ポケットモンスター 新たなる冒険   作:malco

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お待たせしました!フルバトルって本当に大変でw


VSアオキpart2

 

 オモダカの提案により始まったジムリーダー兼四天王であるアオキとのフルバトル、序盤戦を終えジンはドラピオンをアオキはケンタロスとムクホークを失った。ポケモンの数、そしてフィールドの状態などを考慮するとジンの方が有利に立ったと言えるだろう。

 

「では、両者次のポケモンを出してください」

 

 審判でもあるオモダカの指示に従い、ジンとアオキはそれぞれモンスターボールを取り出しフィールドへと投げる。

 

「ハッ!」

「チルッ!」

 

 ジンは再び最初に出したハッサムを投入した。それに対しアオキが出したのは青い体に綿雲の様な翼を生やしたハミングポケモンのチルタリスだ。

 

「チルタリス……」

 

 チルタリスはドラゴン・飛行タイプのポケモンである。ここまでの選出から見てアオキがノーマルタイプの使い手だと予想していたジンは意外なポケモンの登場に僅かに驚いた様子を見せる。

 

「……言い忘れていました。自分、ジムリーダーの時はノーマルタイプを使用しますが、四天王としてバトルする際には飛行タイプを使用しています」

「それは……初見では驚きそうですね」

 

 つまりジム戦を乗り超えて四天王としてのアオキとバトルする際、ジム戦と同じ感覚で不用意にノーマル対策として格闘タイプを連れて行けば飛行タイプの餌食になるという事である。絶妙に嫌らしい戦法だ。

 

「上からの指示ですので。文句がある場合は上司の方にお願いします」

 

 アオキはそう言うと一瞬だけオモダカに視線を向ける。

 

「…………」

 

 オモダカはなんとも微妙そうな顔つきだ。その様に指示を出したのは紛れもなく彼女の為、アオキの言葉に反発する事は出来ないのだろう。しかし、まさか上司が目の前にいるにも関わらず堂々と、文句は上司に言えと言うのは中々に豪胆である。

 

(面白いなこの人)

 

 恐らくではあるが、このアオキはやる気があるのかと問われればやる気はないと答え、説教をされている最中にうっかり寝てしまう様なタイプであろうとジンは推測する。普通の凡庸なサラリーマンが同じことをすれば色々と問題になるのだろうが、非凡であるが故にアオキはギリギリで許されているのだろう。

 

(しかし、読みが外れたな……)

 

 ノーマルタイプが来ると思い、流れに乗って攻め込もうと思っていたのだが相手が飛行タイプとなると接近戦主体のハッサムでは少々、戦いにくいのは事実だ。

 

 しかし、今回のジンの手持ちは、ハッサムとドラピオン以外だとカビゴン・ガオガエン・ダークライ・ジュカインである。保険として手持ちに残したが、ダークライとジュカインはギリギリまで使わないつもりである為、実質残りはハッサム・カビゴン・ガオガエンだ。あまり飛行タイプに有利なメンバーとは言えない。

 

(……取り合えず、やってみるか)

 

 相手が飛行タイプの使い手だと分かっていれば、初陣ではあるがユキメノコを連れて来るのも選択肢としてはありだった。しかし、今更ポケモンを変える事も出来ないのだ。今いるメンバーで何とか勝ちに行くしかない。

 

「チルタリス『かえんほうしゃ』」

「『つるぎのまい』だ!」

 

 チルタリスは空中から『かえんほうしゃ』で口から炎を放つ。炎は真っすぐにハッサムに向かって行くが、焦りはない。ハッサムは『つるぎのまい』の回転を利用しそのまま炎を彼方へと受け流した。

 

「それは効きませんよ」

「それはどうでしょう?チルタリス、そのままハッサムの真上まで移動です」

 

 チルタリスは『かえんほうしゃ』を放ちながら空中での移動を開始した。向かう先はハッサムの頭上である。

 

「っ!?ハッサム!今すぐその場から離脱しろ!」

 

 アオキの狙いが瞬時に分かったジンはそう指示を出すが、『かえんほうしゃ』を受け流す為に回転に集中しているハッサムはその場から動くことが出来ない。そうしている内にハッサムの頭上にまで到着したチルタリスはそのまま『かえんほうしゃ』を放ち続ける。

 

 実はこの『つるぎのまい』での技の受け流し方法には幾つかの弱点があるのだ。

 

 1つはストライクだった頃にジンが使用した、足場のない空中で使用させる方法だ。この技を使用するには安定した足場が必要であり、それがない空中では回転が弱くなってしまい完全には受け流せなくなる。ジンは嘗てこの方法を使用しストライクを倒しゲットした。

 

 そしてもう1つの攻略方法、それは上空もしくは地下からの攻撃である。『つるぎのまい』による回転はあくまでも前後左右からの攻撃にしか対応できない。その為、『じしん』などの地下からの技やチルタリスがやろうとしている様な真上からの攻撃は受け流すことが出来ないのだ。

 

「ハッ!?」

 

 ここまで『かえんほうしゃ』を受け流し続けていたが、今回の炎は受け流す事が出来ずハッサムは四倍弱点である炎タイプの技が直撃してしまう。

 

「やってくれる……」

 

 まだ数回しか見せていないにも関わらず、アオキは見事に『つるぎのまい』による回避方法の弱点に気が付き対応して見せたのだ。やる気がない様な態度を取っているが、事前に見せられたというジンのバトルの映像などを研究しこの弱点を発見したのだろう。これに関しては素直に称賛の言葉を贈る他ない。

 

「ハッ……ハッ……ハッサァ!」

 

 ハッサムはなんとか立ち上がるが、唯一の弱点である炎技を受けた影響でかなりのダメージが入っていた。しかし、もう一度同じ技を受ければ次は恐らく耐えられないだろう。

 

(ハッサムの残りの体力的に長期戦はきついか……ならば短期決戦で勝負を付けるしかない!)

 

「チルタリス。もう一度『かえんほうしゃ』です」

「『かげぶんしん』で回避しろ!そしてそのまま『こうそくいどう』だ!」

 

 迫りくる『かえんほうしゃ』に対しハッサムはフィールド内に3体の分身体を作り出す。その内の1体を犠牲にする事で炎を回避した。その後、ハッサムは分身を含め一斉に翼を広げるとその場から上空にいるチルタリス目掛けて飛び出して行く。

 

 チルタリスも『かえんほうしゃ』で応戦するが、ハッサムと分身体はそれをギリギリの所で回避し続けそのまま、それぞれがチルタリスの左右、そして上空へと移動し三か所からの同時攻撃を仕掛け始める。

 

「……『ダブルウイング』です」

 

 チルタリスには3体に同時に攻撃を仕掛ける事は出来ない。その為、アオキは嫌でもこの場で賭けに出るしかなかった。チルタリスは両翼を広げ左右から接近してくるハッサムに翼をぶつけるが、手ごたえは薄くその2体は攻撃を受けるのと同時に姿を消していく。そうなると必然として本体がどこにいるのかは明らかだ。

 

「『たたきつける』!」

 

 上空から落下してきた本体のハッサムはチルタリスに自慢の鋏に全ての力を込めて叩き落した。元々の威力に重力もプラスされチルタリスはそのままフィールドへと落とされ、『どくびし』の効果で体中に毒が回っていく。

 

「ち、チルゥ……」

 

 『つるぎのまい』を複数回使用していた事もあり、ハッサムの攻撃力はかなりの物だ。それをまともに受けた上に毒の状態にまでなってしまったのだ。チルタリスの限界は近い。

 

「とどめだ!『バレットパンチ』!」

 

 ハッサムは鋏を強く握りしめ、そのまま空中からフィールドにいるチルタリスに向かってまるで落下しているかの様な勢いで突き進んでいく。それに対してチルタリスはダメージと毒の影響で体を動かす事ができないのか反撃する素振りも見せない。

 

「反撃は無理そうですね。ならば、次に繋げるとしましょう。『きりばらい』です」

 

 チルタリスは残りの力を振り絞り、両翼を懸命に羽ばたかせる。そうしている間にも上空からハッサムの『バレットパンチ』が炸裂し、チルタリスは悲鳴を上げるとそのまま意識を失いその場で倒れていくのだった。

 

「チルタリス戦闘不能!」

 

 チルタリスは戦闘不能に追い込むことが出来た。しかし、『きりばらい』の発動を止めることは出来ず、今のバトルでハッサムはかなりのダメージを負っており、これ以上のバトルはかなり危険と言わざるを得ない。状況を見れば勝利と言うよりも痛み分けと言ってもいいだろう。

 

(最後の最後に嫌な技を……)

 

 『きりばらい』、その効果によりドラピオンが設置した『どくびし』は全て吹き飛ばされてしまった。これでは残り3体のポケモンを状態異常にするのはかなり難しくなった。後半戦、立て直しを狙うアオキにとってそれだけもかなり有難い筈だ。

 

「ご苦労様です」

 

 アオキはチルタリスをモンスターボールに回収すると新たなモンスターボールをフィールドへと投げた。そこから現れたのは、レモンイエローの体色と翼、そしてその先端に黄色いボンボンのような綿毛を付けたポケモンだ。

 

「オドリドリお願いします」

 

 アオキの5体目のポケモンはダンスポケモンのオドリドリだ。踊りが生態の中核を成している鳥ポケモンであり、4種類のスタイルが存在する。アオキのオドリドリはその中でぱちぱちスタイルに分類され、人懐こい陽気な性格をしており、落ち込んでいるトレーナーやポケモンを見るとダンスで元気づけようとするのが特徴だ。

 

「ドリ!ドリィ!」

「……オドリドリ、私は元気なので大丈夫です」

「ドリ?」

 

 オドリドリはボールから出るのと同時にアオキに対して必死にエールを送り始める。どうやらアオキの思いとは関係なくオドリドリには、アオキが酷く落ち込んでいる様に見えたらしい。その様子を見たジンと審判のオモダカは一瞬だけ顔を逸らし、クスっと笑ってしまう。

 

「戻れハッサム」

 

 どちらにしろ、ハッサムは既に限界が近い。この先のバトルで使用するにしても少しでも休ませておくのが賢明だ。ジンはハッサムを回収し新たなポケモンをフィールドへと出す。

 

「行け!カビゴン!」

 

 ジンが3体目のポケモンとして出したのカビゴンだ。ガラル地方でゲットして以来、ジンの過酷を通り越した苛烈な訓練で経験は十分に積んでいるが、公式のバトルではこれが初陣となる。

 

「『めざめるダンス』です」

「ガードを固めろ。『ドわすれ』だ」

 

 オドリドリは羽の先端にあるボンボンのような綿毛をこすり合わせ、電気を発生させるとそれをカビゴンに向けて放つ。カビゴンは両腕を胸の前で組み、『ドわすれ』で特防を上げると正面から受け止めに掛かる。

 

「カンビィ!」

 

 カビゴンの体を電気が包み込んで行くが、元々高い体力と強化された特防により殆どダメージを負うことなく、『めざめるダンス』を耐えきる事に成功した。

 

「『はらだいこ』!」

 

 続いてカビゴンは電気が収まると、大きなお腹を両手で叩き始めた。元々、カビゴンが通常よりも巨大なサイズという事もあってか、お腹を叩く度に小さな振動がフィールドへと響いて行く。この技により体力は半分にまで落ちたが、攻撃を最大にまで上げることが出来た。しかし、体力が元から多いカビゴンにはこれでも十分、余裕がある。

 

「『エアスラッシュ』です」

「突っ込め!『アームハンマー』!」

 

 オドリドリは翼を羽ばたかせ、三日月型の空気の刃を幾つも放つ。しかし、カビゴンは右腕を白く光らせると迫りくる空気の刃を全て薙ぎ払い、そのままオドリドリへと向かって突き進んでいく。

 

「空中に飛んで回避です」

 

 カビゴンを止める事が出来ないと判断したアオキは空へと活路を見い出し、オドリドリに飛ぶように指示を出す。オドリドリは間一髪のタイミングで飛び立つ事に成功し『アームハンマー』を回避した。だが、それはジンにとって狙い通りの展開である。

 

「そう来ると思っていた。行け!カビゴン!」

 

 カビゴンはその場で軽く屈むと両足に力を込め、大きくジャンプする。そのジャンプ力と勢いは凄まじく、あっという間にオドリドリが逃げ去った高さにまで追いついてしまった。

 

「ドリッ!?」

「なっ!?」

 

 オドリドリだけではないこのバトルが始まって以来、初めてアオキが驚愕した声を上げる。しかし、それも無理からぬ事だ。本来、カビゴンは動きも遅くその体重故にジャンプ力も大したことがないというのが一般的な考えである。しかし、ジンのカビゴンはその常識を逸脱する程のジャンプ力で飛行タイプのオドリドリと同じ高さにまで飛び上がったのだ。

 

「くっ!『エアスラッシュ』です」

「『れいとうパンチ』!」

 

 オドリドリは咄嗟に空気の刃を放つが、カビゴンはそれに対して防御する姿勢も見せず全て受けきると冷気を纏った拳を振りかぶりオドリドリに叩き込んだ。オドリドリはそのパワーに負けてしまい、そのまま勢いよくフィールドに叩きつけられる。その影響で激しい衝撃音と砂煙がフィールドを包み込んだ。

 

「ど、ドリィ~……」

「オドリドリ!戦闘不能!」

 

 砂煙が晴れていくとその中央ではオドリドリが目を回して、倒れていた。それを確認したオモダカは戦闘法と判断しオドリドリの敗北を宣言する。

 

「……オドリドリ、お疲れ様です」

 

 オドリドリを回収するアオキを見てジンも同じ様に一旦、カビゴンをモンスターボールに戻した。余力はまだあるが、『はらだいこ』の使用と至近距離からの『エアスラッシュ』を受けカビゴンも体力をかなり減らしている。状況に合わせて動けるように今の内に少しでも休ませておこうと考えた様だ。

 

「行けガオガエン!」

「ノココッチ、もう一度お願いします」

 

 ジンが次に出したのはガオガエン、そしてアオキは初戦に出したノココッチだ。ノココッチはハッサムとのバトルで少々ダメージを負ってはいるが、戦闘には支障がないレベルである。初陣のガオガエンが挑むには最適な相手と言えるだろう。

 

「ガオォォォ!」

「の、ノコォッ……」

 

 ガオガエンはフィールドに降り立つと気合の入った叫び声を上げ、ノココッチを睨みつける。特性の『いかく』、そして特訓中の負けが連続していたイラつきを全てぶつけた為か、ノココッチはその気迫に負けて怯んだ様子を見せる。

 

「行くぞ!『DDラリアット』!」

「『ハイパードリル』です」

 

 2体のポケモン達はそれぞれその場で高速で回転を開始し、そのまま真っすぐ互いに向かって突き進んで行く。フィールドの中央で両者はまるで独楽の様にぶつかり合い、衝撃音と振動を発生させる。

 

「ガオガァァァァッ!」

 

 互角に見えたぶつかり合いだが、『いかく』の効果が効いていた様だ。ノココッチの『ハイパードリル』はガオガエンの『DDラリアット』に押し負け、後方へと吹き飛ばされていく。

 

「『かえんほうしゃ』!」

「『いわなだれ』を正面に展開してください」

 

 ガオガエンは腰の炎のベルトの中央から『かえんほうしゃ』を放つ。しかし、ノココッチは自分の目の前に大量の岩を発生させ、迫って来た炎を全て遮ると尻尾を高く上げ反撃の準備にかかり始める。

 

「『じしん』です」

 

 ノココッチは高く上げた尻尾を地面に叩きつけ巨大な振動を発生させた。その振動により、ノココッチの正面にあった大量の岩は全て破壊され振動と共に小さな岩の破片が次々とガオガエンに襲い掛かって来る。『じしん』と『ストーンエッジ』を同時に使用したのではないかと錯覚させる見事な攻撃だ。

 

「堪えろガオガエン!『ビルドアップ』だ!」

 

 これは躱す事は出来ない。しかし、それならば却って受け止める覚悟が出来るという物だ。ガオガエンは両腕をクロスさせ体の前に持っていくとピンクのオーラに体を包み、筋肉を増大させ攻撃を正面から受け止める。

 

「ガオォォォォォォッ!?」

 

 想像以上のダメージが襲い掛かり、ガオガエンは苦痛の叫び声を上げる。しかし、ジンにゲットされてからガオガエンは度重なる特訓と数えきれない程の敗北を繰り返し、以前よりも遥かに打たれ強くなっていた。その上、『ビルドアップ』により攻撃だけでなく防御も上げていた事も大きく、かなりのダメージと引き換えに見事にノココッチの攻撃を耐えきる事に成功したのだ。

 

「ガオガエン突っ込め!」

 

 強い攻撃を耐えきったからこそ、反撃に勢いがつくという物だ。ガオガエンは力を振り絞り、その場を駆けだしノココッチに向かって突き進んで行く。

 

「ノココッチ、合わせてください」

「ノコッ!」

 

 それに対してノココッチは上半身を僅かに動かし迎え撃つ準備をするとアオキの指示をその場で待つ。アオキとノココッチ、彼らの言動からジンは咄嗟に何を狙っているのか、その思惑に察しがついた。

 

 (……賭けてみるか)

 

 しかし、もしもこの予想が外れればこの勝負は負ける可能性が大いにある。だが、そのリスクを踏まえた上で1つ大きな賭けに出る事を決意する。

 

「ノココッチ『へびにらみ』です」

「『ちょうはつ』!」

「っ!?」

 

 ガオガエンはその場で一時停止し、『ちょうはつ』を発動する。上半身を上げ、腹の渦巻き模様を見せようとしていたノココッチはその場で動きを強制的に止められてしまった。

 

(よしっ!)

 

 アオキは『ビルドアップ』で上昇していたガオガエンの攻撃を警戒した為、『へびにらみ』で麻痺状態にし動きを封じる事を狙っていたようだ。瞬時にその狙いを読み、『ちょうはつ』で変化技の『へびにらみ』を封じたジンは賭けに勝ったと言っていいだろう。

 

「これで決めろ!『インファイト』!」

 

 ガオガエンは一気に距離を距離を積め、ノココッチの腹部に拳を叩き込む。あまりの威力にノココッチは悶絶し倒れそうになるが、ガオガエンはそれを許さずこれまでの鬱憤を晴らすかの様に蹴りも決められフィールドの外まで飛び出し校舎へと激突してしまう。

 

「ノココッチ戦闘不能!」

「ガオガァァァァァッ!」

 

 フィールドの外にいたノココッチは完全に意識を失っていた。オモダカのジャッジを聞いたガオガエンは勝利の雄叫びを上げる。ジンのポケモン達を除けば、ノココッチは間違いなく嘗ての自分では倒せない程の強敵だった。今までの厳しい特訓や敗北の数々は無駄ではなかったのだと分かり心底、喜んでいる様だ。

 

「……追い込まれてしまいましたか」

 

 アオキはそう言うとノココッチを回収し、最後のモンスターボールを取り出す。アオキは既に5体のポケモンを失っており、いよいよ次が最後のポケモンだ。

 

「予想はしていましたが、右肩上がりの強さです。これは楽をさせてはもらえませんね……これで最後です。カラミンゴお願いします」

 

 最後にフィールドに現れたのは、フラミンゴの様な姿をしたシンクロポケモンのカラミンゴだ。あのような見た目からでは信じ難いが飛行・格闘の複合タイプである。カラミンゴはフィールドに降り立つと器用に左足だけで立ちながらガオガエンとジンの事を鋭い目つきで睨みつけて来る。

 

(……強いな)

 

 こうして向かい合えば、ある程度の強さは分かる。他の5体も実力は十分にあったが、このカラミンゴは明らかに他のポケモンよりもレベルが高い。間違いなくアオキのエースポケモンと考えていいだろう。ガオガエンはノココッチとのバトルで既に負傷している。万全の状態であったならば勝機もあったが、ここまでダメージを負っているのを考慮すると勝算はかなり低い。

 

(どうするかな……)

 

 ジンの手持ちはまだ5体残っているが、無傷のジュカインとダークライを除けば全員が負傷している。負傷したポケモン達を次々に出しカラミンゴにダメージを与えた上で無傷の2体のどちらかを出せば勝利は100%間違いない。合理的に考えればそうするべきなのだが、折角の四天王のエースポケモンとのバトルだ。出来る事ならば全力の状態でバトルがしてみたいというのがジンの本音である。

 

「戻れ。ガオガエン」

 

 ジンはガオガエンを回収し、ポケットにしまうと自分の相棒が入ったモンスターボールに手をかける。本来は使わないつもりだったが、強い相手とは全力の状態でバトルしたいという自分の性を曲げる事は出来なかった。

 

「頼むぞ!ジュカイン!」

 

 フィールドにジュカインが降り立ったのを見るとアオキは相変わらず無表情ではあるが、心なしか意外そうに眉を動かした。

 

「そう来ましたか……カラミンゴ、相性は有利ですが、相手はジンさんの最強のポケモンです。油断せずに行きましょう」

「クエェッ!」

「行きます。『インファイト』」

「『リーフブレード』で迎え撃て!」

 

 カラミンゴは休ませていた右足を地面に降ろすとその足の細さからは考えられない程のスピードでその場を駆けだしジュカインに向かって突き進んで行く。それに対し、ジュカインは両腕に生えている草にエネルギーを集中させ深緑の刃へと変えると迫りくるカラミンゴを正面から迎え撃った。

 

「ジュッカァ!」

「クェッ!」

 

 カラミンゴの回し蹴りとジュカインの右腕の緑刃がぶつかり合う。パワーでは負けていないが相性が悪い分、若干ジュカインが押されていた。

 

「『かみなりパンチ』!」

 

 このままでは押し負ける。そう考え、ジュカインは空いていた左腕の拳に電撃を纏わせるとカラミンゴの上半身に向かって殴りかかろうとする。しかし、拳が当たりそうになった瞬間、カラミンゴ片翼を振るいジュカインの拳をはたき落した。

 

「……危ないですね。一度、距離を取って下さい」

 

 サブウェポンとは言え、『かみなりパンチ』などの技がまだまだあると判断したのだろう。カラミンゴは足に力を込めジュカインを蹴り飛ばすとその反動を利用し後方へと飛んで距離を取った。

 

「お見事です。流石は四天王、簡単には勝たせて貰えないですね」

「……恐縮です。ですが、それは私のセリフですよ」

 

 アオキはそう軽く応えると、その場で少しだけ屈伸をし懐からテラスタルオーブを取り出した。

 

「テラスタルオーブ……」

「ここでジュカインを倒せば少しは流れが変わるかもしれません……髪が乱れますが、風向きを変えましょう」

 

 テラスタルオーブにエネルギーが収縮されるとカラミンゴの頭上へと放り投げる。無数の結晶がカラミンゴを包み込み、中から現れたカラミンゴは宝石の様に輝く体と頭上の冠には複数の風船を生やした姿となっていた。

 

「先輩風を吹かせましょう。『ブレイブバード』です」

 

 カラミンゴはその場で両翼を広げると大きくジャンプし空中へと舞い上がった。十分な高さまで上昇すると両翼を折り畳み、強力なエネルギーを纏いながら突撃してくる。

 

「ジュカイン!『まもる』!」

 

 カラミンゴの突撃をジュカインは緑色のオーラを身に纏う事で防御する。『ブレイブバード』は『まもる』で防ぐことが出来た為、ダメージはないがその勢いは凄まじくジュカインはトレーナーゾーンのすぐ近くまで吹き飛ばされてしまった。

 

「素晴らしい……」

 

 ダメージこそ与えられなかったが、『まもる』が少しでも遅れていれば間違いなく大ダメージを受け最悪の場合、ジュカインを戦闘不能にする程の威力だった。

 

 カラミンゴは元々、飛行タイプのポケモンだ。その為、飛行テラスタルする事で『ブレイブバード』は一致補正が2倍になっている。それを考慮しても素晴らしいの一言でしか今の技は評価するしかない。

 

「俺達も全力で行くぞ」

「ジュカッ!」

 

 ジンは首に掛けられているペンダントに手を触れた。その瞬間、ペンダントのキーストーンとジュカインのスカーフに付けられているメガストーンが同時に輝き始めジュカインを光が包み込んで行く。

 

「限界を超えろ!『メガシンカ』!」

「ジュッカァァァァァァッ!」

 

 光は徐々に収まり、ジュカインはメガジュカインへと姿を変え雄叫びを上げた。

 

「お、おい!あれってもしかして……」

「メガシンカだ!生で見るの初めてだよ!」

 

 メガジュカインを見た観客達は驚きと同時に興奮に包まれていく。ナンジャモとの生配信でのバトルで一部の人々には伝わっているが、テラスタルが主流のパルデア地方の人々には、まだまだメガシンカの存在は珍しい様だ。

 

「『エナジーチャージ』!」

 

 大技を使った為、カラミンゴは僅かに動きを鈍くしている。その隙を尽き、ジュカインは口元に『エナジーボール』を作り出すとそれをそのまま飲み込んだ。

 

「ジュカイン、久々にあれをやるぞ」

「……ジュカ?」

 

 ジュカインは本気か?と言った視線をジンに向ける。カラミンゴは確かに強い。だが、それでもメガシンカと『エナジーチャージ』した状態で問題なく倒せる相手だ。それにも関わらず、ここで正真正銘の奥の手である技をこんなにも大勢のギャラリーがいる場で使用する必要はないとジュカインは思った様だ。

 

「いいさ。どうせなら、俺達の全力を見てもらおう」

 

 後々に対策されたとしても、それは所詮「過去のジン」と「過去のジュカイン」のデータでしかない。寧ろ、対策された状況さえも凌駕する事で、自分達は更なる高みに至れるのだと、そう眼で語るジンの意図を相棒であるジュカインは察する。

 

 その一方で、ジンはアオキと審判のオモダカに軽く視線を向ける。何が狙いでこのバトルを用意したのかは定かではない。だが、彼らはジンの力を見定めようとしていて、そこに何かしらの思惑があるのは確かであった。その真意が明かされていない以上、素直に従うのは癪ではあるが、此方も現状を利用させて貰うだけの強かさは許されるであろう。

 

 しかし、唯々彼等の思い通りに動くのも面白くない。どうせならば圧倒的な威力を以て彼等の度肝を抜いた上で勝利する。現状で出来る反抗は精々、その程度しかいないのだ。

 

「ジュッカァ!」

 

 ジンの思惑を理解したジュカインは、『エナジーチャージ』の恩恵によって全身に行き渡った膨大なエネルギーをコントロールし、自らの右腕に備わった緑刃の一刀に集束させたる。

 

「これは……」

 

 ナンジャモとのバトルの映像でメガシンカと『エナジーチャージ』の事はアオキも知っていた。だが、目の前で起こっている現象は映像で見た時とは明らかに違う。その光景にアオキもカラミンゴも思わず目を奪われてしまった。

 

「……行けるな?」

「ジュカァッ!」

 

 嘗てガラル地方で初めて実戦で使った際には、エネルギーのコントロールに3分の時間が必要だった。しかし、同じくジュカインの愛刀にエネルギーを収束させる技である『ソーラーブレード』の技法を応用する事で、準備時間をそれと同様にまで短縮する事に成功している。無論、それで満足するジンとジュカインではなく、ジンとしてはノータイムで放つ為の理論も既に構想しているのだが、練度が足りない現状においてはそれが最高の技と言わざるを得なかった。

 

「行くぞ!『夢想・樹海新生』!」

 

 ジュカインは腰を低く落とし左足を前に出し構えを取ると右腕を高く掲げる。『エナジーチャージ』にて溜め込まれたエネルギーにより右腕の愛刀は巨大な『リーフブレード』へと変貌を遂げた。

 

「なっ!?」

「クェッ!?」

 

 バトルフィールドを一刀両断しても不思議ではない程の大きさにアオキとカラミンゴは驚愕する。しかし、驚いたのも束の間、次の瞬間、ジュカインは『しんそく』さえも凌駕する速さでカラミンゴの目前に移動し、そのまますれ違いざまに切り裂いた。

 

「く、クェェッ!?」

「な、何が起こって……っ!?」

 

 音さえも置き去りにしたジュカインの速さには、ベテランのアオキを以てしても対応が追い付けず、審判のオモダカですらも視認出来ない程であった。既にカラミンゴは切り裂かれた後で、ジュカインはその勢いを左腕で大地を掴む事で無理やり押し殺し、アオキの立つトレーナーゾーンのすぐ目の前に深緑の疾風と化して顕現する。それに伴い発生した風圧がアオキの整えられた髪型を崩すが、アオキ自身にそれを気にする余裕など許される筈もない。

 

「───これで終わりだ」

 

 ジュカインは左腕で地面を掴み右腕の緑刃を大地に叩きつけ草のエネルギーを流し込む。大地に注がれた膨大な草のエネルギーは、その名の通りバトルフィールドに樹海を新生させ、生い茂った幾重もの太い蔦がカラミンゴを拘束しながら球状に覆い尽くして絞めつける。そして、僅かな間を置いてからジンが指を鳴らすのが合図となり、蔦の球体の中心部から緑色のオーラが溢れだし、次の瞬間にはバトルフィールド諸共を吹き飛ばすほどの極大な爆発を発生させた。

 

 巨大な爆発音と衝撃に加え観戦していた生徒達の悲鳴が中庭に響き渡る。中庭に隣接していた校舎の窓ガラスは、その余りの衝撃に耐えられずに全てが粉々に砕け散り、年季の入った堅牢な校舎そのものを物理的にも大きく震撼させる程であった。爆発で発生した緑色のオーラとガラスの破片が中庭に降り注いで行く。生徒達の多くは危険だからと近くにいた教師たちの避難誘導に従い、その場から離れて行った。

 

 残っている者は僅かに数名だけだ。興奮した様子のネモ、『夢想・樹海新生』を初めて見て驚愕した様子のリコ達、そしていつの間にかバトルの見学に加わっていた残りのパルデア四天王と、赤と青の特徴的な髪型をした眼鏡をかけた少女のみである。

 

「審判」

「…………」

「オモダカさん?」

「あっ……は、はいっ!?」

 

 常に礼儀正しく堂々としていたオモダカが、明らかに狼狽えている。どうやら、アオキとオモダカの両名の度肝を抜くというささやかな抵抗には成功したと手応えを感じたジンは思わず、してやったりと笑顔を見せた。

 

「……なんでしょうか?」

 

 ジンの意地の悪い笑顔を見てオモダカはジンが何を考えていたのか理解した様だ。羞恥心から微かに顔を赤く染めると少々、不機嫌そうな顔をしながらも返事をしてくれた。

 

「いえ、ジャッジをお願いします」

 

 緑色のオーラは既に消え去っており、フィールドには目を回して倒れているカラミンゴの姿が現れていた。これ以上の戦闘が可能かどうかは誰の目にも明らかだ。

 

「か、カラミンゴ戦闘不能!よって勝者ジン!」

 

 アオキのポケモンが全て戦闘不能になった為、これでフルバトルは終了となる。勝者のジンは右腕高く上げるが、歓声も拍手も殆どない。拍手を送ったのはネモやリコ達のみであり、観戦していた生徒達の殆どは安全な校舎から恐ろしい物を見るかの様な視線をジンとジュカインに向けていた。

 

 因みにこのバトルで発生した緑色のオーラとガラスの破片が空から降る現象が原因で、オレンジアカデミー七不思議の1つに『深緑の魔竜と硝子の雨』という物が追加されることになるのだが、この時はまだ誰も知らなかった。

 





2月中にもう1話更新して帳尻を合わせたいですね


☆9
ドスメラルーさん

高評価ありがとうございます

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