アニメのゼイユの反応よかったな~……凄く、からかいたくなりますね
「ガオガァァァァァッ!」
「ハッ!」
ガオガエンは右腕を突き立て、『じごくづき』を構えるとハッサムに向かい愚直に真っすぐに突き進む。それに対し、ハッサムは『かげぶんしん』を発動し『じごくづき』を回避するとそのままガオガエンの背後へと回り込んだ。
「ハァッ!」
ハッサムは右腕の鋏を強く握りしめるとガオガエンの後頭部に向け、『バレットパンチ』を叩き込んだ。技の効果は今一つだったが、無防備の後頭部に技を受けた事でガオガエンは思わず倒れ込んでしまう。
「反応が遅い!技を避けられても直ぐに対応しろ!」
ガオガエンは頭を押さえながら立ち上がるが、その体は少々、ふらついている。どうやら、今の『バレットパンチ』の影響で脳震盪を起こしており、上手く体が動かせない様だ。
「仕方ない……少し、休憩だ。2人共、休んでくれ」
本来ならばこのまま続けたい所だが、ガオガエンはここまで他のポケモン達とも連続でバトルを行っている。その為、流石にそろそろダメージも限界が近いと判断し、休憩を挟む事にした。
(まぁ、こんなもんだろう……)
ゲットする前にバトルしたジュカイン、そして研究所に預けたままのメタモン以外とのバトルはこれで終了だ。全てのバトルを通してガオガエンの能力、技、細かい癖なども把握出来た。後はデータをまとめ育成方針を組み立てていけば、遠からずにガオガエンを正式な戦力として加えることが出来るだろう。
(早速データの分析を……いや、その前に研究所に送ってメタモンとミラーマッチをさせて更なる成長を狙うのもありか?ふむ……)
ガオガエンの育成方針について頭を働かせていると展望室へとつながる扉が開く音が聞こえ、ジンは一旦、考えるのをやめ、そちらに視線を送る。
「キュキュキュゥ!」
「待って!カヌチャン!」
「鍋、返せって!」
そこから現れたのは頭に鍋を被ったカヌチャン、そしてそれを追いかける様にリコ、ロイ、ドット、マードックの4人が現れる。カヌチャンは展望室の周りをぐるぐると必死に逃げ続けるとウイングデッキへと降りて来た。
「キュッキュッ!……ギュゥッ!?」
「ガァッ?」
しかし、カヌチャンは鍋を頭から被っており視界が塞がれている。その為、ジン達の存在に気付かなかった様で座っていたガオガエンの背中に激突しその場で転んでしまう。
「ガオガァッ!」
「プギャ~~~~~~~!?」
ガオガエンはバトルで連敗して苛立っていた所にぶつかって来た存在に、隠すことなく怒りをぶつける。カヌチャンはガオガエンの『いかく』に恐怖し、その場で大声を出しながら泣き出してしまった。
「……ハッサム」
「ハッ!」
「ギャオッ!?」
そんなガオガエンの頭にハッサムが右腕の自慢の鋏を叩きつける。連続でのバトルで蓄積していた上に先程のバトルで『バレットパンチ』を受けた後頭部に再び、攻撃を受けた事でガオガエンは今度こそ完全に限界を迎えたようでその場に倒れてしまう。
「ニャッ!ニャッ!ニャ~!」
ガオガエンのそんな姿を見てリコの傍にいたニャローテはクスクスと笑っている。どうにもニャローテはガオガエンがジンの手持ちに……と言うよりもジュカインの仲間となったのを快く思っていない様だ。
ジンとしては、進化したばかりのニャローテの特訓メニューを考案中であるが故に、今のニャローテの余裕がどこまで続くのか見ものであると思っていた。取り敢えずは、進化したが故の慢心を矯正する意味合いも兼ねて、ニャローテの身のこなしの程度を測る為にもボーマンダの『ぼうふう』の餌食になることは確定している訳だが。
件のガオガエンとニャローテの2体は、顔を合わせると険悪な雰囲気となるが、ジュカインの存在がある為か喧嘩にまでは至っていない。この2体の関係の改善も今後の課題と言えるのだろう。それを放置した結果としてバトルの敗因に繋がるなど、そんな無様な負け方をジンが許す筈もなく、これについてはリコとも相談中である。
「やれやれ、この短気さは欠点になるな。コノヨザルと同じ様にまずは感情の制御が先か……ハッサム、ご苦労さん」
ハッサムに言葉を掛け、気を失ったガオガエンをモンスターボールの中に回収しながらジンはそう結論付ける。こうも怒りっぽくては船の中で安心してボールから出すことも出来そうにない。今後の為にも感情を……主に怒りをコントロールさせることは急務と言えるだろう。
「キュゥ……」
「ハッ!ハッサ!」
ハッサムは泣いていたカヌチャンの頭に鋏を乗せると優しく撫で始める。同じ鋼タイプとしてこの幼いカヌチャンをどこか可愛らしく感じている様だ。そのお陰もあってか、カヌチャンは先程と比べ少しではあるが泣き止み始めている。
(……変われば変わるもんだな)
最初にストライクの時に、出会った頃の辻斬りまがいの姿からかなりの変貌である。恐らくだが、厳しい特訓や進化した事などで力を増し、心に余裕が出来た事もこの変化の要因なのだろう。
オダマキ博士やジョシュウから聞いた話によると、研究所に預けている間は好戦的なコノヨザルやドラピオンのストッパー役にもなっているらしい。
「カヌチャン!?大丈夫か!?」
「キュ~~~」
この一連の動きをしている間に、ようやくドット達が追いついてきた。ドットはカヌチャンに近づくと怪我をしている個所がないか確認し、カヌチャンも涙目のままではあったが、ガオガエンに睨まれた時と比べれば遥かに元気そうである。
「悪かったな。ガオガエンには後でよく言っておくよ」
「いや、こっちこそごめん。トレーニング中だったんだろ?」
「こっちも既にやりたいことはやれたし、見たいものは見れた。問題ないよ」
元々、今日はガオガエンの能力チェックを行う事だけを目的としていた。それが果たされた今、残りの時間はロイ達を呼び出し特訓でもしてやろうと思っていたところだったのだ。予想外の形とは言え、呼び出す手間が省けたとも言えるだろう。
「な、なんか急に寒気が……ちょっと、モリーの所に……」
「まぁ、待て」
生存本能が『きけんよち』の特性を発動させたのか。ロイはその場から足早に去ろうとするがその肩にジンの手が置かれ強制的にその場に留まらざるを得なかった。
「そんな慌てて行く事ないだろう。リコ達もいる事だし、ちょうどいいから進化形同士の初バトルでも……」
そこまで口にした瞬間、ウイングデッキに1体のポケモンの影が近づいてきている事に気付いた。目を凝らし、よく見るとそれは朝早くに用事があるからと出かけて行ったフリードとそのポケモンのリザードンだ。更にそれだけはない。フリードの背後にはもう1人、別の人物も乗っている様だ。
「あれは……」
少しするとリザードンはウイングデッキへと降り立った。それと同時にフリードともう1人の人物もリザードンの背から降りる。その人物はジン達は会った事のない女性で、黒い長髪でイワンコを模した可愛らしい靴を履いていた。
「来ちゃった!」
「ブランカ!?」
「母ちゃん……」
「「母ちゃん!?」」
その人物はマードックの妹にしてドットの母親のブランカと言うらしい。よく見れば、マードックと近い褐色の肌色から血筋を感じる辺り、兄妹というのも頷ける。
「いや、『来ちゃった!』じゃない!来るなら連絡入れてよ」
「ちゃんと連絡入れたわよ。それなのに2人共、既読未読スルーかましたじゃない」
「「あっ……」」
どうやら調理場から鍋を持ち出したカヌチャンを追いかけるのに必死になる余り、メッセージを見る事も返事をする事も忘れてしまっていたらしい。
「兄ちゃんの定期報告もあっさりした内容ばっかりだし、だったら、もう自分で行っちゃおうと思ってフリードに連絡したら直ぐに迎えに来てくれたわけ。あっ!リザードンの乗り心地いいの知ってた?乗った方がいいわよ!束の間だったけど、空中散歩気持ち良かったんだから~!……あれ?何の話してたっけ?」
初対面ではあるが、どうやらかなりのお喋り好きだという事が理解できる。ドットの母親との事だが、性格面ではあまり似ていない……いや、ぐるみんの要素を考えれば確かに血の繋がりを感じさせる面もある様だ。
「あっ!思い出した。ほら?そろそろ、ドットのお試し期間も終わりかなぁって思って、迎えに来たのよ!」
「ん?」
「お試し期間?」
「迎え?」
「そう!もともと娘はお試しでこの船に乗ってるの。ねぇ?ドット?」
ブランカは振り返り、ドットに同意を求めようとするが、そこには既にドットの姿はなかった。いつもの運動音痴っぷりからは考えられない程の素早さでの行動である。
「あら?いない?……まぁ、いっか。積もる話は家に帰ってからって事で」
「ちょ、ちょっと!」
「待ってください!もう少し、詳しい説明をしてください!」
***
ジン達はブランカからドットのお試し期間の詳細を聞く為に、ミーティングルームへと移動した。
「あぁ、すまんな……妹のブランカはどうもこんな性格で……」
「こんな性格ってどんな性格?兄ちゃんが私の事、そういうの昔から気になってたのよね。あっ!気になる事と言えば……」
「ガルガル!」
再び、話が脱線しそうになったのを止めたのは彼女のポケモンのルガルガン(真夜中の姿)だ。ここに来るまでに紹介されたのだが、彼女のパートナーポケモンで今のやり取りから見てブレーキ役も務めているらしい。
「あら?また喋り過ぎちゃった……」
「とにかくだ……ブランカは昔からドットの事が心配でしょうがないんだ」
「マードックの10倍の心配性があのハイテンションを生んでいるんだ」
マードックとフリードの説明を聞き、ジン達は納得する様子を見せる。元からお喋りな面はあるのだろうが、ドットへの心配がそれに拍車をかけているのだろう。
「ドットとブランカはノリが合わないんだろうな……」
「そうかな?配信してる時とテンションとは似てるような気がするけど?」
「確かに……ひょっとしたら、無意識の内にブランカさんを意識してるのかもな」
「配信?それって、もしかしてドットが部屋にこもってずっとやってた奴?」
「家でもやってたんだ……」
どうやら、ドットの生活スタイルは実家にいた頃と今も然程、変化していないらしい。
「そうなのよ。それで心配になって無理やり部屋に入ったら、『親フラ』とか言われてめちゃくちゃ怒られちゃった……」
「……それって、ぐるみんのライブ配信中だったんじゃないかな?」
「待って!私、その配信、リアタイで見てたかも!うわぁ……あの時のお母さんがブランカさんなんだ!なんか感激!」
「えっ?えっ?」
マニアでも知らないであろう、ぐるみんの裏事情を聞いたことで1人盛り上がるガチファン、それに対しブランカは『ぐるみん』、『ライブ配信』、『リアタイ』など全く知らない単語の連続とリコの異様なテンションに明らかに困惑している。
「……リコ、抑えろ。オタクの悪い癖が全開で出てるぞ」
「あっ!?ご、ごめんなさい……って、オタクじゃないから!ただぐるみんのファンで配信や投稿は欠かさずに見ているだけだからね!」
「あははっ……それで、ぐるみんってなんなの?……あぁ、やっぱりいいや。自分で調べてみる」
ぐるみんとは?その質問をした際にリコの目が輝いたのを見て、ブランカは咄嗟に自分のスマホロトムを使い調べることにした様だ。
「配信、人気?……何これ!私、こんなの知らない!聞かなきゃ!」
流石、若者を中心に流行っている配信者だけあり、ネットで調べたら直ぐにその存在に辿り着いた様だ。自分の娘がこの様な活動をしている事を知り、ブランカは直ぐにでもドットと話そうと椅子から立ち上がる。
「ブランカ……」
「止めても駄目だよ。ドットから聞かなきゃならない事がテンガン山の様にいっぱいあるんだから」
「止めはしないよ。ほら、これ持っていけ」
マードックはそう言うと、テーブルの上に置かれていたドーナツの入った皿を手に取る。非常食のグミばかり食べていたドットが最初に手を付けたのが、このドーナツだ。これを持って行けば確かに少しくらいならば、話を聞いてくれるかもしれない。
「「「「フィッフィッフィ!フィ~フィ~!」」」」」
マードックがドーナツの入った皿をブランカに渡そうとするとその足元にイッカネズミ達が現れ、頻りに何かアピールをし始める。
「おっ!今日も運んでくれるのか?」
「「「「フィ~!」」」」
「じゃあ、頼むよ」
マードックから皿を受け取るとイッカネズミ達はそれを4匹で力を合わせ持ち上げるとドットの部屋へと向かって運び始める。
「何あのポケモン?」
「イッカネズミ、私のポケモンです。前に私たちが助けたら、お礼に色々、手伝ってくれるようになって多分、恩返しがしたいんだと思います」
「へぇ!そんな事があったんだ!その話もドットから詳しく聞かないと!」
「あの!ブランカさん!」
ブランカはイッカネズミの後を追いかけようとするが、それをリコとロイ、そしてジンが待ったをかける。
「ん?」
「あの……ドットと話すの私達じゃ駄目ですか?」
「え?」
「ブランカさんが聞きたいこと、私たちが聞いてみます」
「…………そう!じゃあ、任せちゃおっかな?」
真剣そうな表情でそう言うリコ、そしてロイとジンも同じ意見だった。暫し、呆然としていたブランカだが、直ぐに笑顔を取り戻すと了承してくれた。
「はい!ジン、ロイ行こう!」
「うん!」
「あぁ」
そう言い残すとジン達はミーティングルームを後にしドットがいると思われる彼女の自室へと向かい始める。その姿を見送ったブランカは静かに両目に手をやり、落ちて来そうになった涙をぬぐう。
「ちょっと、泣きそう……ドット、あんな事を言ってくれる友達が出来たんだね」
「ガゥ……」
ブランカやルガルガンの反応を見るに、やはりドットには実家にいた頃から友達と呼べる存在がいなかったのだろうと推測できる。そんなドットにあそこまで心配してくれる友人が3人もいるのだ。母親としてこれ以上、嬉しい事もないのだろう。
***
「ドット、聞こえる?」
ここはドットの自室の前、イッカネズミに続くようにやってきたジン達は扉の前からドットに呼びかける。しかし、未だに返事はない。
「ドット、お試し期間って何の事だ?詳しく教えてくれ」
「このままドットが家に連れて行かれちゃうなんて私、嫌だよ!」
「僕も!」
「当然、俺もだ」
ネット関連の知識や情報収集能力などジンでも代わりを務めることは出来るが、能力には雲泥の差がある。心情的にもそうだが、何よりもここでドットに抜けられてしまうのはライジングボルテッカーズ全体から見ても致命的な損失になると言っても過言ではないだろう。そんなドライな自分を客観視して辟易とすることもあるが。
「……返事なしか。昔に戻ったみたいだ……仕方ない、一旦、出直してくるから考えを纏めて置いてくれ」
ジン達はそう言うと、そこから離れ……はせずに何も言葉を発する事無く静かにただ待ち続けた。少しすると扉が内側から開き始め、ドットが姿を現した。
「って!まだいるじゃん!」
「諦めた風作戦成功だね!」
「うん!」
「こうでもしないと素直に出てきてくれそうにないからな」
因みにこの時、ジンは念には念を入れ、片足を扉の内側に入れることでいつ扉が閉じられても対応できるように準備していた。非力なドットではここから逃れる術は既にない。
「ふっ……分かった。話すよ。僕の事」
ドットは詳しい事情を話す事を決めた様だ。その為、ジン達はそこから誰も来ないであろう場所、船底へと繋がる階段へと移動する。
「お試し期間ってのはさ、僕が言い出したんだ。あの時、僕には限界が来てたから……」
「限界?」
「家でずっと部屋に籠ってたけど、別に不自由はなかった。ぐるみんとして配信もしてたし、ネットで世界中と繋がってたしね。でも……部屋にいるだけじゃ、どうしても分からない事が増えて来たんだ」
それは嘗てのぐるみんの配信を見た時にジンも秘かに感じ取っていた事だ。知識によるだけのもので実感がこもっていないとでも表現すればいいような、そんな少し薄っぺらい感じが以前の動画には見られていた。
何よりもジンの場合は、フィールドワークで実際にポケモンと触れ合っているオダマキ博士を知っているが故に、そんな2人の違いが顕著に感じられていたからだ。流石にポケモン博士と比較するのは酷と言うものだが。
「あの頃の僕は完全に行き詰っていた。そんな時、ネットである論文を見たんだ」
それはとあるポケモン博士の論文だ。その博士は世界中を回り、色々なポケモンと出会いその上である地域のポケモンの分布図まで作り出していた。
「ネットには面白い情報が溢れている。だけど、それは実際に経験した人が発信してるから面白いんだよな……最初の頃はそれに気づかず、負けるもんか!ってたくさん調べて情報を集めて、ぐるみんで発信しようとしてた」
だが、それでは何かが違う。そう感じ始めてドットは何もできなくなってしまっていた時期があった。そんな時にドットは彼と出会ったのだ。
「僕の家にフリードが来たんだ」
フリードは当時から仲間であったマードックからドットの話を聞いていたようで、スマホロトムのソフトを直してもらう為にわざわざ訪ねて来たらしい。そのソフトはドットがネットで見つけた論文においても重要な意味を持つ物であったらしく、修理を引き受けたそうだ。
「そしたら、フリードの奴、『この流れでライジングボルテッカーズのアプリを作ってくれないか?』とか言い出したんだ」
「……どの流れだよ」
「全くだよ。しかもアプリを作れなんて短時間じゃ無理だってのに……しかも、その後にとんでもない事言い出して来たんだ」
フリードは『お前の好きな事と俺の好きな事が出会っちまったな。こりゃ、運命だ!ドット!俺たちの船に乗らないか?』とドットを勧誘したらしい。嘘でも冗談でもない本気の表情でだ。
「最初は断ったんだ。だけど、それでいいのかな?ってどこかモヤモヤしてた。そんな時にナンジャモ姐さんの配信を見たんだ」
フリードの勧誘を蹴ったその時、偶然行われていたナンジャモの配信でドットは『ナンジャモは自分に限界を感じたことある?』と質問をしたそうだ。
「ナンジャモ姐さんは、自分だって限界を感じた事はある。でも、じっとしてても限界はなくならないから動くんだって……『僕だったら、羽根を生やして丸ごと動きまくるな!』って無茶言ってたけど」
その翌日、近くに停泊しているブレイブアサギ号がウイングデッキを広げ空へと飛び立つ姿をドットは目撃した。その時に、ナンジャモ、そしてフリードに言われた言葉を思い出したそうだ。
「それで、その後、アプリを作ってこの船に乗り込んだんだ。母ちゃんにはお試し期間って言って説得した。いつか母ちゃんが迎えに行こうって思う、その日まで乗っていいって事に……」
「あれ?ドット、部屋出てる?」
ドットが全てを話し終えたタイミングでブランカが階段を降り、ジン達の元へとやってきた。どうやら、小腹が空いた様でキッチンを目指して偶然、遭遇してしまったらしい。
「それで?3人共、話は聞けた?」
「はい。お試し期間と迎えの事などは」
「じゃあ、分かるわよね。私としてはお試し期間はそろそろ終わりだと思って来たんだけど、ドットはどう思ってるのかなぁ?って気になってるのよ。そこんところ気になってるのに、ドットは何も話してくれないから……」
「……うるさいな」
ドットはついそんな言葉を口に出してしまう。気持ちは分からないでもないが、子供が親にうるさいと言って事態がいい方向に動くことは非常に稀だ。現にブランカの導火線に火がついてしまったらしい。
「うるさい!?あぁ、そうだね!私はうるさいよ!そんな事は分かってるよ!でも、私はね!」
「あの!」
「ガル!」
感情が爆発しそうになったブランカを相棒のルガルガン、そしてリコの一声が踏み留める事に成功した。リコは続けてブランカに語り掛ける。
「あの、ドットが話しやすいタイミングがある……そう思うんです」
「リコ……」
「……なるほど。う~ん……そうね……どうしよう?ルガルガン?」
急に丸投げされたルガルガンは「またか」という様な表情を見せると仕方なさそうにドットへ……と言うよりもドットが抱えていたクワッスへと視線を送る。
「え?ドット、ひょっとしてポケモントレーナーになったの?」
「……そうだけど」
「そっかぁ……だったら、やる事は1つ!母ちゃんとバトルだ!」
「「「何で!?」」」
ブランカの提案にリコ、ロイ、ドットの3人は驚愕した様子を見せるが、ジンはその様子を興味深そうな表情を浮かべながら見ていた。
(……まぁ、悪くないか)
このままではドットは自分の素直な意見を口にしない可能性がある。それではブランカとしてもドットを無理にでも連れ帰る以外の選択肢が生まれない。だが、こうしてバトルをすれば多少なりとも思いが通じ合い、ドットも素直な意見を口にしやすくなるかもしれない。
(取り敢えず、様子見だな……)
家族の問題となればジンも深く介入する事は難しい。今回ばかりはドットが自分の力で乗り越えるしかないのだ。その為にも少なくとも今は何もしない。ブランカの性格を考えればあり得ない事だとは思うが、ドットの意見を聞いても尚、無理やり連れ帰ろうとした時こそが自分の出番だ。ジンはそう判断し、この場では静観する事を決めた。
***
ウイングデッキでは、今、トレーナーゾーンにはドットとブランカが、そしてフィールドにはクワッスとルガルガンが向かい合っている。
因みにジン達は展望室へと繋がる階段に座り、その様子を見守っていた。
「えーっと?」
「どういう状況だ?これ?」
「僕もよく分かんないよ……」
「バトルは口ほどに物を言う!これはトレーナーの間じゃ、常識のことわざ。つまり、バトルをしながらだったら、お年頃で親と話すのが恥ずかしいドットも言いたいことを言えるようになるって事!」
ブランカの考えはジンのそれとかなり酷似していたし、彼女の言っていることにはジンも概ね同意見ではある。だが……
「そんな諺はないけどな」
「だね。私も聞いた事ない」
「でも……一理あるかもな」
「そうなの?」
「ロイもいつか分かるさ」
ホウエン地方やカントー地方には「目と目があったらポケモンバトル」という暗黙の了解が存在する様に、トレーナーとしてこの先、何年もバトルに関わって行けばいつかはそう感じる時が来るのだろう。
言葉にしなければ伝わらないこともあるが、言葉にしようとすれば言わなくていい事まで言ってしまうケースは少なくない。だが、バトルであれば互いに本心だけを伝えることが可能かもしれない。
「意味わかんないよ。母ちゃんとバトルだなんて……意味不明すぎる」
「クワッスゥ!」
「クワッス?やる気なのか?」
ドットはやる気を見せるクワッス、そして背後で見守る仲間達に視線を向ける。
「……意味不明なバトルだと思う。だけど、なんだか今は逃げてる場合じゃない気がする」
ドットはカチューシャを取り出すと前髪を上げた。そしてブランカもまた首に巻いていたリボンを外すと前髪を上げ結びつける。
「自分スイッチオン!」
「母ちゃんスイッチオン!」
その癖は親子共有の物らしい。2人は視界を良好にすると互いに鋭い視線で睨みつけ、そして親子の初バトルが幕を開ける。
「先手必勝!クワッス!『みずでっぽう』!」
ドットはまずはセオリー通り、水タイプの技を使用し攻めかかる。しかし、ルガルガンは紙一重で『みずでっぽう』を回避し、接近を始めた。クワッスは怯まずに続けるが、なかなか命中しない。
「ドット!母ちゃんは兄ちゃんからの定期報告で知ってるんだよ。船に乗ってからもドットは結局、自分の部屋に籠ってるって!」
「そうだった!そうだったけど、今は違う!友達が出来て外の世界も結構、楽しそうだってそう思った」
「なんで、トレーナーになったの?今まで全然、興味なさそうだったのに」
「前はそうだった。だけど、クワッスと出会ってからたくさんワクワクして、カヌチャンと一緒にいたら面白いって思ったんだ!だから!」
「ゲットしたんだね」
「そうだよ!」
ドットとブランカが話している間にもルガルガンは『みずでっぽう』を回避しながら前進を続けており、遂にクワッスの目の前にまで近づいていた。だが、ここまではドットにとって予想通りの展開だ。
「クワッス!『アクアジェット』!」
「っ!?『カウンター』!」
この距離でなら避けられる事はない。そう判断し、限界まで引き付けた上でクワッスは全身を水で包み勢いよく突き進み、腹部へと命中するがルガルガンはそのダメージに耐えつつも拳で殴りつけ、クワッスを吹き飛ばす。
「クワッス!?」
フィールド外にまで飛ばされそうになったクワッスをドットは身体を張って受け止めた。その勢いでドットも倒れてしまうが、その目にはまだ闘志が消え去っていない。
今の『カウンター』でクワッスはダメージを受けたが、それはルガルガンも同じことだ。今の『アクアジェット』は効果抜群なだけでなく間違いなく急所に入っただろう。あと1撃でも入れば勝利が一気に近づいてくる。そう確信していた。
「今みたいに押されても次はこうしようとか、あれもやってみたいとか、部屋にいただけじゃ出来なかった事、ここにいたら出来る気がしてワクワクしてる!」
「オーケー!だったら、今のドットに出来る最高な所、母ちゃんに見せてよ」
「言われなくても!クワッス!『みずでっぽう』!」
「ルガルガン!『いわおとし』!」
クワッスは再度、『みずでっぽう』を発射するがルガルガンが空中に出現させた無数の岩により『みずでっぽう』は相殺されてしまう。
(くっ……『みずでっぽう』の様な遠距離技は『いわおとし』で防がれる。もう一度、『アクアジェット』で突っ込むか?……いや、駄目だ。闇雲に突っ込んだら、今度は攻撃が入る前に『カウンター』を決められてしまう……やっぱり、駄目なのか?)
「クワーッス!」
「……うん!諦めちゃダメだ。今の僕に出来る事じゃなく、僕達に出来ることをするんだ!」
最後まで諦めない。そう決意した瞬間、ドットの脳裏にはある言葉が響き渡る。それは、ある日、気まぐれでジンの特訓に付き合った際に彼から受けた言葉だった。
『ドット、お前の長所はその知識だ。お前のポケモンに関する知識はそこら辺のトレーナーの比じゃない。だからこそ、考える事を決してやめるな。バトル中は自分のポケモンだけでなく相手のポケモンも隅々まで観察し分析しろ。そうすれば、余程の実力差がない限りは必ず次の一手が見つかる筈だ』
その言葉を思い出したのか、ドットは咄嗟にルガルガンを観察し始める。ルガルガンは先程の『アクアジェット』のダメージがある為か、心なしか腹部から上を警戒している様に見受けられる。だとすれば、狙うべき個所は明らかだ。
「足を狙え!クワッス!『はたく』だ!」
「クワァァァァッス!」
「させないよ!『カウンター』!」
クワッスは力強い雄叫びを上げ、自身の両翼に力を集中させながら突き進んでいく。ルガルガンはそれを待ち構えると、紙一重のタイミングで『はたく』を回避しそのまま裏拳で『カウンター』を決めようとした。
だが、『カウンター』が来るのはクワッスも承知していた事だ。クワッスは『カウンター』を空中で回転する事で回避すると今度は『はたく』で両翼に貯めていた力を足へと集中させ回し蹴りの要領で、ルガルガンの両足を蹴り付け宙へと浮かび上がらせる。
「えっ?今のって……『けたぐり』?」
ドットが困惑する中、クワッスは宙に浮いたルガルガンの腹部に目掛けて更にもう一撃、『けたぐり』をお見舞いする。連続で効果抜群の技を受けたルガルガンはそのまま勢いよくジン達のいる階段付近へと飛ばされてくる。
「あっ!?兄ちゃん!」
「おぉっ!任せろ!」
ブランカの呼びかけに応じて、マードックは階段から飛び降りるとこちらに向かって飛ばされてきたルガルガンをキャッチする事に成功する。
「ガルルルル……ウウ……」
マードックに抱きしめられたルガルガンは目を回し完全に気を失っている。これ以上のバトルは明らかに不可能だ。その事に真っ先に気が付いたマードックは首を横に振り、その事を両者に伝える。
「よくやったクワッス!新しい技を覚えたんだな!」
勝利が決まり、ドットはクワッスを労いつつも一緒に勝利を喜んだ。そこにバトルを見学していたカヌチャンも加わり、賑やかさが増す中、ブランカはゆっくりとドットに近づいてきていた。
「ドット……」
「母ちゃん、聞いて……お試し期間はもう終わりにして欲しい。今日から本気でこの船に乗りたいんだ。僕はここにいたい。クワッスとカヌチャンと仲間達と一緒に……だから、お願いします!」
ドットは自分の素直な意見を口にすると深々と頭を下げ、一同がその様子を固唾を飲んで見守っている。暫く、そのまま無言の空間が誕生したが、恐る恐る顔を上げたドットが目撃したのは両目から滝の様に涙を流すブランカの姿だった。
「えっ!?か、母ちゃん?」
「うぅ……母ちゃん、そう言うのが聞きたかったんだよぉ」
感極まり堪え切れず涙を流したブランカは感情のままにドットを抱きしめた。
「ドット!めっちゃ成長してる!こんな素敵な船で素敵な日々が過ごせるなんて最高だね」
未だに泣き止まないブランカにドットは持っていたハンカチを渡した。そのハンカチで顔を覆い涙を拭くブランカにドットは再度、問いかける。
「それで、さっきのお願いの返事は?」
「そんなの……オッケーに決まってる。娘の本気を邪魔する親なんていないっつうの!」
「……母ちゃん、ありがとう」
ドットの気持ちに応え、ブランカはドットが正式にこの船に乗る事への許可を出した。たったそれだけの事ではあるのだが、ドットにとってこれは大きな一歩と言っても過言ではないのだろう。
「でもね!でもね!母ちゃん、やっぱりドットの事が心配なのよ!」
「か、母ちゃん……」
「分かってるのよ!ここには兄ちゃんもいるし、フリードもいる。頼れる友達がいるのも分かってるけど、親ってそういうもんなの!だから、お願い!この子を連れてってあげて」
ブランカはそう言うとポケットからモンスターボールを取り出し、宙に投げる。そこから現れたのは四足歩行の狼の様な姿をしたルガルガンだ。真夜中の姿とは対照的で一見、真昼の姿にも見えるが体色も夕焼けや朝焼けを彷彿とさせる鮮やかなオレンジ色となっている。
「これは……黄昏の姿のルガルガンだ!」
「た、黄昏?そんなルガルガンがいるのか?」
「あぁ!数年前に発見されてまだ全体的に数が少ない。俺も実際に見るのは初めてだ!」
初めて実物で見る、ルガルガン(黄昏の姿)にジンとフリードは興奮した様な態度で興味深そうに観察を開始する。そんな視線を浴びてもルガルガンは平然とし、心なしかポーズまで取っている。かなり陽気な性格をしている様だ。
「ブランカ!こいつどこでゲットしたんだ?」
「前にゲットしてたイワンコが夕方に進化したら、こうなってたのよ……この子、しっかりしてるし結構強いからきっとドットの役に立ってくれると思うの!ね!いいでしょう?」
「で、でも、ルガルガンの気持ちもあるし……」
ドットはそう言ってやんわりと断ろうとするが、ルガルガンはそっとドットに近づくとその足に頭を擦り付け一緒に連れて行って欲しいとばかりにアピールし始める。
「気に入られたみたいじゃない?」
「ど、どうして?」
「ふふっ!まぁ、私がよくドットの事を話してたし写真も見せてたからね。きっと、初めて会う気がしないのよ……それに、家にいても私は家事とかしなくちゃいけなくてあんまり構ってあげられないからね。この子の為にもいっその事、ドットと一緒に旅に連れて行ってあげて欲しいの!」
「ガルゥッ!」
ブランカの頼みな上に当のルガルガンもかなり乗り気だ。しかも、黄昏の姿という貴重な存在。ぐるみんの動画に出ればそれだけ盛り上がる事は確実、ここまで完璧にお膳立てされてしまうとドットが断る理由はもはや1つも残されていない。
「わ、分かった!預からせてもらうよ」
「よかった~~ドット!ルガルガンの事をお願いね。ルガルガンもドットの事、よろしく頼むわよ!」
こうしてドットの手持ちにルガルガン(黄昏の姿)が加わる事となった。彼は今後、クワッス、カヌチャンと共にぐるみんの配信にも度々、登場しその物珍しさから登録者数がシビルドン上りしていく事となる。
リコと共にその配信を視聴していたジンとしては、黄昏の姿のルガルガンの珍しさ故にドットがぐるみんだとバレる可能性も内心で懸念していたが、隣でぐるみんに夢中になっている恋人を微笑ましく思うのであった。
ドットの手持ちにルガルガン(黄昏の姿)を追加しました。これでリコとロイに続いてドットも3体目ゲットです。
☆9
マリス・エクセルシアさん
☆10
オーズ=テンペストさん
高評価ありがとうございます
作品の要望などあれば気軽にメッセージを送ってください