ポケットモンスター 新たなる冒険   作:malco

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今回でガラル鉱山は終了です。ここまでお付き合いしてくださり、ありがとうございます!


VSガラルファイヤーpart2

 

 ガラル鉱山の入り口、今、3人のトレーナーとそのポケモンたちが足を踏み入れようとしていた。

 

 そのトレーナーたちはリコ、ロイ、フリードの3人だ。彼らはガラルファイヤーに襲われ、ジンが殿を務めたことでなんとか逃げ出すことに成功しその足でエンジンシティのポケモンセンターでポケモンたちの治療を行うと再び、このガラル鉱山へとやってきていた。

 

「……ジン、大丈夫かな?」

 

 リコたちが鉱山内でジンと別れてから既に数時間以上経過している。それにも関わらず、ジンは未だに洞窟内から出た様子がない。リコとしては心配せずにはいられなかった。

 

「リコ……ジンならきっと大丈夫だよ!」

「ロイの言う通りだ。あいつならきっとどんな危険な目に合っても乗り越えられる。大方、中で道にでも迷ってるんじゃないか?」

 

 恋人でもあるジンの安否を心配するリコにロイとフリードは明るい様子で励ます。リコを落ち込ませたくないという気持ちもあったが、それを抜きにしてもジンが負ける姿が想像できなかったのだ。

 

「……うん。そうだよね!」

 

 リコも少しだけ安心したような様子を見せる。もとよりジンが負けるなどとは彼女も露ほどにも思っていない。不安な気持ちは捨てきれないが、それでもジンならばその内にひょっこりと顔を出す。そんな気がしていた。

 

 彼らがここに来た目的は大きく分けて2つだ。

 

 1つ目は当然ながら仲間のジンを捜索し救出すること

 

 2つ目は六英雄であるガラルファイヤーを落ち着かせること

 

 古のモンスターボールを持っていた以上、ガラルファイヤーが六英雄である事に疑いはない。しかし、正攻法のバトルではあの怒り狂うガラルファイヤーを止める事は難しい。

 

『バトルに勝つだけがトレーナーの道とは限らない』

 

 ジムリーダーのカブがリコに対して言った言葉だ。作戦を練っている時にリコはこの言葉を思い出し、ガラルファイヤーを倒すのではなく、落ち着かせる方法を考えた。

 

「ニャァ」

 

 そして、その方法は意外と身近に存在した。相棒のニャオハから発する甘い香りにはアロマテラピー効果があり、周りを魅了したり戦意を喪失させるという効果がある。これを利用しガラルファイヤーを落ち着かせようと考えたのだ。

 

「「…………」」

 

 リコとロイは緊張した様子で目の前の鉱山への入り口を見ている。作戦は既に立てた。上手くいく手ごたえも感じてはいるが緊張感まで捨て去る事は2人にはまだ難しい。

 

「そんなに緊張するな。リラックスして行こう。どんと構えている方が思い切りやれるもんだ」

 

 そんな2人の肩にフリードは手を置き、そう励ましの言葉を送る。リコとロイはフリードのその言葉に頷くと気持ちを切り替えガラル鉱山の内部へと進み始める。

 

「これは……」

 

 暫く進んでいくと洞窟内は、所々が崩落し瓦礫が道を塞いでいた。その周辺を観察してみるとガラルファイヤーのものと思われる爪痕がいくつも確認できる。

 

「よし……後を辿るぞ」

 

 リコたちはフリードを先頭に置きながら周囲を警戒し進んでいく。すると進んでいる方向からガラルファイヤーの怒りに満ちた叫び声が聞こえ始める。

 

「どうやら怒りは、まだ収まっていないようだな……」

 

 その後も暫く鳴き声のする方向に警戒をしながら足を進めると広い空間にたどり着いた。周辺には瓦礫の山や壊れたテントなどが散乱している。

 

 そして、その空間に辿り着いた瞬間、1体のポケモンが姿を現した。

 

「ファァァァァァァァァイッ!」

 

 ジンとアメジオとのバトルの傷はまだ完全には癒えていない様で体中に無数の傷があり明らかに弱っている。しかし、それを感じさせない程の怒りの咆哮を上げ、ガラルファイヤーはリコたちに睨みつける。

 

「先に出会っちまったか……」

 

 彼らの本音を言えばガラルファイヤーと対峙する前にジンと合流したかった。ジンがリコたちの護衛につけば作戦成功率が大幅に上昇するという期待があった為だ。

 

「ジン……」

「リコ!ジンは後で必ず見つけ出す。だから、今は……」

「……うん!行くよ、ニャオハ!『このは』!」

 

 先手必勝とばかりに、ニャオハはその場で両前足で何度も足踏みしながらアロマを出すと、それに『このは』を纏わせガラルファイヤーに向けて打ち放つ。アロマを纏った大量の『このは』がガラルファイヤーを覆い尽くそうとするが、ガラルファイヤーは両翼を羽ばたかせ『このは』を寄せ付けない。

 

「届かない……」

「パワーが足りないのか……」

 

 ギャラドスやジュカインとのバトルで体力を消耗しているとはいえ、相手は伝説のポケモンだ。アロマを纏わせた『このは』で落ち着かせるという基本プランは悪くないのだが、そう易々と思い通りに行くほど甘い敵ではない。

 

「っ!?……ファァァイ!」

 

 ガラルファイヤーは体力の消費が激しく長期戦は自分に不利だと判断した様で、早々に決着を付けようと両翼を激しく羽ばたかせ、『ぼうふう』により竜巻を生み出しリコたちに向けて解き放つ。ジュカインたちとのバトルの時よりも明らかに威力は落ちているがそれでもニャオハ程度であれば未だに一撃で倒しきれる程の威力だ。

 

「「『かえんほうしゃ』!」」

 

 リザードンとホゲータはリコとニャオハを守るために同時に『かえんほうしゃ』を発射した。両者の『かえんほうしゃ』は混ざり合い、巨大な炎の塊となり竜巻を打ち消すことに成功する。

 

 しかし……

 

「っ!?リコ!逃げろ!」

 

 竜巻を打ち消したのとほぼ同時に今度は無数の空気の刃がリコとニャオハに迫っていた。どうやらガラルファイヤーは弱り切った自分の『ぼうふう』では打ち消されることを想定し、『エアスラッシュ』を本命の攻撃にしていた様だ。

 

「ニャッ!?」

 

 リコは咄嗟の事で動き出す事が出来ずにその場で硬直してしまう。それを見たニャオハはその場でジャンプすると『エアスラッシュ』とリコの間に入り込み身を挺して盾になろうとする。

 

「ニャオハッ!?」

 

 リコの悲痛な叫び声が洞窟内に響く。その場にいた全ての者がニャオハは戦闘不能になる。そう確信したが、それは予想外の形で崩されることとなる。

 

「ダァァァァク!」

 

 ニャオハに迫る無数の『エアスラッシュ』は突如としてその真横から放たれた黒と紫の光線によって相殺される。相殺時に発生した煙が晴れるとそこには、ガラルファイヤーから彼女たちを守る様に1体のポケモンが立ちふさがっていた。

 

 

 

***

 

 

 

「……これは困ったな」

 

 リコたちが再び、ガラル鉱山へと足を踏み入れた頃、ジンは未だに鉱山内を彷徨っていた。フリードの予想した通り、ジンは鉱山の中で完全に迷子状態に陥っていた。

 

「まさか、道が塞がってるとは……」

 

 ダークライ、アメジオに続きガラルファイヤーとのバトルの余波によりジンが通ってきた道は瓦礫が大量に落ちてしまい完全に塞がってしまったのだ。来た道を引き返すことができない以上、別の道を使うしかなかったのだが、この時の選択を間違えてしまったらしい。

 

 残された道は2つ残されていた。その2つはそれぞれガラルファイヤーとアメジオが使った道だ。あのような分かれ方をした手前、アメジオと同じ道を使うのは憚られた為、悩んだ末にガラルファイヤーが通った道を使用する事を決めた。

 

「はぁ……こんなことならアメジオに付いて行けばよかった」

 

 しかし、その道を進んでいくとガラルファイヤーが撤退をした際に軽く八つ当たりをしていたようで、所々が崩落し既に原型をとどめていない場所も多く進んでいる内に完全に道が分からなくなってしまったのだ。

 

「ちょっと休むか……」

 

 ジンはその場で壁を背にし座り込むとポケットからモンスターボールを取り出し先程、戦闘を行ったジュカイン、サーナイト、ボーマンダを出す。

 

「ジュカ……」

「……サナ」

「ボダー……」

 

 ガラルファイヤーとアメジオが去った後、ジンは既に全員に簡単な治療を行っていた。体力はある程度までは回復しているがボールから出た瞬間の様子を見るにまだ完全には回復しきってはいないらしい。

 

「ほら、全員これを食べて体力を少しでも戻しておいてくれ」

 

 ジンはポロックケースからそれぞれが好きな味のポロックを複数個取り出し分け与えていく。全員に配り終えるとジンもまた1つポロックを取り出し自分の口の中に入れた。

 

 ジンが食べたのはポケモンたちの為ではなく自分の非常食用に作ったポロックであり、食べただけで一食分の食事をしたのと同じ満足感を得られる特別なレシピで作ったポロックだ。以前の1人旅では大いに重宝したもので今の状況にも適しているのだが……

 

(……なんか味気ないな)

 

 味にも拘って作っている為、まずい訳ではない。しかし、最近はマードックの作る温かい食事ばかり食べていたせいか舌が肥えてしまった様だ。

 

「……まぁ、いいか。それよりも……」

 

 休憩を終えればジンは再び、リコたちとの合流を目指し動き出す。その前に1つ考えねばならないことがある。ジンはポケットから、このガラル鉱山で新たにゲットしたダークライが入っているボールを散り出す。しかし、ボールを操作するがやはり中のポケモンが出てくる様子はなかった。

 

「やっぱり、駄目か……」

 

 ゲットした時からそうだが、ダークライはジンの呼びかけに応じずボールから出てこない。ガラルファイヤーの『もえあがるいかり』が迫ってきた時は出てきてくれたのが、それ以降はさっぱりだった。

 

「……ロトム、ダークライの資料、全部見せてくれ」

『ロト!』

 

 まずはダークライの事を知るしかない。出身地方が違う事からジンはダークライのことはそこまで詳しい訳ではないのだ。詳しく知る事が出来れば新しい見解も見えてくるかもしれない。そう考え、スマホロトムに表示された資料に目を通し始める。

 

「ふむ……」

 

 表示された資料一つ一つを丁寧に読み解いていく。その中の1つダークライという種族の性格や性質について興味深い資料を発見する。

 

「ダークライ自身は大人しい性格をしており、他者に対して無闇に危害を加えようとはしない……か」

 

 資料によればダークライが悪夢を見せるのは自分や縄張りを守る為であり悪気は無いとのことだ。しかし、それでは縄張りでもないこの場所で作業員たちに悪夢を見せた事の説明が付かない。

 

「元々、ダークライの縄張りだった……流石に違うか」

 

 この鉱山で炭鉱業が行われたのは昨日今日の話ではない。この場所がダークライの縄張りであったなら、もっと早くに悪夢を見ていなければおかしい。

 

「だったら、ダークライはどうしてここに現れた?」

 

 ダークライの他者に悪夢を見せてしまう能力は、自身の意思に関係なく勝手に発動してしまうものであり、コントロールする事も制御も出来ない。その為、悪夢で誰かを苦しめてしまう事を望まないダークライは、誰とも関わろうとせず自ら孤独に生きていると資料には書かれている。

 

 誰とも関わらずに生きるとなると人気のない場所に定住するのがベストだ。だが、そんな場所が都合よくいくつもある訳でもない。この世界の殆どは人かポケモンが暮らしている。住む場所を探す為に世界中を放浪する事は容易に想像できるが、ここは野生のポケモンも多く人が働く場所だ。ダークライには住むには適していない。

 

「いや……まてよ」

 

 先程、対峙したガラルファイヤーは強大な力とオーラを放っていた。もしも、ダークライが放浪の途中に偶然、ガラル鉱山付近にいたのであれば同じあくタイプのポケモン同士だ。その存在に気づく事が出来たのかもしれない。

 

「そう言えば、あの作業員は確か……」

 

 ジンは鉱山内で出会った作業員との会話を思い出す。ダークライはガラルファイヤーの直ぐ後に現れ、その場にいた作業員たちに悪夢を見せ始めた。彼らはその悪夢の中で『出て行け ここから出て行け』と何度も言われた様に感じたらしい。

 

 まるで、この場から遠ざける様に……

 

「……ガラルファイヤーから守るために遠ざけようとした?」

 

 様々な情報を頭の中でまとめていくと、こうして1つの結論へと辿り着く。そうであったならばガラルファイヤーの攻撃からジンとアメジオを守った事にも説明は付く。

 

「……一度、ちゃんと話さないと駄目だな」

 

 しかし、今、先決すべき事はこの場所からの脱出である。リコたちと合流し改めてガラルファイヤーの情報を共有し対策を立てねばならない。そう考えたジンは立ち上がり、改めて出口までの道を探ろうとし始める。

 

「ファァァァァァァァァァイッ!」

「っ!?」

 

 だが、その瞬間、1本のトンネルからガラルファイヤーと思わしきポケモンの咆哮が響き渡る。

 

「ボーマンダ!」

「ボーダー!」

 

 ジンはジュカインとサーナイトをボールに戻すと呼び寄せたボーマンダの背中に飛び移るとガラルファイヤーの声が聞こえたトンネルを進み始める。

 

 ガラルファイヤーは確かに怒り狂ってはいた。しかし、物に八つ当たりするだけれあれば、あのように叫び声を上げたりはしない。間違いなくあれは敵対する相手に向けて発したものだ。だが、この鉱山内であのガラルファイヤーに挑む者が他にいるとは考えにくい。そうなってくると考えられるのはアメジオたちか、もしくはリコたちだけだ。

 

「……嫌な予感がする。ボーマンダ!最高スピードで頼む!」

 

 ボーマンダはジンの指示に従い両翼を広げると疲れた体に鞭を打ち過去最高のスピードを出すとトンネル内を全速力で駆け抜ける。数分程、そのまま飛び続けるとトンネルを抜けることに成功した。

 

「あれはっ!?」

 

 トンネルを抜け、一番最初に目についたのはガラルファイヤーから放たれた『エアスラッシュ』がリコとニャオハに迫る光景だった。咄嗟にボーマンダに指示を出そうとするが、それよりも早くポケットに入っていたモンスターボールが揺れ動き1体のポケモンが姿を現す。

 

「ダァァァァク!」

 

 ボールから現れたダークライは両腕を前に出し、そこから『あくのはどう』を放つ。黒と紫の光線は『エアスラッシュ』を横から全て薙ぎ払い相殺するとそのままリコたちとガラルファイヤーの間に立ちふさがった。

 

「……え?」

「なにっ?あのポケモン!?」

「嘘だろ!?なんでダークライがここに!?」

 

 突然のダークライの登場にリコは呆然としロイとフリードは驚愕を隠すことができない様だ。

 

「……ダァク」

 

 しかし、全員が驚いたのも束の間、ダークライは先程のサーナイトとのバトルでのダメージの影響で体を震わせ、その場に座り込んでしまう。その姿を見たガラルファイヤーは追撃を仕掛けようともう一度、『エアスラッシュ』を発動しようとする。

 

「『りゅうのはどう』!」

 

 しかし、ダークライが稼いだ時間はボーマンダに乗ったジンがリコたちに追いつくには十分な時間だった。ジンを下ろしたボーマンダは上昇し口から『りゅうのはどう』を放ち、ガラルファイヤーの動きを阻止する。

 

「ジン!」

 

 ボーマンダから降り立ったジンを見たリコは目を輝かせ笑顔になるとそのままジンに抱き着いた。

 

「リコ!大丈夫か?」

「こっちのセリフだよ!本当に心配したんだから」

 

 ジンは簡単に謝罪すると一旦リコを離し、たった今、リコとニャオハの盾となったダークライに視線を向ける。

 

「ジン……そのポケモンは……」

「後で詳しく話すよ」

 

 改めてダークライを観察するが、体中にある傷は未だ癒えず、今の『あくのはどう』で文字通り全ての力を使い果たした様だ。

 

「リコの事を……いや、ここにいた全ての人を守ってくれてありがとう」

「……ダァク」

「……そこで見ていてくれ。後は俺たちがやる」

 

 ジンはダークライの前に出るとそう宣言した。しかし、それを聞いていたリコは待ったをかける。

 

「待って!考えがあるの」

 

 リコはガラルファイヤーを落ち着かせ話を聞きたい。その為の作戦を立ててここに来たのだという事を説明する。作戦の内容は悪くなくジンも素直に納得する事ができるものだった。

 

「……だけど、威力が足りなくて届かなかったんだろう?どうするつもりだ?」

 

 ニャオハの『このは』はかなりの威力ではある。しかし、現状はまだガラルファイヤーに届く程の威力ではない。この作戦を成功させるためにはジンの手によりガラルファイヤーをもう少し、痛めつけ弱らせねば上手くはいかないだろう。

 

「……少しだけ、ガラルファイヤーと話をさせて」

「……本気か?」

「お願い……」

「……はぁ……仕方ないな。やれるだけやってみろ」

「うん!」

 

 リコもこのままでは作戦が失敗すると分かっているが、これ以上ガラルファイヤーを傷つける事は望んでいない。ダメ元であるという事は承知していたが、それでも話し合いで解決しようとガラルファイヤーの元へと歩き始める。

 

「……ボーマンダ、いつでも動けるように準備しておいてくれ」

 

 ジンはリコの行動を一応は容認したが、ガラルファイヤーが何か不審な動きをした際には速やかに行動に移る事が出来るように準備する。

 

「落ち着いて。私たちは敵じゃない。あなたと同じこのモンスターボールを持ってるの」

 

 リコは胸のショルダーバックからオリーヴァの入っている古のモンスターボールを取り出し、ガラルファイヤーに見えるように高く掲げる。

 

「ガラルファイヤー!教えて!私は知りたいの、あなたの気持ちを!」

 

 リコは懸命にガラルファイヤーに向けて語り掛けるが、ガラルファイヤーはそれに対し怒りの籠った咆哮を上げるばかりである。

 

(……やはり駄目か)

 

 古のモンスターボールを見れば何か変化があるのではないかと淡い期待をしていたのだが、ガラルファイヤーの怒りはジンたちの想像をはるかに超えているらしい。

 

「ファァァァァァァァァイ!」

 

 ガラルファイヤーは今にもリコに対して攻撃を再開しそうな雰囲気を発している。このままではリコが危険だと判断したジンはボーマンダに指示を出そうとするが、その瞬間、リコの持っていた古のモンスターボールが突如、動き出し始めた。

 

「え?」

「なにっ!?」

 

 動き始めた古のモンスターボールは空中へと飛び上がると開閉スイッチがひとりでに動き出し眩い光と共にボールが開きだす。

 

「リィヴァァァァ」

 

 古のモンスターボールの中から六英雄の1体、オリーヴァが現れる。それと同時にリコのかけていたペンダントまでもが突然、輝き始めた。

 

「リィヴァァ……ヴァァァァ……」

「ファァァァ……」

 

 同じ古の冒険者ルシアスのポケモン同士、何か話をしている様だ。何を話しているのかはジンたちには分からなかったが、もしかすれば状況が変わるかもしれない。そんな強い期待を込めて2体の様子を窺う う。

 

「ファァァァッ!」

 

 しかし、話し合いは付かなかったようでガラルファイヤーは『エアスラッシュ』をオリーヴァに向けて放つ。オリーヴァは両腕をクロスしその攻撃を防御するが効果抜群の技だ。長くは持たないだろう。

 

「聞く耳なしか……」

「こんなのどうすることも……」

 

 ロイは圧倒的な強さを誇るガラルファイヤーを前に弱気な声を出し始める。

 

(……やはりレックウザに挑ませるにはまだ早いな)

 

 力の差を測るのは大事な事だが、ロイの目標である黒いレックウザはガラルファイヤーと同等かそれ以上の力を持っている。現状で倒せとまでは言わないが、それでも勝負を諦めずに攻略法を探れない内はレックウザのゲットなどいつまで経っても夢のまた夢だ。

 

「落ち着いて、ロイ」

 

 そんなロイにリコは落ち着いた様子で語り掛ける。

 

「戦うだけが全てじゃない。戦うだけがポケモントレーナーじゃない。ポケモンの気持ちを知って思いやれる。それが……私の目指すポケモントレーナー!」

 

(リコ……)

 

 以前までのリコであればこのような発言はしなかっただろう。エンジンシティでの一件、そしてこのガラル鉱山でのミブリムとの出会いは、今まで明確な目標のなかったリコに確かな目標を作らせ、大きく成長させた。

 

「リィィヴァァァァァ!」

 

 リコはこの旅で得た新たな目標、そして覚悟を示した。それを聞いたオリーヴァは、突然、大声で鳴き声を上げると両手を大きく広げ緑色のオーラを地面に流し始めた。

 

「これって……」

「『グラスフィールド』だ」

 

 オリーヴァの体から出る緑色のオーラはあっという間に洞窟全体を包み込んでいく。その光景はオリーヴァと初めて出会ったパルデアの森での事を思い起こさせた。

 

「ニャァァァァァァッ!」

 

 オリーヴァの展開した『グラスフィールド』のオーラがニャオハに集中していく。その効果により草タイプのニャオハは体を緑色に輝かせ、その力を大きく引き出し始めた。しかもそれだけではない。

 

「……ダァァク!」

「ボォダァ!」

 

 『グラスフィールド』のもう一つの効果により地面に座り込んでいたダークライやジンの傍でガラルファイヤーを警戒していたボーマンダまでもが体力を取り戻し始める。

 

「っ!?ファァァイッ!?」

 

 このままでは形勢不利と判断したガラルファイヤーはニャオハの攻撃を阻止しようと『ぼうふう』で竜巻を作り出し放つ。ジンは咄嗟にボーマンダに指示を出そうとしたが、それよりも早くダークライが動き始めた。

 

「ダークライ……」

「………ダァァク!」

 

 ダークライは一瞬の内にリコたちと『ぼうふう』の間に移動するとジンへと視線を送りつける。それが何を意味しているかは明白だ。

 

「……ダークライ!『あくのはどう』!」

 

 ダークライは両腕を前に突き出し『あくのはどう』を放つ。『ぼうふう』と『あくのはどう』はぶつかり合い、打ち消し合う。その際の衝撃で両者は少なくないダメージを負ってしまうが確実な隙がガラルファイヤーに生まれる。

 

「リコ!」

「うん!ニャオハ!」

「ニャッ!」

「全力で『このは』!」

 

 リコの指示でニャオハはアロマを纏わせた大量の葉を撃ち出した。その葉は『グラスフィールド』の影響も受けて威力を増しているが、それだけではない様だ。

 

「これは『このは』じゃない……」

「あぁ、この技は『マジカルリーフ』だ!」

 

 普段から行っていた地道な鍛錬、ガラルファイヤーという強敵、オリーヴァの尋常ならざる『グラスフィールド』がニャオハの技を進化させた。『このは』改め、アロマを纏った『マジカルリーフ』は体勢を崩したガラルファイヤーへと突き進み覆い尽くしていく。

 

「ファァァァイッ!」

 

 ガラルファイヤーは最後の抵抗とばかりに両翼を動かし『マジカルリーフ』から逃げようとするが、それを黙って見ているジンたちではなかった。

 

「キャップ!」

「ダークライ!頼む!」

 

 キャップとダークライは空中へと飛び上がり『かげぶんしん』を発動するとガラルファイヤーに組み付き、その動きを止めに掛かる。

 

「ジン!ロイ!風を起こしてニャオハの葉を上昇させるぞ!」

 

 ジンはボーマンダ、フリードはリザードン、ロイはカイデンに指示を出し翼を羽ばたかせる。風の逃げ場がない洞窟では空気が循環し葉は全て上まで届いた。

 

「これで最後!ニャオハ!『このは』……ううん『マジカルリーフ』いっぱい!」

 

 駄目押しとばかりに出された『マジカルリーフ』により洞窟全体がニャオハのアロマの香りで満たされる。アロマのいい香りがガラルファイヤーから怒りのオーラを奪い去り、ゆっくりとリコの前へと降り立つ。

 

「…………」

 

 全員が固唾を飲んで見守る中、ガラルファイヤーはリコに視線を向けると何か喋り出し始める。

 

「リコに喋ってる?」

「いや、あれはどちらかというと……」

「……リコじゃなくてペンダントに話しかけてるのか?」

 

 リコはペンダントを取り出し、手のひらに置くと輝きを強め始めた。ペンダントは徐々にその形を変えていき、やがてパルデア地方で見た亀の様な姿となり地面へと降り立つ。

 

「パゴ~」

 

 ペンダントから姿を変えたポケモンはそのままガラルファイヤーと何かを話し始める。突然の事態にその光景をジンたちは呆然と見つめているとガラルファイヤーは頭を上に向け、とても悲しそうな声を出し始めた。

 

「まるで泣いてるみたい……」

 

 ガラルファイヤーの悲しみの籠った声と共にジンたちの周りに謎の霧の様な物が発生し、更に雨までもが降り始める。洞窟内で起こる筈のない現象に戸惑っているとリコがこの現象の正体に気づいた。

 

「これって……オリーヴァの時と同じ」

 

 以前、パルデアでリコとロイにだけオリーヴァが見せた光景、その時に感じた感覚と現在の状況が酷似していた様だ。

 

「これは一体……」

「……誰かいるぞ」

 

 今回、初めてこの現象を体験するジンとフリードは辺りを警戒しながら注意深く観察するとガラルファイヤーが降り立った場所に1人の人間の姿が確認できた。霧の影響で詳しい人相までは分からなかったが、確かにそこにいるのは間違いない。

 

『ファイヤー……』

 

 その人間はガラルファイヤー頭を撫でながら話し始める。

 

「また、あの人……」

「古の冒険者ルシアス……」

 

 あのガラルファイヤーがあそこまで気を許す人間がいるとすれば、それはトレーナーであったルシアスを置いて他にはいない。

 

『このラクアは必ず、俺達が……』

 

(ラクア……)

 

「パゴパーー」

 

 ペンダントのポケモンが叫び声を上げると周囲にあった謎の煙はそのポケモンに吸い込まれて消えていき、洞窟内への景色へと戻っていく。一体、何が起こったのかジンたちにはまるで理解が出来なかった。

 

「ジン、今、あの人……ラクアって言ってたよね?」

「あぁ……だが、ラクアなんて聞いたことないぞ」

 

 ジン、そしてフリードもそれなりに知識のある人間だ。しかし、ラクアなどという物には全くと言っていい程、心当たりはない。

 

「ファァァァァァ」

 

 突然得た情報に戸惑っているジンたちの前にガラルファイヤーは近づいてくる。暫く、リコの事を見ていたかと思えばガラルファイヤーは右足に挟んでいた古のモンスターボールを離しその中へと吸い込まれていく。

 

「え?」

 

 リコがその事に驚くとそれに続くように役目を終えたオリーヴァも再び、古のモンスターボールへと吸い込まれた。2体が戻った事を確認したリコはボールに近づき拾い上げる。

 

「一緒に来てくれるのかな?」

「あぁ、オリーヴァの時と同じだと思うぞ」

「そっか……」

「だから、そいつもリコが持ってやっててくれ。また、必要になるときが来るかもしれないしな」

 

 ジンは本音を言えば、オリーヴァの時と同じくガラルファイヤーが欲しかった。だが、残念な事ではあるが彼らとジンにはそういう縁はない様だ。

 

(やっぱり、六英雄とは巡り合わせが悪いみたいだな……)

 

 だが、今のジンはそれでも構わないと素直に思う事が出来た。六英雄をゲットする事は出来ないのかもしれないが、その代わりに得る事の出来たポケモンもいる。ジンはリコから少し離れ、今までの光景を黙って見つめていたダークライへと近づいて行く。

 

「ダークライ……一緒に来るか?」

「……ダァァク」

 

 ダークライは少しだけ考える様な素振りを見せた後、ゆっくり頷く。ジンは正々堂々のバトルで自分を倒し、その真意まで理解してくれたトレーナーだ。ダークライにとってジンの事を主と仰ぐには十分な理由となった様だ。 

 

「ふっ……戻れダークライ」

 

 ダークライをモンスターボールに回収し、振り返るとリコたちは興味深そうにジンの事を見つめていた。

 

「そんな目で見なくても詳しくは船に帰ってから話すよ。それより……あのポケモンどこ行った?」

「え?……あ、あれ?どこに行ったの?」

 

 リコたちは慌ててペンダントだったポケモンを探し始める。するとリコのフードに入っていたミブリムが突然、動き始める。ミブリムは近くにあった岩場に近づき、反対側をのぞき込むとそのまま転がり始めた所をリコがキャッチする。

 

「ミブリム!」

 

 ミブリムをキャッチしたリコは岩場の反対側に注目するとそこからペンダントであった亀の様なポケモンが現れる。

 

 

 

***

 

 

 

「………」

 

 ガラル鉱山の入り口付近のトンネル、そこにはエンジンシティのジムリーダーのカブが立っていた。カブはここの作業員達からの要請を受け、洞窟の崩落に悪夢の原因が何なのかを調査をするためにやってきたらしい。

 

「カブさん!ケガをしたポケモンたちの避難は終わりました」

「ありがとう。ここからは僕が……ん?」

 

 作業員から報告を受けたカブは1人でこの先の調査を行おうとするが、トンネルの奥から見覚えのある人物たちが現れたことに気づく。そこにはジン、リコ、ロイ、そしてジャケットにペンダントだったポケモンを包み隠したフリードが現れた。

 

「あれ?」

「あっ…カブさん!」

 

 洞窟から出てきたジンたちは調査に来たカブに洞窟内で起こった出来事を話した。ただし、ペンダントであったポケモンの事だけは除いてである。

 

「なるほど……ダークライにガラルファイヤーか。まさか、鉱山の中でそのような事が起こっていたとはね」

 

 カブはジンたちの話を興味深そうに聞いていた。ダークライにガラルファイヤー、長年トレーナーをしているカブですら滅多に聞くことのない名前ばかりだ。興味が出て当然だ。

 

「それにしても、伝説のポケモンを……特訓の成果はあったようだね」

「はい!」

「レックウザに近づいてる気がします」

 

 六英雄もこれで2体目だ。順調に行けば、いずれはロイの言うように黒いレックウザと再び出会う日も来るのかもしれない。

 

「いいね。今度は正式なバトルをしよう。ジン君もね。今度、君とバトルするときはリベンジさせてもらうよ」

「ありがとうございます!」

「僕、もっと強くなって見せます!」

「えぇ、俺も再戦する日を楽しみにしています」

 

 ジンたちがカブと話しているとジャケットの中にいたポケモンがもぞもぞと動き始める。それを見たジンたちは慌ててカブに別れを告げ、その場を離れ出す。

 

「ふぅ……危なかったな」

「その子、もうペンダントに戻らないのかな?」

「かもしれないな」

「あぁ、だが、取り敢えず今は船に戻ろう。考えるのはその後だ」

 

 ペンダントから変化した謎のポケモンに六英雄と古の冒険者ルシアスと謎が増えてばかりだが、リコの祖母のダイアナと出会えば何かが分かるかもしれない。そんな期待を込めて、ジンたちはダイアナの待つガラルの古城を目指す為に、船へと戻っていくのだった。

 

 

 

***

 

 

 

 ジンたちが船に戻っていく姿を木陰からひっそりと監視する者たちがいた。そこから現れたのはエクスプローラーズのアメジオとその部下のジルとコニアだ。

 

「よろしかったのですか?みすみす、あんな強いポケモンを……」

「構わん。それは我々の目的ではない」

「ですが……あの小僧はダークライまで……ただでさえ、厄介なのにダークライまでゲットするなんて……ガラルまで来て収穫なしはまずいですよ」

 

 現状ですら敵わないのだ。それなのに更に強力なポケモンをゲットされ戦力を強化されてしまっては益々、勝てる見込みがなくなってしまう。

 

「収穫はあったじゃないか。お前たちも見ただろう?ペンダント……いや、あの不思議な輝きを放つポケモンを」

「あの小さいのですか?そんなのより……」

 

 ジルとコニアがそう考えるのは無理はない。少なくとも現状で客観的に見ればガラルファイヤーやダークライの方が遥かに強力に見えるポケモンだ。

 

「奴らを追跡する。あのポケモンを奪い取るぞ」

 





水着回……思ってたよりもギャグ回でしたね。書く時は結構、オリジナル要素追加するかもしれません

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