今回もお待たせして申し訳ありません。ペースを取り戻すのって結構、大変みたいです。
お気に入りが1500人を突破しました!1000人超えた時も思いましたが、まさかここまで増えるとは……今後もよろしくお願いいたします!
テツロンタウン 機械などの工業製品が盛んな事で有名な街だ。街全体がまるで工場のような造りになっており、街の各地にある煙突からは煙が大量に放出されている。ブレイブアサギ号を近くの砂漠に停泊させたジン達は物資調達の為にこの街を訪れていた。
今回、買い出しは主にメカニックのオリオが担当しており、船の補修の為に大量の鉄を購入しに向かっている。それとは別にジン、リコ、ロイ、そして珍しくドットまでもがこの街に来ていた。どうやら、ぐるみんの配信中に機材トラブルでマイクが壊れてしまった様でその買い出しに付いてきたのだ。
(まるで初めてのおつかいだな……)
店に入り、商品を吟味するドットを見ると思わずそう感じてしまう。初めてのおつかいにしては5年は遅い上に一人ではないし、買いに来た物もマニアックな気もするがそこをツッコむのは少々、野暮だろう。
「新しいマイク、買えてよかったね」
「ま、まぁ……これくらい出来て当然だし」
「さてと、こっちの用事は終わったし船に戻るか?」
「あっ!待って!その前に行きたい場所があるんだ」
「別に構わないが、どこに行きたいんだ?」
「付いてくれば分かるよ」
ドットがスマホロトムで地図を確認すると街のある場所を目指し歩き始める。暫くして辿り着いた場所には先程、マイクを購入した最新機器とは違い、ブラウン管テレビやラジカセなどのレトロな商品が大量に売られている専門エリアだった。
「これはこれは中々、珍しいものが売られてるな」
「あぁ、レトロ商品の専門エリアでよりマニアックな物が売ってるんだ」
「面白そう!」
「行ってみよう!」
現代っ子のリコやロイにとっては珍しい商品ばかりで興味が惹かれたのだろう。テレビやラジカセなどを興味深そうに見つめている。ドットも配信に役立ちそうな小道具を探すのに夢中だ。ジンもレトロ商品に興味がない訳ではないが、ホウエン地方を巡った際に掘り出し物市場などで似たような商品を見たことがある為、そこまで興味を惹かれなかった。
(……暫くブラブラしてるか)
3人の様子を見るにまだ時間がかかりそうだ。たいして荷物も多くないし、最悪、逸れてしまっても船で合流すればいいと考え適当にそこら辺をぶらつきながら面白い店がないか探しに歩き始める。
(似たような店ばかりだな……)
しかし、専門エリアというだけありここにある店は全て古い電化製品しか売っていない様だ。歩き始めて10分と経たないが、早々に見切りをつけリコ達の元に戻ろうとすると興味深い宣伝文句がジンの耳へと入ってくる。
「さぁ!よってらっしゃい!みてらっしゃい!ポケモンバトルに役立つ道具を大量に仕入れたよ!本日限りの大特価セール中だ!早い者勝ちだよ~~!」
なんとなく胡散臭い気はしたが、バトルに役立つと聞いた以上、ジンとしては無視する事は出来ず声のした方に向けて足を進め始める。人込みを避けながら進み裏通りに面したそこには一軒の小さな出店が佇んでいた。店の販売台の上にはジンが求めていた『ピントレンズ』や『たべのこし』など様々な道具が所狭しと並べられている。些か節操がない品揃えと言えなくもないが、有用性の高い道具が目白押しだ。
「へぇ、なかなかいい商品が揃ってるな」
これだけあればジンのポケモン達だけでなくリコ達のポケモンに持たせる道具も購入することが出来る。多少、金は必要だが必要経費と割り切るべきだろう。
(……いい商品ばかりだが、ここで売れるのか?)
ここは機械などの工業製品で有名な街だ。ここにいる殆どの客層はこの辺りに家や職場のある人が多く、ジン達の様に旅をしているトレーナーは然程、多くないと思われる。正直、売ってる商品のニーズがこれでもかという程に合っていない。いい商品なだけに残念だが、ここの店主には商売の才能が欠落している可能性がある様だ。
「どうですお客さん!サービスしますよ~」
「えぇ、是非、買わせてくださ……い?」
「あっ……わ、若旦那!?」
「テペンさん!?」
商品から目を離し、店主を見るとそこにいたのはダイアナの顔なじみでもありジンのビジネスパートナーの一人でもあるテペンだ。
「……こんな所で何してるんですか?」
「ちょ、ちょっと行商に……実は『自家製超強力眠り粉入りボール』で貰った契約金で遺跡の発掘をしたんですけど、ガセ情報だったみたいで」
「それは……」
インチキ商人から足を洗い冒険者に復帰したばかりだというのにいきなり失敗してしまうとは少々、幸先が悪いとしか表現の仕様がない。
「いや!気にはしてないですよ!元々、遺跡発掘なんてものは外れる可能性の方が高いんですから。一々、めげてる暇なんざありません!若旦那のお陰で金も何とかなりそうですしね」
『自家製超強力眠り粉入りボール』の契約は今も続いている。ジンは仲介料と交渉料を貰ったのでもう関係ないが、制作に関わったテペンとカーナの両名には今でも年間での使用料と相手側が『自家製超強力眠り粉入りボール』を欲すればそれに合わせて金が入るシステムだ。
「とは言え、次に金が振り込まれるまで時間がかかりますからね。それまでの間に次の遺跡の情報収集と資金調達をしてるんですよ」
「なるほど……だったら、売り上げに協力させてもらいますよ」
ジンは販売台にある道具の中から自分が所有していない物をいくつかピックアップすると次々に掴み取りテペンに差し出す。
「毎度どうも!俺と若旦那の仲ですからね。お安くしますよ~」
「そんな事言って大丈夫なんですか?商品の仕入れにも金を掛けたんでしょう?」
「大丈夫ですって!そもそもここの商品は貸しのあるデリバードポーチの社員から、店頭に入荷される前の物を通常よりも安い値段で仕入れた物なんですから。定価より安く売ってもこっちは黒字間違いなしです!」
それは俗に言う商品の横流しの様な気がしないでもないが、ジンは全力で聞かなかった事にした。
「毎度ありがとうございます!いや~若旦那には感謝してもしきれませんね~」
「お気になさらず。こっちもいい買い物をさせてもらいましたから。所でこの後、時間ありますか?よければ俺達の船に招待しますよ?」
「あ~……お気持ちは嬉しいんですが、そろそろこの街を離れないと行けないんです。予約していたそらとぶタクシーが後、数時間程で到着予定なもんで」
「そうでしたか……残念ですね」
「えぇ……あまり大きな声では言えないんですが、実は無許可で店を構えていたんですよ。そんな訳でこれ以上、長居するとここの組合や警察に目を付けられかねんのです」
「……本当に何やってるんですか?」
商品の横流し、無許可の出店の設置、どちらも大した罪ではないしポケモンなどを悪事に利用しているわけではないが一応、犯罪である。
(……まぁ、いいか)
ジンとしてはいい商品が手に入って満足だし、正直、この手の犯罪は自分が解決すべき事案ではない。ポケモンを悪事に利用していないのであれば、一応、一般人である自分が率先して解決しに行く必要もないだろう。それにテペンの様に裏の事情を知っている上で脅したり金を払ったりせずに協力してくれるであろう存在は貴重だ。この程度の事で切り捨ててしまうのは今後を考えるとあまりにも勿体ない。
「若旦那、お達者で!俺で力になれる事があったらいつでも声をかけてくださいよ~!」
満面の笑みを浮かべながら店じまいの準備に入っているテペンと別れを告げ、ジンはリコ達と合流しに来た道を戻っていく。
***
その後、ジンはリコ達と合流しブレイブアサギ号へと帰還した。その際、ドットを必要以上に心配していたマードックが初めてのおつかいを記念してパーティを企画するなどの出来事があったが、概ね平和な日常と言っていいだろう。
「えぇ~~~~~っ!?」
しかし、平和な日常はオリオの悲鳴によって突如として崩れていく。彼女の悲鳴は船全体に響いていたようで、悲鳴を聞きつけたライジングボルテッカーズのメンバー達は声の聞こえた船底へと集結した。
「オリオ!どうしたんだ?」
「どうしたもこうしたもない!これを見て!?」
オリオが指さした先、そこには大量の鉄屑が散らばっていた。どうやら、テツロンタウンで購入してきた鉄がいつの間にかこの様な事態になっており、オリオはその事に憤慨しているらしい。
「一体、誰の仕業!怒らないから名乗り出なさい!」
「もう怒ってるけどな……」
「そう言って怒らない人って見たことないよな……」
「そこ!うるさい!ひょっとして、マードック!あんたが鍋とかフライパンにしたんじゃないでしょうね?」
「はぁ?そんな訳ないだろう!」
そもそも鉄の塊から鍋やフライパンを作るのはかなり難しい。そんな面倒なことをするくらいなら新しいのを買う方が遥かに簡単だ。わざわざ鉄を盗む必要がマードックにはないので犯人から除外して問題ないだろう。
「じゃあ、モリー?」
「私が鉄で何するっての?」
「それは……そうね……」
モリーの的確過ぎる反論を受け、オリオも渋々ではあるが納得する。モリーの言う様に彼女には鉄を使う理由が見つからないのだ。彼女も容疑者から外して問題ない。
「それじゃあ、一体、誰が……」
「……当てずっぽうで話しを進めても埒が明かないな。少し、調べさせてくれないか?」
「俺も手伝うぜ!」
「……分かった!2人共絶対に犯人を見つけてよ!」
「努力するよ」
オリオの許可を取り、他のメンバー達に一旦、退出してもらうとジンとフリードは早速、現場検証に掛かる。まず、最初に注目したのは床に散らばった鉄屑だ。
「フリード、この鉄、なにか変だぞ」
「あぁ、噛まれた跡があるな……」
ジン達も当初は鉄は盗まれたのかと疑っていたが、こうして手に取り鉄の断面をよく見ると何かに嚙まれた様な跡が見受けられる。この事から鉄は盗まれたのではなく食べられたと推測する事が可能だ。
「少なくとも人間には無理な芸当だ。それに船にいるポケモンにも鉄を食べる習性のある奴は……ボスゴドラがいたな」
「今は研究所に預けてるから疑いの視線を向けるのはやめろ」
ボスゴドラはココドラの段階から鉄を好物として食べる傾向のあるポケモンだ。しかし、ここ数日はオダマキ博士の研究所に預けている為、鉄壁のアリバイがある。
「……となると外部犯の可能性が濃厚だな」
その線が妥当な所だろう。となれば次に問題なるのは侵入経路だが、こちらは現場を調べると直ぐに見当がついた。船底の現場近くの壁に大きな穴が開いていたのだ。
「この穴が侵入経路か……結構、でかいな」
「あぁ、正体はある程度まで絞れたが、このサイズだと判別は難しいかもしれないな」
鉄を食べるポケモン、ボスゴドラなどを除けば有名なのは鋼のタイプのポケモンでメルタン、ミミズズ、それ以外だと例外としてクイタランなどが挙げられる。この穴のサイズから見てボスゴドラ以外のポケモンなら入る事は可能なように思える。
「仕方ない。1つ罠でも仕掛けて見るか?」
まだ鉄は僅かにだが、残っている。ここからジン達が去れば犯人が再び、この現場に戻り食べ残した鉄を食べに来る可能性は十分にある。それに備え、罠を仕掛ければ犯人のポケモンを捕らえる事は不可能ではなさそうだ。
「悪くないな。それじゃあ、罠の方は頼むよ」
「ん?それはいいけど、お前はどうするんだ?」
「ちょっと、ドットと話をしてくる。あいつ、なんか隠し事してるような気がするんだよ」
鉄屑を見た時のドットの反応、ジンは僅かにではあったが違和感を感じていた。分かりにくかったが、あの時のドットの反応は、何かに気付いたかの様にも見ることが出来る。だが、それをあの場で言わなかったという事は確証がなかったのか、それとも隠しておきたいと思ったのかの2択だ。
(まぁ、取り合えず、話をしてみてから判断すればいいか……)
たとえ、隠し事があろうとも質問に答える様子を見れば、ある程度は予測する事は出来る。そう考えたジンはこの場をフリードに任せるとジンはドットを探そうと船底から出ようとスロープを登っていく。
「ん?」
「あっ……」
意外な事にドットはスロープを登った直ぐ近くにいた。彼女の事だから、てっきり部屋に戻っていると思っていた為、ここで待ち受けていたのはジンにとっても予想外だ。
「ドット?どうしたんだ?」
「あっ……いや、その……なんか分かった?」
「犯人の目星か?まぁ、ある程度はな」
「本当に!?」
「あ、あぁ……」
ドットにしては珍しく積極的だ。普段、見せる事のないその姿にジンも思わず、困惑したような様子を見せてしまう。
「それで犯人は?」
「……その前にちょっと質問させてもらってもいいか?」
「えっ?い、いいけど……」
「そうか?じゃあ、早速なんだが「キュ~~~~~~~~~~~~~!」……なんだ?」
先程の疑問点について詳しく聞こうとすると、その瞬間、ポケモンの物と思われる絶叫の様な悲鳴と泣き声が響き渡る。その悲鳴から数秒としない内に上層へと繋がる階段から1体のポケモンが涙を浮かべながら走って来た。
「キュキュキュキュ!」
そのポケモンはピンク色の体に鉄の前掛けをつけた赤ん坊のような姿をしており、片手にはハンマーらしきものを持っている。階段から飛び降りようとしたそのポケモンをドットは優しくキャッチすると地面にゆっくりと降ろした。
「まさか……カヌチャン?お前、なんでこんな所に?」
「知り合いか?」
「あぁ、街で皆が逸れた時にこいつと会ったんだ。僕の買った小道具用のマイクをハンマーにしようとしてて……」
「キュッキュキュッ!」
ドットがカヌチャンとの出会いを説明しているとカヌチャンは持っていたハンマーをドットに差し出した。よく見るとそのハンマーは多少、変形してはいるが昔ながらのレトロなマイクに酷似しているのが分かる。
「ひょっとして、それを見せに来たのか?ははっ、いいハンマーになったじゃないか。大事にしてくれよな」
「キュッ……キュゥキュキュ!」
ドットからお許しを得るとカヌチャンは嬉しそうにハンマーを見ると宙に持ち上げたり頬擦りなどを行い、ハンマーを大事そうに抱える。
「カヌチャンか……」
『カヌチャン かなうちポケモン フェアリー・鋼タイプ 鉄屑を叩いてハンマーを作る 納得のいくもの出来るまで何度もやり直す』
スマホロトムでカヌチャンの紹介を聞いたことで、ジンはようやくドットがあの時に何に気付き隠していたのか見当がついた。
どうやら、このカヌチャンが鉄を盗んだ犯人ではないかと漠然と思ったのだろう。だが、確証もなく、またカヌチャンが犯人であって欲しくないという思いが、あの場で沈黙という結果となって現れたのだ。
「じ、ジン!待ってくれ!カヌチャンは多分、犯人じゃない!」
「大丈夫、分かってるよ」
図鑑説明を聞き、ジンがカヌチャンを疑うと思ったのだろう。ドットはカヌチャンを庇う様子を見せるが、ジンとフリードの推理にカヌチャンは適していない。疑う要素は皆無と言えるだろう。
「ジン?ドット?どうしたの?」
「その子は?」
カヌチャンの悲鳴を聞きつけたのだろうか。リコとロイがカヌチャンと同じく上層へと繋がる階段から降りてくる。
「あぁ、えっと……こいつはカヌチャン、僕にハンマーを見せに来たんだよ。こいつ鉄が好きで何でもハンマーにしちゃうんだ」
「鉄だって!?」
ドットがカヌチャンの事を説明していると今度はマードック、オリオ、モリーが現れ、鉄というワードに強い反応を見せる。しかし、それも無理はない。このタイミングで鉄に関係ある外部のポケモンが現れたのだ。疑うなという方が無理な話である。
「まさか、この子が鉄を盗んだ犯人なの?」
「ち、違う!いや、鉄が好きなのは違わないけど、とにかくカヌチャンは犯人じゃないんだ!」
「あぁ、それは間違いないよ。犯人は別にいる」
「そ、そうなのか?じゃあ、犯人は一体……」
ここまで来た以上、カヌチャンに濡れ衣がかからない様に、現時点で判明している事を明かそうかと考えたがその瞬間、船底からスロープを登ってフリードが現れる。
「あれ?ジン、まだいたのか?こっちは準備できたぞ」
「おっ!早かったな」
「簡単な仕掛けだからな。これで準備は完了だ」
「準備って……お前ら何してるんだ?」
「もしかして、犯人が分かったの?」
「あぁ、犯人は恐らく……」
フリードが犯人の名前を言おうとした瞬間、船底から小さな爆発音が響く。これはフリードの仕掛けた罠が発動した合図だ。
「な、なんだ!?」
「掛かったみたいだな」
「あぁ、行こう!」
まずはジンとフリードがスロープを降り船底に向かい、他のメンバーもそれに続き次々に降りていく。船底では先程、見つけた穴の付近に煙が立っていた。ジン達は煙が舞っている方へと近づくとそこには全身をワイヤーによって縛られ動きを封じられたポケモンが存在した。
「こいつが犯人だな」
「な、なに、このポケモン?」
リコは咄嗟にスマホロトムを取り出すと目の前のポケモンについて調べ始めた。
『ミミズズ ミミズポケモン 鋼タイプ 乾燥した砂地に住んでいる 土の中の鉄分を食べて金属の体を保っている』
「想定していたよりも大物だな」
「あぁ、こいつどうしようか?」
ミミズズをどう対応するべきか考えていると、ミミズズは身体に纏わりついたワイヤーを無理やり噛み千切るとジン達に襲い掛かって来た。
「来るぞ!」
「全員、避けろ!」
ジンの言葉を聞き、全員が一斉に回避行動に移る。しかし、ドットがカヌチャンを抱え回避しようとした際に運悪く持っていたハンマーを落としてしまった。そしてそのハンマーは飛び掛かって来たミミズズの口に入ってしまい、そのまま床を掘り進み船の外に逃げてしまう。
「キュゥ……」
「ハンマーが……カヌチャン!取り返そう!お気に入りの大事な奴なんだろう?」
「キュウ……キュッ!」
「よしっ!行こう!」
「クワッ!」
ドット、カヌチャン、クワッスの3人がミミズズが作った穴に入り込み、外へと飛び出した。するとそれとほぼ同時に外から何かが切れる音がし、船が大きく揺れ始める。
「な、なに!?地震?」
「違う……これは、船が傾いてるんだ!?」
***
「みんな!」
ブレイブアサギ号の外、ここではミミズズを追跡していたドット達がバランスを失い倒れそうになっていく船を為す術もなく見つめていた。
「くっ!お前!アンカーを切ったな!」
どうやら、ミミズズは船から飛び出すのと同時に船を固定させていたアンカーを噛み切ってしまった様だ。先程、罠に掛けられた事に対する復讐、そして少しでも追跡を減らす為の妨害工作のつもりなのだろう。
「リザァ!」
「ボダァ!」
船は今にも倒れてしまいそうになるが、その時、船底の穴からリザードンに乗ったフリードとボーマンダに乗ったジンが飛び出し、アンカーを掴み力の限り引っ張る事で転覆をくい止める。
(……どうするかな?)
ジンはボーマンダに乗り空中から辺り一面を観察し、次の一手を探り始める。
(この状況じゃ、俺とフリードはここから動けない。リコ達は……駄目だな。甲板に着いたばかりでドット達を援護しに行ったら、ミミズズが撤退に移行してしまう)
敵対しているミミズズだが、追跡を躱す為に船のアンカーを切る所を見ると中々にずる賢い。奴に有利なこの環境で逃げに徹されてしまえば、取り押さえるのは困難だ。そうなればもはやハンマーを取り戻すのは不可能になってしまう。
(ドットに託すしかないか。それなら、せめて……)
「ドット!これを受け取れ!」
「えっ?ふぎゃあっ!?」
「クワッ~ス!?」
ジンはポケットから、ある道具を取り出すとドットに向かって投げた。運動音痴のドットは当然の様に受け止める事に失敗したのだが、クワッスがダイビングキャッチしフォローする。
「クワス~~」
「いてて……ん?これって、ネックレス?」
クワッスの手に収まっていたのは雫の形をした宝石でそれを首から下げることが出来る様にネックレス状にしたものだった。
「いや……ただのネックレスじゃない」
ドットは目の前のネックレスからは不思議な力を感じていた。上手く表現することは出来ないし、全く論理的ではない野生の勘に近いものではあるがクワッスがこのネックレスを身に付ければ、きっと力になってくれる。そう確信した。
「クワッスに持たせろ。きっと役に立つぞ!」
「あれは……そういう事か!ドット!こっちは俺達に任せろ!お前はカヌチャンのハンマーを取り返してやれ!」
「ジン、フリード……うん!自分スイッチ、オン!」
ジンとフリードに後押しされ、ドットは覚悟を決めた様だ。カチューシャを使い、普段は目元まで隠している前髪を上げ視界を良好にする。これはドットが普段、ぐるみんとして配信を行う前にしている儀式だ。
「クワッス!『みずでっぽう』!」
「クワ~スーッ!」
こうしてミミズズとクワッス、そしてカヌチャンも交えたバトルは幕を開けた。まず、カヌチャンがミミズズに向けて突っ込み、それを援護するかの様にクワッスが『みずでっぽう』を発射する。ミミズズはその図体に似合わない俊敏な動きを見せ回避しようとする。
「カッ!?」
しかし、ミミズズはクワッスから放たれた予想以上の威力と速さの『みずでっぽう』を躱しきることが出来ず、その場に倒れてしまう。
(これって……)
だが、ドットが気になったのは攻撃が命中した事よりも『みずでっぽう』の威力についてだった。他者の目から見れば然程、違いはないと思うかもしれないが、普段からクワッスの『みずでっぽう』を見ているドットからすれば違和感を感じずにはいられない。
(威力が上がってる?もしかして、あのネックレス?)
そう、ジンが先程、ドットに託したのは『しんぴのしずく』と呼ばれる道具で持たせたポケモンの水タイプの技を上昇させる効果がある。これによりクワッスの『みずでっぽう』は通常よりも僅かではあるが、威力が増強させていたのだ。
(……いや、それは後だ。今はバトルを優先させないと!)
ドットは瞬時に思考を切り替え、改めてミミズズに注目する。そしてよく観察すると、先程の『みずでっぽう』を受けた個所が腐食し始めている事に気が付いた。
「……そうか。だったら!クワッス!もう一度『みずでっぽう』!」
「クワ~ッス!」
クワッスは再び『みずでっぽう』を放つ。もう攻撃をくらう訳には行かなかったのだろう。ミミズズは死力を振り絞り回避する事に成功するが、これはドットにとって狙い通りの展開だ。
「もっともっと『みずでっぽう』!」
クワッスはミミズズが避けられるギリギリの早さで『みずでっぽう』を撃ち続ける。ミミズズは直撃こそ回避する事には成功するが、その周辺の砂は水により濡れてしまいミミズズはそれ以上、進む事が出来なくなってしまう。
「……成程、そういう事か」
「あぁ、流石ドットだ。よく考えてる」
ジンとフリードはドットの思惑に気が付いた様だ。ミミズズが『みずでっぽう』をくらった事で体の一部が錆びついてしまったのを見て奴が水を嫌っている事に気が付いたのだろう。そうしてミミズズが進む道を水で濡らす事で逃げ場をなくし、更にクワッスへと向かう道にだけ水を撒かない事でミミズズの動きを誘導しようとしているのだ。
「カオッ!?」
そしてミミズズはドットの策略に完全に嵌まってしまった。ミミズズの周辺の砂は既に水浸し状態になっており、もはや退路はクワッスが待ち構えている場所しか存在しない。
「カァ~オ!カーッ!」
覚悟を決めたのだろう。ミミズズは自分を鼓舞するかのように叫び声を上げると地面を潜りながらクワッスに向かって突き進んでいく。この状況ではそうせざるを得ないのだろうが、それは勇敢な行動ではなくただの蛮勇だ。
(正面からのぶつかり合い、以前までのドットとクワッスならミミズズにも勝機があったかもな。だが……)
「かかったな!決めるぞクワッス!『アクアジェット』!」
日々の特訓が実を結んでいるのはドットとクワッスも同じだ。クワッスは身体全体に水を纏うと目にも止まらぬ速さで突撃していく。やぶれかぶれに突っ込んできたミミズズと『アクアジェット』を纏ったクワッスでは勝負になる筈もなくない。
「カァッ!?カァッ……カァ……」
あまりの衝撃にミミズズは吹き飛ばされる。しかもその際に、脳にダメージが行った様で目は焦点が合わず口を大きく開きながら身体全体を大きく揺らし始める。その瞬間、口の中に放り込んだカヌチャンのハンマーが飛び出してきた。
「今だ!カヌチャン!」
「キュキュッ!ニュアッ!」
ドットの合図と共にカヌチャンはミミズズに向けて一気に接近すると大きくジャンプしハンマーをキャッチした。そして、その際の落下の反動を利用するとミミズズに渾身の『たたきつける』を炸裂させる。
「カァッ!?」
ダメージを受け、ふらついていたタイミングでの攻撃はミミズズにとって致命的な物だった様だ。あまりの衝撃に目が飛び出してしまいそうな程に驚愕するとそのまま意識を失い地面に倒れ込んでしまう。
「よしっ!」
「クワスゥッ!」
バトルに勝利し、カヌチャンのハンマーも無事に取り戻せた。少しするとミミズズは意識を取り戻した様でダメージに耐えながら撤退していくが、完全勝利と言っても過言ではない成果と言えるだろう。
ミミズズが撤退した事で安全だと判断したドットとクワッスは戦闘態勢を解除すると技使用後に緊張が解けて座り込んでいたカヌチャンへと接近していく。
「カヌチャン!そのハンマー凄い威力だったよ!」
「クワッス!」
「……カァ~ッ!」
ドットとクワッスの言葉を受け、漸くバトルが終わった事を自覚したのだろう。カヌチャンは少し間を置くと取り戻したハンマーを掲げ、勝利を喜ぶのだった。
***
ミミズズにより壊された船底やアンカーの修理などをオリオを筆頭に全員でやり終えるといつの間にか時間が過ぎ去っていた様で、外は夕方になっていた。とは言え、まだ応急処置を終えただけで本当の意味での修理はまた明日以降となる。
本格的な船の修理にミミズズに食べられた分の鉄の買い出し、少なくとも明日まではここに滞在する事は確定と思った方がいいだろう。
「それじゃあ、ここでお別れだな」
「元気でね」
「お気に入りのハンマー、もう誰にも取られるなよ」
「キュッ!キュッ!」
作業が一段落つき休憩へと入ると、夕焼け色に染まる砂漠でジン達はカヌチャンに別れの挨拶を済ませ船に向かって歩き始める。
「キュ……キュウゥゥゥゥ」
ジン達に続きドットもその場を離れようとするとカヌチャンは悲しそうな声を上げ、ハンマーを強く握りしめると両目に大粒の涙を浮かべ始める。
「……こういう時、どうしたらいいんだっけ」
カヌチャンだけではない。ジン、リコとロイ、そして船にいる大人達も全員、ドットの次の行動に注目していた。やがて、ドットはカヌチャンに対して恐る恐る質問し始める。
「僕で……僕でいいのかな?」
「ウッ……キュウ!キュッキュッ!キュー!」
奇妙な出会いから始まった2人だが、この数時間でその関係は大きく変化した。ドット、カヌチャンの双方ともに互いの事を知り、信頼関係を築き上げたのは間違いない。
「クワッス~」
足元にいたクワッスはどこかからか空のモンスターボールを持ってきたようでドットに向かって差し出す。後はドットが決めろ。まるでそう言っているかの様だ。
「モンスターボール……カヌチャン、ゲットしていいかな?」
「キュッ!キュッキュウ!」
ドットの問いに涙と一緒に笑顔を浮かべたカヌチャンはモンスターボールに向けて自分から飛び込んでいく。赤い光線がカヌチャンを包み込み、ボールの中に吸い込んで行く。そのまま数回程ブルブルと震える様子を見せた後、カチッという音と共にボールは完全に動きを止めた。
「ありがとう……これからよろしくな、カヌチャン」
今回の一件で船の修理、新しく買った鉄などで出費が増えた。しかし、新しい仲間のカヌチャン、そしてドットのトレーナーとしての成長などそれ以上に得る物の多い日だったと言えるだろう。
***
「あっ……そうだ。ジン、これ……ありがとう」
新たにカヌチャンをゲットし、その感動に酔いしれていたドットとクワッスだが、ジンから『しんぴのしずく』を借りたままであった事を思い出した様だ。クワッスは名残惜しそうにしながらも首に掛けられていた『しんぴのしずく』を外すとジンに向けて差し出してくる。
「これがなかったら、もっと苦戦してたと思う」
「そんな事はないと思うが……」
応援が間に合わないと判断した為、『しんぴのしずく』を渡しこそしたが、バトルを見た感じたとえ道具が何もなくてもクワッスの勝利は動かなかったというのがジンの見解だ。
「それに『しんぴのしずく』は言う程、効果なかったろう?本当はもっといい道具があったんだけどな……」
オリオの叫び声が聞こえた時、ジンは自室で購入してきた道具の整理を行っていた。いつもならばそこから直ぐにでも使えそうな、いい道具のみを選出するのだがオリオの悲鳴を聞き、その時に偶然、手にしていた『しんぴのしずく』をポケットにしまうとそれ以外の道具は全て自室に置いてきてしまったのだ。
「そんな事ない!これだって凄い道具だよ!」
「クワ~ッス!」
「ははっ。そんなに気に入ったんならそのまま使い続けてくれていいぞ」
「えっ!?い、いいの?」
「あぁ、俺は使う予定ないしな」
『しんぴのしずく』は丁度、持っていなかったので勢いで購入した物の1つだ。そんなにも気に入ったと言うならば、今後はクワッス専用の道具として利用してもらった方が無駄にならずに済む。
「カヌチャン、ゲットのお祝いって事にしとくよ。受け取ってくれ」
「……あ、ありがとう」
普段、こういったプレゼントなどは貰いなれていない為か、ドットの顔は夕日に染まっている事を加味しても少し赤い様にジンには見えた。
(妹がいたらこんな感じか……ん。悪くないな)
ジンには兄弟が一人もいない為、この様な感情を抱いたことは殆どない。だが、悪い気はしない様でドットの事を微笑ましそうに見ていた。正直、その目線は普段から過保護すぎるマードックと大差がないのだが、ジンはその事には気づいていないらしい。
だが、1つ問題があるとすれば……
「……………………」
嫉妬深い恋人位だろう。ジンがドットをそういう目で見ていない事は分かっている。それにドットはリコにとっても大事な仲間であり友達だ。今の関係を壊すような愚かな事はしないが、それでも簡単に割り切る事は難しいらしい。
「あ~……リコ?」
「な、なにかな?」
「ニャオハやミブリム、イッカネズミの分の道具も用意してるんだ……だから、後で部屋に来てくれ」
「う、うん……」
「出来れば、その時、ニャオハ達はボールに閉まっておいてくれ……2人っきりで話をしないか?」
「っ!?う、うん!」
先程までの不機嫌そうな様子はどこへやら……ジンの誘いを受けたリコは満面の笑みを浮かべ、承諾した。
「…………リア充爆発しろ」
この船に乗っている以上、もはやこの光景は見慣れたものだ。だが、それでもドットはこの言葉を言わずにはいられなかった。
ドットもこれで2体目の手持ちゲットです。どうせならドットにも3体目をゲットさせたいんですが、アニポケ見返してもなかなか候補が見つからないですね
☆10
ダラークさん
高評価ありがとうございます
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