明けましておめでとうございます!
遅くなって申し訳ありません。活動報告でも書きましたが、wifiが繋がらず執筆が遅れ精神的にも参っていました。
今後も更新は遅いと思いますが、これからもよろしくお願いいたします。
「ジン……」
墜落していくブレイブアサギ号へと向かって猛スピードで突き進んでいくボーマンダとその背に立つジンを見ながらリコは心配そうにつぶやいた。しかし、ジンに任せると決めた以上、何時までものんびりしている時間は彼女達にはなかった。
黒いレックウザは、かなりのダメージを負ってこそいる様だが、未だに戦闘継続を可能な状態で留まっている。普段、どこにいるのかも分からないレックウザがこんなに近くにいるのだ。このまま何もしない訳には行かない。
「ワシはジンの加勢に向かうぞ」
「あぁ、じっちゃん頼んだ!リコ、ロイ、俺達は黒いレックウザをなんとかするぞ」
「「うん!」」
幸いな事にエクスプローラーズ達は自前のヘリに乗り込んで撤退の準備に入っている。今ならば、一切の邪魔をされずに黒いレックウザと話をすることが出来る。ならば多少のリスクを覚悟してでも挑む価値は十分にある。
「聞いて!レックウザ!」
リコはその場から一歩踏み出し、声を張り上げて天空に留まるレックウザへと語り掛けた。レックウザは少しだけ目を動かしリコとその真横にいたテラパゴスに向けて視線を合わせる。
「っ……私はリコ!ポケモントレーナーです!テラパゴスを嘗て貴方達とルシアスのいたラクアに連れて行きたい!力を貸して!」
レックウザの眼力にリコは少しだけ怯んだが、ジンに言われた様に自分の素直な気持ちを真っすぐに伝えた。
「レックウザ!君と出会えたから、僕は冒険に出ることが出来た!僕にとって君は目標で最高の憧れ!だから……だから、今、すっごいワクワクしてる。僕とバトルして欲しい!」
リコに続く様にロイもまた古のモンスターボールを構え自分の気持ちを伝える。勝算が低い事は承知していたが、それでもこのチャンスを逃すつもりはない様だ。
「パゴ~パ~ゴォ~!」
テラパゴスもまたレックウザに向けて必死な様子で語り掛ける。リコ、ロイ、テラパゴスの想いが通じたのかレックウザは沈黙を破り、激しい咆哮を上げるとリコ達と正面から向き合った。
「応えてくれたか……よしっ!俺も行くぞ!それにドットもだ!」
「えぇっ!?僕も!?……やるしかないか」
リコとロイだけではない。フリード、そしてドットも覚悟を決め、レックウザとのバトルに参加する事を決意した。
「キャップ!リザードン!」
「イッカネズミ!」
「アチゲータ!ワルビルもお願い!」
「クワッス!ルガルガン!」
ロイが新たに戦力としてワルビルをモンスターボールから出す事で戦力を整える。レックウザ1体に対してこちらは7体という変則的なバトルなのだが、戦力としてはまだこれでも心許ない程の開きが両者にはある。
「二手に分かれるぞ!リコ!イッカネズミをリザードンに乗せろ!」
「うん!」
「キャップ!アチゲータとクワッスを大空に運んでやれ!」
「ピカッ!」
タイカイデンが倒れた今、航空戦力は現状、リザードンだけだ。リザードンの背に乗り、レックウザに接近したらイッカネズミは接近戦に移る。そして、キャップの『ボルテッカー』の力により生じた竜巻に乗り大空に飛び上がったクワッスとアチゲータが遠距離から攻撃を仕掛け、それをルガルガンとワルビルがサポートすると言うのが基本的戦術となる。
「行くぞ!」
「ガウ~!」
「フィーッ!」
リザードンの背にフリードとイッカネズミが乗り込むと空高く舞い上がった。リザードンはレックウザの左側面に回り込むと『かえんほうしゃ』を放ち、レックウザを灯台のある方へと追いやる事に成功する。
「ピッカァ!」
レックウザが自分達の方に迫ってくるのを確認するとキャップはその場でクワッスとアチゲータの周囲を旋回する様に『ボルテッカー』を発動し竜巻の様な上昇気流を生み出した。クワッスとアチゲータはその気流により一気にレックウザと同じ高さにまで飛び上がっていく。
「クワッス!『みずでっぽう』!」
「アチゲータ!『かえんほうしゃ』!」
クワッスとアチゲータはレックウザに向けてそれぞれ得意技を打ち出そうとする。しかし、レックウザは身体を大きく捻ると尾を振りかざし攻撃前の2体を弾き飛ばそうと動き出した。
「させない!ルガルガン!『ストーンエッジ』!」
「ワルビルもお願い!」
それをいち早く察知したドットはルガルガンに指示を出しロイもそれに続いた。ルガルガンとワルビルは自身の周りに尖った岩を幾つも展開するとレックウザの尾に目掛けて次々に打ち出した。尖った岩達により効果抜群のダメージを受けたレックウザは思わず動きを止めてしまう。
「今だ!」
「いっけぇ!」
クワッスの『みずでっぽう』とアチゲータの『かえんほうしゃ』はそれぞれレックウザの顔面に命中し小さな爆発を起こした。相応のダメージを与えたが、それ以上にあった成果としては爆発した際の煙によりレックウザの視界を一時的にでも奪った事だろう。その僅かな隙にフリードとイッカネズミを乗せたリザードンは一気に接近していく。
「イッカネズミ!レックウザに飛び移って『じゃれつく』!」
リザードンから大きくジャンプしレックウザの胴体にしがみ付いたイッカネズミはそのまま小さな体に似合わない力でレックウザを殴り、蹴り、踏みつけて絶え間なく攻撃をする。
「俺達も行くぞ!リザードン!『ドラゴンクロー』!」
そしてイッカネズミに続く様に今度はリザードンが緑の光を纏わせた爪でレックウザを切り裂いた。効果抜群の技の連続に流石のレックウザも苦しそうな様子を見せていく。
「よしっ!」
「ダメージは入ってる……行ける!」
レックウザはリコ達とのバトルが開始されるよりも前にエクスプローラーズ達とも既にバトルし、『ふぶき』と『しおづけ』を喰らい続けていた。その影響もあり、レックウザは既にかなりのダメージを蓄積している。このまま押し続ければ勝利する事も不可能ではないだろう。
「ガアァァァァァァァァァァァァッ!」
「っ!?」
空気が震える程のレックウザの咆哮が、その視界を覆う煙を無理矢理に掻き消すと、その巨躯を激しく旋回させることで纏わりついていたイッカネズミも強引に引き剥がされる。
「イッカネズミ!?」
「リザードン!」
リザードンは攻撃を中止するとイッカネズミの回収へと向かっていく。海に落ちる寸前になんとかフリードがキャッチした為、大事には至っていない様子だ。だが、安心したのも束の間、レックウザは鋭い視線をリコ達に向けて来る。確かにダメージはある様だが、レックウザの眼にはまだ強い力を感じさせた。
「……どうやら、本気になったみたいだな」
フリードの推測通り、レックウザは残りの力を振り絞り全力でバトルする事を決めた様だ。その為、まずは敵の連携を崩し頭数を減らそうと考えたのか『りゅうせいぐん』を打ち上げ、空で分裂させるとまるで隕石の様に落下させていく。
「リザードン!避けろ!」
「クワッス!『みずでっぽう』!ルガルガン!『ストーンエッジ』!」
「アチゲータ!『かえんほうしゃ』!ワルビル!『ストーンエッジ』!」
フリードとイッカネズミの背に乗せたリザードンは回避に徹し、地上にいたメンバーは其々『りゅうせいぐん』を迎え撃つ態勢に入る。クワッスの『みずでっぽう』、アチゲータの『かえんほうしゃ』、ルガルガンとワルビルの『ストーンエッジ』により何とか直撃する事は免れたが4体のポケモンの攻撃ではレックウザの全力の『りゅうせいぐん』を完璧に防ぐことは出来ず、周辺に落ちた隕石の余波を受け相応のダメージを負っていく。
「ガアァァァァァァァァァァァァッ!」
何とか防ぎ切ったと感じたのも束の間、レックウザは再び『りゅうせいぐん』を空へと打ち上げた。これで二度目の『りゅうせいぐん』だと言うのに威力には全く衰えを感じさせない。アチゲータ達は死力を尽くして抵抗して見せるが、直撃しない様にするので精一杯で少しずつダメージを蓄積していく。
「パァ……」
「テラパゴス!?危ない!」
だが、防ぎ切るのにも限界はある。そして、運の悪い事にアチゲータ達の防御をすり抜け1つの隕石がテラパゴスに向かって行ったのだ。それを見たリコはテラパゴスを守る為に迫りくる隕石とテラパゴスの間に入り、身を盾にし守ろうとする。あまりにも危険な行為だ。アチゲータ達は急いでリコ達の元に行こうとするが、間に合いそうにない。リコは数秒先に訪れるであろう痛みに怯え、思わず目をつぶってしまう。
「…………え?」
しかし、何時まで経っても痛みが訪れる事はない。ゆっくりと目を開けるとそこには、青紫色の甲冑を纏ったポケモンが隕石を一刀両断にする姿だった。
「スピネルめ……こそこそと何かやっていると思えば」
「アメジオ……」
現れたのはエクスプローラーズのアメジオ、そしてその相棒のソウブレイズだ。彼らはリコ達には一切、目もくれずにレックウザを鋭い視線に睨みつける。
「黒いレックウザは俺が頂く。ソウブレイズ!」
「ソウッ!」
アメジオはポケットに手を入れると以前、ハンベルから貰い受けたテラスタルオーブを取り出すとエネルギーを集束させていく。
「我が道を貫け!ソウブレイズ!」
やがてエネルギーが完全に溜まり切るとテラスタルオーブをソウブレイズの頭上に目掛けて投げつける。ソウブレイズの周囲を無数の結晶が包み込んで行く。結晶が砕け散り、そこには全身を結晶化させ頭上には幽霊の様なジュエルの付いた王冠を被るソウブレイズが現れた。
「ソウブレイズが……」
「テラスタルした!?」
少なくともリコ達の知る限り、アメジオがテラスタルを使う場面は見た事がない。今までに何度かバトルしたジンからもその様な報告は受けていないのだ。驚愕するのも当然と言えるだろう。
「『ゴーストダイブ』!」
テラスタル化したソウブレイズはその場を駆けだし、崖から大きく飛び上がると目の前に現れた闇へと入り込み姿を消した。そうして、レックウザの死角となる背後、胴体などから姿を現して攻撃、その後直ぐに闇に潜り込むヒットアンドアウェイで攻撃と撤退を続けると最後にレックウザの頭上から姿を現し両腕の双剣を脳天に叩き込んだ。
「ギャァァッ!?」
レックウザに強力な一撃を叩き込んだソウブレイズはその場から『ゴーストダイブ』で離脱すると再び、アメジオの横に戻ってくる。
「……もう少しだな」
レックウザは度重なるバトルで信じられないレベルで消耗している。今の攻撃で受けたダメージによりそれは決定的な物となった。あと数回……いや、強力な一撃を入れればあと1度の攻撃でレックウザは戦闘不能に追い込めるとアメジオは確信した。
「ソウブレイズ!もう一度『ゴーストダイブ』だ!」
ソウブレイズはアメジオの指示に従い、再びその場を駆けだそうとする。しかし、崖から闇へと飛び込もうとした瞬間、その間に『かえんほうしゃ』が行く手を遮る様に放たれソウブレイズはその場に急ブレーキをかけたかの様に停止させられる。
「なにっ!?」
炎が現れた先にアメジオが視線を向けるとそこにはボーマンダの背に仁王立ちしたジンがいた。ブレイブアサギ号での救出作業を終えたジンはボーマンダと共に大急ぎで駆けつけ、傷ついたレックウザと万全の状態でテラスタルしたソウブレイズを見て状況を察した様で速やかにボーマンダに『かえんほうしゃ』を指示し妨害に移った様だ。
「貴様……」
「前回に引き続き、邪魔して悪いな」
口調に反してジンは悪びれる様子もなく謝罪した。前回もアメジオとレックウザのバトルに途中から介入した為か、流石にこの状況で再び彼の邪魔をする事に多少の罪悪感を感じている様だ。こんな状況であろうとも、トレーナーとしての矜持を忘れないジンに対して、アメジオは意趣返しの様に返答する。
「……いや、むしろ丁度いい」
「ん?」
「あそこまで弱っているレックウザなど後で十分だ。それよりも……今度こそお前を倒す!」
万全でないレックウザなど最早、敵にはなり得ない。むしろこの状況でレックウザに専念しよう物ならば、ジンが容赦なく横入りし自分達を邪魔してくる。そうなる位であれば、レックウザを後回しにしてでも目の前にいる最大の脅威であるジンを倒すのが先決だとアメジオは判断した。
「……いいだろう。その勝負、受けた」
「待って!私達も!」
「いや、後は俺に任せてくれ……もう限界だ。そうだろう?」
クワッス、アチゲータ、ルガルガン、ワルビルは二度の『りゅうせいぐん』により既に長期的な戦闘続行が厳しいレベルでダメージを負っている。リザードンとイッカネズミはまだ余裕がある様だが、この2体だけではアメジオとレックウザの相手をするのは厳しいのが現実だ。
「……分かった。負けないでね」
「任せろ」
指摘された通り、自分達の役目はここまでだと理解した為かリコ達はその場をジンに任せる事を選択する。ジンはボーマンダから降り、モンスターボールへと回収すると新たなモンスターボールを取り出す。アメジオも同じ様にソウブレイズを一旦、回収し新しいモンスターボールを取り出し構える。
「なんだ?折角、テラスタルしたのに代えてしまうのか?」
「ソウブレイズには悪いと思っている。だが、お前相手にどうしても試してみたいポケモンがいるのでな」
「……成程。お前の切り札って訳か……面白い!」
ジンとアメジオは示し合わせたかのように同時に構えていたモンスターボールを宙に投げる。ジンが選んだポケモンは手持ちでも最高峰の強さを持つダークライだ。それに対しアメジオが投げたモンスターボールから現れたのは紫色の装甲に背中に特徴的な砲台を背負ったポケモンだ。
「な、なに?あのポケモン?」
「……驚いたな。ゲノセクトか」
「……こいつを知っていたのか?」
「あぁ……と言っても噂程度だがな」
ゲノセクト、約三億年前に実在したポケモンであり嘗てイッシュ地方に存在したプラズマ団なる組織が復活させ改良した事で知られるポケモンだ。数年前に復活した彼らは、ニュートークシティである事件を引き起こしたらしい。ジンは一人旅の頃、そう言った事件を興味本位で調べていた時期がある。その為、ゲノセクトに関してもそれなりの情報を有していた。
(ゲノセクトは鋼・虫タイプだった筈。ダークライとの相性は不利……それにあの砲台に装着されたカセットも気になる)
ゲノセクトの背中の砲台にはピンク色のカセットが装着されていた。ジンの調べた時の情報ではゲノセクトには『テクノバスター』という専用技が存在し、装着したカセットにより技のタイプが変わるらしい。そして装着可能なカセットは炎・水・電気・氷タイプの計4つの筈なのだが、ピンク色のカセットはそのどれにも当てはまらない。
「まぁ、やるしかないか……ダークライ!『あくのはどう』!」
これ以上は戦いながら探っていくしかない。そう考えたジンは早速、攻撃の指示を出す。ダークライは両腕を前にかざし、黒と紫の光線を放つ。
「迎え撃て!『テクノバスター』!」
迫りくる『あくのはどう』に対しゲノセクトはその場から動くことなく背中の砲台にエネルギーを集中させるとピンク色のエネルギーを放出させた。両者の技は互いを挟んだ中央で激しくぶつかり、数秒の均衡を保った後に『テクノバスター』が打ち破り、そのままダークライへと直撃した。
「ダァッ!?」
『テクノバスター』を受け、ダークライはそのまま後方へと弾き飛ばされる。戦闘はまだまだ問題なく継続できるが、『あくのはどう』を打ち破った上に予想を超えるレベルでの攻撃が来てジンは驚愕した。だが、それと同時に謎だったピンク色のカセットの正体に気が付いた。
「……成程。今のはフェアリータイプの技か」
いかにゲノセクトが強力な力を持っていようともダークライの技を打ち破る事は簡単な事じゃない。しかし、『テクノバスター』を悪タイプに相性のいいフェアリータイプにして撃つ事が出来るのであれば話は変わってくる。ダークライのダメージや『あくのはどう』を掻き消した事から見てもまず間違いないだろう。
「流石だな。正解だ」
「だが、フェアリータイプのカセットなんて存在しなかった筈だ。一体、どこで手に入れた?まさかエクスプローラーズが自作したのか?」
「そこまで教える義理があるのか?」
この様に答えはしたが、ゲノセクトの『テクノバスター』の原理を知ったアメジオは対レックウザ用にとハンベルに頼んだだけで、どの様にしてこのフェアリーカセットが作られたのか、その詳細は知らなかった。
彼に代わって説明すると、エクスプローラーズの科学班はプラズマ団に所属していたアクロマという研究者が生み出した4つのタイプのカセット、それを元にし残りの14のタイプのカセットの作成に成功したのだ。
「言われてみれば……ないな。愚問だった。忘れてくれ」
「ふっ……ならばバトルを続けるぞ!『しんそく』!」
ゲノセクトは二足歩行の通常形態から四肢と砲身を折り畳み、高速飛行形態へと姿を変えると目にも止まらぬスピードでその場から駆け出し、ダークライへと突撃した。素早さには自信のあるダークライだが、これは躱すことが出来ずに再び攻撃を正面から受けてしまう。
(速いな……)
『しんそく』、その名に相応しい他を寄せ付けない圧倒的なスピードだ。これ程のポケモンとバトルするのは、最近だとガラルファイヤーを除けば、ホウエン地方での旅の道中でも数える程の記憶しかない。そして、それ程の強敵をライバルと認めるアメジオが従えているという事実にジンは高揚し始めていた。
「追い詰めろ!『シザークロス』!」
「『ゴーストダイブ』!」
ゲノセクトが通常形態に戻ると更なる攻撃を仕掛けようと接近してくるが、ダークライはそれが当たる寸前に目の前に現れた闇の中に身を潜め、『シザークロス』を回避するとゲノセクトの頭上から現れ両腕をかざし『あくのはどう』を放つ。いかに素早いスピードを持っていようとも背後からの不意打ちには対応できず、『あくのはどう』を受けたゲノセクトはそのまま地面に叩きつけられる。
「『ダークホール』!」
「『しんそく』で回避しろ!」
ダークライは空中から地上に目掛けて黒い光球を弾丸の様に次々に放って行く。しかし、ゲノセクトは再び高速飛行形態へと変形し、『しんそく』でその場を駆けだし雨の様に降り注ぐ『ダークホール』を全て回避してしまった。
「それだけは絶対に喰らわない!」
以前、ガラル地方でアーマーガア以外の手持ちを全てこの技で眠らされた経験がある為、アメジオはこの技に最大限の警戒をしていた。余程、大きな隙でも生まれない限りはもう『ダークホール』を命中させることは難しいと言わざるを得ない。
「ははっ……最高だな。お前ら」
こんなにも心が躍るバトルは久々だった。六英雄とのバトルも中々に面白く、尚且つ貴重な経験ではあったが、それでもラクアに行く為に協力関係を結ばなくてはという思いがどこかにあり、全力でバトルを楽しむことが出来なかった。だが、目の前にいるアメジオとゲノセクトは違う。遠慮する事無く全力でバトルし、その上で楽しませてくれる敵でもありライバル、そんな存在がいてくれる事にジンは心から喜んでいた。
そんなジンの脳裏を過るのは、ホウエン地方での本気のジムリーダー戦。その誰もがジンの予想を凌駕する強敵ばかりであり、だからこそジンというトレーナーは強くなれた。今のアメジオは彼等にも勝るとも劣らない実力者と見定める。
「もっとだ……もっと楽しませくれ!」
「望む所だ!」
「グォォォォォォォォォォォォッ!」
ジンとアメジオは心の赴くままにバトルを続けようと新たな指示をそれぞれのポケモンに出そうとした。正にその瞬間、黒いレックウザの叫び声が辺り一帯へと響き渡った。バトルに夢中になっていたジン達だが、流石に何事かと思いレックウザに視線を向けるとそこには傷ついた体に鞭を打ち、『りゅうのはどう』を放とうとしている姿だった。
「喧しい!お前の相手は後でしてやる!今いい所なんだ。邪魔をするな!」
「俺も同感だ。レックウザ、無理せずに休んで体力を回復させろ。俺としても体力が回復したお前とバトルしたいしな」
ジンとアメジオ、それぞれ言い方は違うが共通して今のレックウザを脅威として認識していなかった。無論、油断している訳じゃない。レックウザの技の威力、フィジカルは十分に脅威だ。だが、今のレックウザにはそれらを扱うだけの余力が残されていない。
「グゥッ……グォォ……」
そしてその事はレックウザが誰よりも理解している。現に今も『りゅうせいぐん』どころか『りゅうのはどう』さえも上手く発動できない程に弱り切っているのだ。これ程までのダメージを受けた事、敵として認識されていない事、それらの事実がレックウザのプライドに大きな傷をつけた。それは即ち、レックウザを此処まで鍛え上げたルシアスを侮辱された事にも等しかった。
「グォォォォォォォォォォォォォッ!」
憤怒を秘めたレックウザの悲痛な叫び声が天空に轟く。アメジオはそれを鬱陶しそうに見ていたがジンはどこか真剣みを帯びた眼差しで観察していた。いや、より正確に言うならば目を離すことが出来なかったが正しい。
(……なんだ?)
レックウザは戦闘不能寸前だ。それは間違いない。だが、今の叫び声は、追い詰められた生物が全てを投げ打つ時に発する断末魔に近い様な何かを感じさせた。ジンのこれまでの経験が警鐘を鳴らし、咄嗟に警戒心を強めたが、その時、その場にいた誰もが予想できなかった事態が起き始める。
「なにっ!?」
レックウザの身体が突如として輝き始めたのだ。そしてそれに呼応するかのようにジンのペンダント、アメジオのリストバンド、そしていつの間にか撤退していたエクスプローラーズ所有のヘリの中でもサンゴのペンダントとオニキスのバングルに装着されたキーストーンが突如として輝き始める。
「きりゅりりゅりしぃぃ!」
輝きが収まるとレックウザがその姿を現した。顎が幅広な刃状と化して大きく前に突き出した形となっており、顎や角からは元の黄色い模様が尾先まで長い髭が後ろに流れるように伸びている。
「そんな……馬鹿な」
アメジオは呆然と呟いた。アメジオと同じ様にジンもこの目で見たというのに信じられないという気持ちが強かった。トレーナーはおろかキーストーンもメガストーンもなしにレックウザはメガシンカを成し遂げたのだ。
「グオォォォォォォォォッ!」
信じがたい気持ちはあったが、レックウザがメガシンカした事実は変わらない。無論、ここまでに受けたダメージが元に戻る事はないが、力は遥かに増大している。先程の様に技が不発に終わる事はまずありえない。恐らく、次の一撃に残りの力の全てを出し切る筈だ。
「アメジオ……悪いんだが、一騎打ちはここまでだ。ここから先は三つ巴とさせてもらうぞ」
「……異論はない」
メガレックウザが力を取り戻した事は誰の目にも明らかだ。この状況でメガレックウザを放置するなどという選択をする程、ジンもアメジオも愚かではない。だが、ここに至ってはガラル鉱山の時の様に共闘するという選択肢も生まれなかった。自分の実力が六英雄にしてルシアスのパートナーであり単独でメガシンカまでしたメガレックウザ相手に通用するのか試したい気持ちが強く出ていた様だ。
「…………」
メガレックウザは言葉を発しなかった。だが、言わずともジンもアメジオもメガレックウザの言いたいことは伝わっていた。
次の一撃で勝負を付けよう。メガレックウザはそう物語っていると……
「分かっているさ。出し惜しみは無しだ」
ジンはポケットに手を入れ、中からテラスタルオーブを取り出し構えるとエネルギーを集中させ、ダークライの上空へと投げつけた。
「星々の様に輝け!『テラスタル』!」
テラスタルオーブはダークライの真上まで来るとエネルギーを解放し無数の結晶で包み込んで行く。結晶が砕けるとそこには体を結晶化し、頭上には不気味な笑みを浮かべる悪魔の顔を模した様な王冠が飾られたダークライが姿を現した。
「待たせて悪かったな……」
「どうでもいい。さっさと始めるぞ」
「…………」
ジンとダークライ、アメジオとゲノセクト、そしてメガレックウザは鋭い視線で睨みつけ合う。次の一撃が正真正銘、このバトルで使用する最後の一撃になる。ジン達だけでなくバトルを静観していたリコ達にもそれは理解できた様で、その場にいた者達全員に緊張が走る。いつ訪れるのかも分からないその瞬間を皆、静かに見守っていた。
そして、その時は唐突に訪れる。
「きりゅりりゅりしぃぃ!」
「『テラバースト』!」
「『テクノバスター』!」
誰が合図を出した訳でもなく、三者は同時に技を放った。
メガレックウザはその体に緑色のオーラを纏って愚直なまでに真っすぐに突き進んでくる。この時はまだジンも知らなかったが、これはレックウザの専用技で『ガリョウテンセイ』と呼ばれる技だ。
愚直に突き進むメガレックウザに対し、ダークライは頭上のテラスタルジュエルが砕けると、突き出した両腕から赤黒い竜巻状のエネルギーを発射した。そしてゲノセクトは背中の砲台を構えるとエネルギーを集中させ、ピンク色のエネルギーを撃ち出す。
メガレックウザ、ダークライ、ゲノセクト、彼らの最強の技は三者の中間にてぶつかり合い、激しい衝撃と爆発を引き起こした。衝撃により大地は大きく揺れ、爆発の際に発した煙は空を覆い中で何が起こっているのかも分からない。
「…………」
ジン達は煙が晴れるのを緊張した様子で待ち続けた。それから数十秒程、経過しただろうか。ようやく煙が徐々に晴れていき、メガレックウザ、ダークライ、ゲノセクトの3体が空に浮いていた。3体は共通して体中に傷と爆発の際の焦げ跡が至る所に確認できる。
「……ここまでだな」
3体の様子を見た瞬間にジンは気づいてしまった。彼らは例外なく今の一撃により、ダメージが限界ギリギリな上に全ての力を使い果たしてしまったのだと。最早、戦う力はなく宙に浮いているので限界の様だ。
「戻れダークライ」
ジンはモンスターボールを取り出すとダークライを回収する。アメジオもまたここが限界だと悟ったのか無言でゲノセクトをモンスターボールへと戻した。メガレックウザはダークライとゲノセクトがその場から消えると体をゆらゆらと揺らしながら徐々に高度を上げこの場から離れようとしていく。
「パ~ゴパゴ!」
そんなレックウザをテラパゴスは必死な様子で呼びかけた。レックウザは少しだけ動きを止め、テラパゴスに視線を送るが何も応える事無くその場から去っていく。
「あっ……」
去り行くレックウザをジン達は黙って見ていた。だが、レックウザのゲットを夢見るロイは思わずと言った様子で声を出し、その後を追おうと一歩踏み出そうとするが彼にはもう戦えるだけの体力があるポケモンはいない。その事実を思い出し、その場に足を止める。
「ジン……」
「悪いな。約束を守れなかったよ」
「ううん。謝らないで……凄いバトルだった!それにジンは負けてないよ!」
「だが、勝ってもない。いいとこ、引き分けだな」
今回の一件、あまりにも計算外の出来事が多かった。スピネルの罠に始まり、ブレイブアサギ号の損傷、アメジオのゲノセクト、レックウザの単独メガシンカなど様々だ。もしも何か一つでもなければ結果は変わっていたかもしれない。だが、今回、ジンは勝利を収めることが出来なかった。この事実は誰にも変えることは出来ない。
「アメジオ様!」
「よくぞご無事で!」
「当然だ。帰るぞ」
そこにジルとコニアがエアームドに乗って現れた。アメジオはそれに軽く応えるとモンスターボールを取り出し、アーマーガアを出した。
「アメジオ様……」
「……よろしいのですか?」
この状況でアーマーガアを出すという事は、ジルとコニアと共に撤退するという事を意味する。確かにゲノセクトはもう戦えないが、アメジオの手持ちにはまだ戦闘可能なポケモンが5体残っているのだ。撤退に踏み切るには早い気がしたのだろう。ジルとコニアは少々、遠慮した様子で訪ねて来る。
「勝負は預ける……次こそお前に勝ち、そして……そいつを奪う」
アメジオはジン、そしてテラパゴスに視線を向けそう宣言した。ジンとは既に何度もバトルをしているが、アメジオはその度に負け続けていた。だが、今回はレックウザの乱入があったとはいえ、引き分けにまで持ち込んでいるのだ。ジンに勝利しテラパゴスを奪う事も決して不可能ではないとアメジオは考えた。
「ははっ……やっぱり、最高だな。いいだろう。何時でも相手になってやるよ」
無論、ジンは負ける気など欠片もない。だが、アメジオはこの短期間で信じられない程に強くなり、新たにテラスタルとゲノセクトという強大な戦力をも手にし、完全に制御していた。これはジンにも予測できなかった展開だ。恐らく、次に会う頃には今よりも更に強くなっているだろう。
「お前はそれでいい……この先もそうあり続けろ。間違っても俺の予想に収まってしまう様なトレーナーになるなよ?」
「誰に物を言っている」
「その言葉をそっくりそのまま返すぞ」と視線で語ったアメジオはアーマーガアの背に乗り、その場を後にした。ジンはその様子をただ黙って見つめ次の再戦に備え、自分も更に強くなろうと決意するのだった。
「…………」
その背後ではリコが複雑そうな視線でジンを見ていた。ジンとアメジオの間には自分にはない特別な絆の様な物がある。無論、それは恋愛感情の類ではなくトレーナー同士のライバル関係によって生じたものだと理解もしていた。だが、自分では介入する事の出来ない絆を最愛の人が敵と結んでいるという事実にリコは並々ならぬ想いを抱くのだった。
***
アメジオが去ったのを見送った後、ジン達は逸れていた仲間達と合流すべく浜辺へと来ていた。いつの間にか時間が経っていた様で夕日が差し込み始めている
「あっ!」
「おーーい!」
夕焼け色に染まった海には至る所に破損が見られるブレイブアサギ号、そしてその近くにはマードック、ランドウ、オリオ、モリーの4人とポケモン達がおり、こちらの存在に気付くと手を振って無事だと教えて来る。
「皆!無事だったんだね!」
「正直、今回ばっかりは本当に駄目かと思ったよ……」
「あぁ、だけどサーナイトのお陰で助かった。ジン、サーナイト本当にありがとう」
「気にしないでくれ。最善の手を打っただけだよ。それより、船の方は?」
主人の命令を完遂させて傍へと戻って来たサーナイトの状態を確認する一方で、ジンは改めて不時着したブレイブアサギ号へと視線を送る。煙は既に消えている様だが、船体の損傷は激しく簡単に修理するのは難しいというのは素人目にも理解できた。
「大丈夫。時間はかかるかもしれないけど、私がちゃんと修理してパワーアップさせて蘇らせるから!」
大事な船が壊れ、気落ちしているのではと心配していたのだが、オリオはやる気に満ちていた。彼女の技術ならば宣言通り成し遂げてくれるだろう。
「そうなると今後の方針を決めないとな」
「あぁ、取り合えずオリオには船の修理に専念してもらう。パルデアでテラパゴスについて調べたい事もあったし、俺はそっちを当たってみようと思う」
「ポケモン達の世話は私がするよ」
「俺は料理……だけってのもなぁ……色々、入用だろうし資金稼ぎのバイトでも探すか?」
ブレイブアサギ号がなければ冒険の継続は困難だ。今は一旦、足を止めてでも修理に専念しその間にそれぞれが出来ることをやるのが最善と言えるだろう。メンバー達はそれぞれ自分に出来る事するべき事を考え始める。
「あの!」
そんな中、ここまで黙っていたリコ、そしてロイとドットまでもが何か決意をした様な表情をしながら手を上げる。
「ん?三人ともどうしたんだ?」
「フリード、ジン教えて。どうしたらテラスタル出来る様になるの?」
「テラスタル?なんだ?テラスタルを使える様になりたいのか?」
「うん!さっきのバトル!ソウブレイズもダークライも凄かった!僕達もあんなバトルがしてみたいんだ!」
「ふむ……」
リコ達にとって、テラスタルと言うのはフリードやジンが使いこなしている事もあり割と身近な存在だ。しかもメガシンカの様に特定のポケモンにしか使えないという制限もなく自分達にも使えると知っている。今回の件が決定的になった様だが、以前から少なからず憧れは抱いていたのだろう。
「レックウザには、まだあんな奥の手があった。今のままじゃ、きっと勝てない。だから、もっと強くなりたいんだ!」
「私もテラパゴスをラクアに連れて行く為に、もっと強くなりたい!」
「ぼ、僕も!見てるばかりじゃ嫌だ。リコとロイが追いかける世界の謎をもっと知りたい!その為にも強くならないと駄目なんだ!」
連携しレックウザにダメージを与えた時、自分達は強くなったと3人は感じていた。普段からジンの特訓を受けているのだ。それに間違はない。だが、ロイの夢でありラクアに行く為に必要な六英雄の1体である黒いレックウザには単独でのメガシンカ、『ガリョウテンセイ』という奥の手が存在した。その状態のレックウザと直接、バトルはしていないが、今の自分達で勝てるとは到底思えなかったのだ。
だからと言って、諦める様な事はしない。ここまでの旅での出会いやジンとの特訓を受け、彼らは確かな自信を持っていた。例え今は無理でも諦めず抗い続ければ、いつの日かきっとレックウザに届く日が来ると。その為に、もっと強くならねばならないのだ。
「なるほどな……よ~し!それならいい考えがあるぞ。さっきも言った様に俺達は船の修理にテラパゴスについて調べ事がある。その間、お前達3人はテラスタル修行だ!」
「修行?」
「それって何をすればいいの?意識を失うまでバトルを繰り返すとか?」
「安心しろ。そんなジンのスパルタ修行みたいな事じゃない。オレンジアカデミーでテラスタルの研修だ。詳細については……」
フリードがテラスタル修行について詳しく説明しようとすると、ぐぅぅぅという音によって中断させられる。何事かと思えばアチゲータ、そしてキャップまでも空腹のあまりお腹の虫が鳴いている様だ。
「そういや腹減ったな」
「買い出しに行ってピクニックと行くか!」
「賛成!ぱ~っとやろう!」
あれだけの事があったのだ。まずは腹を満たし体を休めてから話を再開する事が決定し、足を怪我したモリーを除いたフリード・マードック・オリオの3人が買い出しの為にハッコウシティに行く事となった。
「節約するんだよ!」
「今日くらい、いいじゃん!」
いつもの様にモリーが船の財政を気にして注意を促すが、3人はあまり真面目に聞いていない。これから船の修理などで出費が嵩むというのにこれでは先が思いやられる。そう感じたモリーはお目付け役にもう1人、買い出しに行かせようと考えた。
「はぁ……ジン、悪いんだけど、3人と一緒に買い出しに行って来てくれない?」
「断る」
「……え?」
「全員、無事で帰って来たんだ。約束通り、奴隷からは解放だろう?だから、その要望には応じられない」
確かに別れ際にモリーとした約束通り、ジンはリコ達を連れて全員で無事に帰還した。契約成立の為、今後、ジンがモリーの言う事を聞く必要性は皆無である。しかし、まさか断られるとは思っていなかったのだろう。モリーは驚いた様子でジンに視線を送る。
「それに、やらなきゃいけない事もあるしな」
ジンはそう言うと背中のショルダーバッグに手を入れると小型の医療用キットを取り出し、モリーへと近づいて行く。
「まずは、モリーの足の治療から始めようか?」
モリーの足は未だに捻挫をした時のままだ。あの状況では治療する事が出来なかったのは仕方がないが、いつまでも放置しておくはいい事ではない。その為、真っ先に治療を進める事が最重要事項だとジンは考えた。
「え?モリー怪我してるの?」
「あぁ、さっき船で足を捻挫させたみたいだ」
「い、いいよ別に!このくらいは自分で治せるから」
「だろうな。だけど、やりにくいだろう?この程度の怪我なら俺でも対処できるから、任せてくれ」
「ちょ、ちょっと!?」
抵抗も虚しく、ジンに捕まったモリーは近くの岩場に座らされる。怪我をしていると分かると残ったリコ達もモリーを逃がさない様に軽い包囲網を敷いた。
「はぁぁ……分かったよ。もう逃げないから」
「いいだろう。じゃあ、悪いんだがリコ、俺の代わりに買い物に付いて行って3人が買い込み過ぎない様に見張っておいてくれないか?その方がモリーも安心して治療に集中できるだろうしな」
「分かった!行ってくるね!」
「僕たちは?」
「そうだな……それじゃあ、ピクニックの準備を頼む。ランドウが道具の場所を知ってるはずだから、一緒に取りに行ってくれ」
「了解!ドット、行こう」
「分かった」
簡単な治療の為、手伝いは必要ないと判断しジンは残ったメンバー達をそれぞれに役割分担した。その結果、ここにはジンとモリーの2人だけが残ってしまう。
(な、なにこれ……)
「…………?」
2人きり、そうなった途端にモリーの心音は僅かに早くなり顔も少しだけ赤みを増して来た。モリーの変化にジンは疑問符を浮かべているが、今は治療が優先の為、気にしないことにした。
「モリー脱いでくれ」
「えぇっ!?」
「……そんなに驚く事か?タイツを脱がないと治療が出来ないんだが」
「えっ……あ、あぁ、そうだね!分かってる分かってる!」
勘違いから顔を真っ赤に染め上げたモリーはそれを誤魔化すかの様に慌てた様子で立ち上がり、ジンに背中を向けるとスカートに手を入れタイツを降ろした。岩に再び腰を掛けるとジンに向かって怪我をした足を伸ばす。
(……綺麗な足だな)
以前、海で水着姿になった時にも薄々感じていた事だがモリーの肌は白くその足はとても美しい。ジンは一瞬、治療の事を忘れその足に魅入られる様に無言で見つめてしまう。
「ふふっ……このエロガキ」
流石に視線が分かりやすすぎたのかモリーは、ニヤニヤした目つきでジンの事を見て来る。普段から色々と頼りになるが、それでもこういう所は歳相応なのだど知り、どこか面白がっている様子だ。
「……早速始めよう。他にもスケジュールが詰まってるからな」
ジンはこの言い合いでは勝ち目なしと判断し、即座に撤退……ではなく医療キットを開き治療行為に入った。幸い、見立て通り軽い捻挫である為、問題はなさそうだ。
「ふ~んスケジュールって?」
「向こうに送ったポケモン達の入れ替えと解放だよ。オダマキ博士が何かやらかす前にやっておきたい」
「やらかすって……その人ってポケモン博士でしょう?」
「それはそうなんだが……あの人は絶対に何かをやらかす。俺はそう確信しているんだ」
奇妙な信頼関係である。だが、オダマキ博士とはそう言う人なのだ。ジンとの初対面の時とて、ポチエナ達に追いかけ回されていたくらいであり、今までの付き合いに亘る言動からオダマキ博士と言う人物の人間性を知り尽くしたジンにはそう思う確かな確信があった。因みに後でジョシュウから知らされる事になるのだが、この時、オダマキ博士は珍しくジンから大量にポケモンが送られてきた為、興味本位でその中の1体のヤバチャのお茶を一気飲みしてしまい笑顔を浮かべながらも悶えている最中である。
「よしっ……こんなもんだな」
そんな話をしている内に治療は無事に成功した。怪我も小さくこの程度であれば数日間、安静にしていれば問題なく歩けるようになるだろう。
「ん……ジン。ありがとう」
「モリーには普段から世話になってるしな。これくらいは構わないよ」
「それもだけど……助けに来てくれた事、まだ礼を言ってなかったから」
「その事に関しては礼をする必要はないよ」
「な、なんで?」
「仲間が死にかけていたら助けに行くのは当然だ。逆の立場だったらモリーだって助けに来てくれるだろう?それなのに一々と、その事に礼をするのって何だか変じゃないか?」
「それは……そうかもしれないけど……」
「それに言ったろ?ポケモン達を必死になって守ろうとする君を見て、助けに来て良かったと思えたって……ポケモンドクターの本懐を文字通り命がけで果たそうとする女性を助けられなかったら、俺は生涯、自分を許すことが出来なかった」
「…………」
「改めて言うぞ。無事でいてくれて本当に良かった」
「っ……」
モリーはその瞬間、ジンの顔を直視することが出来ず、顔を背けてしまう。顔はマトマの実の様に赤く、心臓は『しんそく』の如きスピードで速くなり、最早、冷静に言葉を発すのも困難となっていた。
(やばい、やばい……)
本音を言えば直ぐにでもここから逃げ出したいと考えていたが、足の痛みからそうする事も出来ず、結局モリーはただ無言で時間が経つのを待つしか選択肢がなかった。
「……モリー?」
『ロトロトロト!ロトロトロト!』
「ん?誰だ?」
モリーの変化にジンも疑問を浮かべたが、その瞬間、ジンのスマホロトムが鳴り始めた。これで暫くは深く追及されることはない、そう感じたモリーは安堵のため息を漏らす。
「リコ?」
「っ!?」
まさか今の光景を見られていたのではないか。そう感じたモリーはビクッと肩を大きく揺らした。もっとも冷静に考えれば買い出しに出たリコが今の光景を見る事など不可能だと分かるのだが、モリーも相当追い詰められているのだろう。
「リコ?どうした?」
『ジン!モリーの治療終わった?』
「あぁ、今、終わった所だ」
『だったら、こっちに来て!フリード達がバーベキューにしようとか言い出して、高いお肉ばっかり買おうとしてるの!?』
「なんだって!?」
リコの報告を聞こえたモリーは先程までの様子が嘘の様に顔を真っ青にしている。これから色々と出費が嵩むというタイミングでそんなに散財されてしまえばライジングボルテッカーズの活動資金はまた底をついてしまうのは明白だ。最悪の場合、目の前のジンの貯金に縋るという、大人としては情けない事この上ない醜態を晒すことになる。
「リコ!頑張って止めて!今すぐにジンを向かわせるから!」
『わ、分かった!急いでね!って!あぁっ!会計は待って下さーーーい!』
リコはその言葉を最後に慌てた様子で通話を切ってしまう。最後の言葉から見て、リコが彼らを止めておける時間は然程長くはないだろう。
「ジン!急いで止めてきて!?」
「……はいはい。大人しく待っててくれよ」
「分かったから早く!」
モリーに急かされたジンは面倒くさそうな顔をしながらモンスターボールを取り出す。そのボールから出したボーマンダの背に乗るとリコからメッセージで送られてきた店へと向かって行くのだった。
「……はぁぁぁぁぁぁ」
ジンがいなくなると安堵したのかモリーは大きなため息をつく。
「これって……そういう事だよね」
誰に聞いた訳ではない。ただ、1人になった事で自分の中に新たに生まれてしまった気持ちを思わず口に出してしまった様だ。年下のしかも自分が妹の様に可愛がっている娘の恋人に……恋心を抱いてしまった。倫理的に考えても許される事ではない。そんな事は分かっているが、抱いてしまった気持ちに気付かないフリが出来る程、モリーは器用ではない。
「どうしろってのよ……」
モリーの呟きが浜辺に静かに響くが、正しい答えを示してくれる者は誰もいなかった。
***
『お前達をもってしても黒いレックウザの捕獲は失敗に終わったか……』
「申し訳御座いません」
エクスプローラーズの所有する基地の一つ、そこでは今、幹部が一堂に揃い組織のボスであるギベオンに今回の任務の報告を行っていた。
『……よい。六英雄を集めるのはライジングボルテッカーズとやらにさせておけ』
「んなっ!?」
「お待ちください!いま一度、今度こそは!」
ギベオンの決定を聞き、サンゴとオニキスは慌てた様子で再度、チャンスを与えてもらおうとする。だが、スピネルだけはギベオンの思惑に気付いた様で小さく笑みを浮かべた。
「ふっ……流石はギベオン様。テラパゴスがパワーを取り戻した時に奪えばいい。そうお考えですか?」
『あぁ……奴らには我々の為に働いてもらおう』
「……承知しました。では、我々は?」
『テラパゴスとあの娘、リコを監視せよ。そしてもう一つ……お前達の報告にあったダークライ使いの少年、ジンの行動に注意しろ』
「……彼もですか?」
リコとテラパゴスの監視、それはいい。いずれテラパゴスを奪う時に備え、監視するのは納得のいく答えだ。無論、ジンが脅威である事は既に幹部達全員の共通した認識だ。だが、なぜギベオンがジンを名指しにしてまで気にするのかその場にいた全員が興味を持った様だ。
『……念の為だ。彼に関して何か分かった事があれば報告を頼む』
理由は説明されなかったが、ギベオンの命は下った。多少の疑問はあっても異議を唱える者はおらず、彼らは頭を下げる。それと同時にアメジオとハンベル以外の幹部たちのホログラムは消え去った。
***
「再び、ラクアに……ラクリウムを我が手に……」
ピンク色の靄に包まれた部屋、様々な機器が置かれた部屋の中央の椅子にエクスプローラーズのボス、ギベオンは腰かけていた。そして、その傍には白いドーベルマンの様な姿をしたポケモン、色違いのジガルデの存在も確認できた。
「まだ、冒険は終わっていない。そうであろう?ルシアス……」
ギベオンは手元に置かれていた機器を操作し、空中にいくつかのホログラムを浮かび上がらせる。そこにはリコとテラパゴスの画像が幾つか、そしてジンとダークライがバトルを行っている画像までもがあった。
「……似ている」
戦いや危険を恐れない。いや、むしろそれらを楽しみ予想もつかない行動を取るその姿は、若い頃のギベオンに苦痛と屈辱を味わわせたとある人物に酷似していた。彼の脳裏を過るのは、その人間の本質を見透かすかの様な、冷徹な眼差し。
「いや、あり得ない筈だ」
その人物は既に死んでいる。その事は確かな情報筋からギベオンは確認した。故にギベオンが思い浮かべた人物とジンが同一人物ではないのは明らかだ。だが、ジンの姿を映像越しに見る度に嫌でもその人物の事が頭に浮かんで離れないのだ。ルシアスとは別の意味で因縁の相手となった、その名は───
「またしても……またしても貴様は私の前に立ちはだかるのか……スパーダ」
これで『テラパゴスのかがやき』は終了となります!お付き合いいただきありがとうございました。次回からは『テラスタルデビュー』編となります。
最後のスパーダという人物が何者か、ジンとの関係についてはいずれ、具体的にはキタカミの里のテラス池で明らかにしますので気長にお待ちください。
☆9
uni_xjさん、鴨凹さん
☆10
ナギニさん、火斗レアさん
高評価ありがとうございます。
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