ポケットモンスター 新たなる冒険   作:malco

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なんとか間に合った……今回、今までで一番大変だったかもしれないです。

まだ、アニポケで触れられていない進化について少し独自解釈も入っているためご注意下さい


ミブリム

 

 エンジンシティでカブから情報を貰った翌日、マードックが朝食の準備を進める中、ジンとロイは日課でもある早朝トレーニングに勤しんでいた。ウイングデッキにはホゲータとボスゴドラが対峙している。

 

「ホゲータ!『だいもんじ』!」

 

 ホゲータは大きく体を振りかぶり体中に宿る炎のエネルギーを集中させる。それから5秒程の時間を置くと口から大の文字の形をした炎を発射した。

 

「受け止めろ!」

「ゴドォッ!」

 

 ボスゴドラは迫りくる『だいもんじ』を両腕を前に突き出し受け止める体勢を取る。やがて両腕に到達した『だいもんじ』の熱さに耐えながら掴み取ると空に向かって投げ飛ばす。『だいもんじ』は空中で大から中、そして小と形を変えていき最終的には消え去った。

 

(威力は申し分ない。だが、溜めが長すぎるな……)

 

 『だいもんじ』は威力があるが、今のホゲータでは放つまでに時間がかかりすぎる。邪魔が一切入っていないこの状況でも5秒ほどのチャージ時間を要しているが実際のバトルでは疲れや相手の邪魔が入る事なども考慮すると実戦では倍の10秒程はかかると想定しておいた方がいい。

 

 そこまで時間が必要となると、相手の動きを止めるなど相当上手くやらなければ『だいもんじ』は使用できない。それどころか使いどころを間違えれば相手に付け入らせる隙になる可能性すらあった。

 

(だが、進化すれば……)

 

 ホゲータが進化すれば体の大きさ・能力値も上昇し、『だいもんじ』の溜めも少なくなる。覚えられる技の種類も増え良いこと尽くめだ。

 

 だが、ロイのホゲータにはある厄介な問題も存在する。

 

(……やっぱり話しておくべきか)

 

 いつか解決できるかもしれない。そう思いリコの問題を先送りにし、その結果、余計にリコを傷つける事になってしまった。ジンとしても同じ過ちを繰り返すことはしたくない。その為、安易に未来に託すのではなく今の内に話すべき事は話しておくべきだと考えたのだ。

 

「………ここまでにしよう」

「え……もう?まだかなり時間あるけど?」

「今日はガラル鉱山まで行くんだろう?体力は残しておいた方がいい」

 

 カブの情報通り、レックウザがいるのかは不明だが有事に備えた方がいい。これまでのパターンから考えて何かしらの事件に巻き込まれる可能性は大いにあるのだから。

 

「……ホゲータの事で話しておきたい事もあるしな」

「ホゲータの事?」

「ホンゲ?」

「あぁ、ホゲータは『かえんほうしゃ』に続いて『だいもんじ』まで覚えた。レベル的に考えても進化はそう遠くない内に起こると思う」

 

 レベルだけならば恐らく進化の条件を満たしている。ホゲータ、それにニャオハなどの場合、何か切っ掛けさえあれば進化する事が可能な筈だ。

 

「進化!?」

「ホゲゲ!?」

 

 進化という単語を聞くとロイとホゲータは目を輝かせ始める。その様子を見てジンは少しだけ複雑そうな顔をしながらスマホロトムを取り出すと、ある2体のポケモンのページを開く。

 

 1体目は、体が全体的に少し大きくなり頭から漏れ出る炎エネルギーは拡張しタマゴ状の火玉がソンブレロ帽子の様な形となった。ホゲータの最初の進化した姿、ほのおワニポケモンのアチゲータ。

 

 2体目は、頭頂部が燃え尽き、骸骨を彷彿とさせる姿となり手足はそのままに口・胴体・尻尾が長く伸び、ワニの様な体型となっている。更に一番の変化として胴体が伸びた事でこれまでと違い四足歩行へと変化した。シンガーポケモンのラウドボーン。

 

「これがホゲータの進化した姿だ」

 

 ロイはスマホロトムに映る2体を変わらず、目を輝かせて見ている。しかし、当の進化するホゲータには先程までの元気が見られない。

 

「ホゲータ?どうしたの?」

「……ホゲェ」

「……やっぱり、イメージとちょっと違ったか」

「え?え?どういう事?」

 

 ロイは分かっていない様だが、ホゲータはリザードンにとても強い憧れを抱いている。いつかは自分もリザードンの様になりたいと思い続け、ジンから出される厳しい特訓にも耐え力も付けてきた。

 

 だが、進化した先の姿はリザードンとはまるで違う。竜の様な姿で翼を持ち空を自在に飛ぶ事が出来るリザードンに比べてラウドボーンは翼もなく四足歩行で少々、鈍足な印象も受ける。自分の思い浮かべていた理想との現実のギャップを感じてしまっても仕方ないだろう。

 

「……そんな感じか?」

「………」

 

 ジンの予想は当たっていたようでホゲータは無言ではあったが、首を縦に振り肯定している事を表現する。

 

「ホゲータ……」

 

 ジンの説明とホゲータのその姿を見てロイもようやくホゲータの気持ちが理解できたようだ。しかし、ロイにはその悩みは理解出来ても解決する方法が分からない。この先、どれだけ頑張ろうともホゲータは進化しても翼は生えず空を飛ぶことも出来ないのだから。

 

「……聞きたくないかもしれないが、はっきり言うぞ。ホゲータ、お前はリザードンの様にはなれない」

「ジン!?」

 

 落ち込んでいるホゲータに追い打ちをかける様な事を言い始めたジンに対しロイを非難するような声を上げる。しかし、ジンはロイに手を向け話はまだ終わってないと制止する。

 

「だが、ラウドボーンになってそれに相応しいバトルの仕方を身に付ければリザードンを超えることだって不可能じゃない。俺はそう思ってる」

 

 ジンの言葉を聞き、ずっと下を向いていたホゲータは顔を上げ始めた。リザードンを超えられるという言葉はホゲータにとって無視できるものではない様だ。

 

「確かに、ラウドボーンは素早さではリザードンには劣るかもしれない。だが、その代わりリザードンにはない防御力と耐久力がある」

 

 リザードンが攻撃・特攻のバランスのいい高速アタッカーだとするならラウドボーンは特攻・防御・耐久に優れた重戦車と言えるだろう。

 

「防御力や耐久力が優れている相手がどれだけ厄介なのかは、ボスゴドラやミロカロスを知っているお前なら理解できるよな?」

 

 ホゲータはジンにそう問われ、今までの特訓の日々を思い出す。2体ともタイプ相性で有利とは言えない相手だったが、自分の技を何度受けても平然としているその姿には恐怖さえも抱いたほどだ。ジンの問いにホゲータは首を縦に振る。

 

「相手の攻撃を耐えて、耐えて、渾身の一撃を相手に加える。リザードンと違って泥臭いかもしれないがこのバトルスタイルを極めればリザードンにだって勝てるかもしれない」

 

 これは嘘偽りのないジンの本心だ。ホゲータの憧れるリザードンとは違うスタイルかもしれないがラウドボーンにはこのスタイルが合っている。そのスタイルを身に着けた先に勝機も見えてくる。ジンにはその確信があった。

 

「「………」」

 

 望んでいた進化とは違ったかもしれない。だが、自分たちなりに強くなれる道は存在するとジンに示されロイとホゲータは真剣な顔でこれから先の自分たちの未来について考え出す。

 

「まぁ、進化と言っても今日や明日、いきなりするって訳じゃない。まだ多少は時間がある。いずれ来るその時までにどうしたいのかを考えておいてくれ」

 

 

 

***

 

 

 

 トレーニング後、朝食を食べリモート授業などを受け終えるとジン・リコ・ロイ・フリードの4人はガラル鉱山へと向けて出発した。

 

「暫くは山道だな。3人とも平気か?」

「うん!レックウザが待ってるかもしれないんだもん!」

「ホンゲェッ!」

 

 今朝のトレーニングでの出来事もある為、ジンは当初、ロイとホゲータの事を心配していたがどうやら必要なかったようである。ジンがリモート授業を受けている間に両者で今後の事について、しっかり話しあっていた様だ。

 

 ホゲータには今でもまだリザードンに対する強い憧れや進化に対する葛藤がある。だが、ありのままの自分を受け入れ、強くなるために追いつき追い越すために邁進する。それが2人の出した答えの様だ。

 

(……強いな)

 

 初めて会った時に比べ、ロイもホゲータも強くなった。肉体的な意味だけでなく心がである。ジンは2人の成長に思わず笑みをこぼしながらその姿を微笑ましそうに見ていた。

 

「………」

 

 だが、それとは逆にリコはそんなロイたちの姿を見ながら何かを考えだし、俯き始める。

 

「リコ?どうした?」

「え?」

「さっきから下を向いてるけど、疲れたのか?」

「ううん。大丈夫……ちょっと考えてたの。私って、どんなトレーナーになりたいのかなって」

「あぁ、その事か。なんでもいいんだよ。トレーナーって言っても色んな奴がいる。俺みたいにチャンピオンを目指してもいいし、ロイみたいに伝説のポケモンを追い求めてもいい、フリードたちみたいに未知なる何かを求めて冒険をするってのもありだ。昨日も言ったけど、ゆっくり、リコなりのペースで探して行けばいいさ」

「……うん。そうだよね。ジン……ありがとう!」

「2人共!早く早く!置いてっちゃうよ~~!」

 

 2人が話している間にロイたちはどんどん先を進んでいたようで、いつの間にかかなりの差がついていた様だ。その事に気づいたジンとリコは慌てて追いかけ始める。

 

「あれ?」

「分かれ道か……どっちに行けばいいんだ?」

「う~ん……こっち!」

 

 どっちに進むべきか悩んでいるとロイが特に細かい事は考えず、右を選択し走り出す。

 

「あっ!ロイ!そっちで大丈夫なの?」

「分かんない時は取り合えず、進めば分かるよ!」

「……一理あるな」

「まぁ、間違えてたら戻ってもう1つの道を行けばいいさ」

 

 ジンとフリードもロイに続いて右の道を進みだす。勘だけで進む事にリコは少し不安を感じた様だが、ここに1人残っても仕方がないため3人に続いて歩き始めた。

 

 それから約10分後……

 

「急げ!逆のルートに戻るぞ!」

 

 道は完全に間違えていた。それだけでなく突如として、雨までも降り始めるという散々な結果となってしまう。

 

「反対の道を選べばよかった……」

「気にするな。こういう時の2択は大抵、外れるって相場が決まってるんだよ」

 

 ちなみにジンは地図もなく道に迷った時の2択で正解を選べた事が殆どない。原理は不明だが、謎の力が働き反対の道を選んでしまうのだ。そして事件に巻き込まれる所までがセットなのだが、今回は雨だけで済んだ。ジンの価値観から見ればかなりついている方である。

 

「予報じゃ晴れだったのに雨まで降るなんて~」

「山の天気は変わりやすいからな。ふむ……スマホロトムをタブレット型にすれば傘代わりに……なる訳ないか」

「当たり前だよ!さすがに壊れるって!」

「3人ともお喋りはそこまでにしてちゃんと走れ!山小屋まで急ぐぞ!」

 

 フリードにせかされた面々は急ぎ、先程とは反対側のルートを走っていく。走り出して暫くすると一軒の山小屋が見えてきた為、4人は急いで入り込んだ。

 

「お邪魔します」

「誰もいないのかな?」

「山小屋は皆のものだ。こういう非常時には誰が使ってもいいんだよ」

「そういう事だ。しかし、暫くはやみそうにないな」

 

 外の雨は勢いが強くやみそうな雰囲気が全くない。このまま進めば雨に濡れて余計に体力を消耗してしまうのは明らかだ。ロイはその事に不満そうではあったが、どうする事も出来ない為、暫くここで休むことに同意する。

 

「ニャオ?」

「ニャオハ?どうしたの?」

 

 そんな中、山小屋の室内にあった1つの木箱をニャオハが弄り始める。ニャオハの行動に疑問を持ったリコが様子を見に行くとその中には1体のポケモンが入っていた。

 

「ミブリムだ。こんな所にいるなんて珍しいな」

「ミブリム……ガラル地方のポケモンか。初めて見るな」

 

 ジンはミブリムについての詳しいデータを見る為にスマホロトムを取り出す。

 

『ミブリム おだやかポケモン エスパータイプ 生き物の気持ちをキャッチする 強い感情を浴び続けるとくたびれてしまうため要注意』

 

「強い感情って何だろう?泣いたり、怒ったり?」

「傍で泣いてる人がいたら悲しくなるみたいな事かな?」

「まぁ、そんな感じだ。でも、なんか少し様子が変だ……見た所、ケガはしてない。状態異常って訳でもなさそうだし……ふむ……」

 

 ジンは簡単にではあるがミブリムの様子をチェックするが特に異常は見受けられない。一見問題なさそうに見えるが、第六感の様な物がミブリムをこのまま放置するのは危険だと叫んでいた。そして、それを感じ取っていたのはジンだけではない。

 

「ごめん。皆、私、船に戻る」

 

 ジンと同じくリコもこのミブリムは何か問題を抱えていると気付いたようでミブリムを抱きかかえ始める。

 

「モリーに診てもらうのか?」

「うん。このままにしておけないよ」

「……分かった。なら一緒に行こう」

 

 ジンはポケットからサーナイトの入ったモンスターボールを取り出し外に出した。この雨の中、走って戻るよりも『テレポート』を利用して帰る方が遥かに安全で早い。そう判断したためだ。

 

「俺とリコは船に一旦、戻るけど2人はどうする?」

「……どの道、この雨じゃ探索も無理だしな。ロイもそれでいいか?」

「もちろんだよ!早く戻ろう」

「よし!サーナイト、船まで『テレポート』を頼む」

「サナッ!」

 

 

 

***

 

 

 

 サーナイトの『テレポート』でブレイブアサギ号に帰還したジンたちはそのまま山小屋で発見したミブリムを医務室に運び、モリーに診察をしてもらった。

 

「ふむ……ジンの見立て通り、ケガや状態異常ではなさそう」

 

 船医でありポケモンドクターの資格を持つ彼女から見てもミブリムに外傷の様のものは発見されなかった。しかし、ミブリムは変わらず一声も発する様子も見られない。

 

「そうなると……心の問題かもね」

「心?」

「あぁ、人間だってそうだろう?体はどこもおかしくないのに元気が出なかったりするときがある。それと同じだよ」

 

(厄介だな……)

 

 外傷や病気であれば治療で治る可能性もあるが、心の問題は簡単には解決しない。そもそも明確な解決方法がないのだ。ポケモンドクターであるモリーであろうともそれは変わらない。

 

「リコ……お前にその気があるならミブリムの面倒を見てやってくれないか?」

「え?私が?」

「いいんじゃない。誰かが傍にいてくれる。それだけでもミブリムの助けになるかもしれない。私も賛成だよ」

「あぁ、それにここまで連れてくるときもミブリムには嫌がる様子が全く見られなかった。多分、リコの傍にいると安心するんだと思う」

 

 更に言えば、ミブリムは山小屋でジンが軽く体に触れた時には何の反応も見せなかったが、リコに抱きかかえられた時には微かにではあるが微笑んでいる姿も見られた。その事から考えてもリコが適任なのは間違いない。

 

「……うん!分かった。ミブリムが治るまで私がお世話するよ。ニャオハも手伝ってね!」

「ニャオハッ!」

 

 こうして、この船にいる間はリコがミブリムの世話をする事が決定した。その後、リコは機関室で乾かしている自分のジャケットを取りに医務室を後にする。

 

「それで、あんたは一緒に行かなくて良かったの?」

「今はね。少し、様子を見ようと思う」

 

 ジンは未だに医務室に残っていた。特に体に異常がある訳ではない。ただ、ミブリムの性質を考えると周りに大勢の人間がいるとそれだけで多くの感情を察知してしまい余計に傷つく可能性がある為、様子見の為に距離を取る事にしたのだ。

 

「何かあったら呼ぶように言ってあるし、それまでの間は部屋に戻って宿題でもやってるよ」

 

 

 

***

 

 

 

「……こんなもんか」

 

 自室へと戻ったジンは溜まっていた宿題に手を付け、今しがたようやく全ての宿題を終えることができた。問題の質はジンからすれば簡単なものだ。一問一答の問題などはそれこそ10分と経たずに終えられるが、作文など一部の課題は正直に言って少し手間取ってしまう。

 

 イスから立ち上がり、体を伸ばすと窓の外を見る。外は相変わらずの雨模様で暫くはこのまま、やみそうにない。

 

「……まぁ、結果的にはよかったかもな」

 

 この雨のお陰でミブリムに遭遇する事が出来た。リコもミブリムの為に積極的に行動を取っている。ミブリムとの出会いは彼女に何か大きな変化をもたらしてくれるかもしれない。ジンには不思議とそんな予感がしていた。

 

「ジン!いる?」

 

 窓の外を見ながら物思いにふけっているとコン、コン、コンと扉をノックされる音に続き、リコが扉の向こうからジンを呼びかける。

 

「入っていいぞ」

「ジン!ミブリム見てない?」

「どうかしたのか?」

「いなくなっちゃったの!」

 

 ジンの許可を得て部屋には行ってきたリコとドットに詳しく話を聞くとリコは機関室を出た後にドットの部屋に向かったそうだ。そこでミブリムについて話しているとほんの少し、目を離したすきにミブリムがどこかに行ってしまったらしい。

 

「ごめん。僕のせいだ……」

「そんな……私もちゃんと見てなかったし……」

「2人共、大丈夫だ。直ぐに見つけるから」

 

 揃ってしょげた顔をするリコとドットを見かねたジンは速やかにミブリムを見つけることを決めると再び、サーナイトをモンスターボールから呼び出した。

 

「サーナイト、ミブリムを探してくれ」

 

 サーナイトはその場で目を閉じるとサイコパワーを集中し始める。かつてニャオハを探すために千里眼で建物1つ分を見通したサーナイトだ。ブレイブアサギ号の中を探すだけであればほんの数秒もあれば探し出せる。

 

「サナッ!」

 

 予想通り、サーナイトは直ぐにミブリムを見つけ出した様だ。それを確認するとジンは目をつぶりサーナイトと視界をシンクロさせる。視界に映った先に見えたものはヨルノズク、望遠鏡のある部屋、見覚えのあるそこは展望室で間違いなかった。

 

「……見つけたぞ。ミブリムは展望室にいる」

「展望室……ジン!サーナイト!ありがとう!」

「どういたしまして。それでどうする?一緒に行ってやろうか?」

「……ううん。私、1人で行って来るよ」

「え……リコいいの?」

 

 ドットとしては自分はともかくジンが一緒の方がリコも安心できるのではないかと考えた様だ。実際、ジンが共にいればリコは安心するかもしれないがミブリムはそうではない。

 

「うん……ミブリムに伝えたいことがあるから」

「伝えたいこと?」

「私ね、この船に来た時、私、不安でいっぱいだった。ジンが一緒にいて守ってくれると思ったから大丈夫だったけど、その後、ニャオハが攫われてまた心細くなった……きっとあの子もあの時の私と同じで凄く心細いんだと思う」

 

 リコは恐らく、この船の中で誰よりもミブリムの気持ちが理解できている。リコが優しいのはもとより潜在的にリコとミブリムには似た所があるからかもしれない。

 

「だから、私もあなたと同じだって……ミブリムの気持ちが分かるから、この船にいる間は私が支えて、明日、元の場所に帰すって伝えたいの」

 

(……もう大丈夫そうだな)

 

 多少の心配はあったが、今のリコを見ればそれが杞憂であったことが窺える。今のリコの心からの言葉であればきっとミブリムにも届く。そんな確信がその場にいたジンとドットにはあった。

 

 その後、ジンの部屋を出たリコは展望室へと向かう。それから、少しするとリコは再びジンの部屋へと戻ってきた。リコのジャケットについているフードで、これ以上ない程にリラックスした表情で眠りについているミブリムを連れて。

 

 

 

***

 

 

 

 翌日、雨も無事に上がった為、ジンたちはレックウザがいると思われるガラル鉱山を目指し始める。それと同時にミブリムを返すために再び、山小屋へと赴いていた。

 

「さよならミブリム、元気でね……」

 

 山小屋に到着するとリコはフードに入っていたミブリムを抱えるとゆっくり地面へと下ろし、別れの言葉を告げる。それと同時にミブリムはそのままゆっくり、森に向かって歩き始めた。

 

「ニャオ」

 

 ニャオハは顔を上げリコの顔を覗き見る。その時のリコの表情は笑っていたが、どこか寂しさを我慢しているようにニャオハには見えた。するとニャオハは突然、走り出しミブリムの前方へと先回りする。

 

「ニャーニャオハ、ニャオ~」

 

 ニャオハがミブリムに何かを語りかける。足を止めたミブリムは暫くニャオハの言葉を聞くと振り返り、リコの元へと走ってくると大きくジャンプし飛びついた来た。

 

「ミブリム……ひょっとして、一緒に来てくれるの?」

「ミミミ~」

 

 ミブリムを優しく受け止めたリコはミブリムの気持ちを察知しそう問いかける。すると昨日、出会った時からずっと喋る事のなかったミブリムが初めて声を出し大きく頷き始めた。

 

「リコ、これを使ってくれ」

 

 背後からその様子を見ていたジンはポケットから空のモンスターボールを取り出しリコへと差し出す。リコはそれを受け取るとしゃがみ込みミブリムへと差し出した。

 

「一歩踏み出してくれてありがとう。これからいっぱい、あなたに嬉しい気持ちを届けるね」

 

 リコはミブリムに感謝の気持ちを伝えた。するとミブリムは差し出されたモンスターボールに自ら触り、ボールの中に吸い込まれていく。ボールがリコの手の中で二度三度揺れると、カチリという音と共に動きを止める。

 

「ミブリム、ゲットです」

「おめでとう。記念すべき初ゲットだな」

「うん!ありがとう……ミブリム出てきて!」

 

 ミブリムはモンスターボールから嬉しそうな声を上げながら出てくると同じくリコのポケモンであるニャオハと握手をし始める。少々、嫉妬深いニャオハではあるがミブリムとは良好な関係を築いていく事が出来そうだ。

 

「ミブリムが心を開くなんて大したもんだ」

「リコじゃなきゃ出来なかったよ」

「あぁ、これはリコの才能だ」

 

 ミブリムの心を開くなんてことは簡単な事ではない。恐らく、ライジングボルテッカーズ内でそれをできるのはリコだけだろう。

 

 ポケモンの知識であればフリードが、バトルの強さであればジンが上かもしれない。だが、リコには誰よりも優しさという強さを秘めている。使い方を誤れば前回の様に人を傷つけることもあるが、今回の様に誰かを助けることも出来る。そんな強さをリコは誰よりも持っている。

 

「あっ……」

 

 ジンたちの言葉を聞き、リコは自分にも得意なことがあるのだと理解する。ミブリムの事を必死に考えていたら、自分の事も少しだけ分かった気がした様だ。

 

「私、ポケモンが好き!もっと、ポケモンの気持ちを知りたい。だから、そんなトレーナーになりたい!」

 

 まだ、少しおぼろげながらではあったがリコは自分だけのトレーナーとしての道を見つけた様だ。その道が、どこに向かっているのかは分からないがニャオハやミブリムと一緒にリコは一歩ずつ歩いて行くのだろう。

 

 こうして新たにミブリムが仲間に加わり、ジンたちは改めてガラル鉱山を目指し歩み始めるのであった。

 

 

 

***

 

 

 

 ジンたちがミブリムを仲間に加えガラル鉱山に向け歩み出した頃、一隻の潜水艦が近海の入り江へと近づいていた。

 

「遂に来たな。ここに黒いレックウザが……」

「苦労して色々な筋から目撃情報を集めた甲斐があったわ」

 

 本部からの支援もなくここまでやり遂げるのは決して簡単な事じゃない。ジルとコニアがここまでの苦労した道のりについて話をしていると扉が開き彼らの上司であるアメジオが現れた。

 

「2人ともご苦労だった。後は俺がやる」

 

 その言葉に2人は衝撃を受けるがこれはアメジオなりの優しさでもあった。本来、任務から外されたアメジオにこれ以上、付き合えば処罰の対象にもなりかねないと判断したからだ。

 

「今更、水臭い事を言わないで下さいよ!」

「そうです!私も引き続き、お供いたします」

 

 だが、ジルやコニアとて酔狂でここまでアメジオに付いてきたわけではない。こんな半端な所で外れるなどという事は彼らにとってもあり得ない選択だ。

 

「……好きにしろ」

 

 2人の意志を尊重し、アメジオもその想いを受け入れる。2人を気遣い1人で行くなどと言いはしたが、この広い鉱山を1人で探すのは些か骨が折れる。信頼でき使える人材は1人でも多い方が任務成功の確率も上昇するのだ。断る理由などない。

 

「アメジオ様、もう1つ報告が……」

「なんだ?」

「はっ……念の為、SNSやネットでガラル鉱山周辺の情報を探っていたのですが、その中に気になる情報が……」

 

 コニアはそう言うとスマホロトムを取り出し、目的のページを開く。そこには『デコレーション』されたニャオハが強烈な『ひっかく』を使用している場面の写真が写っていた。

 

「……まさか」

「はい。バトルカフェと呼ばれる、エンジンシティにある店でそこの店員が撮影した写真の様なのですが、そこにニャオハちゃ……ペンダントの少女とその相棒のニャオハと思われる人物が映っています」

 

 バトルカフェの公式ページ、そこにはその日、店主であるミッチェルとバトルした相手の写真を掲載するという習慣がある。撮影された日時から考えて彼らもまたこの近くにいる事は間違いない。

 

「偶然……じゃないですよね」

 

 アメジオたちはレックウザの情報を頼りにここまで来た。そしてライジングボルテッカーズもレックウザと強い関わりを持っている。そんな両者が偶然、ここで会うなどとは考えづらい。

 

「あぁ、偶然のはずがない」

 

 アメジオは右手を強く握りしめる。その腕には黒いリストバンドが巻かれその中央には遺伝子を思わせる模様の付いた石が装着されていた。

 

「好都合だ。ようやくあいつと戦える……ジン……待っていろ。新たに手に入れたこの力で今度こそお前を倒す!」

 





タグにヤンデレと書いてありますが、ミブリムをゲットしたことで今後はリコの嫉妬を抑えめにさせて行こうと考えています。

☆10
kumaseさん

高評価ありがとうございます

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