ポケットモンスター 新たなる冒険   作:malco

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やっちまった……もう後戻りできない……


VSロイ

 

 昨夜、レックウザをゲットする為に改めて強くなることを決意したロイ。そしてそんな彼の指導をする為にジンは朝早くからウイングデッキへと来ていた。

 

「今日はギャラリーが多いな……」

 

 しかし、ここにいるのはジンとロイだけではない。普段から特訓を見学したり時には参加したりしているリコやドットだけでなく、テラパゴスの看病をしているモリーを除いた他のメンバーも揃っている。

 

「リコからあんたの特訓の事は聞いていてね。興味があったんだ。ちょっと見学させておくれよ」

「ご、ごめんね。おばあちゃんに話したらどうしてもって言うから……」

「いや、別に見られて困るものじゃないから構わないよ。ロイもいいよな?」

「うん。大丈夫!」

 

 ギャラリーが増えたとしても特に支障はない。客観的に特訓を見てくれる存在がいれば、何か新しい気付きが生まれる可能性がある以上、ジンとしては大歓迎だ。

 

「さてと、今日の特訓はいつもと少し趣向を変えようと思う。ロイはホゲータとカイデンの2体を出せ。俺はポケモン1体で勝負する」

「分かった」

 

 1VS2の変則バトル。端から見ると舐めている様にも聞こえるが実際にそれだけの力の差が両者にはあるのだ。ロイもその事は嫌という程、理解している為、特に不満な様子もなくそのルールを承諾する。

 

「それと勝敗だが……一撃だ」

「……え?」

「俺のポケモンにまぐれでも何でもいい。ほんの少しでもダメージを与えることが出来たら、その時点でお前達の勝ちでいい」

「ちょ、ちょっと待ってよ!いくら何でもそれは……」

 

 1VS2のバトルはいい。その程度は容認するが、いくら何でも一撃当てれば勝ちなどと言うルールは自分達に有利すぎる。そんな勝利条件は、はっきり言って馬鹿にされているとしかロイには思えなかった。

 

「問題ない。多分、今のお前たち相手ならその程度はいいハンデだ」

「っ!?……分かった」

 

 不満気な様子ではあるが、ロイはその勝利条件を承諾した。というよりも早々に一撃を当ててそんな条件を出したジンを見返そうと気合が入っている様にも見受けられる。

 

「それじゃあ……始めようか」

 

 審判にはフリードに入ってもらい、2人はそれぞれ左右のトレーナーゾーンへと移動する。

 

「ホゲータ!カイデン!」

 

 ロイは指定された通り、ホゲータとカイデンをフィールドへと出した。それに続き、ジンもポケットからモンスターボールを取り出しフィールドへと投げる。

 

(何で来るんだろう?)

 

 ロイだけではない。審判やギャラリーを含めた全員がジンのポケモンに注目していた。やがてジンの投げたモンスターボールは開き、中から紫色のスライムの様な姿をしたポケモンがフィールドに現れる。

 

「モーン!」

 

 そのポケモンはへんしんポケモンのメタモンだ。メタモンは登場するや否や目の前にいたホゲータへと姿を変えていく。

 

「へ、変身した!?」

「なんだ?メタモンを見るのは初めてか?」

「め、メタモン?」

「一応、カントー地方のポケモンなんだが……」

 

 やはりロイはポケモンの知識については難ありである。ジンは今後の為にも秘かに座学の時間を増やすことを決定した。

 

「はははっ。俺が説明するよ。メタモンはへんしんポケモンって呼ばれていてな、体の細胞を自由に組み替えて変身することが出来るんだ」

「変身……だからホゲータの姿に……」

「ただし、メタモンが使える技は『へんしん』だけだ。もっとも『へんしん』した相手が覚えている技は使えるけどな」

「そうなんだ……」

 

 フリードの解説を聞き、メタモンの変貌に驚愕していたロイはようやく落ち着いた様子を見せ始める。

 

「でも……真似は真似。所詮は偽物。本物が負ける筈ないよ!」

 

 ロイはそう宣言するが、彼はいくつか誤解をしている。確かにメタモンは相手の姿形と技をコピーするがレベルまで相手と同じになる訳ではない。元々、ジンのポケモンとしてあらゆる特訓をしたメタモンのレベルはホゲータやカイデンよりも当然、上だ。

 

 このままバトルすれば普通にメタモンが勝利するだろう。だが、それでは特訓にならない。その為、ジンは昨夜、メタモンにホゲータとカイデンの映像を見せ、癖だけでなく技の威力なども覚えさせた。これによりレベルに差はあるが、技の威力を加減し同等の威力で勝負を行うことが出来る。

 

 初のミラーマッチ、その上、トレーナーの力量は言わずもがなだ。意気込んではいるが、ロイにとって有利なのは数の利のみ。これでどこまで戦えるのかはロイ次第と言えるだろう。 

 

「ロイ!頑張れよ!」

「思いっきりやっちゃいな!」

「うん!任せて!」

 

 ギャラリー達の応援もあり、ロイの気合は更に上がっていく。準備は既にどちらも万全の様だ。

 

「よしっ!それじゃあ、これからジンVSロイのバトルを開始する。お互い準備はいいな?」

「あぁ」

「うん!」

「それでは……バトル開始!」

 

 フリードの合図と同時にホゲータは一歩踏み出し、メタモンを正面に捉える。

 

「先手必勝!本物の力を見せるよ!『かえんほうしゃ』!」

 

 ホゲータの口から『かえんほうしゃ』が発射されるが、ジンもメタモンもそれに一切、焦る様子は見られない。

 

「メタモン!フィールドに『かえんほうしゃ』!」

 

 ホゲータに変身したメタモンは真下のフィールドに『かえんほうしゃ』を発射するとその勢いを利用し、空中へと飛び上がる。更に空中で『へんしん』を解除し、元の状態に戻るともう一度『へんしん』を行い、今度はカイデンへと姿を変えた。

 

「『スパーク』!」

 

 カイデンに変身したメタモンは空中から落下の勢いを利用し『スパーク』を発動させながら、ホゲータへと突っ込む。

 

「ホンゲェ!?」

 

 ホゲータは為す術もなく『スパーク』をくらい、更にはカイデンまでも巻き込んで吹き飛ばされる。

 

「ホゲータ!?カイデン!?大丈夫!?」

「ホ、ホゲェ!」

「カーイ!」

 

 ロイは慌てて2体を確認するが、両者共にダメージを負ったが直ぐに立ち上がり戦意を見せる。その様子を見たロイはひとまずは安心するが、それ以上に気になった事があった。

 

「今のって……」

 

 今の一連の技は以前、特訓中にロイが披露したホゲータとカイデンの連携技だ。しかもそれを今日、初めて会うメタモンが行っているのだ。疑問に感じるのも当然と言えるだろう。

 

「……どうして?」

「簡単だ。昨日の内にお前の今までの特訓映像をメタモンに見せて学ばせた」

「学ばせたって……そんな簡単には……」

「出来るんだよ。俺のメタモンは映像だろうと何だろうと一度、見たポケモンの技は大抵、コピーする事が可能だ」

 

 その事実にロイだけでなくバトルを見学していた全員が驚愕した様子を見せる。如何にへんしんポケモンとは言え、ここまでのコピーを出来るとは俄かには信じがたい。

 

 だが……メタモンはジンのポケモンだ。今まで1体として弱いポケモンはいなかった。そう考えれば、それだけで不思議と納得する事も出来る。

 

「ロイ!ホゲータとカイデンの使える技と今までに使った戦法は俺とメタモンの頭に入っている。この試験に合格したいなら限界を超えてみせろ!」

「限界を……超える?」

「その程度の事が出来ない様ではレックウザのゲットなんて夢のまた夢だ」

「……よしっ!行くよ!カイデン!『おいかぜ』!」

 

 カイデンはその場で両翼を力の限り羽ばたかせる。以前に比べ、成功率は格段に上がっており、無事に風向きを変え、自分達に有利な風を吹かせる事に成功した。

 

「メタモン!ホゲータに『へんしん』しろ!」

 

 メタモンはカイデンの姿から戻り、再びホゲータに『へんしん』し次の攻撃に備える。

 

「ホゲータ!もう一度『かえんほうしゃ』!」

 

 『おいかぜ』により素早さを上げたホゲータはそのまま『かえんほうしゃ』を発射する。炎は風に乗り、勢いを上昇させメタモンへと迫っていく。

 

「メタモン!『じだんだ』!」

 

 それに対し、メタモンはその場で地面を何度も足踏みし地面を隆起させ、小さくはあるが岩の壁の様な物を作り出す。『かえんほうしゃ』はその岩に阻まれメタモンには届かない。

 

「『おいかぜ』の効果があると面倒だな……メタモン!『へんしん』解除だ。今度はカイデンに『へんしん』しろ」

 

 メタモンは岩の陰で『へんしん』を解除し、元の姿に戻る。更に『へんしん』を発動させようとしたが、その瞬間、その横から1つの小さな影が迫っていた。

 

「そう来ると思った!カイデン!『でんこうせっか』!」

 

 迫っていた影の正体はカイデンだ。カイデンは『おいかぜ』発動後、ホゲータの攻撃と同時に動き出し、この瞬間を……メタモンが『へんしん』を解除する時を狙っていた様だ。

 

 メタモンに『でんこうせっか』を発動したカイデンが迫る。先制技である上に『おいかぜ』の影響で素早さを増している。逃げることは出来ない上に『へんしん』も間に合わない。

 

(メタモンの弱点の1つ……それは『へんしん』を解除し、もう一度『へんしん』するまでに僅かではあるが、無防備な時間が出来る事。僅かな時間でその事に気づいたのは見事だ)

 

 ロイは正確にメタモンの弱点を見つけ出し、最適な答えを導き出した。本来であればこの時点でメタモンはダメージを負い、ロイは無事に試験に合格していただろう。

 

「メタモン!」

「モンモン!」

 

 だが……今回に限っては相手が悪かった。

 

 メタモンは迫りくるカイデンに身体を向け、正面に捉えるとスライム状の身体を操作し両腕の様に伸ばすと嘴と翼を掴み、一本背負いの要領でカイデンをホゲータの方角に目掛けて投げ飛ばした。

 

 投げられたカイデンは『でんこうせっか』と一本背負いの勢いで更に加速し、ホゲータ目掛けて突っ込んでいく。途中、炎に包まれダメージを負いながらホゲータへと激突した。

 

「そ、そんなのあり!?」

 

 メタモンの使える技は『へんしん』のみ。それは全てのメタモンが同じだ。当然、ジンのメタモンが特別に他の技が使えるわけではない。

 

「俺がメタモンの弱点をそのまま放置しておくと思ったのか?メタモンにはあらゆる格闘技を学ばせた。素の状態でもこの程度の戦闘は問題なくこなせるぞ」

 

 他の技は使えない。しかし、それはポケモンの技というだけの事である。格闘技全般のそれこそ人間でも使える技であれば身体を少し弄れば問題なく使うことが可能だ。それこそホウエン地方にいた頃は、ムロジムのジムリーダーに格闘技のお手本を見せて貰った経験もある。

 

 これによりメタモンは接近戦にのみ限られるが、素の状態でも戦うことが出来る。『へんしん』だけが取り柄と呼ばれるメタモンだが、鍛え方次第で様々な事が出来る可能性を秘めているのだ。

 

「そ、そんな……」

 

 余程、勝利を確信していたのだろう。ロイは予想外過ぎるメタモンの戦法に驚愕し、先程よりも覇気が衰え始めている。傷を負いながらも何とか立ち上がったホゲータとカイデンに次の指示をなかなか出そうとしない。

 

「……来ないなら今度はこっちから行くぞ!メタモン!ホゲータに『へんしん』して『かえんほうしゃ』!」

 

 

 

***

 

 

 

「圧倒的だね……」

 

 展望台の入り口からバトルを見ていたダイアナは冷静な口調でそう告げる。それはダイアナだけでなくその場にいた他のメンバーも共通の意見だった。

 

 一見、ロイに有利そうに見えたこのバトルだが、いざ蓋を開けてみればホゲータとカイデンはメタモンに一撃も攻撃を当てることが出来ずにいいように弄ばれている。

 

「……ロイ」

 

 リコはロイの事を心配そうに見ていた。ロイとホゲータ達が倒されそうになるのは何度も見てきたが、今回は少し事情が異なる。

 

 今までの実戦形式の特訓ではジンとそのポケモン達は一方的に攻める事はなく、敢えて隙を作りロイ達に反撃のチャンスを与える様にしていた。そうする事で実戦経験を積みつつ攻撃・防御・回避をバランスよく上げさせていたのだが、今のジンにはその様子が見られない。

 

「なんでここまで……」

「それは……期待してるからじゃないかい?」

「期待?」

「そうさ。ロイの師匠のジンは当然、ロイとホゲータ達の動きが頭に入っている。その上、メタモンにホゲータとカイデンの動きを完全にコピーさせた。この状況で、ホゲータ達がメタモンに一撃を当てる為には、ジンですら対処できない様な新しい戦法をこの場で生み出すか、もしくは……今よりも強くなる。この2つしかない」

「ジンは……その2つをロイ達に期待してるって事?」

「あくまでも推測だがね」

 

 ダイアナの推測は正しく、ジンがロイ達に望んでいるのはそれだ。もしもそれが叶えばロイは実力的にも精神的にも大きく成長できるだろう。

 

「でも……それって、凄く難しいんじゃない?」

「だろうね……」

 

 現状では完全にメタモンがホゲータ達の上を行っており、ここから先、ホゲータ達がメタモンに攻撃を当てるイメージは湧かないのがその場にいた全員の素直な意見だ。

 

「だけど、それはロイ達次第さ。取り合えず、もう少し見守っておやり」

「……うん」

 

 

 

***

 

 

 

「ホゲータ!避けて!地面に『かえんほうしゃ』!」

 

 迫りくるメタモンの『かえんほうしゃ』に対し、ロイは撃ち合うのではなく回避する事を選択する。

 

 ホゲータは最初にメタモンがした方法と同じやり方で空中へと飛び上がった。しかし、避けたまではいいが、空中ではホゲータの選択肢は殆ど存在しない。このままでは狙い撃たれるのは目に見えている。

 

「カイデン!『でんこうせっか』!」

 

 当然、ロイもその事は理解していた為、ホゲータを狙い撃ちさせるのを防ぐ為にカイデンは猛スピードで突っ込んでいく。

 

「メタモン!カイデンに『かみつく』だ!」

 

 ホゲータに変身したメタモンは急接近してくるカイデンの翼に噛みつくとそのまま体を回転させながら勢いを付け、未だに空中に留まっていたホゲータへと投げつける。空中で回避することは出来ず、2体は空中でぶつかり合い、そのまま地面へと落下していく。

 

「ホゲータ!?カイデン!?」

 

 2体ともこの数分間の攻防でかなりのダメージを負っており、既に限界が近い。ボロボロになりながらも立ち上がろうと懸命に体を動かすホゲータ達だが、ロイの表情は徐々に暗くなっていく。

 

(……駄目だ。何も思いつかない)

 

 ロイはこのバトルで今までの特訓の成果を全てぶつけたつもりだった。しかし、それでも一撃も当てる事すら出来ていない。勝利の道筋が全く見えてこないのだ。

 

「ロイ……また諦めるのか?」

 

 そんなロイの心中を察したのかジンはロイにそう問いかける。

 

「……また?」

「そうだ。覚えてるか?ガラル鉱山でガラルファイヤーと対決した時、お前は誰よりも早く諦めていた」

 

 ガラルファイヤーがオリーヴァの話も聞かず、暴れ出した時の事だ。ジン・リコ・フリードは打開策を練っていたのに対し、ロイだけは諦める様な事を口にしていた。

 

「そ、それは……」

「お前は自分よりも遥かに強い存在とバトルする時、無意識の内に勝つ事を諦めている様に俺には見える」

「っ!?」

 

(だが、そうなった事には俺にも責任がある……)

 

 旅に出て数か月も経つが、ロイがトレーナーとバトルした経験は相変わらず少ない。それこそライジングボルテッカーズのメンバー以外ではコルサやカブ、後はエクスプローラーズ程度だ。そして、殆どはジンが相手を務めていた。

 

 ジンとロイがバトルすれば当然、ジンが勝つ。そうやって何度も敗北を繰り返す内にロイはいつの間にか遥か格上には負けても仕方がない。そう無意識の内に考える様になり、今の諦め癖に繋がってしまった。そうさせてしまったのはジンの落ち度とも言えるだろう。

 

「ロイ……お前達がこの先、どれだけ特訓を重ねたとしてもレックウザよりも強くなれるとは限らない。だが、ホゲータやカイデン、そして他にもポケモンをゲットして鍛え上げれば、レックウザともまともにバトルすることが出来ると思う」

 

 だが、それでも勝率は決して高くはないだろう。ロイが本気でレックウザをゲットしたいのであれば、勝算の低い勝負であろうとも最後まで諦めず勝ち筋を探し抜く精神が必要になってくる。

 

「相手がどれ程、強大であっても戦い方は必ずある。トレーナーならそれを見極めるまで諦めてはいけない……少なくともお前のポケモン達はまだ諦めていないぞ」

 

 フィールドに視線を送るとそこにはボロボロになりながらも既に立ち上がったホゲータとカイデンがロイの事を真剣な表情で見つめていた。

 

「ホゲータ……カイデン……」

 

 2体の表情には諦めた様子はまるで見られない。自分達の為、そしてなによりもトレーナーであるロイの為に最後まで戦い続ける。彼らの表情はそう物語っていた。

 

 そんな2体を見てもなお勝負を諦める程、ロイは腰抜けではない。ロイは己の頬を気迫を込めて両手で叩くと顔を上げた。その表情には先ほどまでの迷いや諦めの感情は見られない。

 

「2人共……ありがとう!どんな結果になってもいい!最後まで一緒に戦おう!」

「ホンゲェェェェェ!」

「カァァァァァァイ!」

 

 ロイの気迫の籠った宣言にホゲータとカイデンは雄たけびを上げて応える。その瞬間、ホゲータとカイデン、2体の体が突然、光り輝き始める。

 

「これって……」

「まさか、2体同時に……」

 

 2体の体は光に包まれながら徐々に形を変えていく。ホゲータ、カイデン共に体が大きくなり、そして光が収まると新たなる姿を現した。

 

「アチゲェ!」

「デェェカァァ!」

 

 ホゲータはアチゲータ、カイデンはタイカイデンへと進化した。

 

 特にタイカイデンの変化は顕著だ。カイデンの時は通常個体よりも小さかった体が、今では人を乗せて飛べるのでは思わせる程に大きくなっており、もはや空を飛ぶ時に怖さなどは感じないと確信を持てる程だ。

 

「進化……してくれた」

 

 ロイはスマホロトムを取り出すと進化した2体の事を検索し始める。

 

『アチゲータ ほのおワニポケモン ホゲータの進化形 炎エネルギーと 有り余る 生命力が 交じり 頭上に タマゴ型の 火玉が 現れた』

 

『タイカイデン ぐんかんどりポケモン カイデンの進化形 のど袋を ふくらませて 電気を 増幅させる。 風に 乗って 1日で 700キロを 飛行する』

 

「アチゲータ、タイカイデン……」

 

 ロイは呆然とした様子で2体の名前を呼ぶ。2体はロイに振り返ると笑顔を見せ始めた。それは進化前の時の無邪気な笑みと少し違う。自分達を大いに頼ってくれて構わない。そう物語っている様に感じられ、ロイも自然と笑顔になっていく。

 

(……3人共、いい顔つきになったな)

 

 まさかの2体同時進化、流石にこればかりはジンも予想していなかった。この先の展開はジンのプランにもない。正真正銘の真剣勝負となるだろう。

 

「進化……めでたいな。だが、こっちも全力で行かせてもらうぞ!」

「モンモ!」

 

 ジンもメタモンも手を抜くつもりはない。ここまで来た以上、最後まで全力でねじ伏せに行くつもりだ。メタモンはホゲータからアチゲータに『へんしん』しジンの指示を待つ。

 

「タイカイデン!アチゲータと一緒に飛ぶんだ!」

 

 タイカイデンは両足でアチゲータを掴むとそのまま上空へと移動する。カイデンの時とは比べ物にならない程の飛びっぷりを見せ制空権を確保した。

 

「そのまま旋回!アチゲータは地上に向けて『ひのこ』だ!」

 

 タイカイデンはフィールドの上空を飛び回り、アチゲータは『ひのこ』を次々に発射する。それはまるで天空から降り注ぐ雨の様にフィールドにいるメタモンへと襲い掛かった。

 

(面白いな……)

 

 大したダメージにこそならないが、一撃でも当たってしまえばルール上、メタモンの負けだ。だが、この雨の様な規模の『ひのこ』を防ぐのは簡単ではない。

 

(ぶっつけ本番だが……やってみるか)

 

「メタモン!仰向けに倒れろ!」

 

 迫りくる『ひのこ』の雨に対し、ジンは咄嗟に指示を出しメタモンはそれに従う。フィールドの中央で仰向けに倒れ空を見上げた。

 

「そのまま回転しながら『かえんほうしゃ』だ!」

 

 メタモンはその場で『かえんほうしゃ』を発射しながら回転し始める。放たれた炎はまるで『ひのこ』から身を守る盾の様であり、全ての『ひのこ』を打ち消していく。

 

「『カウンターシールド』……そういう名前らしいぞ」

 

 この技はとあるトレーナーが実際に使用していた技だ。攻防一体となる技で便利ではあるが、回転する為、長時間の使用が難しいなどの様々な弱点も抱えている。だが、それを加味しても使い勝手がいい技と言えるだろう。

 

(『カウンターシールド』……あの炎、まるで渦みたいだ……どうすれば……ん?渦?……)

 

 ロイはメタモンが使用する『カウンターシールド』を注意深く観察する。炎の動きや向き、どうすれば突破できるのか。必死に頭を働かせた結果、とある事に気が付く。

 

「……そうか。タイカイデン!もっと上昇して!」

 

 タイカイデンはロイの指示通り、更に高みへと飛び始める。進化したとはいえ、アチゲータを掴みながらの飛行は辛い様だが、タイカイデンは鳴き声一つ上げずに雲の上まで飛び上がった。

 

「よしっ!そのまま急降下だ!」

 

 タイカイデンは一気に急降下していく。目指す先は『カウンターシールド』により生み出された『かえんほうしゃ』の渦の中心だ。

 

「っ!?メタモン!立ち上がれ!」

 

 この『カウンターシールド』は言うならば台風の様な物だ。その為、台風の目ともいえる中心部は丁度死角となっている。そこに突っ込まれればこの技での対処は難しい。普段であれば、その事を瞬時に見抜いたロイを賞賛する所だが、今はその余裕すらジンにはない。

 

 メタモンは『カウンターシールド』を止め、その場で立ち上がると上空から迫るタイカイデンとアチゲータを睨みつける。このスピードでは逃げることは出来ない。迎え撃つ他に道はなかった。

 

「やっとだ……やっとジンと本気の勝負が出来る!」

「ふっ……受けてやるよ」

 

 タイカイデンはメタモンを視界に捉えると足で掴んでいたアチゲータをメタモンに向け、力の限り投げ飛ばす。上空からはアチゲータが地上からはメタモンが互いにエネルギーを集中する。

 

「「『だいもんじ』!」」

 

 ジンとロイ、両者が選んだ技は偶然にも……この場合は必然とも言えるかもしれないが、最も強力な技の『だいもんじ』だ。

 

 ホゲータの頃であれば使うのに数秒の溜めの時間が必要だったが、進化したことで体も大きくなりその時間が必要ない。両者はほぼ同時に『だいもんじ』を放った。

 

 空と地上の中間で『だいもんじ』がぶつかり合う。互いに一歩も譲らない威力ではあった。しかし、タイカイデンが投げつけた際の勢いが功を奏したのか、メタモンの放った『だいもんじ』を打ち破り、炎はメタモンへと降り注いで行く。

 

 如何にジンとそのポケモンとは言え、ここからでは回避する事も防御する事も出来る筈がなかった。

 

「…………お見事」

 

 メタモンは『だいもんじ』を受けてしまい、ダメージを負った。戦闘は続行可能だが、事前に決めたルール上、どちらが勝者なのかは明らかだ。

 

「ロイ……お前達の勝ちだ」

「えっ…………僕たちの……勝ち?」

 

 ジンの言葉を聞き、ロイはようやくこの状況を理解できたらしい。呆然とした様子から徐々に顔に笑顔が咲き誇っていく。

 

「やっっっったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「アチゲエッ!」

「カーーーイ!」

 

 フィールドに走り出したロイはそのままアチゲータとタイカイデンへと抱き着き、勝利を喜んだ。嬉しさの余り当初、このルールに不満があったのも忘れてしまっているらしい。

 

「モ~ン……」

 

 そんなロイとは対照的にメタモンは『へんしん』を解除し、頬を膨らませながら不満そうな表情でジンに近づいてくる。自分はまだまだ戦えるのに、こんなルールでバトルが終わってしまった事が不満な様だ。

 

「……そんな顔するなって、面白い物が見れたんだから大目に見てくれよ」

 

 それについてはメタモンにも異存はない。普段からオダマキ研究所で多くのポケモンと接しているメタモンだが、2体同時進化など早々に起こる事ではないのだ。そんな珍しい物を見せてくれたロイ達と場を整えてくれたジンには素直に感謝していた為、引き下がり、ジンの肩へと飛び移る。

 

「ロイ!おめでとう!」

「進化なんて凄いじゃないか!」

 

 いつの間にかギャラリー達はフィールドに入り、ロイ達の事を次々に褒めていく。ジンはその様子を面白そうに眺める。

 

(やれやれ……ルール付きとは言え負けたか)

 

 このルールでもロイに勝つ自信があった。しかし、進化という予想外の事態やロイの覚醒という要素が加わり、この結果を招いたのだ。素直に敗北を認める他ない。

 

「ジン!」

 

 心の中でジンがバトルの振り返りを1人しているとロイが近づき話しかけてくる。

 

「ありがとう!ジンが相手じゃなきゃ、絶対にここまで出来なかった!アチゲータとタイカイデンが進化したのだって、きっと……」

「……それはお前達の力だよ」

「そんな事……」

「あるさ。俺達はその背中をちょっと押しただけだ」

 

 アチゲータにしろタイカイデンにしろ、いずれは進化していたであろうポケモン達だ。このバトルはあくまでもそのきっかけの1つになったに過ぎない。結局の所、2体が進化したのはロイ達が真面目に特訓を続けてきた成果と言っていい。

 

「それでも……ありがとう!」

「……どういたしまして。それじゃあ……続けようか」

「…………え?」

 

 ジンはモンスターボールをポケットから1つ取り出す。それを宙に投げると中からボーマンダが現れる。

 

「折角、タイカイデンに進化したんだ。今までやりたくても出来なかった飛行タイプの技や空でのバトルのやり方について学んでもらうぞ」

「ちょ、ちょっと待って!?」

 

 ジンは次々と話を進めていく。ロイは慌てて止めに入るが、ジンの耳には届いていない。どうやら進化した2体の特訓をしたくてしたくて堪らない様だ。

 

「メタモン、次は……ジュカインで頼む」

「モンモン!」

 

 メタモンはジンの肩から飛び降りると『へんしん』し、ジュカインへと姿を変えた。

 

「えぇっ!?」

「お、おい!なんで目の前にいないのに『へんしん』できるんだ?」

 

 フリードを始め皆が驚くのも無理からぬ事だ。本来、メタモンは別のポケモンに『へんしん』する際には、その目で確認した相手でなければ不可能なのだが、ジンのメタモンは少々、特別だ。

 

「このメタモンは記憶力がいいんだよ。一度『へんしん』し、何度か手合わせした相手ならたとえ目の前にいなくても『へんしん』出来るんだ」

 

 もっとも完璧にとは行かない。『へんしん』対象が目の前にいない場合は、その精度は精々、8割が限界だ。しかし、メタモンはまだ出会っていないダークライを除いた全てのジンのポケモンに『へんしん』出来る。多少、精度が下がってもその能力は有用だ。

 

「メタモンにはアチゲータの相手をしてもらう。ジュカインだけでなく他のポケモンにも『へんしん』を繰り返して、咄嗟の判断力と瞬発力を磨いてもらう」

 

 ジンの楽しそうに語るその姿を見たロイとアチゲータ達は、背後にいた他のメンバーに助けを求める視線を送るが、全員揃って一斉に目を逸らした。

 

「諸事情でメタモンは数日以内に研究所に送り返さないと行けないんだ。時間がないからな……楽しみながらも急ピッチで進めて行こうか!」

 

 その後、数日間の間、地獄の様な特訓が続いた。結果的に見ればロイ達は想像以上に強くなるのだが……この数日間の記憶は彼らにとって深いトラウマとなるのだった。

 





ホゲータのままでレックウザに勝てるイメージが全く湧かないのでロイの手持ちを2体共進化させてみました。

これでアニポケでホゲータじゃなきゃ駄目な話が出たら泣くかもしれません

☆10
マシンまむしさん

高評価ありがとうございます

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