ポケットモンスター 新たなる冒険   作:malco

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新章始まりましたね!OPがめっちゃかっこよかったです!


ニャオハ

 

 船から気落ちした様子で降りていったニャオハ、その後を追いかけ猫型の建物の入り口でガオガエンとバトルを行ったジン達はそこの管理人であるマーニャの招待を受け、敷地内でバトルで負傷したジュカインとガオガエンの治療を行っていた。

 

「よしっ……こんなもんだな。どうだ?」

「ジュカ」

 

 ジュカインの治療は無事に終了した。効果抜群とは言え、貰ったのは『ほのおのキバ』の一撃だけだ。多少のダメージはあるが、この程度の治療であれば『やけどなおし』と『キズぐすり』を使用すれば事足りる。

 

「あら?手伝おうと思ったのに、随分、慣れてるのね?」

「マーニャさん程じゃないですよ」

 

 ジュカインの治療が終わるのとほぼ同時にガオガエンの治療を終えた様だ。ダメージ量、怪我の多さなど圧倒的にガオガエンの方が重傷だった筈なのだが、マーニャのブリーダーとしての知識と経験がこの早さで、しかも正確に治療を終えさせてらしい。

 

「素晴らしい技術でした。長くポケモンに携わっていなければ、こんな事出来ませんよ」

 

 少なくとも今のジンにマーニャと同じだけの技術を身に着けることは出来そうにない。そう素直に認めさせる能力をマーニャが持っているのは確かだ。

 

「ふふっ。ありがとう。お茶を入れて来るからちょっと待ってて頂戴ね」

 

 マーニャはそう言うとお茶を入れに建物の中に入って行く。その場にはジンとジュカイン、そして未だに意識を取り戻していないガオガエンのみが残された。因みにニャオハは治療中は邪魔になると自己判断した様で日当たりのよい建物の屋根の上にいる。

 

(さっき、メールでここの場所は伝えたしニャオハの事はリコが来てから考えればいいか……それにしても本当に猫ポケモンばっかりだな)

 

 ニャオハやガオガエンだけでなくニャースにニューラ、そしてジンの生まれ故郷であるホウエン地方のエネコや進化形のエネコロロなど敷地内には様々な地方の猫ポケモンが集結していた。彼らは敷地内にある遊具などを使用し笑顔で楽しそうに遊んでいる、彼らにとってここはストレスのない環境なのだろう。

 

(……だけどこのガオガエンに比べると全体的に小粒だな。見た感じだとバトルの経験がなさそうな奴もそこそこいるし、マーニャさんはバトルをさせる育成方針を取ってないって事か?)

 

 この推測は恐らく正しい。勿論、バトルだけがポケモンの育成の全てではないので責めるつもりも毛頭ない。しかし、それではなぜ、ガオガエンだけがこうも強いのか、その謎が解けないままだ。

 

(……もしかして)

 

「お待たせ」

 

 建物からティーカップセットを持ったマーニャ、そしてその背後には『ねんりき』で2つの椅子と小さなテーブルを持ち上げたニャオニクスが現れる。ニャオニクスはテラスにテーブルと椅子を置くと建物の中に戻って行った。

 

「さぁ、どうぞ。座って」

「……ありがとうございます」

「ジュカ!」

 

 マーニャはティーカップに注いだ透明感のある薄い茶色のお茶をジンとジュカインに差し出した。お茶を一口飲むと口の中に、りんごに似た甘い香りとすっきりとした味わいが広がっていく。

 

「これは……カモミールティーですか?」

「正解!バトルの後だからね。心身をリラックスさせる効果のある物を選んでみたのよ。どうかしら?」

「えぇ、とても美味しいですよ」

「それにあなたのジュカイン、甘い物が好きそうだしね」

「この短時間でそこまで……御見それしました」

 

 ベテランだからこそなせるのだろうか。マーニャはこの僅かな時間でジュカインの性格や味の好みまで凡その予想がついてしまったらしい。

 

「さてと、それじゃあ、何から話しましょうか?」

「そうですね……リコ……ニャオハのトレーナーがこっちに向かっている筈なのでニャオハの事はその時でいいです。まずはガオガエンの事を聞いていいですか?」

「勿論、良いわよ。さっきは迷惑をかけちゃったから、何でも聞いてちょうだい」

「それでは遠慮なく……ひょっとして、あのガオガエンはトレーナーに捨てられたポケモンなんですか?」

「……そう思った根拠は?」

「根拠と呼べるほどの物はありませんよ。ただ、ガオガエンのバトルを思い返すと少し、野生のポケモンらしくない点がある気がしたんです」

 

 野生のポケモンのバトルは余程、戦い慣れていない限り技の威力に任せた単調な戦い方をする者が多い。だが、ガオガエンは冷静に頭を使いジュカインの動きを封じる一手を打ってきた。今にして思い返せば、まるでトレーナーに鍛えられ戦術を組み込まれた事がある様な気さえしてくる。

 

「なるほど。バトルを専門にするトレーナーならではの視点という訳ね……でも、残念ながらハズレよ。いい線は行ってるんだけどね」

「……という事は逆のパターン、ガオガエンがトレーナーを見限ったんですか?」

 

 ジンの発言を聞くと先程までクスクス笑っていたマーニャは目を見開き驚愕の反応を見せた。

 

「驚いたわ……気づいてたの?」

「なんとなくですが……身近に似たような事例のポケモンがいましたので」

 

 ジンはそう言うと隣でお茶を美味しそうに飲んでいるジュカインにそっと視線を向ける。その動作を見たマーニャは一瞬の内に事情を察した様だ。

 

「ひょっとして、そのジュカインも?」

「えぇ、俺が3人目のトレーナーらしいですよ」

 

 ジュカイン、彼はキモリの頃、ジンの前に2人のトレーナーに新人用ポケモンとして与えられたらしい。しかし、そのトレーナー達とは合わなかった……というよりもキモリが使えないトレーナーと見限ってしまったそうだ。その後、オダマキ博士の元に戻ったキモリは紆余曲折を経てジンの相棒になったのである。

 

「そう……ガオガエンもジュカインと同じよ。複数人のトレーナーの元に引き取られたんだけど、毎回、そのトレーナーを見限ってここに戻ってきてしまうの」

 

 マーニャ曰く、ガオガエンがここに戻ってくるときはいつも同じ様な表情をしていそうだ。『つまらないトレーナーだった』、『自分の力を引き出す事の出来ない使えないトレーナーは足手纏いだ』、そう物語っていたらしい。

 

「……ジュッカァ」

 

 因みにジンの横にいるジュカインはマーニャの説明を聞くと、うんうんと首を縦に振っていた。どうやらガオガエンの気持ちが理解できる様だ。バトルから始まった両者だが、案外、通じ合う箇所があるのかもしれない。

 

「ガオガエンを引き取りたいって言うトレーナーは何人かいるんだけど、この子が拒否しちゃってね……それで仕方ないから、今はここでガードポケモンの役割を引き受けてもらっているのよ」

 

 察するにどうやら、ガオガエンはトレーナーという存在を見限ってしまった様だ。そこまで拒絶反応が強いのを見るに今までのトレーナーとどれほど上手くいっていなかったのかは想像に難くない。

 

(……勿体ないな)

 

 ガオガエンには間違いなくバトルの才能がある。今でも十分、強いがまだまだ強くなれるだろう。このまま腐らせてしまうのはジンのトレーナーとしての矜持が許さない。

 

「……マーニャさん、少しガオガエンと話をさせてもらってもいいですか?」

「え?それは勿論いいわよ。でも、まだ意識が……」

「ご心配なく」

 

 ジンはポケットからモンスターボールを取り出し宙に投げる。モンスターボールの中からサーナイトが飛び出し、ガオガエンの近くに着地した。

 

「ガオガエンに『いやしのはどう』だ」

 

 サーナイトはジンの指示に従い、両腕を伸ばすと手の先から優しさに溢れた波動の光を放出しガオガエンを包んでいく。

 

「……ガォ?ガァッ!」

 

 瞬く間に先程のバトルのダメージは消え失せたようでガオガエンはその場から立ち上がると元気のよい声を上げる。それを確認するとジンは椅子から立ち上がるとそんなガオガエンの元に近づいて行く。

 

「よぉ、気分はどうだ?」

 

 ジン、そしてジュカインが近くにいた事に気付くとガオガエンは瞬時にリベンジする為に臨戦態勢に移行しそうになるが、前方のジュカインが殺気を放ち、背後に立つサーナイトの全てを見透かしたかの様な眼差しで射抜かれ、動きを抑制される。

 

「お前が寝てる間に凡その事情はマーニャさんから聞いたよ。トレーナーを見限ったそうだな?」

「……ガオォッ!」

「おっと、マーニャさんを責めるな。俺が聞きだしたんだ……その上で1つ提案なんだが、お前、俺のポケモンになる気はないか?」

「えぇっ!?」

「ガオッ!?」

 

 ジンの提案を聞いた瞬間、ガオガエン、そしてマーニャも驚愕の反応を見せる。しかし、それも仕方がない。先程までの話を聞いていれば、普通はそんな提案をしてくるとは誰も思わないだろう。

 

「マーニャさんから聞いたよ。『自分の力を引き出す事の出来ない使えないトレーナーは足手纏いだ』だっけな?だけど、俺ならお前の力をもっと引き出せてやれると思うぞ」

「…………」

「いきなり完全に信用しろとは言わない。だが、俺はお前を倒したジュカインをキモリの頃から鍛え上げて来た。後ろにいるサーナイトも俺が初めてゲットしたポケモンで、ラルトスの頃から大切に育てた古参メンバーだ。それだけでも信じてみる根拠にはなるんじゃないか?」

 

 そう言われてしまえばガオガエンには返す言葉がない。自分がジュカインに倒されたのは事実だ。それに自分の背後にいるポケモンも尋常ではなく強い。これだけのポケモンを鍛え上げたトレーナーの言葉には一定の力強さがあるのは確かだ。

 

「ここに残りたいなら好きにすればいいさ……この小さな優しい世界で裸の王様でいる事に満足できるならな」

 

 難しい事は分からないが、侮辱されているという事は理解できた様でガオガエンは一瞬で目を見開き、ジンに襲い掛かろうとするが首元にジュカインの『リーフブレード』が突き立てられ、そして背後では『ムーンフォース』を準備したサーナイトにより動きを止められる。

 

「ガォォォォォォッ!」

 

 それでも戦意は捨ててはいない。ガオガエンは動けないながらも物凄い形相を浮かべながらジンを激しく睨みつける。

 

「ジュカイン、サーナイト、やめるんだ。今はこいつと話がしたい」

 

 ジンの指示を聞いて、長い付き合いのジュカインは「いつもの事か」と呆れた様子で刃を収め、トレーナー想いなサーナイトは渋々と言った様子でサイコパワーを鎮める。ガオガエンは解放されたことを不思議に思いつつも変わらずにジンを睨みつけていた。

 

 無論、そこでガオガエンが仕掛けていれば、それよりも早くにジュカインとサーナイトがガオガエンをコンマ数秒すらも必要とせずに仕留めていたであろう。

 

「そうだ。さっきのバトルでも見せたその目だ……お前の目はまだ燃え尽きてない。自分よりも強い相手を、今よりも激しく熱いバトルを求めている。そうじゃないのか?」

「っ!?」

「やはり図星か」

 

 そうでなければ、トレーナーを見限りここまで戻ってきてもなおバトルの相手を求めたりはしないだろう。だが、どれだけバトルをしようともここにいる限りガオガエンが次のステージに登る事は決してない。

 

「お前がもっと強くなるには今、覚えている以上の技を覚え、あらゆる戦術を学び、バトルの経験を重ねるしかない。俺と一緒に来るなら、そんな機会をこれから幾らでも与えてやる」

「……ガォ」

「先ほども言ったが、俺の事を今すぐに認める必要はない。時間を掛けて俺というトレーナーを見極めろ。その上で、俺がお前のお眼鏡にかなわなければ直ぐにここに戻してやるよ」

 

 ジンはポケットから空のモンスターボールを取り出すとガオガエンに差し出した。

 

「俺のポケモンになるのか、それともここに残るのかお前が決めろ!」

 

 ジンはガオガエンから目を逸らすことなく、そう言い切った。

 

 その姿を見たガオガエンは今までに自分のトレーナーとなった人間達と目の前のジンを咄嗟に頭の中で比べるが全く違う。年代だけで言えば以前までのトレーナー達の方が上の筈だ。だが、なぜだか分からないがジンの発する言葉一つ一つに強い重みを感じさせる。

 

 このトレーナーについて行けば、自分は今までに見た事ない場所に、強い相手と戦い、望んでいた高みに辿り着けるんじゃないか。そんな漠然とした予感がガオガエンの中に渦巻いていた。そう感じた時、ガオガエンは無意識の内にそっとモンスターボールに手を伸ばしていた。

 

「うそ……あのガオガエンが?」

 

 モンスターボールに触れた瞬間、ボールは開き赤い光線がガオガエンを包みそのまま中に吸収していく。

 

「ガオガエン、ゲットだ」

 

 以前から秘かに欲しいと思っていた炎タイプのポケモンだ。しかもかなりの高レベルであり、少し調整すれば即戦力間違いなし、ニャオハを追うだけのつもりがここに来て思わぬ巡り合わせであった。

 

「すいません。マーニャさん……事後承諾になってしまったのですが、ガオガエンはこのまま引き取らせていただいてもよろしいでしょうか?」

「え、えぇ……勿論、いいわよ。ガオガエンが決めた事ですから」

「感謝します」

 

 マーニャから了承を得た為、これでジンは正式にガオガエンのトレーナーとして認められたことになる。早速、ガオガエンのデータを確認しようとスマホロトムを取り出そうとするが、その瞬間、正面の門が開く音がすることに気が付きその手を止めた。

 

「お、お邪魔します……」

 

 門を開き入ってきたのはリコだ。ジンのメールを見てニャオハを探す為にここに来たのだろう。

 

「やっと来たか……リコ!こっちだ!」

「あっ……ジン!ニャオハは?ここにいるの?」

「あぁ、ここにいるよ。だけど、その前にまずは挨拶からだ。こちらの施設の管理をしているマーニャさんだ」

「こんにちは」

 

 ジンの紹介を受け、マーニャは椅子から立ち上がるとリコに笑顔を浮かべながら挨拶する。それを受け、リコも慌てた様子で挨拶を返し始めた。

 

「す、すいません!申し遅れました!私は……」

「セキエイ学園のリコさんでしょう?」

「え、えぇっ!?」

 

 驚くリコにマーニャは、なぜリコの事を知っているのか説明をし始める。この施設は猫ポケモンの保護などの他にも新人トレーナーにパートナーのポケモンを引き合わせる手伝いも行っているらしくセキエイ学園とも縁がある様だ。

 

「特にあなたの事はよく覚えてるわ。あのニャオハは個性的な子だったし」

「個性的?」

「ニャオハは元々、気まぐれでマイペースなポケモンだけどあの子は特にそう……仲間達となかなか、上手く馴染めなくてねえ」

 

(やっぱりそうなんだ……)

 

(……似た者同士だな)

 

 今でこそ、かなりコミュ力が上昇したが、学園に来たばかりの頃のクラスの人達と全く馴染めなかったリコを思い出すと共通点が色々と見つかりそうだ。

 

「さっき、ジュカイン達の治療中の時もちょっと元気がなさそうだったから気になってたのよ……」

 

 ジュカインが傍にいる時は、正に恋する乙女といった様子であり、それはそれで気になっていたのだが、問題なのは治療の邪魔になるからと離れた時だ。ニャオハは明らかに気落ちし落ち込んでいる様に見えたらしい。

 

「怪我の治療?」

「それは後で話すよ……所で、ニャオハの奴、1人でここまで来たけど何かあったのか?」

「そう言えばそうね……喧嘩でもしたのかしら?」

「い、いえ、そんな事は……」

「そう……でも、偶にいるのよ。パートナーから離れて勝手に帰ってきてしまう子が」

「えっ?」

「残念だけど、気が合わなくてパートナー解消になった場合はこちらで引き取るって事も……」

「パートナー解消!?そんな事あるんですか!?」

「そういう事例は幾らでもある。人間もポケモンも感情のある生物だからな。どうしても折り合いのつかない奴はいるさ」

「わ、私!ニャオハを探してくる!」

 

 パートナー解消、それが現実的にあり得る話であると理解すると、リコは顔を青褪めさせ慌てた様子でニャオハを探しに向かう。

 

「……仕方ない。俺も行きます。マーニャさん、ガオガエンやニャオハについての詳しい話は後程お願いしてもいいですか?」

「えぇ、頑張ってね」

 

 

 

***

 

 

 

 結論から言うと、リコによるニャオハとの話し合いは上手くいかなかった。ニャオハを探すまでは上手くいったのだが、その後、リコがニャオハに話しかけようともニャオハは聞く耳を持たず挙句の果てにはリコの手を引っ搔いてしまったのだ。

 

「……なんだかあの頃に戻ったみたい」

 

 ジンに右手の治療をしてもらいつつリコは寂し気にそう呟いた。

 

 あの時、それはセキエイ学園で初めてニャオハに出会った時の事だ。まだニャオハとちゃんとしたパートナーになれておらず何をやっても上手くいかなかったあの時の様な態度を取られてしまっている。

 

「ニャオハの件、思ったよりも重症みたいだな……」

「……私、ニャオハに嫌われちゃったのかな?」

「そんな事はないと思うぞ」

「本当に?」

「あぁ、リコを見た時のニャオハの反応を見て確信した」

 

 あの時のニャオハの反応は嫌っている相手に会った時の物ではない。会えて嬉しい気持ちはあるが、それを押しとどめてしまう程の何かがあった。そうジンは予想していた。

 

「さっき、怪我がどうとか言ってたけど、その左手どうしたんだ?」

「これは……」

 

 リコは左手の怪我の経緯について説明し始める。ジン達が作業中に自主練で始めたバトル、そこで思わぬハプニングでニャオハの『マジカルリーフ』からテラパゴス達を守ろうとして怪我を負ってしまった事などを話した。

 

「……なるほど」

「やっぱり、気にしてるのかな?」

「ふむ……」

 

 確かにそれは理由の1つであるのは間違いないだろう。だが、それだけと考えるのも些か早計な気もする。確かな答えを出すにはニャオハの事を詳しく知る人物から話を聞くしかない。

 

(その為には……)

 

「どうかしら?ニャオハは見つかった?」

 

 ちょうどそのタイミングでマーニャがジン達の元へと現れた。マーニャは気落ちするリコを見て状況を察してくれた様だ。

 

「すいません。マーニャさん、先程のニャオハの件なんですが改めてお話を聞かせてもらえないでしょうか?」

「あら?勿論、いいわよ。少し長くなるから家にどうぞ」

 

 マーニャの招待を受け、ジン達はニャオハについて詳しい話を聞く為に彼女と共に家の中に入って行く。案内された部屋でソファーに座りながら待っているとお茶を入れ直したマーニャが部屋に現れる。

 

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

「いただきます」

 

 ジンとリコは出されたお茶を一口、飲む。今回、出されたのはニャオハの好きな渋めの味付けの抹茶だ。先程、カモミールティーを飲んだばかりの為か、ジンにはいつも以上に渋く感じられた。

 

「それで私は何を話せばいいのかしら?」

「はい。ニャオハの事なんですが……」

 

 ジンとリコはここに至るまでの経緯を全てマーニャに話した。その上で、ニャオハがリコの事を避けている理由について何か心当たりがないかを尋ねる。

 

「……そう、そんな事があったのね」

「私、どうしたらいいのか……」

「うふっ……パートナー同士ってやっぱり似るのかしら?あの子もよくそんな顔してたわ」

「あの子って……ニャオハが?」

「えぇ、そうよ」

 

 マーニャはこの施設にいた頃のニャオハについて語り始める。

 

「あの子はお気に入りの屋根の上で日向ぼっこをしながら、『あ~つまんない。もっと面白い場所に連れてって』……って言いたそうな顔をしていたわ。他のニャオハ達が遊んでいても『私には関係ないわ』って感じでね」

 

 ジンとリコにはその光景が容易に想像がついた。初めて出会った頃のイメージそのままというのが素直な意見である。

 

「でもね。ある時、皆がバトルごっこをして遊んでいたの」

 

 幼少期のポケモンにはバトルごっこを楽しむ時期がある。だが、その時は場所が良くなかったらしい。ニャオハ達は屋根の上でバトルごっこを始めてしまい、その内の一匹が足を踏み外し地面に落ちそうになった。

 

 だが、その時、リコのニャオハは咄嗟に『このは』を使用し、地面に落下中のニャオハを包みクッションになる様に利用したそうだ。

 

「凄い威力の『このは』だった。あの子にはバトルの才能がある。私でもそれは分かったわ」

 

 それからという物の凄い『このは』を撃てる事が施設中に知れ渡り、ニャオハは慕われるようになった。いつの間にか仲間も出来たようで、自分から屋根を降り仲間達と遊ぶ日々が続いたらしい。

 

「よかった……独りぼっちじゃなかったんですね」

「……それがね」

 

 残念ながら、そう簡単には行かなかったらしい。

 

 ある日、いつもの様に楽しく遊んでいたニャオハ達の元に蜘蛛のような姿をしたトラップポケモンのワナイダーが現れ、他のニャオハ達を『いとをはく』で雁字搦めにし拘束してしまった。

 

 ニャオハは仲間達を助ける為にワナイダーに向け『このは』を使用した。しかし、命中するよりも早くワナイダーは逃げ出してしまい仲間達に『このは』が当たってしまったらしい。幸い、怪我は大したことなかったのだが、それ以降、ニャオハは怖がられすっかり避けられるようになってしまったそうだ。

 

「それ以来、あの子は『このは』を撃つ事はなくなったわ……」

「そんな事が……」

「それ以降、ニャオハに話しかける様な子は誰もいなかったんですか?」

「それが……一応、いたのよ。だけど、その子はニャオハとバトルがしたかったみたいでね」

 

(……ん?)

 

「でも、ニャオハはそんな気分じゃなかったから、申し出を全部、無視してたの。それが気に入らなかったみたいで、何度も何度も言い争いをしている間に互いに犬猿の仲になってしまったのよ」

 

 マーニャの今の説明でニャオハにバトルを挑んでいたポケモンが誰なのか一瞬の内にジンは理解できてしまった。この建物の入り口でガオガエンが因縁を付け、ニャオハが反発していたのにもこれで説明がつく。

 

「まぁ、とにかく……他の仲間達は先にパートナーと出会ってここを出て行ったけど、あの子はずっと屋根の上から降りなかった」

「……もしかしたら、『このは』のせいで怪我したから、昔の仲間みたいに私が去っていくって思ったんじゃ?」

「だから、自分からここに戻ったって訳か……筋は通ってる。これが正解かもな」

「こんなの平気だって言ったのに……」

 

 トレーナーとは大なり小なりポケモンの技を受け、負傷する物だ。しかもリコの怪我は本当に大したことがない。この程度で離れる様ならそっちの方がトレーナーとして問題だ。

 

「でもね、セキエイ学園の面談であの子とあなたが初めて会った時、本当にほっとしたのよ」

「え?面談?」

 

 ジンは受けていないが、セキエイ学園では入学前にパートナーポケモンを渡す為の顔合わせの面談をリモートで行っており、マーニャもその場にいたらしい。その時、確信したそうだ。

 

「この女の子なら、ニャオハの最高のパートナーになってくれる。ニャオハの目を見てそう感じたわ」

 

 ニャオハは画面越しにリコの顔をじっと見つめ、運命の相手だと感じていた。マーニャにはそう見えていた様だ。

 

「だから、あの子が自分からここに戻ってくるとしたら、その理由は……もう二度と大切な人を傷つけるのは嫌だって思ったからじゃないかしら?」

 

 

 

***

 

 

 

 マーニャからニャオハの過去を聞くとリコは家を飛び出しニャオハの捜索に赴いて行く。

 

「あなたは行かないの?」

「勿論、行きますよ。でも、もう心配はないでしょうし……」

 

 ここから先、ジンの力は恐らく必要ない。後はリコがニャオハに思いの丈を伝えればそれでいい。万が一にもそれで上手くいかないのであれば、残念だがあの2人はそこまでの仲だったと割り切る他ないのだろう。

 

「今の内に確認しておきたいことがありまして……さっきのニャオハにバトルを挑んでいたポケモンというのはガオガエンですね?」

「正解。当時はまだニャヒートだったけどね」

「やっぱりですか……」

 

 ニャオハが無事に戻れば同じ船の中で両者が顔を合わせる事もあるだろう。その際に、先程のまでの様な争いを起こされては堪った物じゃない。

 

「ガオガエンには怒りを制御する方法を学ばせるしかありませんね」

「ふふっ……ガオガエン、それからニャオハの事もお願いね。あの子、あなたのジュカインにとても懐いていたから」

「ニャオハのジュカインに対する想い。あれは、尊敬なんでしょうか?それとも……」

「100%恋ね」

 

 半信半疑ではあった。しかし、女性のしかもニャオハをよく知るマーニャにそう言われては異論をはさむ余地はない。

 

(同じ草タイプとは言え、グループが違うんだけどな……)

 

 ニャオハは陸上/植物、ジュカインは怪獣/ドラゴンというタマゴグループに別れている為、両者の間にはタマゴは生まれない。しかし、無機物ポケモンなどと比べれば遥かに好意を抱きやすいのは確かだろう。

 

「色々、大変だと思うけど、出来たら応援してあげてね?」

「……微力を尽くします」

 

 ジンとしてもニャオハの事は嫌いではない。ジュカインと結ばれるなら素直に祝福する。だが、正直、手伝えることはあまり多くはないだろう。

 

「今はそれでいいわ……じゃあ、私達も行きましょうか?」

「そうですね……」

 

 話を終えジンとマーニャは共に家を出るとリコとニャオハの捜索に出ようとする。その瞬間だった。

 

「ミィィィィィィィィィィ!?」

「今のは!?」

「まさか……ミブリムか!?」

「こっちよ!付いてきて!」

 

 聞き覚えのある悲鳴が響き渡る。この施設を熟知しているマーニャはこの悲鳴がどこから来たのか心当たりが付いた様だ。彼女に導かれジン達は敷地内に存在するオボンの実の果樹園へとやってくる。

 

「あれはワナイダー!?」

 

 辿り着いたそこにはリコとニャオハ、そして木の上にぶら下がるワナイダー、そしてワナイダーに捕獲されたミブリム、テラパゴス、イッカネズミの姿があった。ミブリム達は必死に藻掻くがかなり頑丈な様で糸が破れる気配はない。

 

「ひょっとして、さっきの話に出て来たワナイダーですか?」

「えぇ、最近は姿を現さなかったのに、一体、どうして……」

 

(最近は姿を現さなかった?……まさかガオガエンか!?)

 

 ガオガエンの性格上、この施設に近づく野生のポケモンがいればバトルを仕掛けるのは容易に想像がつく。あのワナイダーがそれを恐れ近づくのやめても不思議ではない。ならば、なぜ、今になって現れたのか。

 

 それはジンがガオガエンを倒し、剰えゲットしてしまった事が原因であると考えて間違いないだろう。ここを守るものがいなければ再び、悪戯に来るのは自然な流れだ。

 

(これは……ひょっとしなくても俺のせいか)

 

 流石にジンも責任を感じた様だ。事態の収拾を図る為にもワナイダーを迎撃しミブリム達を救い出そうとモンスターボールに手をかける。

 

「ニャァ~~~~!」

 

 ニャオハは鋭い視線でワナイダーを睨みつけている。だが、この状況は嘗て、仲間達に距離を取られるきっかけになった時と酷似している。その事を思い出したのかニャオハは僅かに勢いを落とした。

 

「大丈夫、ニャオハならきっと出来る!今までのバトルを思い出して!」

 

 落ち込みかけてニャオハだが、リコの激励を聞き、戦意を取り戻した様だ。その姿を見たジンは掴んでいたモンスターボールから手を放す。

 

(……今は見届けよう)

 

「行くよ!『マジカルリーフ』!」

「ニャァッ!」

 

 ニャオハは大量の『マジカルリーフ』を撃ち出した。ワナイダーは自分の正面にミブリム達を置き盾にしようとするが、それは予測の範囲内だ。『マジカルリーフ』はミブリム達を避け、カーブしながらワナイダーに向かっていく。

 

「ワナッ!?」

 

 ワナイダーは咄嗟にミブリム達を解放すると『マジカルリーフ』に合わせて蜘蛛の巣の様に糸を放出する。その糸により『マジカルリーフ』は完全に受け止められてしまった。

 

(今のは『スレッドトラップ』か?なかなか、小癪だな……)

 

 だが、ミブリム達は解放され木々がクッションになった事で怪我もない。しかも『スレッドトラップ』は連続で使用すれば失敗しやすくなる技だ。もう一度、攻撃すればそれだけで勝てる見込みは十分にある。

 

 なのだが……

 

「ニャァ……」

 

 ニャオハは『マジカルリーフ』を止められたのがショックだったのか明らかに気落ちしていた。

 

「おい、ニャオハの奴、どうしたんだ?技を受け止められるなんて今まで幾らでもあっただろう?」

「……多分だけど、さっきの自主トレ中にアチゲータに負けそうになって、また得意技が簡単に防がれたから落ち込んでるんだと思う」

 

 ニャオハにとって、アチゲータは進化前から弟分の様な存在だった。しかし、最近では力の差は逆転されつつあり、前回のバトルでも敗北一歩手前まで追い込まれている。ショックを受ける気持ちも分からない事もない。

 

「……はぁぁ。問題は一度につき一個だけにして欲しいんだがな」

 

 アチゲータとニャオハではトレーニング量が違うのだ。更にタイプ相性に進化の差、理由を上げればまだまだあるがそれが原因で落ち込まれていたのではバトルにならない。

 

 幸運にもワナイダーは先程の『マジカルリーフ』の威力を警戒し、襲って来てはないがそれも時間の問題だろう。

 

「仕方ないな……リコ!ニャオハ!ヒントをやるから、少し考えて見ろ!」

「ヒント?」

「ニャオハァ?」

「そうだ。いつもは『マジカルリーフ』を使う時は広く浅く使ったり、鋭く尖らせて使っている場合が多いが、今回は力を全て一点にのみ集中させろ」

「え、えっと……」

「いいからやれ!」

「は、はい!ニャオハ!お願い!」

「にゃ、ニャアっ!」

 

 ニャオハは『マジカルリーフ』で使用する草のエネルギーをジンに言われた通り、一点に集中していく。やがてそれは緑色の光る球体状へと変化し始めた。

 

「こ、これって……」

 

 それはジュカインが何度も使用していた技だ。リコもニャオハも目撃した、彼らの『エナジーチャージ』という急激なまでのパワーアップに必要不可欠とされる技。

 

「決めるよ!ニャオハ!『エナジーボール』!」

 

 ニャオハはリコの合図とともに、草のエネルギーの塊である緑色の光球をワナイダーに向け発射する。ワナイダーは再び、糸を張り巡らせ『スレッドトラップ』で防ごうとするが連続での使用だ。当然、上手くいく筈もなく『エナジーボール』を正面から受け勢いのままに森の奥へと吹き飛ばされていく。

 

「やった!ニャオハ!凄いよ!新しい技だ!」

「ニャァァッ!」

 

 リコとニャオハはワナイダーを撃退し、更に新しい技『エナジーボール』を習得した事を心から喜んでいるようだ。互いに抱きしめ合い、喜びを分かち合っている。

 

「ジン君……ニャオハが『エナジーボール』を使えるってどうして分かったの?」

「大したことじゃありませんよ。レベル的に使えてもおかしくないですし、それにニャオハはジュカインが『エナジーボール』を使う場面を何度も見てる。それこそ見惚れてるってレベルでね……だったらイメージは十分、後はきっかけさえ作れば可能。そう判断しただけです」

 

 それに失った自信というのは新しい技や勝利という結果を手にすれば取り戻すことが出来る。このタイミングでそれら全てを取りに行くにはこれ以外に最良の方法がなかったのだ。

 

「……あなたにガオガエンを託して正解だったみたいね。大したトレーナーだわ」

「恐縮です」

「でも、もうちょっと子供らしい可愛げがあってもいいのよ?」

「…………」

 

 それに関して返す事もなかった。子供らしくないというのはジンも自覚している。別にその事は気にしていないが直にそう言われると何と言っていいのか分からない様だ。

 

「ニャアオッ!?」

「ニャオハ!?どうしたの!?」

 

 リコとニャオハの悲鳴のような声を聞き、視線を向ける。すると抱きかかえられていたニャオハは突然、リコから離れると体を青白い光が包み込んで行く。

 

「ニャオハ……」

「……進化が始まった」

 

 勝利がきっかけとなったのか、それともジュカインに一歩近づいた事が理由なのかは定かではない。しかし、進化は間違いなく進行しており、光に包まれたニャオハの体は徐々に大きくなっていく。

 

「ニャーーッ!」

 

 やがて光が収まるとそこには、ニャオハの進化形のニャローテが立っていた。その姿だが、首元の体毛は長く伸びてスカーフ状に変化し、更に手首からは先端にピンク色の蕾が付いた長い蔦を生やしている。だが、一番の変化はやはり二足歩行になり立ち上がった事だろう。

 

「ニャオハが……ニャオハが進化した!」

 

 リコはニャオハがニャローテに進化したことを驚愕した後に歓喜し、思わず抱き着いた。ミブリムとテラパゴス、イッカネズミもそれに続き、抱き着いたり頬を擦り付けたりしている。ニャローテは鬱陶しそうな声を出しているが、その顔は満更でもなさそうだ。

 

「見つけたのね。素敵な家族を……」

 

 マーニャはニャローテの姿を見ると本当に嬉しそうにしながら微笑む。その姿はまるでニャローテの本当の母親の様にジンには見えた。血のつながりや人やポケモンなど種の違いなど、きっと関係ないのだろう。そこに愛があるのかないのか問題なのはそれだけだ。

 

「ジン君、恋の方も手助けしてあげてね?それから、ジュカインの動向には気を付けてちょうだい。他のメスのポケモンがすり寄らない様に、しっかり見張っておくのよ。これはあなたの責任ですからね」

「…………」

「お・ね・が・い・ね!」

「…………はい」

 

 ただし、この母親、娘の恋愛事情については少々、お節介焼きの様である。勢いに負けてしまい、ジンも了承するがこの先、ジュカインとニャローテがどの様な関係になるのかは、まだ誰にも分からない。

 





そんな訳でちょっと前倒ししてニャローテに進化させませた。

理由としては、レックウザとのバトルは多分、ジンとアメジオがメインになりそうだからです。下手したらニャローテに進化させるタイミングがなくなるかもしれないと判断したので進化させました。

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