ポケットモンスター 新たなる冒険   作:malco

66 / 114

前回のジンとダイアナのそれぞれの意見について、感想やメッセージで様々なコメントを貰いました。やっぱり、考え方は人それぞれですね。

6/25 文章を少し追加しました。


ラプラス海賊団

 

 ジン達が襲われたエリアから少しだけ離れた海域、ここは多くの岩礁に囲まれている。そこには六英雄のラプラスの姿があった。ラプラスはミロカロスとのバトルの後、暫し体を休めると周辺を泳ぎ、警戒に当たっている。

 

「……ッ……ホォ」

 

 ラプラスは岩の間をすり抜け中央に存在する岩でできた小島へと向かう。しかし、ミロカロスとのバトルで受けた傷はまだ完全には癒えていない様で動く度に体が悲鳴を上げている。

 

「…………?」

 

 小島へと近づくと、段々と島の洞窟の中から賑やかな声が聞こえてくる。不審に思ったラプラスは警戒しながら、ゆっくりと中へと入って行く。そこにはラプラスの仲間達と一緒に戯れる人間達が存在した。

 

「来たか……待っていたぞ」

「お、お邪魔してます!」

 

 そこにいたのは先程まで対峙していたミロカロスのトレーナーのジン、そしてリコ・ロイ・フリードの4人だ。

 

「悪いな。お前たちが撤退している所を俺のポケモン達に空から追跡させてたんだよ」

「ホォッ!?」

 

 ジンの説明を受け、ラプラスは衝撃を受ける。バトル終了後、ラプラス達はあの場から逃げる事だけを考えていた。当然、追跡は警戒していたがそれはあくまでも海面や海中だけであり空の警戒などしていなかった……というよりも、あの状況では背後、そして海中にまでしか配慮する余裕がなかったのだろう。

 

「クゥゥッ……」

 

 ラプラスは突然、現れた部外者達、主にジンに対して強い警戒心を見せる。

 

「……そんなに睨むな。もうお前とバトルする気はない……その必要もないしな」

 

 初見の時はラプラスのフィジカルと技の威力に驚かされたが、ジンは既にラプラスの動きを見切っている。またバトルするとしても今度は通常の状態のミロカロスでも倒せると判断した。もう一度バトルする必要性を感じない様だ。

 

「俺はただの傍観希望だ。お前達が何もしないのなら手は出さない。話があるのは彼女だよ」

 

 ジンは両手を上げ戦意がない事を示すとその場から身を引き壁に寄り掛かる。その代わりにリコがラプラスの前へと出た。

 

「ラプラス!私はあなたにテラパゴスに会って欲しくてここに来たの」

 

 ラプラスは視線をリコから逸らす。その先にはラプラスの仲間達に囲まれ、その中心で全員と仲良く話をしているテラパゴスがいた。この短時間で既に友達になってしまったらしい。

 

「しかし、凄いな。もう仲良くなったのか」

「テラパゴス……ちょっと凄いかも」

 

 テラパゴスは良くも悪くも純粋なポケモンだ。一緒の船で生活を共にすればそれがよく分かる。そんなテラパゴスが仲良くするという事は、少なくともここにいる海賊団のメンバー達も根は悪い存在なのではないのだろう。

 

(仲良くか……)

 

 ジンはその光景を複雑な気持ちで見ていた。ダイアナの意見やテラパゴスの行動から、彼らが根っからの悪党でないと分かってはいる。しかし、心に深く染みついた海賊嫌いの気持ちは簡単には消し去る事は難しいらしい。

 

「ラプラス……聞いて欲しいの!テラパゴスはラクアに行きたがってる」

「っ!?」

「あなた達がルシアスと一緒に辿り着いた楽園……それが、どんな所でどこにあるのかも分からないけど、私はテラパゴスの願いを叶えてあげたい。だから、あなたに会いに来たの!嘗てルシアスの仲間だった。あなたに!」

「パゴ!パーゴ!」

 

 リコが必死にラプラスを説得していると、いつの間にか海賊達の輪から抜け出したテラパゴスがラプラスに接近し必死に何かを訴え始める。

 

「お願い!ラプラス!テラパゴスの力になってあげて!」

「パァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」

 

 リコがラプラスに再度、力を貸して欲しいと願う。リコの強い気持ちに反応したのか、テラパゴスが体を輝かせながら、この小さな島全体に響くのではないかと思う程の大きな声を上げる。

 

「古のモンスターボールがっ!?」

 

 テラパゴスの輝くのと同時に、ダイアナから授かったベルトに装着された2つの古のモンスターボールまでもが輝き始める。リコは慌てて2つの古のモンスターボールをベルトから外すと途端にボールは開き、中からオリーヴァとガラルファイヤーが姿を現した。

 

「オリーヴァ……ガラルファイヤー……」

 

 何度試してもボールから出て来る事のなかった2体が、テラパゴスの声に応じて登場するとラプラスを見つめる。同じ六英雄の2体、そしてテラパゴスの想いを聞き入れたラプラスは大きな声を上げ始め、口にエネルギーを収縮させ球体を作り上げる。

 

「あれって……オリーヴァとガラルファイヤーの時と同じ!」

 

 ラプラスはそのエネルギーの球体を解き放つ。球体はどんどん大きくなっていき、その場にいる全ての者を包み込んで行く。

 

 光が収まると、そこは今までジン達がいた小島とは全く違う光景だった。ピンク色の靄に包まれたその場所に戸惑う暇もなく、地鳴りが響き周りにあった岩壁が動き始める。そしてその先には1人の男性がこちらに背を向け立っていた。中世を彷彿させるマントに青と水色の髪、その人物の正体には心当たりがある。

 

『みんな、ありがとう。ここは俺に任せてくれ。俺は死なない。約束だ。ラクアと共に生きて必ずもう一度、お前達と……』

 

 古の冒険者ルシアス、彼のその言葉を最後に景色は戻っていく。情報は少ないが、ルシアスの言動を鑑みるとまるで何者に襲われ誰かを守る為にその場に残ったのではないかと想像させる。

 

「パー!パゴ!パー!」

 

 暫し、その光景の余韻で呆然としていたジン達であったが、テラパゴスの嬉しそうな声を聞き意識を取り戻し始めた。

 

「クゥッ……ホォォォォ!」

 

 テラパゴスとは対照的にラプラスは目から涙を溢れさせると悲しそうな雄たけびを上げる。オリーヴァとガラルファイヤーも同様だ。推測でしかないが、彼らの雄叫びにはもう一度、ルシアスと会いたい。そんな気持ちが込められている様に感じられる。

 

「ルシアスと約束したんだな」

「それでテラパゴスはラクアに……」

「約束……だから、オリーヴァもガラルファイヤーもテラパゴスに……私達に付いてきてくれたんだ」

 

 オリーヴァとガラルファイヤーはそれを最後に古のモンスターボールへと戻っていく。残されたラプラスは息を吐くと、海賊団の仲間達に声をかける。すると島の奥からヤルキモノとガメノデスが1つの木箱を持ち現れ、ジン達の前に置く。

 

「ニャオハッ!」

「ホンゲェ~~!」

 

 その木箱の中には大量の木の実が入っており、ニャオハやホゲータは目を輝かせている。

 

「これは……」

「食べていいって事!」

「歓迎されてるみたいだな」

 

 フリードの言う様にこれは彼らなりの歓迎の証なのだろう。リコ達はその好意に甘え、それぞれ好きな木の実を取り、食べ始めた。

 

「ジン?どうしたの?」

「ジンも食べようよ!すっごく美味しいよ!」

 

 ただ1人、木の実に手を付けずに座っていたジンを心配したリコとロイが話しかけるとジンは渋々と言った様子でそれに応えた。

 

「……いや、何でもない。貰うよ」

 

 ジンはそう言うと、近くにあったモモンの実を取り口に入れる。鮮度も良く一口噛む度に甘い果汁が口の中に広がっていく。

 

 だが……

 

(……鮮度が良すぎる。最近、採取された物だ)

 

 この岩の小島に木の実を作り出す環境はない。という事はこの木の実は別の場所から運び込まれた事になる。彼らのスタイルから見てどこかから採取してきたとは考え難い。恐らくは略奪品だろう。

 

 そして、ジンにはこの木の実の元の持ち主に心当たりがある。港で会った船長、その船の積荷にはトロピウスの顔がプリントされていた事は記憶に新しい。詳しくは聞いていないが、木の実を運んでいたのは間違いない。時期と鮮度、それらを組み合わせればその答えは明らかだ。

 

(略奪品で歓迎か……海賊らしいな)

 

 協力関係を結ぶラプラスの手前、これ以上、煽る様な事は言うべきではないと判断した為、敢えてその事は指摘しなかった。しかし、そうと分かると罪悪感からか途端に木の実の味を感じなくなってしまう。まるで味覚障害にでもなったかの様な気分だった。

 

「……そろそろ皆を呼ぶとするか」

 

 味のしない木の実を無理して食べ終えたジンはその場から立ち上がるとスマホロトムを取り出す。

 

「あっ!そうだった……」

 

 ブレイブアサギ号の様な巨大な船が近づくと目立つ為、少し離れた場所に停泊しており、今回、ここにいないメンバー達はジン達の連絡を待っている。

 

「電波が悪いな……ちょっと外に出て来るから、皆はここにいてくれ」

「悪いな。頼むよ」

 

 ジンはその場から離れ、洞窟から外に出ると早速、船に残ったメンバー達に連絡を入れ始めた。

 

『了解!エンジンフル回転にしてすぐ向かうから!』

『特製ドーナツ大量に作ったからな!待っててくれよ!』

『怪我したポケモンはいないだろうね?』

 

 連絡を待っていたのかメンバー達から早速、それぞれの個性に合わせた返信が返ってくる。連絡が済んだ以上、直ぐにでも洞窟内に戻るべきなのだが、ジンはそのまま島の裏側を目指し歩き始めた。

 

「……ここでいいか」

 

 少しだけ歩き、島の裏側に到着したジンは口笛を吹く。暫くすると海中からミロカロス、空からボーマンダ、そしてジンの隣に『テレポート』で移動したサーナイトが現れる。

 

 実はこの3体、島に上陸するのと同時にリコ達には内緒でジンが放っていたのである。目的はただ1つ、交渉が決裂しバトルに発展した際に速やかにラプラス海賊団を捕縛する事だ。洞窟内でバトルになれば手持ちに残したジュカインで事足りるが、万が一取り逃がした際には彼らで捕縛する算段でいた。

 

 しかし、リコの懸命な説得とテラパゴスの予想外の活躍で、交渉は今の所、上手くいっている。警戒こそ緩めはしないが成功する予感はしていた。

 

「悪いな皆、引き続き警戒を頼む」

 

 ジンの指示を受け、3体のポケモン達は空、海、陸とそれぞれの所定の位置へと戻っていき警戒態勢を維持する。

 

「……我ながらやりすぎだな」

 

 ラプラス海賊団のあの姿を見れば、もう彼らが敵対する事になるとは思えない。しかし、長年かけて培ってきた海賊への警戒心がここで手を抜くことを拒んでいた。 

 

「まぁ、いい。警戒しすぎて損な事はない……」

 

 リコやロイは勿論だが、フリードを始めとした大人達もどこかポケモンを信じすぎている所がある。人もポケモンも追い込まれれば、どんな非道な事でも出来るという点では同じだ。ならば自分1人位は、相手がポケモンであっても疑いを持てる存在でいよう。そう心に決めるのだった。

 

 

 

***

 

 

 

 程無くして、ジンの連絡を受けたブレイブアサギ号は島へと到着した。

 

 島に到着するとマードックは揚げたてのドーナツを大量に持参し、海賊団へと分け与える。普段、木の実ばかり食べている為か、その美味しさに彼らは魅了された様であっという間に心を許した。この短い時間に仲を深めたライジングボルテッカーズのメンバーやそのポケモン達はドーナツを食べ終えると一緒になり遊び始めている。

 

「…………」

 

 ただ、ジンはブレイブアサギ号と島を繋ぐスロープに座りその様子をぼんやりと眺めていた。そんなジンに1人の人物、ダイアナがゆっくりと近づいて行く。

 

「あんたは行かないのかい?」

「……海賊と一緒に楽しむ事は出来そうにないです」

「……そうかい」

 

 その会話後、2人の間に気まずい無言の状態が続く。ミーティングルームで互いに意見の相違があり、口論した事が今も後を引いている様だ。

 

「……先程の非礼をお詫びします」

 

 そんな中、先に口を開いたのはジンだった。

 

「野生のポケモンにとって弱肉強食は当たり前の事、その対象には当然、人間だって含まれている。そこから目をそらし人間の基準に彼らを当てはめたのは間違いでした……彼らをの事を恥知らずと言いましたが、その点については撤回します」

 

 時間を置いた事で少し、頭が冷えたのかジンは先程の口論で言い過ぎた点があった事を認め、ダイアナへ謝罪をし始めた。

 

「いや……謝るのなら私も一緒だよ」

「ダイアナさん……」

「私はあんたやリコが生まれるよりも前から六英雄や白い霧の歌声を追っていた。だから、目の前にラプラスが現れた時に思わず、高揚してしまったんだ」

 

 長い時間、それこそジンやリコの人生よりも長い時間を掛けて、ダイアナは2つの伝説に挑んだ。結果こそ伴わなかったが、この年齢になって2つの伝説を同時に解き明かすチャンスを手に入れたのだ。高揚するなという方が難しい。

 

「彼らへの憧れがあったから、リコ達がラプラスを責める様な口調になった時に、思わず庇う様な事を言ってしまったんだと思う……でも、あんたの言う通りだ。今までラプラス達の被害にあってきた人やこれから被害を受ける人にラプラス達が生きる為だから、積荷を奪われても仕方ない……そんな事言える筈がない」

 

 ラプラス達に肩入れしていたダイアナだが、ジンの意見には一考の余地があると理解していた。だが、ジンのラプラス達に対する隠す事のない敵意や嫌悪感が無意識の内にその考えを抑え込んでしまった。

 

「この歳になって、そんな事に気づけない上に孫の恋人と口喧嘩……不甲斐ないよ」

 

 ダイアナは冒険者として世界中を旅した。その中で悪人やあくどいポケモンとバトルした経験もあるが極めて稀な事だ。彼女は専ら、世界中にある謎を解き明かす事を目的とし野生のポケモンなどとも協力的な関係を維持していたのだろう。

 

 それに対して、ジンは旅の目的こそポケモンリーグの優勝であったが、巻き込まれ体質故に多くの悪人やポケモンと対立してきた。そして、そんな者達から被害にあう人々も同等の数見て来た。そんな人々を守る為なら相手が人間だろうとポケモンだろうと容赦をする必要がない。そういう考えが根底に染み付いている。

 

 同じ冒険者であってもジンとダイアナでは歩んできた道のりに大きな違いがある。考え方に違いがあっても、それは仕方のない事だ。

 

「……それでは、お互いに反省すべき点があったという事で、仲直りしませんか?」

「いいのかい?」

「えぇ、俺達がいつまでも不穏な空気を放っていたら、リコが精神的に辛いでしょうし」

 

 先程から、ちらちらとこちらの様子を窺っているリコにジンは手を振る。こっそり盗み見していたのが、ばれたリコは体を大きく揺らすと頭を左右に揺らしながらあわあわと混乱し始めた。

 

「反応が一々、面白いんだよな……」

「それは同感だね」

 

 ジンとダイアナはどちらからともなく笑い始める。突然、笑い始めた2人をリコは呆然と見つめていたが、2人の様子には最早、先程までの険悪さは見られない。その事にリコは心から安堵していた。

 

 

 

***

 

 

 

 あっという間に時間が過ぎ、気付けば既に夕暮れとなり夕焼けに照らされ海は赤く染まり始めていた。ドーナツを食べ終え、マードックが食器の片づけを終えるとリコはラプラスに近づいて行く。

 

「ラプラス……お願いがあるの。私達と一緒にルシアスとの約束を果たしにラクアに行こう!」

 

 リコの願いを聞いたラプラスは複雑そうな表情を浮かべる。ルシアスとの約束は勿論、大事だ。しかし、今のラプラスには既に別の仲間もいる。彼らを放って行く事が正しいのか。それがラプラスに判断を迷わせている。

 

「エボ!エボ~」

 

 いつの間にかリコとラプラスの周りには海賊団のメンバーが集まっていた。その中の一体、エテボースの両手には古のモンスターボールが握られている。

 

「クォッ……」

 

 オリーヴァやガラルファイヤーと違い、身に着けていた訳ではない。しかし、彼らは古のモンスターボールを大切に保管していたらしい。もしかすれば、いつの日かこんな日が来ることを予想していたのかもしれない。

 

(さて、どうなるか……)

 

 言うべき事は全て伝えた。後はラプラスが判断すべき事だ。リコもそして海賊団のメンバーもラプラスの選択を見守っている。

 

「ホー……ホォォ!」

 

 やがてラプラスはエテボースが持っていた古のモンスターボールを銜えると空高く放り上げる。空中に上がった古のモンスターボールから赤い光線が出て、ラプラスをボールの中に吸い込んだ。

 

「ラプラス……ありがとう」

 

 リコはラプラスの入った古のモンスターボールを拾い上げると嬉しそうな表情を浮かべながら、感謝の言葉を告げる。

 

「これで3体目か」

「うん。あとはレックウザを入れて半分だね」

 

 半分まで来たという見方も出来るが、残りの3体、特にエンテイとバサギリは全く手掛かりがない。先はまだまだ長いと考えざるを得ないだろう。

 

 だが、六英雄より先にジンには解決すべき問題が残っている。それは、ラプラスという強力な仲間を失った残りの海賊団のメンバーの処遇についてだ。彼らはラプラスを見届けるとホエルオーの上に飛び移り、出航の準備に入っている。

 

「…………」

 

 その様子を見ていたジンはゆっくりと海賊団達に近づいて行く。その様子を見たリコはジンの手を掴み、止めようとする。

 

「……ジン」

「……大丈夫だ。手は出さない」

 

 ジンはリコの手をゆっくり払うと、改めて海賊団達に近づいた。ジンが傍に近づいてきた事で海賊団達も警戒し始めた様でホエルオーから降り、いつでも戦闘に入れるように準備し始める。

 

「そう、警戒するな。戦闘の意思はない。ただ、話がしたいだけだ」

 

 ジンは両手を上げ、そう告げる。海賊団達はその様子を見て戦いに来た訳ではないと悟ったのか戦闘態勢を解除した。

 

「お前達、これからどうするつもりだ?これからも海賊行為を続けるのか?」

「…………」

 

 ジンの問いに彼らは答えない。どちらかと言えば、まだ答えが決まっていないというのが正解なのかもしれない。司令塔の役割でもあったラプラスがいない以上、今後の事はまだ未定なのだろう。

 

「なら、はっきり言わせてもらうが、お前たちがやってきた『しろいきり』を利用した方法は今後、二度と使わない方がいい。恐らく、あの方法はもう通用しない」

 

 『しろいきり』を利用した略奪、あれはラプラスがいなければ通用しない方法だ。視界が奪った後にラプラスが前方で気を引くからこそ今までばれずにやってくることが出来たが、彼らには今、そのラプラスがいない。

 

「ホエッ!」

「まさか、お前が代わりを務める気か?無駄だ。失敗するのが目に見えている」

 

 白い霧の中に現れたのがラプラスという、種族的に信頼の厚いポケモンが現れたからこそ今までの船乗り達はラプラスを信じてその後に続いた。しかし、ホエルオーでは話が違ってくる。ホエルオーは獰猛なポケモンだとはされていないが、霧で視界が悪い中、近づきたいポケモンではない。

 

 ホエルオーにその気がなくても、海に潜ったりしただけで小さな波が生まれる。小型の船であればそれだけでかなりの衝撃となる筈だ。そんな存在に好んで近づく船乗りはそうそういないだろう。

 

「そもそもお前は奪った略奪品を輸送する役目も担っていた筈だ。それで今後、どうやって略奪品を運ぶつもりだ」

 

 略奪品を運ぶ為にはホエルオーが対象の船にまで近づく必要がある。そうなってくると略奪方法は『しろいきり』で視界を奪い、動きを止めた船にホエルオーが近づき、他のメンバーが物資を盗むしか方法がない。

 

 だが、前方に気を引くことが出来ないこのやり方では必ず、船員の誰かに見つかる。そうなれば彼らは暴力に訴えざるを得ないだろう。だが、彼らは弱い。ある程度の戦力がある船であれば今回の様に返り討ちにされるだろう。

 

 仮に力ずくで略奪に成功したとしても手配されるのは避けられない。そうなれば警察や賞金狙いの輩に狙われる。そうなれば彼らに生き残る未来など訪れる事はない。

 

「分かるか?ラプラスを手放した時点で海賊としてのお前達はもう詰んでいるんだよ」

 

 ジンの意見を聞き、海賊団のメンバーの顔には絶望の色が染まっていく。そんな彼らにジンは一枚の紙きれを見せる。その紙には地図らしきものが書かれており、特定の場所に印がつけられていた。

 

「この近隣でポケモン保護区がある場所をいくつかピックアップした。ここに行けば、できるだけ自然な形で生活する事が出来る。興味があるなら行ってみろ」

 

 ポケモン保護区、それはポケモンを守り育てる為に存在する場所だ。一応、保安官の立場の人間が何人か存在するが、自然のままにのびのびと生活する事が出来る様になっている。

 

 しかし、ジンの提案を聞いた海賊団達は難色を示している。自然のままにと言っても多少の縛りがあるのは確かだ。そこで生活する事が本当に自然なのかと聞かれれば、首を振るのは少し難しい。

 

「無理強いはしない。海賊以外の道もあると示したいだけだ」

 

 誰かから奪うという生き方を敢えて否定はしない。だが、そういう生き方をする者は自分が奪われる立場になっても文句を言う資格がない。海賊というのは結局、最後は自分よりも強い存在に敗れ消え去る運命にあるとジンは知っている。だからこそ、他にも道があると知って欲しいのだ。

 

「ラプラスへの義理も立て、今回は見逃してやる。これから先も海賊行為を続けたいなら好きにすればいい。だが、覚えておけ……俺は何時でもお前達の事を見張っている」

 

 密猟者、海賊、そう言った無法人や悪辣なポケモンを手配するサイトがこの世には存在する。世界中から情報が集まる場所だ。彼らが再び、海賊行為をし人を傷つければあっという間に情報が回るだろう。

 

「忘れるな。俺は何時でもお前達を監視している。お前達が人を傷つけたという情報があれば世界中のどこに隠れても必ず見つけ出す」

 

 ジンの言葉に嘘偽りが一切ない。断固たる決意の籠ったその言葉を聞いた海賊団達は恐怖心から思わず、その場から一歩引き、ジンから距離を取った。

 

「最後に良い事を教えてやるよ。俺に目を付けられて生き残った海賊団はこの世に一つもない……もしかしたら、お前達もその一つになるかもな」

 

 鋭い眼光に耐え切れなくなった海賊団達はジンから保護区の地図が書かれた紙を受け取ると慌ててホエルオーに飛び移り、そのまま海へと走り出した。彼らが、どんな選択をするのかは分からない。だが、この先の未来に置いて、ジンが彼らの前に敵として立ちはだかる事は一度もなかった。

 

「……はぁ」

 

 ホエルオーが『しろいきり』を張り、慌ててこの場を離れていく姿を見送ったジンは小さなため息をつくと、海に背を向けリコ達の元へと歩み始める。

 

「パゴ?パーゴー!」

 

 沢山のドーナツを食べ遊び疲れ眠っていたテラパゴスが突然、目を覚まし空に目掛けて叫び始める。ジンを始め、周りにいたメンバー達もそれにつられ上を見上げた。

 

「グォォォォォォ!」

 

 そこにはロイが旅立つ切っ掛けとなったポケモン、六英雄の1体である黒いレックウザが体をくねらせながら上空を自在に飛び回っていた。

 

「レックウザ!?」

「う、嘘……」

「向こうからお出ましとはな……」

 

(全く……この冒険は本当に退屈しないな)

 

 全員が突然のレックウザの登場に驚く中、ジンだけは笑顔を浮かべてこの状況を楽しんでいた。

 

 

 

***

 

 

 

 時は少しだけ遡る。

 

 ジンがラプラス海賊団を脅し……説得していた頃、少し離れた海域に一隻の潜水艦が水中を進んでいた。

 

 その潜水艦内の発令所には3人の人物がいる。エクスプローラーズのアメジオ、そしてその部下のジルとコニアだ。彼らそれぞれレーダーや海図などを見ながら警戒し、何かを探っている。

 

「はっ!?アメジオ様!」

 

 ジルの担当していたレーダーに強い反応が現れた。そしてそれは奇しくもジン達の頭上にとあるポケモンが現れたのとほぼ同じタイミングだった。

 

「現れたか?」

「間違いありません!」

「こちらでも確認しました……レックウザです」

 

 そう……彼らが捜していたのは黒いレックウザだ。彼らは様々な情報やレックウザが現れた際の僅かなデータを頼りに最新鋭の機器を活用し、ここまでやって来た。組織と資金があるからこそのやり方と言えるだろう。

 

「よし……船を浮上させろ!俺が先行しレックウザを仕留める。お前達はここで待機だ」

「「はっ!」」

 

 アメジオの指示で潜水艦は水中から徐々に顔を出していく。それを確認するとアメジオはハッチを開き、1人潜水艦の外に出て来る。

 

「アーマーガア!」

 

 アメジオは自身の持つ5つのモンスタボールの内の1つを取り出し、宙に投げる。中から現れたアーマーガアに飛び移ると潜水艦を離れ、空へと舞い上がっていく。

 

「行くぞ!」

 

 アメジオは黒いレックウザを目指し進み始める。相手は強大だが、今の自分とポケモン達であれば倒せない相手ではない。それだけの自信と実力が今の彼には存在する。

 

 だが、そんなアメジオでも黒いレックウザの現れた正にその場にライジングボルテッカーズが……いや、彼のライバルであるジンがいる事は想像すらできていなかった。

 





そんな訳でラプラス海賊団はこの様に決着をつけさせてもらいました。

アニポケの様にただ見逃すのはジンのキャラ的にあり得ないですし、かと言ってラプラスやダイアナの前で捕まえる訳にも行かなかったのでこの辺りが落としどころかなと思ってます。

☆9
キノコムシさん、佐十さん

高評価ありがとうございます

作品の要望などあれば気軽にメッセージを送ってください
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。