ポケットモンスター 新たなる冒険   作:malco

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お待たせしました。約二週間ぶりの投稿です。

実家に一週間近く帰ると駄目ですね。すっかりサボり癖がついてしまった……次回からは7~8日投稿に戻したいと思っています!


イッカネズミ

 

 ポケモンバトルとは様々な環境で行われる物だ。雨、日照り、砂嵐など天候だけでも様々であり、更にそこにバトルフィールドの状態なども考慮する必要がある。故に、あらゆる事態を想定しどのような気候であってもバトルできる様に特訓を行う事が肝要だ。

 

「だけど、流石に今日は無理だな……」

 

 展望室から見る外の景色は酷い嵐だ。強い風が吹き出したのかと思えば、いつの間にか嵐へと変貌を遂げてしまっている。これ程の規模の嵐はジンとリコが初めてブレイブアサギ号に乗船したあの夜以来かもしれない。

 

 無論、ウイングデッキ内であれば、バリアによって守られている。しかし、万一の事を考えれば流石にこの状況で特訓をするのは危険すぎると判断せざるを得なかった。

 

「当たり前だよ!」

「アチゲッ!」

「カーイ!」

「ワルビィ!」

 

 ジンの呟きに同じ様に外を眺めていたロイ達が一斉に反応する。新入りのワルビルにまで似たような反応を取られる辺り、どうやらロイ達と同様、既にジンの特訓の被害に遭っているのだろう。

 

 実際、こうなってしまっては特訓どころか航行を続ける事も危険だ。そう考えたのはジンだけでなくフリード達も同じだった様で、ブレイブアサギ号を下降させるとアンカーを放出し近くの森へと着陸させていく。

 

 

 

***

 

 

 

 翌日、昨日の嵐は嘘の様に過ぎ去っていた。空には雲1つなく正に晴天と呼ぶに相応しい天候だ。だが、昨日の嵐は船に少なくない影響を与えていたようでオリオによる船全体の点検が行われることになった。

 

「うん。オッケー健康だね」

 

 点検が終わるまでの間、この場所に停泊する事になるとモリーはその間にポケモン達の健康診断を始めていた。船にいるポケモン達を順番に診察し、ユキワラシが診断を終え救護室を出て行くとそれに入れ替わる様にジンとリコが現れる。

 

「ジン、リコ?どうした?」

「健康診断してるって聞いて、ミブリムを診て貰えないかな?」

「俺のポケモン達も頼むよ」

「勿論、いいけど……まずはミブリムを先にしてジンのポケモン達は後にさせてもらうよ。あんたのポケモン達って大きいのが多くて救護室じゃ手狭だからね」

「構わないよ。こっちは急ぎじゃないからな」

 

 ボスゴドラやミロカロスも相当大きいが、それ以上に特に最近ゲットしたポケモン達はサイズが通常とは比べ物にならない。彼らの本格的な健康診断をするのであれば、ウイングデッキなどの広い場所でなければ難しいだろう。

 

「それでミブリムはどうしたんだ?」

「うん。なんか、調子が悪いみたいなんだけど……」

「そうか……多分、昨日の嵐のせいだと思う。前に怖い思いをしたからな」

 

 モリーの言葉を聞くとリコはミブリムとの出会いを思い出す。確かにミブリムとガラル鉱山に向かう途中で初めて出会った時も酷い雨が降っており、その時の恐怖を思い出してしまったのかもしれない。

 

「何か気持ちを切り替えられる、いい方法があればいいんだけど……」

「気持ちの切り替えか…………ん?」

 

 モリーがそう呟いた瞬間、ジンのポケットの中のモンスタボールが突然、震えはじめる。まるで「自分を出してくれ」と訴えかけている様だ。そう感じたジンはボールを取り出すと開閉スイッチを押し、中に入っていたポケモンを外に出す。

 

「サ~ナ~」

 

 モンスターボールから飛び出したサーナイトはミブリムの頭にそっと手を置いた。その瞬間、サーナイトの手から優しい波導を帯びた眩い光が発生し、ミブリムを包み込んで行く。

 

「ミー?……ミミ~~!」

 

 やがて光が収まるとミブリムは元気を取り戻した様で、元気そうな声を上げる。先程に比べ表情もだいぶ和らいでいる印象を受ける程だ。

 

「いいね。笑顔になった」

「よかった……ねぇ?ジン、サーナイトが使った技ってなんなの?」

「あぁ、今のは『いやしのはどう』だ」

 

 『いやしのはどう』とは本来はダメージを負ったポケモンを回復させる技だ。その為、体にダメージのないミブリムに使っても本来の効果は発揮しない。しかし、サーナイトは『いやしのはどう』にミブリムを思う気持ちを込めていた。ミブリムはそれを感じ取ったからこそ、元気を取り戻せたのだろう。

 

「サナ~」

「ミ~ミ~」

「ミブリムとサーナイト、なんだか気が合うみたいだね」

「同じエスパータイプだからな。それにミブリムは進化していけば、サーナイトと同じエスパー・フェアリーの複合タイプになる。共通点が多いんだよ」

 

 ミブリムは最終進化形のブリムオンに進化する事でサーナイト同じタイプとなる。しかも、種族値もやや差はあるが似通っているなど共通点は様々だ。サーナイトがミブリムの事を気に掛けるのもそれが理由なのだろう。

 

 その後、救護室には昨夜の嵐を乗り越える為に力を尽くしたポケモン達が次々にやってくる。一晩中、休まずに働いていた事もあり全員、かなり疲弊していたがモリーが適切に処置し、ラッキーとサーナイトが『いやしのはどう』などで治療を行っていく。

 

「よしっ!これで終わり」

「ツボツボッ!」

 

 そして、最後に訪れたツボツボの足に刺さった小さな針を抜き去る。これで主に治療が必要なポケモン達の処置は終わりの様だ。

 

「ミ~ミィ~ミ~ミィ~」

「どうした?」

「もしかして……『いやしのはどう』の真似をしてるのかも?」

「ふむ……ミブリムはバトルに向かない性格みたいだし、案外、悪くないかもな」

 

 『いやしのはどう』はバトル以外でも様々な場面で活用できる技だ。それにエクスプローラーズなどと戦う際に、回復手段があるのとないのでは打てる手が大きく変わってくる。それ程までに回復技は貴重なのだ。

 

「覚えられるといいな。『いやしのはどう』」

「うん。頑張れ!ミブリム!」

「それなら、俺がミブリムに『いやしのはどう』を覚えさせる特訓を「「却下!」」……まだ、最後まで言ってないんだけど……」

「だ、駄目だよ!ミブリムはロイ達とは違って繊細なんだから!」

「そうだ!あんた、ミブリムに一生モノのトラウマを植え付ける気?」

「……心外だな。今までだって、そこまでキツイ特訓はしてきてないだろう? 寧ろ“あの程度”をキツイと思われるのも心外だ」

 

 アチゲータ達程ではないが、ニャオハやミブリムとも定期的に特訓を行っている。こちらに関してはあくまでも自衛目的の為、然程きつくはなく運動に近いような内容だ。しかし、それでも多少の成果は見られミブリムも以前よりも強くなっている様子が見て取れる。

 

「それに『いやしのはどう』を覚えさせるのに、そんな過酷なトレーニングをさせるつもりはない」

「……本当に?」

「本当だ!ざっと頭に浮かんだのは、ミブリムに静かな場所で『めいそう』の様な技を使い精神統一をさせて、その傍でサーナイトが『いやしのはどう』を実践、その際に発した波導を感じてもらい技のイメージを掴むっていう危険の少ないやり方だ」

 

 それを聞き、リコとモリーは驚愕と同時に安心した様子を見せる。普段が普段だけにジンの技習得の為の特訓と聞くと、ついスパルタ的な指導を思い浮かべてしまったが、確かに今の説明通りであるならば危険はほぼない。これならばジンに託してみるのもありなのではないかと真剣に考え始める。

 

(そうして技のイメージを掴んだら、特訓でダメージを受けたアチゲータ達に対して、ミブリムの『いやしのはどう』の実戦訓練を並行するという流れで行くか。今のロイのポケモン達だと正直軟弱過ぎるからな。あの程度で音を上げられては、トレーニングとしては物足りなかったから丁度いい)

 

 ジンはジンで着々と脳内でミブリム強化計画を考えていた。勝手にロイ達を巻き込んではいるが、ミブリムに酷い事はしないという約束は守っているのでジンの中ではセーフ判定らしい。

 

「ミッ!」

 

 『いやしのはどう』の真似をしていたミブリムは突如、リコのフードから飛び出し救護室の外に出て行く。その様子から外に何かあるのではないかと感じたジン達はその後に続いた。

 

「あれは……」

 

 ミブリムが立ち止まったのは船と地上を繋げたスロープの手前だ。そして、ミブリムの視線の先には傷だらけになり倒れている1体の小さな白いポケモンが確認できる。モリーは直ぐにラッキーを呼びつけると大急ぎで倒れているポケモンを抱きかかえ応急処置を開始する。

 

「このポケモンって……」

「ワッカネズミだ」

 

 ワッカネズミ、パルデア地方のポケモンだ。このポケモンには大きな特徴があり、タマタマやタイレーツの様に複数匹で1匹と数える。図鑑によれば2匹はいつでも一緒にいるらしいのだが、見た所、周辺にはその姿はない。

 

「もう1匹はどこ?」

「近くにはいないね。昨日の嵐のせいで逸れたのかも」

「そうなると、少し厄介だな……」

 

 この広い森の中から、1匹の小さなワッカネズミを探し出すのはかなり困難だ。何かしらの手がかりが無ければ、船にいる全てのポケモン達の力を借りても見つけられる保証はない。

 

「……取り合えず、応急処置はした。救護室に戻って休ませよう」

「了解。なら俺はこの辺りを捜索して見る」

 

 手がかりが無いとはいえ、手持無沙汰に立ち尽くしている訳には行かない。今は手がかりが無くとも捜索を続けていれば何かしらの痕跡が見つかる可能性はゼロのではないのだ。現状は、その僅かな可能性に賭けるしかない。

 

「フィッ!フィッ!フィィィッ!」

 

 するとその瞬間、ラッキーに抱えられていたワッカネズミが完全にはダメージが抜けていないにもかかわらず、地上へと降り立った。体を揺らしながらも懸命に歩きだし、途中でジン達の方へと振り返ると片腕を上げ、まるで「ついてこい」とでも言っているかのようだ。

 

「ついてこいって事かな?」

「恐らくな。多分、森の中にもう1匹のワッカネズミがいる」

「……追ってみよう」

 

 ジン、リコ、モリーの3人はワッカネズミの後を追いかけ、森の中を進んでいく。昨日の嵐の影響で木々は折れ、森全体がひどく荒れている光景が目に入ってくる。そんな中、辿り着いたのは小さな洞窟だ。しかも、厄介なことにその洞窟の入り口には巨大な大木が倒れており、入り口の殆どを覆ってしまっている。

 

「フィフィー!フィフィーッ!」

 

 洞窟に辿り着いたワッカネズミは大木の隙間から洞窟内に向かって語り掛ける。するとそれに応えるように中からポケモンの物と思われる鳴き声が僅かに響いていた。

 

「この中にパートナーがいるの?」

「声の感じからして、かなり弱ってるね。ケガしてるかも」

「じゃあ、ちょっと急ぐとするか」

 

 ジンはポケットから2つのモンスターボールを取り出すと宙に投げる。中から現れたのは相棒のジュカイン、そしてサーナイトだ。

 

「ちょっと待った!まさか大木を切り裂く気?そんな事したら、穴が塞がるかも!」

「問題ない。任せてくれ……ジュカイン!『リーフブレード』で切り裂け!」

「ジュッカ!」

 

 ジュカインは両腕の草刃を研ぎ澄ませると洞窟を覆っていた大木を一刀両断に切り裂く。モリーが懸念したように斬られた木が洞窟の入り口を塞ごうとするが、ジンやジュカインとの長い付き合いから息の合ったサーナイトがエスパー能力をフル活用して『サイコキネシス』を発動した。

 

「サーナッ!」

 

 サーナイトの『サイコキネシス』により斬られた大木は空中へと持ち上げられ、行く手の邪魔にならない様に森の奥へと運ばれる。

 

「よしっ!入り口確保だ」

「……あんたって本当に規格外だね」

「どうも……って、思ったよりも穴が小さいな」

 

 大木を退かしてはみたものの、洞窟は想定していたよりも小さかった。これではモリーが入るのは少し難しい。小柄なリコならば何とか入れるが、ジンが入るとなると進むのに苦労するだろう。

 

「結構、きついね……ジン、『あなをほる』を使えるポケモンはいない?」

「勿論いるが、洞窟内の様子が分からない内には使いたくないな」

 

 『あなをほる』を使用すれば洞窟内にも影響を与える可能性がある。洞窟内の様子が分からない内に余計な影響を与えて崩落を引き起こすなどと言う事態は万が一にでも避けたいところだ。

 

「フィフィッ!フィフィッ!……フィッ……」

 

 どうするか悩んでいると、此処までジン達を連れて来たワッカネズミがその場に倒れ込んでしまった。どうやら応急処置を受けてから此処まで体に鞭を打ち歩き続けた事で体力を全て使い果たしてしまったらしい。

 

「くっ……どうしたら……」

「……仕方ない。モリーは此処に残って、ワッカネズミの治療を頼む。洞窟の中は俺が探す」

「だったら、私も行くよ!」

「……分かった。2人共、お願い」

 

 また穴が塞がった時の為にジュカインとサーナイトをその場に残すとジンとリコは洞窟内へと足を踏み込む。洞窟内はやはり狭い。リコの背丈でもギリギリで、ジンはかなり姿勢を悪くしなければ進むのもやっとだ。

 

「あっ!ジン!見て!」

 

 暫く、そのまま道なりに進んでいくと先頭を歩いていたリコが洞窟内に倒れている1匹のワッカネズミを発見した。この状況から見てこのワッカネズミがパートナーと考えて間違いないだろう。

 

「ジン!モリーたちの所にお願い!」

 

 倒れたワッカネズミを拾い上げたリコはそれを後方にいたジンへと託す。そしてジンはそのまま体を回転させて振り返ると洞窟の入り口で待機しているモリーの元へと向かった。

 

「モリー頼む!」

「オッケー!任せて!」

「よかった……」

 

 見た所、それ程に深い傷ではない。モリーとラッキー、そしてサーナイトにかかればあっという間に回復させられるだろう。そう感じたリコは思わず、安堵の声を出してしまう。

 

「俺達も出るか……この体勢でずっといるのもキツイしな」

「あはは、そうだね」

 

 もっと苦戦するかと思っていたが、些か拍子抜けしてしまう程に早く解決したと言えるだろう。少なくともジン、リコ、モリーの3人はそう考えていた。だが、ただ1匹だけこの状況に違和感を感じた存在がいた。

 

「ミッ!?ミィィ!」

 

 それはリコのミブリムだ。リコのフードに入っていたミブリムは何かに気付いたのか、突然、フードから飛び出すと体を震えさせながらも洞窟の奥へと1人走り始める。

 

「ミブリム!?待って!」

 

 リコはミブリムの後を急いで追いかけ始める。中腰にならざるを得ないこの場所ではミブリムを見失わない様にするので精一杯で簡単には追いつけそうにない。

 

「……モリー!その子の治療は頼んだ!」

「ちょっ!?ジン!リコ!待って!」

 

 モリーの制止も聞かず、ジンもリコとミブリムの後を追い、洞窟の内部へと進んでいく。詳しい原因は分からないが、ミブリムが自分から進んだ以上、洞窟の奥に何かを感じ取ったは確かだ。

 

(まだ奥にポケモンが残ってるのか?)

 

 それを確かめる為にも今は前進するしかない。小さな洞窟の為、立ち上がる事すら出来ないが、中腰のまま出来るだけ全力でリコの後を追って行く。暫く進むと漸くリコ達に追いつくことに成功した。

 

「リコ!」

「ジン!来てくれたんだ!」

「あぁ、ミブリムはどうした?」

「……あそこ」

 

 リコの視線の先、洞窟は分かれ道になっており、ミブリムはその手前で左右の道をそれぞれ見つめると体を震えさせる。推測の域を出ないが、恐らくこの先で怪我をしているポケモンの気持ちを感じ取ってしまったのだろう。

 

「ミブリム、無理しないで……」

「ミッ……ミィッ!」

 

 ミブリムがここに来た理由、それはジンが予想した様にこの先にケガをしたポケモンがいるのを感じ取ったからだ。そのポケモンを助けたいという強い思いがミブリムを動かした。リコの言葉もあり、もう一度立ち上がったミブリムは分かれ道を右に向かって突き進んでいく。

 

 ジンとリコもその後に続き、見失わない様に懸命に走る。そのまま暫く進むとミブリムは足を止めた。そこで見つけたのは2匹のポケモン達だった。

 

「いたっ!」

「2匹も……なるほど。ワッカネズミじゃなく、イッカネズミだった訳か」

「イッカネズミ?」

「あぁ、ワッカネズミの進化形だ。通常、2匹のワッカネズミに子供が加わるらしいぞ」

 

 最も、子供とは言ってもガルーラの様に明確な親子関係であるかの真相は解明されておらず、分かり易さを優先し、便宜上大きい個体を「親」、小さい個体を「子」として扱っている。色々と謎の多いポケモンだ。

 

「まぁ、それは後でいい。今は、それよりも……」

「うん!心配しないで、もう大丈夫だから」

「あぁ、直ぐに外に連れて行こう」

 

 2匹を抱きかかえ、外に向かおうとした正にその瞬間だった。洞窟内に振動が響き渡り始める。その振動で天井にヒビが入り、小さな瓦礫が次々に落ち始め、それに追随する様に大きな瓦礫がイッカネズミの子供達に落ちそうになる。

 

「危ない!?」

「ニャァッ!」

 

 リコは咄嗟に子供達の盾になる様に覆い被さる。ニャオハが『マジカルリーフ』を瓦礫に放ち、相殺したお陰で全員、無事ではあったが、このままではいつ崩落に巻き込まれてしまうのか分からない。本来ならば、直ぐにでも脱出したい所なのだが……

 

「帰り道が塞がっちゃった……」

 

 今の崩落で瓦礫が大量に降り注ぎ、此処まで来るのに使用した道が完全に塞がってしまった。この道から戻る為には瓦礫を全て破壊する他ないだろう。

 

「ジン……どうしよう?」

 

 ジンのポケモンの力ならば瓦礫を破壊するのは恐らく可能だ。しかし、それをすればまた洞窟に強い振動を与えてしまう。あくまでもジンの見立てだが、もしも強行突破を試みれば7割方は崩落に巻き込まれてしまう可能性が高い。

 

(……少し、危険か)

 

 普段、効率などを重要視するジンだが、実は分の悪い賭けは嫌いではないのだ。もしも、この場に居たのがジンだけであったならば、多少危険を伴っても実行しただろう。だが、此処にはリコや傷ついたイッカネズミの子供達もいる。そんな状況で決行するのはリスクがあった。

 

「……強行突破するのは危険すぎる。助けが来るのを待つのが無難だろうな」

「でも!この子たち、さっきよりも弱ってる。早くモリーに見せないと!」

 

 リコの言う様にイッカネズミの子供達は明らかに先程よりも疲弊している。このまま助けが来るまで放置すればそれこそ取り返しのつかない事になるかもしれない。だが、ここには治療道具もない為、簡単な応急処置すら出来ない状況だ。

 

「だとしたら、手は1つだけだ……ミブリム、『いやしのはどう』をやってみてくれ」

「あっ……そうか『いやしのはどう』でこの子たちの治療を……」

「ミィ……」

 

 ジンの提案を聞き、リコは納得した様子を見せるがミブリムは不安気な様子だ。しかし、無理もない。今まで一度も使った事のない技を突然、やれなど無茶にも程がある。

 

「大丈夫。あなたなら絶対に出来るよ」

「……ミィッ」

「心配はいらない。今までにしてきた特訓で既に下地は出来上がっている。後はイメージだ」

「ミィ?」

「まずは集中しろ、そしてサーナイトやラッキーの『いやしのはどう』を思い出して頭の中でイメージするんだ。それさえ出来れば、お前はきっと『いやしのはどう』を使えるようになる」

 

 ジンの言う様に『いやしのはどう』を使う為の準備を既にミブリムは終えている。出来る事ならば、ここからゆっくりと覚えさせていくのがベストだったが、状況がそれを許さない。今、ここで会得するしか道はないのだ。

 

「ミィ……ミィミィ~」

 

 ミブリムは救護室で見た『いやしのはどう』をイメージしながら両耳を振るう。だが、やはり簡単には行かない様でなかなか技は発動しない。ジンとリコはミブリムの可能性を信じ、黙ってその様子を見守っている。

 

 そして、遂にその時が来た。ミブリムの両耳の先端が淡く輝き始め、波導となりイッカネズミの子供達を包み込む。波導に包まれた子供達の傷は、あっという間に消え去り何事もなかったかのように立ち上がり始めたのだ。

 

「成功だ」

「よかった……元気になったんだ」

 

 余程、心配していたのだろう。リコは感極まり思わずイッカネズミの子供達に手を伸ばすとそのまま大切そうに抱きかかえる。

 

「「フィ?……フィッ~~」」

 

 抱きかかえられた瞬間こそ、驚いていた子供達だが、次第に今までの状況、恐怖心や不安を思い出したのかリコに抱き着き泣き声を上げ始める。

 

「今回はミブリムのお手柄だな」

「うん!ありがとう!ミブリム!」

「ミィ~」

「ニャァ~」

 

 リコの肩に飛び移ったミブリム、そして同じ様に膝の上に乗ったニャオハは子供達をそれぞれ頭を撫でたり頬を舐めたりする事であやしている。その姿はまるで本当の家族の様にジンには見えていた。

 

「……さて、後はここを脱出出来ればいいんだがな……」

 

 いつまでも見ていたい光景ではあるが、現状は洞窟に閉じ込められたままで進展していない。安全確保の為にも出来るだけ速やかに脱出したいのだが、ジンの今の手持ちは外に残してきたジュカインとサーナイトを除くとドラピオン、ボスゴドラ、ボーマンダ、ミロカロスの4体だ。どれも大きすぎてこの洞窟内ではボールから出すだけで問題に繋がりかねない。

 

(サーナイトを残してきたのは失敗だったな……スマホロトムも圏外。ポケモンの入れ替えも無理か)

 

 たらればの話だが、サーナイトがここにいれば『テレポート』で一瞬で洞窟の外に脱出する事が出来た。念の為にと外に残して来たのが、その選択が此処に来て完全に裏目に出てしまった様だ。

 

「「フィッ!フィッ!フィフィフィ!」」

 

 どうやって脱出するか頭を捻っているとイッカネズミの子供達が声を上げ始める。ジンとリコが揃って視線を向けると2匹の子供たちは口を開き前歯を尖らせた。

 

「「フィッハー!」」

 

 イッカネズミの子供達は来た方向とは逆の壁に向かって前歯を突きつけると『あなをほる』を使用し岩盤を砕き、次々に外に向かって掘り進んでいく。ジンのポケモン達と比べて体も小さく威力も低い、しかし、それが功を奏した様で洞窟全体に与える影響は少ない。

 

(災い転じて福となすか……)

 

「リコ!急ぐぞ!」

「う、うん!」

 

 とはいえ、崩落の危険がなくなった訳ではない。此処からは時間の勝負と判断し、イッカネズミの子供達が掘った穴をジン達は急いで進んだ。その結果、数分としない内にジン達は入って来た場所とは別の新しい出口から無事に脱出する事に成功したのだった。

 

 

 

***

 

 

 

 洞窟を脱出したジン達は外で待機していたモリー達と合流するとイッカネズミの4匹を保護し、ブレイブアサギ号へと帰還した。ミブリムの『いやしのはどう』で回復したと言ってもまだ油断はできない。他に何か異常がないかモリーが救護室で検査しようとしたのだが……

 

「こら!ちょっとはじっとしてな!」

「「「「フィーッ!」」」」

 

 イッカネズミ達は検査が嫌な様子でモリーとラッキー、そしてミブリムから全力で逃げ回っている。もっともあれだけ走り回れるのだから、特に問題はなさそうだ。リコもそう考えた為か、スマホロトムを取り出すとイッカネズミについて改めて調べ始める。

 

『イッカネズミ ファミリーポケモン ノーマルタイプ ワッカネズミの進化形 大きな2匹が子供達を守りながら暮らす』

 

「ジンの言った通り、イッカネズミだったんだ」

「あぁ、正直、ミブリムがいなかったら危なかったかもな」

 

 親の2匹は傷で倒れてしまって子の事を伝える存在があの場にはいなかった。もしもミブリムが気づかなければジン達は子を放置したまま船に帰還していただろう。

 

「ミブリムが頑張ってくれたから、皆を助けられたんだね!」

「……そうだな」

 

(今回は、余り役に立てなかった……俺も精進と勉強が足りないな)

 

 以前に受けたフリードの講義でイッカネズミの存在は知っていたのだ。ならば最初に見つけた段階でワッカネズミと決めつけるのではなくイッカネズミの可能性がある事には気づくべきだった。これに関してはジンの落ち度と言えるだろう。

 

「「「「フィッフィー!」」」」

 

 ジンが自分のふがいなさを猛省しているとモリー達から逃げて来たイッカネズミがリコの後ろに回り込み、リコの足にしがみ付き始める。

 

「ちょ、ちょっと!?何してるの!?」

「はははっ。すっかり懐かれたな」

 

 洞窟での一件の後、イッカネズミ、特に子の2匹はリコに懐いている。親の方も子の恩人であるリコとミブリムに深く感謝している故に、先程から隙を見せるとこの様に密着して、そのまま放さないのだ。

 

「もうっ!ちゃんと検査を受けないと駄目だよ!」

「「「「フィッ~……」」」」

 

 リコの命令は流石に聞くと思ったのだが、イッカネズミはなかなか動く様子を見せない。これは持久戦になるかと誰もが思ったのだが、それはイッカネズミの予想外の行動によって破られる事となる。

 

「「「「フィッ!」」」」

 

 イッカネズミの親達はリコの足を放すとそのまま大きくジャンプし、リコのポケットへと手を掛けた。その瞬間、リコのポケットにあった空のモンスターボールが床に滑り落ちていく。それを確認すると今度はイッカネズミの子達が飛び跳ねボールへと触れた。

 

「「あっ……」」

 

 その瞬間、赤い光線がイッカネズミを包み込み、モンスターボールへと吸い込まれた。ボールはそのまま揺れる事無くカチッという音が鳴り響く。

 

「入っちゃった……ど、どうしよう?」

「どうしようって……入っちゃったものは仕方ないだろう」

「い、いいのかな?」

「当人達が自分の意思で入って来たんだ。問題ないさ」

 

 イッカネズミは親も子も共通してリコに対し感謝の気持ちを抱いていた。こうしてゲットされたのも言うならば一種の恩返しと捉えることが出来る。

 

「リコ!そいつら外に出して!」

「……駄目みたい。全然、出てこようとしない」

 

 もしくはモリーからの避難先として利用されたのか……その答えはイッカネズミにしか分からない。だが、ロイに続きリコにも新たなポケモンが手持ちに加わり、更に賑やかさを増しながらもパルデアへの旅はまだまだ続く。

 





そんな訳でリコの手持ちにイッカネズミを追加です。アニメで見た時に絶対、ゲットすると思っていたのでこれを機に手持ちに加えて見ました。それに手持ちは3体位いた方が書きやすそうですしね。

それから新章『レックウザ ライジング』発表されましたね。最初に驚いたというか安心したのはホゲータが進化してるところです。これで心置きなくアチゲータを書いて行けます

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