ポケットモンスター 新たなる冒険   作:malco

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今回から、『テラスタルデビュー』編スタートです!


テラスタルデビュー
オレンジアカデミー


 

「……もう朝か」

 

 ビービービーというアラーム音により、目が覚めたジンはアラームを止めベッドから出る。軽く体を伸ばした後に着替えをすると早朝の為、他の住人達を起こさない様に出来るだけ静かに扉を開き部屋の外に出てリビングへと降りていく。

 

「やぁ、ジン君」

「っ!アレックスさん。おはようございます」

 

 時間が時間の為、まだ誰もいないだろうと思っていたのだが、リビング中央に置かれたテーブルでリコの父親のアレックスが一人でコーヒーを飲んでいた。

 

「おはよう。今日も早いね」

「アレックスさんこそ。また徹夜ですか?」

「あぁ、君から色々と面白いネタを提供してもらったからね。つい筆が乗ってしまったよ!」

「お役に立てたのは嬉しいですが、あまり無理しないでくださいね」

「あはは……昨日、リコとルッカにも同じことを注意されたよ。悪い癖だと分かっているんだが、なかなかやめられなくてね」

「朝食までまだ時間がありますよ。少し休まれたらどうですか?徹夜も偶にはいいと思いますが、やり過ぎると何かしらのミスに繋がるかもしれないですよ」

 

 ジンは今までにも徹夜のし過ぎでミスをする人を見た事がある。具体的には、オダマキ博士とか……オダマキ博士だ。普段から失敗の多い人ではあるが、徹夜明けの時は特に酷く、様々なミスを繰り返すのだ。今後も長い付き合いをしたいアレックスがオダマキ博士化するのは避けたい所である。

 

「……そうだね。忠告に従って少し休もうかな?ジン君は?また特訓かい?」

「えぇ、いよいよテラスタル研修ですからね。何をするのかは知りませんが備えておかないと」

 

 ブレイブアサギ号が損傷してから一週間程経過し、ジンは今、リコの家で世話になっている。船の修理の間、リコ達は本人の希望もありテラスタル研修を受ける事になったのだが、フリードが研修の申請を出した際にオレンジアカデミー側からジンもそれに同行する事を条件に出してきた。

 

 ジンはナンジャモの推薦があったとはいえ、かなり強引な形でテラスタルオーブを手に入れた身だ。相手側から返還を求められた場合は応じるしかない。無論、テラスタルオーブは貴重なアイテムでバトルの結果を左右する戦術の1つだ。ジンも手放したくはないというのが本音ではある。その為、必要があればリコ達と共に研修を受け直すつもりであった。その間の諸々の準備の為に宿を取ろうとしたのだが、その際にリコの強い希望もあり、ジンはリコの実家に居候させてもらっていたのだ。

 

「よしっ!行くか……」

 

 アレックスと別れ、家を出ると自主トレ前の軽い運動も兼ね、人に迷惑の掛からない海岸へと向かって走り始める。カイデンのさえずりや木々のざわめきをBGMにし気分よく走っているとパルデア地方のポケモン達とすれ違った。その中には見覚えるのある顔も確認できる。

 

「ブヒッ!?」

 

 初めてジンがパルデア地方に来た際にアレックスへの手土産を狙って襲って来たグルトンである。以前、ジュカインに一撃で倒された経験がある為か、ジンの顔を見るなり一目散に逃げて行った。以前、襲われはしたが被害が無かった為、特にグルトンを恨んではいない。襲ってこないのであれば敢えて追うことはせず海岸へ向かって再び、走り出す。

 

「ふぅ……着いたか」

 

 軽く息を整えるとジンはポケットからモンスターボールを取り出し、宙に投げる。空中で開いたモンスターボールから1体のポケモンが飛び出し着地と同時にくるっと一回転すると笑顔を浮かべながらジンに近づいてきた。

 

「ユキッ!」

 

 そのポケモンはゆきかさポケモンのユキワラシだ。このユキワラシは元々、ブレイブアサギ号に住み着いたポケモンの1体で、先日の件にて船が墜落しそうになった際にジンが一時的避難の為にゲットした内の1体である。あの後、落ち着いたタイミングでジンはオダマキ研究所に送ったポケモン達を順番に入れ替え約束通り解放したのだが、このユキワラシだけはそれを拒否したのだ。

 

「ユキキ~」

 

 どうにもあの救出劇でジンに対してかなりの好感を抱いてしまったらしい。最初はジンも戸惑ったが、図鑑で詳しく調べると戦闘経験の少なさからレベルは低めだったが、能力値は中々のものであった。氷タイプのポケモンを持っていないジンとしては思わぬ加入という事もあって、お試しという形で残留を決定したのだ。

 

(これが思ったよりも頑張るんだよな……)

 

 特訓についてこれない性格であれば改めて考え直そうと思っていたのだが、ユキワラシは意外と根性があった。ジンの限界ギリギリを行く様な特訓にも結局、最後まで付いてきて元々、弱かった為でもあるがこの1週間で急激にレベルが上昇している。ここまでの頑張りと成長を見せられては認めない訳には行かなかった。

 

「ユキワラシ」

「ユキィ?」

「お前にまだその気があるなら、正式に俺のポケモンにならないか?」

「ユキッ!」

 

 当然!とばかりにジャンプしながら喜ぶユキワラシ。その姿を見てジンは軽く微笑むと背中のショルダーバッグから、ユキワラシの為に用意していたある道具を取り出した。リコの家に住まわせて貰い始めた頃、テペンと連絡のやり取りをする過程で彼から購入した物の1つであった。

 

「だったら、まずはプレゼントだ」

 

 ジンが手に持っていたのは、青緑色に透き通っており、中心部にはトゲトゲのような模様がある不思議な石だった。初めて見る物に対して、ユキワラシは興味深げに見つめる。

 

「ユキ?」

「これは、『めざめいし』。特定のポケモンを進化させる事が出来る石だ」

「ユッキィ!?」

 

 ジンは続いてスマホロトムを取り出し、2体のポケモンの画像を表示させる。1体はがんめんポケモンのオニゴーリ、そしてもう1体はゆきぐにポケモンのユキメノコ、どちらもユキワラシの進化形のポケモンだ。

 

「性別的にお前は女性だからな。この『めざめいし』を使えば直ぐにでもユキメノコに進化することが出来る。だが、オニゴーリに進化したいなら多少、時間はかかるが地道にレベル上げしていけば、いずれはそっちに進化する事も可能だ。だから、どっちがいいのか……」

「ユキッ!」

「あっ……」

 

 どちらに進化したいのか聞こうとしたのだが、聞き終えるよりも早くユキワラシはジンの持っていた『めざめいし』を奪い取ってしまう。その必死な様子から見て、どうやら目の前のユキワラシからするとオニゴーリになるのは拒否感があるらしい。『めざめいし』を手にするとユキワラシの体は光に包まれ、進化が始まった。ユキワラシのシルエットは大きく変わっていき、数秒後に光は収まりその姿を現す。

 

「メノ~」

 

 ユキワラシは白い振袖を纏った雪女のような姿のユキメノコへと進化した。これにより種族値は大きく上昇している。まだ実戦に出すには早いが、もう少し経験を積ませ技を覚えさせれば戦力として期待できるだろう。

 

(……まぁ、ユキワラシ───ユキメノコ自身が望んでいるなら良いか)

 

 少し、思っていた形とは違うがユキメノコに進化したのはジンが望んでいた展開だ。ユキワラシが希望するならオニゴーリでも構わなかったが、氷・ゴーストという他では見られない珍しいタイプを持つユキメノコの方を育てて見たいと思っていたのである。

 

(ふむ……特性は『ゆきがくれ』か。まぁ、これは当然だな)

 

 ジンは早速、ロトム図鑑を開きユキメノコのデータの閲覧をし始める。予想通りの特性である事、そして進化した事で上昇した能力と新たに覚えた技など諸々のデータを即座に頭に叩き込んだ。

 

「それじゃあ、始めるぞ」

「メノッ!」

「いい返事だ。では、まず新しく覚えた技の威力の確認を行う。その後はひたすら実戦でのバトルを繰り返す。気合を入れて行くぞ!」

 

 その後、手持ちにいるポケモン達を浜辺に出し、ユキメノコとのバトルを行わせた。その際に分かった事だが、このユキメノコは、守りに関しては難があるが素早さはかなりの能力だった。どうやら、耐久面を落とした代わりに機動力を得た様である。

 

 何よりも今回は試せなかったが、『みちづれ』を始め『かげぶんしん』や『あやしいひかり』といったサブウェポンだけではなく、ユキワラシの頃から覚えてはいたが使う機会がなかったのか、『かなしばり』や『すりかえ』などの多彩且つトリッキーな技を使いこなす事こそが真骨頂だと捉えており、現状ではジンが望むレベルには至っていないが、戦略次第では格上さえも倒せる可能性を秘めていた。それがジンによる現段階でのユキメノコの評価である。

 

『ロトロトロト!ロトロトロト!』

「ん?もう時間か……」

 

 特訓前に事前に用意していたアラームが作動した。朝食を食べる時間なども考慮すればこの辺りで特訓を切り上げ、家に戻る必要がある。

 

「ユキメノコ、カビゴン、そこまでだ。そろそろ戻るぞ」

「メ、メノ~……」

「カンビィ」

 

 浜辺では連戦により体力の限界が近かったユキメノコはフラフラしながらも何とか宙に浮いているが、特訓が終わりと分かるとあからさまに嬉しそうな表情を浮かべている。それに対してカビゴンはまだまだ余裕を感じさせる。やはり戦闘経験の差は大きい様だ。

 

「お疲れさん。戻ってくれ」

 

 ユキメノコとカビゴンをそれぞれのモンスターボールへと回収すると、ジンは浜辺を出てリコの実家へと向けて走り始めた。

 

(ちょっと、急ぐか……)

 

 今日だけは万が一にも遅刻する訳には行かない。自分がトラブルに巻き込まれやすい体質であると理解しているジンは何か問題が発生する前に速やかに帰宅する事を決めると気持ちペースを上げ始めた。その甲斐あってか、珍しく何一つ問題は起こらずに無事に帰宅する事に成功する。

 

「あら?お帰りなさい」

 

 家に戻り、リビングへと入って行くとそこには朝食の準備をしているルッカの姿があった。因みにではあるが、ジンはこのルッカに少々、苦手意識を持っている。

 

「ルッカさん、おはようございます」

「…………」

「ルッカさん?」

「…………」

「はぁぁ……ただいま、お義母さん」

「はい!お帰りなさい!」

 

 この調子である。他人行儀は許さず、お義母さんと言わなければ返事すらしてくれない。どうにも彼女を前にすると、いつもは弄る側の筈のジンは弄られる側に変わってしまうのだ。

 

「直ぐにご飯できるから待っててね~」

 

 今にして思えば初めてパルデアに来た際、ルッカがフリードに『私はあなたとリコの交際をまだ認めていないわ』という伝言を残した辺りからずっと揶揄われていた様だ。そんな伝言を頼んだにも関わらず、本人はとっくにジン達の関係を認めていたようで、簡単に許可を出してもつまらないと遊んでいただけらしい。

 

(やれやれ……)

 

 そんな訳でルッカは悪い人ではないと理解しているし、人としても好感が持てる部類なのだが、どうにも苦手意識が拭えないのだ。

 

「ジン君。悪いんだけどお皿の用意をお願いしてもいいかしら?」

「分かりました」

 

 何もせずに待っているよりかはずっといい。そう考えたジンはルッカに言われた通りに朝食の手伝いを行っていく。そうこうしている内に時間は経ち、軽く仮眠を取って来たアレックスと久しぶりにセキエイ学園の制服を着たリコの4名で朝食を食べると、ジン・リコ・ルッカの3名は家を出て目的地を目指して歩き始めた。

 

「じゃ、ここで。リコ、頑張ってね」

「うん。お母さんも頑張って」

「ジン君も。リコの事お願いね」

「えぇ、任せてください」

 

 分かれ道に差し掛かり、ジン達とルッカはそこで別れた。リコからルッカは教師と聞いていたので、てっきりオレンジアカデミーの教師なのだと誤解していたが、ルッカは別の学校に所属しているらしい。ルッカと別れ、オレンジアカデミーのあるテーブルシティに向かってジンとリコは歩き始める。

 

「久しぶりに見たな。リコの制服姿」

「そうだね。久しぶりだけど、どうかな?変じゃない?」

「あぁ、よく似合ってるよ。もっちりした太ももが見れなくなったのは残念だけどな」

「も、もっちりしてないよ!?」

 

 ジンの視線がリコの太もも付近に集中するとリコは顔を真っ赤にし、必死にスカートを伸ばしてその視線を遮ろうとする。

 

「いやいや、前に膝枕してもらった時に思ったんだけど、以前よりもちょっとふっくらした感じがしたぞ。ここ数日、実家で楽してたからな。ちょっと太ったんじゃないか?」

「勘違い!絶対に勘違いだから!」

 

 などというイチャイチャと言う名のカップルの馬鹿な話をしながら歩いていると、正面にまるで城壁に囲まれた城の様な大きさを持ったパルデア地方最大の都市であるテーブルシティが見えて来た。

 

「この辺りだよな?」

「うん。その筈だけど……」

「おーい!2人共!」

 

 門をくぐり、街の中に入ったジン達はアプリで地図を確認しながら待ち合わせ場所に向かった。辺りを見回していると聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 

「おはよう!」

 

 声のした方に視線を向けるとそこには普段の服装ではなく、オレンジアカデミーの制服を着たロイとドットがこちらに手を振っていた。2人はこの近辺で宿を取っていた為、約1週間振りの再会である。

 

「ロイ、ドット!おはよう!」

「オレンジアカデミーの制服か?中々、似合ってるな」

「ありがとう!フリードにお願いして用意してもらったんだ」

「期間限定の研修なのに……こんなの窮屈だし、わざわざ用意しなくても……」

「ドットもすっごい似合ってるよ!」

「そ、そうかな……」

 

 いつもの様にドットは小声で不満を漏らしていたが、リコの嘘偽りのない真っすぐな意見を聞くと顔を少し赤く染め、視線を逸らしながらもまんざらでもない顔をしている。

 

「リコのはセキエイ学園の制服だよね?ジンは制服じゃないの?」

「あぁ、俺のはもう少し小さくてな」

 

 この数か月で背がかなり伸びてしまった為か以前まで着ていた制服はかなり小さくなってしまった。新しい物を注文しようとも考えたが、殆ど着る機会はない。アカデミー側からも私服での登校の許可を貰っている。それならば、わざわざ買い直すのも勿体ないと考えたのだ。

 

「パァ~ゴ」

「うわぁ!テラパゴス!?そこにいたの!?」

 

 久しぶりの再会で色々と話し込んでいるとリコが肩にかけていたバッグのチャックが開き、中からテラパゴスが顔を出した。

 

「これなら目立たないかなって思ってね」

「確かに……テラパゴスは注目されたら困る事になるし、いいアイディアだ」

 

 因みにこのバッグだが、ジンにより僅かに改良が施されていた。バッグの底にテラパゴスの前足と後ろ足を出す事の出来る穴が4つ空けられており、テラパゴスが単体で移動する事が出来る様にされている。

 

 その後、暫く談笑したジン達は街の中央にあるオレンジアカデミーへと繋がる階段を登り始めた。この階段は全部で150段を超える大きさで『地獄の階段』と呼ばれているらしい。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 案の定、スタミナのないドットは息を絶え絶えにしながら大粒の汗をかきながら必死に足を動かしている。確かに長い階段ではあるが、いくら何でも息切れを起こすには早すぎる。

 

「……体力がなさすぎるな。今度、俺と一緒にランニングでもしてみるか?」

「い、嫌だぁ……僕は体力勝負なんかしないクレバーに戦えるトレーナーになるんだぁ……」

「クレバーだろうが泥臭かろうがスタミナは必須だ。基礎を蔑ろにしたら勝てるバトルも勝てなくなる。そう思っておいた方がいいぞ」

 

 結局の所、どの様な勝負事であろうともスタミナは重要視される。ドットは確かに知識が深く思考力もあるが、策を練るまでに体力不足で負けたなどという状況は普通にあり得る展開だ。更に付け加えるならば、バトル中における集中力を持続させるという意味でもスタミナは必須と言えた。

 

(あまり強制はしたくないが、今度、何かしら理由付けてスタミナアップの特訓でもさせてみるか……それでも拒むなら、何時もの様にクイズ勝負の罰ゲームで受けさせればいいだけの事だし)

 

 ジンは長い階段を上っている途中、脳内で着々とドット改造計画について構想を固めていく。階段を一段一段必死に上っているドットはその事に気づく事はなかった。

 

 

 

***

 

 

 

 ジン達はテラスタル研修を受ける為、まず最初にこのオレンジアカデミーの校長室へと挨拶をしに来ていた。

 

「「「「よろしくお願いします」」」」

 

 校長室には現在、ジン達以外に2名の人物がいる。1人はオレンジ色のスーツを着た白髪の老人、そしてもう1人はボリュームのある特徴的な髪型をした褐色肌の女性だ。

 

「私がオレンジアカデミー校長のクラベルです。そして、こちらは理事長の……」

「オモダカです。よろしくお願いします」

 

 老人の方は校長のクラベル、そして女性の方は理事長であり、このパルデア地方のトップチャンピオンでもあるオモダカだ。軽く挨拶を済ませると、ジンは無意識の内にクラベル、オモダカを観察する。双方ともに佇まいから見て並みのトレーナーではないのは確かだ。機会があるならば、是非とも1度手合わせ願いたい相手である。

 

「では、早速テラスタル研修の説明を」

 

 クラベルに促されオモダカはリモコンを操作し、校長室にあったテレビの電源を入れた。すると画面にはテラスタル研修用の映像が流れ始める。

 

「我が校のバトル学の1つ。テラスタル専門のカリキュラムです。パルデア地方特有の現象、テラスタルを習得する為、様々な地方からも研修を受けに来るトレーナーがいます」

「『テラスタル』とはポケモンが宝石の様にキラキラと光り輝く現象です。様々なポケモンがテラスタル化し特別な力を手に入れることが出来ます。またこのパルデアでは野生のポケモンが単独でテラスタルする事例も幾つか見られています」 

 

 画面には、水テラスタルしたプリンや炎テラスタルしたヤヤコマなどの画像が映し出された。様々なタイプになれる事は既に知っていた事だが、野生のポケモンまでテラスタル可能というのは初耳である。

 

「『テラスタル』の原因はパルデア地方の地中からにじみ出るテラスタルエネルギーが関係していると言われています」

 

 地中から生えている結晶、これはリコの実家の付近でもいくつか発見していた。この地方、特有の物なのだろうと深くは考えていなかったが、テラスタルに大きな影響を与えているらしい。

 

「詳しくは……分かっていない事も多いです。そこでポケモン博士たちがその謎を研究しています」

 

(興味深いな……)

 

 謎が多いと思うとそれだけ燃えてくるのが研究という分野だ。ジンだけでなくドットにもそう言った面がある。彼ら2人はテラスタルと言う現象に益々、興味が出てきた様だ。

 

「そんなテラスタル現象をトレーナーが自分のポケモンに発現させることが出来ます。その為に重要なのが、このテラスタルオーブです」

 

 オモダカの3つのテラスタルオーブを取り出すと、それをトレーに乗せリコ達へと近づいてきた。

 

「ただ、このオーブはパルデアで認められたポケモントレーナーのみが持つ事を許されます。これを貴方達に預けましょう。大切に扱ってくださいね」

「「「はい!」」」

 

 リコ、ロイ、ドットの3人は元気よく返事をするとそれぞれテラスタルオーブを手に取る。秘かに憧れていたテラスタルの為に必要な道具を手にした事で純粋に喜んでいる様だ。しかし、ジンにとって本題はここからである。リコ達にテラスタルオーブを渡すだけであれば、ジンが付き添いで来る必要はなかった。わざわざ名指しで呼びつけた以上、何らかの理由がある筈だ。

 

「さて、ジンさん」

「……はい」

「先程も説明した様にテラスタルオーブはパルデアで認められたトレーナーだけが持つ事を許された特別な物です。ナンジャモさんの推薦で貴方にはテラスタルオーブを特別に支給致しましたが、本来では有り得ない異例中の異例であるという事をご理解ください」

「……でしょうね。今、俺が持っているテラスタルオーブは元々、あなた方の物だ。返却しろと仰るのでしたら、従いますよ」

 

 それはある程度、覚悟していた事だ。そうなった場合、ジンもリコ達と共にテラスタル研修を一から受け直すつもりでここに来ている。研修内容は不明だが、ポケモンに関する事であればバトルでも座学でも望む所である。

 

「ふふっ……誤解なさらないでください。私、個人としても貴方ほどのトレーナーであればテラスタルオーブを持つ資格はあると思っています。それに……実は貴方にテラスタルオーブを支給する事を許可したのは、この私です」

「えっ……そうだったんですか?」

「えぇ、ナンジャモさんとのフルバトルは私も見ていましたから。貴方にテラスタルオーブを支給する事に反対する者もいましたが……私とナンジャモさんの説得で最終的には全員が賛成してくれたんですよ」

 

(……嫌な予感がする)

 

 どうにも恩着せがましい言い回しだった。無論、事実であるなら感謝する必要はあるのだが、こうもあからさまな言い方をされては思わず、警戒を強くしてしまう。何か裏があるのではないか、そう勘ぐってしまうのは仕方がないだろう。

 

「ですが……まだ完全には納得してい者がいるのも事実。そこでジンさんにお願いしたい事があるのです」

 

 オモダカの発言を聞いたジンは内心で身構えていた。ここまでの彼女の話は、恐らく今から、告げるお願いを聞いてもらう為の前置きと言ったところだろう。

 

 この展開を先に作られてしまっては、ジンはその頼みを断ることが出来ない。即ち、デメリットを告げた直後にメリットを提示して相手側の外堀を埋めつつも、自分達の条件を相手に承諾させる空間を構築するというケースであった。今までの経験上から、ジンも様々な切れ者との駆け引きや交渉を繰り広げて来たが、オモダカの強かな手腕にはジンとしても称賛する他ない。

 

「……何でしょうか?」

「そう身構えないでください。大した事ではありません……ジンさん、今から貴方にあるトレーナーとフルバトルを行って頂きたいのです」

「フルバトル……ですか?それは、勿論、構いませんが……」

 

 確かに大した頼み事ではない。まだ出会って数分程度だが、なんとなくこのトップチャンピオンに借りを作りっぱなしにしておくは得策ではない気がしていた。むしろ、ジンの得意分野であるバトルで借りを清算出来るというのであれば有難い事だ。

 

「それで、その相手と言うのは?……まさか、オモダカさんですか?」

「いえ……私はそれでも良かったのですが、今回は別の人物とバトルしてもらいます。既にここに呼んでいるので、暫しお待ちいただけますか?」

 

 それから、数分としない内に校長室の扉がノックされる音がした。待っていた人物が来たのかと思い、全員の視線が扉に集まる。扉が開き、入ってきたのはジン達が知っている人物だった。

 

「ネモ!?」

「ジン!?それに、リコとロイも!」

 

 扉から入ってきたのは、以前、ボウルタウンでジンとバトルしたパルデア地方のチャンピオンクラスのトレーナーのネモである。

 

「ネモ!」

「お久しぶりです!」

「久しぶり!」

「ネモ……チャンピオンランクの……本物だ」

 

 ボウルタウン以来の久しぶりの再会である。リコとロイも嬉しそうにネモに話しかけ、それとは対照的に唯一、初めて会うドットはどこか緊張した様子でネモを見ている。以前、ハッコウシティでネモのファンというのが存在した事から分かっていた事ではあるが、このパルデアではチャンピオンランクに属するトレーナーは、どこか特別な存在の様だ。

 

「あれ?ちょっと、待って。このタイミングでネモが来たって事は……」

「もしかして、ジンの相手って……ネモ!?」

 

 確かにオモダカからの申し出があったこのタイミングでの登場だ。ネモの性格上、リベンジも兼ねてジンとのフルバトルを望む筈。そう考えるのが自然と言えるだろう。

 

 だが……

 

「ん?何の事?」

「えっ?違うの?」

「う、うん。私はトップに頼まれて、この人の案内に来たんだけど……」

 

 そう言ってネモは後ろを振り返る。ネモが衝撃過ぎて気づかなかったが、彼女と一緒にもう1人、別の人物が校長室へと入って来ていた様だ。

 

「……ご期待に沿えず申し訳ありません。ジンさん、貴方のバトルの相手を務める事になりました。チャンプルジムのジムリーダーアオキと申します」

 

 その人物は痩せ気味なサラリーマンの様な風貌をしており、顔はやつれて猫背気味、さらには目にハイライトが宿っていない感じもあり、いかにも苦労人と言った印象を感じさせる。

 

(この人が?)

 

(ジンの相手?)

 

 ネモと比べれば、遥かに弱そう。それがリコ達のアオキに対する第一印象だ。ジムリーダーである以上、弱くはないのだろうが、どこか影が薄くこの人でジンの相手が務まるのかという疑問の方が先に湧いてきたらしい。

 

(ふむ……)

 

 しかし、ジンのアオキに対する評価は2人とは少し違った。言葉で上手く表現する事は難しいのだが、このアオキからは底知れぬ力を感じさせる。今までそれなりに多くのジムリーダーとバトルしてきたが、実力を測れない不気味さで言えばこのアオキが一番かもしれない。

 

「初めまして、ジンです。今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ、お手柔らかにお願い致します」

「ちょーーっと待ったぁ!なになに!?ジンってばアオキさんとバトルするの!?」

 

 ジン達の会話を聞き、ネモは漸く状況を理解したらしい。ジンとアオキがフルバトルを行う。そう聞いては黙って見ているつもりはない様だ。

 

「バトルするなら私とでしょう!この間の約束もあるんだから!」

「いや、俺もそれは望む所なんだが……今回はオモダカさんからのオーダーだからな」

「自分も上司の命令に従っているだけですので……社会人は上からの指示に従わざるを得ません」

 

 今回のバトルの決定権はジンにもアオキにも存在しない。このバトルを取り決めたのはトップであるオモダカなのだ。例え、ジンとアオキが了承したとしてもネモと交代する事は難しい。

 

「うぅぅぅ……トップゥ……」

「はぁ……生徒会長、そんな目で見ないで今回は大人しくアオキに譲ってください」

「で、でもぉ……」

 

 ジンとのフルバトルは以前から、彼女が願っていた事だ。その為か、普段と違いなかなか引き下がる様子を見せない。

 

「……リコ達のテラスタル研修の付き添いで暫くこっちにいるつもりだ。タイミングさえ合えば、どこかでバトルしても俺は構わないぞ」

「本当に!?約束だよ!嘘ついたらハリーセンの毒針飲み込んでもらうからね!」

「恐ろしい罰だな……分かったよ。約束するから」

 

 ジンは改めてネモとのフルバトルの約束をする。今まで、悲しそうにしていたネモは目を輝かせて本当に嬉しそうにしていた。自分よりも年上の筈だが、ここまで素直に自分の感情に従っている姿を見せられジンは自然と頬が緩んでいく。

 

「……そろそろよろしいでしょうか?」

「あっ……申し訳ありません。それで、バトルはどちらで行えばいいんでしょうか?」

「このアカデミーのグラウンドにシンプルなバトルフィールドがあります。既に予約を入れて確保してあるのでそこでお願いします」

 

 どうやらジンがバトルを受ける前提で彼らは色々と準備を進めていたらしい。ここに招かれた時点で、どうやらこうなる運命は避けられなかった様だ。

 

「分かりました……申し訳ありませんが、その前に少々、お時間を頂いても宜しいでしょうか?」

 

 今、ジンの手持ちにはゲットしたばかりのユキメノコがいる。この底知れない雰囲気のあるアオキとフルバトルで使用するには少々、不安があった。アオキの手持ちの構成などが分からない以上、ある程度は賭けになるがバトルの組み立てがしやすいように手持ちの入れ替えは行っておきたい所だ。

 

「…………」

 

 ジンの申し出を受け、アオキは自分の上司であるオモダカに視線を向けた。オモダカもアオキの意図を察した様で頷く事で了承する。

 

「分かりました。では、自分は先にバトルフィールドで待っています。準備が出来次第、来てください」

「ありがとうございます」

 

 アオキはそう言い残すと一足先に校長室から出て、グラウンドにあるバトルフィールドへと向かって行った。

 

「ジンとアオキさんのバトルか……これは見逃せないね!そうだ!私が審判やっていい?特等席からバトルを見学させてよ!」

「ん?俺は別にいいけど」

「やった!決まりだね!じゃあ、私もグラウンドで準備を……」

「その前に……ネモさん。ジンさん達のバトルの準備が出来るまでの間、リコさん達に我が校を案内をお願いします」

「それと今回のバトルは私が取り付けた物ですので、責任を持って審判は私が務めます」

「がくっ……はぁい」

 

 その後、ネモも含め全員がバトルの見学を強く希望した為、バトルの準備が出来次第、連絡をジンから入れる事を約束するとリコ達は、オレンジアカデミーの見学へと向かった。

 

(さてと……どいつにするかな?)

 

 一旦、校長室を出て1階のエントランスにまで降りるとスマホロトムを開き手持ちのポケモンとオダマキ博士に預けたポケモン達を確認する。古参のメンバーであれば、恐らく勝つ事は出来る。だが、貴重なジムリーダーとの本気のフルバトルだ。以前のナンジャモ戦の様に古参メンバーだけで固定して戦ってしまうのはあまりに勿体ない。

 

 ガラル地方でカブとのバトルを経験した事でハッサムやコノヨザルは大きく成長した。ジムリーダーとのバトルとはそうした貴重な経験値を得ることが出来るチャンスなのだ。この機会を物にし大きく成長させた上でバトルに勝つ為の選出が今、最も重要視される。

 

(…………よし。決めた)

 

 その後、ポケモンを入れ替えたジンはリコにメールを1本入れ、バトルの準備が出来たことを知らせるとアオキの待つバトルフィールドへと向かうのだった。

 





ユキメノコのゲット、アオキとのフルバトルとオリジナル展開を組み込んでみました。

なぜ、オモダカがジンとアオキがバトルする様に仕向けたのか。詳しい理由は、バトル終了後に明かそうと思います。

☆9
空色のカメレオンさん、神撃のカツウォヌス

☆10
鬼龍さん

高評価ありがとうございます

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