍を離れなかった」
組織の人間や金で動くプロの仕事人には独特のオーラがある。様々なトラブルを経験したジンはそういった人間をなんとなくではあるが見抜くことが得意だ。今回はその手のオーラを一切、持っていない素人たちを利用したからこそジンは引っ掛かってしまった。そういう意味では彼らを使ったのは正解だと言えるだろう。
(……襲撃が来ることは分かっていたのに、そこまでは読めなかった)
スピネルは短い期間でジンたちの情報を集め、レアコイルを利用し船のシステムを止め、今回の作戦を立案した。結果こそ、完全には上手くいかなかったが出し抜かれてしまった事実は変わらない。
「……まずは、認めよう。見事だ」
敵ながらスピネルの優秀さには素直に称賛の言葉を送らざるを得なかった。アメジオとは違った意味ではあるがスピネルを厄介な敵であると改めて認める。
「だが……」
突然の称賛の言葉にスピネルは驚いた様子を見せる。しかし、その瞬間、ジンの様子が変わり始めた事に気づいてしまった。
「お前はリコに手を出し俺の逆鱗に触れた。お前と俺たちとの力の差を見せてやるよ。覚悟はいいか?俺は今から………いや、既にこれ以上ないほど怒っている」
スピネルはジンが己に対してとてつもない程に怒りの感情と殺気を向けているのを肌で感じていた。エクスプローラーズの幹部として多くの敵と相対してきたスピネルですら一瞬、怯みそうになるがそれを気力で補うとジンと正面から向き合う。
「簡単には逃がしてはいただけませんか……いいでしょう。小細工は一旦、やめです。このスピネルが相手をして差し上げます。ブラッキー!」
スピネルが呼びかけると先程まで倒れていたブラッキーはスピネルとジンの間に入り込み、戦闘態勢に入る。
「サーナイト行けるか?」
「サナ!」
それに対しジンが繰り出すのはサーナイトだ。既にリコの護衛の為にかなり力を使ってはいるが、スピネルに対して怒りを燃やしているのは彼女も同じだ。ここで交代するという選択肢はないしサーナイトも納得しないだろう。
ブラッキーは悪タイプ、サーナイトはエスパー・フェアリータイプだ。純粋な相性だけで言えばサーナイトが圧倒的に有利だがその反面、悪タイプにはエスパー技は通用しない。攻め手をいくつか失う事になるが勝機は十分にある。
「行くぞ!サーナイト『はどうだん』!」
サーナイトは両手を前に出すとそこに波動の力を収縮し青色の光球を作り出すとブラッキーに狙いを定め発射する。
「『あくのはどう』で迎え撃ちなさい!」
『はどうだん』は必中の技だ。回避が不可能な以上、防御するか迎撃する以外に道はない。ブラッキーのダメージを考えたスピネルは迎撃の道を選んだが、その選択はこの場においては大きな間違いだった。
「なにっ!?」
迎え撃とうとした『はどうだん』は『あくのはどう』にぶつかりそうになった途端に急に軌道が変わり、『あくのはどう』を回避する行動を取るとそのままブラッキーへと突っ込む。技を出している途中のブラッキーは回避する事も出来ずに攻撃を受けてしまう。
「ふむ……なかなか使い勝手がいいな」
「今のは……まさか!?」
スピネルもまた驚愕を隠せない様子だった。だが、それも仕方ないだろう。『はどうだん』が突如として軌道を変える現象、この現象は自分が愛用しているあの技とあまりにも酷似していたのだから。
「あぁ、お前の得意技だろう?今のは敢えて言うなら『サイコ・はどうだん』かな?」
ジンとサーナイトがやった事、それはスピネルが以前のバトルで使っていた『エレキボール』と『サイコキネシス』の合体技、『サイコ・エレキボール』の『はどうだん』バージョンだ。
「馬鹿な……」
今の現象を見てスピネルはそう呟く。スピネルはあの技を長い年月をかけて習得した。だからこそ、あの技がどれ程の難易度であるのかを知っている。
1つの技を使用した後に続けて『サイコキネシス』を発動して操る。それは並大抵の事ではないのだ。その為、スピネルはあの技を2体のポケモンで役割分担しダブルバトルでしか使わない。いや、使えなかったのだ。だが、目の前のサーナイトはスピネルたちが出来なかったことを完璧にやり遂げている。
「ぼーっとしてる場合じゃないぞ」
「っ!?」
「『かげぶんしん』」
サーナイトはサイコパワーで空中に浮遊するとそこから『かげぶんしん』を発動し、空中に無数に数を増やすと本体と分身の全てが両手に力を込めて『はどうだん』を発射する準備に入る。
「ブラッキー!?『スピードスター』で本体を攻撃しなさい!」
次に『はどうだん』を受ければ、特防が高いブラッキーでも確実に倒される。その前に攻撃を阻止しようと行動を起こそうとするが既に手遅れだった。
ブラッキーとサーナイト、両者はほぼ同時に技を出すがサーナイトの『サイコ・はどうだん』は縦横無尽に軌道を変え全ての『スピードスター』を撃ち落としてしまう。しかもそれだけではなかった。
「これは……」
本体の放った『はどうだん』だけではない。分身体の放つ見せかけの『はどうだん』までもが様々に軌道を変化しブラッキーに迫ってくる。たった1つでさえ、攻略は困難な『サイコ・はどうだん』が前後左右上下から襲ってくるのだ。
「ブラァァァァ」
「ブラッキー!?」
無数に混ざり合いどれが本物なのか分からなくなった為、逃げる事も迎撃することも出来ずブラッキーは無数の『サイコ・はどうだん』を受けその場に倒れ込んでしまう。もはやブラッキーにこれ以上の戦闘は不可能だ。
「…………あり得ない」
それはバトルに負けた事ではない。スピネルも実際にバトルをすれば負ける可能性がある事は当然、理解していた。あり得ないのは今、起こった現象の方だ。
「一体……一体何をした!」
「……何の事だ?」
「惚けるな!『はどうだん』1つであれば操る事は可能かもしれない。だが、全ての分身体の『はどうだん』までサイコキネシスで操る事など出来るはずがない!」
スピネルの考えは正しい。如何にジンのサーナイトが優れていようとも昨日、知ったばかりの戦法をここまでの精度で使用することなど本来は不可能だ。
だが、ジンとサーナイトはバトルの前に『シンクロ』を発動し互いの視界を共有する事でそれを可能にした。ブラッキーと自分の両手の『はどうだん』に意識が向いていたサーナイトの視界だけでは精々、複数個の『はどうだん』しか捉えられず操ることは出来なかった。
しかし、バトルを背後から見ていたジンの視界には全ての分身体と『はどうだん』が映っていた。この情報さえあればサーナイトにとって『サイコキネシス』で操る事は決して不可能な事ではない。
「……自分で考えろ。お前に教える義理はない」
この『シンクロ』やジュカインの『エナジーチャージ』は簡単に真似できる類の技ではない。しかし、だからと言って敵にわざわざ説明し、情報を明け渡す必要はないのだ。
「…………ふふふ……はっはははは……」
スピネルはジンの答えを聞くと突如として笑い始める。先ほどまでの激高した態度からの突然の豹変ぶりにジンは警戒の色を強めた。
「何がおかしい?」
「強い。あなたは本当に強い……………保険をかけておいて正解でした」
「……なに?」
「ジン!危ない!?」
「っ!?」
リコの声を聞き、咄嗟に背後を振り返ればそこには空中からジンに向かって『でんじほう』を構えるレアコイルの姿があった。
(しまった!?)
バトルに夢中になり、ブラッキーを倒した後はスピネルに注意を向けすぎてしまった。その為、ここに至るまでレアコイルの存在に気づくことが出来なかったのだ。
スピネルはジンとバトルすれば負ける可能性がある事も考慮し、事前にレアコイルを配置していたのだろう。ジンのポケモンたちが如何に強大であってもトレーナーのジンがいなければその戦力は大きく下がる。ポケモンを倒す事よりもトレーナーの動きを封じる。この行動の善悪はともかく確実であるのは間違いない。
(……受けるしかないか)
大技を使ったサーナイトやリコの近くにいるニャオハでは援護も期待できないだろう。もはや回避は間に合わない。
だが、リコのおかげで技を受ける前にその存在には気づけた。ジンもポケモントレーナーだ。ポケモンの技を受けたことは旅をしていた頃、何度もある。歯を食いしばり『でんじほう』を防御する事に全神経を向ければ一発程度であれば耐えきれる。
ジンがそう覚悟を決めた瞬間だった。
「だめぇぇぇぇぇぇぇぇ」
リコの叫び声と共に突如、ペンダントから謎の光が空高く打ち上がった。その光にジンもスピネルも攻撃をしようとしたレアコイルまでもがその光に目を奪われる。そして、ペンダントに呼応するように今度はリコの持っていた古のモンスターボールまでもが光り出すと開閉スイッチの部分が変形し、中から1体のポケモン、六英雄のオリーヴァが姿を現した。
「オリーヴァ……」
姿を現したオリーヴァはジンを狙っていたレアコイルを睨みつけると片腕を振り下ろし、レアコイルを地面に叩きつける。叩きつけられたレアコイルは一撃で戦闘不能にまで陥ってしまった。
(助かった。いや、それよりも……興味深い)
「はっはははは……面白い……これは面白い!」
皮肉なことではあるが、この時、ジンとスピネルの考えは全く同じものであった。原理は不明だが、まるでリコの気持ちに呼応するかのようにペンダントは光りだしオリーヴァは姿を現した。これが無関係だとは思えない。
(詳しく検証したい……だが、今は!)
「スピネル…だったな?お前の負けだ。大人しくしてもらうぞ」
この現象を見たスピネルをこのまま逃がすべきではない。アメジオがどのような報告をしたのかは分からないが、リコの記憶を奪いペンダントだけを奪おうとした事から少なくともエクスプローラーズの実行部隊内ではリコの重要性はそれ程ではない事が推測できる。
しかし、これ程の現象を事細かく報告されてしまえばリコの重要性は大きく跳ね上がる筈だ。できればそれは避けたい。そう思ったジンはスピネルを拘束しようとする。
「えぇ、私の負けです。残念ながら任務は失敗の様ですね」
ブラッキーとレアコイルをモンスターボールに回収したスピネルは素直に自分の敗北を認めた。正真正銘、用意していた全ての策略が全て潰えたのだろう。
「だったら……」
「おっと、勘違いされては困ります。負けは認めますが、神妙にするとは言っていませんよ?」
その瞬間、シュンという音と共にスピネルの背後に傷を負ったオーベムが現れる。
「っ!?」
「いずれまたお会いしましょう。その時こそ、ペンダントとそして重要なカギである、あの娘も必ず奪います」
その言葉を最後にスピネルはオーベムの『テレポート』により、この場から姿を消してしまう。もはや追跡も捕獲も不可能だ。
「……やられたか。しかし、頭に来るほど念が入ってるな」
最初にサーナイトから攻撃を受けたオーベムは戦闘不能に近い程のダメージを負ってはいたが、気を失ったわけでも動けなくなっていた訳でもなかった。サーナイトが現れたことで任務失敗の可能性を考えたスピネルはいざという時の逃走の為にオーベムを残しておいたのだろう。
(過ぎたことを悔やんでも仕方ないか……)
リコもペンダントも無事、せめて今はそれだけを喜ぼう。そう切り替え、リコの元に向かおうと振り返ると背後から迫ってきたリコがジンに抱き着いてくる。
「リコ?」
「……ジン大丈夫?」
「あぁ……問題ない」
ジンが強い事はリコは当然、分かっている。だからこそ、バトルが始まった時は何の不安もなく見ていることができた。だが、最後の最後に決着がついたと思った所にレアコイルの襲撃を見てしまった。
「……怖かった」
ポケモンがトレーナーに向かって攻撃を仕掛けるなどという事はリコの常識では考えられない事だ。『でんじほう』などという強力な技を人に使えば大抵の人間はそれだけで大ケガを負い、下手をすれば最悪の事態も想定できてしまう。
(……あの程度の事は慣れたものなんだけどな)
1人旅をしていた時は今日の様なポケモンの技を自分の体で受け止める程度の無茶は何度もしていた。そのせいか一般的な感覚とジンの感覚には大きなずれがある。しかし、今にも泣きだしそうなリコの前でそのことを口に出すのは流石に憚られた。
「俺は大丈夫だ。リコのおかげで助かったよ」
「……私の?」
「原理は分からないけどオリーヴァはリコの想いに応えて現れた。俺にはそう見えたぞ」
「そう……なのかな?」
「確証はないけど、多分な。やっぱり、古のモンスターボールをリコに託して正解だった」
ジンはそう言うとリコの頭を軽く撫でると抱き着いていたリコを離すと共にオリーヴァに近づいて行く。
「オリーヴァ!ジンを助けてくれてありがとう!」
「あぁ、お前のおかげで助かったよ」
「……ヴァァァァ」
リコとジンが感謝の気持ちを伝えるとオリーヴァは優しい笑顔を向けながら片腕でリコに触れながら返事をしてくる。
「……だけど、申し訳ないんだが……急いでこの場所から離れるぞ」
スピネルの捕縛失敗の反省やリコを慰めたりするのに時間をかけすぎてしまった様だ。街中で突然、空に届く程の光が立ち昇り、そのすぐ後にこれ程の巨大なオリーヴァが現れては目立たない訳がない。既に周りには野次馬が集まり出している筈だ。
「サーナイト!疲れてるところ悪いんだが、船の近くまで『テレポート』を頼む」
こうして、スピネルを撃退したジンたちは野次馬たちが本格的に集まり出す前にブレイブアサギ号へと帰還していく。
さて、次回はいよいよ出航してガラル編に……と思っていましたが、あのキャラをどうしても出しておきたいのでもう少しだけパルデア編を書こうと思います。
☆9
読書の虫さん
高評価ありがとうございます。
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