ポケットモンスター 新たなる冒険   作:malco

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今回、名探偵ピカチュウの要素が少しだけ入ってます。やった事なくても大丈夫なので気軽に読んでください


スピネルの罠

 

 ブレイブアサギ号のミーティングルーム、ここには今、ライジングボルテッカーズの全員が集結し先行して調査に当たっていたジンから報告を受けていた。

 

「島には建物が1つだけあった。それがこの画像だ」

 

 ジンはスマホロトムを操作し、1枚の画像を全員に見せる。そこには白い縦長の建物が写っており、先日スナップ小僧達から貰った写真にも写っていたのと同じ建物だ。

 

「これって……」

「海パン野郎が言っていた。余所者の怪しい奴らが建てたって奴だな」

 

 地元民で長年、あの海で活動している海パン野郎が余所者という以上、その情報に間違いはないのだろう。しかし、そうなってくると改めてエクスプローラーズという組織の力は脅威だと感じざるを得ない。

 

(……資金力が半端じゃないな)

 

 あれだけの建物を建築するとなれば、かなりの資金が必要だった筈だ。レックウザ確保の為とはいえ、そこまで出来る組織は世界中を探してもそれ程多くはないだろう。

 

「それと、その周辺にはレアコイルとオーベムが巡回している姿も見られた」

「レアコイルにオーベム……ジン、それってもしかして?」

「あぁ、スピネルのポケモンで間違いない」

 

 ジンの言葉を聞くと、リコは途端に表情が暗くなる。彼女からすれば、嘗て自分達からテラパゴスを奪おうとし、それだけに終わらず記憶までも奪おうとした人物だ。出来るなら二度と会いたくない。そう感じても無理からぬ事だろう。

 

「奴ら、一体何をしようってんだ?」

「サンゴはレックウザを呼び出すって言ってたよね?」

「何らかの技術で呼び出して捕らえる気かもな」

「あいつらなんかに黒いレックウザを渡すもんか!」

「アチゲッ!」

 

 レックウザのゲットを夢見ているロイの力の籠った発言にアチゲータも同意するかの様に声を上げる。

 

「機械ならキャップの電撃で破壊できる。こっちから乗り込んだ方が手っ取り早いな」

 

 ジンもフリードの意見には概ね同意だ。サンゴ達により、ジン達がいる事は敵に知れ渡っている筈であり、手をこまねいていては相手に先手を取られる可能性がある。

 

 しかし……

 

(……なんだ。この違和感は?)

 

 根拠などと呼べるものはない。その為、口に出す事はしなかったが、何かを見落としている様なそんな嫌な予感がジンの心の中に渦巻いていた。

 

(スピネルにしては迂闊すぎる……)

 

 ジンはスピネルの事を好ましく思ってはいない。だが、その智謀は脅威であると認めていた。そんな敵からこうも簡単に情報を得ることができた。その事実に違和感を感じざるを得なかった。

 

『念の為、僕の方でも停止プログラムを組んでみるよ』

「それって?」

『どんなシステムでもダウンさせて見せる……あいつだけは許せない』

「分かった。そっちは頼む。だが、いつ奴らが動き出すのか分からない。俺は直ぐにも突入しようと思う。ジン、一緒に来てくれるか?」

「…………」

「ジン?」

「……あぁ、分かった」

 

 ホウエン地方を旅する道中にて、知能犯を気取るポケモンハンターを相手にした経験もあったジンとしては、漠然とではあるが罠が待ち受けているという予感がした。

 

 しかし、フリードの言う様に手をこまねいていては手遅れになる可能性も捨てきれない以上、多少、危険を冒してでも打って出る他にジン達には選択肢がないのだ。そうなると次はどのような手段で例の建物に近づくのかが問題となってくる。飛行船やポケモンに乗って空から近づけば、敵に気付かれる可能性が高い。

 

「空が駄目となると海を進むしかないな」

「賛成だ。じっちゃん、ボートを出してくれ。目標の反対から上陸する」

「うむ。任せよ」

「僕も行きたい!」

「私も!」

「いや、危険だ。2人は……」

 

 そこまで言うとフリードは口を閉じてしまう。リコとロイ、2人の表情には強い決意が宿っている。ここまでそれなりに長い付き合いをしたからこそ、何を言ってもこの2人が引き下がる事はない。そう理解してしまった様だ。

 

「……フリード」

「分かってるよ……島には俺とじっちゃん、ジン、リコ、ロイで行く。後のメンバーは船で待機だ。何時でも発進出来る様に準備を頼む」

「「オッケー」」

 

 

 

***

 

 

 

 船に備え付けられていたボートを用意するとジン達は早速、乗り込みそのまま目的地である島へと向かって進み始める。

 

「見えてきたぞ!」

 

 暫く海を進むと目的地の島が見えてきた。当初の予定通り、島の裏手へとボートをつけると着ていたライフジャケットを脱ぎ上陸する。

 

「ここからは音を立てないように進むぞ」

 

 フリードの言葉に全員が頷く事で了解すると森の中を静かに進んでいく。罠や待ち伏せを警戒しながら、進んでいくが人はおろかポケモンにすら一度も出くわす事無く目的地であった建物にまで到着してしまった。

 

(順調だ。恐ろしい程に……)

 

 人がいないのはまだいい。しかし、ポケモンにさえも一切出くわさないというのは明らかにおかしい。エクスプローラーズが作戦の邪魔にならない様に追い出した可能性はあるのだが、ジンの不安は増していくばかりである。

 

「見張りはいないみたいだな」

 

 しかし、ここまで来て臆している訳にはいかない。木陰から、こっそり建物の周囲を観察し敵がいないことを確認すると柵を乗り越え建物の扉の前へと移動する。フリードは一旦、全員にその場で待つようにハンドサインで指示するとドアノブに手をかけた。

 

(開いている?)

 

 本来、パスワードを入れなくては開かない扉が開いている。作戦が最終段階に入って、そんなミスをする筈がない。この事から見て、これは罠の可能性がかなり高いと言えるだろう。

 

「……フリード」

「分かってる。まずは俺が行く。皆はここで待っててくれ。もし、誰かが来たら……」

「バトルだね!」

「うん!」

 

 フリードとしては無茶をせずに逃げろと言いたかったのだが、ロイとリコに遮られてしまう。頼もしそうにそう言い放つ姿を見たフリードは2人の確かな成長を感じ、小さく笑みを浮かべる。

 

「ふっ……ジン、じっちゃん、2人を頼むぞ」

「あぁ」

「うむ。任せられた」

 

 その場をジン達に任せたフリードは扉を開け、中へと入っていく。建物内には電気がついていないためか、かなり暗い。目を細め警戒を強めながら、ゆっくりと奥へと進んでいくと急に扉がきしむ音が聞こえ、慌てて振り返った。

 

「なっ!?」

 

 詳細は分からないが、扉は自動的に閉まるとそのままロックされ完全に施錠されてしまう。ロイは慌ててドアノブを回すが、先程と違いパスワードを入れなければ開ける事は不可能なようだ。

 

(やはり、罠だったか……)

 

 しかし、罠が待ち構えているのはジンもフリードも承知の上だ。ならば今すべき事は慌てずに情報を整理し、最善となる行動を取る事にある。

 

「フリード!聞こえるか?状況は?」

『あぁ、聞こえてる。中には敵が1人、ブラッキーを連れたトレーナーだ』

「ブラッキー……フリード、恐らくそいつは」

『分かってる。お前から聞いた容姿とも一致してる。スピネルで間違いないみたいだ』

 

(よりにもよってスピネルか……)

 

 ジンの知る限りエクスプローラーズ内で彼を超える知恵者はいない。力ではアメジオに劣るかもしれないが、それでもかなり強さを持ち、更に目的達成の為には手段を択ばない男だ。フリードと1対1のバトルになればどのような手段を取ってくるのか予想がつかない。

 

(……どうする?)

 

 ジンのポケモンたちの力を借りれば、扉を無理やりこじ開けるのは容易い。しかし、そうなれば相手に僅かな隙を晒してしまう。その僅か一瞬だけでも、追い詰められたスピネルはオーベムの『テレポート』で逃げてしまう可能性が高い。そうなれば情報は一切得られず完全に時間と労力の無駄遣いだ。出来れば生け捕りにした上で知っている情報を吐かせたいところではある。

 

『ジン、リコ、ロイ、ここは任せてお前たちは他を探してくれ』

 

 ジンの心境を察したのかフリードは建物の中からそう言い放つ。

 

(フリード……)

 

 確かにここにフリードを残していいのであれば、ジン達は自由に動ける。この建物内にいる限り、フリードは戦力から外さなければならないが、相手もスピネルという貴重な戦力を失う。エクスプローラーズの戦力が明確に分からない以上、楽観視は出来ないがスピネルと同等のトレーナーが何人もいるとは考えづらい。様々な要素を考慮してもフリードをここに残して先に進むのが最善だとジンの頭脳が迅速果断に結論を下した。

 

「ふ、フリード!?どういう事!?」

「大丈夫なの!?」

 

 しかし、そんなジンとは対照的にリコとロイはフリードを心配し扉を開けようと奮闘していた。そんな2人を落ち着かせるべくランドウは冷静な口調で語り掛ける。普段は好々爺であるが、こういう危機的な状況においては頼もしい限りである。

 

「落ち着くのじゃ。己のピンチを切り抜けるのはフリード自身の役目。わしらは仲間を信じて先に進むのみ」

「同感だ。ここはフリードに任せて先を急ぐべきだ」

 

 ランドウに続き、ジンの発言を受けると、リコとロイは暫し無言で考え込んだ後にゆっくりと深呼吸をする。一呼吸終えた両名は先程よりも幾分か覚悟の決まった顔つきになっていた。

 

「ここはハズレだって言ってた」

「うん。他を探しに行こう!」

「でも、どこに行けばいいの?」

「え?え~っと……」

「……それなら1つ提案していいか?」

「ジン?あいつらの居場所分かるの?」

「ある程度の予測は出来るさ。奴らが本当にレックウザを呼び出せるならな」

 

 レックウザとは普段はオゾン層に生息するポケモンだ。もっとも黒いレックウザは嘗ての仲間達の接触の為に頻繁に地上に降りてきている為、オゾン層よりも遥か下で飛んでいる事が予測できる。勿論、それでもまだかなり高度だが最新の技術を詰め合わせた装置の様な物があればレックウザにも届く可能性がある。

 

「どんな方法で呼び出すのかは知らないが、レックウザに届かせる以上、それなりに高い場所でなければ効果は薄い筈だ。そうなれば場所は自然と限られてくる」

「高い場所……」

「そして当然、人がいない場所も条件に含まれるな」

「それって……」

 

 リコ達はその場から周囲を見渡した。この建物もこの周辺ではかなりの大きさだが、目を凝らしよく見るとそれを超えるかもしれない建物がこの島から少し離れた陸地に確認できた。

 

「灯台!」

「もしかして、あそこに?」

「俺の予想ではな。まぁ、他に当てもないし、取り合えず行ってみよう」

「うん!」

 

 目的地を決めたジン達は灯台に向かうため、その場を後にし先程、停泊させたボートに向かって走り始めた。

 

 

 

***

 

 

 

 ジン達が建物を離れた頃、建物内にはフリード、そしてエクスプローラーズの幹部のスピネルが相対していた。

 

「どうやら、俺以外は取り逃がしちまったみたいだな。計算外だったんじゃないか?」

「構いませんよ。元より、ここは貴方だけを閉じ込める為だけの場所なのですから」

 

 フリードの挑発に対して、スピネルは一切、慌てた様子もなくそう断言する。その様子から見て、ここまでの流れ……ジンが罠に気付き警戒していた事やフリードが危険を察知し、最初に建物に乗り込んでくる所まで全て彼の思惑通りに進んでいると見て間違いないのだろう。

 

「ここまでの俺達の動きは想定内って訳か……だが、ここから先はどうだろうな?俺の仲間達なら絶対にお前達の計画を阻止する筈だ」

「フッ……仲間達ですか?もっとはっきり仰ったら如何です?彼ならば──ジン君ならば、なんとかしてくれる……とね」

 

 スピネルの指摘は概ね正しい。確かにリコとロイは成長し強くなった。だが、それでもまだ、実力ではフリードに及ばず知略においてはあまり期待できない。ジンならばどちらも優れているが、リコとロイではここぞという場面で全てを託すには少々、心もとないのは事実だ。

 

「以前、私が調査した時よりも成長しているようですが、それはこちらも同じ事」

 

 サンゴの我儘から始まったホウエン地方への旅路……いや、それ以前にジンというトレーナーの存在はアメジオやサンゴだけではなくエクスプローラーズ幹部全員の強化にも繋がってしまったのだ。

 

「本気を出した我々にあの2人が勝てる訳がありません」

「……そうかよ。だが、ジンはどうする気だ?お前達がどれだけ強くなろうと、あいつに勝てるとは思えねーぞ」

 

 フリードの指摘通り、如何に彼らが強くなろうとも1対1の真剣勝負になれば恐らくジンには勝てない。無論、勝負に絶対はない為、数の利などで攻めれば勝機を掴む事も不可能ではないだろう。だが、それでも現状、彼らがジンに劣っているのは紛れもない事実だ。寧ろ、ジンならばメガシンカポケモンを2体同時に相手にする逆境であっても嬉々としていそうですらある。

 

「えぇ、残念ながらそうでしょうね」

「……随分、素直に認めるんだな」

「ふふっ……私は一度、彼に負けていますからね。再戦に備え、様々な手を考えました。ですが……やはり、彼を正面から倒すのは難しい。そう結論せざるを得ませんでしたよ」

 

 スピネルが如何に策を練ろうともジンとそのポケモン達は『しんそく』の如し早さで強さを増していく。スピネルが苦労して完成させた戦術も、ジンは一度見ただけで模倣するどころかオリジナル以上の完成度で仕上げてしまった程だ。更には新しい戦力も加わっていく始末であり、最早まともに相手をするのは愚策でしかなかった。これでは、どれだけ策を練ろうとも無意味に終わる可能性が高いのである。

 

「なので、原点回帰です」

「はぁ?」

「やはり、私は間違っていませんでした。彼をどうやって倒すのかではなく、どうやって戦わせないか。それが彼を攻略する一番の近道だと再確認し策を練った。ただそれだけの事ですよ」

 

 スピネルはそう言うとクスクスと不気味な笑みを浮かべ始める。

 

(……ジン)

 

 リコ、ロイ、ドットの3人は仲間であるのと同時にフリードにとってはいざという時には自分が盾になってでも庇護すべき対象でもある。しかし、彼らと同年代であるジンは少し違う。その能力の高さや大人びた面もある性格などを考慮し頼りになる仲間として扱ってきた。

 

 しかし、敵であり自他共に認める知恵者のスピネルがこうも自信満々にジンを止める策があると豪語したのだ。いくら信頼しているとはいえ、フリードは一抹の不安を抱かずにはいられなかった。

 

 

 

***

 

 

 

 建物を離れ、停泊させていたボートに乗り移ったジン達は海を渡り、目的地と定めた灯台の近くの浜辺にまで到着していた。灯台まではまだ距離がある。ここから先は徒歩での移動となるが、灯台に繋がる唯一の道には1人の男性が立ちはだかっていた。

 

「待っていたぞ。ライジングボルテッカーズのジンだな?」

 

 全体的に細身でコートを身に纏ったくせ毛が目立っている人物だ。その人物は、他のメンバーには目もくれずひたすらにジンだけを警戒していた。ジンとしてもこのタイミングで現れ、しかも自分を名指しで待ち受けていた相手に強い警戒心を抱く。

 

「……人に名前を尋ねる時はまず自分から名乗ったらどうだ? 大人ならその程度のマナーは知っているだろう?」

「名乗る程の者ではない……ただ、スピネル様よりお前の相手をする様に命じられたとだけ言っておこう」 

 

 予想してはいたのだが、やはりエクスプローラーズの関係者の様だ。口ぶりからして、恐らくスピネルの部下と見て間違いないのだろう。

 

(今度こそ、当たりみたいだな……)

 

 このタイミングで更に囮と言うのは考えにくい。根拠のやや薄い半ば当てずっぽうに近い推測だったが、この先に黒いレックウザを呼び出す何かがある筈だ。

 

「……3人共、悪いんだが先に行ってくれ」

「ジン!?」

「どうして?相手は1人だし皆で倒しちゃえばいいじゃん!」

 

 ロイの言い分にも一理ある。だが、相手はスピネルの部下で、彼から直接、ジンの相手をする様に言われている。正直、どんな手を打ってくるのかはジンにも予測がつかない。万が一にもここにいる全員を相手にしても尚、戦い抜けるだけの戦力もしくは作戦があった場合、全員が足止めをくらう事となる。時間が惜しいこの状況ではそれだけは避けなければない。そうでなければフリードを単身で残してきた意味もなくなってしまうのだ。

 

「目的を間違えるな。俺達の目的はエクスプローラーズを倒しきる事じゃなく、黒いレックウザを奴らの手に渡さない事にある」

「だけど……」

「奴らの作戦が見えない以上、1分1秒が惜しい。だから、頼む……俺を信じて任せてくれ」

 

 ジンは敵への警戒を強めながらもリコ達にそう頼んだ。リコとロイ、そしてランドウもジンの強さは嫌と言う程、知っている。そんなジンが任せろと言っているのだ。3人は顔を合わせ、軽く頷くと灯台に向かって走り始める。

 

「ジン!必ず追いついてよ!」

「先に行って待ってるからね!」

 

 リコ達は敵の男性から大きく迂回しながら、灯台を目指していく。しかし、彼はリコ達を邪魔する所か視界にすら捕らえようとしない。

 

「いいのか?3人共、行ってしまうぞ?」

「俺の受けた命令は、お前を足止めする事だけだ。連中が何をしようと知った事ではない」

 

 それは彼にとって紛れもなく本心だ。しかし、それ以上にジンから目を逸らす事が出来なかったのである。リコ達を先に進ませると決めてから、ジンは思考を戦闘用に切り替えていた。そして、その事は相対していた彼も察しており、少しでも隙を見せれば攻撃される。本能でそれを感じ取ってしまったのだ。

 

「俺は俺の仕事をこなすだけだ。行け!」

「上等だ!頼むぞ!」

 

 両者は同時にポケットからモンスターボールを取り出し宙に投げる。ジンが出したのは相棒のジュカイン、そして相手が出したポケモンは人間の様なフォルムで全体を鎧で包んだような姿をしている。とうじんポケモンのキリキザンだ。

 

「『つじぎり』!」

「『リーフブレード』!」

 

 キリキザンとジュカインはモンスターボールから出るのと同時にその場を駆けだした。キリキザンの両腕の鋼刃とジュカインの両腕の緑刃が鍔競り合い火花を散らす。

 

「『タネマシンガン』!」

 

 鍔迫り合いの状態のまま、ほぼゼロ距離からジュカインは『タネマシンガン』を発射する。連続で発射された種はキリキザンの顔面に命中した。効果はいま一つだが、顔面へ攻撃を受けた事で僅かに怯んだ様で隙を作る事に成功する。

 

「ジュッカ!」

 

 僅かに出来た隙をジュカインは見逃さない。がら空きとなった腹部に『リーフブレード』を刻み込んだ。その勢いでキリキザンは後方へと吹き飛ばされていく。

 

「逃がすな!『こうそくいどう』から『かわらわり』!」

「っ!?『アイアンヘッド』だ!」

 

 ジュカインは『こうそくいどう』で一気にキリキザンに迫ると右腕を振り上げ、『かわらわり』を叩き込もうとする。それに対し、キリキザンは額の刃を光らせると『かわらわり』を迎え撃つ。なんとか相殺する事に成功したが、4倍弱点の攻撃を完全に防ぐ事が出来ずかなりのダメージを受けてしまう。

 

「キザァ……キザァ……」

 

 キリキザンは片膝を突きながら、息を荒くしている。既にかなりのダメージが溜まっており、後一撃でもくらってしまえば、戦闘不能になるのは間違いないだろう。

 

「おい……この程度か」

 

 目の前の男とキリキザンは決して弱くはない。しかし、この程度の相手ではジンに勝つどころか碌に時間稼ぎにもならない。だが、この男を寄こしたのはスピネルだ。あの迂闊な男が寄こした以上、何か勝算があっての筈なのだが、現状ではその気配すらない。

 

「……スピネル様の仰っていた通りだ。本当に強い」

「だったら、さっさと本気で来い。時間の無駄だ」

「はははっ……では、そうさせてもらおうか」

 

 男はキリキザンをモンスターボールに回収するとその場で指を鳴らした。すると内陸側の木々から一斉に大量のポケモン達が飛び出してきた。

 

「これはこれは……可愛らしい援軍だな」

 

 そこに現れたのはミツハニー、その進化形のビークイン、ビビヨン、フラエッテなど様々だ。確かに数はかなり多いが、1体1体のレベルは決して高くない。数を揃えれば勝てると思っているのなら、勘違いも甚だしいと言わざるを得ない。

 

「一撃で終わらせてやる。ジュカイン!」

 

 ジュカインに更なる攻撃を指示しようとした瞬間、相手側からミツハニーが1体、突然、ジン達の前に飛び出して来た。ジンとジュカインが警戒する中、ミツハニーはそのまま攻撃する訳でもなく空中で動きを止めると徐にジン達に背中を見せて来る。

 

「……?……っ!?」

 

 ミツハニーの背中には青紫色に光る正方形の装置が取り付けられていた。その装置を見た瞬間、ジンの中で最悪のストーリーが頭の中に思い浮かんでしまった。

 

「まさか……コントロールキューブか!?」

 

 コントロールキューブ、数年前、ライムシティという街で悪用された装置だ。ユニタスと呼ばれた組織が開発した物でポケモンを自在に操る事が可能と言われている。

 

「ほぉ……知っていたのか。ならば説明する必要はないな」

「……どこで手に入れた?警察が全て回収した筈だ」

「エクスプローラーズを舐めるな。我々はあらゆる地方の警察、企業などに人員を潜り込ませてある。この程度の物ならば簡単に入手できるさ」

 

 その説明が本当であるならば、確かにエクスプローラーズという組織を甘く見ていたと認めざるを得ない。精々、資金力があるだけの組織だと思っていたが、そこまで規模が大きいとは予測していなかった。

 

「分かってるとは思うが、余計な事はするなよ。ちょっとでも妙な動きをすればこのポケモン達の無事は保証しない」

 

 男は懐からコントロールキューブを操るコントローラーを取り出すとジンに見せつけて来る。

 

「このポケモン達は元々、お前達が先程、訪れた島に生息していた、何の罪もない善良なポケモン達だ。今回の作戦の為に念の為、捕獲していたが大正解だったな」

「……人質……いや、ポケ質か?分かっているのか?その装置を装着したポケモンは脳波に異常が来たし、身体にも相応のダメージが……」

「無論、知っている……俺も出来れば、こんな装置使いたくなかった。俺だけの力でお前を倒したかったが……それも不可能な以上、任務遂行の為に動くのみだ」

 

 彼自身、思う所はある様だが、組織の人間として最も重要な任務遂行の為に行動している。分かってはいたが、情に訴えかけても意味はない様だ。

 

(これがスピネルの策か……)

 

 ジンを正面から倒すだけの戦力や策は用意できなかったのだろう。だから、発想を切り替えジンにバトルをさせない為に、無関係なポケモン達を強制的に操る事にした。これは、罪のないポケモン達をジンが傷つける事は出来ないと見越した足止めという目的を果たす為だけの作戦だ。

 

 そして、その策は概ね上手く行きつつある。確かにこの状況ではジンは彼らに手を出すことには抵抗があり、このままでは時間だけが過ぎて行ってしまう。彼らの事を後回しにしレックウザの元に向かう事も出来るが、その場合、恐らく容赦なくポケモン達を傷つけ始めるだろう。完全に八方塞がりな状況だ。

 

(スピネル……)

 

 この時、ジンの感情を支配したのは、自分と正面から戦うことなく無関係なポケモン達を巻き込むという卑劣な策を取ったスピネルやエクスプローラーズに対する腸が煮えくり返る程の激しい怒り……ではなかった。

 

(……見事だ)

 

 ジンは自分でも驚く程、冷静にスピネルの策を賞賛していた。無論、スピネルの策は褒められるべき物ではない。無関係なポケモン達を巻き込んだ事にも怒りの気持ちはある。だが、力で劣る者が策を講じるのは当然の事だ。それを否定する事はジンには出来なかった。

 

 むしろ、自分と言う存在がそれ程の脅威だと認識しここまでの策を講じて来る事にどこか喜びすら感じていた。この足止めが成功しレックウザをエクスプローラーズが手に入れたのであれば、それはスピネルの勝利だ。アメジオとはまた違った形で自分を超えようとするその姿勢は……複雑ではあったが、素直に称賛する他ない。

 

(しかし……どうするかな?)

 

 称賛すると言っても、このまま何もせずにレックウザを奴らに渡す訳には行かない。だが、その為にはこの場をどうにかして切り抜ける必要がある。その為には、相手側にいる操られたポケモン達を全て倒すか。彼らを操るコントローラーを奪うかの二択しかない。

 

 前者は心を殺せば不可能ではないが、出来れば取りたくない行動だ。後者はポケモン達が彼を守る盾の様に布陣している為、難易度が高い。無理に強行しても失敗するのは目に見えている。

 

(僅かでいい。隙が出来れば……)

 

 僅かな隙があれば、この状況を打破するだけの手段はある。問題なのは、どうやってその隙を作るのかだ。

 

「……!」

 

 しかし、そのチャンスは唐突に訪れる事になる。

 

 頭をフル回転させながら、策を練っていると突然、身に覚えのある気配が上空から近づいている事に気が付いた。カントー、そしてガラルでも感じた感覚だ。ジンもそして敵対していた男も思わず、上空に視線を向けると先程まで曇っていた空の一部が徐々に晴れていき、太陽の光と共に1体のポケモンが姿を現していく。

 

「あれが……黒いレックウザ」

 

 男はレックウザに見惚れ、視線を思わず上空に固定してしまう。その存在は聞かされてはいても直接、目にするのとではやはり全く違うのだろう。彼のこの行動は責められる程の事ではない。恐らく、同じ立場になれば多くの者が同じ様な行動を取ってしまうだろう。

 

 だが……厳しい事を言う様だが、それでも彼はジンから目を逸らすべきではなかった。

 

(今だっ!)

 

 レックウザ登場によって訪れた一瞬の隙、それをジンは見逃さなかった。咄嗟にポケットから1つのボールを取り出すと男とそれを守る様に布陣したポケモン達に向かって投げつける。

 

「っ!?しまっ!?」

 

 男はジンがモンスターボールを投げ新たなポケモンを出すと思ったのだろう。咄嗟にコントローラーを操り、ポケモン達を自分の周辺に近づけ盾にしようとするが、無意味な行動だ。ジンの投げたボールは男やポケモン達の前で独りでに開くと中から青紫色の粉を放ち、彼らを包み込んで行く。

 

「な……に……」

 

 その粉を吸い込んだ男とポケモン達は次々にその場に倒れ、眠りについて行く。数秒で粉は蒸発し消えたのを確認するとジンは男に近づき、その手に握られていたコントローラーを奪い取ると地面に叩きつけ破壊した。

 

「是非はともかく策は悪くなかったぞ……以前までだったら、暫くは足止めできたかもな」

 

 ジンが投げたのは、以前にテペンとカーナが共同で制作した『自家製超強力眠り粉』を包み込んだモンスターボールだ。試作品が出来上がった段階でサンプルとして送ってもらっていたのだが、今回思わぬ形で役に立ってくれたのである。

 

「運が……いや、縁が味方してくれたって所か」

 

 テペンやカーナとの出会いがなければ、ジンはこの道具を持っておらず、結局、ポケモン達を倒すという手段に出るしかなかっただろう。出来るだけダメージを負わない様にと配慮し、連中の時間稼ぎに付き合う必要があった。それをせずにこうも容易く突破できたのは彼らとの縁があったからこそと言って過言ではない。

 

「あれは……」

 

 改めて黒いレックウザに視線を向けると、そこには『ふぶき』と『しおづけ』、そして『サイケこうせん』を正面から受けている姿があった。最初から見ていないので確かではないが、現れるのと同時に不意打ちに近い形で攻撃を受けてしまったのだろう。

 

「あまり時間がなさそうだな……ジュカイン!急ぐぞ!」

「ジュカ!」

 





ルシアスとリスタルは旅の間にしっかり子作りしてたんですよね。ギベオン様は知らなかったのか……それとも気づいてないフリしてたのかな?って子供の頃だったら考えもしない所に注目しちゃいました。

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