ガラルでなぜテラスタルできるのかという質問が感想欄で何件か聞かれたのでここでも説明しておきます。
アニポケだとフリードがガラルで普通に使っていたので、アニメではどこでも使えると思い込んで何も考えず使用してしまいました。今後、アニメ内で詳しい説明があるかもしれませんがその時まではこの小説内では時間を置けばどこでもテラスタルを使える設定で行こうと思います。
ジンたちはトレーニングルームを出るとバトルフィールドへと移動した。ここは、ジンとカブが非公式にバトルを行った場所であり、現在トレーナーゾーンにはリコとロイそして反対側にはカブとワカバがスタンバイしている。
「それでは、ジン君。審判を頼むよ」
ジンはカブに頼まれ審判としてここに立っている。つまり、リコやロイにアドバイスする事も出来ない立場である。カブはリコとロイがジン抜きでどこまでやれるのかを試す気の様だ。
「分かりました。では、ポケモンをフィールドに」
フィールドには既に先ほど、トレーニングを終えたニャオハとホゲータが出ている為、ジンの言葉に従い、カブとワカバはそれぞれ自分のモンスターボールをフィールドに向かって投げつける。
「タンドン、頑張っす!」
「燃え盛れ、マルヤクデ!」
カブは相棒でありエースのマルヤクデ、ワカバは赤く光る目と石炭の様な体、そして下部の車輪が特徴のせきたんポケモンのタンドンをフィールドに出す。
「出た!炎・虫タイプ はつねつポケモンのマルヤクデ!超攻撃的な性格で体温800度の体をしならせて襲い掛かる。カブさん最強のポケモンっす!」
ワカバのまるでポケモン図鑑の様な説明を聞きながらリコとロイ、そしてジンも改めてマルヤクデの観察を行い始める。
「強そう……」
(……まずいな)
こうして先程よりも近い場所から直接見ると、ハッサムに敗れこそしたが改めて目の前のマルヤクデの強さが理解できた。しかも、マルヤクデは炎・虫タイプのポケモンでニャオハとホゲータは共に相性が悪い。流石にキョダイマックスなどはしないだろうが、それを抜きにしても勝負になるのか怪しいレベルだった。
(……まぁ、相性の悪い相手とのバトルはいい経験になるか)
今回の勝負は必ずしも勝つ必要はない。そもそもカブもロイたちが現状、レックウザに勝てるとは思っていないのだ。今回のバトルでは成長と覚悟を示せれば情報は得られる筈だ。
「只今より、タッグバトルを開始する。使用ポケモンは1人1体ずつ、どちらかのポケモンが2体とも戦闘不能になった時点でバトル終了だ」
ジンの説明を聞き、4人は頷くことで了承する。
「それでは……バトル開始!」
「ホゲータ!『かえんほうしゃ』だ!」
ジンの合図とともに先手必勝とばかりにホゲータはマルヤクデに『かえんほうしゃ』を放つがマルヤクデはその場から動かず、正面から『かえんほうしゃ』を受け止める。しかし、マルヤクデには全くダメージが入っていない。
「効いてない!?」
「マルヤクデの特性は『もらいび』、炎技は効かないよ」
「えぇっ!?」
自分たちの得意技が効かない事を知りショックを受けるロイとホゲータ。相性が悪いどころではない。ここまで来ると最悪の相手と呼んでも過言ではないかもしれない。
(……ロイの弱点が1つ増えたな)
新たに発覚したロイの弱点、それはポケモンに対する知識量の少なさだ。ポケモンの事は好きなようだがそれにしても知識がなさすぎる。最低でも技を無効にする特性程度は把握しておかなければ今後に差し支える可能性が大いにあった。
(フリードに協力を頼んで座学の時間でも作るか……)
通常のトレーニングだけでなく、座学の時間まで追加される計画がロイのあずかり知らない所で着々と進行しつつあったが、当然本人は気づかずにバトルは進んでいく。
「だったら……ニャオハ!『このは』鋭く!狙い撃って!」
ホゲータの炎技が効かないと分かると今度はニャオハが鋭くした『このは』をマルヤクデに向かい、発射する。相性の悪いマルヤクデには大したダメージにはならないが、同じ個所に複数回撃ち込まれたことで僅かばかりではあるが傷をつけることに成功する。
「ほぅ、相性の悪いマルヤクデにダメージを与えるか。なかなかやるね……ならば、今度はこっちの番だ。『かえんぐるま』」
マルヤクデは体を丸め炎を身に纏いながら回転し始めるとホゲータ、ニャオハに向かって動き出す。
「ホゲータ!『じだんだ』!」
迫りくるマルヤクデを前にホゲータは地面を何度も踏みつけ、その衝撃で岩を弾き飛ばし抵抗しようとする。
「右に回避だ!」
カブの咄嗟の指示でマルヤクデは岩を回避するが、その影響で僅かではあるが時間を稼がれてしまう。マルヤクデは大きく迂回しながら再び、ニャオハとホゲータに迫るが2体は同時に背後に大きくジャンプする事で『かえんぐるま』を回避した。
「ニャオハ!『つめとぎ』!」
ただでさえ相性が悪いのだ。少しでも能力を上昇させなければ決定打となるダメージは与えられないと考え、ニャオハは『かえんぐるま』を回避すると空中で爪を研ぎ、自身の攻撃と命中率を上昇させる。
「『むしくい』!」
『かえんぐるま』を躱されたマルヤクデはすぐさま体を元の状態に戻すと2体に向かって飛びつき、『むしくい』を発動する。間一髪のところで2体は直撃を回避する事に成功するが、『むしくい』で壊されたフィールドの破片が突き刺さり、ダメージを負っている様だ。
「ロイ!カウンター行くよ!」
「うん!ホゲータ!『かみつく』!」
「ニャオハ!『とっしん』!」
「『かえんぐるま』」
ニャオハとホゲータが一気に攻め入るが、マルヤクデは『かえんぐるま』を発動し体を炎で包む。そこに突っ込んでしまった2体は逆にはじき返され大きくダメージを負ってしまった。
「す、凄すぎて入っていけないっす……」
タッグバトルでありながら、ワカバとタンドンは未だに何もしていない。というよりも出来ない様だ。カブはもとよりリコとロイの実力もワカバよりも上、今、不用意に参戦しても足を引っ張る事が嫌でも理解できてしまったらしい。
「どうした?ぼくのマルヤクデに勝てないようでは、レックウザのゲットなど不可能だよ」
カブの言葉を受け、ロイの視線が先程よりも鋭くなる。カブの言うことは正しい、この程度で倒されてはレックウザには届かない。それが理解できるからこそ悔しさも強く感じている様だ。
「リコ!連携プレーで行くよ!」
「うん!『このは』いっぱい!マルヤクデの視界を奪って!」
ニャオハは先程と違い、大量の『このは』を発生させマルヤクデの上半身を包み込む。『つめとぎ』の効果もあり『このは』の威力は上がっている。最低でも数秒はマルヤクデの視界を奪うことに成功した。
「今だ!『たいあたり』!」
「『でんこうせっか』!」
この機を逃すまいとニャオとホゲータは追撃を仕掛けようとする。ホゲータは真っすぐに正面から向かい、ニャオハはジグザクに動きながらマルヤクデに迫る。
「……真っすぐ『かえんほうしゃ』!」
未だに視界が戻らないマルヤクデにカブは攻撃の指示を出す。2体同時に当てるのは不可能だと判断し素早いニャオハではなく正面にいたホゲータに狙いを絞った様だ。マルヤクデの『かえんほうしゃ』は『このは』を打ち消し、そのままホゲータを吹き飛ばすが代わりにニャオハの『でんこうせっか』をわき腹にくらってしまう。
(片方だけでも攻撃を当てられるように二手に分かれたのか。咄嗟にしては悪くない連携だ……)
しかも、能力が上昇したニャオハの『でんこうせっか』が命中したことでマルヤクデにはそれなりのダメージが入った。ここまでのダメージを総量すればなかなか奮闘していると言えるだろう。
(だが……)
出来る事ならば今の一撃で倒す、そこまで行かなくてもせめて動きを封じる程度のダメージを入れたい所だった。あの程度ではマルヤクデを倒すことも止める事も出来ない。
『かえんほうしゃ』で吹き飛ばされたホゲータも攻撃を終えたばかりのニャオハも数秒間は次の攻撃に移れない。その数秒間でマルヤクデは失われていた視界を完全に取り戻すことに成功してしまったのだ。
(……まずいな)
「マルヤクデ!『ほのおのムチ』!」
目を開いたマルヤクデはニャオハに狙いを定め炎状のムチを作り出し振るう。ムチはニャオハにぶつかりダメージを与えるだけでなく足に絡みつき動きを封じてしまった。
「叩きつけろ!」
マルヤクデは『ほのおのムチ』で捕らえたニャオハを空中に勢いよく上げると、その勢いのまま未だに倒れていたホゲータの上に叩きつけられる。その瞬間、強い衝撃音と共に煙が発生し2体を包み込んだ。
「ニャオハ!?」
「ホゲータ!?」
煙が晴れると、そこにはボロボロになりながらも立つニャオハと片膝を突いたホゲータの姿があった。ニャオハはホゲータがクッションになった様で辛うじて無事ではあったが、かなりのダメージを受けており、ホゲータに関しては満身創痍でいつ倒れてもおかしくない程のダメージ量だ。
(……そろそろ限界か)
ニャオハはともかくホゲータは本当にそろそろ危険な領域に入り始めている。無理をさせずにここで終わらせるという選択を審判として出そうかジンが悩み始めると聞き覚えのある歌が聞こえ始めた。
「♪ホッホッホホゲ ♪ホッホッホホゲ ♪立ち上がれ~ ♪負けるなホゲータ頑張れ~ ♪思い出せ~ ♪負けるなホゲータ頑張れ~ ♪立ち上がれ~ ♪負けるなホゲータ頑張れ~ ♪思い出せ~」
「ほ……ホンゲェェェェェェェ!」
ロイの歌を聞くと、先程まで片膝を突き倒れかけていたホゲータは再び目に炎を宿し、頭上の2本の黄色の炎のエネルギーは強く輝きだし雄叫びと共に立ち上がった。
「ふっ……マルヤクデ!『かえんほうしゃ』!」
ロイとホゲータの熱い闘志を見たカブは一瞬だけ、笑顔を見せる。しかし、それもつかの間の事だ。すぐさま勝負の顔に戻すとマルヤクデにとどめを刺すように指示を出す。
「ホゲータ!全力で撃って!『かえんほうしゃ』!」
「ホッッッッゲェェェェェェェ!」
マルヤクデの『かえんほうしゃ』が迫る中、ホゲータもまた自分の放つことのできる最大級の炎を口から発射し迎え撃とうとする。
(これは!?)
ホゲータの口から放たれたのは『かえんほうしゃ』ではなかった。その炎は口から出た瞬間に大という形に姿を変えていく。ホゲータが使ったのは『かえんほうしゃ』さえも超える威力を持つ炎タイプの技『だいもんじ』だ。
「まさかっ!?」
流石のカブもここでホゲータが『だいもんじ』を使うことは予測しいなかった様だ。今更、指示の変更も間に合うはずもなく『かえんほうしゃ』と『だいもんじ』はフィールドの中央で激しくぶつかり合う。
「………」
当初は驚いた様子を見せていたカブだが、一瞬で自分を律し冷静さを取り戻した。『だいもんじ』には驚きこそしたが、カブには焦る必要は全くないのだから。
(……どうする気だ?)
『だいもんじ』は『かえんほうしゃ』を押していき、どんどんマルヤクデに迫っている。しかし、特性『もらいび』によってマルヤクデはダメージを負うことはない。それどころかこのままでは更にマルヤクデを強くさせるだけだ。
「今だ!ホゲータ!突っ込め!」
『だいもんじ』が『かえんほうしゃ』を打ち破ろうとした正にその瞬間、ホゲータは自身の放った『だいもんじ』に重なるように突撃する。
「なにっ!?」
「『かみつく』!」
ホゲータは『だいもんじ』の炎を自ら纏い、その威力と勢いを利用し一気に接近すると渾身の力でマルヤクデの腹部に噛みつき始める。
(……ユニークな発想だ)
今のホゲータの『かみつく』は間違いなく過去最高の威力を誇っている。実際にマルヤクデはかなりのダメージを受け、ホゲータの牙は深く刺さりマルヤクデがどれ程暴れても簡単には抜けないだろう。
(だが……)
「惜しい……技の選択肢を間違えたね。『かえんぐるま』!」
「っ!?ホゲータ!離れて!」
マルヤクデは体を丸めると炎を纏う。ホゲータは慌てて離れようとするが深く刺さった牙が邪魔をして、直ぐに離れる事が出来なかった。
その時間が勝負を分けることに繋がってしまう。マルヤクデは『かえんぐるま』を発動し、フィールド上を駆け抜けた。腹部に噛みついたままのホゲータはその回転に巻き込まれ何度も轢かれ続ける。
「ホゲータ!?」
暫くして、マルヤクデはようやく動きを止めた。それと同時に腹部に噛みついていたホゲータはマルヤクデから離れフィールドに倒れ込む。注意深く見るとホゲータは両目を回し、完全に意識を失っていた。
「……ホゲータ戦闘不能!」
ジンのコールと共にロイはホゲータの元に走り出した。ダメージもありケガも追っている様だが、適切な治療をすれば問題ない事を確認するとホゲータを抱きしめる。
「凄いよ!『だいもんじ』なんて!今まで一度も出来なかったのに」
(確かにな……)
火事場の馬鹿力とでも言えばいいのか、実戦のこの場面で新たな新技を覚えたホゲータのポテンシャルはこの場にいる全ての者が素直に認めていた。
「ホゲータ君は戦闘不能か……では、ワカバ君、リコ君とのバトルは任せるよ」
「……えっ?」
ここまで完全に2対1のバトルが続き、完全に蚊帳の外であったワカバはカブの突然の申し出に一瞬、反応が遅れてしまう。
「ジムトレーナー試験だと思って頑張って欲しい」
「……はいっ!承知したっす!」
3人のバトルにレベルの差を感じてはいたが、ニャオハはかなりダメージを負っている。今ならば倒すことも決して不可能ではない。そう自分に言い聞かせ、ワカバは気合を入れなおし勝負をかける。
「リコさん!勝負っすよ!」
「う、うん……」
(……これで確認できる)
ニャオハは確かにダメージを負っているが、それでもレベル差も大きく普通にバトルすればリコとニャオハが勝つというのがジンの見立てだ。勿論、ワカバが予想以上の力を発揮して勝利するという可能性も捨てきれないがその可能性はかなり低いだろう。
(もし、この状況でリコが負けるとしたら……)
「いくっす!タンドン『うちおとす』!」
「『うちおとす』を撃ち落とす!『このは』!」
先手を取ったタンドンは空中に自身と同じほどの大きさの岩を発生させ攻撃しようとするが、ニャオハの『このは』により岩は破壊され、『このは』はそのままタンドンを包み込んでいく。
「っ!?なら……『こうそくスピン』!」
タンドンは『こうそくスピン』で体を回転させると『このは』を打ち消すことに成功する。そして、そのまま反撃に移ろうと回転したままニャオハに接近していく。
「躱して!『このは』鋭く!」
タンドンの攻撃を全て回避したニャオハは『このは』を鋭く尖らせて反撃に移った。放たれた『このは』は『こうそくスピン』で回転するタンドンに命中し、弾き飛ばす。
(……実力に差がありすぎる)
分かっていた事だが、一方的な展開になってきた。レベル差もあり、タンドンの様子から見て草タイプに有利となる炎技も恐らくまだ覚えていない。ここまで来ると、もはや根性や気合でどうにかなる話ではない。状況を覆すほどの策略かホゲータの様に新技でも使わない限りワカバが負ける事は決定的だ。
「よし!ニャオハ、もう一度!」
「……負けられないっす!必ず勝って!ジムトレーナーになるっす!」
再度、攻撃を仕掛けるように指示を出そうとしたリコだがワカバの決意の籠った叫びを聞き、指示が止まってしまう。
(……リコ)
「ニャオハーッ!ニャーッ!」
「……あっ」
ニャオハの声を聞き思考を取り戻したリコだが、タンドンは既に体勢を立て直し追撃のチャンスはなくなってしまった。タンドンは再び、『こうそくスピン』で迫るがニャオハはこれを華麗な身のこなしで回避する。
「待って!……私の負けです」
「「えっ?」」
リコの突然の降伏宣言を聞き、ジンとカブは厳しい視線をリコに向けるがワカバとロイは戸惑いと疑問の声を上げる。誰の目から見てもこのバトルは相性、レベル、トレーナーの実力、全てにおいてリコとニャオハの方が有利なのだ。
「あの……どういう事っすか?」
ワカバも負ける気はさらさらなく勝つと意気込んではいたが、それでも自分が不利であるという事は理解していた。だからこそ、なぜこのタイミングでリコが敗北を宣言したのか理由が理解できない様だ。
「えっと……さっきのトレーニングでニャオハも疲れてるだろうし、マルヤクデの攻撃で結構、ダメージも受けちゃったからこのままバトル続けても……」
「わざと負けるって事っすか……最後までバトルせず、負けてやるって事っすか?」
リコの言い分はワカバを納得させるものではなかった。確かにダメージはそれなりに大きい。だが、ニャオハは今も何度もその場でジャンプし自分はまだやれるとアピールしている。これで納得する事ができる者は存在しないだろう。
「そんなつもりじゃ……」
「それでジムトレーナーになれたって……そんなの嬉しくないっす!夢は自分の力で叶えなきゃ意味ないっす!」
ワカバは勝利を譲られた悔しさから拳を強く握りしめ肩を震わせるとタンドンをフィールドに残したまま、その場から走り去っていく。リコとそして置き去りにされたタンドンは咄嗟の事にどう言えば、どんな対応をすればいいのか分からず戸惑っていた。
(……こうなったか)
どちらにしろ、この状態ではもうバトルの継続はできない。ジン、そしてカブはそれぞれ審判とトレーナーゾーンを離れリコの傍へと近づいて行く。
「リコ君……ロイ君とのトレーニングの時も躊躇いがあったね」
「……私が?」
リコの脳内に先程までのトレーニングルームでの出来事が思い出される。指摘を受け冷静に振り返ってみればトレーニング中でも今のバトルでも躊躇い、チャンスをみすみす逃していた場面が何度か見られたからだ。
「やっぱり、無意識だったか……」
「えっ!?……ジンも気づいてたの?」
「お前は分かりやすいって、いつも言ってるだろう?大方、自分が勝つ事よりもロイやワカバの気持ちを大切にしたくなったって所だろうな」
ジンに自分の内情を自分以上に理解されている。普段ならば嬉しく感じるかもしれないが、今はそんな気にもなれなかった。
「分かっているとは思うが、敢えて言うぞ。お前のしたことは真剣にバトルに向き合い、勝利の為に懸命に頑張っていたワカバに対する侮辱だ」
「っ!?」
「ポケモンバトルは勝負の世界だ。勝者がいれば敗者がいる。ワカバはそれを理解した上でそんな世界に身を置こうとしている。そんな奴がわざと負けて勝利を譲られて喜ぶと思うか?」
先程のワカバの姿を思い浮かべれば答えるまでもない。リコのした行いは善意に溢れたものであったが結果的に彼女の事を傷つけるだけに終わってしまった。
「それに、ワカバだけじゃない。お前と一緒に傷だらけになっても立ち上がり、バトルを続けようとしたニャオハの気持ちは考えなかったのか?」
「あっ……」
効果抜群である炎技を受け体中に傷を作りながらも立ち上がったニャオハ、そんなニャオハの頑張りさえもリコは無駄にしてしまったのだ。
「ニャオハ!ごめん……ごめんね」
対戦相手であるワカバにパートナーであるニャオハ、学園にいた頃から強くなるために何度も特訓に付き合ってくれたジン、自分の行動の結果が皆を傷つけてしまった。ジンやカブに指摘され、リコは自分が間違った行動を取ってしまったのだと本当の意味で理解する。
「……ジン……私……」
「……ワカバはまだ近くにいるぞ」
「え……」
「俺達には話す時間がいくらでもある。だから行ってこい」
「……うん。行って来るね」
***
ブレイブアサギ号の展望室の入り口付近、そこでリコは傍らで眠るニャオハと共に星空を眺めていた。あの後、リコはワカバに謝罪し無事、和解する事ができたが心のわだかまりは完全には消え去ってはいなかった。
『何もバトルに勝つばかりがトレーナーの道とは限らない。トレーナーの数だけ道はあっていい筈だ。君が信じられる。君だけの道を見つければいいと思うよ』
カブはレックウザがガラル鉱山に向かったという情報と一緒にこんなアドバイスをリコに送ってくれた。リコの優しい性格を考えれば、適切なアドバイスと言える。
(私だけの道……でも、それじゃあ……ジン……)
しかし、リコの心は複雑な想いで占められていた。そんな時、展望室の扉が開き、中から自分のよく知る人物が顔を見せる。
「部屋にいないと思ったら、やっぱりここか……隣座るぞ」
突如、現れたジンはリコの許可を待たずに隣へと腰かける。
「……カブさんに言われた事、悩んでるのか?」
「……ジンは何でもわかるんだね」
「何でもは分からないよ。分かるのはリコの事だけだ」
「ふふ……本当に?」
「あぁ、本当だとも。その証拠にリコが何をそんなに悩んでるのか当ててやるよ」
「……どうぞ」
「じゃあ、遠慮なく………カブさんの言いたいことは理解できる。だけど、そんな事をしたらここまで何度も自分たちの特訓に付き合ってくれたジンに対する裏切りになるんじゃないか……そんな所か?」
「………」
反論の余地もない程に正解だった。今回の事で自分にはバトルが向いていないんじゃないか。リコはそう思い始めていたのだ。だが、それを認めればジンが今まで自分に付き合ってきた時間さえも無駄になってしまう。リコはどうしてもそれだけは認めたくなかったのだ。
「……はぁ……真面目すぎるだろう。そんな事は気にしなくていいんだよ」
「で、でも……」
「俺が学園にいた頃、お前たちに手を貸したのはリコがニャオハと本当のパートナーになろうと頑張ってたからだ。その過程で弟子みたいな存在になっただけで、ジムに挑戦して欲しいともポケモンリーグに出て欲しいとも思ったことも一度もない」
リコにはトレーナーの才能がある。ポケモンリーグに挑戦すれば面白い所まで行けるかもと思った事はあったが、道はあくまでもリコ自身が決める事だ。無理強いする気などジンには最初からない。
「リコ……お前は優しい子だ。トレーナーの才能はあってもシビアに勝ち負けを競う競技者には向いていない。出会った当初から、なんとなくそう思ってたよ」
競技としてポケモンバトルを行い勝利するということは、どれだけ綺麗事を並べても相手のここまでの努力や夢を踏み潰すという事だ。自分よりも他者を重んじる性格のリコには競技者の道は向いていないのかもしれない。
「……そう……なんだ」
ジンはリコの肩に手を回すと自分の方に抱き寄せる。華奢な体はジンの体にすっぽりと収まった。
「……悪かったな」
「え……」
リコは急な事で一瞬、悲鳴を上げそうになったが開口一番にジンからの謝罪に戸惑ってしまう。
「俺がもっと早くにこの事を伝えるべきだった。そうすれば今回みたいなことは起きなかったかもしれない」
「そ、そんな事!?」
「あるんだよ。俺は気づいていたのに時間が経てば何か答えが見つかると思って放置した。その結果がこれだ。責任がない筈がない」
リコがこれまでにバトルした相手はジンたちライジングボルテッカーズの仲間以外だと野生のポケモンやエクスプローラーズの様な敵のみ。だからこそ、ここまで浮彫にはならなかったが本来はもっと早くに対処すべきだった。
「不甲斐ない師匠だな……本当にすまない」
「ジン……」
「だから、もう一度言うぞ。俺の事なんて気にしなくていい。リコが進みたいと思う道を進んでくれ。たとえどんな道を選んでも俺だけはお前の味方だ」
ジンの言葉はリコの胸に確かに届いた。先ほどまでの心の中に沸いていたモヤモヤは既に消え去り、不思議な程にすっきりとしている。
「ありがとう……でも、私……まだ、自分の道が分からなくて……」
「ゆっくり探せばいいさ。世界は広い。旅を続ければいつか必ずリコだけの道が見つかる筈だ」
「……半分いいかな」
「ん?」
「私、まだそんなに自分に自信が持てないの。だから……ジンの自信を半分だけ貰ってもいい?」
「甘えん坊め……好きにしていいぞ」
その言葉を最後にジンとリコは見つめ合うと、どちらともなく互いに徐々に顔を近づけ、唇を重ね合わせる。
2人のその姿は夜空に輝く星たちと、ジンが来た頃から、ちゃっかり目を覚ましていたが空気を読んで寝たふりを続けていたニャオハだけが見ていた。
今回は、ホゲータに『だいもんじ』を覚えさせたけどそろそろ進化させるしかないかな……公式はニャオハやホゲータを進化させる気あると思います?
☆9
スクイッドさん、クレイトスさん
高評価ありがとうございます
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