この小説を書き始めてから1年の時が経ちました。やや不定期とは言えここまで続けられるとは思っていませんでした。今後もよろしくお願いします!
ワイルドエリア ガラル地方に存在する複数の街同士を繋ぐエリアだ。そこには広大な自然が広がっており、このガラル地方で最も野生のポケモンが多く生息している場所でもある。ジン達は、ドットの入手した黒いレックウザの目撃情報を頼りにこの地を訪れていた。
今回の調査に来たのはモリー、ランドウ、ダイアナを除いたメンバー達だ。ワイルドエリアの中でレックウザを目撃したという人物から直接、情報を得る為に珍しくドットも飛行船を降り調査に参加している。今回の調査は彼女が見つけ出した情報を基に行われている。自分自身でしっかりと確認しなければ気が済まない様だ。
「待ち合わせ場所は、ここで合ってるのか?」
「……誰もいないぞ」
ジン達は黒いレックウザの情報提供をしてくれるという人物との待ち合わせ場所である湖の付近にまでやってきたのだが、その場所にはそれらしい人物は発見できなかった。
「場所は間違いない。でも、連絡が取れないな……」
ドットは再度、地図を確認するがやはり場所に間違いはないらしい。マードックはイワンコをジンはライボルトを出し周囲の匂いを嗅いでもらうが2体共、首を横に振る様子を見せる。どうやらこの周辺には人がいた気配すら残っていない様だ。
「ドット、残念だが……」
「……分かってる。偽の情報だ……クソっ!また騙されるなんて!」
「自分を責めるなよ。騙されたのは俺も同じだ」
「そうだぞ。冒険に空振りは付き物だ。自分の目で確かめたことに意味があるんだ」
(だが、このやり口には覚えがある。恐らくは……)
エクスプローラーズの幹部スピネルの仕業だと考えて間違いないだろう。敵の中でこのような情報操作を行えそうなのはあの男だけだ。ジンの知る限りアメジオやサンゴにこの様な裏方の仕事が出来るとは思えない。
(目的は時間稼ぎって所か……)
不幸中の幸いとでも言うべきか、ジンがダークライをゲットしたという情報はサンゴやオニキスを通して伝わる筈だ。あの手の策士を気取る者は勝算のない戦いは挑まない。その為、暫くは向こうから襲ってくる事はないだろう。今回の偽情報もその対策を立てるまでの時間稼ぎの可能性があるとジンは予測した。
(もしくは……何か別の作戦があるのか?)
いけ好かない男ではあるが、スピネルは切れ者だ。その上、組織力と財力というジン達が持ち得ない武器がある。それらを活用しジン達が知らない所で別の作戦が起こっている可能性も捨てきることは出来ない。
「よーし!折角、ワイルドエリアに来たんだ。羽を伸ばして行こう!」
落ち込んでいたドットを励まそうとしたのかマードックが大声でそう宣言するのを聞き、ジンは一旦考える事を中断する。仮にジンの予想通り何か別の作戦が起動していたのだとしても現状ではどうすることも出来ない。それならばこの時間を休息に当てるのも悪くない。
「賛成だ。皆もいいだろう?」
マードックの提案を承諾したフリードは残りのメンバーに問いかけると、その場にいた殆どの者が賛成の意を示す。
「ドット?」
ただ一人、ドットだけは何の反応も示さずスマホロトムをしまうと船の方向に向かって歩み始めた。
「僕は船に戻る」
「ちょ、ちょっと待って!?」
船に真っすぐに帰ろうとするドットをリコは慌てた様子で止めにかかる。ここ数日、レックウザの情報集めに奮闘しドットは部屋に引きこもっていた。久しぶりに会えたドットをこのまま帰したくはないのだろう。
「次の手を考える」
「そんなに焦らなくても……」
「焦るさ!情報は僕の専門なのに……パルデアでも役に立たなかったのに、今回もこんなあっさり騙されて……ああっ!もう自分に腹が立つ!」
「ミーミッ!」
「あっ!?ミブリム!」
ドットの強い感情が伝わってしまった様で、ミブリムはリコのフードから飛び降り、そのまま林の奥へと走り去ってしまう。
「わ、悪い!またびっくりさせちゃった!」
「一緒に追いかけるよ!」
リコはドットの手を掴むと有無を言わさずに一緒にミブリムの追跡を開始する。彼女たちのポケモンであるクワッスとニャオハもそれに続いて後を追い始めた。
「仕方ない。俺も行くか」
「あっ!僕も行くよ!」
このワイルドエリアではエクスプローラーズよりも野生のポケモンに注意を払う必要がある。このままリコとドットを2人だけで行かせるのは心配であった為、少し遅れてジンとロイもミブリムの向かった方角に走り始めた。
「おっ!いたぞ!」
「本当だ……直ぐに見つかってよかった」
ミブリムの運動能力がそれ程高くない事もあり、林を抜けた先の湖の畔で直ぐに発見する事が出来た。一安心していると、突然、水面が動き出しそこから大きな顎を持ち亀の様な姿をしたポケモンが姿を現す。
「ガ~~」
「な、何?あのポケモン?」
『カジリガメ かみつきポケモン 水・岩タイプ 非常に凶暴な性質 岸辺に潜み 水を飲みに来た獲物にガブリと噛みつく』
「ち、近づかない方がよさそうだ……」
「賛成だ。あいつの縄張りかもしれないし、とっとと引き上げよう」
「うん……あれ?テラパゴスは?」
図鑑の説明を鵜呑みにするのは良くないが、出来ればあまり近づかない方がいいポケモンだと判断したジンたちは直ぐにこの場を離れようとするが、テラパゴスが近くにいないことに気づく。慌てて周囲を見渡すとテラパゴスはいつの間にかカジリガメの直ぐ目の前に出ていた。
「いつの間にあんな所に!?」
「まずい!ホゲータ!」
カジリガメはテラパゴスを視界に捉えると少しずつ近づき始め、その大きな口を開く。ロイは咄嗟にホゲータに指示を出し攻撃を指示しようとしたが、ジンはそれを手で制止する。
「ジン!?」
「よく見ろ。大丈夫だ」
ジンに促されロイたちはカジリガメを改めて観察する。するとカジリガメはテラパゴスに噛みつく様子も見せず、その場で大きな欠伸をし始めた。
「欠伸かよ……」
「ジン……なんで分かったの?」
「テラパゴスは敵意を出してなかったからな。余程、気象の荒いポケモンじゃなければ大丈夫だと思っただけだよ」
テラパゴスは水上ポケモンには見えないが、フォルムはカジリガメとやや似ている。あのカジリガメが思ったよりも気のいい性格であったこともあるだろうが、こちらから敵意や悪意をぶつけなければ大きな問題にはならないと考えたのも理由の一つだ。
「パ~ゴ」
カジリガメの欠伸が移った様でテラパゴスも大きな欠伸をする。何か意気投合する所があったのかテラパゴスとカジリガメは仲良く話し始めた。近くにいたクワッスやミブリムも当初はやや警戒していたが、テラパゴスの仲介もあり徐々に警戒を解き仲良く遊び始める。
「意外と気のいいポケモンみたい」
「皆、仲間が増えて嬉しそうだね」
ジン達は微笑ましそうにポケモンたちが戯れているのを見ていると背後の茂みがガサガサと動き始めたことに気づく。また新しい野生のポケモンかと警戒しているとそこから現れたのはキャンプ用のバックパックを背負った男性だった。
「あぁ……驚いたな」
「こっちのセリフだよ」
「野生のカジリガメは暴れん坊だから、気を付けてって言いに来たんだけど……平気そうだね。やるなお客さん!」
「お客さん?」
「失礼ですが、あなたは?」
「申し遅れた。俺は食材屋、今日もとっておきの食材を取り揃えてるよ」
詳しく話を聞くと、彼はこのワイルドエリアでキャンプする人々に食材を売る仕事を行っているらしい。パルデアでサンドイッチが流行っているのと同じ様にこのガラル地方ではカレーが流行っているらしく主にカレールーやスパイス、野菜などを売っているそうだ。
「カレー……そう言えば、最近食べてないかも」
「僕も!カレー食べたい!」
「ふむ……」
リコやロイだけでなくジンもカレーは人並みに好きな食べ物だ。それに最後にカレーを食べたのはセキエイ学園での学食以来で暫く食べていない。こうして話題が出ると急に舌がカレーを求め始めてくる。
「少し早いけど、昼食はカレーにするか?」
「うん!」
「賛成!僕、お腹すいてきた!」
「……僕は別に」
ジンの提案にリコとロイは直ぐに賛成するがドットはあまり興味がない様子だ。元々、ドットは食欲が薄い為、その反応自体は不思議ではない。
「なんだ?ドットはカレー嫌いか?」
「嫌いって言うか……食べたことない」
「マジで!?」
「一度も!?」
「そ、そんなに驚く事?」
「驚くよ!カレーって凄く美味しいのに勿体無い!」
「そうだよ!この世でポケモンの次に素敵なのがカレーなんだよ!」
それは人によるだろうという言葉が口から出そうになったが、ジンは咄嗟に空気を読み沈黙を貫く。
「そ、そんなに?」
「そう!だから、ドットの初めてのカレー私に作らせて!」
「僕も手伝う!」
リコとロイの勢いに負けたのか、ドットは仕方なそうに首を縦に振る。
「ふっ……決まりだな。じゃあ、フリードたちを呼ぶとするか」
***
フリード達と合流後、食材屋からカレーの材料を買い早速、仕込みを開始した。今回は主にリコとロイが張り切って調理に挑んでいる。野菜の切り方からそれぞれ家庭の味が微妙に違う事もあり、マードックの提案でリコとロイがそれぞれカレーを作る事となった。
「それで何を探すんだ?」
「クラボの実!あれを入れるとカレーに辛さが増してグッと美味しくなるんだ」
リコとロイはそれぞれカレーに隠し味の木の実を入れる事を希望した。一旦、分かれて探す事となりチーム編成はリコとドット、そしてロイとジンという具合に分かれている。本音を言えばジンは甘口寄りの中辛カレーが好きなのでモモンの実を探しに行ったリコたちと一緒に行きたいと考えていたが、ドットと一緒にカレーを作りたいというリコの気持ちを尊重しロイと行動を共にしている。
「あっ!見つけた!」
暫く、探索を続けているとクラボの実が大量に実った木を発見する。ロイは早速、木に登るとクラボの実を採集し下にいるホゲータとジンに渡してくる。
「2人とも!どんどん行くよ!」
「あぁ、いつでもいいぞ」
「ホンゲェ!」
ジンとホゲータは頭上から落ちてくるクラボの実を次々にキャッチすると一つの場所に纏め始める。最終的に10個前後のクラボの実を回収した。どうやら、ロイは想像しただけで舌がひりひりする程の辛口カレーを作るつもりの様だ。
「ロイ、もういいんじゃないか?」
「うん!今、降りるね」
暫くして、十分集め終えたと思い、クラボの実を纏めてあった場所を見るとそこには1体のポケモンが木の実を体の半分以上を占める大きな尻尾で包もうとしている最中だった。
「バク?」
「うわっ!?なにこのポケモン!?」
「確か……ヨクバリスっていうポケモンだな」
そこにいたのは、大きいリスの様な見た目をしたヨクバリスというポケモンだ。その名の通り、欲張りな性格で人が集めた木の実や木の周辺に落ちている木の実などを残らず、ネコババする事例が数多く伝わっている。
「大方、木の実を奪いに来たんだろう。どうする?あげちゃうか?」
「駄目だよ!折角、集めたんだから!」
「バクゥ~」
「そんな目で甘えた声出しても駄目!」
「バクゥッ!」
穏便に木の実を譲ってもらうことを諦めたヨクバリスは両腕を広げる。するとその背後からヨクバリスの進化前のホシガリスが複数体同時に現れた。
「「「ホシーホシーホシー」」」
「うわぁっ!?なんかいっぱい出た!?」
「手下たちと一緒に集団で行動してるのか……ワイルドエリアには強いポケモンも多いから数を揃えるのは理解できるんだが、1体1体が結構な大食いだから食料を探すのも一苦労だろうな」
「冷静に分析しないで!ホゲータ!クラボの実を守るよ!」
「ホゲェ!」
自分たちの食料を守る為、ロイとホゲータはいつも以上に気合が入っている。集団のホシガリス達が同時にホゲータに襲い掛かるがいつもジュカイン達の素早い攻撃に見慣れているホゲータにはその動きは、まるでスローモーションのように感じられた。
「ホゲータ!躱して『ひのこ』!」
ホゲータは軽やかなステップでホシガリス達の攻撃を回避すると1体1体に狙いを定め、『ひのこ』で狙い撃つ。『ひのこ』が命中したホシガリス達は、自分達では敵わないと感じた様で森の奥へと逃げ去っていく。
「…………バクゥ」
「本気か?」
「バクッ!?」
ただ1体残っていた親玉と思われるヨクバリスはホシガリスがバトルしている間にクラボの実を持ち逃げしようとするが、待ち受けていたジンに睨まれると情けない悲鳴を上げながらその場から逃げ去った。
「ふぅ、酷い目に遭った……」
「ホゲェ~」
「木の実も無事だったんだし、そう落ち込むなよ」
ジンからすればこの程度の事はよくあるのだが、ロイは飛行船での旅に慣れているせいか、こうした野生のポケモンとのトラブルに対する経験値がやや低い様だ。
(まぁ、こればっかりは経験して慣れていくしかないか……)
野生のポケモンへの対処はトレーナー以前に冒険家にとっても必須のスキルだ。今回もジンがいなければ恐らく木の実は奪われていた。幸いホゲータも強くなりある程度は対処が出来ているが冒険者としての経験値を積む必要が今後あるかもしれない。
(地に足を付けて冒険も悪くないと思うが、現状じゃ難しいか……)
六英雄を探すにはブレイブアサギ号があった方が徒歩で探すよりもずっといい。この環境を捨ててまで徒歩で旅をする理由は殆どない以上、経験を積ませるのは難しいだろう。
「まぁ、いいか……」
「ジン?どうしたの?」
「ホゲェ?」
「何でもないよ。木の実を回収して引き上げよう」
「うん!」
ロイが落ちている木の実を回収しようとすると近くの茂みがガサガサと動き始める。また、ヨクバリス達かと警戒するが、そこから現れたのは別行動中のリコとドットだった。
「ジン!ロイ!」
「なんか叫び声がしたけど大丈夫?」
どうやら戦闘開始前のホゲータの気合の入った声が森中に響いていたようで、2人は何かあったのかと心配して駆け付けた様だ。
「うん!大丈夫!ちょっと野生のポケモンたちに襲われたけど追い返してやったから!」
「ホンゲ!」
ロイはジンと共に行動していた為、リコ達も然程は心配していなかったのだがロイたちの元気そうな様子を見て一安心した様だ。
「こっちは必要な木の実を集めたぞ?そっちはどうだ?」
「こっちも大丈夫!」
リコはそう言いながら背負っているリュックの中を見せる。中にはテラパゴスと一緒に大量のモモンの実が詰まっていた。カレーを作るには十分な量だろう。
「それじゃあ、戻るとするか……っ!?」
両チームともに必要な分の木の実を回収した為、フリードたちの待つキャンプ地に戻ろうとする。しかしその瞬間、突然、地面が大きく揺れ始め木から実っていたクラボの実が落ち、近くにいた鳥ポケモンたちが一斉に飛び去っていく。
「な、なにっ!?」
「じ、地震!?」
「……いや、違う」
リコ達はこの揺れを地震だと思った様だが、ジンは別の可能性に気が付く。ジンも最初こそ地震かと思ったが、この揺れは最初は弱く徐々に強くなってきている。これではまるで何かが近づいてきているようだった。
「気を付けろ!なにか来るぞっ!」
ジンが警戒を示した方角、そちらを全員が向く。少しすると森をかき分けると音と共に地響きの正体がその姿を現した。そこに現れたのは黒と白を基調にし、体が真ん丸に太った怪獣の様な見た目をしたポケモンだ。
「か、カビゴン!?」
突然、現れたカビゴンはジン達に目もくれずにクラボの実の木に駆け寄ると落ちているクラボの実を器用に1つ1つ拾い上げ、口の中に放り込んでいく。あっという間に落ちていたクラボの実を食べたカビゴンは続いて少し離れた場所にあるジン達が集めたクラボの実に狙いを定めた様で移動を開始しようとする。
「あぁっ!?食べちゃダメ!ホゲータ!」
「ホンゲェ!」
「『かえんほうしゃ』!」
ホゲータは木の実を守る為にいつも以上に強力な『かえんほうしゃ』を発射する。発射された『かえんほうしゃ』はカビゴンの特徴的とも言えるその大きなお腹に命中した。
しかし……
「嘘っ!?」
カビゴンは『かえんほうしゃ』の事など全く気にせずに歩み続け、ジン達の集めたクラボの実に近づいて行く。
「き、効いてないの?」
「ジン、もしかしてあいつ……」
「あぁ、多分、特性が『あついしぼう』なんだと思う」
『あついしぼう』、炎タイプ・氷タイプの技を受ける時、威力が半減されるという効果のある特性だ。しかし、この特性はあくまで威力を半減させるだけでダメージを受けないわけではない。それにも関わらず、あそこまで悠然としているのは特防の高さと体力の多さ故なのだろう。
「ふむ……」
驚異的な耐久力と体力を持つカビゴンに興味が出たジンは改めて観察を開始した。カビゴンの大きさは平均2メートル程の筈だが、よくよく観察すると軽く3メートルは超えている。六英雄のオリーヴァなどと比べれば常識的なサイズではあるが、この大きな体があの耐久力を生んでいるのは間違いない。
「だったら……『だいもんじ』!」
「ホッッッゲェッ!」
『かえんほうしゃ』では止められないと感じたロイは最も威力の強い『だいもんじ』をホゲータに指示する。ホゲータは数秒、炎のエネルギーをチャージすると口から『だいもんじ』を発射した。
「カンビィ!」
迫り来る『だいもんじ』を前に流石にカビゴンも木の実から目を逸らし反撃へと移る事を決めた様で、右腕を白く光らせ『だいもんじ』を殴りつける。数秒間の押し合いの末にカビゴンは『だいもんじ』を空へと打ち飛ばす。
(『アームハンマー』か……なかなかの威力だな)
食事を邪魔された事に怒ったカビゴンは『アーマハンマー』の構えのまま、ホゲータに接近してくる。カビゴンの動き自体はその巨体の影響もあり然程、速くない為、避けることは容易い。しかし、反撃の糸口が掴めない様だ。
ホゲータがあのカビゴンにまともにダメージを与えられるとすれば『だいもんじ』しかない。しかし、今のホゲータが『だいもんじ』を撃つには、少しばかり溜めの時間が必要だ。いくら、カビゴンの動きが遅いとはいえその時間を与えてくれそうにはない。
(根比べするにはちょっと相手が悪いな……)
『だいもんじ』以外の技でもほんの僅かにではあるが、ダメージを与えることは出来る。ヒットアンドアウェイで攻め続ければいつかは倒せるかもしれないが、相手は体力も多く『ねむる』という回復手段を持つカビゴンだ。先にホゲータが倒される可能性が高い。
「カンビィ~」
カビゴンは『アームハンマー』を中断し、その場で立ち尽くす。前後の様子から攻撃に疲れた為、動きを止めた様にも見えたが、遠巻きに見ていたジンにはまるで獲物が近づくのを待っている様にも感じられた。
「チャンス!ホゲータ突っ込んで『かみつく』!」
ロイはそれをチャンスと捉えたようで一気に接近するように指示する。ホゲータもそれに従い、カビゴンに向け突撃する。その瞬間、カビゴンは口を開きそこからピンク色のシャボン玉の様な物を発射しホゲータを包み込む。
「ホ?……ホゲェ……ホゲェ……」
「あぁっ!?ホゲータ!?」
ピンク色のシャボン玉、『あくび』を正面から受けてしまったホゲータはその場で眠りについてしまう。少しすれば眠りから目覚める筈だが、あの様子では暫くは起きそうにない。戦闘継続はもはや不可能だろう。ロイの残りの手持ちポケモンであるカイデンと交代したとしても、カビゴンとのレベル差を考えると勝ち目がないのは明白であった。
(今のは『あくび』か。普通にバトルしても倒せたろうに、頭がいいんだか面倒くさがりなのか判断しにくい奴だな……)
しかし、耐久力だけでなく『アームハンマー』からの物理攻撃も強く、『あくび』の様な変則的な技も使いこなす辺り、かなり器用である事は確かだ。技を使うタイミングからしてもバトル慣れしていることが窺い知れる。多少、鍛え上げれば即戦力になる事は間違いない。
「ホゲータ……こうなったら!」
「ロイ、選手交代だ」
「待って!もう一度……」
「ホゲータを連れて下がってろ。後は俺がやる」
「は、はい……」
ロイはホゲータとカイデンを交代させて、もう一度バトルを続けるつもりであった様だが、ジンの顔を見た瞬間に諦めてしまう。ジンの顔はまるで獲物を見つけた獣の様であり、邪魔をする事は許さないと物語っていたからだ。それに加えて、先程のバトルでロイ自身もあのカビゴンとのレベル差を感じ取っていた為、ホゲータを回収するとリコ達の元にまで下がっていく。
「カンビ……」
ホゲータを倒し、木の実を食べに行こうとしていたカビゴンだが、ジンの存在に気づき警戒し始める。ポケモンを出す前だというのにジンが発している強者のオーラが「くろいてっきゅう」の様な重圧と化してカビゴンの足を止めさせた。歴戦たる野生の本能がカビゴンに対して“食欲よりも臨戦態勢を優先させる”という異常事態を齎す。
「カビゴン、お前……なかなかいいぞ」
静かに微笑を浮かべながら、ジンはポケットからモンスターボールを取り出し、カビゴンに向けて宣戦布告するかの様に構える。
「さぁ、楽しませてくれ……」
ガラル地方のポケモンを出そうとも考えていたのですが、昔からカビゴンが好きなので登場させる事にしました。