今回の話ですが、ラプラス海賊団並びにダイアナに対して結構、アンチな事を書いています。読む際にはそれをご理解の上でお読みください。
海面から船首に立つジンの事を忌々しそうに睨みつけるラプラス、それに対しジンはとても冷たくまるでゴミクズでも見るかの様な視線を送り返す。その事が益々、ラプラスを怒り狂わせた。
「ホゥオォォ!」
怒りに震えるラプラスは船首にいるジンに向かい、一直線に海を進み突進していく。
オリーヴァなどに比べれば常識的な大きさではあるが、それでもこのラプラスもかなり巨体だ。突撃など受ければジンは勿論、船にも甚大なダメージを受ける事になるだろう。
「迫力はあるな……だが、隙だらけだ。『アイアンヘッド』!」
しかし、その瞬間、水中から1体のポケモンが急上昇しラプラスの胴体を目掛けて強烈な頭突きを決め進撃を食い止める。
「ミィロォォォ!」
ラプラスを食い止めたのは白い霧が現れるよりも前に海に放っていたジンのミロカロスだ。
ミロカロスはジンの指示を受け、いつでもラプラスが現れて戦闘になってもいい様に船の下でずっと待機していた。そして、白い霧が現れ、ラプラスが船に迫っていくのを見た事でジンの懸念が正しいと理解し、自分の射程圏内でラプラスの警戒を続けていた。
「ホォッ!」
予想外の攻撃を受け、ラプラスはダメージを負った様だが、直ぐに立て直しお返しと言わんばかりにミロカロスに全速力で突撃をくらわせる。ミロカロスはその勢いで船の付近にまで吹き飛ばされた。
(……大したパワーだ。ただ、突撃しただけでこの威力とはな……腐っても六英雄って訳だ)
通常のポケモンであれば、今の突撃をまともに受ければそれだけでかなりのダメージになっていただろう。このラプラスも他の六英雄と同じく、常識を超えた突然変異をしたポケモンなのかもしれない。
(だが、今のミロカロスなら……)
ラプラスから痛烈な突撃を受けたミロカロスだが、難なくその状態から姿勢を持ち直して見せると、まだまだ戦えると言わんばかりに優雅な笑みを浮かべながら戦意を露にする。
「っ!?」
その光景にラプラスは驚愕した様子を見せる。倒しきれるとまでは思っていなかったが、それでもここまでダメージが薄い事は計算外だった様だ。
(……準備しておいて正解だったな)
ジンはそう思いながら、片手に握られていた空の小瓶を見つめる。それはミロカロスが船を飛び降りる前に飲ませたものが入っていた小瓶だ。
小瓶の中に入っていたのは以前、テペンから『自家製超強力眠り粉』と共に買い取った『自家製超強力火傷薬』だ。それを飲んだことでミロカロスは火傷状態になったが、それと引き換えにミロカロスの特性『ふしぎなうろこ』の効果で防御力が1.5倍に上昇している。
(ミロカロスは元々、耐久力のあるポケモンだが、事前に準備した甲斐もあって今はいつも以上に硬い。正直、俺も敵としては出会いたくないな……)
しかも、やけど状態によって受けるダメージは事前に『アクアリング』を使う事で効果ダメージ以上の回復が出来ている。更にミロカロスに持たせた道具『かいがらのすず』により相手にダメージを与える度に体力を回復できるようにもしている。
(……少し、同情したくもなるが海賊相手に手は抜けない)
「ミロカロス!海に潜れ!」
ミロカロスは再び海中へと姿を消した。先程と同じく真下からの攻撃を警戒したラプラスは慌てて海に潜り後を追おうとするが、ジンはそれよりも早く新たな指示を出す。
「『たつまき』!」
ラプラスが海に潜ろうと体を沈めた瞬間、水中から『たつまき』が舞い上がる。その『たつまき』に飲み込まれ、ラプラスは海上へと強制的に戻された。
「ラプラスを囲め!」
ラプラスが体勢を戻すよりも早く、ミロカロスは更に3つ『たつまき』を生み出し、計4つの『たつまき』がラプラスを囲うように展開していく。
「ほ、ホォ……」
『たつまき』を檻の様に展開され、ラプラスは完全に逃げ場を失ってしまう。更にそれだけでは終わらない。ミロカロスは水中から4つの内の1つの『たつまき』を操り、ラプラスの死角から接近させダメージを与える。
「っ!?」
ミロカロスはダメージを与えた『たつまき』はすぐさま距離を取らせ、また別の『たつまき』を操り更なるダメージを与え続けて的を絞らせない。繰り返される攻撃に体力のあるラプラスも流石に苦しそうだ。
「……まさかとは思うが、それで終わりか?」
確かにその体格とパワーには目を見張るものがある。しかし、バトルの腕前に置いては正直、ガラルファイヤーなどと比べればそこまでではない。それが現段階でのジンの感想であり所詮は海賊、そんな評価が下されようとしていた。
「っ!?ホォォォォォォ!」
侮蔑、落胆……そんな感情を隠そうともしないジンの反応に怒りを強めたラプラスは雄たけびを上げるとその場で歌いながら頭上に水の球を作り上げる。その水球は途端に弾け飛び、複数の水玉として4つの『たつまき』に向け発射した。
「……こいつはまた」
ラプラスの放った『うたかたのアリア』により、4つの『たつまき』は全て消し飛ばされた。フィジカルだけではない。どうやら技1つ1つが強力な威力を持っている。そう認識して挑む必要があると再確認する。
(しかし、特性が分かるまでは下手に水タイプの技は使えないしな……)
ラプラスの特性は『ちょすい』、『シェルアーマー』、『うるおいボディ』のいずれかだ。もしも、『ちょすい』であった場合、水タイプの技は無効にされる上に体力の回復までされてしまう。奇襲と予想外の戦法でここまで体力を削ったのだ。確証もない内に水タイプの技を使うのは得策ではない。
(仕方ない。ちまちま削っていくか……)
少々、根比べになるが、今のミロカロスであればそれに耐えきる自信がある。そう判断したジンは持久戦を視野に入れた戦法を繰り出そうとした。
「ホォォォォォォォォォォォォォォ!」
その瞬間、突然、ラプラスが大声を上げ始める。戦意を上げる為でもなく、こちらを威嚇する為でもない、まるで何かを呼びかけた様な叫び。そんなあまりの大声にジンも一瞬、動きを止めてしまう。
「……なんだ?」
大声を上げたものの全く、動く様子を見せないラプラス。その行動に疑問を感じたジンは一旦、様子を窺う事にした。
「……っ!?これは……」
数秒の間、互いに様子を窺っていると突如、船が再び揺れ始めるが手すりを掴んだ事でジンは事なきを得た。咄嗟に視線を横に向け、その揺れの正体を探る。それにより船に横付けしていたラプラスの仲間と思われるホエルオー達が船から離れた際の物だと判明した。
(……そういう事か)
なぜラプラスが大声を出したのか。それは船に乗り込んでいた仲間を撤退させる為の合図だ。この状況での撤退、理由があるとすれば大きく分けて2つだ。
1つ目は勝負も略奪も諦めてこの場から逃げ出す為、これがある意味、一番合理的な判断と言えるだろう。今までの霧に紛れてこっそり盗むのとでは状況が違う。諦めて撤退するのが現実的だが、ラプラスの目を見る限りバトルを捨てたとはジンには思えない。
(となるともう1つの可能性か)
もう1つの可能性、それは……仲間を巻き込まない為。船の中腹にいる仲間たちすら巻き込んでしまう程の大技を使う。それに巻き込まない為に引き上げさせた。そう考えるのが妥当だろう。
「はっ……上等だ。ミロカロス!」
ジンの声を聞いたミロカロスは水中から這い上がり、船とラプラスの間に入り込んだ。それに対しラプラスは、ホエルオー達が船を離れていくのを見ると口元に白い冷気のエネルギーを集中させ始める。
「ホォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
ラプラスの口から強力な『れいとうビーム』が発射される。撃ち出した瞬間に周りの海を凍らせる程の冷気、それが一直線にミロカロスに向かって突き進んで向かってくる。
「『ミラーコート』!」
ミロカロスは体を虹色に光らせ『れいとうビーム』を受け止める。本来であれば直ぐにでも倍にして跳ね返すのだが、あまりにも強力な為にそれも難しい。互いに死力を尽くした技に時間にして数秒、あるいは数十秒と時間が経過していく。
第三者から見ればあっという間の出来事なのかもしれないが、その場にいた者達にはまるで無限の様に感じる程に長い時間だった。だが、どんな勝負にも決着はつく。そして、この勝負に打ち勝ったのは……
「ミィロオオオオオオオオォォォォォォォォ!」
最後に耐え抜いたのはミロカロスだ。ミロカロスは多大なダメージを負いながらも『れいとうビーム』を跳ね返し、逆にラプラスにダメージを与えた上にその周囲を凍らせ動きを阻害する事に成功する。まさか自分自身が氷に封じられるとは思ってもみなかったのか、ラプラスの表情が驚愕に染まる。
「ミロカロス!ラプラスに巻き付け!」
ここが勝機、そう判断したジンはミロカロスに指示を出す。ミロカロスは傷ついた体に鞭を打ち、海上を滑る様に駆け抜けると、氷により身動きが取れないラプラスの体に巻き付いて動きを完全に封じ込めた。
「そのまま連続で『アイアンヘッド』!」
ラプラスの動きを封じるとミロカロスはラプラスの首に向け『アイアンヘッド』を連発していく。ただでさえ、傷ついた体に連続で来る攻撃は大ダメージとなりラプラスを苦しめる。それに対し、ミロカロスは『かいがらのすず』の効果で体力を回復させ、攻撃の度にその差を広めて行く。
繰り返される『アイアンヘッド』を受け続けラプラスには最早、体力は残っていない。今もされるがままに攻撃を喰らい続けている。このまま行けば程無くして意識を失い、戦闘不能となるだろう。まさにチェックメイトと呼ぶに相応しい状況であった。
(……どうやら勝ったな)
しかし、ジンが勝利を確信した瞬間、ラプラスの背後から予想外の乱入者が現れる。
「ホエ~~~~~!」
それはラプラスの仲間のホエルオー達だ。彼らは自分達の射程圏内まで近づくと一斉に『みずでっぽう』をラプラスに絡みつくミロカロスに向けて発射する。
「……ミロ」
だが、ミロカロスには殆どダメージはない。僅かに鬱陶しいと感じる程度だ。タイプ相性もあるが、それ以上にレベルに差がありすぎる。
(強いのはラプラスだけ。それ以外は有象無象の雑魚だ)
所詮は霧に隠れて盗みを働く事しかできない小悪党どもだ。まともなバトルなど殆ど経験していない事が技から伝わってくる。このまま放置していても何の支障も出てこないだろう。
「ホーーーー!ホォォォ!」
ミロカロスに敵う筈もない。それはジンだけでなくラプラスも同じ考えだ。その為、自分が抵抗している今しか仲間達を逃がすチャンスはないと考え、懸命に逃げる様に叫び続ける。
(仲間想いな事だ……)
ラプラスにしろホエルオー達にしろ、本気で仲間を大切にしているその気持ちには一切、嘘はない様だ。現にラプラスの命令も聞かず、ホエルオー達は今も懸命にラプラスを救い出そうと奮闘している。やがて遠距離攻撃では効果がないと判断したのかホエルオーは限界ギリギリまで接近し近距離攻撃に移行しようとする。
「…………仕方ない。ミロカロス!一旦、離れろ!」
いくら弱かろうとも10体を超えるポケモン達から総攻撃を喰らえば流石のミロカロスもラプラスを抑え続ける事は難しい。ラプラスを倒しきるチャンスではあったが、一旦、仕切り直す他に選択肢はなかった。
「ホエ~~~~~~!」
解放されたラプラスをホエルオー達が囲み、まるでミロカロスから守る盾の様に立ち塞がる。するとホエルオーは頭頂部の鼻孔から『しろいきり』を吹き出し、その中に紛れ込んでいく。程無くして霧は消え去ったが、そこにはラプラス達の姿は既に存在しなかった。
「『しろいきり』、あいつも使えたのか……少し計算外だったな」
だが、過ぎた事を悔やんでも仕方がない。こうなってしまった以上、ここでやれる事はない為、ジンはミロカロスをモンスターボールへと回収する。
『ロトロトロト!ロトロトロト!』
ミロカロスを回収するとスマホロトムに通信が入る。通話をかけてきたのはリコだ。
『ジン!大丈夫!?』
「……心配どうも。お陰様で大丈夫だ」
ジンが返事をするよりも早く容態を確認してくる辺り、リコがどれだけ心配していたのかが伺える。
「だが、ラプラスには逃げられてしまった。俺の読みが甘かったみたいだ」
『そっか……あっ!フリードが詳細を知りたいからミーティングルームに来てって言ってるよ』
「分かった。直ぐに行く」
***
ミーティングルームに全員が集合すると、ジンとフリード以外のメンバーは早速、今回の顛末についての説明を求めた。彼らはジンとフリードの指示を受けてはいたが、事情は何も聞かされていなかったのだから当然の反応だろう。
「みんな見ただろう?霧の中、ラプラスが歌で俺達の注意を引きつけている内に仲間のポケモン達が船に近づき、積荷の食料をごっそり頂いて行くって言う寸法だ」
「それが……白い霧の歌声の正体?」
「あぁ、貨物船の船長さんもまんまと騙されたわけだ。貨物を奪った張本人だとも気づかずにな」
「よく見抜いたな……」
「見抜いたのは俺じゃない。ジンだよ」
全員の視線がフリードからジンへと移る。船に乗ったばかりの頃なら、いざ知らず、ここまで一緒に冒険をした仲間達であればジンがラプラス達の正体を見破った事に何の疑問も抱かない様だ。
「ヒントはいくつかあった。突然の霧の発生、そして根こそぎ失われた食料……どっちか1つだけだったら偶然だと思ったかもしれない。だが、2つも同時だなんてどう考えても変だ」
もしも理由を一つ付け足すとすれば、それはジンが他のラプラスに関わった人達よりもやや捻くれた性格をしている事だろう。人にもポケモンにも善意はあると信じるがそれと同じ様に悪意もある存在だと知っている。だからこそ、この犯行に気がついたのかもしれない。
「たったそれだけのヒントで……やっぱり、凄いね」
「だが、取り逃がした。正直、不覚だったよ」
ジンとしては出来る事ならば、あそこで確実に捕縛したいと思っていた。あの海賊団がジンの知る海賊とは違い、思っていた以上に強い絆を持っていた事それだけは計算外だった。
「ラプラスは様々な地方を巡って仲間を集めたのかもしれないね。差し詰めラプラス海賊団って訳か」
「ポケモンがチームを組むなんて……」
「あぁ、高い知能とは聞くがここまでとはな……」
「だから2人には本当に食料を取りに来るのかを確かめてもらったんだ」
「先にそれを言えって!焦ったんだから!」
「悪いな。それは俺が提案したんだ。皆には出来るだけ自然体でいて欲しかったんでね」
マードックの言う様にラプラスは頭のいいポケモンだ。万が一にでも怪しい動きを見せれば襲撃そのものをやめる可能性がある。もしも、そうなればラプラスを捕まえるどころか出会う事さえも難しくなる。
「でも……ラプラス達はどうしてこんな事を?」
「本当だよ。人の木の実やポケモンフーズを盗むだなんて」
「悪い事だと思うかい?」
ラプラスの行いをリコとロイは咎める様に話しているとダイアナが諭すような口調で話しかける。
「私達からすればそうかもしれない。だけど、ラプラスからしてみたらどうだろうね?」
「ラプラスからしたら?」
「そうだ。協力し合って食べ物を手に入れ仲間達と分かち合う。私らの考える良い悪いじゃない。それが彼らの生き方、自然における1つのあり方さ」
「おばあちゃん……」
「ポケモンと人間はこの世界で様々な形で共存している。一緒にいるだけが全てじゃない。けどね……ポケモンと人間を繋ぐ者、それがポケモントレーナーなんだ」
ダイアナの言葉をリコは真剣な表情で聞き、深く頷いた。
確かにダイアナの言う事には一理ある。生きる為に誰かから食料を奪わねばならない、そんな時は確かにあるのかもしれない。自然における1つのあり方なのも否定はできない。
だが……
「いや……それは違う」
ジンはダイアナの言葉に対し、真っ向から対立する。
「確かにダイアナさんの言い分には一理あると思う。だけど、それは奪う理由にはなっても許される理由にはならない」
もしも彼らが野生のポケモン同士で奪い合いを行うのであれば、自然の1つと受けいれただろう。しかし、彼らは人間の領分に手を出した。それが許されることだとはジンには思えない。
「この世界で人間とポケモンは一緒に生きている。全員が仲良くしろなんて言わない。だけど、一緒に生きているからこそ、犯してはいけない事、壊してはいけないものがある。だが、それを奴らは壊そうとした」
「……私は長年、白い霧の歌声の正体を探った。そこで略奪をしたなんて情報は一切なかった。彼らは暴力を好んでいるわけじゃない」
「彼らの性格はこの際どうでもいい。たとえ、どれだけ善良であったとしても何をしでかしたのかが問題なんです」
人間に置き換えるならば、例えどれだけ善良で周りから愛されていようとも犯罪を犯せば平等に法で裁かれる。事情によっては同情されるかもしれないが、それは捕まえてから判断すべきことだ。
「それに暴力を好まないと言いますが、霧が晴れて密航がばれた時、奴らは食料を奪う為に、暴力に訴えて来たんじゃありませんでしたか?」
本当に暴力を嫌っているならば、あの時点で撤退に移る筈だ。だが、彼らはそうせずに戦って奪う道を選ぼうとした。つまり、暴力を好まないにしてもある程度は容認しているという事だ。そこに彼らの本質が現れている。
「今回、怪我人が出なかったのは連中の戦力がこちらよりも遥かに下だったからだ」
もしもそうでなければ怪我人が出ていたかもしれない。ましてやこの間、訪ねた船長の貨物船の様な小さな船であれば海賊達の攻撃でどこかを破損し転覆していたかもしれない。そうなっていれば、怪我人どころか死者すら出ていた可能性がある。
もしかすれば……ジン達が知らないだけで、人知れずそうなった船がもしかしたら既にあったのかもしれない。
「確かに連中のやり口は巧妙でした。だけど、俺が気づいたようにいつか他の誰かが気づく時が来るかもしれない。その時、その人がポケモンを持っていなかったら。連中に襲われ怪我を負わないなんて保証がどこにあるんですか?」
「それは……」
「ダイアナさん。あなたはポケモンと人間を繋ぐ者、それがポケモントレーナーだと言いました。だけど、凶暴なポケモンや犯罪者から罪のない人々を守る事、それもポケモントレーナーだと俺は思います」
少なくとも、あの人の良い船長とその部下たちに罪があったとは思えない。あの船長は今でもラプラスの事を信じ感謝をしていた。
「今まで人の善意に付け込み、食料を奪ってきたあのラプラス達に俺は問いたい。奪った相手から感謝の言葉を告げられた時、お前たちの羞恥心は一体、どこにあったのかと」
「っ!?彼らが……恥知らずだと言いたいのかい?」
「……そう聞こえなかったなら、俺の言い方が悪かったんだと思いますよ」
「あんた!?」
ジンの物言いに流石に頭に来たのかダイアナは勢いよく立ち上がり、詰め寄ろうとするがジンは片腕を伸ばし制止する。
「俺はダイアナさんの事を尊敬しています。それに繰り返し言いますが、ダイアナさんの意見には一理あると思いますよ。ただ、この一件に関して俺とあなたの意見は平行線だ」
ダイアナはポケモンの視点から、ジンは人間の視点からこの問題を見ている。それは加害者と被害者と言い換える事もできる。どちらかに偏ってみる以上、残念ながら2人の意見が交わる事はないのだろう。
「じ、ジン!おばあちゃん!……あ、あの……えっと……」
ジンとダイアナの間に流れる不穏な空気に耐え切れず、リコが慌てて間に入ろうとする。しかし、何と言えばいいのか分からない様でひたすらあたふたしている。だが、リコのその姿はジンとダイアナが頭を冷やすきっかけにはなった。
「はぁぁ……一旦、休憩にしよう」
「そ、そうだな!」
「賛成だ!お菓子作るよ!」
不穏な空気に耐え切れなかったのは他のメンバーも同じ様で、一旦、休憩を挟む事に全員が賛成した。
「この話はラプラスの件が片付いてからだ」
まだ続ける気なのか。口にこそ出さなかったが、ジンとダイアナを除く全員が同じ事を考えた。救いがあるとすればラプラスが見つかるまでの間は猶予が出来た事だけだろう。
「……でもラプラスがどこにいるのか分からないよ」
「もうあっちから現れそうにないね」
「そんな……」
あそこまで一方的にやられたのだ。ラプラス達としても、もうこの船に近づきたいとは思わないだろう。誰一人として諦める気などなかったが、探す手段が思いつかずに困り果てている。
「心配ない。居場所は直ぐに分かる」
しかし、ジンはラプラス達の行方について既に解決策を見出していた。
「ボーマンダとサーナイトが連中を追ってる。直ぐに奴らのアジトを突き止めてくれるよ」
白い霧が発生するよりも前にボーマンダはサーナイトを乗せ空の上に放っていた。2体は襲撃を受けている最中も防衛には一切、参加せず、ジンの指示通り空の上で待機していた。
「アジト?そんなのがあるの?」
「絶対にある。いくらホエルオーが巨大でもあの背中の上に全ての略奪品を乗せて移動する事は難しい。どこかに必ず保管場所がある筈だ」
加えて、あの海賊団には陸上ポケモンもいた。彼らの為にも落ち着いて生活する事の出来る陸地が必要になる。
「まさか……こうなる事が分かってたの?」
あまりにも準備が出来すぎている。その事から、もしやこの状況すらジンの狙い通りなのではないかと驚愕を乗り越え恐怖すら抱き始めていた。
「それこそまさかだ。俺はあの場でラプラスを仕留めるつもりだった……これは、ただの保険だよ。逃げられてもいいように二重三重と罠を仕掛けておいただけだ」
「だけって……でも大丈夫なの?気づかれたりしない?」
「心配ない。ボーマンダには常に雲に隠れる様に指示してある。連中からは姿は見えないし、こっちはサーナイトのエスパー能力もある。万が一にも取りこぼしはないよ」
更にラプラスは先程のバトルの影響で海中と海面に注意が向いている筈だ。あのボロボロの状態でまだ見ぬ空の敵にまで注意を向けることは出来ないだろう。
(……仮にラプラスが万全でも気づきはしないだろうけどな。狩るのはいつでも自分達、狩られる立場になるなんて想像すらしない。それが海賊の愚かしさでもある)
「ウイングデッキでボーマンダたちの帰りを待つ。後は皆で好きにやっててくれ」
ジンはそう言うとその場から立ち上がり、ミーティングルームの入り口に向け歩き出した。
***
ミーティングルームを後にし、ウイングデッキへとやってきたジンはバトルフィールドの中央で寝そべり空を眺めながら、ボーマンダ達の帰還を待っていた。
「はぁぁぁぁ……ちょっと言い過ぎたか」
しかし、こうして1人でいると嫌でも先程のミーティングルームでの出来事を思い出してしまう様でジンは大きくため息をつきながら自分の言動を反省する。
「……ん?」
戻った時にどう先程の話をどう切り出した物かと考えていると、ウイングデッキに繋がる展望室の扉が開きある人物が入って来た。
「ジン……」
そこから現れたのはリコだ。ニャオハもミブリムも連れずに現れた彼女はウイングデッキに降りるとそのままジンの隣に座り込む。そのまま2人は何も言葉を発する事なく無言の状態が続く。
「……さっきは悪かったな。空気を悪くしたし、リコを板挟みにさせた」
やがて無言の時間が苦しくなったのかジンはリコに謝罪をする。
「気にしないで……ジンの言ってた事、間違ってないと思うから」
「本当か?てっきり、リコはダイアナさん派かと思ったよ」
「……おばあちゃんの話を聞いた時はそうだったよ。だけど、ジンの話を聞いて、あの船長さんの事を思い出したら、どっちが正しいのか分からなくなっちゃった」
ジンとダイアナ、どちらの言い分にも一理あり、どちらかが正しいとか間違っているなどとはリコには断言することが出来なかった。
「…………ジンって海賊の事が嫌いなの?」
「……そう思うか?」
「うん。だって、ジンの様子がいつもと全然、違ったから」
リコの知る限り、ジンはエクスプローラーズが相手でもあそこまで嫌悪感を見せる事はない。だが、今回のラプラス海賊団に対しての反応は明らかに違う。リコでなくてもそう感じるのは仕方がないだろう。
「話したくないなら無理に話せなくてもいいよ……だけど、私はジンの事は何でも知っておきたいから、出来たら話して欲しいかな……」
恋人の事をもっとよく知りたい。そう考えるのは当たり前の感情だ。しかし、ジンの態度から人には話したくない深い過去があるのではないかと思ったリコはそう口を濁す。
「……リコの想像通り、俺は海賊が嫌いだよ。でも、別に俺が何かをされた訳じゃない」
「……本当に?」
「あぁ、ホウエン地方を旅をしてる時に海で何度か襲われた事はあるけど、それだけだ」
(それだけって……)
普通は海賊に何度か襲われれば、それだけで嫌う理由には十分だと思われるのだが、ジンの場合は特別である。そもそも巻き込まれ体質のジンからすればその程度で嫌いになっていれば、今頃は海賊だけでなく犯罪者や悪事を働くポケモン全般も嫌いになっていただろう。
「まぁ、それは別にいい。襲ってきた奴は全員、返り討ちにして刑務所に送ったし、そいつらのアジトにいた仲間達も纏めて根絶やしにしたから特に遺恨もない」
(根絶やしにしたんだ……)
悪運が尽きたとでも表現すればいいのだろうか。犯罪者ではあったとしても、広い海で手を出してはいけない存在が乗船していた船を襲撃してしまった海賊達にリコは思わず同情してしまう。
「でも、だったらどうして?」
「そうだな……まずは、ホウエン地方について説明しようか」
ホウエン地方、ジンの生まれ育った地方であり、現在、確認されている中で最も海の広い地方とも呼ばれている。その中には陸地とは繋がっていない街も存在しこの地方を旅する以上、海上の移動は不可欠な程だ。
そしてこの地方にはかつて、マグマ団とアクア団と呼ばれる組織が存在した。両組織はホウエン地方に伝わる伝説のポケモンのグラードンとカイオーガの力を利用しようと目論んでおり、その目的はポケモンや人間が住むことのできる場所を広げる事とも世界征服とも言われていた。
「だけど2つの組織はある日、突然、解散した」
理由については諸説あるが、最も有力視されているのは、グラードンとカイオーガの力を制御する事が不可能だと悟った為と言われている。
「だが、それでめでたしめでたしとは行かなかったよ」
物語であればそれですべて解決したのだろうが、組織が解散しようともそこに属していた人間達までこの世から居なくなる訳ではない。組織がつぶれた事で両組織に属していた者達……特に下っ端に位置していた者達が暴走を始めたのだ。
マグマ団に属していた者達の中には密猟者や強盗、変装能力の高い者は怪盗などになる者がいたそうだ。そして、アクア団に属していた者達の多くは組織解散後のどさくさに紛れて盗んだ潜水艦などを利用し海賊になった。
「ホウエン地方には昔から海賊がいたが、その時を境に数が急増した。そして、海賊の被害を受ける人も当然、増えたよ」
ジンは旅の最中、海賊の被害に受けた人々を数多く見て来た。被害が積荷だけで済んだという人もいたが、中には積荷だけでなくポケモンを奪われたという人や暴力により大怪我を負ったという人も当然、存在する。
「俺の知る限り、海賊なんて連中は自分達の目的の為なら、平気で人を傷つける。しかも何の生産性もない。ただ奪うだけの連中だ」
海賊による被害のせいで人生を大きく狂わされた人々をジンは何人も見て来た。そんな人達を見ると、なぜあんな連中の為に罪のない人々が苦しまねばならないのかと怒りに震える。
「ダイアナさんの言い分は認める。認めるが……ラプラス海賊団が生きる為に今後も被害を受ける人がいる事を俺は許容できそうにない」
ここでラプラス海賊団を野放しにするという事は今後、彼らが行うであろう海賊行為により被害を受ける人々に対し、ジン達にも責任が発生するという事だ。ジンにはそれが我慢ならない。
「でも、ラクアに行く為には……」
「……分かってる」
ジン達の目的はテラパゴスをラクアへと連れていく事だ。この目的を果たす為には六英雄の助けが必要であり、その為にはラプラスにも協力を取り付けなくてはならない。
「ジン……私にラプラスと話をさせて」
「……リコ」
「テラパゴスをラクアに連れて行く為にラプラスに一緒に来て貰う様に説得する。ラプラスが私達と一緒に来てくれれば海賊団も解散するしかないでしょう?」
どうやらここに来た一番の理由はこの話をする為だった様だ。ダイアナやジンの考えを聞き、ラプラス達の事をリコなりに懸命に考えた上でこの結論に至ったのだろう。
だが……
(説得が上手くいってラプラスが抜けたとしても解散になるのか……)
確実にそうなるという根拠は何一つとして存在しない。リコの考えは、そうなって欲しいという願望に近い考え方だ。
撤退の間際にホエルオーは『しろいきり』を使用していた。あの技が他のポケモンにも使えるのであれば恐らく彼らはラプラスの抜けた後も同じやり方で海賊行為を行うだろう。一度、身に着けた奪うという習性を簡単に切り捨てる事は野生のポケモンには難しい筈だ。
(……まぁ、いいか)
策として不完全だったかもしれない。だが、リコが自分で考え自分に提案してきた。その事がジンにとっては重要な事だった。どこかジンに任せきりになっていたリコにとってこれは大きな成長と言えるだろう。
「……分かった。リコに任せるよ」
「え!?本当にいいの!?」
「……自分から提案しといてその反応はないだろう」
実際、リコの言い分は決して間違ってはない。もしかすれば、リコの言う様に主戦力であるラプラスがいなければ海賊行為を辞める可能性がある以上、その策を否定する必要はない。
「あぁ、テラパゴスの為に出来ることをやろう。それ以外の事は後で考えれば……ん?」
そこまで言うとジンは急にその場から立ち上がると空に視線を向ける。リコもそれにつられ視線を送ると小さな飛行物体がこちらに近づきつつあることに気づく。目を凝らしてよく見るとそれは追跡を任せたボーマンダとその背に跨ったサーナイトだった。
「帰って来たな。リコ、悪いんだが、フリードたちをここに呼んできてくれ」
「え?ここに?」
「海賊はアジトを直ぐに転々と移動する習性がある。見つけた時に行かないと手遅れになる場合が多いんだ。急いだほうがいい、ここで逃がすともう見つけることは出来ないかもしれないぞ」
「わ、分かった!直ぐに呼んでくる!」
リコはメンバー達を招集するために慌てて展望室へと戻っていく。その背中が見えなくなるとジンはぽつりと呟いた。
「リコのやりたい様にすればいい。だけど、俺は俺で策を考えておくか……」
VSラプラスというかVSダイアナみたいな感じになっちゃいましたね
アニポケって昔から人間が罪を犯すと罰せられるのにポケモンが罪を犯しても許されるみたいな所があり、そこは納得できないとずっと思っていました。なので今回は長年抱き続けた不満を存分に書いてみた次第です。