今日のアニポケを見て思ったのですが、村の人に迷惑をかけていた強いポケモンを倒し、説得した後に手持ちに加える……この方法はジンがやって来たやり方と似てる気がしました。
本家と比べるのはおこがましいですが、あれを見てバサギリをジンの手持ちに加えたいという欲望が出てきてしまいました。
※私のミスなのか分からないのですが、途中から半分位消えていました。改めて全文入れ直したのでよければ読んでください……コピー残しておいて良かった
海での騒動から、一夜明け、ライジングボルテッカーズは出航前に近くの浜辺の街で足りなくなっていた備品の買い出しを行っていた。
「これで買いだし終了だね」
「うん。メタグロス、重いだろうけどお願いね」
「メタッ!」
メタグロスの頭部には食料が大量に詰まった段ボールが乗せられている。人間からすれば、かなりの重量だがメタグロスからすれば然程でもない様だ。
「いい街だな。食べ物がどれも安くて新鮮だ」
一仕事終えたリコ達の元に、上機嫌な様子のモリーとラッキーが合流してくる。ライジングボルテッカーズの財布を管理している者として物資の調達を安く済ませる事が出来たのは素直に嬉しいのだろう。
「おっ!モリーがご機嫌だ」
「良い買い物が出来たからね。それに……奴隷も扱き使えたし」
「……それは俺の事かな?」
モリーとラッキーに少し遅れてジンもその場に合流する。ジンは医薬品などが入った段ボールを持ちつつ、両腕にはドットに頼まれていた電子機器の細かい備品の入った袋をぶら下げていた。
「当然。そう言う約束だろ?」
昨日の海での一件、下半身が落ち着きを取り戻した後、リコ・ドット・モリー・オリオに胸を見てしまった事をジンは素直に謝罪した。ジンに非はなく完全な事故であったのは言うまでもない為、リコ達は複雑な気持ちを抱えながらも許してくれたのだが、その代償として今日一日は彼女達の奴隷となる契約を交わしてしまっている。
「……まぁな」
「だったら、文句言わずに働きな」
「そうそう。女の胸は安くないんだから」
「うん!絶対に責任取ってもらうから!」
女性陣は既に吹っ切れたのか、ジンを扱き使えるこの状況を楽しんでいる様子が見受けられる。最もリコだけは妙に真剣な顔つきをしており、「責任を取ってもらう」という言葉はジンの心に重くのしかかって来た。
(その理屈だと俺は4人共、責任を取らないと行けないんだが……)
大小合わせて計8つの素晴らしい山脈を見せてもらったので代償を支払うのは当然なのだが、本当にどうしてこんな面倒な展開になってしまったのやら、そう考えずにはいられなかった。
「ジン?返事は?」
「……了解しました。お嬢様方」
ジンの返事を聞くと、リコ達はその場でクスクスと楽しそうに笑い始める。少なくとも、今日一日はこの扱いに耐えるしかないのだろう。
(まぁ、仕方ないか……)
4人の胸を見た事に対する代償がこの程度であるならば、安い。ジンは自分にそう言い聞かせながら、決して軽くない荷物を落とさない様に慎重に歩き始める。
「ん?何の行列だろう?」
船へと戻ろうとすると数十人単位の行列が出来上がっている店が目に付いた。シャッターは締まっている為、まだ開店前の様だが、それにもかかわらずこの盛況ぶりだ。何か珍しい物でも売っているのかと興味が惹かれる。
「あれ?フリード?ロイ?」
よく見ると列の最後尾にはフリードとロイまでもが並んでいた。益々、興味が出たのかリコはロイ達に近づくと、一体何の行列なのかを尋ねる。
「伝説の銘菓『ディグダまん』だって!」
「『ディグダまん』?それって饅頭だろ?」
「観光地とかでよく見る奴じゃん。こんなに並ばなくても……」
オリオの意見にはジンも同意だ。ホウエンを旅していた頃、『ディグダまん』は一度購入し食べた事がある。確かに美味しかったが、わざわざ行列に並ばずとも手に入る商品だ。
「いいや、ただの『ディグダまん』じゃないぜ!その名も『海のディグダまん』だ!」
「ここでしか買えない1日30箱限定!特別な商品なんだって!」
「へぇ……どこが特別なの?」
「え?……え~っと……」
リコの純粋な問いにフリードとロイは言葉を詰まらせてしまう。どうやら、彼らも詳細については詳しくしない様だ。
「分かんないのに並んでるの?」
「で、でも!きっとめちゃくちゃ美味しいんだよ!」
「まぁ、それはそうかもしれないが……」
30箱限定、開店前から行列が出来ている辺りから見てもそれは確かだろう。しかし、果たして並んでまで買う必要があるのかと聞かれれば少々、疑問である。
「でも、オープンまでまだ時間かかりそうだね」
「待つ待つ!」
「あぁ、待つ時間も美味しさのスパイスだからな」
「……まぁ、2人が何を買おうと構わないけど、買い出しはちゃんと終わってるよね?」
モリーから発せられる鋭い視線と問いかけに、フリードとロイは冷や汗を垂らしながら一斉に目を逸らてしまった。その反応から見て、買い出しを済ませていないのは明らかだ。
「それは……」
「このあと……」
「ふ~ん……」
モリーはライジングボルテッカーズにおいて金銭管理だけでなく風紀委員的な役割も果たしている。この状況で彼女に逆らえる存在はいないのかもしれない。
「い、今すぐ行って来る!」
「ぼ、僕も!」
「手分けしてさっさと終わらせるぞ!俺はこっちを回るから、ロイはそっちを頼む!」
モリーに逆らえないのは当然、フリード達も例外ではない。モリーに怒られると直感した彼らは速やかに買い出しの続きへと戻っていく。
「ったく……リコ、ロイが無駄遣いしない様に見張ってて」
ロイだけでは、また悪い大人に騙されて変な品物やアチゲータにせがまれてお菓子や木の実を買ってしまう恐れがある。そう判断したのかモリーはお目付け役としてリコを同行させることにした様だ。
「だったら、俺も……」
「ジンはここに残って。やってもらいたい事がある」
「ん?……分かった」
ジンもロイ達に同行しようとするがモリーに止められてしまう。微妙に嫌な予感がしたが、今のジンは彼女達の奴隷の身分だ。ご主人様の言いつけを破ることは出来なかった。
「それで、俺は何をすれば?」
「列に並んで、『海のディグダまん』の確保。よろしくね」
「……何だ?興味あったのか?」
「限定品って聞くとね。それに値段も手頃みたいだし、買い出しを頑張った皆へのご褒美に丁度いいでしょう?」
どうやら、後半の方が本音らしい。普段、色々と言動が厳しい彼女だが、決して冷酷な人物ではない。慌てて買い出しに行ったフリードやロイの事を思って、この様な気遣いが出来る辺り優しさが溢れている証拠と言えるだろう。
「そういう事なら了解した……優しいなモリーは」
「きゅ、急になにっ?」
突然の誉め言葉に動揺したのか、珍しくモリーは顔をやや赤くするとジンの事を睨みつけて来る。その分かりやすい照れ隠しを見たジンは面白く感じた様で続けて言葉を発する。
「いいや。ただ、モリーが素敵な女性だと再確認したくなっただけだよ」
「~~~~~~~~っ!?……うっさい!このマセガキ!」
「はははっ!」
「笑うなっ!」
(……い、いいのかな?)
ジンとモリーには少々、歳の差がある。だが、最近になりジンの背は以前よりも少し伸びた為、身長はほぼ同じだ。しかも、ジンが大人びている為か、知らない人から見ればカップルが痴話喧嘩をしている様に見えなくもない。そんな2人の姿を目にしたオリオは、いつの日かライジングボルテッカーズ始まって以来の危機が訪れるのではないか、そんな一抹の不安を覚えるのだった。
***
ジン達が買い物をしていた頃とある、2人の人物が街の入り口に来ていた。
1人はピンク色の髪に傍らにオニゴーリを連れた小柄な少女、もう1人は大柄な男性で傍らにはキョジオーンを連れている。少女の名はサンゴ、男性はオニキス、どちらもエクスプローラーズに所属している人物たちだ。
「この街にそれ程、重要な物があるのか?初耳だぞ」
「サンゴにはサンゴの情報網があるんだよね」
「…………」
彼らはコンビを組む事が多いが、常に活動を共にしている訳ではない。その為、オニキスが知らないだけでサンゴだけの独自の情報網があってもおかしくないのだが、付き合いが長いだけにサンゴが何かを隠している事に薄々ではあるが気づいてしまった様だ。
「……まぁ、いい。1人で動いても構わんが、目立つ事は避けろよ」
「分かってますけど」
サンゴはそう言うと左腕に取り付けられた装置に触れる。すると瞬く間にサンゴの服は一般的な物へと変化していく。更に帽子をかぶり、サングラスまでかけたのだ。まるで芸能人の様な変装ではあるが、確かにこれらならばエクスプローラーズだと判明する事はないだろう。
だが……
「まだ目立つぞ」
「やっぱり?ジン君も言ってたけど、サンゴって鬼カワイイからな~!」
「いや、そういう事ではなく……」
「オニ?」
オニキスはサンゴの傍らにいた相棒のオニゴーリに目を向ける。オニゴーリはがんめんポケモンの名の通り、顔面だけの姿をしており、しかもかなり厳つい。この容姿では街中にいるだけでかなり人目を引いてしまうだろう。
「オニゴーリが目立つなら、最初からそう言えっつうの!」
「はぁ……全く、ホウエンから帰ったばかりだと言うのに落ち着かん奴だ」
オニゴーリをモンスターボールに戻しているサンゴを見ながら、オニキスはため息をつきながらそんな事を呟く。
「あん?別に付いてきてなんて頼んでないんですけど~」
「仕方あるまい。上からの指示だ」
サンゴがホウエンに向かうと決めた際、オニキスはハンベルの指示でサンゴに同行していた。サンゴが単独で動けば何をしでかすか分からないと危ぶんでの采配だったのだろう。
「ふ~ん?でも、よかったじゃん!サンゴのお陰でアンタにもいい事があったんだし~」
サンゴには首元にペンダントが、そしてオニキスの右腕にはバングルが装着されており、その中央にはそれぞれ遺伝子を思わせるマークの付いた石が備え付けられている。
「……まぁな」
「じゃあ、これ以上、文句言うなよ!……それにしても、早くジン君に会いたいな~綺麗になったサンゴの事、隅々まで見て貰いたいのに~♡」
(まずい!)
サンゴがジンの事を語り出すと異様に長くなる。ホウエンで共に行動したことで、そう学んだのかオニキスは早々に話を切り上げに掛かった。
「おい!そろそろ行かなくていいのか?」
「あっ!忘れてた!そんじゃあ、行って来るぜ~!」
「……先が思いやられる」
***
先程の一件で羞恥心からかぷりぷりと怒ったモリー、そして苦笑いを浮かべていたオリオは荷物を預かると船に戻って行き、ジンは1人、『海のディグダまん』購入の為に列に並んでいた。
(『海のディグダまん』か……)
列に並んでそろそろ、30分程は経ったであろうか。店が開くまでまだ時間がある為、ジンは暇つぶしにスマホロトムで件の商品、『海のディグダまん』について検索をかけ始めた。
(人もポケモンも美味しく食べられる商品……通常の『ディグダまん』にカロスから取り寄せたホワイトチョコをコーティングしてるのか)
店のホームページによると通常、茶色の『ディグダまん』にカロス地方から取り寄せたホワイトチョコがコーティングされ、ウミディグダの様になる事から『海のディグダまん』と呼ばれることになったらしい。更に、この街は海と隣接している為、昔ながらのやり方で海水から作られた塩がチョコと餡子の甘さを引き立てている模様だ。
(確かに美味そうだな……)
ジンは割と甘党だ。最初はそれ程、興味はなかったのだが、折角、ここまで並んだのだ。1つ食べてみたいと思うのは当然の感情と言えるだろう。
(お1人様につき1箱で6個入りか……ん?6個?)
買い出しに出たのはジン・リコ・ロイ・フリード・モリー・オリオの6人だ。しかし、手伝いをしてくれたポケモン達を入れると圧倒的に数が足りない。そうなるとどうやって食べる人を決めるのかが問題となってくる。
モリーの口ぶりからして、フリードとロイは確定している。妹分として可愛がっているリコ、そしてオリオと自分のポケモンのラッキーにも渡すだろうと予測できる。そうなると余りは1つだけだ。
(…………俺は対象外だな)
先程の様子からして、ジンに残りの1つが回ってくるとはとても思えない。若干、気落ちしそうになるが、元々、今のジンは彼女達の奴隷の身分なのだ。行列に並んだ程度で限定スイーツを食べられると考える方が間違っているのだと自分を納得させる。
「お待たせしました~」
「いらっしゃいませ~!」
「お1人様、1点限り、限定30箱です。無くなり次第、終了となりますのでご了承くださーい」
その後、暫くすると漸く店のシャッターが開き、『海のディグダまん』の販売が開始された。ホームページにも書いてあったように、やはり1人につき1箱だけの様だ。この時点でジンが食べられる可能性はほぼゼロである。
「ありがとうございました~」
とは言え、約束を破る為には行かない為、命令通り、ジンは『海のディグダまん』を購入した。ウミディグダが描かれた包装を見ると先程、検索した『海のディグダまん』の詳細を思い出してしまい、思わず良くない誘惑が頭をよぎってくる。
「……帰るか」
一瞬、誘惑に負けそうになったが、これ以上、女性陣からの評価を落とす事の方が長期的に見てまずい。そう結論付け、ジンはブレイブアサギ号に向けて帰路に就こうとする。
「はぁ?聞いてないんですけど!」
「……ん?」
帰ろうとした矢先、聞き覚えのある声が聞こえた為、ジンは思わず足を止め、背後にあった店へと視線を送る。
(……まさか)
キャップに似たその聞き覚えのある声、そして目立つピンク色の髪、多少、変装してはいるがジンにとっては忘れがたい人物の1人だ。この距離で間違える筈がない。
「ねぇねぇ!こういうのって、もう1個位は奥にあるんだろう?出せ出せ~~~~!」
「あ、ありません!」
彼女はどうやら直前で『海のディグダまん』が売り切れてしまった様で店員にクレームを付けていた。最後にはショーケースに噛みつく程、必死になっていたが困り果てた店員が力ずくで店から追い出し、そのままシャッターを閉めてしまう。
「あっ……あっ……海の……ディグダ……ま……ん」
(……どうするべきかな?)
相手がジンの予想通りの相手であれば、これはエクスプローラーズから情報を引き出すチャンスかもしれない。勿論、それと同時にこの邂逅が何らかの罠の可能性も当然ある。
(腹芸が出来るタイプではなさそうだな……)
もしも相手がスピネルであれば躊躇うことなく罠と断定したが、今回の相手はアメジオと同様、明らかにそう言った事は不得意としている。ならば話しかけてみる価値はある。そう判断した。
「あ~……大丈夫か?」
饅頭1つ買えなかっただけだと言うのに、まるでこの世の終わりの様なその姿を見たジンは思わず苦笑しながら話しかける。
「…………え?ジン君?」
「やっぱり、サンゴか……」
やはりと言うべきか、その人物はエクスプローラーズのサンゴだった。彼女は『海のディグダまん』を買えなかったショックで無表情になっていたのにもかかわらず、焦がれてやまないジンが目の前にいると分かると途端に顔をほんのり赤く染め、笑顔を浮かべ始めた。
「ジン君!えっ!?なんで!?どうしてここにいるの?」
「どうしてと聞かれると……偶然かな」
「偶然……こうして出会えた……これって運命?うん!そうだよね!決まってるよね!やっぱり、サンゴとジン君は赤い糸で結ばれる運命なんだ~~!」
「運命ね……デスティニーかフェイトかで意味は違って来るけどな」
「何の話?」
デスティニーは良い運命を表し、フェイトは悪い運命を意味する。ジンにとってサンゴはどちらに置けばいいのか分からない。少し、微妙な位置づけだ。バトルの相手としては歓迎だし、性格には少々、難ありだが自分にストレートな好意を寄せてくれている為か、雑には扱いづらい。
「いや、なんでもないよ」
「そう?あっ!ねぇねぇ!ジン君、この間の約束を守ってよ!」
「約束?……あぁ、古城でしたあれか?」
「そう!デートしよう?」
嘗てダイアナが拠点にしていた古城でサンゴと初めて会った際、別れ際にジンはサンゴとある約束をしていた。その内容だが、『リコには内緒だけど、ポケモンバトルっていう名前のデートだったら、いつでも大歓迎だ』という物である。
(ふむ……)
リコと言う恋人がいるにも関わらず、どんな形であれデートの約束をしたのは感心出来る事ではない。それに好意を寄せてくれているとは言え、サンゴはエクスプローラーズの幹部だ。不用意に手札を晒すのも褒められた行為ではない。
そんな具合にバトルを断るべき理由は幾らでもあるのだが、一度した約束を破るというのも憚られる。それにバトルに夢中になれば、彼女もうっかり口を滑らせる可能性もある。どうするべきか割と真剣に悩んでいるとそれは予想外の人物によって阻まれる事になるのだった。
「……デートって何の事?」
その瞬間、背後から、とても冷たい声が静かに響く。ジンはその瞬間、『ぜったいれいど』を受けたかの様に体が冷たく凍り付き、まるで心臓を鷲掴みにされたかの様に感じた。凍り付いた体を気力で動かし、そのままゆっくりと振り返るとそこにはリコ、その横に青褪めながら震えているロイが立っていた。
因みに普段、リコのフードに入っているミブリムは既にモンスターボールに自主的に戻っている。どうやら、リコの嫉妬のオーラを感じ取り逃げ込んだようだ。
「り、リコ……」
「あん?なんだジャリガキ共じゃん?おひさ~」
「答えて、デートってなに?」
リコは、まるでサンゴなど目に入っていないかという態度でジンに先程と同じ質問を投げかける。ジンはこうなった以上、一から説明するしかないと決めたのだが、それよりも早くサンゴが口を開いてしまう。
「だ・か・ら!ジン君はこれからサンゴとデートなの!この間、そう約束したんだから!」
サンゴの答えなどリコは求めていない。その証拠にリコはサンゴの答えなど無視し、真っすぐにジンだけを見ている。その視線は「正直にさっさと説明しろ」と物語っていた。
「……実は、古城で別れ際にサンゴと『ポケモンバトルっていうデートなら歓迎する』みたいな約束をしたんだ」
「……………………そう」
この説明を聞いたリコの心中は思ったよりも落ち着いていた。ジンの説明は納得できるもので、バトルなら歓迎するというのは確かに言いそうなセリフだ。恐らく、今後も異性に関わらず、多くの相手にも同じ事を約束するだろう。リコとしてもジンにバトルを控える様になどと言うつもりは欠片もない。
ただし……今回ばかりは例外だ。
「……ジンの前にまずは、私がバトルする」
「はぁ?」
「私に勝ったら、その後はジンとバトルしていいよ」
「なんでサンゴがアンタみたいにジャリガキとバトルしなくちゃなんない訳?意味わかんないんですけど?」
「そう……勝つ自信がないなら好きにすればいいよ。私から逃げる程度のトレーナーの貴方じゃジンを満足させる所か暇つぶしの相手にもならないんだから」
「……あ?」
ジンとロイはその瞬間、サンゴの導火線に火がついた音を確かに聞いた。そして着火から爆破までの時間は僅かに数秒ほどであった。
「上等じゃん!泣いて後悔すんなよジャリガキ!」
「こっちのセリフです!」
「…………」
止めるべきなのか、悩んだ末にジンは沈黙を選択する。と言うよりもここまで事態が進捗した以上、最早、自分が何を言っても恐らく彼女達は止まらない。そう直感的に感じ取ってしまった。
***
街では迷惑がかかる為、ジン達は一旦、街を離れ近くにある草原へとやってきた。リコとサンゴはある程度、距離を取ると鋭い眼光で互いの事を睨みつけ合っている。
「ジン……どうするの?」
「……こうなった以上は、成り行きを見守るしかないな」
ジンとロイは丁度、リコとサンゴの中間に位置するカビゴンの形をした岩に腰かけながらバトルを観戦する事にした。
そして、その近くにはもう1人……
「何故、俺まで……」
サンゴの相方、エクスプローラーズのオニキスも一緒だ。街を離れる際に偶然、彼と遭遇した。そのままバトルになる事も覚悟したのだが、リコとサンゴの放つ異様なまでのプレッシャーに飲み込まれ止むを得ずこの様な形で同伴し勝負を見守る事になった。
「「…………」」
お互い、リコ達のバトルが終わるまでは不干渉という盟約を交わしてはいるが、いつバトルになっても対応できるように警戒だけはしている。
「使用ポケモンは1体!恨みっこなしの一本勝負!それでいいっしょ?」
「望むところ!」
リコとサンゴは同時にモンスターボールを取り出すとほぼ同時に宙に投げる。サンゴが出したのはオニゴーリ、そしてリコが出したのはニャローテだ。
「へぇ、進化したんだ……でも、相性最悪じゃん。今なら変えてもいいよ?」
サンゴの言う様に相性は圧倒的にニャローテが不利だ。ニャローテに進化したことで能力は大幅に上昇したが、見た所、オニゴーリも以前よりレベルが上がっている。これでは勝率はかなり低いと言わざるを得ないだろう。
(あれは……)
そして、ジンにはもう1点、気になる事があった。それはオニゴーリの頭頂部に巻き付けられた金属製の輪、その中央には1つの石が埋め込まれている。
(アメジオに続いてサンゴもか……)
自分が発端でこの様な事態になってしまったという事は重々承知しているが、それでもジンはこの先、サンゴが見せてくれるであろう新しい切り札に俄然興味が出てきていた。今からでも自分がリコと変わってバトルがしたい。そう思わせるだけのオーラが今のサンゴとオニゴーリには存在する。
「甘く見ないで!ニャローテ!『マジカルリーフ』!」
「オニゴーリ!『ふぶき』!」
まずは互いに最も得意な技を撃ち出した。大量の葉と雪はぶつかり合い、数秒の押し合いの末、相性のいい『ふぶき』が『マジカルリーフ』を打ち消した。『ふぶき』はそのままニャローテへと向かって突き進む。
「ニャッ!?」
「『でんこうせっか』!」
ニャローテはその場から『でんこうせっか』のスピードで移動し、オニゴーリの背後へと回った。
「オニゴーリの角に蕾を投げて!」
首元にあった蕾を外し、手首から出た長い蔦の先端に装着するとオニゴーリの角に投げつけ巻き付ける。
「そのまま投げつけて!」
「させっか!『アイススピナー』!」
ニャローテは周辺にある岩にオニゴーリを投げつけようとするが、オニゴーリはその場でクルクルと回転し始める。その勢いに負け、ニャローテは蔦ごと回転させられ空中に投げ飛ばされてしまう。
「『ふぶき』!」
空中にいるニャローテに向かって『ふぶき』が迫る。空中にいる為、避けることが出来ずニャローテは効果抜群の『ふぶき』が命中し、そのまま地面へと受け身を取ることも出来ずに叩きつけられた。
(やはり、まだ早かったか……)
ニャローテの実戦訓練はまだ然程、進んでいない。新たにゲットしたガオガエンと同時進行で進めるつもりだったのだが、両者があまりにも不仲な為、共に特訓をさせる事が出来なかった。リコ達の特訓は、ジンが木の実の世話や薬の調合、船の仕事を手伝っている際の空き時間での自主練のみだ。その為、『エナジーボール』以降、新たな技を習得させることもまだ出来ていない。
それに対し、サンゴ達はホウエンに行っている間も特訓や実戦でのバトルを積み重ねていた。しかも組織の資金力もありジン達の様に労働に時間を取られていない。これでは実力に差が出るのもある意味で必然と言えるだろう。
(強い……)
そして、それはリコも当然、理解していた。嫉妬や敵対心からバトルを挑みはしたが、オニゴーリの『ふぶき』がニャローテに命中した事で頭に登っていた血が冷め、冷静さを取り戻した様だ。
(……ニャローテの限界は近い)
ただでさえ相性が悪いというのに、大技の『ふぶき』をもろに受けてしまったのだ。次にもう一度、効果抜群の技を受ければ、その瞬間に勝負が着いてしまう。
(でも……まだだよ!まだ終わってない!)
しかし、リコはまだ勝利を諦めてはいなかった。リコが勝機があると考えたのには、大きく分けて2つの理由が存在する。
1つは特性の『しんりょく』だ。戦闘不能寸前のニャローテであれば間違いなく、発動の条件を満たしている。更に、ニャローテの『しんりょく』は通常のポケモンよりも遥かに強い。それが発動さえすれば、一発逆転を狙う事は確かに可能だ。
そして、もう1つの理由、それは最近、ジンにも内緒にしてニャローテと一緒に秘かに練習し体得した物にある。まだ完成とは程遠く、使用時間も短いと弱点は多いが、その効果は折り紙付きだ。
(……やるしかない)
実戦で試すのは初めてであったが、この状況を逆転するにはこれ以外に手は残されていない。そう判断したリコは、ここで一気に勝負に出る決意をした。
「ニャローテ!あれをやるよ!」
「ニャァッ!」
あれをやる。それを聞いただけで、ニャローテはその意味を理解した。傷ついた体に鞭を打ち、なんとか立ち上がりオニゴーリを睨みつけると、草のエネルギーを収縮し『エナジーボール』を口元に作り始めた。
「……まさかっ!?」
いつまで経っても『エナジーボール』を発射しないニャローテを見て、ジンはリコ達が何をしようとしているのかを理解した。
「行くよ!ニャローテ!『エナジーチャージ』!」
「ニャァァァァァァァァァァァァァァッ!」
ニャローテはリコの指示を受けると口元にあった『エナジーボール』を無理やり、口の中に入れ飲み込んだ。その場にいた誰もがニャローテに注目する。すると次の瞬間、ニャローテの体から眩い緑色のオーラが立ち上り、首元のスカーフ状の体毛に草のエネルギーが集中していく。
「まさか……本当に成功したのか?」
「凄い!リコとニャローテ、いつの間に……」
「……侮れんな」
男性陣が驚愕した様子でニャローテに注目している。本来は敵であるオニキスから見てもこの『エナジーチャージ』したニャローテは、かなりの脅威に見えている様だ。
「…………」
しかし、サンゴだけニャローテの変化を見届けると顔を下に向け、無言で俯いてしまう。
(……?いや、躊躇ってる時間はない!)
サンゴの様子にはリコも気づいていた。しかし、この『エナジーチャージ』には明確にタイムリミットと言う弱点が存在する。ジン達は特訓の末に既に30分近くの維持が可能となったが、リコ達はまだ付け焼刃の域を出ておらず、持続時間は精々、数分が限界だ。攻め続け倒さなければ全てが無意味に終わってしまう。
「ニャローテ!『でんこうせっか』!」
ニャローテは高速と呼べる様なスピードでオニゴーリへと突っ込み、吹き飛ばすとそのままスピードを維持しオニゴーリを中心にし円を描くように取り囲み走り続ける。
「今!『マジカルリーフ』!」
ニャローテはその状態のまま『マジカルリーフ』を撃ち出した。大量の葉が前後左右からほぼ同じタイミングで発生し、オニゴーリを包み込んで行く。それはまるで、大量の葉による疑似的な嵐の様にさえ見えた。
「お、オニィッ!?」
オニゴーリは葉の嵐の中心部で苦しそうな声を上げている。このままでは遠からず、オニゴーリは倒されるというのにサンゴは指示を出す事もなく俯いたままだ。勝負を諦めたのか?その場にいた者達がそう感じ始めた、正にその瞬間、サンゴは小声で何かを呟き始めた。
「……ざけんな」
それはこの距離では、しっかりと聞き取れない程の声量だった。何を言っているのか聞き取れず、思わず全員が耳を傾けようとすると、サンゴは突然、顔を上げ今度は全員に聞こえる様な大声を出し始める。
「鬼ふざけんなぁぁぁぁぁぁ!それはジン君の技だろ!そんなに……そんなに自分がジン君の特別な存在だって、アピールしたいってのか!鬼むかつくんだよ!」
「べ、別にそんなんじゃない!」
サンゴは心底、憎たらしい物を見る様な目つきでリコを睨みつける。サンゴの気迫に、リコは一歩後退りしそうになるが、負けじと睨み返す。
「そうかよ!だけどな!」
サンゴは胸元に手を突っ込むと首に掛けられていたペンダントをリコに見える様に突き出した。中央には遺伝子を思わせるマークのある石が埋め込まれ、よく見るとその形状はジンのペンダントと全く同じで細部まで完全に一致している。
「それって……まさか?」
「ジン君に憧れて、その強さに近づこうとしてるのは、サンゴだって同じなんだよ!」
そう叫んだ瞬間、ペンダントのキーストーンとオニゴーリに装着されたメガストーンが同時に輝き葉の嵐の中心から白い光が溢れ始める。
「オニゴーリ!鬼『メガシンカ』!」
「オニィィィィィィッ!」
次の瞬間、嵐の中心部から『ふぶき』が全方位に降り注ぎ、全ての『マジカルリーフ』を打ち払い、メガオニゴーリが姿を現した。額には大きな氷の角が生え、全体的に鬼らしさが増した印象を受ける。だが、一番の変化はやはり顎だろう。まるで口裂け女の様に大きく開いている。
「メガシンカ……うそ」
完全に追い詰めていた。だが、ここに来て相手にも切り札があった事を知り、リコは思わず弱気になりそうになる。
「ニャァンッ!」
「ニャローテ……うん!大丈夫!まだ行ける!」
ニャローテ、相棒の声を聞いた事で平静を取り戻した。勿論、リコ達はもう手札を使い切った。しかも『エナジーチャージ』の使用時間は精々、1分と言った所だろう。不利な事に変わりはないが、勝負はまだ完全には着いていない。
(それでいい。勝機はまだある)
少なくともジンにはそう見えていた。まだ『エナジーチャージ』の効果が残っている事もあるが、それ以上にジンが注目したのはオニゴーリの状態だ。
「オニィ……オニィッ……」
オニゴーリは先程の大量の『マジカルリーフ』でかなりのダメージを負ってしまっている。メガシンカは能力を上げはするが、体力の回復まではしない。今ならば短期決戦に挑めば僅かにではあるが勝機がある筈だ。
(『メガシンカ』のタイミングが遅すぎたな……)
リコに対する怒りからなのか、サンゴは『メガシンカ』を発動させるまでに時間を掛け過ぎてしまった。『エナジーチャージ』の発動と同時に『メガシンカ』をさせていれば、オニゴーリの勝ちは揺るがなかったかもしれないが、その対応の遅さがこの事態を招いている。
しかし、過ぎた事は置いておくとしてもだ。ニャローテもメガオニゴーリも体力が少ない以上、次の一撃が勝負を分ける事になる。リコとサンゴ、そして勝負を見ていたジン達もそう感じ取っていた。
「……ん?」
誰もが次の一手に注目する中、突然、オニキスのズボンのポケットの中のスマホロトムから着信音がなり始める。
「……仕方ない。そこまでだサンゴ」
ジン達が知る由もない事だが、それは緊急呼び出し用の合図である。オニキスとしてもこのままで終わりというのは少々、気が進まなかったが組織に対しての忠誠心から無理やり自分の心を押し殺しバトルを中断しに掛かった。
「はぁっ?こんなの鬼無視でいいじゃん!こっからが本当の勝負なんだよ!」
「気持ちは分かるが、これは最優先任務だ。そもそも、お前がさっさと『メガシンカ』を発動させないから、こうなったんだ。もっと早くに発動していれば勝負は既についていた」
オニキスの見解は奇しくもジンがしたものと同じだった。指摘されたことに関しては事実であったためか、サンゴは思わず黙り込んでしまうが、まだ納得はしていない様子だ。文句を言いたそうにしているサンゴを抑えながら、オニキスはリコとニャローテへと視線を送る。
「こちらの事情ですまない。このバトル、引き分けという事で手打ちにして欲しい」
「そ、そんな勝手に!」
「いや、こちらはそれで構わない」
「ジン!?」
「気持ちは分かる。だが、ニャローテをよく見ろ」
ジンに言われニャローテを見ると、そこには既に『エナジーチャージ』の効果が消え去り、片膝を突きながら息を荒くしていた。どうやら話をしている内に制限時間を超えてしまったらしい。これではどの道、勝負にならない。
「ニャローテ……」
「引き際だ。双方、共にな」
『エナジーチャージ』、『メガシンカ』、どちらも体に負担の掛かる技だ。それにバトル中のダメージも加わり、かなり疲労がたまっている。これ以上のバトルは危険だと言わざるを得ない。
「……分かった」
「ジン君がそう言うなら、サンゴは良いけど……はぁぁ……あの島、何にもないし、ホントに嫌なんだけど……」
「何度も言うが、最優先だ」
「レックウザを呼び出すなんて後回しでもいいだろ!」
サンゴが勢いで口を滑らせた言葉、それはジン達にとって無視する事の出来ない内容だった。特にレックウザのゲットを目標にしているロイの変化は明らかだ。
「レックウザを呼び出すって、どういう事!」
「あ?なんでジャリガキに教えないといけないわけ?」
「頼む。教えてくれ」
「え?……う~ん……ジン君の頼みならいっか!黒いレックウザを手に入れるんだよ~」
「具体的な方法は?」
「それはね~」
「サンゴ!それ以上、口を開くな!」
「……うっさいな。分かったよ」
あわよくばもっと情報を入手しようと考えたが、オニキスがいてはサンゴがこれ以上、ペラペラと喋る事は期待できないだろう。
「あっ!ちょっと待って!バトルが引き分けじゃ、デートの約束はどうなんのさ!」
「……引き分けの時の事を決めていないのであれば、中止する他ないだろう」
「ふざけんなっ!少なくとも負けてないんだから、そんなんじゃ鬼納得できないんですけど!」
このままではサンゴは意地でもジンとのデート(ポケモンバトル)を行おうとしてくるだろう。その事を瞬時に理解したのか、バトルが終わり冷静になりかけたリコの頭は再び、加熱さを取り戻していく。
「いい加減にしてよっ!バトルは引き分けだし、デートの約束は無しです!」
「後からそんな事、言い出すなんて鬼ずりぃぞ!」
「う、うるさい!そもそもデートの約束自体変なんです!ジンは私の恋人だし、それに……それに……ジンに胸を見られたんだから!絶対に責任取ってもらうんだもん!」
リコは、顔を赤くし恥ずかしそうに体をもじもじさせながらもそう高らかに宣言する。
「はぁっ!?む、胸って……ま、まさか!?」
「……なんだ君たちは、もうそこまで進んでいたのか?老婆心ながら1つだけ忠告させ貰おう。そういう事に興味を持つのも積極的なのもいいとは思うが、しっかり準備だけは怠らない様にしなさい」
「おいっ!勝手に話を進めるな。流石にまだそこまでは行っていない……準備は出来ているがな」
ムロジムのジムリーダー、トウキとの別れ際に男の嗜みとして渡されたゴム(デボンコーポレーション産)がジンのバッグの中にはいつでも入っている。ジンとしては見張りを突破する術があれば何時でも行けると言った所だ。
「ねぇ?さっきから何の話してるの?リコの胸を見たのって、昨日、謝ってたガケガニの攻撃で水着が切れた時の奴だよね?」
ロイだけはどうやら、ジン達が何の話をしていたのか理解できなかった様だ。本当に意味が分からず、困惑した様子の純粋なロイの姿を見た4人は自分達が酷く穢れている様な気持ちにさせられた。
「……いや、待て!って事は、胸を見られたってのはただのハプニングって事じゃん!」
「そ、それはそうだけど……でも、見られた事実に変わりはないもん!」
「ふざけんなっ!その程度でジン君に責任取ってもらえるなら、サンゴは今、ここでサンゴの全部を見てもら「やめんかっ!」ふぎゃっ!?」
今にも服に手を掛けようとしたサンゴの頭にオニキスの拳が落ちた。情けない悲鳴と共にサンゴはその場に倒れていく。
「ったく……出てこい!」
オニキスは軽くため息をつくと、ポケットからモンスターボールを取り出し宙に投げる。そこから現れたのは、灰色の翼竜の姿をした、かせきポケモンのプテラだ。
(おいおい……こいつもか)
プテラの背には乗りやすいように鞍が付いていた。そして、よく見るとそこにはオニゴーリと同じ様にメガストーンが埋め込まれている事が確認できる。
(……少し泳がせるか)
アメジオ、サンゴに続きオニキスまでもがメガシンカを会得している。この分では他に何人がメガシンカを会得したのか分からない。本当ならば、ここで捕まえて情報を吐かせたい所だが、リコ達の安全面を考慮すると今はまだ無茶をするタイミングではないと判断した。
「おい、そろそろ行くぞ」
「ちょっと待ってろよ!」
プテラがサンゴの服に噛みついて運ぼうとしたが、サンゴは寸前に回避するとそのままジン達の方へと迫ってくる。
「おい!ジャリガキ1号!」
「……私の事?」
「そうだよっ!」
「って事は、僕って2号!?」
「そんな事は鬼どうでもいいんだよ!それよりも……不本意だけど、さっきのバトルでは驚かされた。だから……リコって言ったっけ?アンタの事、サンゴのライバルだって認めてやるよ!」
(ライバル?私が?)
リコの人生に於いて、今までにライバルと呼べる相手は殆どいない。そもそも人と関わってこなかった事もあるが、そう呼べるとしたら学園で何度もバトルしたアン、それか弟弟子のロイ程度だろう。だが、2人とも友人と言う面が強くライバルとして意識したことはなかった。
だからこそ、サンゴのライバルと言う位置づけはリコの中で一番しっくり来た。同じ人を好きになり、同じ様に憧れ競い合う。確かにこの2人にそれ以上に相応しい呼び名はないかもしれない。
「だけど!ぜってー負けない!最後に勝ってジン君を手に入れるのはこのサンゴちゃんなんだから!」
「……絶対に渡さない。ジンだけは絶対に譲れないんだから!」
「上等じゃん!」
リコとサンゴの会話をジンは複雑そうな顔をしながら見ていた。この、『私の為に争わないで』とでも表現するしかない状況でどんな顔をして、何を言えばいいのか分からない様だ。
「ジン君!」
「……お、おう」
ジンは突然の事に咄嗟に上手く返事が出来なかった。その姿を見たサンゴはクスクスと笑うとジンに接近し、下から上目遣いでジンの事を見つめて来る。
「今回は引き分けだったから、引き下がるけど、今後は絶対にデートしようね?」
「え?い、いや、それは……」
「約束ね♪」
サンゴはそう言うと、その場で少しだけ背伸びをすると自分の唇をジンの唇に一瞬だけ重ね合わせた。
「あ、ああ……あ~~~~~~~~っ!!」
リコの悲痛すぎる叫び声で呆然としていたジンは漸く意識を取り戻した。サンゴの顔は既に離れていたが、頬を少し赤らめており、ジンにはとても魅力的に見えていた。
「えへへ~♡キスしちゃった~」
「さ、サンゴォォォォォォォォォォォ!」
リコの追撃を軽くひょいっと避けるとサンゴはオニゴーリの近くにまで下がるとその頭部へと飛び移る。いつの間にかメガシンカも解除され、そうこうしている内に体力も少し回復した様子だ。
「じゃあね~ジン君、ついでにリコも~次は鬼ボコにかますかんな~」
その言葉を最後にサンゴを乗せたオニゴーリとオニキスを乗せたプテラはその場から飛び去って行く。ジンとロイは呆然としつつその姿を見送り、リコは今にも血管が切れるのではないかと心配になる程に怒り狂っていた。
「そ、そう言えば……あいつら、レックウザを呼び出すって言ってたよね?」
リコの荒れ狂う怒りのオーラに怯えながらもロイは先程、サンゴが漏らした情報を再確認する。
「連中はそう言っていたな」
「そんな事出来るの?」
「分からない。だが、出来ると思って行動した方がいいと思うぞ」
エクスプローラーズの技術力や資金力は見当もつかない。だが、キーストーンやメガストーンをこうも短期間に手に入れる辺り、相応の力が連中にはあると考えるべきだろう。
「俺は奴らの後を追跡する。皆への連絡は頼んだ」
ジンはポケットからモンスターボールを取り出し、ボーマンダを外に出すとその背に飛び移ろうとする。だが、その瞬間、リコに服を掴まれ無理やり動きを止められてしまった。
「……待って」
「り、リコ……今は時間が惜しい。詳しい事はまた後で話さないか?」
「……いいよ。だけど!」
リコはそこまで言うとジンを無理やり自分の方に引っ張った。その勢いのままにリコは自分とジンの唇を重ね合わせる。先程のサンゴの時と比べて長く、最後には舌まで絡ませ合って来た。
「…………」
ロイはその様子を呆然としながら見ていた。ジンとリコがイチャイチャするのなど見飽きているし、キスだって映画やドラマなど見たことがる。だが、こんなに間近でしかも知り合いがしているのを見るのは初めてだ。何故だかロイ自身、分からなかったが吸い込まれる様にその光景を見つめ、目に焼き付けようとしていた。
「ぷはっ」
口付けを始めて数分は経っただろうか、呼吸が苦しくなったリコは漸く唇を離した。
「はぁっ……はぁっ……今日は積極的すぎるぞ」
「……上書きしたかったの」
リコの心境を慮ると1秒でも早くサンゴの唇の上書きがしたかったのだろう。だからこそ、キスもあそこまで激しい物になってしまった様だ。
「もう行っていいよ。フリード達には私達から連絡しておくね」
「あぁ、頼んだ」
それを最後にジンは今度こそ、ボーマンダに飛び移りサンゴ達の後を気づかれない距離から追跡していく。何が起こるのか、この段階では予想すら出来なかったが、激しい戦いになる。そんな予感がしていた。
リコは『エナジーチャージ』をサンゴは『メガシンカ』を会得しました。バトルは途中で中断させましたが、2人には今後ライバル関係にしバトル以外でも色々と争わせて行きたいと思います
作品の要望などあれば気軽にメッセージを送ってください