ホゲータなかなか進化しないですね。次のジム戦でもしなかったら、今のシリーズでは難しいかも……
ダイアナに別れを告げ、六英雄とテラパゴスの事を調べる為に、ライジングボルテッカーズはパルデア地方を目指し旅を続けていた。
そんなある日、フリードからの招集により、ミーティングルームにメンバー一同が集結する。
「皆、聞いてくれ……俺達、ライジングボルテッカーズの財布が空になった」
「えっ?」
「空?」
「ふむ……」
財布が空、即ち活動資金が底をついたという話である。リコやロイは少し驚いた様な反応を見せたが、ジンはそれを当たり前の事として受け止める。
「遂にか……」
「そりゃ、仕事もしないで冒険ばっかりしてたんじゃ……」
「活動資金も尽きるよね~」
リコやロイ以外のメンバーもジンと同様だ。というよりもこの反応から見て、この問題も今回が初めてではないのかもしれない。
(ま……当然だよな)
冒険家と言えば聞こえはいいが、彼らは資金援助をしてくれるパトロンがいる訳ではない。そんな状態で仕事もせずに冒険をしていれば、こうなるのも当然の結果とも言える。
それにも関わらず、彼らは割とお金を好き放題に使う傾向がある。珍しいパーツ、お菓子の材料など様々だ。中には医薬品や食料など生活必需品もあるが、1人旅をしていたジンの感覚で言えば無駄遣いが多いと言わざるを得ない。
リコから言わせれば、ジンの収集癖も同様であったが、ジンの場合は自費での購入なので問題ない。
「ラクアを目指す旅はこのまま続けていく。だが、全員、資金稼ぎの方も力を入れてくれ」
フリードが全員を招集した一番の理由はどうやらこれの様だ。大人達もそれを理解した様で嫌な顔をせずに了承する。
「ライジングボルテッカーズの仕事は冒険する事じゃないの?」
「冒険では飯が食えないからな。冒険を続ける為には他で稼ぐ必要があるって事だ」
無職……冒険者の悲しき現実である。
「スイーツのデリバリーでも始めてみるかな……」
「修理の依頼がないか、いくつかツテを当たってみるよ」
「私は……ポケモンの健康相談の募集でもしてみるか」
彼らはそれぞれ異なる分野で一流のスキルを持っている。一度、やる気を出せば仕事には困らないのだろう。
だが……
(普段からやっておいてほしかったな……)
それが出来るのであれば、活動資金が尽きる直前になってからではなく普段から定期的に行っていればこうした問題に突き当たる事はなかった筈だ。そう思ったジンは思わず、心の中でツッコミを入れてしまう。
「フリード、スマホロトム出してくれ。今から、そっちに金を振り込む」
「えっ?ジン、金があるのか?」
「あぁ、ちょっとはな。ほら」
ジンは以前から、食費や光熱費などを払っていない事を気にしていた。これもいい機会だと考え、今までの分の家賃を払う感覚でスマホロトムから口座にアクセスするとそれをフリードに見せる。
「¥¥¥¥¥!!!!!」
ジンの口座の金額を見るとフリードは声にもならない叫び声を上げる。まるで電子音で再現されたポケモンの鳴き声の様だとジンは思った。
「な、なになに?」
「ど、どうしたんだよ?」
それにつられ、金策を練っていた他の面々も近づいてくるとジンのスマホロトムの残高を見て似たような反応をし始めた。
「じ、ジン!この金どうしたんだ!?」
フリードの見たジンの口座の残高はとても子供が持っていていい金額ではなかった。大人でもここまで貯めるには、相応の給料を貰いつつ最低でも数年は貯金する必要がある程だ。
「ポケモンリーグの優勝賞金、色んな町で行われてた小さな大会の賞金や優勝商品を売りさばいた金、後は懸賞金付きの手配犯を捕まえた時の報奨金とかだ」
ジンはポケモントレーナーとなり旅に出る際に両親から費用を一切、貰わずに旅立った。その為、ジンは旅に必要な資金をこの様なやり方で自分で捻出するしかなかったのだ。
「それと……最近、宝くじにも当たったんでね。全部、纏めるとそれ位だ」
因みにこの宝くじとは、テペンとカーナに協力を仰いで作り上げた『自家製超強力眠り粉入りボール』の事である。ダイアナが船を降りて数日後にホウエン地方の顔見知りのジュンサーと交渉した結果、正式採用された為、交渉料並びに仲介料としてまとまった金を手に入れていた。
更に運のいい事に交渉時に警察だけではなく、学校や病院などの公共機関にも対不審者用に配布したいという申し出が相手側からあり、料金のつり上げにも成功したのでジン・テペン・カーナの3人の儲けは中々の物となっていた。
その際に秘密保持契約を結んだ為、仲間達であろうとも詳細を話すことが出来ないので宝くじだと誤魔化している。
「今までの家賃と今後の生活費って事で数百万位なら直ぐにでも……」
「まっ!待て待て!そんなに貰えるわけないだろう!」
「いや、だが……」
「そんなにいっぺんに貰ったら、金銭感覚狂っちまうよ!いいから、それはお前の未来の為に貯金しとけ!ほら……リコとの結婚資金とかに色々、必要だろう!」
「ふ、フリードォ!?」
「そ、そうだぞ!前に妹から聞いたが、結婚には金がかかるんだ。それにいつか子供だってできるかもしれないし!」
「こ、子供!?」
手をばたばたさせながら、受け取りを拒否する大人達とその言動から一々、リアクションを取るリコ、端から見ている分には中々、面白い。
「……分かったよ。取り合えず、今ある分は貯金しておく。その代わり、本当に危険だと判断したら口座の金を使う。それと今後、俺が手に入れた金は積極的に活動資金に回すって事でいいか?」
「お、おう。それで頼むよ……さ、さぁ、仕事を探すぞ。ジンって言う当てが出来たからって、それに甘えちゃ駄目だ!」
ここまで来ると、もはや大人としての意地なのかもしれない。10歳以上も年下の存在に金銭面で甘えるのは流石に嫌なのだろう。
「はい!僕、力仕事はだったら出来るよ。後は山歩きも得意!」
「わ、私もなんでもやります!」
「俺は……そうだな。ポケモンバトル以外だと木工作業や交渉、後はバウンティハントとかが割と得意だ。それとドット程じゃないが、ある程度の情報処理くらいは出来る」
なんだか一人だけ得意分野が異質な様な気がするが、ジン・リコ・ロイの3人共、それぞれ金策に協力する姿勢を見せる。
***
『へぇ~冒険ってお金がかかるんだ』
「そうみたい……」
フリードから「学生はまず、しっかり勉強に励め」と言われたジン・リコ・ロイの3人はそれぞれ別の場所でオンラインで授業を受ける準備をしていた。
授業が始まるまでの間、リコは同室であったアンと会話をし時間を潰している。新たにゲットしたミブリムの紹介など楽しそうに話をしていると、アンがある話題に斬り込み始めた。
『それで……ジンとはどこまで行ったの?』
それはこの年代の女子ならば興味が惹かれて当然の内容、所謂、恋バナである。ジンと交際を始めた事は聞いていたが、それ以降の事は何も聞いていなかった為、この機会を逃したくないのだろう。
「え、えっと……何の事かな?」
『惚けないでよ!手は繋いだ?それともキスまでしちゃったとか?』
「そ、それは……」
『いいじゃん!教えてよ~私ら、ズッ友でしょう?』
リコにとってアンはジンとは別に初めて出来た、同性の友人だ。今にして思えば学園にいた頃から、自分でも気づいていなかったジンへの想いに気づいていていた唯一の人物でもある。
「な、内緒だよ?」
そんなアンには、なんとなく隠し事はしたくない。そう考えたリコは先程よりも小声になり、クラスにいる他の生徒には聞こえない様に答え始めた。
『うんうん!」』
「告白された日に……その……キスしました」
『やっぱり、もうしてたんだ!ジンって手が早そうだもんね!』
「あ、アン!声が大きいよ!」
その瞬間、授業が始まる鐘の音が響き始める。それと同時に担任の先生がクラスに近づいてくる足音をアンは感じ取った。
『あっ!時間だ。また後でね~』
「う、うん……」
内心では助かったと思いながら、スマホロトムをタブレット型に変更し授業を受ける準備に入る。
『みなさん、おはようございます』
担任の挨拶と共に授業が始まる。ポケモンに関する授業はジンやフリードから指南を受けるリコにとっては割と簡単な内容だ。特に困る事もなく最後まで授業を受けると、先生は最後に課題を発表する。
『今回の課題は理想の絆です。自分が目標とする身近なトレーナーとポケモンを1組選び、どこが素晴らしいのかをレポートに纏めてください。次の授業で一人ずつ発表してもらいます』
(理想の絆……)
リコの脳内に真っ先に思い浮かんだのは、ジンとその相棒のジュカインである。抜群のコンビネーションで戦い、更に互いに信頼し合い絆があるからこそメガシンカすら可能とする。正に理想の絆と言えるだろう。
「うん!決めた!」
レポートの対象をジンとジュカインと定めたリコはジンとジュカインに会いに向かう。自室、展望室、ウイングデッキなど普段からジンが好んでいる場所を回っていくが、発見できない。
「どこにいるんだろう……あっ!」
どこかで入れ違いになったのかと悩み始めたが、もう1か所行っていない場所があった事を思い出した様で踵を返す。
「ここかな?」
そうして、リコが訪れたのは以前ジンが『自家製超強力眠り粉』を作るのに使用していた部屋だ。以前までは空き部屋だったが、ここは現在、ジンの作業部屋へとなっており、主に薬の調合や木の実の栽培などを行っている。
「ジン!いる?」
『リコ?入っていいぞ』
ジンの許可を得て扉を開け、中に入るとそこにはジンとジュカインいた。彼らはホエルコ型のじょうろを持ち植木鉢に生えているオレンの実の木に水を与えている。
「どうしたんだ?」
「うん。実はね……」
学校で課題が出た事、そしてその対象をジンとジュカインにしようと考えている事を説明しようとする。だが、その説明を始めようとすると扉のポケモン用の入り口が開き外からテラパゴスが部屋の中に入り込んできた。
「パ~ゴ!」
「テラパゴス?」
「なんだ、また来たのか。しょうがない奴だな」
口では呆れながらもジンとジュカインがテラパゴスに向ける眼差しは優しく、それぞれオレンの実を1つずつ木から採集しテラパゴスへと与える。
「パゴパ~!」
テラパゴスは嬉しそうな声を出すと与えられたオレンの実を美味しそうに食べ始めた。
「こいつ、最近、よくここに来るんだよ」
「そうなの?」
「あぁ、どうやらオレンの実の匂いを嗅ぎつけたみたいでな。小腹を空かせると此処に木の実を貰いに来るんだ。俺達が部屋に居ることも分かっているみたいで、無断で食べない辺りは賢い奴だよ」
「へぇ……」
以前アチゲータがこの部屋に訪れて木の実に手を出そうとしたのを現行犯で目撃したジンとジュカインは絶対零度の眼差しを向けながら、部屋から追い出して進入禁止令を出したことがあった。だが、アチゲータに比べテラパゴスに対しては、こうして自主的に木の実を与えている。こう言っては難だが、少々、扱いに差がある様だ。
(ジンもジュカインもテラパゴスの事を可愛がってる?)
「ねぇ!ジンとジュカインはテラパゴスの事、どう思ってるの?」
「どうって……結構、可愛いと思ってるよ。多分、ジュカインもな」
「ジュカ!」
(やっぱり!)
トレーナーとパートナーポケモンはどこか似ている存在というのはリコも聞いたことがあった。そして、ジンとジュカインには強い絆がある。そうなると趣味趣向も自然と似てくれるのかもしれない。早速、レポートに使えそうな情報をゲットし、リコは内心で喜び始める。
「どういう所が可愛いと思うのかな?」
「そうだな……俺もジュカインも、亀ポケモンのフォルムが好きなんだよ。本当はコータスとか手持ちに欲しかったんだけど、今まで野生の個体と遭遇する機会が殆どなくてね。ジム戦で手強いコータスとバトルをしたことがあったくらいで、……あの『ひでり』からの『オーバーヒート』はヤバかったな。『白いハーブ』を食ったのを見た時は流石に冷や汗を掻いた」
稀に遭遇する事もあるのだが、ジンの場合は手持ちに入れるポケモンへの理想が高いのもゲットが出来ない要因になっている。特質した能力や才能などを感じさせたポケモンばかり優先的にゲットするという癖は多くのポケモンをゲットするのには不向きな様だ。
「そうなんだ……」
ジンやジュカインが亀ポケモンを好んでいるのは初めて聞く話だ。自分が知らないジンの新しい情報に興味を持ったリコはその理由について詳しく聞こうとするのだが、またしても邪魔が入ってしまう。
『ロトロトロトロトロト!』
「悪い、ちょっと待っててくれ」
ジンのスマホロトムにコールがかかってきたのだ。ジンはリコの了解を取ると話しを一旦、中断しコールを取る。スマホロトムの画面にはフリードの顔が映し出された。
『ジン、悪いんだがミーティングルームにまた来てくれ!』
「どうしたんだ?」
『仕事の依頼が来た。金額も悪くない。失敗は出来ないからな、念の為に一緒に来てくれないか?』
「分かった。直ぐに行く」
そこで一旦、通話を切ったジンは改めてリコへと視線を送る。
「そういう訳だ。どうする?仕事の内容次第だが、一緒に来るか?」
「うん!行く!手伝わせて!」
「了解、ジュカイン、行くぞ」
「ジュカッ!」
ライジングボルテッカーズの財布事情はリコも承知している。自分に出来ることがあれば手伝いたいと思っていたのだ。早速、その機会を得て張り切っている。その上、課題のレポートの事を考えればジンの近くにいた方が都合がいいと考えたらしい。
(課題は一旦、後回しかな……ううん!ジュカインの出番もあるかもしれない!その時は理想の絆を見届けます!)
***
フリードに届いた仕事の依頼は、彼の友人からのもので迷子になったポケモンを探して欲しいという内容だった。今回は、依頼を受けたフリードの他にジンとリコも参加する。ロイも来たがっていたのだが、学校の課題だけでなくジンから出された難易度高めの課題が終わっていなかった為、今回は留守番だ。
そうして、彼らが訪れたのは、とある荒野にある寂れた町だ。待ち合わせ場所はその街にある小さな酒場、ジン達3人は既にその近くにまで来ている。
「あそこだな……2人共、気を付けろよ。この辺りは荒っぽい奴が多いからな」
ジンとリコに注意を促すとフリードは扉を開け、店の中へと入り、ジンとリコもそれに続いた。店の中には複数人の男性客がおり、店に来店したジン達に全員の注目が集まる。その視線に及び腰になったリコは思わず、ジンの背中に隠れてしまった。
(こういうの久しぶりだな……)
それに対しジンには動揺する様子はない。子供が来た事への物珍しさ、僅かな警戒心、彼らの視線にはそんな色合いが見て取れる。この手の店には情報が集まりやすい為、1人旅をしていた頃から頻繁に訪れていたジンにとっては慣れた視線だ。寧ろ、自分に向けられた視線の度合いから相手の器量を推し量ることも出来る程である。
「ん?フリード!」
そんな中、カウンター席で1人でいた男性が振り返るとこちらの存在に気づいた様で声をかけて近づいてくる。どうやら、彼が今回の依頼人の様だ。
「よく来てくれたな!」
「久しぶりだな。シャイン」
彼の名前はシャイン、フリードの友人であり主に野生ポケモンの保護活動を行っているらしい。ジンとリコもフリードの紹介で挨拶を済ませると早速、仕事の話へと移っていく。
「これが探して欲しいポケモンだ」
シャインはそう言うと懐から一枚の写真を取り出した。そこにはシャインと一緒にあるポケモンが映っている。
「確か、アノクサですね」
アノクサ、パルデア地方のポケモンで見た目は西部劇などでよく転がっている枯れ木の塊のタンブルウィードの様な姿をしたポケモンだ。
「先月、パルデア地方でゲットしたんだ。時々、散歩させてたんだが、昨日、強い風が吹いてどこかに飛んで行ってしまったんだ」
「風で飛んじゃうポケモン?」
「アノクサの体重は0.6kgだ。強い風が吹けば、どこまでも飛んで行くだろうな」
「そうなんだよ……本当は自分で探したいんだけど、仕事でな。実は最近、この辺でポケモンハンターの集団が無差別に野生のポケモン狩りをしているという情報があったんだ」
悪質なハンターを捕まえるのも彼の仕事の内だ。しかも、この手の仕事の場合、後手に回っていてはハンターたちを捕らえるのは難しい。情報を逐一入手し、先手を打つ必要がある。この状況で迷子のポケモンを探す余裕はないのだろう。
「事情は分かった。アノクサの事は任せてくれ」
「ついでにポケモンハンターの痕跡が残ってないのかも調査しますよ。何か見つけたら、直ぐに連絡を入れます」
「頼むよ……あぁ、それとこの辺りには凄く凶暴なポケモンがいるんだ。そいつには注意してくれ」
「凶暴なポケモン?どんな奴だ?」
「俺も詳しくは知らないんだが、最近、この辺に現れた奴なんだ。噂によると他のポケモンとは一切交流を持たず、強い奴や縄張りに近づく存在には人間、ポケモン関係なく攻撃を仕掛けるそうだ」
「へぇ……」
その話を聞くとジンは俄然、興味深そうな表情を浮かべ始める。近くでその顔を見ていたリコはジンの悪い癖が出始めたと思い、軽くため息をついてしまう。
「最近じゃ、カバルドンの群れもそいつ1体に襲われて壊滅状態になったんだ。その後、ポケモンセンターへ連れて行くのが大変だったよ」
シャインはその時の事を思い出した様で、ぐったりした様な表情を見せる。カバルドンは300kgの体重を持つポケモンだ。それを群れごと運んだとなればその苦労がどれ程の物であるかは想像に難くない。
「それで、そのポケモンの正体は?」
「いや、それが分かってないんだ。被害が出た後は直ぐにその場を離れてしまうみたいでな……分かっている事と言えば、奴の戦った相手は全員、急所を一撃で突かれたって事と『あなをほる』を使用した痕跡が見られるって事位だ」
(という事は地面タイプか……いや、決めつけるのは早いか……)
「ジン、何を考えているのかは想像がつく。だけど、仕事が先だぞ」
「……分かってる。仕事を終わらせてから考えるよ」
フリードに釘を刺されてしまった為、ジンはそこで考えるのをやめ、迷子のアノクサ探しに考えをシフトした。その後、シャインからアノクサが迷子になった経緯について詳しい話を聞き始める。
***
店を後にしたジン達は街を離れ、荒野へと移動した。そこはシャインとアノクサがはぐれてしまった場所だ。更にそこから、昨日の風向きを調べ、アノクサの体重などを考慮した上で移動距離を計算し移動を重ねる。
「この辺りにいそうなんだが……」
ジンとフリードの計算上であれば、この周辺にアノクサはいる事になっている。3人は周囲を見回すと草むらの陰に一体のポケモンが潜んでいた事に気が付いた。
「ビンゴだ!」
「思ったよりも早く済んだな」
「うん!アノクサ!私達、シャインさんに頼まれてあなたを探しに来たの!一緒に帰ろう!」
リコは大声でアノクサへ声をかける。アノクサはシャインの名前を聞くと嬉しそうにしながら、こちらに近づこうと草むらから出るのだが……
「アノ……ア~」
その瞬間、強い風が巻き起こりアノクサを後方へと吹き飛ばしてしまう。ジン達は慌ててその後を追うが、アノクサの体重が軽い為、なかなかその距離は縮まらない。
(こんな事ならサーナイトを残しておくべきだったか……)
サーナイトがいればエスパー能力で直ぐにでも捕まえることが出来たのだが、生憎、サーナイトはローテーションにより、オダマキ研究所に預けてある。他のポケモンの力では必要以上に傷つけてしまう可能性がある為、直接捕まえるしかない様だ。
その後、フリードの肩から降りたキャップやニャオハなどが先行し追いかけるが、アノクサにはあと一歩届かず、そのまま岩場の後ろへとアノクサは飛んで行ってしまう。
「急ぐぞ!」
ジンを筆頭にフリードとリコが続き、岩場の後ろへと回り込む。しかし、岩場に近づくと生き物の気配が大量にある事に気づいたジンはその場で止まり、こっそりと岩場の後ろを覗き込む。するとそこには予想通り、大量のサイホーンの群れがおり、アノクサへの行く手を塞いでしまっていた。
「面倒だな……」
「どうする?」
「……迂回するしかないな」
恐らく、倒す事は恐らく造作もないが、この場に残れば多少は時間がかかってしまう。そうなれば、アノクサの捜索は困難だ。少し悩んだ末にサイホーンの群れを迂回しつつアノクサの飛んで行った方へと進んだのだが……
「見失ったか……」
サイホーンの群れを避け、進んだ先で捜索を再開したのだが、サイホーンを怒らせない様に慎重に迂回した結果、アノクサを見失ってしまった。手掛かりらしき物も残っておらず、捜索はもう一度最初からやり直しとなってしまう。
「ジン、どうしよう?」
「取り合えず……あそこから探してみるか」
手掛かりになる物を探す為、ジン達は周囲にある中で一番の高台へと登った。そこから周辺を一望しアノクサを探すのだが、やはり簡単には見つからない。一旦、その場を離れ別の場所を捜索する事が決定したのだが……
「あっちだ!」
「ピッカ!」
現在地から左は砂漠、右はオアシスとなっており、フリードはアノクサの濡れるのを嫌う習性があるのを考えて左をキャップは野生の勘で右を選択した。両者はお互いに譲らず、こうして行き先を巡り争いが勃発してしまったのだ。
「えっと……ジンはどう思う?」
「フリードの言い分には一理ある。だけど、アノクサは風に任せて進んでる様子だったし、オアシスに行ってる可能性もあるし……この際、分かれて両方とも行ってみるのもありかもな」
「……そうだね」
(それにしても、あの2人も喧嘩するんだ……)
フリードとキャップ、リコの中では課題の第二候補として考えていたコンビだ。その2人がまさかこの様な事で諍いを起こすとは予想しておらず、つい興味深そうな目で見てしまう。
「アノ~~……」
フリードとキャップの争いが続く中、アノクサの鳴き声がどこかから聞こえてくる。慌てて鳴き声のした方に視線を来ると、ジン達のいる直ぐ近くの崖の上の枯れ木にアノクサが引っ掛かっていた。
「あんなところに!」
「どっちもはずれか……まぁ、データも野生の勘も百発百中とは行かないよな」
ジンは軽く両者にもフォローを入れるが、予想を外した二人の顔は心なしか赤い。しかし、それも束の間、またしても強い風が吹き起りアノクサはその風に乗って飛ばされていく。
「追うぞ!」
ジン達は急ぎ、アノクサの飛ばされた方角へと向かって走り出した。暫く進むと荒野から、砂漠地帯へとアノクサは進んでいく。しかし、同時にこれはチャンスでもあった。広い砂漠の方が遮蔽物が少なく見つけやすい。
ジン達はそう判断していたのだが……
「あっ!」
最初にそれを発見したのはリコだった。彼女の視線の先には大量のタンブルウィードが転がっている。正直、遠目に見るだけではアノクサとの違いを見分けるのは難しい。
「ア……ノ……」
しかし、耳をすませばアノクサの声らしきものは聞こえてくる。どうやら、あの大量のタンブルウィードの中に紛れ込んでいるのは間違いないらしい。
「こうなったら、手当たり次第に探すしかないな」
現状、手掛かりはこれだけだ。ジン達はタンブルウィードの中に入り、アノクサを徹底的に探し始める。探し始めてから10分程、過ぎただろうか。鳴き声はすれどもアノクサは発見できず、疲れ始めたリコはその場に膝を突き始めてしまう。
「見つからないね。ニャオハ……」
「ニャオ……」
そのまま過ぎ去っていくタンブルウィードを二人は呆然と眺めている。すると他のタンブルウィードよりも少しだけ色の濃い存在が横切っていくのが視界の片隅に入った。
「ん?……えっ?今、アノクサいなかった!?」
タンブルウィードに紛れてアノクサらしき存在が、通り過ぎたのに気づいたリコは慌ててその場から立ち上がる。
「みんな!アノクサが……って、あぁっ!」
リコが勢いよく立ち上がった為に、背中のリュックに背負っていたテラパゴスはその反動でテラパゴスは砂漠に顔面から突っ込んでしまった様だ。リコは慌ててテラパゴスを回収する。テラパゴスには怪我はなく、そこは問題ないのだが……
「リコ!どうした?」
「アノクサ見つけたのか?」
「う、うん!今、そこに……見失っちゃった」
リコの声を聞き、ジンとフリードもその場に集まる。リコはアノクサがいた方を向くのだが、そこにはもうアノクサの姿はない。どうやら、風に吹かれてまたどこかに行ってしまったらしい。
***
手掛かりがなく当てもなく砂漠の中を彷徨うのにも限界がある。そう考えジン達は近くにある町を訪ねて、アノクサの情報を求めたのだが、発見情報は1つもなかった。
「手掛かりなし……」
「見た人はいないみたいだな……」
こうなった以上は、また砂漠に戻り地道に手掛かりを探していくしかないのかもしれない。そんな考えが全員の頭をよぎっていく。
「見て見て」
「うわぁ~」
「ピッ!?」
ジン達が相談を続けていると、キャップの背後に2人の女性が現れた。この辺りでは生息していないピカチュウが珍しいようで興味深そうな様子で近づいてくる。
「このピカチュウ……」
「帽子なんかかぶっちゃって……」
「「かわいい~」」
ピカチュウは元々、その容姿故に女性人気の高いポケモンだ。しかも、そんなポケモンが帽子をかぶっているのだから、ピカチュウ好きの人にはたまらなく可愛く見えるのだろう。
「ピカチュッ!チュッ!プッ……クチュ!」
しかし、女性達がかわいいと言った瞬間、キャップは突如としてくしゃみを行う。それは偶然の物ではない様で、止まる様子もなく何度も連発で続いた。
その様子はまるで……
「……何かのアレルギーか?」
「正解だ。キャップはかわいいアレルギーでな。かわいいって言われるとくしゃみが止まらなくなるんだ」
未だにくしゃみが止まらないキャップをフリードは笑いながら見ていたが、ジンとしては正直、このアレルギーについては笑い流すことは出来ない。
(この弱点がバレるとまずいな……)
これは明確なまでの弱点だ。バトル中にかわいいと言われるだけで、あの様にくしゃみが連発してはバトルにならない。もしもジンが敵としてキャップのこの弱点を知ったら、バトル中に問答無用で使用し隙を作らせる。
しかも敵にはスピネルの様に手段を択ばない相手がいる。このアレルギーという弱点は克服は難しいかもしれないが、せめてある程度まで抑える事が出来なければ今後、エクスプローラーズとバトルする際に安心して任せる事は出来ないかもしれない。
(……仕事が終わってから考えるか)
今はアノクサの捜索を優先する必要がある為、横に置くが、船に帰り次第、キャップのアレルギー対策について、本気で考える必要がある。具体的な事はポケモン博士のフリードやドクターのモリーなどと相談するが、放置する事は危険だと判断した。
***
町を離れ、再びアノクサの捜索を再開する。まずは、もう一度、砂漠周辺を探し始めるがアノクサの姿は見られない。同じ場所を探し続けても効率が悪い為、次にまだ一度も訪れていないオアシスへ向け足を進めた。
「アノクサ、どこに行っちゃったのかな?」
「この辺りにもいないか……」
(迷子探しと聞いて、少し、甘く見てた。こんな事ならポケモンの入れ替えしてくるんだったな……)
現在、ジンの手持ちはジュカイン、ボスゴドラ、ミロカロス、ハッサム、コノヨザル、カビゴンの6体だ。エスパー能力を持つサーナイト、匂いで追跡可能なライボルト、空中から捜索可能なボーマンダがいれば様々な行動が出来るのだが、今の手持ちではそれも難しい。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「た、助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
今からでも手持ちを交換するべきか思案しながら、アノクサの捜索を続けていると、茂みの奥から男性の悲痛な助けを求める声が響き渡って来た。
「な、なんだ!?」
「行ってみよう!」
ジン達は声のした方に向かい走り出す。茂みを越えてみると、そこにはカウボーイ風な格好をした男性2人が紫色の蠍の様なポケモンに追い詰められ、尻餅をついて座り込んでいた。完全に腰が抜けてしまっている。
「あれは……ドラピオンか!」
ドラピオン、砂漠を横断する人やポケモンを襲う獰猛な性質で、砂の悪魔と呼ばれているポケモンだ。この場所にいること自体は特に不思議ではない。だが、問題なのはその大きさだ。
(でかいな……)
通常、ドラピオンの大きさは1.3m程の筈だ。しかし、目の前にいるドラピオンは詳しく計測しなくては確かなことは言えないが、目測でも2mを優に超えている様に見受けられる。
「た、助けないと!」
「……いや、待て」
今にも茂みから飛び出そうとするリコの腕を掴み無理やり引き留める。
「で、でも!早くしないとあの人たちが!」
「周りをよく見ろ」
あの男性2名の近くにはトラックが置かれている。しかもそのトラックには檻が備え付けられてあり、その中にはスコルピ、ネイティオ、イシツブテなどのポケモンが積み込まれている。
「もしかして……」
「あぁ、多分、連中はポケモンハンターだ」
今はまだ状況証拠だけだが、恐らく間違いないのだろう。あのトラックを詳しく調べ、男性たちから証言を取れば直ぐにでも証拠は出て来る筈だ。
「スコルピはドラピオンの進化前のポケモンだ」
「そっか……じゃあ、ドラピオンはスコルピを助ける為に……」
「ドラァァァァァァァァァァァァァァ!」
ドラピオンは力強い咆哮を上げると両腕の爪を振りかざし、ハンター達に攻撃を仕掛けるが彼らは寸での所で頭を抱え姿勢を低くする事で運よく回避に成功する。その結果、ドラピオンの爪はトラックに捩じ込んでしまった。
「ド?……ドラァァッ!」
ドラピオンはそのままトラックを軽々と持ち上げて頭上に掲げると、興味がないのか後方へと放り投げる様に捨ててしまう。
「おいおい!」
「投げた!?」
「無茶苦茶な奴だな!」
ジンは咄嗟にモンスターボールを取り出し、トラックに向かって投げつける。中から現れたジュカインは瞬時にこの状況を理解した様でトラックの檻に目掛けて疾風の如く急接近し、愛刀たる緑刃を構えた。
「『リーフブレード』!」
ジュカインの両腕から抜刀された深緑の刃が鋼鉄の檻を両断し、囚われていたポケモン達を解放する。ジュカインはそのままポケモン達を両手や尻尾で抱えながら回収すると、檻の残骸を足場にしながら瞬く間にその場を離脱した。まさに軽業師とでも言うべき鮮やかな身のこなしであった。
ジュカインが離れてすぐにトラックは地面に突き刺さった。その際、ガソリンが漏れたのか数秒後には爆発を引き起こす。もしも、あのままポケモン達を乗せたままであれば大惨事を招いていただろう。
「あのドラピオン……どうやら、助けに来た訳じゃなさそうだな」
「……うん。絶対に違うと思う」
どう見ても助けに来た者の振る舞いではない。あの態度から、囚われのポケモンになど、端から興味がないのがにじみ出ていた。
「あ、あんたらトレーナーか!助けてくれ!」
ここに来てようやく、ジン達の存在に気づいた様でハンターたちは情けなくも助けを必死に求め始める。ジンはそれを冷ややかな視線を向けながらも一応は答えた。
「あんたら、自分のポケモンは?」
「だ、駄目なんだ!俺達のカバルドンもドリュウズもこいつに倒されちまった!もう打つ手がないんだ!」
「……へぇ」
カバルドンとドリュウズを倒した。それが事実だとすれば中々に面白い事態だ。ドラピオンの弱点は地面タイプだけにも関わらず相性不利な相手に勝利したという事実、そしてなによりもカバルドンに対し臆せずに戦う姿勢が素晴らしい。
ドラピオンは「砂の悪魔」という異名を持つポケモンだが、同じ砂漠に生息する相性の悪いカバルドン相手には喧嘩を売らずに大人しくすることで知られている。よく言えば分の悪い戦いはしない、悪く言えば臆病ともとれるが、少なくとも目の前のドラピオンには当て嵌まらないのだろう。
『俺も詳しくは知らないんだが、最近、この辺に現れた奴なんだ。噂によると他のポケモンとは一切交流を持たず、強い奴や自分の縄張りに近づく存在には人間、ポケモン関係なく攻撃を仕掛けるそうだ』
『最近じゃ、カバルドンの群れもそいつ1体に襲われて壊滅状態になったんだ。その後、ポケモンセンターへ連れて行くのが大変だったよ』
その瞬間、脳内にシャインが言っていた凶暴な野生のポケモンの情報が次々と思い浮かんでくる。まだ確かとは言い切れないが、このドラピオンならば可能性は大いにある。
「ジュカイン」
長い付き合い故にジュカインはその意図を察して、『こうそくいどう』を発動するとそのまま2人のハンターを回収し、再び相棒の傍へと舞い戻る。
「た、助かった~」
「悪いな、坊主。ついでにあいつの相手も……」
だが、ハンターの言葉はそこで途切れる。それも無理はない。ここまで連れて来たジュカインが『リーフブレード』をハンターたちの喉元に突き立てているからだ。
緑刃の冷たい輝きがハンター達の背筋を凍らせるが、ジンとしてはこんな連中の為にジュカインの愛刀を穢したくはない故に、最初から脅しのつもりであった。この程度の小物であれば、それだけで屈することも経験上で分かり切っていたからだ。
「言われなくても相手はしてやるさ……だが、それはお前達の為じゃない」
ジンはハンターたちに目もくれず、ただドラピオンだけを見つめている。ドラピオンを観察し一挙手一投足から情報を得ようとしていた。
「ジュカイン……その2人が怪しい動きをしたらお前の判断に任せる。脚の1、2本へし折っても構わないから、その場でお待ち願え」
「ジュカッ!」
「あぁ、但し口は動かせる様にしておけよ。舌を斬り落とすのもなしだ。後で拷……話を聞かせて貰う必要があるからな」
「「ひぃっ!?」」
1人の少年から冷徹な眼差しを向けられて脅える哀れな大人2人。彼らの運命はジンとドラピオンのバトル後まではお預けとなった。だが、どちらが勝とうとも彼らにいい未来は訪れる事はないのだろう。
「「…………」」
そんなハンター達をリコとフリードは複雑そうに見ていた。やった事を考えれば同情の余地はないのだが、よりにもよってジンに捕まってしまった事は悲劇と呼ぶ他ないだろう。ハンターが逆に狩られるというのは皮肉が効いた自業自得でしかないが。
「リコ、フリード、少しだけ待っていてくれ。直ぐに終わらせる」
本来であれば、直ぐにでもシャインに連絡すべきところだが、ハンター2人というお荷物を担いでドラピオンから逃げ切るのは難しい。
いっそのこと、この2人のハンターの片方をドラピオンへの囮として投げつけて、それを見せしめに残った片方から情報を吐かせるのも良いかと思ったが、全てのハンター達を捕まえなければ懸賞金が減額される可能性もある上に、流石にリコの前では憚られた。こうなった以上はもうバトルするしかないのだ。
「う、うん」
「……あぁ」
ジンの内心は兎も角、このままではドラピオンからは逃げられないという事実は2人も理解している為、了承するのだが、どこが歯切れが悪い。どうやら、リコ達にはジュカインに拘束されている2人よりも今のジンの表情の方が遥かに獲物を狙うハンターの様に見えている様だ。リコとしては、そんなジンも良いと思ってしまう辺り、恋は盲目と言えるのかもしれない。
「ドラァァ……」
「ドラピオン、お前の力、見極めさせてもらうぞ……俺の期待を裏切らないでくれよ」
という訳で次回はVSドラピオンとなります!昔から見た目が凄く好きなんでアニメでスコルピを見た時に出したいなとずっと思っていました
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