やっぱり、2月は無理でした……
パルデアリーグについてオリジナル要素が作中に出てます。あまり細かい所は気にせずに読んでください
フルバトルを終えたジンとアオキは、ポケモンをそれぞれ回収するとトレーナーゾーンを出てフィールドの中央にて握手を交わす。
「いいバトルをさせて頂きました。感謝します」
「……恐縮です。半ば分かっていた事ではありますが、自分如きでは相手にもなりませんね」
「そんな事はありません。アオキさんのバトルは基礎がしっかりしていて隙がなかなか見つかりませんでした。その上、俺に対する対策も出来ていてヒヤリとさせられる場面が何度もありましたよ?」
これは嘘偽りもない本音だ。アオキが『つるぎのまい』に対する対策などを事前に練っていたからこそ、ハッサムは戦闘不能寸前にまで追い込まれてしまった。数だけで見ればジンが失ったのはドラピオン一体だけだが、ジュカインの『夢想・樹海新生』という規格外の技がなければ、勝負はもっと拮抗した状態で続いていたかもしれない。
「お二人ともお疲れさまでした」
オモダカが審判ゾーンから拍手と賞賛の言葉を送りながら、ジン達に近づいてきた。
「ありがとうございます……それで如何でしたか?」
「はい?」
「このバトルは俺の力を見る事が目的だったんでしょう?パルデアが誇るトップチャンピオンからの忌憚のない評価を伺いたいと思いましてね」
「……お見通しでしたか」
「一介のトレーナーへの対応としては流石に露骨でしたからね。もっとも俺の力を確かめた先にある貴女の思惑については、色々と考察は可能ですが正しい答えに辿り着けたかどうか……」
「ふふっ……そうですか。では、その事も含めて説明させて貰いますよ。まずは、ジンさんの評価についてですが……予想以上、その一言に尽きます」
今回、ジンがバトルで使用したポケモン達はジュカインを除けば、ホウエンを旅した古参メンバーに実力で一歩劣るポケモン達だった。育成期間やバトル経験に差がある為、仕方のない事ではあるのだがそれでも四天王であるアオキのポケモンを5体倒したのは十分に評価に値する。
だが、オモダカを含めバトルを見ていた者達が一番注目したのは、やはりジュカインだ。最後に使用した『夢想・樹海新生』、あれだけの威力を誇る技は他ではまずお目に掛かれない。真似しようと思ってできる事ではなく、ジンとジュカインだけが使用できる奥義と呼んでも過言ではないだろう。
「やはり私の目に狂いはなかった。今のバトルを見せれば、貴方に対して否定的であったリーグの役員達も認めざるを得ないでしょう」
無論、それはジンにとっても有難い話だ。一度は可決されたとは言え、後々になって反対意見が強くなり、やはりテラスタルオーブを返せなどと言われれば面倒な事この上ない。その心配がないだけでも安心できるという物だ。
「それで、ジンさん。貴方にお願いしたいことなのですが……実はパルデア地方のポケモンリーグは現在、エネコの手も借りたい程に人材不足で困っているのです」
「でしょうね」
アオキの様にジムリーダーと四天王を兼任するなど聞いた事もない。その様な異例の人事をしなくてはいけない辺り、パルデア地方では他の地方などと比べて、まだまだバトルが浸透しきっていないのだろう。その証拠に見学をしていた生徒達の大半は先程のバトルに怯えて逃げ出す始末だ。これがバトルが盛んであるガラル地方などであれば今頃、大歓声に包まれていただろう。
「…………」
オモダカは恥を忍んで自分達の内情を話したのだが、当のジンにはとっくにその事は見破られていたのだ。何とも言えない空気が流れ、オモダカは少しだけ顔を赤くすると軽く咳ばらいをして話を再開し始める。
「それでお願いしたい事なのですが……ジンさん。貴方には是非、このパルデア地方ポケモンリーグに正式に所属して欲しいのです」
オモダカの目的は、ジンのスカウトにあった様だ。チャンピオン級の力を持っていながらまだ正確にはどこのリーグにも所属していないジンは彼女にとって喉から手が出る程に欲しい人材である。その上、交際中のリコはこのパルデア地方の出身だ。彼女との今後の関わりなどあらゆる要素を利用すればスカウトする事は不可能ではないと考えたのだろう。
(なんだスカウトが目的だったか……)
オモダカの目的を考察した際にポケモンリーグにスカウトされる事は予想の内の1つだった。もっと予想も出来ない程の厄介ごとに巻き込まれることも覚悟していたので正直、予想通りの展開に拍子抜けした様な気分へとなっていく。
「受けて下さるのであれば、貴方には四天王の地位を用意すると約束しましょう」
「……それ程ですか」
オモダカの用意したポストを聞き、当事者であるジン以上に周囲が驚愕の反応を示す一方で、ジン本人としては内心で驚きながらもパルデアのポケモンリーグの人材不足を懸念する
四天王やチャンピオンと言うのはその地方を代表するトレーナーだ。それをパルデアリーグにも挑んだこともないジンに席を作ると言っているのだ。オモダカがどれだけ本気なのかが窺える。
「ジンが四天王に!?」
「すっごい!流石だよ!」
「はいはーい!トップ!それ私も大賛成です!」
オモダカの申し出には、リコ達も驚愕した様子を見せる。その中でもネモの反応は分かりやすい。彼女からすれば、ジンがパルデア四天王に加わればいつでも好きな時にバトルを申し込むことが出来ると考えたのだろう。
「……幾つか質問があります」
「伺いましょう」
「四天王の地位を譲渡して頂けるとの事ですが、パルデアリーグには既に4人の四天王がいますよね?誰の席を譲って頂けるのですか?」
「自分です」
ジンの質問に対し、アオキは躊躇うことなく自分が四天王の地位を降りると宣言する。
「アオキさんが……オモダカさん。失礼ですが、アオキさんの実力は四天王最弱という認識でいいんですか?」
「いいえ。実力で言えば三番手といった所でしょうか。ですが、本人が自分が四天王から降りると強く主張する物で……」
ジンを招き入れる為には誰か一人に四天王から降りてもらう必要がある。本来なら一番実力が低い者が抜けるべきなのだが、アオキの強い要望もあった為、平和的に解決する事を優先した結果そうなった模様だ。
「……アオキさん、なぜ立候補を?四天王の地位を手放すことになるんですよ?」
「構いません。自分の仕事が大幅に減りますので、むしろウェルカムです」
確かに営業職、ジムリーダー、四天王の3つの掛け持ちは肉体的にも精神的にも大変なのだろう。しかし、それにしても全くぶれない人物だとジンは心底思った。
「しかし、幾ら何でも前例がなさすぎるのでは?」
「その通りです。しかし……ここまで既に前例にない事をしておりますので今更、1つや2つ増えた所で問題ないかと」
文句を言う者がいれば、このバトルの映像を見せて黙らせる。オモダカは口にこそ出さなかったが、その様に考えていた。ジン程のトレーナーを頭の固い役員達の意固地で逃すつもりは一切ない。どんな無理をしてでも必ずパルデア地方に引き込むつもりの様だ。
「まずは一年間四天王の地位で仕事を覚えて頂きます。それが出来ましたら、年に一度チャンピオン、四天王、ジムリーダーのみが参加できるランクマッチ戦の参加資格を与え、その結果次第でパルデアリーグチャンピオンの座に就くことが出来ます」
「つまり……最短で一年でチャンピオンになれると」
「えぇ、貴方なら不可能ではないでしょう」
確かにジンの実力を以てすれば恐らく問題なく一年後にチャンピオンになる事が出来るだろう。旅に出る前から目指し続けたチャンピオンの地位、それが現実的になって現れ始めた。しかも、これは特例中の特例だ。他の地方で同じ様な待遇でスカウトされる事はまずない。未だバトルが盛んとは言えないパルデア地方だからこそ、なりふり構わずにジンという将来有望で傑出した実力を有するトレーナー自分達の陣営に引き込もうと必死になっている様だ。
「……大変ありがたい申し出です。飛び上がって喜んでしまいたい程に」
「……でしたら!」
「ですが……その話、もう少しだけ猶予を頂く訳にはいかないでしょうか?」
「それは構いませんが……具体的にどれ程の期間ですか?」
「そうですね……どんなに長くても1年。その間には必ず答えを出します。それまで待てないというのであれば、大変申し訳ないのですが、この話はなかった事にしてください」
「……理由をお伺いしてもよろしいですか?」
「今の俺にはまだやらなくてはいけない事があります。それを放り出す事は出来ません」
残り3体となった六英雄の捜索もラクアへの手がかりもまだ見つかっていない。テラパゴスをラクアに連れて行くと約束した手前、自分だけが四天王になり目標であったチャンピオンを目指すなどと言う選択はジンには取れなかった。
しかし、ジンがパルデア四天王を素直に引き受ける事が出来ないのには他にも大きな理由がある。
「それに……俺には地元であるホウエン地方に再戦を約束した人がいます。その人にリベンジして成長した俺の姿を見て欲しい。俺と俺のポケモン達の強さをあの人に示さなければならない。その約束を果たしもせずに、他の地方の四天王やチャンピオンになるなど、───あの人に顔向け出来ませんし、俺が俺自身を許せない」
ジンは嘗て駆け出しのトレーナーとしてホウエン地方を旅をしていた頃、とあるトレーナーにバトルを挑み完膚なきまで敗北を喫した。その後、僅かな期間ではあるがその人物と行動を共にし、その人物の強さやトレーナーとしての信念に感銘を受けたジンは彼を師として仰ぐ程の尊敬を抱いたのだ。
今の自分であれば、あの時の様な無様な姿は見せない。もう一度バトルをして、成長した自分とポケモン達の姿を見せた上で勝利したい。それはジンにとってチャンピオンになるのと等しい目標の1つであった。
「……いいでしょう。では、期限は一年。それまでに返事をお願いしますね」
ジンの強い意志の籠った目を見たオモダカは小さくため息をつくと、ジンの申し出を承諾してくれた。かなり無茶な頼みではあったが、それをするだけの価値がジンにはあるとオモダカは判断を下した。
「ありがとうございます!」
「いい返事を期待していますよ。それと……こちらはプレゼントです」
オモダカは上着のポケットからある物を取り出すとジンに渡してくる。
「これは……グローブですか?」
それは黒いグローブだった。右手の方にのみポケモンリーグのマークが刺繍されているが、それ以外はこれと言って変わった様子は見られない。ジンは恐る恐る手に付けて見ると不思議な程に手に馴染む。まるでオーダーメイドしたかのと勘違いする程だ。
「これは……なかなかいいですね」
「よくお似合いですよ。暫くの間……できればパルデア地方にいる間だけでも身に着けていてください」
「まぁ、それ位でしたら……」
機能的にも問題はない。色々と我儘を聞いてもらった手前、この程度の頼みを断ることは出来ず、ジンは言われるがままにグローブをつけたまま行動すること決めた。因みにこれから随分と後になって知る事になるのだが、このグローブはトップチャンピオン並びにパルデア四天王だけが着けているグローブと同じデザインなのである。
「ふふっ……よろしくお願いしますね」
このバトルやジンが四天王にスカウトされた事は放っておいても見学していた生徒達が広めてくれる。そんな中、ジンが専用のグローブを着けている所を多くの街の人々に見られれば、本当に四天王になるのではないか?と更に噂は広がるだろう。そうやって徐々に外堀を埋め、ジンがスカウトを断りにくくなる様な状況を作り出そう。オモダカは笑顔の裏でその様な計画を企てていた。
「ジンお疲れ様~!四天王にスカウトされるなんて凄いじゃん!」
オモダカが話を終え、離れて行くと今度はバトルを見守っていたリコ達がジンを囲む様にして近づいてくる。
「アン……さっきは悪かったな。ちゃんと挨拶もしないで」
「えへへ。いいよ気にしなくて……それよりもさっきのバトル凄かったよ!」
「楽しんでもらえたなら何よりだ」
「いや~楽しむっていうか……驚きの方が強かったんだけどね」
アンが苦笑いを浮かべながら言うと、リコ・ロイ・ドットもそれに同調するように何度も頷いた。
「さっきの『夢想・樹海新生』って技なんだよ!?あんな技、ジュカインは覚えないし、どんな大会でも使用された記録なんてないぞ!」
「だろうな。多分、俺とジュカイン以外に使える奴はいないと思うぞ」
「ど、どうやって覚えさせたの?」
「あ~……それは話すと長くなるからな。また今度な」
今は負傷したポケモン達をポケモンセンターに連れて行くことが急務だ。そう判断したジンは話を切り上げると中庭を後にしようとする。しかし、リコは手を伸ばしてジンと手を繋ぐ様に、彼をその場に引き止める。
「待って!これだけは教えて!」
「……じゃあ手短にな」
「うん。さっき、リベンジしたい相手がいるって言ってたよね?ホウエン地方にはジンよりも強いトレーナーがいるの?」
リコの問い掛けを聞いたロイ達は、はっとした様子を見せる。バトルや四天王の勧誘などが強烈すぎて気付かなかったが、よくよく考えればジンが敗北しリベンジしたい相手がいるというのは彼等からすれば信じられない話だ。
「……少なくとも、駆け出しの頃の、ポケモンをただ只管に強くすれば良いとばかり考えていた、無知で未熟だった頃の俺では手も足も出ない人だった」
「じゃあ……今、バトルしたら?」
「それはやってみなくちゃ分からないさ……だが、一つだけ断言出来る。あの人は俺と俺のポケモン達の全てを以て挑まなければならない、本当の強さを持ったトレーナーだって事だ」
「……その人何者なの?」
ジンがここまで評価しているトレーナーだ。ただ者ではないのは確かである。ここまで聞いてしまうとその正体に興味を持つのは自然の成り行きだ。
「その人は四天王で、ポケモンと一緒に戦う上で一番大切な物は何かを教えてくれた。俺にとっては掛け替えのない師匠の様な人だ」
「ジンの……師匠」
「あぁ……俺の知る限り世界一海と船がよく似合う爺さんだよ」
そう語るジンは、僅かではあったが彼と過ごした日々を思い出し、どこか懐かしそうに顔を綻ばせていた。
***
バトルを終えたジンは傷ついたポケモン達をポケモンセンターに預けるとそのままオレンジアカデミーのエントランスホールへと戻り、リコ、ロイ、ドットの3名と合流した。ネモは会議がまだ終わっていないらしく、この場にいない。奔放そうではあるが、ああ見えて生徒会長としての仕事はちゃんとこなしている様だ。
そしてアンだが、彼女はリコ達が既に受けたテラスタル研修の説明を受けている。どうやらジュカインが、大暴れした為に中庭の修繕に教師陣が借り出されていた為、この時間までずれ込んでしまった様だ。
(後で謝っておかないとな……)
アンは勿論だが、教師達とオモダカに対してもだ。余計な時間を取らせてしまった事もそうだが、割れてしまった校舎の窓や中庭のバトルフィールドのなどの修繕費諸々を含めてバトルの段取りをしたオモダカに払わせてしまったのだ。大きな借りを作ってしまったと認めざるを得ない。もっともオモダカからすればジンに貸しを作るのが目的の様であったのだが……
「……なるほど。それがテラスタル研修の内容か」
「うん。結構、大変そうだけどね……」
ジンがアオキとバトルをする前にリコ達は研修の詳しい内容を体育担当のキハダから聞いていた。もっとも彼女の教え方は独特で何故かハリテヤマと共に『つっぱり』のエクササイズを行いながら教えてくれたらしい。
その内容についてだが、テラスタル研修ではそれぞれジムリーダーの下で基礎と応用の二度のテストを受ける必要がある。そのバトルでトレーナーとポケモンがテラスタルの力を正しく使えているか、テラスタルオーブを持つに相応しいトレーナーかを見極める様だ。
「二度もジムリーダーとバトル出来るって事か……なかなか面白そうな研修だな」
「だよね!僕、今からすっごい楽しみなんだ!」
「あはは……」
「……うちの男達って本当にバトル馬鹿だよ。僕なんて緊張でやばいのに……」
楽しそうなジンとロイとは対照的に研修はまだ始まっていないにも関わらず、リコとドットは緊張が隠し切れていない。
「そう言うなよ。ジムリーダーとのバトルもテントでの野宿もいい経験になるさ」
「テント暮らし……憂鬱だぁ……」
励ましたつもりだったのだが、ジンの言葉がとどめになってしまったらしい。現代っ子にして元引き籠もりのドットには、あらゆる面で厳しい研修になる様だ。
「……仕方ないな。後でテラスタルの練習でもしてみるか?慣れておけば少しは緊張が和らぐだろう?」
どの道、傷ついたポケモン達をポケモンセンターに預けたままなので今晩はこのテーブルシティで宿泊する必要がある。その時間に軽くであればリコ達とテラスタルバトルの練習を行う事は可能だ。
「駄目だよ。さっきも言ったでしょう?研修中はテラスタルバトルは禁止だって」
「あぁ、聞いたさ。だけど、それは研修を受けてる生徒同士の話だろう?俺は研修を受けないから関係ない」
それは研修を受ける生徒にテラスタルに慣れさせない為のルールなのだろう。だが、生徒達を安全なアカデミーから外に出す以上、密猟者や狂暴なポケモンなどに事件に巻き込まれる可能性は少なからずある。その為、相手が研修生でない場合に限りテラスタルの使用は許されているのだ。
しかし、そんな安全の為の措置としてオレンジアカデミーが許可したルールは今、ジンによって悪用されようとしていた。
「あっ……でも、いいのかな?」
「駄目と言われてないなら構わないだろう?それに個人的な意見を言わせてもらうと……こうやってルールの穴を見つけて自分達に有利に利用するのは立派な知恵だと思うぞ」
ぶっつけ本番で行う事も確かに必要かもしれない。だが、ありとあらゆる事態を想定し準備をしておく事は決して悪い事じゃない。何よりもジンはリコ達の師匠の様な存在だ。彼女達をバトルに勝たせ、研修を合格させる為に準備させるのはジンの責任でもある。
「「「…………」」」
まるで悪魔の囁きの様だ。しかし、本番を前に一度テラスタルの練習をしておきたいというのは3人共、共通の思いであった為、良くないと分かっていても思わず黙って考え込んでしまう。
「……まぁ、それについては後で話そうか。それよりもそろそろ時間みたいだぞ」
色々と話し込んでいる内にいつの間にか、かなりの時間が経過していたらしい。研修を受ける生徒の殆どがエントランスホールにおり、たった今、最後に研修の説明を受けていたアンと共に校長であるクラベルが現れた。
「皆さん、お待たせしました。いよいよ、出発の時間ですね。研修中は我々、教師達の目の届かない所に皆さんを送り出さねばなりません。その為、例年、少なからず怪我を負う生徒がいるのも事実です。ですので皆さんには十分に気を付け、野生のポケモン達の縄張りを荒らす様な事などは控えていただき……」
これが研修前の最後の為か、クラベル校長は改めて諸注意を告げる。しかし、これはトレーナーにとって基本的な事ばかりだ。無論、基本は大事なのだが早く研修に出発したい彼らからすると話が長すぎてストレスを感じさせる。この状況を見てしまうと校長の話とスカートは短い方がいいという言葉は満更、的外れでもないのかもしれない。
「おっしゃあっ!ギリセーフ!」
「いや、どう見てもアウトだ」
「ちっ……鬼だるっ!」
早くクラベル校長の話が終わらない物かと多くの生徒達が思っていると突如、正面の扉が開き外からオレンジアカデミーの制服を着た2名の男女がエントランスホールに入って来た。
(……これはこれは)
突然の乱入者に視線を向けるとそこに現れたのは、エクスプローラーズのサンゴとオニキスのコンビだった。髪型を変え簡単な変装こそしていたが、あのレベルの変装では完全に正体を隠すのは不可能である。
「おや?まだ受講生がいましたか?」
「申し訳ありません。肝心な時に寝坊をする者が……いや、言い訳は致しません」
「お名前は?」
「私はオニ……オニギリです」
オニキス改め、オニギリが自己紹介をすると隣にいたサンゴは思わず吹き出してしまった。彼女の反応から見てこの土壇場で適当に名前を考えたのだろう。それにしてもセンスがない。フリードといい勝負である。
「こちらはサン……サンドウィッチです」
「フフフッ。フハハハハッ……鬼だっさ~……初めまして!サンドウィッチちゃんで~す!」
(……可愛いな)
軽くウインクをしながらポーズを決めるサンゴを見たジンは不覚にも可愛いと感じてしまった。ジンは自覚していなかったが、どうにも以前、無理やり唇を奪われてからという物のサンゴの存在は少し厄介なファンから、かなり上昇しているらしい。
「オニギリさんにサンドウィッチさんですね……おや?リストにはありませんね」
クラベルはスマホロトムをタブレット型にし、受講生のリストを確認するが、その様な名前は確認できないらしい。そもそもこんな特徴がありすぎる名前がいたら、記憶に残っていても不思議ではないのだが。
「んなわけないっしょ!もっかいちゃ~んと確認して!」
「この制服を身に纏っている以上、修行あるのみの覚悟です」
「また真面目かい」
「なんだと!」
「……研修生同士は仲良くお願いします。ルールを守らない人は不合格ですよ」
「……へ~い」
「仕方あるまい……」
「しかし、おかしいですね。やはり、リストには……」
「校長。どうされましたか?」
改めてリスト確認するが、やはり、オニギリ並びにサンドウィッチの名前は確認できない。どうしたものかとクラベル校長が頭を悩ませていると褐色肌のスタイルの良いメガネをかけた女性が近づいてきた。
(彼女は確か……)
その女性は黒いレックウザを捕獲しようとしていたエクスプローラーズのメンバーの内の1人、アゲートと酷似していた。もっともジンは直接は対峙しておらず撤退していく姿しか見ていないので断言はできないのだが、雰囲気はかなり似ている。オニキスとサンゴが来たのを見計らったかの様なタイミングでの登場もそれを裏付けさせた。
(あれは……やれやれまたか……)
それにもう1つ気になったのは彼女の耳に装着されたイヤリングだ。オモダカ程ではないが、髪のボリュームがある為、よく見なければ気づかないのだが、そのイヤリングはキーストーンを加工して作られていた。
アメジオ、サンゴ、オニキスに続く4人目のメガシンカの使い手が現れてしまったらしい。この分ではスピネルや他のメンバーでもメガシンカを扱うトレーナーが現れかねない。無論、ジンとしては敵が強い事は大歓迎なのだが、ジン個人を抜いたライジングボルテッカーズでは総戦力で劣っていると認めざるを得ない様だ。
「いえ、それがリストに名前がない生徒達がいまして……」
「分かりました。こちらで確認を……」
アゲートは自分のスマホロトムを操作し、クラベル校長と同じ様にリストを開くと事前に用意していたウィルスを流し込み瞬く間にデータを書き換えてしまった。
「失礼。校長、お二人の名前はここに……」
「おや?本当ですね……私としたことが見過ごしていた様です。アゲパン先生、ありがとうございます」
(アゲパン?)
オニギリ、サンドウィッチに続きアゲパンとは見事なまでに食べ物チョイスの偽名である。もっとましな名前は幾らでもあるし、余計なお世話かもしれないが、せめて食べ物ではなく酒の名前などにすればもう少し格好がつくのではとジンは思わざるを得なかった。
「……お気になさらず」
「お二人も申し訳ありませんでした。確認が取れましたので、後程、テラスタル研修の説明を受け、その後、指定された街に出発して頂きます。もう暫くここでお待ちください」
「へ~い」
「承知しました」
「他の皆さんは各々、指定された街に向け出発して下さい。ここにいる1人でも多くが、合格する事を願っています」
そう言うとクラベル校長は改めてテラスタル研修の説明準備を行う為に職員室へと戻って行った。他の生徒達はそれぞれオレンジアカデミーを出発していくが、ジン達はその場に残ってオニギリとサンドウィッチに対して警戒心を強めていた。
「ねぇ、ジン。あの2人って……」
「あぁ、間違いない。エクスプローラーズだ」
「僕たちと一緒でテラスタル研修を受けるだなんて偶然とは思えないよ」
「だろうな……」
「なにが狙いなんだ……取り合えず、今は様子を見るしかないか?」
ドットの提案は理にかなっている。この状況では恐らくそれが一番無難な選択なのだろう。
「まぁ、それが正しい選択なんだと思うけど……こんな機会、滅多にないんでな。もう一歩踏み込んでみるのも一興だ」
「えっ?それってどういう……って!ちょっと待って!?」
リコの制止も聞かず、ジンはオニキスとサンゴの目の前へと向かって歩き始めた。ジンが目の前に現れるとサンゴは目をハートマークに変え、ジンに向かって一目散に飛び込んで行く。そんなサンゴをジンは軽く受け止め、その結果、2人は抱き合うかの様に密着し始める。
「ちょっ!?サンゴ!何してんの!」
「ふふっ!ちゅ~」
「ああぁぁぁぁぁぁっ!」
目の前で抱き合うだけでなく、密着したのをいい事にサンゴはジンの頬に唇を押し付けた。そんな2人を見たリコは怒りと恨みが混ざり合ったかの様な絶叫を上げる。
「おいおい、熱烈だな」
「あはぁっ!ジン君♡サン……ドウィッチちゃんに会いに来てくれたの~?」
「まぁ……そうとも言えるな。だけど、正確にはオニギリ君とサンドウィッチちゃんに用があるんだ」
ジンはそう言うとサンゴを優しく降ろし、オニキスにも視線を向ける。
「……何用だ?」
「そう警戒するなよ。戦う気はない。ちょっと聞きたいことがあってね……この後、時間はあるかな?」
「……暇だと言ったら?」
「一緒に食事でもどうだ?少し話し合いがしたい」
アニメの方もいよいよクライマックスって感じですね。メガシンカとか色々と情報が出てきて毎週金曜が本当に待ち遠しいです
作品の要望などあれば気軽にメッセージを送ってください